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分類収縮期血圧拡張期血圧正常域血 神戸国際大学紀要 第 89 号変更されていく Ⅱ 度以上の高血圧の場合 初期から併用療法を用いるケースがある 2,3) ( 表 薬物療法において併用療法とは 相加相乗効果の強化や副作用の軽減 耐性防止の目的で2 種類以上の投薬が行われることである 理学療法などの薬物

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安全なリハビリテーションを降圧剤の知識から考える。

Ⅰ.はじめに

 わが国の国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本的な方針である健康日本21(第二次) においては、栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒などの生活習慣や社会環境対策の改善 を行うことでの健康寿命の延伸、健康格差の縮小などが目的されている。血圧に関しては収縮期 血圧の現状(男性平均138mmHg、同女性133mmHg)を平成34年には、男女とも平均値を4mmHg 低下させると具体的に目標値を掲げている。1)  本邦の平成22年度の死亡原因の第1位は悪性新生物(29.5%)、第2位と第3位が心疾患(15.8%) と脳血管障害(10.3%)である。このことは基礎に高血圧をもつ心疾患(冠動脈疾患、心不全、心 肥大)と脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)が死亡原因の大部分を占めていること示して いる。2010年度の国民健康・栄養調査によると30歳以上の日本人男性の60%、同じく女性の45% が高血圧と診断されている。全体での高血圧人口は約4300万人と推定され、高血圧性疾患の外来 患者数は約900万人である。1,2)  そのことは、理学療法士が治療の対象とする患者の多くにも、直接のリハビリテーションのた めの治療診断名の疾患以外に高血圧を既往にもつケースは少なくないと推察できる。

 高血圧症とは、収縮期血圧(Systolic blood pressure 以下、SBP)が140mmHg 以上、拡張期 血圧(Diastolic blood pressure 以下、DBP)が90mmHg 以上であることで投薬などの治療対象 となり、さら高血圧以外のさまざま危険因子や高血圧性臓器障害の有無によってリスクが階層化 されている。

 基本的な治療方針には、生活の質(Quality of life、以下 QOL)を維持することを目標とし、 生活習慣の修正(第一段階)、降圧薬治療(第二段階)とがある。降圧の目標は前述の140/90mmaHg 未満であるが糖尿病、蛋白尿陽性の慢性腎疾患(Chronic kidney disease、以下 CKD)の場合は、 130/80mmHg 未満が目標値となる。高齢者の場合は150/90mmHg 未満と若干、目標値が緩和さ れている。妊婦などでは更に厳密に設定されている。2,3)  生活習慣に関する治療的な指導は、治療対象者やその家族に対しても同時に行われることが望 ましいとされ、医師のほか、理学療法士、看護師、管理栄養士なのによって適切な運動習慣と生 活習慣、減塩などを中心とした食事指導などが行われる。  薬物療法は1日1回の低用量の投与から開始され、効果の発現、副作用の回避にあわせて適宜、 1)神戸国際大学 リハビリテーション学部 理学療法学科

安全なリハビリテーションを降圧薬の知識から考える

南 場 芳 文

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  奥 宮 明 子

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小 林 俊 博

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  友 枝 美 樹

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武 政 誠 一

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  宮 本 重 範

1)

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『神戸国際大学紀要』第89号 変更されていく。Ⅱ度以上の高血圧の場合、初期から併用療法を用いるケースがある。2,3)(表1)  薬物療法において併用療法とは、相加相乗効果の強化や副作用の軽減、耐性防止の目的で2種 類以上の投薬が行われることである。理学療法などの薬物療法以外の治療法と併用する場合も意 味することがある。  超高齢社会を迎え、理学療法を施行されるケースは高齢者が多く、さまざまな既往症をもつこ とを日常的な臨床で経験する。このようなケースに効果的で、より安全な理学療法を提供するた めのリスクマネージメントは、今後、ますます重要になってくると考える。今回は、理学療法加 療中のケースにて比較的に処方箋に記載されることが多かった降圧薬に注目し、安全なリハビリ テーションの推進のための薬物療法と理学療法の関連性について考察した。表2は2014年度、わ れわれが臨床実習の報告にあった薬物をまとめたものである。その中から降圧薬のみを抜粋し、 今回の考察にもちいた。 表1 成人における血圧値の分類(高血圧治療ガイドライン2014)mmHg 分類 収縮期血圧 拡張期血圧 正常域血圧 至適血圧 <120 かつ <80 正常血圧 <130 かつ <85 正常高値血圧 130 または 85-89 高 血 圧 Ⅰ度 高血圧 140-159 または 90-99 Ⅱ度 高血圧 160-179 または 100-109 Ⅲ度 高血圧 ≧180 または ≧110 (孤立性)収縮期高血圧 ≧140 かつ <90 表2 処方箋に記載の多かった降圧薬の一覧(文献4)より引用および改変) 処方記載 分類 一般名 アダラート® Ca 拮抗薬・ジヒドロピリジン系 ニフェジピン nifedipine アムロジピン® アムロジピンベシル酸塩 amlodipine besilate ニフェジピン® ニフェジピン nifedipine ノルバスク® アムロジピンベシル酸塩 amlodipine besilate ペルジピン® ニカルジピン塩酸塩 nicardipine hydrochloride ディオバン® ARB・アンジオテンシンⅡ受容 体拮抗薬 バルタルサン valsartan ブロプレス® カンデサルタンシレキセチル candesartan cilexetil ミカムロ® ARB・Ca 拮抗薬配合剤 テルミサルタン・アムロジピ ンベシル酸塩配合 Telmisartan-amlodipine besilate combination フロセミド® ループ系利尿薬 フロセミド furosemide ラシックス® メインテート®  β遮断薬・β1選択性ISA(-) ビソプロロールフマル酸塩 bisoprolol fumarate カルビスケン® β遮断薬・β1非選択性ISA(+) ピンドロール pindolol

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安全なリハビリテーションを降圧剤の知識から考える。

Ⅱ.降圧薬から安全なリハビリテーションを考える

 最近の動向として降圧治療薬の第一選択薬が従来5種類とされていたものが、現在は合併症を 有しない高血圧の第一選択薬にはβ遮断薬を含めず、Ca 拮抗薬、ARB、ACE 阻害薬、利尿薬の 4種類となった。2,3)  降圧薬の薬理作用には、①末梢血管の抵抗を軽減するものと②循環血液・心拍出量を減らす大 きく2つのものがある。①の場合には Ca 拮抗薬と RA 系阻害薬、α遮断薬があり、②には利尿 薬やβ遮断薬がある。第一選択薬ではないβ遮断薬が使用されているケースは心疾患をもつこと が多く、同様に第一選択薬以外であるα遮断薬や抗アルドステロン薬や中枢性交感神経抑制薬が 使用されていたり、複数の投薬がある場合には治療抵抗性の高血圧があることを把握しておく必 要がある。さまざまな薬の作用があるが代表的な薬理作用を理解しておくことはより安全に理学 療法をすすめるための第一歩である。2,3)(図1)  今回、われわれが行った研究の結果から理学療法対象者が処方されていた一般名、商品名の114 種類の薬剤名を分類した結果、最も頻度が高かったのは降圧薬と消炎鎮痛薬が11種類ずつで全体 に対しての頻度は各11.4%であった。その降圧薬の中で、最も多く処方薬として記載されていた ものは Ca 拮抗薬であった。その他、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(Angiotensin Ⅱ receptor blocker、以下 ARB)、利尿薬、β遮断薬やそれらの Ca 拮抗薬と ARB の配合薬であった。

Ⅱ-1 Ca 拮抗薬  Ca 拮抗薬は主に血管平滑筋に Ca イオンが流入することを妨げ、血管を拡張させることによる 降圧作用をもたらす。高血圧治療や安静時狭心症発作の予防などにも使用される。2,3,5-7)  Ca 拮抗薬は3種類あり、ジヒドロピリジン(Dihydropyridine、以下 DHP)系とベンゾチア ゼピン(Benzothiazepine、以下 BTZ)系、フェニルアルキルアミン(Phenylalkylamine、以下 PAA)系がある。3,6,9)  DHP 系はニフェジピンやアムロジピンなど一般名の語尾に「~ジピン」がつく薬剤群として知 られている。また、一般に脂溶性が高いため血管平滑筋細胞への広汎に分布するL型 Ca チャン 図1 降圧薬の薬理作用

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『神戸国際大学紀要』第89号 ネルのN(nifedipin)部位に結合し、血管拡張作用、降圧作用は強いが心筋への抗不整脈作用は ほとんど無いとされる。糖・脂質・電解質代謝に影響することも無いため、高齢者への投与も比 較的安全に使用できるとされている。副作用は頻脈、頭痛、顔面紅潮、浮腫、歯肉増生であるが、 投薬中止によって改善する。これらの投薬を受けている症例ではグレープフルーツジュースが効 果を増強してしまうことがあり要注意である。2,3,6-9)  BTZ 系の降圧効果は DHP 系ほど強くないが冠動脈を拡張する作用があり、狭心症治療に用い られやすい。副作用には徐脈、AV ブロック、顔面紅潮、頭痛がある。PAA 系は陰性変力作用と いわれる心臓の収縮抑制作用が比較的強く、上室性頻脈などに効果があり、洞停止、AV ブロッ ク、徐脈などが副作用である。いずれにせよ運動療法開始前、施行中、後の問診やバイタルサイ ンの確認などを行うと良い。それぞれ代表的な薬剤に BTZ 系のジルチアゼム(ヘルベッサー®) や PAA 系のベラパミル(ワソラン®)がある。  一般に Ca 拮抗薬は効果発現が早く、欧米の数々のガイドラインでも第一選択薬になっている。 後述の ARB と比べ、冠攣縮にも有効であることから、Ca 拮抗薬を投与された症例には狭心症の 既往をもっている場合もあると推察され、理学療法士は運動療法前に、狭心症の発作の有無、体 調の問診や狭心症が起きたときの持参頓服薬の確認、主治医などへの連絡手順の把握をしておく。 頻脈などを発見した場合には、副作用を疑い情報を伝え、身体に対する運動負荷の可否や程度を 確認し、同時に経過観察やバイタルサインの変化を記録する必要がある。Ca 拮抗薬の代表的なも のにアムロジピンゼシル(アムロジン®、ノルバスク ®)、ニフェジピン(アダラート ®、セパ ミット®)、アゼルニジピン(カルブロック ®)、ベニジピン(コニール ®)、シルニジピン(アテ レック®)、ジアチアゼム(ヘルベッサー®)、ニカルジピン(ペルジピン ®)、マニジピン(カル スロット®)、ニルバジピン(ニバジール ®)などがある。3,8) Ⅱ-2 ARB  次に処方が多かったものに、バルタル サン(ディオバン®)、カンデサルタンシ レキセチル(ブロプレス®)などの ARB は、近年、わが国での使用は急速に増え てきている。レニン-アンジオテンシン 系(Renin-Angiotensin system、以 下 RA 系)は、肝アンジテオテンシノーゲ ンに腎分泌のレニンが作用する循環 RA 系と組織において起きる組織 RA 系に分 けられる。ARB は AT1受容体を選択的 に阻害することで糸球体内圧低下作用、 インスリン抵抗性改善作用、抗炎症・抗 線維化作用、交感神経抑制作用を示す。 このため腎臓、心臓の臓器合併症例や糖 尿病合併症例の降圧薬として第一選択薬 となる。さらに ARB はキマーゼ系などの アンジオテンシン変換酵素(Angiotensin converting enzyme、 以下 ACE)を介さ

図2 ARB と ACE 阻害薬の作用部位 AT1 受容体:アンジオテンシンⅡ type1 受容体 AT2 受容体:アンジオテンシンⅡ type2 受容体

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安全なリハビリテーションを降圧剤の知識から考える。 ずに産生されたアンジオテンシンⅡに対しても AT1受容体レベルで阻害される。腎糸球体内圧を 低下させることで腎臓の保護作用も発現される。一方、高齢者の体調不良、食欲不振などのシッ クデイの時には注意が必要である。これは摂食や飲水が不足した場合、糸球体内圧の低下、糸球 体ろ過量の低下が発生し、原尿が産生されず急性腎不全を引き起こす場合があるからである。な お、心臓、血管、腎臓などの循環器組織には AT2受容体より AT1受容体が圧倒的に多いことから も ARB はより効果が強く発現されやすい。(図2)病院内での患者の病態の把握は看護師などが 管理しているが、理学療法士が単独で行っている在宅でのリハビリテーション中など、在宅で現 れた乏尿や無尿を発見した場合、生命予後を悪くする場合もあるので直ちに主治医に報告をしな ければならない。2,3,10-14)  ARB の代表的な薬剤には、アジルサルタン(アジルバ®)、テルミサルタン(ミカルディス ®)、 イルベサルタン(イルベルタン®)、バルサルタン(ディオバン ®)、オルメサルタン(オルメテッ ク®)、ロサルタン(ニューロタン ®)、カンデサルタン(ブロプレス ®)などがある。3,8) Ⅱ-3 Ca 拮抗薬と ARB の配合薬  Ca 拮抗薬・ARB 配合薬であるテルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩配合剤(ミカムロ®) があった。配合剤は単剤では降圧目標に達しないときに使用される。このことは使用している患 者はより降圧コントロールが難しいケースとして注意を促すべきである。2,3,7,13,15) Ⅱ-4 利尿薬  利尿薬には代表的なものとしてサイアザイド系利尿薬、ループ系利尿薬、K保持性利尿薬があ る。降圧薬としては一般的にサイザイド系利尿薬が使用されることが多く、腎機能が eGFR30ml/ 分 /1.73m2以上で比較的保たれているものでは、サイアザイド系利尿薬を用いる。これは遠位尿 細管での Na 再吸収を抑制することにより循環血液量を減少し末梢血管抵抗量を低下させる機序 をもつため速効性は強くない利尿薬である。一方、eGFR30ml/ 分 /1.73m2未満では、まずループ 系利尿薬が投与される場合が多い。ループ系利尿薬はヘンレのループ上行脚での NaCl の再吸収 を抑制して利尿効果を発揮させる。サイアザイド系利尿薬に比べ利尿作用は強いが、降圧作用は 弱い。よって、ループ系利尿薬の使用目的が降圧のためなのか、心機能などの不全に対する浮腫 軽減なのか処方の意図を十分に確認しておく必要がある。  K保持性利尿薬とは、血中Kを保持する代表的な利尿薬で、抗アルドステロン薬や Na チャン ネル遮断薬の2種類があるがループ系利尿薬やサイアザイド系利尿薬の副作用である低K血症を 軽減させるために補助薬として併用されることが多い。臨床では心不全治療として利尿薬と強心 薬(ジキタリス薬など)を併用することが多く、低K血症(血清Kが3.5Eq/l 未満)は強心薬の 毒性を強め不整脈の原因となる。また、身体所見として全身倦怠感、さらに血清Kが2.5Eq/l 以 下に低下するとテタニーによる痺れ感、筋肉痛の出現と増強、筋力低下、深部腱反射低下などが あり、この予防が重要とされている。K保持性利尿薬の副作用は高K血症である。2,3,7-9,13-16)  前述は、利尿薬の使用目的が降圧剤である場合の一面だけを考察したが、投薬されている症例 は過剰な体液を対外に排出することを必要としており、理学療法士が所見を評価できるものに下 腿や足部、手指の浮腫や腫脹、眼瞼や顔面の浮腫、頚動脈の怒張がある。それらは左心不全、右 心不全、肝不全、腎不全が予測できるが、糖尿病を基礎に持つ場合があることも念頭におく必要 がある。よって、運動療法の前中後のバイタルサインのモニターや四股の周径の測定を行い、心 不全の程度や浮腫の変化、臓器機能障害による易疲労性、体力低下に対して事前の身体評価や問

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『神戸国際大学紀要』第89号

診、検査値の確認、医師、看護師、薬剤師などと情報交換を行い、より安全な理学療法の施行を 促す。

 なお、eGFR Estimated glomerular filtration rate とは、推算糸球体ろ過値という腎にある糸 球体のろ過機能を正確に測定するため血清クレアチニン値と性別、年齢から算出し老廃物の排出 能力を評価する腎機能の重要な検査である。この値が低いほど、腎機能が低下していることを示 し、腎機能の高低で処方の際に注意を要する投薬の可否を決めるための指標になる。2,17)  降圧目的の代表的なループ系利尿薬にはフロセミド(ラシックス®)、アゾセミド(ダイアート ®)、 トラセミド(ルプラック®)があり、サイアザイド系利尿薬には、トリクロルメチアジド(フル イトラン®)ヒドロクロロチアチド(ヒドロクロロチアチド ®、旧ニュートライド ®)が、その 他K保持性利尿薬にはスピロノラクトン(アルダクトンA®)、エプレレノン(セララ ®)3,8) が ある。 Ⅱ-5 β遮断薬  また、結果にビソプロロールフマル(メインテート®)、ピンドロール(カルビスケン ®)など のβ遮断薬も処方されていたが、高血圧治療ガイドライン2009では、第一選択薬であったが同2014 年版では、単剤あるいは併用療法において糖尿病の新規発症、臓器障害や心血管病抑制の効果で は他の薬剤に劣るというエビデンスのために除外されている。しかし、降圧治療の主要薬である ことは間違いない。心不全、頻脈、狭心症や心筋梗塞後に積極的な適応とされている。2,10,15)  治療抵抗性高血圧に対する対応は第一 選択薬を投与しても降圧目標をクリアで きないと投薬量と投薬の回数を増やすこ とや服用のタイミングの変更が検討され る(図3)。2)同時に降圧薬の追加も考慮 されβ遮断薬は交感神経の抑制が必要な 場合に選択される。図3の STEP4が治療 抵抗性高血圧の治療でありβ遮断薬の他、 α遮断薬、αβ遮断薬、アルデステロン 拮抗薬やその他の降圧薬が選択される。  このようにβ遮断薬を使用している ケースでは、運動負荷をかけていった場 合に、心拍数が上昇しにくく、生理学的 な反射、反応性が妨げられていることを 十分理解しておかなければならない。ま た、心筋梗塞後、心不全、頻脈、狭心症 を既往にもつことが予測され、運動療法 中に心機能異常が発生する可能性を含む ことを念頭におき評価、問診をより詳細 に行う。2,3)  β遮断薬には内因性交感神経刺激作用 (intrinsic sympathomimetic activity、以 下 ISA)として ISA(+)と ISA(-)があ

図3 積極的適応がない場合の高血圧治療の進め方  ※1 高齢者では常用量の1/2から開始1~3ヶ月の間隔 で増量  ※2 25節「治療抵抗性高血圧およびコントロール不良の 対策」を参照  (日本高血圧学会高血圧治療ガイドラン作成委員会編:第 5章降圧薬治療高血圧ガイドライン2014 p.47, ライフサ イエンス出版、2014より引用)

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安全なリハビリテーションを降圧剤の知識から考える。 る。ISA(+)とはβ遮断薬にあるにもかかわらずβ受容体を刺激する作用をもつことを意味し、交 感神経が興奮しているときにはβ受容体に作用し、交感神経が興奮していないときにはβ受容体 をわずかに刺激する特徴があり、徐脈が発生しにくく、安静時心拍数を減少し過ぎないために高 齢者や徐脈の患者に適している。ISA(-)は心拍出量を減少させるため狭心症や頻脈に適してお り、心筋梗塞の再発、虚血性心疾患の予防、心不全の予後を改善する心保護作用がある。3)  β遮断薬で ISA(-)の代表的ものにアテノロール(テノーミン®)、ビソプロロール(メイン テート®)、ベタキソロール(ケルロング ®)、メトプロロール(セロケン ®)、プロプラノロール (インデラル®)がある。ISA(+)には、ピンドロール(カルビスケン ®)、セリプロロール(セ レクトール®)3,8) などがある。 Ⅱ-6 その他、ACE 阻害薬  今回の研究に集められたデータには無かったが第一選択薬の一つである ACE 阻害薬がある。 ACE 阻害薬は2013年の日経メィカルの調査(n=1004)で第一選択薬に用いる降圧薬の第3位 (6.7%)を占めている。また、欧米では ARB より ACE 阻害薬の処方率が高い。5)ACE 阻害薬 は、RA 系に作用しアンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡに変換するための ACE の働きを阻 害することでその作用機序の下流にある血管収縮を抑制し、降圧作用を及ぼすだけでなく、心臓 や腎臓保護作用もある。投与者は心腎臓器に疾患を有する場合があり診断名や合併症の、より正 確な把握や慎重な理学療法プログラムを行う必要がある。3,6-8)  ACE はブラジキニンを不活性型にするキニナーゼⅡと同一の酵素である。このため ACE 阻害 薬を用いるとキニナーゼⅡも阻害し、ブラジキニンの分解がされにくくなる。ブラジキニンが蓄 積され、その生理作用が増強すると ACE 阻害薬に特長的な空咳を発生させるため、就寝前や Ca 拮抗薬や利尿剤が併用されることもある。ただ、この咳が出やすくなる副作用は誤嚥による肺炎 などの予防にもつながる有効な効果も認められている。2,3,5-7)ACE 阻害薬の代表的な薬剤に、 エナラプリル(レニベース®)、ペリンドプリルエルブミン(コバシル)、リシノプリル(ロンゲ ス®)、イミダプリル(タナトリル ®)、アラセプリル(セタプリル ®)、デラプリル(アデカット ®)、 ベナゼプリル(チバセン®)、テモカポリル(エースコール ®)などがある。さまざまな意見と ケースはあるが、使い分けとして ARB は心不全の予防に用いて、ACE 阻害薬は心不全の治療へ 用いるケースが多い傾向であるという意見も理解できる。2,3,6-8,13,15)

Ⅲ.まとめ

 本邦のガイドライン2014年では若者では RA 系や交感神経系が亢進した血管収縮型高血圧が多 いのに対し、高齢者は RA 系が抑制され塩分過多による血管収縮容量増大型血圧が多い。このよ うな病態の違いによって、海外の英国の NICE National Institute for Clinical Excellence(国立 医療技術評価機構)のガイドラインでは、年齢別のアルゴリズムニにより、若者には ACE 阻害 薬や ARB などの RA 抑制薬を第一選択薬とし、高齢者には利尿薬や Ca 拮抗薬を第一選択薬と している。これで効果が不十分な場合に薬の併用を勧めており、それでもなお降圧不十分な場合 には利尿薬を含む3剤併用を推薦している。9,15)  一般に薬物による降圧療法は低容量、単剤から治療は開始されるが、最初から2種類以上の投 薬が行われている症例は、Ⅱ度以上の高血圧でありこの場合、より重症な高血圧症をもつことが 推察され、運動療法前の問診やバイタルチェック、運動療法中や終了後、安静回復までの時間帯

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『神戸国際大学紀要』第89号 はしばらく注意を払い、記録なども十分に行うとよい。2,5)  副作用が出現した場合には他剤に変更されたり、効果が不十分な場合には増量や、他剤の追加 されるため、投薬内容の変更や増量があった場合、より慎重な対応が求められ、運動療法中の血 圧の経過をより詳細に記録する。(図3)  今回の調査でも、Ca 拮抗薬、ARB とその配合薬、利尿薬とβ遮断薬が処方されていた。一方、 この研究データは学生が臨床実習で担当としたケースであり、その抽出に偏りがあったことも否 めない。また、入院患者でも、すでに自宅加療により入院カルテに記載されていない持参薬を使 用している場合もあると考えられ、実際の患者の投薬状況について看護師や本人への確認、お薬 手帳などを合わせた情報収集が必要であることを示唆している。  今後、処方欄にジェネリック薬品の使用推進のため、一般名記載が増え商品名記載は減ること になるとされている。現在でも薬品名は多数あるが、日々の理学療法業務の中でひとつずつでも 覚えていく必要があると考える。

 また、診察室血圧が高値の場合、家庭血圧測定(Home blood pressure、以下 HBP)を測定す ることが推進されている。早朝起床後や就寝前 HBP が135/85mmHg 以上の場合、高血圧症と診 断される。両者に差が有るときは HBP の方が優先される。在宅リハビリテーションでは計測法 を指導し、データを主治医に報告すると同時に、リハビリテーションの実施の安全性の確保に結 び付けなくてはならない。2)  高血圧の非薬物療法の中心である生活習慣の改善に関わる中心が理学療法士であり、積極的な 患者評価、実施、指導が行われる。例えば、安全に継続できる運動習慣の確立やリスクの管理、 減量の確認と支援がある。職種柄、長期間にわたって患者とその家族と密接に接する機会が多い ため栄養士などが行った減塩(目標値6.0g/day 未満)や食事指導が施行されているかを医療面談 の中で確認し、必要に応じて関係者へ情報を発信していくことも治療効果を上げていくための役 割である。運動による脂質代謝の改善や受動喫煙を含んだ喫煙の停止には、血圧低下の直接の効 果はないが、動脈硬化の予防には必須であり、長期的に血圧上昇の予防のみならず高血圧を基礎 とする他疾患の予防につながり、患者の QOL 維持、向上につながる。2,3,7,16)  重要なことは、処方医師や薬物療法の専門家である薬剤師と常に情報交換、連絡、相談をして いくことや、さまざまな症例を経験し対応している看護師には素朴な疑問でもなげかけてみるな ど、コメィカル内での協力体制の確立や日々の研鑽をつむとよい。比較的に長時間、患者を視診、 触診し会話をすることの多い理学療法士は、最初にトラブルを発見する立場にあり、重症化や重 篤化を防ぐ立場にいることを理解しなければならない。 参考文献 1)厚生労働省(2015),「健康日本21(第二次)」http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/ kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21.html/www.med.osakau.ac.jp/pub/kid/kid/index.html. 2)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(2014): 高血圧治療ガイドライン2014. ライフサイ エンス出版. 東京,2014, pp.7-14,15-29, 31-39, 39-44, 44-57. 3)浦部昌夫 編集 : 今日の治療薬2015. 南江堂,東京,2015. pp551-590, pp655-665. 4)南場芳文、奥宮明子、小林俊博ほか: 薬物療法と理学療法リスクマネージメント . 神戸国際大学紀要87 号,pp 71-79, 2014

5)吉村道博 編集:なぜ今、Ca 拮抗薬と ACE 阻害薬なのか . Modern Physician. vol. 30. no.3, 12341-342, 377-381,383-386, 387-390, 391-394. 2010

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安全なリハビリテーションを降圧剤の知識から考える。 7)本村和久:新日常診療での薬の選び方・使い方 . 増刊レジデントノート . Vol7, no. 2,羊土社,2015, pp. 38-44. 8)野村和弘 : DI 日経ドラッグインフォメーション . no4,日経 BP 社,2015, pp.22-35. 9)柳澤輝行: 電位依存性 Ca2+チャンネルの分子薬理学と Ca 拮抗薬の差異化 . 新目で見る循環器シリー ズ 循環器病の薬物療法,メジカルビュー社,東京 .2006,pp 188-199. 10)宮野佐年 : リハビリテーションにおける薬物療法ガイド . 医歯薬出版,東京,1998,pp. 77-81. 11)越前宏俊:図解 薬理学 第2版,医学書院,東京,2011,pp113-121. 12)上月正博:リハビリテーションスタッフに求められる薬・栄養・運動の知識 . 南江堂 . 2010,pp.37-45, pp. 48-59. 13)大生定義:頻用薬を使いこなす 上級医はこうやって処方を決める . 増刊レジデントノート . vol. 13,no. 4,羊土社,2011,pp. 679-688. 14)< 参考 URL> 大阪府立急性期・総合医療センター「急性腎不全」http://plaza.umin.ac.jp/~kidney/arf. html(アクセス日2015/9/10)

15)桑島厳:高血圧治療の併用療法23のクリニカルクエスチョン . Modern Physician. vol. 34. no.12, 1338-1381, 1407-1410, 1433-1436. 2010

16)野元正弘:薬がみえる vol1,メディックメディア,東京,2014,pp144-150. 17)< 参考 URL> 大阪大学腎臓内科ホームページ

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