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パネルディスカッション デザインの哲学

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Academic year: 2021

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(1)パネルディスカッション デザインの哲学~豊かさを再考する 哲学なき時代のデザインを考える 田中一雄. TANAKA Kazuo. GK デザイン機構. GK Design Group. JIDA. Japan Industrial Designers’ Association. 近年、改めてデザイン思想について考えるということが少な. の民主化」ということを唱えますが、その先には「美の民主. いと感じておりました。そのようななか、今回「デザインの哲. 化」がありました。これは今日に至るまで GK デザイングルー. 学〜豊かさを再考する」というテーマをいただき、感謝してお. プの中核となる思想だと思っています。ただ、デザインとい. ります。向井先生をはじめとする諸先輩の前で、申し上げるよ. うものは今日大きく変革しており、その美というものの定義. うなこともないかとも存じますが、私なりの考えをお話しした. も変化しています。美を狭義の “beauty” と捉えるのではなく、. いと思います。. “aesthetic”(美学)として捉えることで今日的に生きるもの. 先に前段の話をしたあと、次に榮久庵憲司、GK の創業者に. だと考えています。そのため、榮久庵はモノに心ありとし、本. してインダストリアルデザイン界における巨人だったわけです. 質を問うたのだと私には思えるのです。. が、その思想に触れたいと思います。また、日本のインダスト. GK の立場で申し上げるなら、私たちはデザイン企業です。. リアルデザインの歴史を振り返りながら、私たちがどこに行く. しかし行動規範として「運動」「事業」「学問」という三つの構. のかということを考えたいと思います。. 造を原動力もしくは推進力としてきました。ここからもデザイ ンは社会運動であるという認識が原点にあることがお分かりだ. 1 はじめに. と思います。. これはゴーギャンの作品ですが、私はよく引き合いに出し. 面矢先生の講演で「道具」について考察されましたが、我々. ます。タイトルは「我々はどこから来たのか 我々は何者か . は「道具」を “material things” と捉えています。. 我々はどこへ行くのか」です。この主題は私たちのなかにつね. そして、榮久庵が「具えは道を得て道具となる」と言ってい. に存在しているのではないでしょうか。そして、21世紀も16. たように、また、茶道などにも道具があるように、それは古来. 年を過ぎた今、「どこに行かなくてはならないのか」というこ. の精神を秘めています。岡倉天心は茶道を “Teaism” と訳しま. とを考えなくてはいけない時に立っていると感じます。向井先. したが、文字通り「道具」とは道に通じる思想性を持っている. 生の講演のなかに「あるべき生活世界」という言葉がありまし. ものだとは言えないでしょうか。. た。以前からおっしゃっていることですが、ここに帰るのでは. 山口昌伴(GK 道具学研究所)が提唱したこととして、道具. ないでしょうか。「あるべき生活世界」とは何かということを. というものは、道具としてデザイナーが発想し、製品として製. もう一度考えなくてはならない、そこにいま私たちは立ってい. 造され、商品として流通し、道具として使われるものだと言え. ると思います。. ます。これは榮久庵というより山口が提唱していたことです. デザインにおける思想を考えるとき、アーツ・アンド・クラ. が、今日の “Human centered design” に共通するような考え. フツ運動から始まった歴史があります。近代デザインの原点と. 方だと言えます。以上のように GK にはモノの本質を考えてい. して、より良い生活のあり方を考えることを「小さな長い革. こうとする文化があります。. 命」と呼んでいました。ある意味、社会主義思想とつながった. そのうえで榮久庵は日本的な価値観を備えた「幕の内弁当の. 世界観が、デザインにおける思想の一つの原点であったと思い. 美学」をはじめとする様々な思想を提唱してきたわけです。. ます。そして、時が過ぎ、現代思想がデザインと接近したこと. また、公表されていないことですが、榮久庵には「デザインの. もありました。これは1980年代に記号論が注目され、表象と. 民衆工芸化」と呼んでいた思想がありました。これは民芸化と. いうことが語られました。のちにバブル崩壊が起こり、こうし. いうことではなく、デザインを芸術の域に高めるべきだという. た象徴論としてのデザイン思想は消えるわけです。. ことです。これは「美の民主化」がさらに極まったものとして 思考していたようです。. 2 榮久庵憲司思想とは. 28. 榮久庵が昨年亡くなりました。榮久庵の原点は戦後の焼け跡. 3 戦後日本のインダストリアルデザイン. です。そもそも無からの出発だったのです。やがて彼は「モノ. 戦 後 の1952年、 日 本 イ ン ダ ス ト リ ア ル デ ザ イ ナ ー 協 会. デザイン学研究特集号 special issue of japanese society for the science of design Vol.24-2 No.94 2017.

(2) (JIDA)が設立されます。. 「トヨタ・2000GT」が生まれました。. デザインの世界ではしばしば黄金の50年代と言われますが、. 1970年代は、万博を迎え、量から質への転換が起こり、や. 50年代のプロダクトデザインは原点的な存在としていまだに. がて軽薄短小なデザインの時代になりますが、その前にデザイ. 生き続けています。. ンから理念が失われていったように思えます。. それが60年代になり、プロダクトにおける量の充足から成. そのような状況の中で、1973年に「世界インダストリア. 長、役割の探求ということが起こり、1960年の世界デザイン. ルデザイン会議」(ICSID)が開催されます。これはデザイン. 会議がそれに続きます。. 思想にとっては大きな原点だったと思います。梅棹忠夫さん. 「大衆」をテーマとしてキッコーマンの醤油差しが登場し、 (1920-2010)が提唱された「人の心と物の世界」を受けて、 「大量」をテーマとして新幹線が現れ、「充実」をテーマとして. 逆に「物の心と人の世界」ともいえる先ほどのような榮久庵. 栄久庵憲司 GKデザイングループ 創業者 1930~2015. グッドデザイン賞年 フォーカス・イシュー 地球環境と共生 都市と社会基盤 地域社会とローカリティ 技術と情報 医療と健康 安心と安全. 教育と学習 ビジネスモデルと働き方 文化と生活様式 出典:日本デザイン振興会+3より. デザイン学研究特集号 special issue of japanese society for the science of design Vol.24-2 No.94 2017. 29.

(3) の考えが展開されたのではないでしょうか。この頃は『工芸. 色彩、形態のデザインは依然としてあり、それは決して消え. ニュース』が廃刊される一方、プロダクトデザインがコンパク. るわけではありません。むしろ、それを含めた三つのデザイン. ト化を進めた時代でした。. の拡大が起きているのです。それは「領域の拡大」「手法の拡. 1980年頃、東京ディズニーランドが開園しました。当時は. 大」そして「視点の拡大」です。主にプロダクトからの見方に. 大衆の文化とデザインが一番接近したとき、あるいは、デザイ. なりますが、UI、UX やサービスに広がってゆくものが「領域. ンとビジネスが一番つながろうとしたときだったと思います。. の拡大」であり、そして、先ほどの講演にもあったようなデザ. 例えば、雑誌『エフ・ピー』(学習研究社)はそうしたコンセ. イン思考やデザイン・エンジニアリングが「手法の拡大」で. プトを持っていました。つまり、ポストモダンのような流行の. す。これについては手法と言ってよいかという議論は必要です. 反面で、今日につながるような、一般の方々に親しまれるよう. が、実際にそのような広がりがあります。そして、ソーシャ. な、大衆的なデザインの世界も展開されていたのです。. ル・イシューという「視点の拡大」ですが、私はそれが特に大. 1990年代にバブルが崩壊し、デジタル時代に突入してゆき. きな価値を持っていると思っています。. ます。この時、水野誠一(1946-)さんが西武百貨店の社長で. 日本デザイン振興会のGマークはここ2年あまりに「フォー. あられ、 「TOKYO CREATIVE」という企業と連携したデザイ. カス・イシュー」という評価基準を提示しています。それは. ン・コンセプトの立案と事業化をされていました。その際に. 社会的な視点を導入しようとするものであり、「地球環境と共. 提案されたアイデアには肩にかけるようなウェラブル・コン. 生」「都市と社会基盤」「地域社会とローカリティ」「技術と情. ピューターもありました。実際にこのようなプロダクトは登場. 報」「医療と健康」「安心と安全」「教育と学習」「ビジネスモデ. しなかったものの、当時は未来を模索できましたし、「サイレ. ルと働き方」「文化と生活様式」の十一項目です。つまり、従. ントバイオリン」や「アイボ」といった製品が商品として登場. 来の美しいだけのデザインがグッドデザイン賞のグランプリ. したことは確かなことです。2000年代は「失われた20年」と. ということではなく、人と社会の世界に対してデザインは何. なる空白の時代のなかにありました。コモディティ社会(製品. ができるのかということであり、従来の “beautiful” もしくは. やサービスの品質が均質化した個性がない社会)がやってくる. “aesthetic” なデザインだけではなく、“good solution” であっ. と言われたが、そのようなデザインの代表としては「無印良. たり “good innovation” であったりすることが大きな価値に. 品」のプロダクトが注目されます。世界的には日本のシンプル. なっていると思います。すなわち、社会への提言がデザイン上. なデザインを代表するものとして評価する向きもあります。そ. の大きな価値になっているということではないでしょうか。. して、実際、そのようなデザインが今日のデザインの潮流と. ICSID(The International Council of Societies of. なっていきました。. Industrial Design)についてお話ししたいと思います。ご存 知ように ICSID は “World Design Organization” という名称. 4 何処へ行くのか. に変わります。ICSID が “Industrial” という言葉を消したと捉. さて、デザインはどこに行くのかということを考えたいと思. えることもできるのではないでしょうか。ICSID は新たなイン. います。これは私がいろいろなところで示してきたのでご覧に. ダストリアルデザインの定義、デザインの定義と言って差し支. なった方もいらっしゃるかもしれませんが、デザインは何かに. えないと思いますが、それを示しています。. シフトしたわけではなく拡大したと考えています。. 新たなる定義 インダストリアルデザインは、製品、システム、サービス、 体験、等における問題を解決するための過程である。そしてそ れは、新機軸、事業的な成功、ライフスタイルの向上などをも たらす。 また、インダストリアルデザインは、新機軸と技術と、経営 研究、などと顧客をつなげるための、異なる専門分野の相互交 流的な職能である。 問題解決のために、創造性と視覚化を駆使して、製品、シス テム、サービス、体験、事業などの改善のために、問題を再構 築し、解決の糸口をさぐる。そして、新たな価値と競争力を提 供する。. 30. デザイン学研究特集号 special issue of japanese society for the science of design Vol.24-2 No.94 2017.

(4) インダストリアルデザインは、その行為の結果が、経済的、 社会的、環境的そして倫理的な側面をもつことを理解しつつ、 よりよい世界の創造を目指すものである。(icsid, WDO) 「インダストリアルデザインは製品、サービス、システム、 体験等における問題を解決するための過程である。そしてそれ は新機軸、事業的な成功、ライフスタイルの向上をもたらす」 とあります。つまり、デザインはソリューションのためのプロ セスだと言っているわけです。そして、「インダストリアルデ ザインは新機軸と技術、経営研究などと顧客をつなげるための 異なる専門分野の相互交流的な職能である」とも述べていま す。本会もまさに相互交流の場となっていますが、あらゆるも のが広がってゆくなかで、つながってゆくということが求めら れています。そして、 「問題解決のために創造性と視覚化を駆 使して、製品、システム、サービス、体験、事業などの改善の ために問題を再構築し、解決の糸口を探る。そして、新たな価 値と競争力を提供する」ともあります。従来のデザインの定義 を含むものの、その目的が問題解決であるということをうたっ ているわけです。最後には「インダストリアルデザインはその 行為の結果が経済的、社会的、環境的、そして倫理的な側面を 持つ」とあり、ここまではしばしば言われることですが、さら にそのことを理解しつつ、「より良い世界の創造を目指す」と あります。「より良い世界の創造を目指す」ということは、ま さに向井先生が先ほど提示された「あるべき世界」と共通して いるように思うのです。 このように幅広いデザインの解釈において、五年前の3・11 の震災が価値の変革をもたらしたと思います。 発生から20日くらい経っていましたが、私は実際に現場に 行き、石巻の様子を写真に撮りました。茶色に写っているもの は車です。津波の中で流され、そこで三日間ほど燃えていたそ うです。人生最大の買い物ともいえる住宅が流され、日本の産 業の象徴である車がスクラップとなって燃えている姿を見たと き、私たちは何を作ってきたのかということを強く感じまし た。このとき、デザインにおいて真実を追求し、正しい価値を 生むことについて考えました。もちろんデザインはビジネスの 中に生きていますが、ソーシャル・イシューに取り組み、ソー シャル・イシューを次々とつなぎながら社会改革のような運動 を作ってゆくことが、私たちに課せられた使命だと思います。 向井先生が基調講演で提示された「『生』の全体性」というも のは、こうした状況だからこそ求められるのではないでしょう か。ゴーギャンの『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』から私は講演を始めましたが、今はそ のような問いとともにデザインを考えるべき時期だと思いま す。 デザイン学研究特集号 special issue of japanese society for the science of design Vol.24-2 No.94 2017. 31.

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