シンポジウム
生物農薬 ― この 20 年の歩みと今後の展望
講
演
要
旨
平成 27 年 1 月 16 日
於:日本教育会館「一ツ橋ホール」
一般社団法人
日 本 植 物 防 疫 協 会
シ ン ポ ジ ウ ム 生 物 農 薬 ― こ の 20年 の 歩 み と 今 後 の 展 望 講 演 要 旨 一 般 社 団 法 人 日 本 植 物 防 疫 協 会
シンポジウム
「生物農薬 ─ この
20
年の歩みと今後の展望」
開 催 要 領
1
.日
時:平成
27
年
1
月
16
日(金)
10
:
00∼17
:
00
2
.場
所:日本教育会館「一ツ橋ホール」
東京都千代田区一ツ橋
2-6-2
Tel 03
(3230)
2831
3
.主
催:一般社団法人 日本植物防疫協会
4
.趣
旨:当協会が生物農薬連絡試験を発足させてから
20
年が経過した。10
年目の
節目に同じテーマでシンポジウムを実施したが,さらに
10
年が経過した。
この間,天敵農薬,微生物農薬等数多くの生物農薬が開発されるとともに,
全国規模で
IPM
や環境保全型農業の推進が図られてきたが生物農薬の出
荷金額はほぼ横ばいの
20
億円前後で推移している。
そこで今回は,この
20
年間の生物農薬をめぐる動きを総括するととも
に,関係する各分野の立場から見た病害虫防除における生物農薬の現状と
課題について話題提供していただき,今後の生物農薬開発と利用の展望を
考えたい。
5
.参集範囲:国及び都道府県の行政・試験研究機関・普及指導機関,独立行政法人,
大学,JA,農薬企業,防除機企業および関係団体(定員
800
名)
6
.参 加 費:無 料
7
.プログラム(演題は仮題)
10
:
00
開
会
10
:
10
「生物農薬この
20
年」
一般社団法人 日本植物防疫協会 業務執行理事藤 田 俊 一 氏
10
:
55
「病害虫防除における生物農薬の課題と展望 ─ 微生物農薬開発の歴史と展望」
独農研機構本部 連携普及企画室長仲 川 晃 生 氏
─ 昼 食 休 憩 ─
12
:
40
「企業から見た生物農薬の展望①」
アリスタ ライフサイエンス㈱ 製品開発本部開発マネージャー山 中
聡 氏
13
:
25
「企業から見た生物農薬の展望②」
石原産業㈱ 中央研究所生物科学研究室研究主管森
光太郎 氏
14:10
「防除指導実践を通して見えてくる生物農薬の課題と展望①」
奈良県病害虫防除所長國 本 佳 範 氏
─ 休
憩 ─
15
:
10
「防除指導実践を通して見えてくる生物農薬の課題と展望②」
城県農業総合センター 園芸研究所研究調整監冨 田 恭 範 氏
─ 休
憩 ─
16
:
00
総合討論:生物農薬 今後の展開を考える
パネリスト 高知県病害虫防除所
朝比奈 泰 史 氏
熊本県農林水産部農業技術課
行 徳
裕 氏
奈良県病害虫防除所
國 本 佳 範 氏
城県農業総合センター
冨 田 恭 範 氏
独
農研機構本部
仲 川 晃 生 氏
一般社団法人 日本植物防疫協会
藤 田 俊 一 氏
石原産業株式会社
森
光太郎 氏
アリスタ ライフサイエンス株式会社
山 中
聡 氏
17
:
00
閉
会
目
次
生物農薬この
20
年
1
一般社団法人 日本植物防疫協会 業務執行理事藤 田 俊 一
病害虫防除における生物農薬の課題と展望 ─ 微生物農薬開発の歴史と展望
13
独農研機構本部 連携普及企画室長仲 川 晃 生
企業から見た生物農薬の展望①
19
アリスタ ライフサイエンス㈱ 製品開発本部開発マネージャー山 中
聡
企業から見た生物農薬の展望②
29
石原産業㈱ 中央研究所生物科学研究室研究主管森
光太郎
防除指導実践を通して見えてくる生物農薬の課題と展望①
37
奈良県病害虫防除所長國 本 佳 範
防除指導実践を通して見えてくる生物農薬の課題と展望②
43
城県農業総合センター 園芸研究所研究調整監冨 田 恭 範
生 物 農 薬 こ の
20
年
一般社団法人 日本植物防疫協会藤 田 俊 一
生物農薬の本格的な開発支援のため,当協会が平成6
年に生物農薬連絡試験(現在は新農薬実用化試験 (生物農薬)に改称)を発足してから20
年が経過した。本稿では当協会における取り組み経過をふりかえり つつ生物農薬の歩みと現状を概観する。1
.生物農薬連絡試験発足までの経緯
生物的防除に関する研究の歴史は古いが,果樹の侵入害虫の防除のために海外から天敵を導入する取り組 みが先駆的なものであった。その端緒は明治時代にまで るが,昭和25
年の植物防疫法施行にあわせて開 始された国の天敵増殖配布事業によって多くの県で果樹のカイガラムシ防除がすすめられた。国の補助事業 はその後も名称を変えながら継続され,様々な生物的防除の取り組みが支援されてきた。研究開発分野でも プロジェクト研究が立ち上げられ,民間への研究助成も行われるようになってきた。こうした流れの中で企 業による生物農薬開発の機運にも徐々に高まりがみられるようになってきたが,初期における最も大きな課 題はBT
剤の実用化であった。これを支援するため昭和47
年に当協会にBT
剤研究会が設置され,諸課題 の解決に精力的に取り組んだ(BT
剤は昭和57
年に登録)。それに先立つ昭和45
年には,商業化された初 の天敵農薬としてクワコナカイガラヤドリコバチが登録されたがその後間もなく失効し,昭和の終わりまで は生物農薬開発に大きな動きはみられなかった。 しかし,平成の時代に入ると新しい天敵農薬や微生物農薬が協会委託試験に登場しはじめ,微生物農薬の 安全性評価も議論されるようになってきた。このように生物農薬への関心がにわかに高まった背景には,国 際的な流れを受けて我が国でも環境保全型農業技術に対する要請が強まり,平成4
年にはそれを踏まえた新 農政プランが策定されるなど,研究や施策面での後押しがあったものと考えられる。 こうした動きを踏まえ,協会は平成4
年に「生物農薬検討委員会」を設置し,適切な委託試験の実施指針 などについて検討を開始した。委員会の目的は生物農薬の試験法や評価法の枠組みを整理していくことに あったが,そもそも企業にとって生物農薬を実用化していくための技術指針が無かったことから,委員会で は生物農薬の定義や安全性の評価も含むひろい視点から検討を行い,平成6
年2
月に「生物農薬開発の手引 き」をとりまとめた。この検討を通じ,それまで曖昧であった生物農薬の定義や分類,科学的な評価に必要 な情報やデータなどが整理された。また,平成5
年5
月には国や県の研究者ら10
名からなる調査団をオラ ンダに送り,天敵利用の現状と研究動向の調査を行った。 協会は,これらの成果を踏まえて平成6
年4
月に「生物農薬連絡試験」という新たな検討の枠組みをス タートすることとし,同年9
月に都内で大規模なシンポジウムを開催した。「生物農薬の開発・利用に関す るシンポジウム」と題したシンポジウムは2
日間にわたる大がかりなものであったが,会場には全国から800
名以上もの参加者がつめかけ,関心の高さに驚かされた。同年12
月に開催した最初の生物農薬連絡試 験成績検討会にも同様に全国から多くの関係者が出席し,会場は活気に れた。2
.連絡試験発足の頃の状況
連絡試験発足当時,最も精力的に開発がすすめられていたのは天敵昆虫製剤であった。㈱トーメン(当時) が天敵先進国であるオランダ・コパート社から幾つもの天敵昆虫類(ダニ目も含む)を輸入し,施設野菜の 害虫防除分野で実用化試験が展開された。全国の試験場はこの新しい生物資材の試験におおいに興味を示し たが,最初のうちは放飼のタイミングや量の判断が難しく,効果が得られないこともしばしばであった。企 業でも羽化のタイミングをはかりつつ天敵製剤を輸入するのにずいぶん苦労されたようである。薬効の評価 をめぐっても議論が尽きなかったが,委員会では生物農薬だからといって甘い評価基準にすることは,生物 農薬の将来にとって好ましいことではないとのスタンスをとることを申し合わせた。こうした多くの試行錯 誤の中で生物農薬の試験法や評価法も徐々に整理されてきた。 連絡試験発足から5
年を経過した平成11
年9
月に,協会は再び2
日間にわたるシンポジウム「生物農薬 その現状と利用」を開催し,新しく実用化された生物農薬を紹介するとともに効果的な使用法について議論 を交わした。当時紹介された生物農薬の農薬登録状況によると,平成2
年までに登録された生物農薬は8
種 類12
製剤(失効も含む)であったのに対し,平成5
∼11
年の6
年間に新たに29
種類39
製剤が登録(うち14
種類14
製剤は天敵昆虫類)され,この時期に大きな飛躍があったことがうかがわれる。 研究者や企業による活動にも大きな展開がみられた。例えば,平成4
年には研究者が中心となって天敵利 用研究会が組織され,年一回大会を開催する一方,最近ではweb
を活用した情報交換を展開している。平 成8
年には生物農薬開発企業が中心となった日本バイオロジカルコントロール協議会が発足し,同年秋から 講演会や研修会活動を行う一方,化学農薬が生物農薬に与える影響についての情報を集約し公表をはじめた (企業が中心となった組織としては,平成18
年に日本微生物防除剤協議会も設立されている。)。農薬登録制 度に関する整備もすすめられ,平成9
年には微生物農薬の安全性評価ガイドラインが施行された。3
.その後の概況
連絡試験発足から10
年を経過した平成16
年9
月に,協会は3
回目のシンポジウムとなる「生物農薬この10
年間と今後の展望」を開催した。この中で10
年間の歩みを総括した連絡試験委員長の岡田齋夫氏は「連 絡試験が発足するまでに登録された生物農薬が6
剤(4
剤は失効),発足後の10
年間の登録数が54
剤(7
剤 は失効)である( :BT
剤は除外されているとみられる)ことをみると,連絡試験における討議や指導は 有効であったと思う。農林水産行政の施策(中略),農業の持続的な発展を求める機運が高まったこと(中 略),民間企業に生物農薬開発機運の高まったこと(中略),そうした動きに協会が直ちに対応できたこと(中 略),それらの歯車が上手くかみあったことによると思っている。」と述べている。 平成10
年頃に特別栽培農産物の規格や表示に関する制度が整備されはじめると,化学農薬の成分回数の 制限を補うために微生物農薬を活用する動きもみられるようになってきた。さらに,平成14
年に発覚した 無登録農薬問題を契機とした農薬取締法と食品衛生法の改正は,生産者に化学農薬の一層の適正使用を迫る こととなった一方,残留性が問題とならない生物農薬にはそれまでよりも幅広い作物群での登録が付与され ることとなり,普及の追い風になりはじめていた。そのようなタイミングで開催したシンポジウムであった が,「今後の展望」と題した2
時間に及ぶパネルディスカッションでは,当時第一線で活躍していた指導者 らが「普及は今ひとつすすんでいない」とし,その打開の方策について意見が交わされた。表2 生物農薬登録農薬数 昭和26∼平成26に登録された生物農薬数 農 薬 種 類 数 商 品 数 総数 (有効)(失効) 総数 (有効)(失効) 天 敵 殺 虫 剤 25 21 4 66 47 19 微 生 物 殺 虫 剤 16 13 3 26 17 9 B T 剤 2 2 0 42 20 22 殺 菌 剤 17 13 4 40 28 12 除 草 剤 2 1 1 2 1 1 植物成長調整剤 0 0 0 1 0 1 計 62 50 12 177 113 64 注1)表1の集計。ただし,化学農薬等との混合剤は除外した。 注2)植物成長調整剤として登録された商品の農薬種類は殺菌剤とし て計数した(商品名「小苗ふく土」,種類名「シュードモナス フルオレッセンス剤」)。 表3 生物農薬連絡試験受託件数の推移 年 度 受 託 薬 剤 数 受託件数 年 度 受 託 薬 剤 数 受託件数 殺菌剤 殺虫剤 計 殺菌剤 殺虫剤 計 平成6年度 2 17 19 103 平成17年度 17(1) 17(2) 34(3) 248(17) 平成7年度 7 25 32 135 平成18年度 18(0) 16(2) 34(2) 237(19) 平成8年度 8 30 38 168 平成19年度 18(2) 15(3) 33(5) 197(31) 平成9年度 7 33 40 165 平成20年度 17(1) 17(2) 34(3) 278(37) 平成10年度 8 36 44 169 平成21年度 18(0) 16(0) 34(0) 224(38) 平成11年度 8 39 47 222 平成22年度 19(0) 18(0) 37(0) 171(23) 平成12年度 13 34 47 200 平成23年度 14(1) 14(1) 28(2) 155(20) 平成13年度 13 29 42 273 平成24年度 9(0) 10(1) 19(1) 157(25) 平成14年度 15 31 46 290 平成25年度 11(1) 12(2) 23(3) 130(16) 平成15年度 16 16 32 152 平成26年度 10(1) 17(2) 27(3) 233(54) 平成16年度 17(0) 25(1) 42(1) 193( 7) 注)( )内の数字は,生物農薬連絡試験以外の運営枠で取扱った件数(内数)を示す。 0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 BT生菌 殺虫剤(BT生菌を除く) 殺菌剤 除草剤 H 6 H 7 H 8 H 9 H 23 H 22 H 21 H 20 H 19 H 18 H 17 H 16 H 15 H 14 H 13 H 12 H 11 H 24 H 25 H 10 (千円) 図1 生物農薬出荷金額の推移(出典:農薬要覧)
この頃から指導者の間では生物農薬の導入のみを目的とするのではなく,
IPM
プログラムとして推進し ていく重要性が認識されはじめ,平成17
年には農水省がIPM
実践指標を策定した。 現在までに登録された生物農薬及び登録薬剤数を表1
(p. 6
参照)及び表2
に,生物農薬連絡試験件数の 推移を表3
に示す(平成14
年度から連絡試験の名称は使っていない)。また,生物農薬出荷金額の推移を図1
に,主な生物農薬の出荷金額の推移を表4
に示す。4
.最近における開発状況
最近5
年間の委託状況を表5
-1
(病害防除関係),表5
-2
(虫害防除関係)及び表5
-3
(BT
剤関係)に示 す(p. 10
参照)。 全体的な傾向としては,天敵昆虫製剤から微生物農薬に軸足が移り,害虫防除分野よりも病害防除分野の ほうが活発化しているように見受けられる。しかしその多くは既登録剤の適用拡大目的の試験が占め,開発 中の新しい生物種はごくわずかである。興味深いのは,殺虫剤として登録された一部の微生物農薬が病害防 除にも展開しようとしていることである。適用病害虫が限定されることが生物農薬の欠点とされるが,この ように,より広範な病害虫への拡大や害虫と病害の同時防除の可能性が拓けることは,今後の普及促進の好 材料になるものと期待される。また,同じ生物種を用いる場合でも,より使いやすい剤型あるいは容器の工 夫を加えたものが登場しており,こうした改良にも目が向けられるようになっているのは心強い。5
.普及の現状
この20
年間において全国各地で普及推進のための取り組みが展開されてきた。成功事例については学会 や雑誌等でしばしば紹介されているが,いずれの成功例においても,生物農薬の導入が生産現場の防除ニー ズと合致し,期待どおりの防除効果を示し,ていねいに指導できる優れた指導者やフォローアップ体制が 表4 主な生物農薬の出荷金額の推移(平成16年∼25年) 単位:千円 剤 の 種 類 H 16 (2004) H 17 (2005) H 18 (2006) H 19 (2007) H 20 (2008) H 21 (2009) H 22 (2010) H 23 (2011) H 24 (2012) H 25 (2013) 天 敵 殺虫剤 オンシツツヤコバチ剤 66,501 57,884 152,432 36,953 30,275 25,429 17,748 13,735 19,408 21,375 コレマンアブラバチ剤 64,716 57,620 59,705 18,557 18,510 51,709 25,856 29,630 31,392 32,039 スワルスキーカブリダニ剤 14,805 138,106 220,423 302,530 347,359 タイリクヒメハナカメムシ剤 96,164 97,223 81,104 70,971 96,057 115,686 114,210 114,628 122,038 109,736 チリカブリダニ剤 111,267 140,268 77,231 44,181 125,608 117,214 101,300 130,021 184,262 304,317 ミヤコカブリダニ剤 6,065 28,220 44,146 67,151 46,288 92,197 97,483 111,591 151,103 172,288 微生物 殺虫剤 ボーベリア バシアーナ剤 36,912 237,306 121,119 45,717 63,096 53,766 50,355 42,467 52,426 44,544 ボーベリア ブロンニアティ剤 39,098 35,751 36,994 38,687 49,930 60,922 59,900 55,350 53,026 26,478 BT剤 BT剤(生菌) 962,412 1,078,558 942,869 890,951 925,831 705,484 676,575 523,263 513,480 494,081 殺菌剤 タラロマイセス フラバス水和剤 46,042 48,731 40,932 36,555 107,014 234,412 288,206 194,911 176,502 187,410 トリコデルマ アトロビリデ水和剤 44,091 119,323 171,635 188,726 208,743 143,558 117,313 106,230 103,003 105,745 バチルス ズブチリス水和剤 216,660 200,819 222,404 238,933 312,230 304,737 251,593 237,104 249,262 239,259 非病原性エルビニア カロトボーラ水和剤 127,910 126,617 137,122 151,949 137,307 125,261 152,413 126,967 140,259 128,782 除草剤 ザントモナス キャンペストリス液剤 750 6,789 5,332 3,069 2,263 744 注)殺虫剤,殺菌剤は,5千万円以上の品目を抽出した。除草剤は,出荷金額の最も多い品目を抽出した(出典:農薬要覧)。あった点で共通しているように見受けられる。中でも優れた指導体制の存在は不可欠であると聞く。しかし 導入に成功した生物農薬が生産者にアピールしうる優れた特徴をもっていたことも忘れてはならない。例え ば,バチルス属細菌の微生物農薬が幾つかの施設園芸地域で受け入れられたのは,暖房用ダクトを利用した 簡易かつ安定的な施用法が開発されたことが大きい。スワルスキーカブリダニがひろく受け入れられるよう になったのは,化学農薬で対応しきれなくなってきたアザミウマ類に対し極めて有効でしかも省力的である からに他ならない。 他方,生物農薬の出荷金額の推移(図
1
及び表4
)から見えてくる全体的な普及状況は,20
年間で飛躍的 に増加した登録剤数とは裏腹に,生物農薬の導入件数が頭打ちで,限られた生物農薬によってマーケットが 形成されており,限られたマーケットの中で生物農薬同士が競合している実態を示唆している。 生物農薬の普及が拡大しない原因は幾つか考えられるが,この20
年間に効果が高く環境負荷も少ない化 学農薬が数多く開発されてきたことも見逃せない。広範な病害虫に卓効果を示す強力な化学農薬に対し,も ともと標的が限られ効果も不安定になりがちな生物農薬は,生産者にとっていかにも心細い。また,生物農 薬の牽引役をはたしてきた天敵農薬分野において,平成20
年頃から土着天敵の利用機運が高まってきたこ とも天敵ビジネスに影を落としはじめているように見受けられる(平成26
年3
月に農水省から天敵増殖配 布の要件が通知されている)。お わ り に
平成16
年に行ったシンポジウムの最後に行ったパネルディスカッションで,パネラーが挙げた主な論点 は次のようなものであった。 生物農薬は意外に高価であるがコストを販売価格に転嫁できない/安定した効果を得るために技術や知識 が必要/導入のメリットは社会や消費者にとっては大きいが生産者に対しては小さい(県の指導者),防除 暦のように集団的に利用されることを目指すべき/野外でも使用できる生物的防除剤を開発するべき(開発 企業)/非休眠性の天敵や薬剤抵抗性の天敵の開発などが必要(研究者)/化学農薬との併用を視野に入れた 開発が必要(農薬流通関係者) 生物農薬20
年を総括する時,10
年前に「点から面へ」と期待した未来は,残念ながらまだ訪れていない。4
度目となる今回のシンポジウムを通じて描かれる展望に注目したい。表1 生物農薬登録状況(平成26年12月31日現在) 注1)本表では「農薬要覧」において生物農薬として分類されている製剤(生きた状態で製品化したもの)を生物農 薬として掲載した。 注2)初登録年は当該種類の最初の商品が登録された年次を示す。 注3)赤字は失効剤。 【殺虫剤(天敵昆虫剤)】 種 類 名 初登録年 商 品 名 1 ルビーアカヤドリコバチ剤 1951年(S 26) ルビーアカヤドリコバチ 2 寄生蜂剤(クワコナカイガラヤドリバチ) 1970年(S 45) クワコナコバチ 3 チリカブリダニ剤 1995年(H 7) スパイデックス(2剤,1剤失効) チリカブリダニパック カブリダニPP(2剤,1剤失効) チリトップ チリガブリ チリカ・ワーカー 4 オンシツツヤコバチ剤 1995年(H 7) エンストリップ ツヤコバチEF(2剤) ツヤトップ ツヤコバチEF 30 ツヤパラリ ツヤトップ25 5 イサエアヒメコバチ・ハモグリコマユバチ剤 1997年(H 9) マイネックス マイネックス91 6 ショクガタマバエ剤 1998年(H 10) アフィデント 7 コレマンアブラバチ剤 1998年(H 10) アフィパール アブラバチAC(2剤,1剤失効) コレトップ コレパラリ 8 ククメリスカブリダニ剤 1998年(H 10) ククメリス(2剤,1剤失効) メリトップ 9 ナミヒメハナカメムシ剤 1998年(H 10) オリスター スリポール 10 イサエアヒメコバチ剤 1999年(H 11) ヒメコバチDI(2剤,1剤失効) ヒメトップ イサパラリ 11 ハモグリコマユバチ剤 1999年(H 11) コマユバチDS(2剤,1剤失効) 12 タイリクヒメハナカメムシ剤 2001年(H 13) オリスターA タイリク トスパック(2剤,1剤失効) リクトップ 13 ヤマトクサカゲロウ剤 2001年(H 13) カゲタロウ(2剤,1剤失効) 14 サバクツヤコバチ剤 2002年(H 14) エルカール エルカード サバクトップ 15 ナミテントウ剤 2002年(H 14) ナミトップ ナミトップ20 テントップ
種 類 名 初登録年 商 品 名 16 アリガタシマアザミウマ剤 2003年(H 15) アリガタ(2剤) 17 デジェネランスカブリダニ剤 2003年(H 15)スリパンス 18 ミヤコカブリダニ剤 2003年(H 15)スパイカル スパイカルEX ミヤコトップ スパイカルプラス ミヤコスター 19 ハモグリミドリヒメコバチ剤 2005年(H 17) ミドリヒメ(2剤) 20 チチュウカイツヤコバチ剤 2007年(H 19) ベミパール 21 スワルスキーカブリダニ剤 2008年(H 20) スワルスキー スワルスキープラス 22 チャバラアブラコバチ剤 2009年(H 21) チャバラ 23 キイカブリダニ剤 2013年(H 25) キイトップ 24 ヒメカメノコテントウ剤 2014年(H 26) カメノコS 25 ヨーロッパトビチビアメバチ剤 2014年(H 26) ヨーロッパトビチビアメバチ 【殺虫剤(微生物剤)】 種 類 名 初登録年 商 品 名 1 DCV水和剤 1974年(S 49) マツケミン水和剤(2剤) 2 モナクロスポリウム フィマトパガム剤 1990年(H 2) ネマヒトン 3 スタイナーネマ カーポカプサエ剤 1993年(H 5) バイオセーフ(4剤,3剤失効) 4 ボーベリア ブロンニアティ剤 1995年(H 7) バイオリサ・カミキリ 5 スタイナーネマ クシダイ水和剤 1997年(H 9) 芝市ネマ 6 パスツーリア ペネトランス水和剤 1998年(H 10) パストリア水和剤 7 バーティシリウム レカニ水和剤 2000年(H 12) バータレック マイコタール 8 スタイナーネマ グラセライ剤 2000年(H 12) バイオトピア(2剤,1剤失効) 9 ペキロマイセス フモソロセウス水和剤 2001年(H 13) プリファード水和剤 10 ボーベリア バシアーナ乳剤 2002年(H 14) ボタニガードES 11 チャハマキ顆粒病ウイルス・ リンゴコカクモンハマキ顆粒病ウイルス水和剤 2003年(H 15) ハマキ天敵(2剤,1剤失効) 12 ハスモンヨトウ核多角体病ウイルス水和剤 2007年(H 19) ハスモン天敵 ハスモンキラー 13 ボーベリア バシアーナ剤 2007年(H 19) バイオリサ・マダラ ボーベリアン 14 ペキロマイセス テヌイペス乳剤 2008年(H 20) ゴッツA(2剤) 15 ボーベリア バシアーナ水和剤 2012年(H 24) ボタニガード水和剤 16 メタリジウム アニソプリエ粒剤 2014年(H 26) パイレーツ粒剤
【殺虫剤(BT剤)】 種 類 名 初登録年 商 品 名 1 BT水和剤 1982年(S 57) セレクトジン水和剤 セルスタート水和剤(2剤) ダイポール水和剤(8剤) トアロー水和剤 バシレックス水和剤(2剤) ムシサイド チューリサイド水和剤(4剤,3剤失効) 【顆粒】 1996年(H 8) デルフィン水和剤 ゼンターリ顆粒水和剤(4剤,1剤失効) エスマルクDF(2剤,1剤失効) デルフィン顆粒水和剤 ファイブスター顆粒水和剤 チューンアップ顆粒水和剤 ツービットDF フローバックDF バイオマックスDF エコマスターBT チューレックス顆粒水和剤 ジャックポット顆粒水和剤 トップクエスト 【フロアブル】 1998年(H 10)バイオッシュフロアブル クオークフロアブル ブイハンターフロアブル サブリナフロアブル(2剤) 2 BT粒剤 2001年(H 13) ブイハンター粒剤 【殺菌剤】 種 類 名 初登録年 商 品 名 1 対抗菌剤 1955年(S 40) トリコデルマ生菌 2 アグロバクテリウム ラジオバクター剤 1989年(H 1) バクテローズ 3 非病原性エルビニア カロトボーラ水和剤 1997年(H 9) バイオキーパー水和剤(3剤,1剤失効) エコメイト 4 バチルス ズブチリス水和剤 1998年(H 10) ボトキラー水和剤【MBI 600株】 (3剤,1剤失効) インプレッション水和剤【QST-713株】(2剤) バイオワーク水和剤【Y 1336株】 ボトピカ水和剤【MBI 600株】 エコショット【D 747株】 アグロケア水和剤【HAI-0404株】 バチスター水和剤【Y 1336株】 セレナーデ水和剤【QST-713株】 5 シュードモナス フルオレッセンス剤 2001年(H 13)セル苗元気(2剤)
【殺菌剤】 種 類 名 初登録年 商 品 名 6 タラロマイセス フラバス水和剤 2001年(H 13)バイオトラスト水和剤【SAY-Y-94-01株】 タフパール【SAY-Y-94-01株】 タフブロック【SAY-Y-94-01株】 モミキーパー【B-422株】 タフブロックSP【SAY-Y-94-01株】 7 シュードモナスCAB-02水和剤 2001年(H 13)モミゲンキ水和剤(3剤) 8 非病原性フザリウム オキシスポラム水和剤 2002年(H 14)マルカライト 9 トリコデルマ アトロビリデ水和剤 2003年(H 15) エコホープ エコホープドライ エコホープDJ 10 ズッキーニ黄斑モザイクウイルス弱毒株水溶剤 【抗ウィルス剤】 2003年(H 15)キュービオZY キュービオZY-02 11 シュードモナス フルオレッセンス水和剤 2005年(H 17) ベジキーパー水和剤 12 バチルス シンプレクス水和剤 2006年(H 18) モミホープ水和剤 13 コニオチリウム ミニタンス水和剤 2007年(H 19) ミニタンWG 14 バリオボラックス パラドクス水和剤 2008年(H 20) フィールドキーパー水和剤 15 トウガラシマイルドモットルウイルス 弱毒株水溶剤 2012年(H 24) グリーンペパーPM 16 シュードモナス ロデシア水和剤 2013年(H 25) マスタピース水和剤 17 バチルス アミロリクエファシエンス水和剤 2014年(H 26) インプレッションクリア 【生物農薬と化学農薬等との混合殺菌剤】 種 類 名 初登録年 商 品 名 (1) 銅・バチルス ズブチリス水和剤 2009年(H 21) クリーンカップ【D 747株】 ケミヘル【D 747株】 (2) バチルス ズブチリス・メパニピリム水和剤 2009年(H 21) クリーンフルピカ【D 747株】 (3) バチルス ズブチリス・ポリオキシン水和剤 2010年(H 22) クリーンサポート【D 747株】 これらは生物農薬として扱われていないが参考のため掲示した。 【除草剤】 種 類 名 初登録年 商 品 名 1 ザントモナス キャンペストリス液剤 1997年(H 9) キャンペリコ液剤 2 ドレクスレラ モノセラス剤 2004年(H 16) タスマート 【植調剤】 種 類 名 初登録年 商 品 名 1 シュードモナス フルオレッセンス剤* 2001年(H 13)小苗ふく土(2005年(H 17)登録) *「シュードモナス フルオレッセンス剤」は,2001年に殺菌剤として商品名「セル苗元気」が登録され,2005年(H 17)に植物成長調整剤として商品名「小苗ふく土」が登録された。
表5-1 最近5年間に日植防に委託された生物農薬(病害防除) 委 託 薬 剤 名 依 頼 会 社 名 ○:初 登 録 年 有 効 成 分 名 試 験 対 象 病 害 虫 委託年度毎試験件数 2010 2011 2012 2013 2014 ボトキラー水和剤 出光興産 ○1998年 バチルス ズブチリス うどんこ病(きゅうり),かいよう病(トマト),黒 枯病(ピーマン) 2 3 インプレッション水和剤 DSバイオテック ○2003年 バチルス ズブチリスQST-713 うどんこ病(きゅうり),灰色かび病(トマト,ホッ プ),白斑葉枯病(にら・にんにく) 3 3 ボトピカ水和剤 出光興産 ○2005年 バチルス ズブチリスMBI 600 稲こうじ病,葉かび病(トマト) 2 エコショット クミアイ化学 ○2005年 バチルス ズブチリスD 747 斑点病(しそ),ぶどう(灰色かび・うどんこ),か いよう病(うめ) 6 1 2 アグロケア水和剤 日本曹達 ○2009年 バチルス ズブチリスHAI-0404 うどんこ病・灰色かび病(果菜,果樹),斑点病(しそ, トマトほか),アスパラガス褐斑病,しょうが白星病 ほか 22 15 14 7 6 バチスター水和剤 アリスタ・ライフサイエンス ○2010年 バチルス ズブチリスY 1336 うどんこ病(花き,きゅうり),灰色かび病(かんき つ,トマト) 9 1 3 2 SB-9501水和剤 SDSバイオテック ○2014年(インプレッションクリア) バチルス アミロリクエファシエンス うどんこ病・灰色かび病(果菜,ホップ等),すすか び病,黒枯病,白斑葉枯病,おうとう灰星病,芝葉 腐病ほか 4 16 20 21 37 イキイキグリーン水和剤 科研製薬 パエニバチルス ポリミキサBS-0105 う ど ん こ 病(き ゅ う り,す い か,パ セ リ),褐 斑 病 (きゅうり),炭疽病(すいか) 3 10 4 ベジキーパー水和剤 セントラル硝子 ○2005年 シュードモナス フルオレッセンスG 7090 黒 斑 細 菌 病 ほ か(き ゃ べ つ,は く さ い,ブ ロ ッ コ リー),たまねぎ腐敗病,うめかいよう病,ももせん 孔細菌病 5 5 9 11 2 セル苗元気・ライブコート種子 多木化学 ○2001年(セル苗元気) シ ュ ー ド モ ナ ス フ ル オ レ ッ セ ン スFPT-9601 FPH-9601 トマト青枯病 4 マスタピース(NR-24)水和剤 日本曹達 ○2013年 シュードモナス ロデシアHAI-0804 軟腐病・黒斑細菌病ほか(あぶらな科,レタス,セ ルリー),かいよう病(果樹),ももせん孔細菌病ほ か 15 8 18 17 27 フィールドキーパー水和剤 セントラル硝子 ○2008年 バリオボラックス パラドクス 根こぶ病(ブロッコリー) 3 4 2 CGC 2014水和剤 セントラル硝子 細菌 ブロッコリー花蕾腐敗病 2 エコホープ クミアイ化学 ○2003年 トリコデルマ アトロビリデSKT-1 稲もみ枯細菌病,りんご紫紋羽病 4 1 KIS-1103水和剤 石黒製薬所 トリコデルマ アスペレラムT-34 萎黄病(いちご),萎凋病(トマト),青枯病(トマト) 1 6 4 IK-158水和剤 出光興産 ○2012年(タフブロックSP) タラロマイセス フラバスSAY-Y-94-01 稲種籾消毒(いもち,ばか苗,もみ枯細菌,苗立枯 細菌),苗立枯病 22 3 タフブロック 出光興産 ○2007年 タラロマイセス フラバス(水和剤) 稲種籾消毒(ごま葉枯,ばか苗,苗立枯) 9 タフパール 出光興産 ○2007年 タラロマイセス フラバス(フロアブル) 灰色かび病(トマト) 1 ミニタンWG 石原産業ほか ○2007年 コニオチウム ミニタンスCON/M/91-08 菌核病(いんげん,キャベツ,なたね),黒腐菌核病 (ねぎ) 2 3 11 7 KNB-L 422フロアブル セントラル硝子 糸状菌 稲種籾消毒(もみ枯細菌病,苗立枯細菌病),稲苗立 枯病 10 KNB-W 422水和剤 セントラル硝子 糸状菌 稲種籾消毒(ばか苗病,もみ枯細菌病,苗立枯細菌 病),稲苗立枯病 13 8 MK-0501水和剤 Meiji Seikaファルマ 乳酸菌 はくさい軟腐病 3 4 ボタニガードES アリスタ・ライフサイエンス ○2002年(殺虫剤として) ボーベリア バシアーナGHA うどんこ病(きゅうり),青枯病(トマト) 2 マイコタール アリスタ・ライフサイエンス ○2001年(殺虫剤として) バーティシリウム レカニ うどんこ病(きゅうり),青枯病(トマト) 2 ゴッツA 住友化学 ○2008年(殺虫剤として) ペキロマイセス テヌイペスT 1 うどんこ病(いちご,きゅうり,すいか,ピーマン, メロン),きゅうり炭疽病 4 14 21 注)便宜上,果樹等の試験は作物分野ごとの運営区分の中で取り扱っている。
表5-2 最近5年間に日植防に委託された生物農薬(害虫防除) 委 託 薬 剤 名 依 頼 会 社 名 ○:初 登 録 年 有 効 成 分 名 試 験 対 象 病 害 虫 委託年度毎試験件数 2010 2011 2012 2013 2014 カブリダニPP シンジェンタジャパン ○2002年 チリカブリダニ ハダニ類(きく,カーネーション) 3 スパイカル アリスタ・ライフサイエンス ○2008年(スパイカルEX) ミヤコカブリダニ 露地野菜ハダニ類(きゅうり,なす,さやいんげん) 8 ミヤコトップ(CAS-013) アグリ総研 ○2011年 ミヤコカブリダニ ハダニ類(なす,ピーマン) 4 ミヤコスター(STS-02) 住化テクノサービス ○2013年 ミヤコカブリダニ ハダニ類(いちご,なす,ピーマン,きく) 4 11 1 ICB-06 石原産業ほか ミヤコカブリダニ(ボトル) いちごカンザワハダニ 3 ICB-008 石原産業ほか ミヤコカブリダニ(パック) ハダニ類(きゅうり,なす,いちご,なし,ぶどう, おうとう,花き) 1 25 ICB-010 石原産業ほか ミヤコカブリダニ(パック+バンカーシート) ハダニ類(きゅうり,なす,いちご,なし,ぶどう, おうとう,花き) 11 スワルスキー アリスタ・ライフサイエンス ○2008年 スワルスキーカブリダニ アザミウマ類(露地なす,きく),びわミカンハダニ 4 4 IK-19 出光興産 スワルスキーカブリダニ アザミウマ類(きゅうり),コナジラミ類(きゅうり, なす,ピーマン) 7 1 3 ICB-009 石原産業ほか スワルスキーカブリダニ(パック) アザミウマ類(果菜,花き,かんきつ,びわ,マン ゴー),コナジラミ類(果菜),ミカンハダニ(みかん) 7 38 ICB-011 石原産業ほか スワルスキーカブリダニ (パック+バンカーシート) アザミウマ類(果菜,花き,かんきつ,びわ,マン ゴー),コナジラミ類(果菜) 16 キイトップ(CAS-014) アグリ総研 ○2013年 キイカブリダニ アザミウマ類(きゅうり,なす) 4 2 ALE-1211 アリスタ・ライフサイエンス リモニカスカブリダニ アザミウマ類(きゅうり,なす,ピーマン,いちご), コナジラミ類(きゅうり,なす,ピーマン) 4 14 13 エントマイト アリスタ・ライフサイエンス トゲダニの一種 いちごキノコバエ類,にらネダニ類 2 カメノコS(STS-01) 住化テクノサービス ○2014年 ヒメカメノコテントウ アブラムシ類(いちご,なす,ピーマン) 6 12 CAS-016 アグリ総研 ヒメカメノコテントウ アブラムシ類(なす) 2 2 カゲタロウ アグロスター ○2001年 ヤマトクサカゲロウ むくげアブラムシ類 1 アフィパール アリスタ・ライフサイエンス ○1998年 コレマンアブラバチ アブラムシ類(きゅうり,なす) 5 ALE-1151 アリスタ・ライフサイエンス ギフアブラバチ アブラムシ類(なす,ピーマン) 3 2 7 ICB-03 石原産業ほか ○2006年(イサパラリ) イサエアヒメコバチ ハモグリバエ類(なす) 2 IL-007 石原産業 アカメガシワクダアザミウマ(箱) アザミウマ類(いちご) 5 ICB-007 石原産業ほか アカメガシワクダアザミウマ(ボトル) アザミウマ類(きゅうり,ピーマン,ししとう,い ちご,花き) 11 2 3 RS-2 住友化学 コミドリチビトビカスミカメ アザミウマ類(なす,ピーマン),コナジラミ類(な す,ピーマン) 13 1 ハスモン天敵 日本化薬 ○2007年 ハスモンヨトウ核多核体病ウイルス いちごハスモンヨトウ 1 NR-17液剤 日本曹達 オオタバコガ核多核体病ウイルス オオタバコガ(なす,ピーマン,アスパラガス,きゃ べつ,とうもろこし) 5 2 ハマキ天敵 アリスタ・ライフサイエンス ○2004年 チャハマキ顆粒病ウイルス・リンゴコカクモン ハマキ顆粒病ウイルス 茶チャハマキ 3 1
委 託 薬 剤 名 依 頼 会 社 名 ○:初 登 録 年 有 効 成 分 名 試 験 対 象 病 害 虫 委託年度毎試験件数 2010 2011 2012 2013 2014 ボタニガート(ALB-0664水和剤) アリスタ・ライフサイエンス ○2012年 ボーベリア バッシアーナ アザミウマ類(果菜),コナジラミ類(果菜),アブ ラムシ類(きゅうり) 9 9 5 ボタニガートES アリスタ・ライフサイエンス ○2002年 ボーベリア バッシアーナ アブラムシ類(きゅうり,なす,ピーマン),アザミ ウマ類(ピーマン),ハダニ類(きゅうり) 7 6 2 パイレーツ粒剤(ALB-0663 GR) アリスタ・ライフサイエンス ○2014年 メタリジウム アニソプリエ ア ザ ミ ウ マ 類(果 菜,花 き,ア ス パ ラ ガ ス,ね ぎ, マンゴー),なすハモグリバエ類 3 14 13 4 11 IK-2018水和剤 出光興産 糸状菌 きゃべつコナガ,きゅうりコナジラミ類 3 パストリア水和剤 サンケイ化学 ○1998年 パスツーリア ペネトランス ネコブセンチュウ(きゃべつ,きゅうり,トマト) 1 1 5 2 ゴッツA 住友化学 ○2008年 ペシロマイセス テヌイペス アブラムシ類(きゅうり) 2 NK-1211液剤 日本化薬 微生物 ネコブセンチュウ(きゅうり,トマト,にんじん), ネグサレセンチュウ(いちご) 7 バイオトピア SDSバイオテック ○2010年 スタイナーネマ グラセライ カブラヤガ(にんじん,ねぎ),タマナヤガ(だいこ ん) 4 バイオセーフ SDSバイオテック ○1993年 スタイナーネマ カーポカプサエ ヒメボクトウ(りんご,いちょう,なし),ぶどうク ビアカスカシバ,うめコスカシバ 2 1 4 2 注)便宜上,果樹等の試験は作物分野ごとの運営区分の中で取り扱っている。 表5-3 最近5年間に日植防に委託されたBT剤 委 託 薬 剤 名 依 頼 会 社 名 ○:初 登 録 年 有 効 成 分 名 試 験 対 象 病 害 虫 委託年度毎試験件数 2010 2011 2012 2013 2014 IK-2014水和剤 出光興産 バチルス チューリンゲンシス 稲コブノメイガ,イネツトムシ,フタオビコヤガ 3 6 IK-2017水和剤 出光興産 バチルス チューリンゲンシス 稲コブノメイガ,イネツトムシ,フタオビコヤガ 3 NI-35顆粒水和剤 日本曹達 バチルス チューリンゲンシス チョウ目害虫(きゃべつ,とうもろこし,なす,レ タス,りんご) 20 20 STゼンターリ顆粒水和剤 住友化学園芸 ○2006年 バチルス チューリンゲンシス ケムシ類(サクラ,プラタナス),つばき類チャドク ガ 10 ゼンターリ顆粒水和剤 住友化学 ○2006年 バチルス チューリンゲンシス アワノメイガ(あわ,ひえ,とうもろこし) 6 2 1 サブリナフロアブル Meijiファルマ・サンケイ化学 ○2006年 バチルス チューリンゲンシス ケムシ類(サクラ,プラタナス),つばき類チャドク ガ 4 ジャックポット顆粒水和剤 アリスタ・ライフサイエンス ○2010年 バチルス チューリンゲンシス ハスモンヨトウ(いちご,なす) 4 エスマルクDF 住友化学 ○1998年 バチルス チューリンゲンシス チョウ目害虫(稲,あわ,ひえ,だいこん,ばれい しょ,うめ,茶,花き,花木,さくら,綿花) 7 6 11 11 27 チューアップ顆粒水和剤 SDSバイオテック ○2000年 バチルス チューリンゲンシス 稲ニカメイチュウ,コブノメイガ,イネツトムシ, フタオビコヤガ,茶ハマキムシ類 9 5 7 9 6 フローバックDF 住友化学 ○2001年 バチルス チューリンゲンシス チ ョ ウ 目 害 虫(稲,あ わ,ひ え,そ ば,い ん げ ん, えんどう,ちんげんさい,だいこん,ばれいしょ, かんしょ,花き) 3 24 21 注)便宜上,BT剤の試験は作物分野ごとの運営区分の中で取り扱っている。
病害虫防除における生物農薬の課題と展望
─ 微生物農薬開発の歴史と展望 ─
独農研機構本部 連携普及企画室長仲 川 晃 生
は じ め に
日本植物防疫協会が行う新農薬実用化試験に,1994
年から 生物農薬試験が別途加えられて以来,現在までに20
年が経過 する。ここで検討された委託試験の数も1994
年度には病害・ 虫害合わせて,19
剤103
件であったものが,1999
年度には47
剤222
件に達し,本年(2014
年)度でも27
剤233
件を扱って いる(表1
)。しかし,順調に伸びているようにみえる生物農 薬も,現状は頭打ち感が強い。この原因は,端的に言えば「値 段が高い割りに効かない」の一言に尽きる。このため本論で は,生物農薬の抱える課題と展望について病害の分野を中心に 以下に述べて行きたい。生物農薬の現状
わが国の生物農薬は,1951
年に天敵(寄生蜂)剤としてル ビーアカヤドリコバチが登録となったことに始まり,微生物を 扱った生物農薬としては1954
年に山陽薬品㈱より,トリコデ ルマ生菌(対抗菌剤)がタバコの白絹病,腰折病に対して登録 された。トリコデルマ生菌の処理法は,10 a
当たり500 g
の割 合で20
倍程度のぬかに本剤を均一に混合し,タバコの株元に 散布するものであるが,散布した菌の定着・増殖の ために「お弁当(ぬか)」を持参させる工夫が目を 引く。残念ながら本剤はタバコ栽培の減少もあり2004
年6
月に失効となったが,約50
年の長きに亘 り登録を維持できたことは,生産者のニーズに対応 できた結果と思われる。 翻って現状の生物農薬の普及程度を生物農薬各剤 (殺虫剤,殺菌剤,除草剤)全体の出荷額を尺度と して見ると,2012
農薬年度では出荷総額は22
億1,200
万円に達している。このうち,天敵昆虫類の出荷額が全体の37.7
%(8
億3,500
万円)を占め,次い で微生物殺菌剤32.0
%(7
億800
万円),微生物殺虫剤(BT
剤含む)30.3
%(6
億7,000
万円)の順となり, 除草剤では出荷がなかった(図1
)。しかし,この生物農薬の出荷額は,化学農薬を含む殺虫剤,殺菌剤お 表1 生物農薬受託試験の推移 年度 受託薬剤数(剤) 受託件数 (件) 殺菌剤 殺虫剤 計 1984 2 17 19 103 1985 7 25 32 135 1986 8 30 38 168 1987 7 33 40 165 1988 8 36 44 169 1989 8 39 47 222 1990 13 34 47 200 1991 13 29 42 273 1992 15 31 46 290 1993 16 16 32 152 1994 17 25 42 193 1995 17 17 34 248 1996 18 16 34 237 1997 18 15 33 197 1998 17 17 34 278 1999 18 16 34 224 2000 19 18 37 171 2011 14 14 28 155 2012 9 10 19 157 2013 11 12 23 130 2014 10 17 27 233 天敵昆虫等 37.7% BT剤 23.2% 殺菌剤32.0% 除草剤0% 天敵微生物7.1% 図1 生物農薬出荷額における各薬剤の割合よび除草剤を合わせた総出荷額
3,501
億円のわずか0.63
%を占めているに過ぎない。生物農薬全体の出荷額 は2004
農薬年度に19
億5,200
万円に達して以降,今日までの10
年間はほぼ20
億円前後で均衡している。 登録生物農薬数は2014
年現在,殺虫剤が34
種類64
剤,殺菌剤が13
(+混合剤3
)種28
(+混合剤4
)剤, 除草剤が1
種1
剤登録されている。2012
年度の生物農薬の殺虫剤と殺菌剤それぞれの主要な製剤の割合を見てみると,殺虫剤(総出荷額15
億400
万円)では,BT
剤の出荷額が全出荷額の34.1
%を占め,次いで天敵昆虫類製剤であるスワルスキー カブリダニ剤の20.1
%,チリカブリダニ剤の12.2
%,ミヤコカブリダニ剤の10.0
%の順に出荷額が多い(図2
)。 一方,殺菌剤(総額7
億800
万円)では,バチルス ズブチリス水和剤が全出荷額の35.2
%と多く,次い でタラロマイセス フラバス水和剤24.9
%,非病原性エルビニア カルトボーラ水和剤19.8
%,トリコデル マ アトロビリデ水和剤14.6
%の順となっている。これら生物農薬は,環境保全型農業が重要視され始めた1990
年頃から新規剤の開発が盛んになり,環境保全型農業を担う基幹防除技術として広く利用が期待され ているものの,現状は特定の数剤の利用に偏る傾向が認められ,特に殺菌剤でその傾向が顕著である(図3
)。生物防除を取り巻く状況
中央農研を含む農研機構の各地域研究センターでは,所管各県の該当年度の研究課題を農業試験研究成 績・計画概要集としてまとめている。農研機構が第3
期中期計画に入った2011
年からは,その作成を中止 したが,第2
期最終年の2010
年における中央農研所管の関東東山地域で取り組まれている土壌病害に対す る研究項目を研究概要書に基づき整理したものを図4
に示した。研究項目としては,病害防除に関わる 項目が多く,その内訳は耕種的防除法29.5
%,生物 的防除法19.7
%,薬剤防除13.7
%と,その62.9
%が 病害防除に関する研究であり,その他発生生態の研 究が17.6
%の割合で行われていた。このことから は,現状の研究の中において,環境に優しい防除の 研究が積極的に取り組まれ,生物防除も耕種的防除 に次ぐ研究テーマとなっていることが判る。 BT水和剤 34.1% スワルスキー カブリダニ 20.1% その他16.6% チリカブリダニ剤 12.2% ミヤコカブリ ダニ剤 10.0% ボーベリア バシアーナ剤 3.5% ボーベリア ブロンニアティ 3.5% 図2 生物農薬殺虫剤出荷額における主要製剤の割合 バチルス ズブチリス剤 35.2% タラロマイセス フラバス剤 24.9% 非病原性 エルビニア剤 19.8% トリコデルマ アトロビリデ剤 14.6% その他5.5% 図3 生物農薬殺菌虫剤出荷額における主要製剤の割合 耕種的防除法 29.5% 生物的防除法 19.7% 薬剤防除法 13.7% 発生生態17.6% その他3.9% 同定・検出法7.8% 新発生病害 7.8% 図4 関東東山地域で取組まれている土壌病害の研究項目一方,行政的な動きに目を向けると,中国産食品の安全性から端を発した残留農薬のポジティブリスト制 の導入や食の偽装問題に代表されるように,消費者側の食の安全・安心に対する関心は非常に高く,安全な 食品の供給に対するニーズも大きい。このような要望を受けて行政側も
2010
年3
月に「食料・農業・農村 基本計画」を閣議決定し,今後のわが国の農業を環境に調和した持続可能な農業へと移行させることの必要 性を強調している。そしてこの達成のために,病害虫防除の場面においては,IPM
の概念に基づき,化学 農薬への依存を減らした病害虫管理技術の実行が重要な課題となってきている。IPM
とは,化学農薬の使 用を出来るだけ控え,耕種的防除技術,生物的防除技術,物理的防除技術などの手段を合理的に組み合わせ ることで,病害虫によるリスク管理を図るものであり,IPM
の概念に基づいた環境保全型農業推進のため には,耕種的防除を中心とし,生物農薬の積極的な使用による農業生産技術の開発が必要となる。すなわち, 今後とも生物防除や生物農薬と言った分野の担う役割は大きく,これらに対する潜在的ニーズも高いと言え る。特に,生物農薬はホジティブリスト規制対象外となり,使用農薬回数にカウントされないことから減農 薬栽培技術を確立する上で重要な要素技術である。また,化学農薬に対する耐性菌や抵抗性害虫に対しても 有効な手段となるなどの多くの利点も持つ有望なツールであると言えよう。生産者側が抱える課題
微生物農薬は,効力が不安定で保存性が劣り,使用方法が難しく気象条件に影響を受け易いなど多くの問 題があるために,農家が積極的に使用するにはハードルが高い面があることは否定できない。行徳(2004
) が2004
年に行われた本シンポジウム「生物農薬 ─ この10
年間と今後の展望 ─」にて普及における問題点 として記述しているように,① 生物農薬の価格は高く,② 安定した効果を得るためには技術,知識が必要 であり,③ 生物農薬を導入した時のメリットは何か?と言った点に問題が残ることを指摘している。これ らの点は真に正 を射ており,端的に言えば,「高いくせに効かない」のが最大の問題だからである。エン ドユーザーたる農家からすれば,これは今までとは違う新しい剤ですと言われて剤を手にし,よく効くのだ ろうと思って使った結果が期待にそぐわねば,二度と生物農薬と言う剤を手にしなくなるのは自明の理であ る。この原因の一つには,黎明期の生物農薬の判定会議においては,生物農薬だからと言う理由で甘い判定 がなされたこともあり,その結果としてエンドユーザーが臍を噛むことになったのであれば,事実を真摯に 受け止め猛省すべきである。生物農薬と言う「生き物」を扱った剤の効果限界を使用範囲の中に明確に示す ことがまず第一に必要である。 行徳(2004
)が示した3
つの課題の内,①生物農薬の価格が高い点については,多数の農薬が使われるよ うになれば,需要と供給のバランスを持って価格は現状よりも下がるであろうと言う事は,ある程度理解さ れよう。しかし,③の生物農薬の導入メリットについては,生物農薬を使うことによる差別化を図っている 場合には,皆が一律に生物農薬を導入した時点で先行メリットはなくなってしまうことは指摘通りである。 この問いかけについては,現時点では今後の社会的な情勢として,化学農薬一辺倒の防除は受け入れられな くなって来ていると言う答えしか持ち得ない。 我々は農業に係わる技術者として,②安定した効果を得るための技術開発に真摯に取り組むことが,ます ます重要となってくる。生物農薬の利用促進のために
病害防除における微生物農薬を対象として考えた場合,効果安定のためには,ともかくよく効く拮抗微生 物を手に入れることが重要であり,また,効かすための工夫が必要となる。このためには,拮抗微生物側の 育種による高能力菌・広スペクトラム菌の開発,連用による効果の安定,化学農薬との組み合わせ等の方策 が考えられる。 ⑴ 拮抗微生物側の育種による高能力菌・広スペクトラム菌の開発 微生物農薬が効かないと言う問題を解決する一番の方策は,防除効果の高い有望な菌株を使うことであ る。このためには,より広範な分離源から有用菌を分離し,有望菌株の選抜を行うことも必要ではあるが, 現在ある有用菌から有望な菌株を作出することも一つの手段として考えるべきである。糸状菌である食用き のこでは,選択育種,分離育種,交配育種,導入育種,突然変異育種,細胞選抜育種等の技術を使い,有望 菌株の作出・育成を行っている(金子,2013
)。拮抗微生物に対する突然変異育種については,シュードモ ナス フルオレッセンス菌に対し,イオンビームを用いることで親株よりも高い発病抑制効果の作出が試み られた(Aino
,2009
)。これなども,今後の高能力な有望菌株を得る上で重要な方策である。 一方,拮抗微生物は通常,特定の病原菌に対して特定の拮抗微生物が選抜されてきている。このため,多 くの病原菌について同時に効果を示す広スペクトラムな拮抗微生物としての選抜はなされて来ていない。現 状,能力的に比較的多くの病原菌について効果を示す事のできる拮抗微生物は,バチルス ズブチリス菌等 が考えられ,殺菌剤の出荷額で同菌製剤が35.2
%と多い原因もここにあると考えられる。化学農薬では散 布により,登録にはない病害も同時に防除していると考えられるため,複数の病害に対し,同時に効果を示 す広スペクトラムな拮抗微生物の利用は,今後の生物農薬の普及促進を図る上で必須の課題である。 ⑵ 効果の安定のための連用 拮抗微生物を用いて土壌病害防除を行う場合の考え方として,もともとその地に定着していた土着の拮抗 微生物(General antagonizm
)集団の活性を増強させて病害の発生を制御しようとする方策と,有用な特定 の拮抗微生物(Specific antagonizm
)を化学農薬を施用するように直接的に導入して病害を防除しようとす る場合の大きく二通りの考え方がある。General antagonizm
では,拮抗微生物は土着の多種類の微生物集団 であり,多量の有機物を施用することでその場に住んでいた拮抗微生物集団の活性(菌密度)を高め,その 結果として病原菌を抑え込めようとする方法である。元来,土着の拮抗微生物であることから,土壌への定 着は容易であると考えられる。これに対しSpecific antagonizm
の場合,特定の拮抗微生物を用いると,施 用直後から土着の微生物の攻撃にさらされると考えられ,定着が容易でないという側面を有す。 生物農薬実用化試験の場合,通常は化学農薬と同じく一作期における効果判定がなされ,同じ剤を作期を またいで連用した場合に,拮抗微生物が圃場にどのような密度で残り,作次を重ねることで発病がどのよう に低下して行くかを検証する試験とはなっていない。土壌病害防除において,究極の生物防除は発病抑止土 壌を作ることだとも言われていることからも,連用による発病抑止タイプの土壌の醸成なども今後の検討方 向として,取り組むべきである。 コニオチリウム ミニタンスは,菌核病菌などの菌核に取り付く拮抗微生物であり,試験的には圃場への 連用することで菌核病菌の発生が経年的に低下する事が知られる(Gerlagh, M. et al 1999
)。生産者側からす れば,経営上問題のないレベルにまで発病が下がるまでに如何に収益を確保するかと言う問題はあるにせよ,ことに難防除とされる土壌病害防除においては,生物農薬の連用による効果について検討する必要はあ る。 ⑶ 化学農薬との組み合わせ 天敵殺虫剤ではゼロ放飼と言う考え方がある。これは例えばミヤコカブリダニを用いてハダニを防除する 際に,ハダニの密度がゼロに近い状態でミヤコカブリダニを放飼すると安定した防除効果が得られるため, 放飼前に殺ダニ剤を散布することでハダニ密度を計画的にゼロにしておくものである(田中,
2011
)。微生 物殺菌剤では一般に,甚発生条件下では効果がでないことから,菌密度が高いときは,使用する微生物に影 響の少ない化学農薬を使い菌密度を下げた後に使用することが望ましい。 また,近年は銅・バチルス ズブチリス水和剤のように化学薬剤と微生物農薬成分を混用した製剤が作成 され,慣行薬剤と同等の高い効果を示している。本剤は,生菌と天然の銅(水酸化第二銅)が有効成分のた め特別栽培での使用成分回数にカウントされず,また,収穫前日まで使用できるなどの特徴を有す。 効果の安定化のため化学薬剤との組み合わせについて剤としての混合方策の他,輪番散布など体系防除の 中での生物農薬の位置付けについて積極的に検討する必要がある。お わ り に
生物農薬の利用促進については,日本植物病理学会バイオコントロール研究会(2013
,2007
,2012
)にお いても,土壌病害を中心として取り上げられて論議されてきた。ここでの論議は,生産者を交えない学者中 心の論議であるため,現場の実態から乖離した感は否めないにしても,活用のための一つの方向性としては, 生物農薬の利用をIPM
(総合的病害虫管理)体系の中の一つの基幹技術として組み入れることで防除効果 を安定化させようとする方向性が示されている。 生物農薬は本来化学物質でない生き物を使って病害虫を防除しようというものであるから,その扱い方は 化学物質をパラパラと撒いていた場合とは自ずと異なり,この点で生産者の意識改革は必須となる。IPM
を進めるに当たっても,行徳(2009
)が示した,②安定した効果を得るための方策の開発が技術の定着には 不可欠であり,とりわけ発生病害虫の見極め(同定)と生物農薬の処理方法と処理時期の判断等ができる指 導者の育成と指導体制の確立は,生物農薬の普及を図る上で重要な課題である。 日本植物防疫協会の行う生物農薬の実用化試験においても,現状行っている個別農薬の効果判定会議のほ か,IPM
概念に基づいた体系処理による実用効果検討会の開催に取り組む時期ではないだろうか。生物農 薬は今後の農業生産のための基本技術となり得るだけに,普及には生産者・行政・普及組織・研究者の連携 を密にした体制の整備・確立が強く求められる。 参 考 文 献1)Aino, M. et al.(2009)Improvement of endphytic bacteria using ion beams, JAEA Takasaki Annual Report 2009, p 77. 2)バイオコントロール研究会(2003):土作りの中の生物防除 ─ 土着・導入微生物活性化技術の開発を目指して.日
本植物病理学会pp 1-80.
3)バイオコントロール研究会(2007):生物農薬の新戦略とバイオコントロール研究の最前線.日本植物病理学会pp 1-122.
4)バイオコントロール研究会(2012):生物農薬が直面している問題点と今後の展開.日本植物病理学会pp 1-74.
5)Gerlagh, M. et al(1999)Long-Term Biosanitation by Application of Coniothyrium minitans on Sclerotinia
sclerotiorum-Infected Crops. Phytopathology 89. p 141-147.
6)行徳 裕(2004):生物農薬の普及における問題点.日本植物防疫協会.シンポジウム 生物農薬 ─ この10年間と 今後の展望 ─ 講演要旨pp 54-56.
7)金子周平(2013):キノコの育種について.森林遺伝育種Vol. 2.p 113-116
8)田中 尚(2011):ミヤコカブリダニによるイチゴのハダニ防除は秋のゼロ放飼がカギ.技術と普及Vol. 48⑴pp 25.