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企業から見た生物農薬の展望②

ドキュメント内 シンポジウム1501.smd (ページ 35-43)

石原産業株式会社 中央研究所

森 光太郎

は じ め に

当社は

1920

年に鉱山事業により創業し,

1950

年の除草剤

2,4

D

の導入により化学農薬事業に参入した化 学メーカーである。これまで複数の除草剤,殺虫剤,殺菌剤を自社開発することにより,世界の農業生産に 貢献してきた(図

1

)。

近年,環境負荷低減,安全で安心な農作物への社会的関心の高まり,そして生産現場における農薬の連用 による薬剤抵抗性の発達などを受け,総合的有害生物管理(

IPM

)が世界的にも国内でも推進されている(た とえば,総合的病害虫・雑草管理(

IPM

)実践指針(

2005

);

van Lenteren 2012

)。今後,国内外において成 長が期待される分野であるため,当社における

IPM

分野の推進は,国内外の拡販につながる有力な戦略の 一つである。この流れのなか,当社は天敵に影響の少ない,親環境・安全農薬の開発・商業化に積極的に取 り組んでいる。また,

2000

年からは生物農薬の開発も手がけてきた。薬剤抵抗性の発達を回避し,当社化 学農薬をより長く使っていただけるようにするためにも生物農薬の開発と普及は価値があると考えている。

当社はこれまで,① 天敵と選択性化学農薬の併用(チリガブリ(当社チリカブリダニ剤)とアカリタッ チ乳剤併用技術確立(石原バイオサイエンス株式会社

2008

;山口ら

2014

)),② バンカー法の利用(例 えば,コレパラリ(当社コレマンアブラバチ剤)を用いたバンカー法の開発)(森ら

2011

;森ら

2013

),

③ 圃場内に対象害虫が不在でも生息しうる広食性天敵の利用(例えば,天敵アカメガシワクダアザミウマ の開発)(たとえば,東浦ら

2013

;勝山ら

2014

;森

2013

;森ら

2014

)というテーマに取り組んできた。

これらに加えて,近年,広食性カブリダニ類をより長く圃場内で維持する技術の開発に取り組んでいる(香

2014年12月1日上市

図1 当社有機化学部門の事業展開

http://www.iskweb.co.jp/research/development.html

川ら

2014

)。

本稿では当社事業のうち生物農薬事業を紹介し,将来の展望について述べる。

1 .生物農薬市場

IPM

の基盤技術である生物農薬の市場規模は毎年増加している。世界市場では,

2006

年には,

5.4

億ドル,

2008

年には

7.5

億ドル,

2011

年には,

13

億ドルになったとされる。また,国内の生物農薬の

2013

年度の 国内出荷額は約

23.3

億円で(おおよそ,殺虫剤

16.2

億,殺菌剤

7.1

億)(農薬要覧

2014

日本植物防疫協 会),

2000

年度の出荷額の

5

倍の伸び率を示している。しかしながら,この値は化学農薬(殺虫剤と殺菌剤)

の出荷額の

1

%にすぎない。

2 .生物農薬の普及

⑴ 生物農薬の普及が進まない理由

これまで,生物農薬のなかでも,施設野菜における天敵の利用技術が長く研究され,実用化されてきた。

世界的に見れば,最初の生物的防除が行われてから約

120

年が経過している(

van Lenteren 2012

)。日本で は放飼増強法(

augmentation

)のエージェント候補として

1966

年にチリカブリダニが導入され約

50

年経つ

(たとえば森・真梶

1977

;森

1993

)。しかしながら,天敵の放飼時期の見極めが難しいこと,天敵と併用 できる薬剤が限られることなどの問題があった(たとえば,矢野

2009

)。そのため,効果が化学農薬と比 べて不安定と見なされ,普及が十分に進んでいるとは言えない。また生産現場では複数の病害虫が発生し,

これらはすべて防除対象となる。ある害虫に対して

1

種類の生物農薬を利用すると,他の病害虫に対する農 薬の使用が制限されてしまうケースが生じ,使いにくい防除方法と認識されてしまう。

⑵ 生物農薬を普及させる対策

したがって,企業が

IPM

を推進するためには,生物農薬と化学農薬の製品群をそろえること,そして各 作物の作型ごとにこれらの防除剤を組み込み,栽培管理全体を考慮した防除暦(

IPM

プログラム)を作る ことが有効である。当然ながら,この

IPM

プログラムは効果の安定したものでなければならない。また効 果の安定性を保証するために,室内環境下を含む基礎的な技術開発や大規模な圃場試験を積み重ね,

IPM

プログラムをより成功率が高く安定したものに仕上げていく必要がある。

⑶ 生物農薬製品群の充実

以上を考慮して当社ではまず,生物農薬の製品群を充実させることを目指し,各害虫に対応した生物農薬 の開発に着手している。現在,当社では

4

種の天敵(チリカブリダニ(商品名:チリガブリ;対象害虫:

ハダニ類),コレマンアブラバチ(コレパラリ;アブラムシ類),オンシツツヤコバチ(ツヤパラリ;コ ナジラミ類),イサエアヒメコバチ(イサパラリ;ハモグリバエ類)を農薬登録しているが,これに加えて,

アカメガシワクダアザミウマ(対象害虫:アザミウマ類),ミヤコカブリダニ(対象害虫:ハダニ類),スワ ルスキーカブリダニ(対象害虫:アザミウマ類とコナジラミ類)という

3

種の捕食性天敵の農薬登録を目指 している。

⑷ 生物農薬の利用技術の開発

また,当社では研究所が主体となってそれぞれの生物農薬の利用技術の開発も行っている。本稿では広食

性カブリダニ類の利用技術開発について紹介する。

従来,天敵の農薬的利用は害虫発生初期に大量増殖した天敵を複数回放飼する方法が一般的であった(放 飼増強法

augmentative biological control

)。また,圃場内で天敵を維持,増殖させて利用する技術「バンカー 法」も開発された(たとえば

Frank 2010

;長坂ら

2010

)。これは天敵の代替餌個体群(バンカー)を圃場 内に設置することにより,天敵個体群を維持する方法である。この方法はうまくいけば天敵を圃場内に常在 させることができ,放飼のタイミングを見極める必要性がなくなる。少量放飼で済むので処理コストを低減 させることもできる。現状,実用化されているのは寄生蜂やテントウムシなどの大型の天敵類である。これ らの代替餌はプランター植えの麦などに寄生したアブラムシ(作物の害虫とならない種)が用いられている。

問題点は,バンカーの維持,管理には手間がかかることである。より簡便なかたちでバンカー法のコンセプ トがカブリダニ類に適用でき,実用化されれば,普及に貢献するに違いない。このような考えのもと,当社 らが開発しているのが,「バンカーシート」という資材を基盤とする「いつでも天敵TM」である。

ところで,「圃場内で天敵を定着させること/増殖させること」というコンセプトは近年海外でも注目さ れている(

Messelink et al. 2014

)。たとえば,ガマなどの花粉あるいはブラインシュリンプのシストの散布 をカブリダニの放飼と組み合わせる方法である(

van Rijn 1999

Vangansbeke et al. 2014

)。さらに

Adar

2014

)は,カブリダニの餌となる花粉をまぶした紐を作物の枝に引っ掛けることにより,カブリダニの定 着性を促進することを試みた。しかしながら,これら海外の取り組みは,技術面やコスト面で実用化レベル に至っているとは必ずしも言えない。一方,「バンカーシート」を用いた「いつでも天敵TM」は以下に述 べるように,より実用化に近いと考えている。

3 .「いつでも天敵

TM

」の開発

⑴ カブリダニ類の定着不良の要因

スワルスキーカブリダニAmblyseius swirskii

Athias-Henriot

とミヤコカブリダニNeoseiulus californicus

McGregor

)はそれぞれアザミウマ類・コナジラミ類とハダニ類の天敵として市販されている。これらのカ

ブリダニは害虫に加えて,作物の花粉でも増殖可能なことから(雑食性),放飼後の圃場への定着性も比較 的よく(たとえば伊藤ら

2014

),施設栽培のアザミウマ類・コナジラミ類やハダニ類の防除剤として利用 されている(たとえば

Gerson and Weintraub 2007

)。

しかし,圃場内に放飼されたカブリダニ類は,

1

.産卵場所や隠れ場所の不足,

2

.高温・低温および乾燥,

3

.エサ(=花粉または害虫)の不足,

4

.農薬の影響といった要因により,定着および増殖が困難な場合が 少なくない。これらが防除効果の不安定性の要因となっている。

そこで当社らは,不安定性の要因を解消する技術開発を行ってきた。それは,カブリダニの産卵用基質と,

パック製剤(紙製の袋内に餌ダニおよびふすまを含んだカブリダニ製剤)を紙製シェルター「バンカーシー ト」で包括することを特徴とするカブリダニ増殖装置「いつでも天敵TM」である(写真

1

)。バンカーシー トは作物の枝葉に直接容易に設置することが可能である。この技術は既存の天敵をより使いやすくする技 術を目指している(下田ら

2014

)。

⑵ バンカーシートのカブリダニ個体群維持効果

バンカーシートは,内部の天敵に適した環境を提供し,天敵個体群を長期間維持することを意図してい

る資材である。天敵に適した環境を提供することと は,一方では産卵を促進するために箱状の内部に産 卵基質を設置することであり,他方では薬剤散布や 降雨から内部のカブリダニを保護するために耐水性 の紙を使用することである。

実際,この資材を用いることにより,

1

回の放飼 で

3

ケ月間の長期に亘ってカブリダニ類を維持した 事例も見られた。この資材をかんきつ温室内の樹に 吊り下げたところ,設置

3

ケ月後も資材内でカブリ ダニ類の生息が確認できた(図

2

)。パック製剤に 含まれるカブリダニの餌ダニが増殖し,カブリダニ 個体群が維持されていたと推測している。また,資

材内は外気と比較して温度および湿度が安定する効果が観察されるケースもあった。温度や湿度はカブリダ ニの生存や増殖にとって非常に重要な条件である。

バンカーシートはカブリダニにとって居心地のよい環境で,そこから作物へ分散しにくい可能性があっ た。しかしながら,バンカーシートを設置したナス上のカブリダニ数を調べてみると,パック製剤だけを 設置した場合と比べて

1

週間後はやや少ないものの,

2

週間後以降は葉上の個体数はパック製剤をつるした 株よりも多くなり,この状態は

3

ケ月間持続した。

⑶ バンカーシートの薬剤シェルター効果

また,バンカーシートの薬剤シェルターとしての効果も確認された。ポット植えのナスに異なる剤形で 写真1 バンカーシート

左:組み立て前,中:パック製剤を入れて組み立て,右:ナスに設置したバンカーシート 30

25 20 15 10 5 0

平均スϫル成虫数

産卵基質 花粉 防カビ剤

産卵基質 花粉

産卵基質 無し

(バンカー シートのみ)

2週間後 1ケ月後 2ケ月後 3ケ月後

図2 バンカーシートの開発試験(香川ら 未発表)

バンカーシートに様々な要素を入れた場合のス ワルスキーカブリダニ個体数。

ドキュメント内 シンポジウム1501.smd (ページ 35-43)

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