農業経営組織の変革における組織文化の役割 農業法人研究における理論的意義の検討
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(2) 32 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). バーの行動や組織の能率に影響するメカニズムを. 従って,組織文化は,開発や変革が可能なソフ. 研究の焦点としてきた。組織文化とは,基本的に. トな経営資源として認識されるため,組織変革の. 「組織を構成しているメンバーの間で共有されて. 重要な対象として論じられつつある。組織がその. い る 価 値 観 や 規 範 」 と み ら れ て い る(Jones,. 目標達成の困難さを感じたり,活動業績の低下を. 2013:p.201)。そして,これは同じ組織に属する. 感じたりする場合には,組織の持つ価値観,意識,. 経営者や従業員の内部における相互作用だけでは. 行動モデル,業績評価枠組などで経営環境への適. なく,顧客や外部の人々との相互作用の仕方に強. 応力が低くなったと感じる。その場合には,経営. く影響する。組織文化は,組織成員の前提となる. 改革の一環として,組織文化の変革が目指される。. 価値やものの見方を表した象徴であり,組織で共. その変革を通じて,経営や事業活動の変革につな. 有されるストーリー,儀式,シンボル,言語に現. がる従業員の行動変容をもたらすと考えられてい. れる。これは,意識や価値観,それに基づく言葉,. る。ディール=ケネディ(1983)が「シンボリッ. 理念標語だけではなく,ロゴや建築などの人工的. ク・マネジャー」として概念化したように,経営. な物にも表象される(シャイン,2016) 。そこで. 者の役割は,文化変革をすることで競争力を構築. 組織文化,その組織の真理はどのように創造され,. する面も考えられるようになった。文化面での変. コントロールされるのだろうか。シャイン(1989). 革型リーダーシップのあり方も検討されつつあ. はそれこそがリーダーの力,またリーダーシップ. る。. の重要な機能の1つといっている。 組織文化論は,組織文化が企業組織のソフトな. 3 組織文化論から見る農業法人の経営改革. 内部構造であり,経営者や従業員の相互作用や行. 組織文化論は,元々は,大規模で多国籍化もし. 動を制約するだけではなく,実際の活動を形作る. ている製造やサービス分野での企業組織の研究か. という新たな視点を与えた注2)。組織文化は組織. らスタートしており,中小零細企業の研究はまだ. としてのアイデンティティー,共通の解釈ルール,. 多くない(Brettel et al, 2015)。従って,中小零. 組織へのコミットメント,そして組織の一貫性と. 細規模の法人や家族経営の多い農業法人等,農業. 安定性を創り出すとされる(Kreitner and Kin-. 経営の分析に利用する場合には,一定の修正が必. icki, 2011:pp.66-68) 。そして,経営者(リーダー). 要であると思われる。. が,事業や戦略に適合する組織文化を構築し,強. 農業経営をする主体は,個別農業経営体と地域. い文化へと強化することにより,組織行動の統制. 農業組織があるだろうが,組織文化の面で考える. が行え,競争力が得られるとの認識も生み出した。. と,いくつかの特性はある。現代では,農地流動. ピーターズ=ウォーターマン(1983)によれば,. 化に伴い土地持ち非農家が急増し,各集落に組織. 企業の信奉する価値観がトップから末端まで浸透. されている農事実行組合の機能が低下している現. し,1つの包括的な信念が形成されている状態を,. 状があるため(伊庭,2017),本稿では前述した. 「強い文化」と呼び,それに基づく実践はメンバー. ように,文化変革を行う組織の代表として,農業. から高いコミットメントを引き出し,それを企業. 法人を中心に考察するが,その産業的に持つ特性. にとって望ましい方向に向けさせることが可能と. として,①中小零細さ,②産業規制の強さ,③地. なる。故に,組織文化はソフトな経営資源,また. 域文化の影響,④事業の社会性,⑤グローバル化. は見えざる資産ともいわれる(伊丹,2004) 。そ. への圧力などは存在するだろう。. の点では,類義語である組織風土の土着性の強さ. 第一に,一万人を超える大規模法人は無く,圧. と異なる。組織風土は,組織メンバーの相互作用. 倒的に300人以下の中小,零細法人が存在する。. を通じて共有された特性であり,組織における人. そのために,広く経営学的には,中小企業論と同. 間行動を説明するための概念である。あくまで,. じ射程に入る。第二に,参入退出や事業活動に対. 組織や職務を取り巻く環境に対する個人の知覚で. し,強い政府や社会の規制が存在する。第三に,. ある心理的風土の集積を指す(北居,2014) 。. 存在する村落や地域社会に強く埋め込まれている.
(3) 農業経営組織の変革における組織文化の役割 33. ので,それらの文化的影響を受ける。第四に,単 なる収益性だけではなく,地域社会の維持,農村 地域の環境保全など,その事業の社会性の強さか ら「社会的企業」の面も強いと考えられる。第五. 立場である(ローシュ=マクタグ,2016) 。本稿 では前者の立場で以降の議論を展開する。. Ⅱ 組織文化の変革. に,2019年4月の改正入管法以降,外国人労働者 導入を契機に,地域として,また組織としての内 なる国際化が進み,多様性の増加が予想される。 従って,農業法人に関しては,中小企業の組織文 化論として論じる方が,方法論的には適切かと考 えられる。 4 農業法人の見えざる資産の形成を目指して 農業法人の組織文化を考える理由は,大きくは 意識変革を通じた組織変革と,それによる組織の 成果を発展させることにあるだろう。それにより 農業法人の見えざる資産として,発展や競争の面 で有効な組織文化を開発することになるだろう。 その組織文化のあり方としては,次の5つを含む 組織文化の構築が考えられる。第一に,組織の市 場志向性や顧客志向性である。第二に,組織のイ ノベーション志向性や起業志向性である。第三に, 従業員のモチベーションの活性化の面である(中 小企業と同じく,高所得を保証しづらいために, 内発的動機付けの重要性が考えられる) 。第四に, トップのリーダーシップのあり方に対する変革志 向である。第五に社会的企業として,地域共生の 面である。これらを持つ文化を構築して,農業法 人の「見えざる資産」としての組織文化を検討す. 1 文化変容を通じた組織変革 近年,経営改革における組織変革は,組織文化 の変容が主対象である。その重要なアプローチと して,組織の戦略や環境に適合的な,価値,信念, 規範,行動モデルを新たに開発することが,変革 の 重 要 な ア プ ロ ー チ と 見 な さ れ て い る(Cummings and Worley, 2015:p.161)。従業員に強い 文化を共有させ,組織の目標やビジョンに合わせ た統一的な行動をとらせる。戦略にあった文化の 形成や,その共有の程度の違いは,組織の競争力 に違いを与える。 ここでは,組織文化の共有,リーダーシップの 発揮による文化の改革を通じた組織行動の変容, 中小企業における組織文化変革の効果,そして農 業法人で期待される変容について議論する。 2 文化の共有 組織文化は,組織の価値を体現したシンボルや 理念を構築し,組織成員がそれらの示す価値や規 範について文化的社会化を通じて共有することで 展開する。組織文化の内容そのものは,4つの要 因を源泉として生まれる(Jones, 2013:pp.215-. る必要があるだろう。. 219)。. 注1)https://www.smbc.co.jp/news/html/j930012/ j930012_01.html。取得日2019年7月25日。 注2)組織文化論は,機能主義的組織文化論と解釈 主義的組織文化論にわけられる(坂下,2002)。 前者は,組織文化は変数化が可能であり,変数 間の関係が理解されることで,組織をコントロー ルするための手段として利用可能,とする立場 である。一方後者は,人間の思考や相互行為の 結果としての組織文化がある,とする立場であ る(ただし,それは組織形成のための資源とも なる)。誤解を恐れず単純化するのであれば,結 果に影響を与える立場が前者であり,後者は変 革の結果であり,変革を検討する対象ではない. 有する価値観そのものである。経営者の価値観は. 第一に,実際に組織に属する経営者や従業員の ことに文化形成に大きな影響を与える。第二に, 経営者を含む組織の持つ倫理観である。第三に, 所有権のあり方である。所有者が所有権の大半を 持つと,所有者の価値観や意識が,文化内容のあ り方に大きく影響する。他方で,従業員持ち株制 度は,従業員の文化関与を強め,文化のあり方へ の影響が強まる。第四に,組織構造のあり方であ る。官僚制的構造は官僚文化を創りやすく,フ ラットな組織は創造性を高める。組織の文化の定 着は,組織成員の文化的社会化を通じて行われ る。.
(4) 34 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). 3 リーダーシップの発揮による文化の改革を 通じた組織行動の変容 組織文化の改革は,適応能力や競争能力を低下 させた従業員達の組織行動の変容を促進するため. 性は,新たな研究テーマにもなっているのである が,基本的には組織文化のあり方が,起業家志向, イノベーション組織能力,人事管理の特性,トッ プマネジメントのあり方(家族経営)に影響を与 えることが主に検討されている。. に行う。従来の組織文化の内容が,経営環境に適. まず,外部志向,もしくは変化志向の文化を持. 合しなかったり,競争力を低下させたり,社会倫. つ中小企業は,起業活動,イノベーションに対し. 理と強い葛藤を持つと,その転換が求められる。. て 能 動 的 で あ る と さ れ る(Brettel et al, 2015 ;. そして,経営者やリーダーが組織文化の変革につ. Çakar and Ertürk, 2010)。また,中小企業の人事. いて率先して取り組むようになる。シンボリッ. 管理システムは,非公式性が特徴であり,文化も. ク・マネジャーとは,組織文化の転換をして,企. 含めた一律の公式化ではうまくいかない(Ed-. 業の競争力開発をする経営者の役割の重要性を示. wards and Ram, 2019)。従って,組織文化のあ. しているのである。. り方も,外部志向,変革志向,非公式性との関連. 例えば,松本晃氏は,2009年から2011年まで. から議論をする必要がある。また,コミュニティ. オーナー企業であった㈱カルビーを改革する際. 的な組織文化を持ち,支援的なリーダーがいると. に,従業員の持つ従来の創業家への意思決定依存,. 従業員の定着や欠勤が減る関係も指摘されている. コスト度外視,従来市場重視の意識を改革した (『 日 経 ビ ジ ネ ス 』2010年 7 月26日:pp.48-51) 。. (Jung and Takeuchi, 2010)。 例えば,山形県にある日本プロサッカーリーグ. そして,利益率,コスト意識,健康製品重視の意. の J2リーグに所属する,(株)モンテディオ山形. 識を持たせるようにして,2011年より低迷した利. は,従業員数35名の地方中小企業である。この企. 益率を7%台へと改革した。. 業は,2013年よりアビームコンサルティング株式. 文化変革に関しては,変革型リーダーの役割だ. 会社と提携して,管理会計を導入するとともに,. けではなく,リーダーと従業員の人的ネットワー. 組織文化の改革を行った注3)。従来は,勝敗に左. クも,大きな役割を果たす。職場でのメンターと. 右された観客動員と寄附,グッズ売上に依存する. 従業員などの人的ネットワークは,文化の共有や. 成り行き管理であったが,J1リーグの最小予算ク. 実践に関して大きな役割を果たす(Kreitner and. ラブをベンチマークして,その予算規模を具体的. Kinicki, 2013:pp.81-83) 。変革に際しても,変革. 目標として,個々の部門で観客動員,寄附勧誘,. リーダーは,人的ネットワークを通じて,新たな. グッズ収入そしてスタジアムの指定管理者収入の. 価値観,行動モデル,業績評価枠組を従業員に対. 目標等を設定した。さらに,短期サイクルで経営. して浸透し,実際に行動させるようにはたらきか. 数値を見える化した。これにより経営者や運営ス. ける。こうした変革型リーダーの人的ネットワー. タッフ,選手が,リアルタイムで売上状況を理解. クを通じた改革への「巻き込み」が実際の変革推. するようになり,具体的な目標を目指して,組織. 進の上では,重要な意義を持つ(Battilana and. 一体となって集客活動や売上に取り組むことがで. Casciaro, 2012) 。実際の組織変革では,変革リー. きたのである。特に2016年の J2降格後も2018年. ダーのネットワークとそれを通じた巻き込みの違. まで毎年動員数と売上を堅実に拡大した。. いは,組織文化の改革の実効性を高めるのであ る。 4 中小企業における組織文化変革の効果 ただ,中小企業においては,むしろ経営者のビ ジョン以外に組織文化を有することの意義が研究 されている。実は中小企業における組織文化の特. 5 期待される農業法人の文化と行動の変容 農業法人において,組織文化の変革を通じた組 織変革をする場合には,その課題,方向性,外部 との関係,そして従業員の働き方改革で,期待さ れる取り組みがあるだろう。 第一に,主な経営課題は,製品,サービス,ビ.
(5) 農業経営組織の変革における組織文化の役割 35. ジネスモデル,経営手法のイノベーションを進め. そうであるが, 「強い文化」を持つことが成功を. て,農業経営の高度化を図ることにあるだろう。. もたらすとしていた。企業の信奉する価値観が. 従って,従来手法を守る経営だけではなく,社会. トップから末端まで浸透し,1つの包括的な信念. 変化に合わせて市場環境に提案できるイノベー. が形成されている状態を「強い文化」と呼び,そ. ションを促進する,イノベーション志向で市場志. れに基づく実践はメンバーから高いコミットメン. 向的な組織文化づくりと組織全体の行動変容が重. トを引き出し,それを企業にとって望ましい方向. 要な課題になるだろう。第二に,組織文化のあり. に向けさせるのである(ピーターズ=ウォーター. 方も,市場志向性や,顧客志向性だけではなく,. マン,1983)。. 常に新しいことを考え実現しようとする創造性も. 以上は共有された価値観が好業績をもたらすと. 必要となるだろう。そうした組織文化づくりが課. いう主張であるが,その根拠の背景としてはコン. 題となる。第三に,加工品生産や流通活動への進. トロールの問題と,理念的インセンティブの存在. 出,他の農作物分野との連携を進める場合には,. がある。北居(2004)は3つの点から,その論拠. 外部提携にオープンな組織文化づくりも必要とな. をまとめている。第一に,社会的コントロールと. るだろう。第四に,非家族従業員の雇用と定着,. いう視点である。価値観が共有されると,適切な. 能力開発を進める場合には,一定のインフォーマ. 行動や決定についてメンバー間に合意が形成さ. ルさはあるにしても,社会基準の雇用環境作りに. れ,そこから逸脱した行動は,組織内のパワー関. 努める意識改革は必要である。また,ワークライ. 係に関わらず他のメンバーから非難されるためで. フバランスの導入,そして外国人雇用によるダイ. ある。. バーシティ拡大に対応する組織文化づくりも必要. 第二に,クランコントロールである。これは取 引コスト理論からの視点である。取引のメカニズ. であろう。 そうした面では,山形県の㈱たかはたファーム. ムを市場,官僚制,そしてクランに分類し(クラ. は,農園を経営する食品企業として,現代の健康. ンとは社会化によって価値観や信念を共有したメ. 志向に対応したイノベーション志向と市場志向の. ンバーからなる組織である) ,特に組織に対する. 文化のあり方を感じさせる。具体的には,健康志. 貢献があいまいで複雑になるほど,クランコント. 向に対応した低糖のジャムやフルーツ加工品の開. ロールが取引コストの面で効率的になるという指. 発やその E コマースに取り組む姿勢を見せてい. 摘が行われた。つまりメンバーは,組織の目的に. る。また,ワークライフバランスの導入にも取り. とって最善の行動を自然にとるように社会化され. 組みを見せている注4). ているため,よりコントロールが可能になるので. 。. ある。 注3)https://www.abeam.com/jp/recruit/job/ montedio_yamagata.html。取得日2019年7月25日。 注4)http://www.takahata-farm.co.jp/childcare- support.html。取得日2019年7月25日。. Ⅲ 組織文化を活用する. 最後に理念的インセンティブである。モチベー ションの基礎という視点から組織文化によるコン トロールを検討する視点である。理念的インセン ティブとは,経営理念やビジョンに代表される組 織目標の共有によってもたらされる動機付けを意 味している。組織文化は理念的インセンティブの 提供を通じて,多くのメンバーから組織目標達成. 1 研究の背景-強度アプローチと特性・類型 アプローチ- 組織文化研究の初期は,その強度アプローチと 呼ばれる視点が注目されていた(北居,2014) 。 前述した,ディール=ケネディ(1983)の主張も. のための貢献を引き出すことを可能にする。 3つの論拠と業績の関係を検討するに,タスク の依存性や不確実性が大きい環境では,社会的コ ントロールおよびクランコントロールが効率的か つ効果的である。強固に共有された価値観や信念 は,強い文化としてメンバーを効率的に動機付け,.
(6) 36 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). 複雑性と不確実性が高い環境に対しても組織を柔. 文化が良好な成果をもたらしている。第三に,内. 軟に適応させることができる。. 部の柔軟性を強調する文化は,従業員のモラール. 以上の議論は,組織の価値観や行動規範を共有 することで,メンバーの行動の柔軟なコントロー. や内部プロセスを向上させる。第四に,内部の安 定性を志向する文化は有効ではない。. ルを可能にするというコントロールモデルが暗黙. ただ,この研究群の問題は,調査方法の限界に. の内に仮定されている。このような強度や一貫性. 関わる部分でもあるが,第一に,1組織1回答と. をして組織文化と成果の関係を検討する研究が強. いう調査設計である点(組織で共有された特性な. 度アプローチと呼ばれる(北居,2014) 。しかし. のか等の問題) ,第二に,シングルレベルの調査. ながら強度アプローチについては一貫した研究結. という点(ミクロレベルの発見事実とマクロレベ. 果が確認されていない。. ルでの発見事実の関連性が不明確)から,共有さ. つまり組織文化の共有度と成果を検討するに,. れた組織文化が,個々人のメンバーに影響を与え. 第一に価値観,信念,行動規範の共有が行われて. ているのか,という2点が指摘される(北居,. いるか確認されていない点(またそもそもの「強. 注5) 2014) 。. い」という定義,また操作化の方法が曖昧であ. 以上の議論は特に営利組織を対象とした議論だ. る) ,第二に,価値観,信念,行動規範の共有が. けではなく,非営利組織もその対象として議論が. 行われている組織の成果は,必ずしも高くはない. なされているため,農業経営にも転用可能な点が. 点において疑問がある(北居,2004,2005) 。. あると思われる。しかしながら,既存研究が対象. よって,組織文化と業績を検討する中では,持. としてきた組織は大企業,大規模組織が多いため,. 性・類型アプローチと呼ばれるもう1つのアプ. 前節までで議論した中小企業での組織文化を検討. ロ ー チ も 重 要 と な る( 北 居,2011a,2011b,. するには,修正が必要となるであろう注6)。. 2014)。それは,文化の内容と成果を検討するア プ ロ ー チ で あ り, 後 に 説 明 を す る Competing. 2 分析における視点,方法. Values Framework(CVF) の 他 に も,Organi-. 組織文化の特徴とその効果を検討するにあた. zational Culture Survey(OCS),Organizational. り,どのような分析方法があるのだろうか。最も. Culture Inventory(OCIy),Organizational Cul-. 頻繁に用いられているのが,キャメロン=クイン. ture Index(OCIx) ,市場志向研究(主にマーケ. (2011)による競合価値観フレームワーク(Com-. ティング分野)が存在する。以上の5つの測定尺. peting Values Framework : CVF, 以 下 CVF). 度を使った研究群は,一定の信頼性が確保されて. である。主にさまざまな従属変数や媒介変数との. いること,また研究の豊富さから一般的な発見事. 関係を分析することに焦点が置かれている。そし. 実を導出するに資する研究である。. て成果に直接及ぼす影響を分析した研究が数多く. 強度アプローチと特性・類型アプローチ,両者. 存在する。ただ,CVF 自体は,先行研究から演. の関係は排他的でないものの,理論的枠組みが異. 繹的に導かれた研究でもあるためか,成果に影響. なっている。前者は,社会的コントロールを主眼. を与える文化のタイプが研究により異なることも. に置いており,後者は競争相手よりも顕著な文化. あり,一貫性に欠ける点も存在する注7)。. 的特徴を持つことそのものが,競争優位をもたら すと考えられている。. では,CVF の分析枠組みを検討する。CVF に おいて文化は,縦軸に「柔軟性と裁量権や独立性」. 特性・類型アプローチ(組織文化の内容と成果. と「安定性と統制」,また横軸に「組織内部に注. の関係に着目する視点)は,より成果に強い結び. 目する傾向と調和」と「組織外部に注目する傾向. つきを示す傾向にある研究群である。その結論は,. と差別化」をとり以下4つの概念に統合されてい. 以下4つの共通点を指摘している(北居,2011b,. る(第1図)。. 2014)。第一に,外部志向の文化が,良好な成果 をもたらしている。第二に,目標達成を強調する. 第一に,官僚文化である。明確な意思決定権限, 標準化された規律や手続き,管理と説明責任のメ.
(7) 農業経営組織の変革における組織文化の役割 37 柔軟性と裁量権や独立性. イノベーション文化. 官僚文化. マーケット文化. 組織外部に注目する傾向と差別化. 組織内部に注目する傾向と調和. 家族文化. 安定性と統制. 第1図 CVF 競合価値観フレームワーク 資料:キャメロン=クイン(2011)p.53より抜粋. カニズムが重要である。有能なリーダーとは,組. つの文化の特徴に関する質問項目を作って現状を. 織をうまく調整し,組織全体をまとめ上げる人物. 把握することになる。. である。明確な規則と方針が組織を結束させる。. 実際の変革に当たっては,質問票を用いた診断,. 第二に,マーケット文化である。組織の有効性. そしてその解釈,変革の実行,導入という流れに. の重要な基礎は取引費用である。競争上の優位性. なる。組織においては,どの組織も4つの文化の. 実現のためには,他の組織と取引を行うことが重. 側面を同時に持つため,ある文化を強くして,あ. 要となる。優先目的は高い収益性,確実な顧客獲. る文化を弱くするという手法で組織を変革する。. 得,チャレンジングな目標達成等である。. そのため,組織文化においては,その変化の方向. 第三に,家族文化である。組織環境はチーム ワークと個人の能力開発を通してうまく管理され. 性を検討するため,戦略目標をたてることがまず 重要となる。. ることが前提であり,マネジメントの役割は,社 員に権限を委譲してやる気を持たせ,組織への参 加,コミットメント,ロイヤルティを促進するこ とである。意思決定が不確実である時,組織活動 の調整に,メンバーが同じ価値観,信念,目標を 持っていることが有効となる。 最後にイノベーション文化である。不確実性が 高く,情報が多すぎる時に,適応性,柔軟性,創 造性を促進することが重要となる。権力や権威は 特定の個人に集中させず,個人やチームの間を 移っていく。各メンバーに,リスクを恐れず,未 来を予想することが求められる。 以上を尺度にして,変革するにあたり,自らの 組織文化理解については,①顕著に見られる特徴, ②リーダーシップスタイル,③社員管理,④組織 を団結させるもの,⑤戦略的に重視するもの,⑥ 成功の基準,の6つの枠組みの中で,それぞれ4. 注5)これらの先行研究の結論から,北居(2014) は組織学習や知識創造を促進するインフラスト ラクチャーとしての組織文化の指摘,つまり直 接効果ではない,何かを促す,間接的な効果の 指摘をするに至っている。 注6)非営利組織(例えば NPO 法人)を対象とした 研究においては,理念的インセンティブ(メン バーからより低いコストで貢献を引き出すこと が可能)とも関わる,ミッションによる間接効 果(間接的なコントロール)を検討する視点が 提供されている(田尾,1999他) 。 注7)例えばクラン文化であると助け合いが促進さ れる一方,依存関係が存在する可能性もあり, 成果に影響を与える要因がプラスにもマイナス にも読めてしまう可能性がある。また一般的に はイノベーション文化とマーケット文化が業績 にプラスの影響を与える(北居,2014) 。.
(8) 38 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). 要性が指摘されている。シングルレベルではない. Ⅳ まとめ-今後の研究の方向性-. 組織レベルと個人レベルをわけ,モデルに組み込 んだ分析が重要となるであろう。農業法人の場合, さらに複雑なのは,個人レベル注8),また個別農. 農業法人における組織文化研究の今後の発展の ため,以下4つの指摘をしておきたい。. 業経営体と地域農業組織,さらに,専業,兼業な ど,多様な分析レベルが存在することである。マ. 第一に,農業経営に効果的な組織文化を分析す. ルチレベルの考え方,また別の表現をするのであ. るには,調査研究を通じて,実際の農業経営組織. れば,ミクロ-マクロリンクの重要性は組織文化. に見られる典型的な組織文化の特性・類型を発見. 論だけで指摘される問題ではない(例えば若林他,. する必要があるだろう。従来の議論からすると家. 2015)。組織研究ではシングルレベルの研究に終. 族主義的で温情主義的なものが予想される。ただ,. 始する傾向にあるが,当然ながら,実務的な問題. 上記でも指摘したが,中小企業としての組織文化. は,そのような分類分けによって解決されるわけ. の特性は未発達な研究分野である。また農業法人. でもなく,レベル間で影響し合う,またレベル間. は,営利を最優先課題として活動をしない場合も. の問題に,別のレベルから与える要因も検討する. ある。その社会的な活動面も重要なため,既存研. 必要がある。. 究と比較する中では持続的成長性など新たな側面. 最後に農業経営を,社会的企業の観点から分析. を検討しつつ研究する必要があるだろう。そうし. するという視角を提供したい。中小企業を対象と. た面では,従来の機能主義的組織文化論だけでは. した議論を移転するのであれば,その外部志向性. なく,解釈主義的組織文化論を通じて,典型的な. は特に強調されるが,広く経営学からいえば,多. 農業経営組織が持つ組織文化の内容,構成員の意. 元化する社会課題,また多様化したニーズに応え. 識や価値観,日常の職場世界のあり方についてエ. る主体として,その活動に営利性と社会性を内包. スノグラフィーなどの質的研究法を用い検討する. する活動は社会的企業という概念が使用されてき. 必要がある。Hatch(2013)は,例えば,ディズ. た(藤井他,2013;高橋他,2018)。. ニーランドが,プラスチックや合成樹脂で作られ. 藤井他(2013)は欧州型の社会的所有を基本要. たファンタジーの世界として,非日常的なストー. 件とする考え方の重要性(従業員や地域社会に. リーや世界観を持つ独自の組織文化を有すること. よって所有され民主的に管理されていること)を. を示している。. 述べている。彼らは闘う社会的企業とも表現して. 第二に,実際の調査研究を通じて,農業経営組. いるが,社会的企業は社会問題に対して闘うのみ. 織がどのような業績ギャップや経営環境の不適合. ではなく,行政組織,そして営利企業への制度的. を感じて,どのような組織文化変革を求めている. 同型化圧力に対しても闘う必要があるということ. のかも検討する必要がある。イノベーションへの. を指摘している。コミュニティと市場,政府の媒. 対応の問題,市場ニーズとのずれ,家族主義的な. 介領域に存在し,おのおのとのポジティブな関係. 労働文化の持つ従業員のモチベーションの課題,. を構築しつつ,活動する組織の必要性である。他. 国際化に対応する意識のあり方,地域社会への貢. 方で高橋他(2018)では,日本における社会的企. 献の仕方などの点で,農業経営組織がどのように. 業を,官民連携における実践を元にした国民福祉. 変革したいかについても検討する必要があるだろ. の繁栄の視点としてまとめ,官民連携の特殊性を. う。これは,商品作物を扱う農業経営組織では異. 指摘している。. なるだろう。. 農業経営組織は収益力についての意識改革に関. 第三に,またそれに関わり,単一ケース,レベ. する組織文化分析を行うことだけではなく,むし. ルではなく複数次元からの分析の必要がある。こ. ろ,その事業の社会性の高さから,社会的企業の. れは組織文化論の既存研究からは,特に分析レベ. 観点より,持続的成長など,求められる独特の意. ルの問題,つまりマルチレベル・アプローチの必. 識と成果の関連を検討することが,その発展を考.
(9) 農業経営組織の変革における組織文化の役割 39. える上で重要であろう。 注8)参加者の多様性の問題は指摘される。I ターン, U ターンなどの人材,家族経営,夫婦経営,世 代の違う参加者,加えて国際化の問題もあるだ ろう。多様性を抱える中での,文化生成の違い, の分析は欠かせない。 [引用文献] Battilana, J. and T. Casciaro (2012) Change Agents, Networks, and Institutions : A Contingency Theory of Organizational Change, Academy of Management Journal, 55(2) : 381-398. http://dx.doi.org/ 10.5465/amj.2009.0891. Brettel, M., Chomik, C. and T. C. Flatten (2015) How Organizational Culture Influences Innovativeness, Proactiveness, and Risk-Taking : Fostering Entrepreneurial Orientation in SMEs, Journal of Small Business Management, 53(4) : 868-885. https : doi : 10.1111/jsbm.12108. Çakar, N. D. and A. Ertürk (2010) Comparing Innovation Capability of Small and Medium-Sized Enterprises : Examining the Effects of Organizational Culture and Empowerment, Journal of Small Business Management, 48(3) : 325-359. https://doi. org/10.1111/j.1540-627X.2010.00297.x. キム・キャメロン,ロバート・クイン(2011)『組織 文化を変える競合価値観フレームワーク技法』(中 島豊監訳)ファーストプレス. Cummings, T. G. and C. G. Worley (2015) Organization Development & Change, 10th ed., Australia : Cengage Learning. テレンス・ディール,アラン・ケネディ(1983)『シ ンボリック・マネジャー』(城山三郎訳)新潮社. Edwards, P. and M. Ram (2019) HRM in Small Firms : Balancing Informality and Formality, In Wilkinson, A. et al. Eds. the Sage Handbook of Human Resource Management, 2nd Ed. London : Sage : 522-542. 藤井敦史・原田晃樹・大高研道(2013)『闘う社会的 企業』勁草書房. Hatch, J. (2013) Organizational Theory : Modern, Symbolic, and Post - Modern Perspective (3rdEd.), Oxford, UK : Oxford University Press. 伊庭治彦(2017)「地域農業ガバナンスの再編の論理. -コーポレート・ガバナンス論を援用して-」 『生 物資源経済研究』22:1-12. 伊丹敬之(2004) 「見えざる資産の基本的枠組み」伊 丹敬之・軽部大編『見えざる資産の戦略と論理』 日本経済新聞社:1-39. 岩元泉(2013) 「現代農業における家族経営の論理」 『農 業経営研究』50⑷:9-19. Jones, G. R. (2013) Organizational Theory, Design, and Change, 7th Ed. Upper Saddle River, NJ : Pearson Prentice Hall. Jung,Y. and N. Takeuchi (2010) Performance Implications for the Relationships among Top Management Leadership, Organizational Culture, and Appraisal Practice : Testing Two Theory-based Models of Organizational Learning Theory in Japan, The International Journal of Human Resource Management, 21(10) : 1931-1950. https://doi.org/10 .1080/09585192.2010.505093 北居明(2004) 「80年代における「強い文化」論をめ ぐる諸議論について」 『大阪府立大学經濟研究』50 ⑴:287-306. 北居明(2005) 「組織文化と経営成果の関係:定量的 研究の展開」 『大阪府立大学經濟研究』50(2・3・ 4) :141-164. 北居明(2011a) 「組織文化の測定と効果:代表的測 定尺度の検討(上) 」 『大阪府立大学經濟研究』57 ⑴:41-66. 北居明(2011b) 「組織文化の測定と効果:代表的測 定尺度の検討(下) 」 『大阪府立大学經濟研究』57 ⑵:49-67. 北居明(2014) 『学習を促す組織文化-マルチレベル・ アプローチによる実証研究』有斐閣. Kreitner, R. and A. Kinicki (2013) Organizational Behavior, 10th Ed., New York : McGraw-Hill/Irwin. 野村アグリプランニング&アドバイザリー(2011) 『農 業法人の経営課題に関するアンケート調査結果(概 要 版 ) 』 .https://www.nomuraholdings.com/jp/ company/group/napa/data/201101_2.pdf. 最終閲覧 日2019年7月31日. トム・ピーターズ,ロバート・ウォーターマン(1983) 『エクセレント・カンパー』 (大前研一訳)講談社. ジェイ・ローシュ,エミリー・マクタグ(2016) 「組 織文化を変える」を目標にしてはいけない」 『Diamond Harvard Business Review』 (辻仁子訳) : 108-116. 坂下昭宣(2002) 『組織シンボリズム論:論点と方法』.
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ラディカルな組織変革の研究では、伝統的に業績の悪化・危機あるいはトップの交代が組