韓国における農家所得格差の拡大要因
稲作農家の耕作面積二極化と大規模農家育成政策との関係を中心に
高安雄一
はじめに
韓国では 1997 年の通貨危機以降に所得格差が急速に拡大しており、その要因を分析す る先行研究が多く蓄積されている1)。しかし所得格差の要因分析を行った先行研究の大半 が拠り所としている「家計調査」あるいは「世帯消費実態調査」は、農家の所得を把握し ていないため、これら先行研究では農家については全く触れられていない。 ただし農家2)の所得は統計庁により毎年実施されている「農家経済調査」で把握が可能 であり、このデータを利用することで農家の所得格差の動向は明らかにされてきた(イビョ ンギ、2000; パクジュンギ・ムンハンピル・キムヨンテク、2004; キムソンヨン、2004 など)。そし てこれら先行研究では、所得格差を測る指標であるジニ係数、平均対数偏差等から、90 年 代後半から農家の所得格差が拡大していることを明らかにしている。例えば農家所得のジ ニ係数は、1992 年に 0.313 であったが、97 年には 0.343、2002 年には 0.383 と高まってお り(キムソンヨン、2004: 106)、所得格差が確実に拡大している。また同じ調査のデータから 2007 年のジニ係数を算出すると 0.409 となり、直近でも所得格差拡大が継続していること が分かる。なお都市雇用者世帯のジニ係数(経常所得ベース)は、92 年の 0.284 から 2007 年には 0.313 と、0.029 ポイントの上昇にとどまっている点を勘案すると、同じ時期に 0.096 ポイント高まった農家の所得格差拡大は際立っている。また韓国における農家世帯が全体 に占めるウエイト(ただし単独世帯を除く)は 2000 年で 10.4% であり、特に郡部3)では 37.3% と高い4) 。よって韓国における所得格差を研究する上で、農家は無視できるもので はない。このようななかで、農家所得格差を扱った先行研究は、所得格差が拡大した点は 明らかにしているものの、格差拡大が生じた理由の解明を十分に行っていない。 農家において所得格差が拡大し始めた時期である 90 年代中盤は、政府が農業政策の重 点を大規模農家に移した時期であり、先行研究には農家所得格差と政府の農業政策転換を 結びつけているものがある(キムジョンホ、1998: 第 4 章)。しかしながら先行研究では分析 を加えた上でそのような結論を導き出しているわけではなく、所得格差拡大と政府の農業 政策の転換の時期が一致していることからそのような判断をしているに過ぎない。そこで 本稿では農家所得格差が拡大した要因を、稲作農家の耕作面積二極化に原因解明のための 分析対象を絞り込んだ上で、稲作農家の耕作面積二極化と大規模農家育成政策との関係を中心に考察していく。 本稿の構成は以下のとおりである。第Ⅰ節では農家所得格差拡大の要因解明のための分 析対象の絞り込みを行う。具体的には本稿では稲作農家の耕作面積の二極化に分析対象を 絞るとともにその根拠を示す。また第Ⅱ節では稲作農家の耕作面積二極化に関連して、規 模拡大及び規模縮小を行う確率の高い農家の特性について明らかにする。そして第Ⅲ節で はその結果を主に政府による大規模農家育成政策との関係において考察する。
Ⅰ 分析対象の絞り込み
本節では農家所得の格差拡大要因解明に当たってその対象を絞り込む作業を行う。具体 的には、①所得源泉別には農業所得が最重要、②主要作物に着目した農家類型に関しては 稲作農家のグループ内農業所得が最重要、③稲作農家のグループ内農業所得を分析する場 合は耕作面積に着目することが妥当であることを検証することで、本稿で稲作農家の耕作 面積の二極化に分析対象を絞る根拠を示す。 第 1 に所得源泉別には農業所得が最重要である点である。農家所得を所得源泉別に見る 場合、農業所得、農外所得、移転所得の 3 つに大きく分けることができるが、キムソンヨ ン(2004)は Shorrocks の方法により農家所得格差を所得源泉別に要因分解し5)、1991 年か ら 2002 年の所得格差拡大は農業所得によって決定されたとした。さらに直近についても 同様の傾向が見られる。2003 年から 2007 年の各年における農家所得格差を Shorrocks の方 法により所得源泉別に要因分解すると6)、農業所得が所得格差全体の 61.9%7)を説明してい る一方で、農外所得は 35.2%、移転所得は 2.9% にとどまっているなど、農業所得の寄与 率が最も大きい点には変化がない。なお 2003 年から 2007 年までの農業所得の格差の動き をジニ係数と平均対数偏差から見ると、2003 年のジニ係数は 0.551、平均対数偏差は 0.650 であったが、その後一貫して上昇し、2007 年にはそれぞれ 0.596、0.775 にまで高まった。 つまり農業所得の格差は直近においても拡大していることが確認できる。 第 2 に主要作物に着目した農家類型に関しては稲作農家のグループ内農業所得が最重要 である点である。農家は主生産農作物により 8 つのグループ8)に分けることができるが、 ここでこれらグループに関して、グループ内格差及びグループ間格差といった要因が、所 得格差の水準とその動きにどの程度寄与しているのか明らかにする。格差を測る指標とし て平均対数偏差を使用することにより、所得格差の水準をグループ内格差による部分、グ ループ間格差による部分の 2 つに分解することが可能である。また所得格差の変化をグ ループ内格差の変化による部分、グループ間格差の変化による部分、グループの構成比の 変化による部分の 3 つに分解することもできる。2007 年における所得格差を分解した結果、 グループ内格差の寄与率は 87.9% であり、グループ間格差の寄与率である 12.1% を大きく 上回るなど格差の大部分を説明している。さらにグループ内格差を農家類型別に分割した結果を見ると、稲作農家が 45.2% と最も大きな寄与率を示している9)。つまり農業所得の 格差には稲作農家のグループ内格差が大きく寄与していると言える。また Mookherjee and Shorrocks(1982)の方法により、2003 年から 2007 年にかけての平均対数偏差の変化幅を分 解した結果、2003 年から 2007 年にかけての平均対数偏差の上昇幅 0.125 のうち、77.4% は グループ内格差の変化による部分であることが分かる。また一方で、グループ間格差の変 化については 16.7%、グループ構成比の変化は 5.9% を説明しているに過ぎない。つまり 農業所得格差の拡大はグループ間所得格差が拡大したためというよりは、グループ内所得 格差が拡大したことによりもたらされたと判断することができる。 第 3 に稲作農家のグループ内所得格差を分析する場合は耕作面積に着目することが妥当 であるとの点である。稲作農家の農業所得決定に影響を与える要素としては、経営耕作面 積(以下、「耕作面積」とする)が重要である。もし耕作面積の多寡に関わらず面積当たりの 収穫量と費用が同じであれば農業所得は耕作面積に比例して増加する。しかしながら収穫 量が規模に対して逓減する、あるいは費用が規模に対して逓増する場合、農業所得は耕作 面積が増えるほどには高まらない。そこで韓国において規模に対して収穫量及び費用がど のように変化するか先行研究から確認したい。まず収穫量であるが、キムジョンホ(1998: 40)は米の単位面積当たりの収穫量に影響を与える要因を分析し、耕作面積が 2 倍になる と、面積単位当たりの収穫量が 1.34% 増加することを明らかにした。次に費用であるが、 キムホンサン・イヒョンスン(2000: 26)は、98 年における米 80 kg 当たりの生産費は、耕 作面積が 1 ha の場合は 6 万 6 千ウォン程度であるが、3 ha になると 5 万 9 千ウォン程度に 低下するなど、耕作面積が増加するほど生産費が低下することを明らかにしている10)。ま たパクドクヨル・パクジョングン(2003: 88)も、先行研究の成果をまとめた上で、韓国に おいて規模拡大は米生産費低減に大きく寄与すると結論付けている。そして以上の先行研 究から、農業所得は耕作面積が増加するごとに農業所得がそれに比例する以上に高まると 判断することができ、まさに耕地面積の格差は農業所得の格差に直結するとの判断が可能 である。
Ⅱ 稲作農家の耕作面積二極化に係る要因分析
1. 耕作面積の二極化 まず稲作農家の耕作面積の変化について見る。稲作農家における耕作面積階級別の比率 を 2003 年と 2007 年で比べてみると、小規模農家が 39.7% から 43.3%、大規模農家が 15.1% から 15.7% に高まっている一方、中規模農家は 45.2% から 41.0% に低下している(以下、 耕作面積が 1 ha 未満の農家を「小規模農家」、1 ha 以上 3 ha 未満の農家を「中規模農家」、3 ha 以上の 農家を「大規模農家」とする)。つまり耕作面積は中規模農家が縮小する形で二極化している。 次に耕作面積の二極化が生じている要因を解明するための手がかりをつかむため、まず耕作面積階級間の農家の移動状況を見る。「農家経済調査」では、全国 320 の調査区から 3,200 のサンプル農家を選定した上で、これらサンプル農家に対して調査を行っている。 サンプル農家は 5 年毎に全数交代されているが、2003 年から 2007 年の間は同一のサンプ ル農家で実施されていたことから11)、この期間においては農家毎にパネルデータを構築す ることが可能である。このパネルデータから作成した耕作面積階級間の動態表は表 1 のと おりであるが、ここからは、① 0.5 ha 未満農家と 5 ha 以上農家は同じ階級に留まる比率が 高い、② 1 ∼ 2 ha 農家と 2 ∼ 3 ha 農家は規模の小さな階級に移動する比率が高い、③ 3 ∼ 4 ha 農家と 4 ∼ 5 ha 農家は規模の大きな階級に移動する比率が高い点を読み取ることがで きる。そしてこれらの結果から、耕作面積 3ha を境に農家が両極に移動しており、この動 きが耕作面積の格差拡大、ひいては農業所得格差の拡大を引き起こしていると考えること ができる。 また 2003 年から 2007 年までに耕作面積を、① 5% 以上増やした農家、②増減が 5% 未 満であった農家、③ 5% 以上減らした農家の 3 つに分け(以下、それぞれ「規模拡大農家」、「規 模不変農家」、「規模縮小農家」とする。)、2003 年における耕作面積階級別の構成比を見ると 表 2 のとおりである。そしてここからは、(a)小規模農家は規模不変農家、(b)中規模農 家は規模縮小農家、(c)大規模農家は規模拡大農家の比率が最も高い点を読み取ることが できる。以上の結果から、大規模農家の多くが規模拡大、中規模農家の多くが規模縮小す る形で農家が両極に移動しており、この動きが耕作面積の格差拡大、ひいては農業所得格 差の拡大を引き起こしていることが分かる。 2. 分析の枠組み 大規模農家の多くが規模拡大、中規模農家の多くが規模縮小する形で農家が両極に移動 しているのはなぜだろうか。まず先行研究から農業政策が耕作面積の二極化をもたらした 可能性が考えられる。深川(2002: 第 2 章)は、ウルグアイラウンドと農産物市場開放の動 きの中、韓国政府は 1990 年以降中規模農家育成から大規模農家育成へと政策の重点を転 換したと指摘しているが、これと軌を一にするように、中規模農家への集中傾向を示して いた農家規模間の動態が、大規模農家と小規模農家の増加との形での二極化傾向に転じて いる12)。またキムジョンホほか(2006: 37–38)は、大規模農家育成政策を背景とした米専業 農の経営規模拡大により大規模層への農地流動が生じたとした。さらにキムスソク・ホ ジュニョン(2007: 51)は、3 ha 以上の農家の規模拡大は政策が一定の役割を果たしている とした。よってこれらを総合すると、政府の育成対象である大規模農家については更に規 模を拡大する傾向にあることが予想される。さらにキムビョンテク・キムジョンホ(2005: 545)は、米価の下落にともなう農家の行動について、他の目的への転用が難しい農業機械 等の固定資産を多く有する大規模農家は米作を続ける一方で、2 ∼ 3 ha 規模の農家は最初 に米作を放棄するとしている。この指摘が正しいならば、中規模農家は規模を縮小する傾 向があると考えることができる。なお機械購入に係る支援も 98 年以降大規模農家へ集中
されており、大規模農家が農業機械を多く有する状況は、政府の政策によってももたらさ れていると考えることが可能である。 以上の先行研究の結果を総合すると、耕作面積の規模が大きければさらなる規模拡大に 有利であるとの政策のために、耕作面積が大きい農家の方が規模を拡大する傾向にあると いった関係が観察されていると考えられる。つまり耕作面積はそれ自体が規模拡大や縮小 に影響を及ぼす特性ではなく、規模拡大に有利な政策の対象農家であるか否かを代理する 特性と解釈することが可能である。 ただし耕作面積と相関関係を有する特性が規模の変化に影響を与えている場合でも、耕 作面積と規模の変化との関係が観察できる場合もある。例えば、農家の規模と経営主の年 齢の間には負の相関関係があるが、経営主の年齢の若い農家が規模を拡大する傾向にある ならば、規模の大きな農家が規模を拡大するとの傾向が観察されてしまう。つまり実際は 違っていても政策が耕作面積の二極化をもたらしていると見なす危険性がある。そこで実 際にはどのような特性を持つ農家が耕作面積を拡大あるいは縮小する傾向にあるのか定量 表 1 耕作面積階級間の動態表(2003 ∼ 2007 年) (%) (ha) 2007 年 0.5ha 未満 0.5 ∼ 1ha 未満 1 ∼ 2ha 未満 2 ∼ 3ha 未満 3 ∼ 4ha 未満 4 ∼ 5ha 未満 5ha 以上 2003 年 0.5ha 未満 79.9 13.6 5.3 1.2 0.0 0.0 0.0 0.5 ∼ 1ha 未満 15.8 66.5 16.8 0.8 0.0 0.0 0.0 1 ∼ 2ha 未満 5.7 20.1 63.0 9.2 2.0 0.0 0.0 2 ∼ 3ha 未満 1.4 3.1 25.5 56.7 11.7 0.7 0.9 3 ∼ 4ha 未満 0.0 3.4 7.1 15.4 45.6 10.9 17.6 4 ∼ 5ha 未満 0.0 0.0 2.0 8.7 16.3 37.3 35.7 5ha 以上 1.8 0.0 1.1 3.4 4.2 5.2 84.3 (注)各階級の下限は以下、上限は未満である。以下同様。 (出所)「農家経済調査」の個票データを使用して筆者が作成。 表 2 耕作面積階級別の規模変化の状況(2003 ∼ 2007 年) (%) 規模拡大農家 規模不変農家 規模縮小農家 0.5 ha 未満 36.2 38.5 25.3 0.5 ∼ 1.0 ha 未満 32.8 33.5 33.7 1.0 ∼ 2.0 ha 未満 30.8 21.6 47.6 2.0 ∼ 3.0 ha 未満 33.4 23.8 42.8 3.0 ∼ 4.0 ha 未満 49.0 19.6 31.4 4.0 ∼ 5.0 ha 未満 48.7 13.5 37.9 5.0 ha 以上 50.2 8.5 41.3 (注) 1)数値は当該階級全体に占める農家の割合である。 2)規模縮小農家は 2003 年から 2007 年にかけて耕作面積を 5% 以上減らした農家、 規模拡大農家は 5% 以上増やした農家、規模不変農家は増減率が 5% 未満であっ た農家である。 (出所)表 1 と同じ。
的に検証する。そしてもしも他の特性の影響を除いても、大規模農家については更に規模 を拡大する傾向、中規模農家は規模を縮小するとの傾向が見られれば、大規模農家中心の 農業政策が耕作面積の二極化をもたらしている点の根拠になり得る。 主体がある行動を行う可能性に与える各特性の限界的影響を明らかにするために、以下 の二値選択モデルによる分析が用いられることが多い。 yi* = α + Xiβ + ei yi*>0 の場合 yi= 1(ある行動を選択する) yi*≦0 の場合 yi= 0(ある行動を選択しない) Xiは特性の列ベクトル、βは係数のベクトル、eiは誤差項、i は i 番目の主体 なお主体がある行動を選択する確率 Piは以下のとおりである。 Pi(yi= 1) = F(α + βXi) F は誤差項 eiが従う分布の累積分布関数 このような二値選択モデルを用いて、農家が耕作面積を変更する確率に影響を与える特 性を分析した先行研究としては、シムグンソプ・イガンソク(1997)があり、特性としては、 経営主の年齢、学歴、農外就業の有無、耕作面積、賃借面積比率、賃貸面積比率、農外所 得比率などを選択している。しかしこの先行研究は分析に使用したデータや農家の特性の 数値化について幾つかの問題点を抱えている。1 つ目は分析に使用した「農家経営相談資 料」が京畿道の農家に限定されており代表性に問題がある点である。2 つ目は耕作面積の 変更を、実際に変更を行ったか否かではなく、3 年以内に耕作面積を変更する意思の有無 から把握している点である。変更するとの意思を持っているケースには、具体的に変更の 目途が立っている実現可能性の高いもののみならず、漠然たる希望を持っているに過ぎな い実現可能性の低いものまで含まれる。よって変更の意思を持っていても実際の行動には 結び付かない場合も少なくないと考えられ、このデータからは耕作面積の動きを正確に把 握することはできない。 本稿で行う二値選択モデルによる分析では、シムグンソプ・イガンソク(1997)が選択 した農家の特性を原則的に用いることとする。なおモデルの分析には、全国の農家をカ バーしているとともに、データとして実際の耕作面積の変化を把握できる「農家経済調査」 を使用した。そして二値選択モデルは、シムグンソプ・イガンソク(1997)と同様に、① 被説明変数(y)を「規模拡大農家」 = 1、その他を 0 としたもの、②被説明変数(y)を「規 模縮小農家」 = 1、その他を 0 としたものの 2 つに分けて設定した。さらに X を構成する 説明変数を、耕作面積ダミー、賃借面積比率、賃貸面積比率、経営主の年齢ダミー、同性 別ダミー、同学歴ダミー、農外所得比率、地域ダミーとした13)。また二値選択モデルには、
誤差項がロジスティック分布にしたがうと仮定するロジットモデルと、標準正規分布にし たがうと仮定するプロビットモデルがあるが、本稿では後者のプロビットモデルを選択し た14)。 3. 分析結果 表 3 の①は規模拡大農家となる確率、②は規模縮小農家となる確率に係る分析結果であ る。まずは規模拡大農家となる確率に係る結果を見る。耕作面積については、中央値を含 む 1 ∼ 2 ha の農家に比べ規模を拡大する確率が、3 ∼ 4 ha で 14.1%、4 ∼ 5 ha で 12.3%、5 ha 以上で 12.7% 高いなど、3 ha 以上の大規模農家は規模を拡大する確率が高いことが分かっ 表 3 耕作面積を増加させた農家、減少させた農家に係るプロビット分析結果 ①耕作面積 5% 以上増加 ②耕作面積 5% 以上減少 [レファレンスグループ] 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 耕作面積[1 ∼ 2 ha 未満] 0.5 ha 未満 0.038** 0.0027 –0.192** 0.0026 0.5 ∼ 1 ha 未満 0.027** 0.0020 –0.139** 0.0021 2 ∼ 3 ha 未満 –0.002** 0.0024 –0.058** 0.0026 3 ∼ 4 ha 未満 0.141** 0.0031 –0.165** 0.0030 4 ∼ 5 ha 未満 0.123** 0.0041 –0.079** 0.0041 5 ha 以上 0.127** 0.0041 –0.068** 0.0041 賃借面積比率 0.028** 0.0025 0.242** 0.0026 賃貸面積比率 0.080** 0.0019 –0.040** 0.0019 経営主の年齢[60 ∼ 69 歳] 49 歳以下 0.111** 0.0026 –0.140** 0.0025 50 ∼ 59 歳 0.145** 0.0021 –0.173** 0.0019 70 歳以上 –0.047** 0.0020 0.084** 0.0023 経営主の性別[男性] 女性 –0.061** 0.0040 0.002** 0.0045 学歴[高卒以下] 大卒以上 –0.044** 0.0020 0.041** 0.0021 農外所得比率 –0.035** 0.0028 0.044** 0.0029 地域[全羅北道] 広域市 0.120** 0.0047 –0.220** 0.0040 京畿道 –0.005** 0.0029 –0.051** 0.0030 江原道 –0.024** 0.0036 0.073** 0.0038 忠清北道 –0.111** 0.0035 0.249** 0.0040 忠清南道 –0.018** 0.0028 –0.006** 0.0029 全羅南道 0.030** 0.0027 –0.016** 0.0027 慶尚北道 0.020** 0.0027 –0.051** 0.0028 慶尚南道 0.041** 0.0033 –0.036** 0.0033 LR カイ二乗値 20243 36452 サンプル数 431,144 431,144 (注) 1)** は 1%、* は 5% 水準で有意であることを示す。 2)限界効果はその他の変数を平均値に置くことで算出した。ただしあるダミー変数が 1 と なる場合、他の変数が必ず 0 になるという相互に排他的なダミー変数の場合は、他の変数を 平均値とすると、論理的に矛盾する状態を前提とすることとなる(松浦・マッケンジー、 2008: 76)。このケースでは、耕作面積ダミー、経営主年齢ダミー、地域ダミーがそれに該当 する。よって矛盾を避けるため、原田(2007)の方法による処理を行った。例えば耕作面積 で 0.5 ha を 1 とする場合は、他の耕作面積ダミーを全て 0 とした。 (出所)表 1 と同じ。
た。また経営主の年齢については、中央値を含む 60 歳代に比べて規模を拡大する確率が、 50 歳代で 14.5%、49 歳以下で 11.1% 高い一方、70 歳以上で 4.7% 低いなど、経営主が 60 歳 以下と比較的若い農家について規模拡大確率が高くなることも明らかになった(以下では 経営主の年齢が 60 歳未満の農家を「若年農家」、60 歳以上の農家を「高齢農家」とする)。さらに 賃借面積比率が高い方が、賃貸面積比率が高い方が、農外所得比率が低い方が規模を拡大 する確率が高く、そして経営主が男性である場合、経営主が高卒以下である場合に規模を 拡大する確率が高いことが分かった。また地域ダミーは概ね 1% 水準で有意であった。 次に規模縮小農家となる確率に係る結果を見る。耕作面積については、1 ∼ 2 ha の農家 に比べ規模を縮小する確率が、0.5 ha 未満で 19.2%、0.5 ∼ 1 ha で 13.9% 低いとともに、3 ∼ 4 ha でも 16.5% 低い。これは逆から見れば中規模農家の耕作面積縮小確率が高いことを意 味している。また経営主の年齢については、60 歳代に比べて規模を縮小する確率が、50 歳代で 17.3%、49 歳以下で 14.0% 低い一方、70 歳以上で 8.4% 高いなど、高齢農家につい て規模縮小確率が高まることも明らかになった。さらに賃借面積比率の影響も大きく、耕 作地の全てが賃借の農家は、全てが自作地の農家と比べて規模縮小確率は 24.2% 高い。そ して賃貸面積比率が低い方が、農外所得比率が高い方が規模を縮小する確率が低く、また 経営主が高卒以上である場合に規模を縮小する確率が低いことが分かった。またここでも 地域ダミーは概ね 1% 水準で有意であった。
Ⅲ 稲作農家の耕作面積の二極化に係る分析結果の考察
1. 総括的な考察 前節における分析から、①耕作面積、②経営主の年齢、③賃貸借面積比率が農家の耕作 面積の変更に比較的大きな影響を与えることが分かった。そこでまずは、これらの特性が 変化した場合15)、規模を拡大するあるいは縮小する確率にどのような差が生ずるのか見る。 最初に耕作面積であるが、大規模農家の規模拡大確率16)が高く、それぞれ 40% を超えて いる(表 4)。一方、中規模農家については規模縮小確率が高い。次に経営主の年齢である。 若年農家は規模拡大確率が高い半面、高齢農家は規模縮小確率が高く、特に 70 歳以上で は 50% を超えている。また賃借面積比率が 100% の農家の規模縮小確率は 54.8% と高い。 なお結果的には、実際に観測された耕作面積階級別の規模拡大及び縮小比率(表 2: 前出) と、他の特性の影響を除いた場合の同確率(表 4: 前出)が似通っている。これは以下で示す、 経営主の年齢、賃借面積比率、賃貸面積比率と耕作面積規模との関係がもたらした結果で ある。まず経営主の年齢についてである。経営主の年齢と耕作面積規模との関係を見ると、 大規模農家においては若年農家比率が 59.1% と高く(高齢農家比率が低く)、小規模及び中 規模農家においては高齢農家比率がそれぞれ 68.0%、70.1% と高い(若年農家比率が低い)。そしてこの関係によって、大規模農家は規模拡大確率を高められ、規模縮小確率を低めら れる。また反対に中小規模農家は規模拡大確率を低められ、規模縮小確率を高められる。 次に賃借面積比率についてである。賃借面積比率と耕作面積との関係を見ると、大規模農 家においては賃借面積比率が 54.0% と高く、小規模及び中規模農家においては賃借面積比 率がそれぞれ 23.1%、32.9% と低い。そしてこの関係によって、大規模農家は規模縮小確 率を高められ、反対に中小規模農家は規模縮小確率を低められる。さらに賃貸面積比率に ついてである。賃貸面積比率と耕作面積との関係を見ると、大規模農家においては賃貸面 積比率が 1.5% と低く、小規模農家においては 16.7% と高い。そしてこの関係によって、 大規模農家は規模拡大確率を低められ、反対に小規模農家は高められる。 つまり規模縮小確率については、経営主の年齢あるいは賃借面積比率が経営規模階級別 に与える影響がそれぞれ反対方向を向いており、また規模拡大確率については、経営主の 年齢あるいは賃貸面積比率が経営規模階級別に与える影響がそれぞれ反対を向いているな ど相互に効果を相殺している。よって実際に観測された耕作面積階級別の規模拡大及び縮 小比率と、他の特性の影響を除いた場合の同確率が似通う結果となっている。いずれにせ よ重要な点は、他の特性の影響を除いた場合の耕作面積階級別の規模拡大及び縮小確率で あり、これについては、大規模農家中心の農業政策が耕作面積の二極化をもたらしている ことの 1 つの根拠となり得る結果、つまり大規模農家は規模拡大確率が高く、中規模農家 は規模縮小確率が高いとの結果が得られた。 2. 経営主の年齢及び賃貸借面積比率に係る考察 ここからは経営主の年齢及び賃貸借面積比率に係る結果について考察を加える。まず経 表 4 農家特性別の規模拡大・縮小確率(他の特性は平均値) (%) 特性 規模拡大確率 規模縮小確率 耕作面積 0.5ha 未満 35.5 27.5 0.5~1.0ha 未満 34.4 32.8 1.0~2.0ha 未満 31.7 46.7 2.0~3.0ha 未満 31.5 40.9 3.0~4.0ha 未満 45.9 30.2 4.0~5.0ha 未満 44.0 38.8 5.0ha 以上 44.4 39.9 世帯主の年齢 49 歳以下 42.5 28.6 50 ∼ 59 歳 45.9 25.3 60 ∼ 69 歳 31.4 42.6 70 歳以上 26.7 51.0 賃借面積比率 100% 36.9 54.8 0% 34.1 30.3 賃貸面積比率 100% 42.6 34.5 0% 34.4 38.3 (出所)表 1 と同じ.
営主の年齢であるが、前節で示したとおり、60 歳を超えると規模拡大確率が低下するとと もに、規模縮小確率が上昇する点を見てとれる。日本の農林水産省が 2008 年に実施した アンケート調査である『経営する農地の拡大・縮小に関する意識・意向調査』によると、 経営規模を縮小する理由として「高齢化による労働投入量の減少」との回答が最も多く、 規模拡大の原因として「年齢が若く体力的に充実」が多い。つまりここからは年齢にとも なう体力面での変化が規模の変化に影響していると考えることができる。ただしこの調査 の対象は日本の農家である。よってこのアンケート結果が韓国にそのまま当てはまる訳で はない。しかし年齢による体力の衰えに日韓で大きな差が生じているとも考えられないた め、この結果から、韓国においても高齢化により体力が衰えると、規模拡大との選択が難 しくなる反面、規模縮小を選択しやすくなることが想定できる。 また賃借面積については、その比率が高まる場合、農家が規模の変化を選択する確率が 上昇するが、特に規模縮小との選択についてこの傾向が顕著である。この傾向については 以下の 2 点が影響していると考えられる。1 つは貸手側の都合により賃借期間終了後に契 約更新がなされないリスクである。もちろんこのようなリスクは従来から存在するが、 2005 年の米所得等補填直接支払金に係る制度改正によりそのリスクが高まったと考えられ る。米所得等補填直接支払金は 2002 年に導入されたが、当初は米価の下落分の一定割合 を農家に補填する制度であった。しかし 2005 年以降は米価の変動にかかわらず耕作面積 に応じて固定的に支払われる部分が追加され、2008 年度で農村振興地域内では 1 ha 当た り 74 万 6 千ウォンの支給を受けることとなった。なお同直接支払金は米生産に使用され ている農地を所有している者ではなく、実際に耕作している者に支払われるため、特に小 規模農家において、農地を賃貸に出すことで賃貸料を得るよりは、農作業の多くを委託し てでも自らが耕作した方がより高い収益を得ることができるようになった。そしてこの結 果、賃貸契約期間の終了後、再び賃貸に出さない農家が増加したと考えることが可能であ る17)。もう 1 つは所有耕作地と比べて賃借耕作地の場合、耕作しないとの選択を行いやす いとの事情も考えられる。所有耕作地において耕作を止める場合は、賃貸に出すか売却す る、あるい遊休農地とするとの選択肢があるが、前者の場合は相手が直ちに見つかるとは 限らない。また後者については機会費用が発生するとともに、農地としての価値を維持す るための管理費用がかかる。しかし賃借農地であれば契約更新しないだけで済む。 3. 耕作面積―規模拡大 前節で行った分析の結果、① 3 ha を超える大規模農家は規模を更に拡大する、② 1.0 ∼ 3.0 ha といった中規模農家は規模を縮小する確率が高いとの点が分かった。前述したよう に、①②の結果が得られた場合、政府の農業政策が耕作面積の二極化に影響している根拠 となり得るが、そのとおりの結果となった。ただし大規模農家育成政策を行ってきたと いっても、分析により規模拡大確率が大きいとの結果が得られた 3 ha 以上の農家に、実際 に政策の重点が置かれているかについては必ずしも明らかではない。そこで以下では政府
が重点を置いている大規模農家はどの程度の規模であるのか考察したい。 政府は 1994 年に「農漁村発展対策及び農政改革推進方案」を発表し、WTO に対応した 農政の基本方針を示したが、米専業農の育成が農漁業の競争力強化のための核心施策の第 1 の課題に選定され、2004 年までに専門的な家族単位の専門農漁家を 15 万戸18) 育成する と発表した(農林部、1999: 315)。また 2004 年にはその後継策として「米専業農育成総合対 策」を発表し、2010 年までに 1 戸当たり平均 6 ha の米専業農家を 7 万戸育成するための方 策を提示した。これら政策パッケージ等に基づく米専業農19)に対する支援としては、農業 機械購入支援事業及び営農規模化事業を挙げることができる。 まず農業機械購入支援事業であるが、92 ∼ 99 年まで平均で補助比率 34%、融資比率 50% との条件で支援が行われた。ただし 2000 年以降は融資のみとされ、2008 年には 70% の融資比率との条件で支援がなされている。なお事業の対象は米専業農に限定されている が、93 ∼ 97 年には機械半額支援制度が一般農家を対象に実施されており、米専業農家が 農業機械購入に関して特段有利であったわけではなかった。しかし 98 年以降は農業機械 半額支援制度が廃止され、一般農家を対象とした農業機械購入を支援する制度がなくなっ たため、米専業農の農業機械購入が相対的に容易になった。 また営農規模化事業は、農地売買、農地賃貸借及び交換を通じて農家の規模を拡大し、 農家経営の生産費削減と経営力の引き上げを目的としたものであり、具体的には、転業、 引退、経営規模を縮小する農家等から農地を買入あるいは賃借し、これを事業の支援対象 者に売却あるいは賃貸している。そして農地購入の場合は低利融資、農地賃借の場合は貸 手に一括して支払われる金額につき無利子融資20)との支援がなされている。対象は耕作面 積、経営主の年齢等の条件を満たした農家であるが、米専業農の優先順位が第 1 位とされ ている。つまり、規模拡大のために欠かすことのできない耕作面積拡大及び農業機械購入 に係る支援は、米専業農に集中しているということができる。 なお政策の重点が置かれた米専業農の選定基準は、①耕作面積、②農業経験年数、③経 営主の年齢の大きく 3 点であり、耕作面積については、95 ∼ 96 年は 1 ha 以上、97 ∼ 2002 年は制限なし21)、2003 年以降は 2 ha 以上とされていた。そして長期間制限がなかったこと もあり米専業農には中小規模農家が多く認定された。例えば 2000 年に選定された米専業 農の 45.1% が 1 ha 未満であり、1 ∼ 2 ha が 35.5% と 8 割以上が 2 ha 以下の農家が占めてい た(パクムンホ、2000: 4)。もちろん下限が定められた時期もあり全体で見れば選定農家の 規模はこれより大きいが、95 ∼ 2007 年に営農規模化事業の支援を受けた米専業農で見て も、支援前の規模は 1 ha 未満が 19.9%、1 ∼ 2 ha が 31.2%、2 ∼ 3 ha が 27.3% と 8 割近くが 3 ha 以下の中小規模農家であった。よってここからは中小規模農家にも政府の政策の重点 が置かれていたと見ることもできる。 しかし 2004 年の「米専業農育成策」以降は、3 ha 以上の大規模農家に政策の軸足が置 かれていると考えられる。ソンヘアン(2006)は、営農規模化事業の支援を受けた米専業 農について、支援前は 3 ha 以上の農家が 17.5% に過ぎなかったが、支援後は 69.0% となっ
たとしている22)。また米専業農の年度別認定数を見ると、95 ∼ 97 年の 3 年間で全認定数23) の 6 割以上、2000 年までの 6 年間で 8 割以上となっている。このように認定されてから長 期間を経ている米専業農が多いことも勘案すると、認定当初は中小規模であった米専業農 の多くは既に 3 ha 以上になっていることが想定できる。さらに「米専業農育成総合対策」 では 6 ha 以上の専業農を 2010 年までに 7 万戸とすることを目標を示しているが、そのう ち 6 万戸は既存の比較的大規模な米専業農の規模拡大により達成する計画であり、政府は 既に指定された大規模米専業農を中心として規模拡大に力を入れていることが分かる。な お 3 ha 以上の農家に占める米専業農の割合は 2007 年で 83.3% であり24)、米専業農への集 中支援はまさに大規模農家にターゲットを絞った政策支援に他ならない。以上を勘案する と、直近における政府による規模拡大のための支援は、3 ha 以上の大規模農家に集中して いると判断できる。そしてこの点と、3 ha 以上の農家において規模拡大確率が大きいとの 分析結果は整合的であり、ここからも政府の大規模農家育成政策が耕地面積の二極化をも たらしているとの関係が支持される。 4. 耕作面積―規模縮小 第 2 は中規模農家が規模を縮小する確率が高いとの点である。前述したキムビョンテ ク・キムジョンホ(2005: 545)は、米価が下落した場合、大規模農家は米作を続ける一方で、 2 ∼ 3 ha 規模の農家は真っ先に耕作を放棄するとしているが、分析の結果から 1 ∼ 2 ha の 農家の規模縮小確率が最も高く、2 ∼ 3 ha の農家がこれに次ぐなど、指摘を概ね支持する 結果となった。なおこの先行研究では、大規模農家が米作を続ける要因として、他の用途 に転用できない農業機械を有している点を挙げている。そこで中規模農家と大規模農家の 農業機械所有状況について見ることで、先行研究の指摘が妥当であるか確認することとす る。「農家経済調査」では農家が所有する農業機械の現在価値について把握しており、こ のデータを利用して耕作面積階級別に農家が所有する農業機械の現在価値に係る累積分布 を見る(図 1)。まず 3 ∼ 4 ha の農家であるが、59.7% が 1,000 万ウォン以上、35.8% が 2,000 万ウォン、24.6% が 3,000 万ウォンの現在価値の農業機械を有しており、4,000 万ウォン以 上については一部で 4 ∼ 5 ha の農家と逆転している。一方、2 ∼ 3 ha の農家については 1,000 万ウォン以上が 36.1%、2,000 万ウォン以上が 15.1%、3,000 万ウォンが 2.7% に過ぎず、1 ∼ 2 ha の農家に至ってはそれぞれ 19.0%、4.2%、2.1% と、0.5 ha 以下の農家と比較してもそ れほど大差ない程度であった。つまり農業機械の保有状況については、大規模農家と中規 模農家の間に大きな差が存在すると考えられる。よって大規模農家は農業以外に転用でき ない固定資産を多く有することから規模の縮小が難しいと判断することができる。 しかし以上の点だけでは、農業機械を持たないにもかかわらず、小規模農家の規模縮小 確率が低い要因が解明されないが、農林部が行ったアンケート調査結果が手がかりにな る。米価が 80 kg 当たり 14 万 4 千ウォンに下落した場合、1 ∼ 3 ha、3 ∼ 5 ha の農家は半数 が米作を放棄すると回答しているのに対し、1 ha 未満の農家ではそのように回答した農家
が 2 割に過ぎず、12 万 9 千ウォンでも半分以上が米作を放棄するとは回答していない(農 林部、2002: 71)。このように経営規模が小さいほど米生産を持続する傾向にあるが、これ は小規模農家の多くが自給に近い農家形態であるため、米価に対する反応が鈍いからと考 えられる25)。 5. 離農に関する考察 大規模農家育成政策への転換は、大規模農家を更に大規模化、また中規模農家を小規模 化せしめることで、耕作面積の二極化を進展させたと考えられるが、小規模農家の離農が 中規模農家の小規模化を上回るペースで進めば二極化は進展せず、耕作面積の分布は大規 模方向へシフトすることとなる。そして政府は大規模農家を中心とした農業政策へ転換す る際に、高齢農家の離農を促す政策をセットで行っていた26)。なお高齢農家は小規模農家 に多いため、結果的にこの制度は小規模農家の離農促進策とも言え、この政策が効果を有 した場合、政府の政策は総合的に見て耕作面積の二極化にはつながらない可能性があっ た。この政策とは具体的には経営移譲直接支払金の導入であり、高齢農家27)が農地を売却 あるいは賃貸に出す場合、面積に応じて給付金を支払うとの手法で、高齢農家の離農を促 進することを目的としている。しかし実際は大規模農家を中心とした農業政策については 一定の成果が得られたが、小規模農家の離農はそれほどは進まないなど政策の成果が得ら れておらず、政府の農業政策は格差拡大を引き起こす結果を招いた。 規模別の離農者については把握が難しいが、アンドンファン・キムガンス(2004)の方 法、つまり「農家経済分析」のサンプル替え直後の年度から、5 年後に行われる次回サン 図 1 耕作面積階級別に見た所有農業機械の現在価値に係る累積度数 (出所)表 1 と同じ。
プル替え直前の年度の間に脱落したサンプルを離農した農家と捉える方法により把握する ことは可能である。ただし参入する農家などもあるため離農農家数から参入農家数28)を引 いた純離農農家数を反映した上で、0.5 ha 未満の農家の動きについて見る。2003 年におけ る 0.5 ha 未満の農家数の 31.1% 相当分が 2007 年までに上位層から移動して、12.7% が上位 層に移動するなど、18.4% が階級間移動により純増した反面、純離農は 11.8% にとどまっ ている。よって 0.5 ha 未満の農家数は増加する結果となった。 では経営移譲直接支払金がなぜ効果を持たないのであろうか。キムジョンホほか(2006: 46)では 2002 年以降経営移譲直接支払金の支払実績が年々小さくなっている点を指摘した 上で、その要因として米所得等補填直接支払金による効果相殺を挙げた。またそもそも経 営移譲直接支払金の金額が小さく離農のインセンティブにならないとの指摘もある(イ ジョンハンほか、2006: 20)。
おわりに
本稿では、主に 2003 年から 2007 年までの「農家経済調査」のデータを利用して、農家 所得格差が拡大した要因を考究し、以下の点を明らかにした。まず農家の耕作面積の二極 化は、大規模農家が更に大規模になるとともに、中規模農家が小規模化したために生じて いる。そして耕作面積以外の特性の影響を除いても、大規模農家の規模拡大確率が高く、 中規模農家の規模縮小確率が高いことが分かった。大規模農家の規模拡大確率が高い理由 として、営農規模化事業や農業機械購入支援事業等規模拡大のための支援が大規模農家に 集中している点を挙げた。また中規模農家の規模縮小確率が高い理由として、米価下落を 背景に大中規模農家の規模縮小傾向が強まる中、大規模農家は農業機械購入支援事業によ り機械化が進んでいることから規模縮小にはブレーキがかかっている点を示した。また小 規模農家の離農については、離農促進策が講じられたものの、促進策を相殺する政策が存 在すること等により、あまり進んでいない点も指摘した。以上の分析結果を勘案して、本 稿においては、政府の大規模農家育成政策の成功、小規模農家離農促進政策の失敗が稲作 農家の耕地面積二極化をもたらし、それが農業所得、ひいては農家所得の格差拡大につな がったとの結論を示したい。 なお本稿では、大規模農家の規模拡大確率が高い点、大規模農家へ規模拡大に係る支援 が集中している点から、大規模農家の更なる規模拡大傾向は、政府の政策によるものであ ると結論付けた。3 ha 以上の大規模農家の多くは営農規模化事業等政府の支援を受けてい る点29)、一度支援を受けた農家は何度も支援を受け規模を拡大を続けていく傾向にある点30) を考慮すると、この結論は妥当であると考える。しかし政府の支援がない場合、大規模農 家は規模拡大を行わなかったのか否かとの点については確証はなく、大規模農家は元々規 模拡大への意思が強い農家であるとの推論も可能である。政府の支援が大規模農家の規模拡大を後押ししたとの点を明確にするためには、現地ヒアリング調査等によりその因果関 係を裏付けることが必要であり、これが本稿に残された課題である。 また本稿では、経営主の年齢が若い場合は規模拡大確率が高い点など、大規模農家育成 政策によるものではない要因も、農家の規模拡大には影響していることを明らかにした。 よって若年層の農業への参入や若年後継者の確保が進み、経営主の若返りが進めば、中小 規模の農家が規模を拡大することも可能となる。本稿では耕作面積二極化が大規模農家育 成政策によりもたらされたとの点に焦点を当てたが、経営主の年齢が若いといった規模拡 大する農家に共通する特性に焦点を当てることも重要である。そしてこのような特性を農 家全体が有するよう促す政策を講ずることが、大規模農家育成政策の副作用である耕作面 積二極化、ひいては所得二極化を緩和することとなろう。 (注) 1) 例えば、兪京濬・金大逸(2002)、ヒョンジンコン・イムビョンイン(2004)を挙げることができる。 2) 単身農家世帯は除かれている。 3) 韓国では大きく市部と郡部に分けることができる。郡部は行政単位の郡地域であり、更に下には邑面 が存在する。また市部は主に市地域であり、下には洞が存在する。 4) 兪京濬(2007: 24)及び「農業総調査」の結果を参考として算出した数字である。 5) Shorrocks(1982)。なお実際の方法については西崎・山田・安藤(1998)が詳しい。 6) 「農家経済調査」の個票データを利用した。なお以下の分析でも特筆しない限り同様である。 7) 2003 年から 2007 年までの 5 年間の数値の平均値である。 8) 米穀 ( 稲作農家 )、果樹類(果樹農家)、野菜類(野菜農家)、特用作物(特用農家)、花卉(花卉農家)、 麦類・雑穀・豆類・芋類(畑作農家)、畜産(畜産農家)、その他(その他農家)の農作物のうち、最も 収入額の大きいもので分類している。 9) その他を見ると、果樹農家 11.2%、野菜農家 27.3%、特作農家 1.3%、花卉農家 0.8%、畑作農家 5.4%、 畜産農家 8.4%、その他農家 0.3% の寄与率であった。 10) 1 ha 及び 3 ha の生産費はキムホンサン・イヒョンスン(2000: 26)の図 1 から筆者が判断した。 11) ただしサンプル農家の欠落にともない新しいサンプルが追加されるので、サンプル農家が 5 年間全く 同じというわけではない。 12) キムビョンテク・キムジョンホ(2005: 529)は、「1990 年以後から現在まで継続して 0.5 ha 未満の小農 階層と 3 ha 以上の大農階層が相対的に増加して、中農階層が減少する典型的な両極化現象が現れた」と している。 13) ダミー変数は以下の特性を有する農家を 1、それ以外を 0 としている。(1)耕作面積ダミー:① 0.5 ha 以下、② 0.5 ha 以上 1 ha 未満、③ 1 ha 以上 2 ha 未満、④ 2 ha 以上 3 ha 未満、⑤ 3 ha 以上 4 ha 未満、⑥ 4 ha 以上 5 ha 未満、⑦ 5 ha 以上、(2)経営主の年齢ダミー:① 49 歳以下、② 50 ∼ 59 歳、③ 60 ∼ 69 歳、 ④ 70 歳以上、(3)地域ダミー:①広域市(ソウル特別市+広域市)、②京畿道、③江原道、④忠清北道、 ⑤忠清南道、⑥全羅北道、⑦全羅南道、⑧慶尚北道、⑨慶尚南道、(なお済州道は稲作農家に係るサンプ ルがないためダミーを設定していない)。また経営主の性別ダミーは女性が 1、男性が 0、経営主の学歴 ダミーは大卒以上が 1、それ以外を 0 とした。さらに賃借面積比率は賃借している耕作地の面積を耕作面 積で除した数値、賃貸面積比率は賃貸に出している農地の面積を耕作面積で除した数値、農外所得比率 は農業外所得を農業所得で除した数値である。なお以上全ては 2003 年時点の数値である。 14) 筒井ほか(2007: 95)には「ロジットモデルの方がプロビットモデルより広く用いられているが、これ はコンピュータ処理上の負荷が低いという、歴史的経緯によるもの思われる。現在のソフトウエアでは ロジットを用いるコンピューティング上の利点はなく、いずれを用いるかは研究者の好みによる」との 記述がある。 15) 他の特性についてはそれぞれの平均値であるとする。 16) ここでの確率は他の特性を平均値であるとした場合、当該特性を有する農家のうち規模を変更するで あろう農家の割合である。 17) キムジョンホほか(2006: 46–48)は「米直接支払制が施行され高齢農家が直接営農しようとの傾向が 始まった」、「高齢経営主が経営移譲直接支払金を受け、田を賃貸に出す時に得る所得より、直接経営し
た時の所得が多い実情で、主な農作業を委託すれば簡単に米農業を経営できる」との指摘をしている。 なお米所得等補填直接支払金の固定的に支払われる部分の前身である、水田農業直接支払金は 2001 年に 導入され、導入後支払単価が大きく高められた。よって固定的に支払われる部分の追加以前にも、この ような傾向が生じていたことも考えられる。 18) うち稲作農家は 10 万戸である。 19) 米専業農とは統計概念である農外所得がない農家ではなく、認定を受けた農家である。 20) 毎年地代相当分を返済する。 21) ただし 3 ha 以上の農家が優先されるとの規定があった。 22) ソンヘアン(2006)が行った、2004 年時点での米専業農に対するアンケート調査の結果(標本数 = 744)。なお「支援前」とは米専業農の認定が始まる 1994–95 年、「支援後」とは 2004 年としている。 23) 1995 年から 2007 年の 13 年間に認定された 99,687 戸。 24) 2 ∼ 3 ha については 40.5%、1 ∼ 2 ha については 11.9% である(1000 人単位で米専業農数を全農家数で 除した値)。 25) キムビョンテク・キムジョンホ(2005: 542–543)を参考にした。なおこの傾向は日本でも確認できる。 農林水産省が 2008 年に公表した「平成 19 年度食料・農業・農村の動向、平成 20 年度食料・農業・農村 施策」によれば、単位面積当たりの販売額が低迷すると規模縮小確率が高まるとしているが、0.5 ha 未満、 0.5 ∼ 1 ha、1 ∼ 3 ha と上昇幅が高まっていき、それ以上は上昇幅が若干小さくなるとの点を定量的な分析 により明らかにしている。 26) 政府は格差拡大を防ぐために高齢農家離農促進策を行ったわけではなく、離農した高齢農家の農地を 大規模農家にシフトさせるという農地流動化政策の一環として行った。 27) ここでの高齢農家とは経営主が 63 歳から 72 歳までの農家である(2008 年まで)。 28) 「農家経済調査」で 2003 年から 2007 年の間にサンプルから脱落した農家数を離農農家、サンプルに追 加された農家を参入農家とした。 29) キムホンサン・イヒョンスン(2000: 25)は、3 ha 以上の農家が 1990 年の 1 万 8 千戸から 99 年には 3 万 2 千戸に、1 万 4 千戸増加した点を指摘した上で、3 ha 以上の米専業農が同じ期間に 1 万 5 千戸増えた ことから、3 ha 以上の農家数の増加はその全てが営農規模化事業の支援を受けた農家であると結論付け た。なお韓国農村公社(2008: 74)でも、1999 年から 2007 年まで 3 ha 以上の農家が 3 万戸増え、3 ha 以 上の米専業農が 3 万 2 千戸増えたとしており、キムホンサン・イヒョンスンの同指摘は直近においても 当てはまる。 30) 深川(2002: 93)においてこの点が詳細に説明されている。また筆者が韓国農村公社(農地銀行事業處 の尹錫煥次長、孫瑛植次長)に 2008 年に行ったヒアリング調査においても、営農規模化事業の支援を一 度だけ受ける農家が少なく、大多数は何度も支援を受ける点を確認した。 (参考文献) 日本語 筒井淳也・平井裕久・秋吉美都・水落正明・坂本和靖・福田亘孝(2007)、『Stata で計量経済学入門』 ミネルヴァ書房。 西崎文平・山田泰・安藤栄裕(1998)、『日本の所得格差―国際比較の視点から』経済企画庁経済 研究所。 原田信行(2007)、「中小企業の景気と景況感」(浅子和美・宮川勉編著『日本の構造変化と景気循環』 東京大学出版会)、276–303 ページ。 深川博史(2002)、『市場開放化の韓国農業』九州大学出版会。 松浦克己・コリン・マッケンジー(2008)、『ミクロ計量経済学』東洋経済新報社。 英語
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韓国語
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