総 説
REVIEW ARTICLE
フェムトセカンドレーザー白内障手術
平沢 学
1,2,ビッセン宮島 弘子
1 1東京歯科大学水道橋病院 眼科 2慶應義塾大学 医学部 眼科学教室 (平成26 年 11 月 29 日受理,平成 27 年 1 月 14 日掲載決定)Femtosecond Laser-assisted Cataract Surgery
Manabu Hirasawa
1,2, Hiroko Bissen-Miyajima
11
Tokyo Dental College Suidobashi Hospital Ophthalmology
2Department of Ophthalmology, Keio University School of Medicine
(Received November 29, 2014, Accepted January 14, 2015)
要 旨 近年の眼科臨床にとって,レーザー手術は欠かせないものとなっている.フェムトセカンドレーザーを用いた手術 は,精確な前眼部画像解析技術の進歩により,角膜屈折矯正手術のみならず白内障手術にまで臨床応用が可能となった. この技術は先進国で普及しつつあり,既に30 万例以上の治療実績がある.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障 手術は高い再現性を持った角膜切開と水晶体前嚢切開が可能となっており,多焦点眼内レンズをはじめとするプレミ アム眼内レンズにおいて,その有用性が活かされると考えられている.今後技術的および経済的な課題がクリアでき れば,わが国でも更に普及していくものと予想されている. キーワード:フェムトセカンドレーザー,白内障手術,プレミアム眼内レンズ Abstract
Laser surgery has become essential for recent clinical ophthalmic practice. Based on technological developments of precise image analyses, clinical application of femtosecond laser technology has expanded from corneal refractive surgery to cataract surgery. This technology is becoming popular in developed countries, where already over 300,000 therapeutic cases have been performed, including Japan.
Cataract surgery using the femtosecond laser has allowed corneal and lens anterior capsule incisions with high reproducibility. The effectiveness of the technology is thought to be exhibited in premium intraocular lenses, including multifocal and/or toric intraocular lens.
Key words:femtosecond laser, cataract surgery, premium intraocular lens (IOL)
〒101− 0061 東京都千代田区三崎町 2 −9 −18 TEL: 03 −3262 −3421, FAX: 03 −5275 −1856
(2 − 9 −18 Misaki-cho, Chiyoda-ku, Tokyo 101 − 0061, Japan) Corresponding author: [email protected](ビッセン宮島弘子)
1. はじめに 白内障は水晶体の混濁によって視機能が障害される 眼疾患である.白内障治療の本質は混濁した水晶体の 摘出であり,古くはハンムラビ法典にもその記載がある Couching(水晶体を硝子体腔内に突き落とす)からはじ まる,いわゆる開眼手術であった.やがて,時代ととも に感染症対策が進み,切開創を広げ水晶体を眼外に摘出 する手術が行われるようになった(水晶体摘出術).第 二次世界大戦の時期に,戦闘機の風防ガラスが眼内に刺 さった事故にヒントを得て開発がはじまった,眼内にレ ンズを挿入することで術後屈折を矯正する技術(眼内レ ンズ挿入術)の発展に伴い,白内障手術は単に透明性の 回復に留まらず,屈折矯正を同時に行い術後視機能を向 上させるという目的も加わることになった.手術顕微鏡 と超音波機器の進歩,小切開創から挿入可能な眼内レン ズの登場により,現在では白内障手術は非常に安全で再 現性の高い手術の一つとなり,近年我が国では年間100 万件近くの手術が行われるまでに至っている.また切開 創が小さくなり,切開創の縫合を必要としない手技が確 立されたことで,手術により惹起される角膜乱視が再現 性を持ち,予想が可能になったことから,乱視矯正眼内 レンズ(トーリック眼内レンズ)や,焦点を複数箇所に 持つ多焦点眼内レンズといった,いわゆるプレミアム眼 内レンズも急速に普及しつつある. 超音波装置による水晶体の乳化吸引と無縫合小切開か らの眼内レンズ挿入による現在の白内障手術(水晶体再 建術)は非常に高い再現性と良好な術後成績を可能とし ており,極めて完成度の高い手術と考えられるが,さら なる安全性の向上および良質な術後視機能を得るため に,安定して高い精度と再現性が期待できる手術手技の 開発が検討されている.その試みの一つとして,フェム トセカンドレーザーを用いた白内障手術(以下,『フェ ムトセカンドレーザー白内障手術』)があり,本稿では その詳細について紹介していく. 2014 年 11 月現在においては,日本国内で医療機器と して承認されている機器はLenSx®(Alcon 社)のみで, 他社のレーザー機器を含めても,フェムトセカンドレー ザーを導入している施設は現段階では20 施設弱にとど まり決して多くはないが,欧米をはじめとする諸外国で はこの技術は着実に普及しつつあり,既に30 万例以上 の治療実績がある.さらなる技術的および経済的な課題 がクリアできれば,わが国でも今後普及していくものと 予想される. 2. 治療用レーザーの眼科手術への応用と フェムトセカンドレーザーの原理 治療用レーザーの眼科への応用は,1970 年代からの 網膜光凝固術にはじまり,その後1980 年代にはエキシ マレーザーによる治療的角膜切除やPRK による屈折矯 正手術が行われるようになった.さらに1990 年代には LASIK が普及され,日本でも 2000 年代初頭から広く行 われるようになり,近年ではLASIK における角膜フラ ップ作製にフェムトセカンドレーザーが用いられるよう になった.そして2010 年代に入り,本稿で述べるフェ ムトセカンドレーザー白内障が始まるに至り,治療用 レーザーは眼科臨床にとってもはや不可欠となってい る.眼科で用いられるレーザーは大きく分けて3 つの 原理,すなわち①光凝固(photocoagulation),②光切断 (photodisruption),③光切除(photoablation)のいずれかを 利用している(Table 1)1).それぞれの原理について簡単 に述べる. ①光凝固の原理は,レーザー光を組織に吸収させ,発生 する熱によって組織を凝固させるというものであり,ア ルゴンレーザー,クリプトンレーザーともに500 nm 前 後の可視光を用いている.眼科臨床では網膜光凝固など に用いられている. ②光切断の原理は,レーザーを集光・照射して集光点に プラズマを発生させ,その衝撃波による破壊作用で組織 を切断するものであり,Nd:YAG レーザーは 1064 nm の 波長である.眼科臨床では主に後発白内障切開に用いら れている. ③光切除の原理は,紫外光を組織に吸収させ,タンパク 質の分子間結合を解離させて除去するものである.眼科 臨床では主にエキシマレーザー屈折矯正手術に用いられ ている. レーザー光を組織に吸収させ、発生 する熱によって凝固効果をもたらす 原理 主な用途 網膜光凝固 後嚢切開術 フェムトセカンド レーザー エキシマレーザー 角膜切除術など ① 光凝固 (Photocoagulation) ② 光切断 (Photodisruption) ③ 光切除 (Photoablation) 集光点にプラズマを発生させ、衝撃波 による破壊作用で組織を切断する 紫外光を組織に吸収させ、タンパク質 の分子間結合を解離させ除去する ① ② ② ③
Table1 Principles of ophthalmic laser and their purpose. Femtosecond laser works on the principle of photodisruption, a concept well known by ophthalmologists when applying capsulotomy by Nd: YAG laser. フェムトセカンドレーザー白内障手術で用いるレーザ ーは上記のうち,光切断の原理を用いている.フェムト セカンドレーザーは,フェムト秒(1 フェムト秒は 10−15秒 =1000 兆分の 1 秒)単位の超短パルスの赤外線レーザー 光を連続照射することで,照射部位を光切断する2).レ ーザーの強度はI(レーザー強度) = E(パルスエネルギー) / S (ビームスポットの面積)T(レーザパルスの時間幅)の 数式で表す事が出来るが,パルス時間が超短時間である フェムトセカンドレーザーでは高出力が得られる.狭い 領域に高出力レーザーを照射すると,ほとんどの物質は 蒸散する.照射部位を連続照射し,走査することによっ て,組織を任意の形状に切断できるため,フェムトセカ ンドレーザーの技術は機械の微細加工や穿孔,切削の有 力な道具に用いられ,やがて眼科においては高い精度が 要求される屈折矯正手術,そして白内障手術に応用され
が不可欠である.2014 年現在,フェムトセカンドレー
ザー機器は5 社より LenSx® (Alcon 社),Catalys® (Abbott
社),Victus (Baush + Lomb 社),LENSAR™(LENSAR 社), FEMTO LDV Z8 (Ziemer 社)が発表されており,それぞ れの特徴も交えて以下で述べる(Table 2). 2.1 眼球とレーザー装置を確実に固定する フェムトセカンドレーザー照射の際には,各社とも Patient Interface(PI)と呼ばれる器具を用いて,眼球を固 定しつつ測定および照射を行っている.PI は器具が角 膜に直接触れるかどうかで接触式と非接触式(浸水式) の2 種類に分けられる(Fig.3). LenSx®やVictus のように,接眼部が直接角膜に触れ, 吸引固定する接触式のPI でのガラス面は,laser in situ keratomileusis(LASIK)におけるコーンのように水平では るに至った.フェムトセカンドレーザーによる前嚢切開 縁は,切手のミシン目のような形状となっており,水平 方向だけでなく,垂直方向にも照射され,ミシン目に沿 って組織が切断される形となるのが特徴である(Fig.1 矢 印部). 白内障手術手技の中では,フェムトセカンドレーザ ーによって前嚢切開,水晶体分割,角膜切開が可能と なっている(Fig.2).眼球組織へ正確にレーザー照射を 行うためには,①眼球とレーザー装置を確実に固定す る,②正確に眼を測定し,照射位置を定める,③目的の 組織をレーザー照射切開する,という3 つのプロセス
Fig.1 Capsular edge created by photodisruption of femtosecond laser. Capsular edges created by photodisruption of femtosecond laser (left, arrow) are similar to postal stamp margins (right).
Fig.2 Femtosecond laser in cataract surgery. Femtosecond laser is used in three aspects of cataract surgery; anterior capsulotomy (left), lens fragmentation (center), and clear corneal incision (right).
Fig.3 Patient Interface (PI). Patient Interface can be classified into two main types based on whether the intruments directly contact the patient’s cornea. These illustrations depict the contact type (left) and non-contact type (right). 前嚢切開 水晶体分割 角膜切開 機器 接触式 瞳孔縁 輪部 一部あり 浸水式 瞳孔 輪部 水晶体 あり 接触式 あり 非公開 非公開 浸水式 不明 マルチ マルチ 不明 浸水式 不明 単一 不明 分類 測定 中心 補正 傾き 補正
Parts Curved PISoftFit
OCT OCT OCT confocal OCT
Curved PI
LenSx Catalys Victus LENSAR FEMTO
LDV Z8
Table 2 Femtosecond laser machines. Several companies have produced femtosecond laser machines incorporating their own anterior eye segment analyzer and correction programs of laser and/ or dislocation.
なく,角膜曲率に近いカーブがついている.LenSx®で はさらに角膜とPI との間に SoftFit™ と呼ばれるソフト コンタクトレンズを用いることで,眼球の形態を大きく 変形させずに前眼部の解析が可能となっている(Fig.4). 接触式の利点としては確実に眼球固定ができることと, 特にLenSx®はPI がシングルパーツであるためにセッ ティングが簡便であることが挙げられる.また眼球が確 実に固定されるため,眼球の動きに伴って照射位置を調 整する追従機能が必要なく,予定位置とずれたところに 誤照射することがないという利点が挙げられる.初期タ イプの接触式PI の欠点として,接触が不均一となった 場合に,角膜に皺ができる,或いは接眼部と角膜の間 に空気が入ることで測定/ 照射のエラーを起こし,前嚢 切開不全などの照射不良を生じる事があった.その後 SoftFit™ が開発され,機器と角膜との接触によるひずみ が抑えられることによってそれらの合併症は著明に減少 し,より精確な前眼部解析/ 切開が可能となった.
Fig.4 Patient Interface (PI) of LenSx®. Femtosecond laser
instrument, LenSx®, is a contact type PI. Using a
unique contact lens, SoftFit, the corneal fold was decreased, and the accuracy of measurement and laser shot were dramatically increased.
Fig.5 Determining the center of the capsulotomy and lens fragmentation. Tilt and/or decentration of the lens affects insufficiency of the capsulotomy and/or the safety of the posterior capsule.
一方,Catalys®をはじめとする非接触式のPI は眼球 を浸水させ,測定機器と眼球の間にノイズをなくすこと で,鮮明な画像が得られ,眼球の変形を最小限に抑えら れるのが特徴である.また吸引圧が少なく眼球への侵襲 も少ないという利点も挙げられる.一方で,固定が安定 しないためのレーザーのミスショットが懸念され3),今 後改良を要する必要がある. PI の課題点は,眼球を固定する必要があるために, どうしてもある程度の大きさが必要となることである. LenSx®のPI の外周直径は 19.8 mm であり,瞼裂が小さ いアジア人の眼にある程度は対応しているものの,高齢 者や瞼裂が小さい症例では装着が困難で,外嘴切開を併 用する症例が稀にある2).PI のドッキングはその後の 手術の合併症にも直結するため,小型化かつ安全・正確 に固定できるPI の開発が強く望まれる.Catalys®では ゴールドマン3面鏡との対比 PI に装着する SoftFit™ SoftFit™使用前の角膜像 SoftFit™使用時の角膜像 小児用のPI が既に製作されているが,PI が小さくなる と今度は角膜切開が困難になるというジレンマを抱える ことになるため,単に小型化というだけではなく,良好 なドッキングと効率性も今後の課題であろう. 2.2 正確に眼を測定し,照射位置を定める レーザーによる正確な組織切開のためには,精密な前 眼部解析が必須である.前眼部解析のスキャン幅(深度) は解析部位が角膜だけで済むLASIK でのフラップ作製 における1 mm に比べて,白内障手術では角膜から水晶 体後嚢までの解析が十分に行うために8.5 mm となって いる.各社のレーザー機器は独自設計のOCT もしくは コンフォーカル像による画像解析を行っており,筆者ら の施設にて用いているLenSx®では,Circle Scan と Line
Scan を組み合わせた三次元解析を行っている. 注意点として,中心ずれや傾きはレーザー照射が全周 に到達せず前嚢切開不全や照射予定位置より深くなって 後嚢に影響を及ぼす可能性があり,明らかな傾きを認め る時にはPI を接着し直す必要がある(Fig.5).LenSx®の 場合では,中心ずれを修正するために,瞳孔縁をもとに 切開中心を自動的に修正するプログラムを採用してい る.また,Catalys®では瞳孔,輪部,水晶体全体それぞ れで中心を求める独自プログラムがあり,術者がそれら からの結果を選択できるようになっている. 2.3 目的の組織をレーザー照射切開する フェムトセカンドレーザー機器では,前嚢,水晶体内, および角膜への照射が可能となっている.水晶体分割は, 直線あるいはリング状,両者を合わせたものに加え,プロ グラムのアップデートによってグリッド状照射が可能にな っている.各社レーザー機器において様々な照射パターン が模索されて,超音波時間の更なる短縮が期待されている. 技術的にはLASIK フラップ作製も既に可能であり,将来 には角膜移植片作製も可能となる見通しである. 以下に実際の手術手順を記す. 3. フェムトセカンドレーザー白内障手術の実際 フェムトセカンドレーザー白内障手術では従来の白内 障手術操作と順番が若干異なる.従来のマニュアル白内 障手術では①まず角膜切開創を作製し,②チストトーム
もしくは鑷子を用いて,CCC と呼ばれる円周状前嚢切開 を行う.③次に水晶体嚢と核および皮質を分離するため にhydrodisection および hydrodeliniation と呼ばれる操作を 行い,水流で水晶体核・皮質および水晶体嚢を分層する. ④その後,超音波装置を用いて水晶体を分割しつつ破砕 吸引を行う,というのが主な流れである.一方,フェムト セカンドレーザー白内障手術においては,①まずPI を眼 球にドッキングさせ,前眼部測定を行った後,前嚢切開・ 水晶体分割・角膜切開を施行する.LenSx® での場合,レ ーザー照射は約30 秒である.②次に,角膜切開創(主切開, サイドポート)をスパーテルにて完全に剥離し,③前房内 に入って水晶体前嚢が全周切開されていることを確認後, hydrodisection および hydrodeliniation を施行する.この際, 嚢内にレーザー照射による気泡が貯留していると,注入さ れた水圧で後嚢破損につながる危険性があるため留意す る4).④次いで水晶体吸引を超音波装置で行う.既に核 分割されている場合には,核処理は従来の白内障手術に 比べて容易となる.皮質吸引,眼内レンズ挿入は一般的な 白内障手術と同様に行う. 現時点では超音波乳化吸引装置はフェムトセカンドレー ザー機器と一体化していないため,①の操作と②の操作 の間には患者ベッドの移動が含まれる.海外では,効率性 の観点から,①の操作のみを別の場所でたて続けに行っ たのちに②以降を別室にて通常の白内障と同じく清潔操作 で行う傾向があるが(レーザー照射だけを手術室と別の部 屋にて流れ作業で行った方が手術時間の短縮につながり 効率的),当施設ではレーザー照射と白内障手術を同一術 者が行い,後述するようにレーザー機器管理の観点もあり, 同じ部屋で一人ずつ順序だてて,全て清潔操作にて手術 を遂行している. 4. フェムトセカンドレーザー白内障の利点と合併症 4.1 前嚢切開・眼内レンズ位置 フェムトセカンドレーザー白内障手術の臨床成績につ いて,現時点で証明されている大きな利点は,水晶体前 嚢切開が設定した場所に再現性をもって正確な大きさで 作製できることである5).マニュアル白内障手術では技 術に熟練した術者であっても,正円に切開しIOL の辺 縁を均等にカバーすることは困難である.正円で偏心が 少ない前嚢切開は,乱視矯正機能や多焦点機能を付加さ れた次世代IOL(プレミアム IOL)の利点をより発揮でき るであろう.一方,レーザー切開による前嚢切開縁につ いては,その強度について議論がなされており,従来の マニュアル手術での前嚢切開(CCC)に比べて強度がよ り強いとするもの6)から弱くなる7)とするものまで様々 である.ただし,強度が低下するという論文でも,レー ザー切開によるものは強度のバラつきが少なくなるとし ており,マニュアル切開の不安定さという課題について は克服されているものと考えられる. 4.2 核分割破砕・超音波エネルギー フェムトセカンドレーザー白内障手術では核破砕をあ る程度行った状態から水晶体を吸引するので,従来のマ ニュアル手術に比べて超音波時間が短縮され,累積エネ ルギーを削減できる8,9).それらによって内皮細胞の減 少率の低下につながることが予想され,より安全な手術 が期待されている.今後,水晶体内照射パターンや超音 波チップの形状をレーザー白内障手術用に改良すること で,さらに核の吸引効率をあげ,多くの症例で超音波を 用いず安全に手術することを目標としている.核分割の パターンは従来の4分割だけでなく,様々なパターンが 考案されている(Fig.6).筆者らの施設では,グリッド パターン照射によって水晶体核を分割している.LenSx® ではさらに水平方向の照射を加えることができるので, さいの目切りのようなカットが可能であったが,生じた bubble のために水晶体後嚢側が見えなくなり,安全に手 術を遂行するために却って支障が生じたために,現在で は水平方向の分割は行わず,フライドポテト様に水晶体 核を分割している.レーザー照射パターンは,より安全・ 効率的に手術を行うためにはまだ改良の余地があると思 われる. 4.3 角膜切開 フェムトセカンドレーザーの利点として,正確な角膜 切開が作製できるということが挙げられる.症例によっ て角膜の厚さや眼球の大きさが異なるために,従来のマ ニュアル手術では画一的な切開は極めて困難であった. 前眼部画像解析装置を用いた検討では,狙い通りの角膜 三面切開ができた症例は,従来のマニュアル手術では 20%弱にとどまったのに対して,フェムトセカンドレー ザー白内障手術においては殆どの症例にて三面切開形 成がなされていた10).また,その精確な照射を活かし, 白内障手術と同時に,正確な角膜減張切開による乱視矯 正(Arcuate Incision)を行う事が可能であり,乱視矯正の トーリック眼内レンズが挿入困難となる症例でも使用可 能となるケースが出てくるものと期待される.ただし, 課題点としては,レーザーで切開できるのは透明角膜で あり,角膜混濁や老人環と呼ばれる,加齢にともない角 膜周辺部に発生するコレステロール沈着による白濁が強 い症例では角膜切開が時に困難となることがある.現在
Fig.6 Various patterns of lens fragmentation. To provide ease and safety of cataract surgery, the femtosecond laser can make various fragmentation patterns that are impossible to produce manually.
でもそうした症例の場合には透明角膜を照射するために 切開を角膜中心部にずらすことがあるが,その場合水晶 体皮質の吸引がやや困難となるため,今後はそういった 混濁にも対応できるレーザーの開発が望まれる. また,現時点でも技術的にはLASIK のフラップも作 製可能であり,理論的には白内障手術と同時に角膜屈折 矯正も可能となる.さらに,今後は角膜移植片作製も可 能となるなど,単に白内障手術のみにとどまらず眼科手 術への更なる汎用性が期待される. 4.4 視力予後 これまでの白内障手術はほぼ完成の域にあり,フェム トセカンドレーザー白内障手術が従来の白内障手術より も優れた術後視力成績を示したとする論文は出ていない が4,11),従来法に劣らぬ手術成績を残している証拠とも いえる.今後,フェムトセカンドレーザーを用いた新し い切開創作成や,眼内レンズ技術の発展によって,異な る結果が生まれる可能性があり,注目していきたい. 4.5 合併症について フェムトセカンドレーザー白内障手術における合併症 の多くは,PI をセッティングする際の眼球の傾きや,吸 引が不十分に行われていた事に起因する.眼位が傾いて いると,レーザー照射が不均一となり切開不良箇所がで きることがある.初期のレーザーでは,前嚢切開縁がと ころどころミシン目のように切れ残っている場合があり,
Anterior Capsular Tag と呼ばれていた12).SoftFit™ をはじ
めとするインターフェイスや機器の改良により,現在で はほぼ全例で完全な前嚢切開が可能となっている. フェムトセカンドレーザー核分割は後嚢から十分な距 離をおいて行っているので,レーザーそのものによる後 嚢への誤照射・破損というよりは,核破砕に生じた気泡 が行き場を失って後嚢に回り,次の操作の際に後嚢破損 を生じる可能性のほうが高い4).そこで,予めプレチョ ッパーなどで,核を分割する際に前房側に気泡を逃す, 前嚢切開時に勢いよく大量に水を入れないなどの工夫に て合併症を減らすことができる. 海外の同一施設で実施したフェムト秒白内障手術の合 併症報告では,初めの200 症例に比べて,後の 1300 症 例のほうが明らかにレーザーに関連する周術期合併症が 減少しており13),PI 設定の習熟がラーニングカーブの 向上につながると考えられる. 4.6 その他 後発白内障は白内障術後合併症のうち,視力低下を来 す原因のひとつである. 水晶体前嚢でIOL を完全に Overlap させることで後 発白内障の発生を抑制することが知られている14).ま た,近年は収差を減らすために非球面眼内レンズを採用 する術者が増えているが,非球面レンズの場合,中心ず れを生じると,球面レンズよりも却って収差が増えてし まう事が知られている.IOL を全周で覆い,かつ中心ず れの少ない前嚢切開が求められているといえよう.フェ ムトセカンドレーザーをもちいた前嚢切開に関する報 告では,術後の IOL の傾きと中心ずれ,そして PCO は Manual CCC group に比べて有意に少ない結果が得られ ており15),術者の望む前嚢切開を作製できるメリット は大きい. 5. フェムトセカンドレーザー白内障手術の今後の 展開について フェムトセカンドレーザー白内障手術の最大の意義 は,術者の習熟性に頼らず,高い再現性と切開の精確性 をもって手術を簡易化させることである.初期段階は, 前嚢切開や水晶体分割などで課題が残されていたが,技 術の進歩によって合併症は著明に減少し,現在では非常 に安定した切開が得られるようになった.のみならず, レーザーならではの,マニュアルで作製不可能な切開パ ターンも生み出されるようになったことで,新たな局面 を迎えつつあるといえる. 現段階での課題としては,水晶体吸引に伴う超音波エ ネルギーをさらに減らし,角膜にとってより侵襲の少な い手術とするためにはより効率的かつ安全な核分割のパ ターンが必須であり,フェムトセカンドレーザー手技に 伴う合併症を減らすためには,低侵襲かつ確実な眼球固 定(より扱いが容易なPI)と,レーザー照射時間の短縮 化が必須であろう.そして超音波装置との一体化や操作 の簡易化といった面で術者の操作ストレスと患者への負 担を減らし,機器コストのさらなる削減を行う事で患者 と医療機関の双方にとっての経済的な負担を減らすこと が望まれる. 長 期 的 な 課 題 と し て は, 現 在 の 水 晶 体 再 建 術 (PEA+IOL)をいかにして乗り越えていくかという点が 挙げられる.現在の水晶体再建術は技術的にはほぼ完成 された術式であり,現時点ではフェムトセカンドレーザ ー白内障が明らかに優っている点は前嚢切開と角膜切開 の精確性の二点であり,一般眼科医がすぐにでも飛びつ くといったほどの大きなメリットは残念ながらまだ認め ていない.すなわち,フェムトセカンドレーザー白内障 手術が今後発展していくためには現在のマニュアルでの 手術を上回る大きなメリットをもたらす必要がある. 眼科に限らず外科手術の進歩は手術低侵襲・小切開 の流れの一途を辿っており,単にLess-phaco あるいは Less-Stress というだけでなく,視力や視機能といった, 医師・患者ともにとってより分かりやすいアウトカムを もたらす必要性がある.あくまでも一例であるが,精確 な切開形成を活かし,小前嚢切開孔から分割乳化された 水晶体を吸引し,ある程度の弾性と屈折率を持ち,屈折 と老視矯正の両者を可能にできる生体内で非常に安定し た物質を水晶体嚢内にRefilling する,といったような, 今後の新たな眼内レンズ開発の糸口となる可能性も考え られ,新技術の組み合わせ如何によっては,フェムトセ カンドレーザーは白内障手術の主流となる無限の可能性 を秘めていると言えよう. 利益相反の開示 利益相反なし
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−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 著者紹介 平沢 学(Manabu Hirasawa) 2000 年慶應義塾大学医学部卒業,2001 年慶應義塾大学医学部眼科学教室入 局,2005 年独立行政法人国立病院機構 埼玉病院眼科医長,2009 年 横浜市立 市民病院,2011 年 東京歯科大学水道 橋病院助教 現在に至る.専門分野:眼 科一般、網膜基礎研究.所属学会:日 本眼科学会,日本眼科医会,日本白内障屈折矯正手術 学会,日本眼科手術学会,日本コンタクトレンズ学会,
European Society of Cataract and Refractive Surgery, The Association for Research in Vision and Ophthalmology.
ビ ッ セ ン 宮 島 弘 子(Hiroko Bissen-Miyajima) 1981 年慶應義塾大学医学部卒業,1981 年慶應義塾大学医学部眼科学教室入 局,1984 年ドイツボン大学助手,1989 年 東 京 歯 科 大 学 市川総合病院講師, 2003 年東京歯科大学水道橋病院教授 現 在に至る.専門分野:眼科学 主に白内障,屈折矯正手 術分野.所属学会:日本白内障屈折矯正手術学会理事 長,日本眼科手術学会理事,日本眼科学会,日本眼科 医 会,American Association of Ophthalmology, American Society of Cataract and Refractive Surgery, European Society of Cataract and Refractive Surgery, Association for Research in Vision and Ophthalmology, International Society of Refractive Surgery of the American. Academy of Ophthalmology.