センチピードグラスの畦畔等植栽地からの逸出について
滋賀県農業技術振興センター 井上 拓弘 目的 畦畔管理省力化を目的として、2000 年から滋賀県 では全国に先駆けてセンチピードグラスの水田畦畔 への植栽が進められてきた。植栽面積はほ場整備直後 の播種を中心として年々増加し、2007 年現在、約 27 万㎡の畦畔面積となっている。しかし、2005 年のい わゆる外来生物法の施行等に伴い、中国原産のセンチ ピードグラスも外来植物であるということから漠然 と「いかがなものか」と問題視されるようになった。 すでに現場に広がったセンチピードグラスが、生態系のみならず、人間や農林水産業に悪 影響を及ぼさない「問題がない外来種」であるか否かについて、早急に明らかにすることが利 用者やそれを技術面で支援する機関から求められている。 なおこれまで人体、農林水産業への被害の報告は無く、センチピードグラスが属する Eremochloa属の植物はわが国には自生せず、属が異なる種同士が自然条件下で交雑する可 能性は通常極めて低い。つまりセンチピードグラスが問題となる外来種であるかどうかの確 認は、生態系への影響の内、植栽地から逸出 し在来生物を駆逐するかどうかが最重要課題1) であると考える。 そこで、本調査では滋賀県内のセンチピードグラス植栽地から逸出しているかどうかにつ いて調査した。 材料および方法 2007 年 8 月 10 日と 9 月 11 日に、県内のセンチピードグラス植栽地(主に水田畦畔)の 隣接地への逸出状況調査を行った。9 月 11 日は 8 月 10 日調査で、隣接地が雑草地である 地点の逸出の有無と最大逸出距離にバラツキが見られたため、調査地点を追加するため設け た調査日である。調査地の選定にあたっては、次の2 点に留意した。 1)播種(または苗移植)年から数えて2 年以上が経過した畦畔であること。なぜなら、 センチピードグラスが種子生産を開始するのは主に播種(苗移植)翌年以降であり、その種 子が発芽して生長する(目視で確認できる個体サイズになる)のはさらにその翌年夏である からである。 2)昨年以降に種子が追い播きされていない畦畔であること。なぜなら、昨年畦畔上で生 産された種子から生長した実生と、昨年以降に追い播きされた種子から生長した実生との区 別がつかなくなるからである。 2001播種の見事なセンチピードグラス畦畔本調査における調査項目は、次の通りとした。 逸出元(センチピードグラス植栽地)について ・播種(移植)年 ・土地利用区分 ・被覆状態 ・センチピードグラスの被度 ・センチピードグラスの葉色 ・センチピードグラスのターフ深度 ・侵入雑草の種と侵入量 ・センチピードグラスの管理状況(刈り込み等) 逸出先(逸出がない地点については隣接地)について ・土地利用区分 ・土壌の乾湿(乾燥、普通、湿潤の3 段階に達観で分類) ・地際の明暗(明、中、暗の3 段階に目視で分類) ・肥沃度(高、中、低の3 段階に達観で分類) ・植生(種と被度) ・センチピードグラス逸出の有無 ・最大逸出距離(匍匐茎による逸出においては、逸出元から逸出匍匐茎先端までの長さ) ・逸出形態(匍匐茎、種子) ・逸出匍匐茎(実生)の逸出元との連続性 ・逸出先でのターフ(芝生状の面的群落)形成の有無 その他について ・調査地点の画像 ・上記以外の調査地点の観察による特記事項 なお上記調査項目中「最大逸出距離」の計測起点は、植栽地の隣接地がコンクリート水路や 舗装農道など構築物で明確な場合や作付け水田や畑などセンチピードグラス植栽畦畔との 境がほぼ明らかな場合はそこを、これら以外の雑草地など植栽地との境が特定しにくい場合 は、境目と推定される線としたため最大で1m 程度の誤差を含まざるを得なかった。 結果および考察 調査地17か所のうち1 3か所で逸出が確認された(別紙 2 の表)。確認された逸出は、 ほぼすべてが植栽地から隣接地へ匍匐茎が侵入する形での逸出であり、最大逸出距離は植栽 後8 年を経過する地点を含めて 300cm 以内であった。匍匐茎による逸出が確認されなかっ た地点の逸出可能先の地際明暗はすべて「暗」であり、逸出が確認された地点のそれは
「明」もしくは「中」であったことから、地表面が明るい場所へは匍匐茎が逸出しやすいこ とが示唆された。なお、明らかに種子による逸出は、本調査においては確認されなかった。 各調査地の逸出先および隣接地(以下、両者含めて「逸出可能先」と記す)の土地利用区 分等から、調査地点を6 パターン(逸出可能先が 1.作付け水田、2.畑、3.水路、4.農道、5. 樹林、6.雑草地)に分類して整理した(別紙 2)。 次に、各パターン別に調査地点ごとの逸出状況について述べる。 1.水稲作付け水田内(別紙2 のパターン1、地点 NO1) 地点NO1 は、センチピードグラス植栽畦畔と湛水田面との境界から田面内に、匍匐茎で 概ね5∼10㎝逸出していた。その先の水田内にはセンチピードグラスの逸出はなかった。 概ね10㎝の最大逸出距離は、次の3.水路とも共通 するセンチピードグラスの性質である匍匐茎の先端が水 没すると、水深5㎝程度でその伸長を止めることによる ものと考えられた。つまり田面水中では、水深5㎝に達 するまで斜めに匍匐茎の先端が没入するため、概ね10 ㎝の最大逸出距離となっていると考えられた。画像1 2.畑(別紙のパターン2、地点NO2) 地点NO2 はセンチピードグラス畦畔つき水田であるが、調査時は水稲を作付けせず畑状 態で小豆を栽培していた。生育ステージは本葉出葉期と小さく、全体としてほぼ裸地状態で 地際は明るかった。 畦畔のセンチピードグラスターフは匍匐茎で畑内部へ逸出していて、最大逸出距離は約 20cm 以内であった。また、畑内部には、メヒシバがわずかにみられるだけで、センチピー ドグラスは確認されなかった。画像2 なおこの小豆畑は 7 月上旬頃(小豆播種前)に耕転されたと考えられるため、仮に 7 月 上旬までに逸出したセンチピードグラス匍匐茎があったとしても、耕転によって切断された のではないかと考えられ、8 月 10 日に確認した逸出匍匐 茎は、7 月上旬以降に新たに逸出したと考えられた。 このことから、仮に畑地内に逸出した匍匐茎があった としても、それらは耕転により切断され、埋設されるな どして枯死したか、耕土表面に出たものの活着しなかっ たと推察された。 3.水路(別紙2 のパターン3、地点 NO3.4) 地点 NO3、4 では水路法面に植栽されたセンチピードグラスの匍匐茎が、隣接するコン 画像1 画像2
クリート製水路の壁面に垂れ下がっていた。しかし、それらの匍匐茎の逸出限界は概ね水面 下5cm 程度とみられた。画像3 4.逸出可能先が農道である場合(別紙2 のパターン4、地点 NO5.6) 4.1.未舗装農道(地点NO5) 地点NO5 では水路農道側法面に植栽されたセンチピードグラスの匍匐茎が、隣接する未 舗装道路へ逸出していた。しかし、その逸出限界は、通常農道を通行する軽トラックの轍ま でであった。画像4 4.2.舗装道路(地点NO6) 地点NO6 では水路農道側法面に植栽されたセンチピードグラスの匍匐茎が、隣接する舗 装道路上へ逸出していた。逸出限界は、地点NO5 と同様に、農道を通行する軽トラックの 轍までで、また逸出先が舗装されているため、逸出匍匐茎からの発根はみられなかった。 画像5 5.樹林(別紙2 のパターン5、地点 NO7) 地点 NO7 はツバキ、ヒノキ、コナラが主な樹種の樹林で 地際は暗く、下草がまばらにしか生えていなかった。ここで はセンチピードグラスの逸出はみられなかった。画像6 6.雑草地(別紙 2 のパターン6、調査地点 NO8 ∼ 17) 6.1.地際が暗い雑草地(地点NO8 ∼ 10) 地点NO8 は、センチピードグラス植栽後8年経過する農道法面下の耕作放棄田で草丈の 高いヨモギ、セイタカアワダチソウ、クズ、ススキが繁茂し ていて、地際は暗かった。この雑草地へのセンチピードグラ スの逸出はみられなかった。 逆にクズがセンチピードグラ ス植栽地に覆いかぶさるように繁茂して日光を遮蔽するこ とでセンチピードグラスターフが縮小しているように見ら れた。画像7 画像3 画像4 画像5 画像6 画像7
地点NO9 、 10 は、センチピードグラス植栽から8年が経 過する畦畔に隣接する雑草地で、草丈30 ㎝程度の低い広葉 雑草が密に繁茂し、地際は暗い雑草地であった。両地点とも 植栽地の端と推定される線からの逸出は見られなかった。 画像8 6.2.地際が明るいか中くらいの明るさの雑草地(地点NO11 ∼ 17) 地点NO11 ∼ 17 は、センチピードグラス植栽後4から8年経過する畦畔に隣接する雑草 地で、イネ科雑草、広葉雑草を人為的な刈り払いで管理している畦畔、農道法面や林地付き 雑草地、耕作放棄田、チガヤ放任畦畔とバラエティーに富むが、共通して地際が明るいか中 程度の明るさであった。これら8地点すべてで匍匐茎による逸出があり、その最大逸出距離 は概ね50∼300㎝であった。 NO17 のみでは、逸出元と逸出匍匐茎の先端までにターフ 形成が見られたが、逸出元に連続した粗いターフであった。 他はまばらな匍匐茎の逸出でターフの形成はなかった。 NO17 の逸出先は、土壌がやせていて、チガヤが優先し株 元にはハイゴケが密に繁茂しているものの、常に低く刈り払 われていること合わせて地際は極めて明るかった。画像9 地点 NO12、14 では、逸出匍匐茎の先端枯れが見られた。両地点とも逸出先は放任によ り草丈の高い雑草が繁茂している。画像10 、 11 また NO14 は今回の調査地点中最大の逸出距離300㎝を確認している。この地点の逸 出元は5年前に苗移植により植栽した畦畔で、逸出先はその上部に隣接する畦畔で、草丈 60㎝程度のチガヤ単一群落である。逸出先畦畔の先は作付け水田で、そこまで匍匐茎が伸 長して300㎝となっていたことから、水田がなければ、更に先まで逸出していた可能性が 考えられた。これら逸出匍匐茎はチガヤ群落内で、まばらに逸出しているだけで、分枝もほ とんど無く、チガヤの遮り残した陽光でなんとか生育している状態とみられた。 なおこの地点で今回の調査で唯一、逸出種子からの発芽か逸出匍匐茎の枯死による残存分 枝茎のいずれかと見られる本葉5枚で分けつ、ランナー発生の無い個体が見つかった。画像 12 画像8 画像9 画像10 画像11 画像12
結論 センチピードグラスは、逸出先の地際が暗いと逸出しないが、逸出先の地際が暗くなけれ ば逸出元と連続して匍匐茎によって逸出する。なお逸出先が耕作水田や水路の水面では水面 下5㎝程度まで、農道では農耕車両の轍まで、耕作畑では耕耘地までに、匍匐茎の逸出は制 限される。 地際が暗くない雑草地への逸出形態は、ほとんどが植栽地から連続する匍匐茎によるまば らな逸出で、その最大逸出距離は概ね300㎝であった。これらの逸出元センチピードグラ ス畦畔は植栽後最長で8年経過していることから、逸出速度は遅いといえる。 また逸出先が放任管理で草高の高い雑草が繁茂するところでは、逸出匍匐茎の先端部の枯 れが確認されたこと、逸出先でターフの形成がほとんど見られないことから、逸出先の既存 植生との競争でセンチピードグラスは劣勢であると考えられた。 以上限られた調査地点のわずか2日の観察に基づく結論であるが、センチピードグラスの 水田畦畔への植栽利用では、逸出による雑草化や生態系への影響のリスクは小さいと思われ た。また、逸出程度の激しい草種に較べ、センチピードグラスに逸出は、わずかな「はみ出 し」と言っても良いのではないかとも考えられた。 なお筆者が2000 年から 2005 年の6年間、センチピードグラス植栽と利用を支援してき た中でも、上記結論に反する観察や事実は、センチピードグラスを植栽し管理している農業 者の声を含めて無いことを付記してお きたい。 本調査に当たって現地調査に協力い ただいた滋賀県農業経営課大津地域経 営指導担当蒲原良高主査、同僚の野雄 大主査、そして調査計画からとりまと めにわたる全般にわたって的確な助言 と関連情報を提供いただいた滋賀県湖 北地域振興局農産普及課川口佳則技師 に感謝いたします。 注 1)本調査では、センチピードグラスが植栽地外へ匍匐茎または種子によって出ることを「逸 出」と定義した。 センチピードグラス植栽目的地