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生化学 第 88 巻第 5 号,p. 549(2016)

ひとりごと

長田 重一*

数年前,Rockefeller大学で行われた国際会議で Keynote Speechを依頼されました.数度お会いした だけの学会長が,私の講演の座長として,簡単な履 歴の紹介後, Whatever he says, it is always correct と 述べられ,とても驚きました.1972年東京大学理学 部生物化学科を卒業し,修士の学生として東大医科 研上代淑人教授の研究室でサイエンスを学びだして から45年,昨年京都大学を定年退官しました.幸運 な研究者人生を送らせていただいたと思っています.

修 士 の テ ー マ は Purification of Elongation Factor from Pig Liver .上代研ではタンパク質生合成,ペ プチド鎖延長反応の分子機構の解析を進めてお り, そ の 過 程 に 関 与 す る 酵 素 の 精 製 で す.1968 年,J. Biol. Chem.誌にウサギ網状赤血球のペプチ ド鎖延長因子(Elongation Factor 1; EF-1)は分子量 186,000,8 M尿素存在下では62,000であることから 三量体と報告されていました.この論文をブタ肝 臓で追試するテーマです.サイエンスがなんであ るかわかっていなかった私にとってタンパク質の 生合成,それだけでワクワクしました.ペプチド鎖 の延長を解析するため,リボソームにmRNAとし て作用するpoly(U)を加え,UUUによって規定され るphenylalanine (Phe)が重合する反応を以下の手順 で解析しました.熱帯魚のエサとして使われている 乾燥したArtemia salina(エビの一種)ではリボソー ムはモノソームとして存在します.熱帯魚屋から 購入したArtemia salinaから,100,000 gの沈殿物と してリボソームを調製しショ糖密度遠心分離する と,教科書に掲載されている綺麗な80Sのピークが 得られ,単純に感激しました.大腸菌からのフェニ ルアラニン活性化酵素を用いて14C-PheとtRNAから 14C-Phe-tRNAを調製し,リボソーム,poly(U),14 C-Phe-tRNAにペプチド鎖延長因子を加えて反応させ ました.トリクロロ酢酸で反応を止めた後,90°Cで 加熱することにより14C-PheをtRNAから遊離させ, 可溶画分にくるようにします.不溶画分の合成poly (14Phe)をろ紙に採取し,捕捉された放射能をシン チレーションカウンターで測定します.poly (Phe) が酸に不溶であること,アシル結合は酸性条件下, 90°Cで容易に切断されることを利用した反応であ り,タンパク質合成という複雑な反応の素過程(延 長反応)を解析する巧妙かつ簡単なシステムです. ペプチド鎖延長因子は2種存在します(EF-1と EF-2).EF-2は研究室で精製されており,これを反 応系に十分量加えると合成されるpoly (Phe)の量 はEF-1の量に比例します.そこで,このアッセイ 系を用いて,ブタ肝臓からS-100を調製しEF-1の精 製にとりかかりました.ところがJ. Biol. Chem.誌の 論文の追試ができません.ウサギ網状赤血球とブタ 肝臓の違いとは考えられません.途中で,吸光度か ら部分精製標品に核酸が含まれていることに気がつ きました.岩崎助教授から,丁度その頃開発された 水性2層分配法を用いて核酸を除くことをアドバイ スされました.ポリエチレングリコールとデキス トランを用いて2層を形成し,高濃度の塩によりタ ンパク質と核酸の分配を変更させる方法です.う まくいきました.ところが,タンパク質を硫安沈殿 によって回収し,透析するとEF-1の活性が消えて しまいました.水性2層分配では活性はあったわけ ですから,その条件(30% 硫安を含む緩衝液)でゲ ルろ過しました.すると殆どのEF-1活性が低分子 量(54,000)の分子種として検出されました.J. Biol. Chem.誌の論文では本来のEF-1を失活させていたの です.このような高濃度の塩を含む条件ではイオン 交換カラムは使えません.硫安に代わる安定化材を 探し,25%のグリセロールに辿りつきました.全て のカラム操作を25%グリセロール存在下で行いま した.粘度の高い溶液,通常の数倍の時間が掛かり ます.しかし,1週間かけて展開したイオン交換カ ラムからEF-1がsingle peakとして回収された時の興 奮は忘れられるものではありません. 45年の研究生活,この修士2年間が決めたのだと 思います. *大阪大学免疫学フロンティア研究センター寄付研究部 門教授,京都大学名誉教授,大阪大学名誉教授 DOI: 10.14952/SEIKAGAKU.2016.880549 © 2016 公益社団法人日本生化学会

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