経皮的補助循環の現状
はじめに 本邦で植込まれた左心補助人工心臓(LVAD)症例 が全例登録されている J︲MACS データによると,強 心剤依存状態(INTERMACS ₁︲₃)の重症心不全に 対する HeartMate II の植込み術後 ₃ 年生存率は ₉₀%に達している.一方で急性心不全に対して PCPS(percutaneous caidio pulmonary support)は 年間 ₇₀₀₀ 例以上使われているにもかかわらず,その 救命率は ₅₀%未満であり,さらに PCPS から LVAD に治療がエスカレーションされる症例はその ₂%と 極めて少ない(図 1).これら治療困難な急性心原性 ショック症例に対する PCPS を中心とした急性期 の補助循環法の有用性とその限界について解説する. PCPS とは PCPS とは大腿静脈から脱血カニュラを右房まで 挿入して脱血し,膜型人工肺(ECMO:extra corpo-real membrane oxygenation)で酸素化した血液を 遠心ポンプにより大腿動脈に送血する閉鎖回路によ る静脈︲動脈バイパス(V︲A bypass:veno︲arterial bypass)である.流量補助となり,十分な脱血がで きれば ₄ L/min 程度の流量を得ることが可能であ る.PCPS の適応は,IABP では不十分な循環虚脱例 の緊急循環補助,および重症冠動脈疾患症例の経皮 的冠動脈インターベンション時の循環補助から,重 症心不全の補助循環,呼吸補助,救急領域の心肺蘇 生など多岐にわたる.回路のプライミングが ₅ 分程VA-ECMO(PCPS)による循環補助の有用性と限界
戸田宏一
大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座 心臓血管外科学 准教授 図 1 PCPS 装着症例の救命率 (PCPS 研究会アンケート集計結果より改変) 死亡 VAD 移行 離脱 3, 500 3, 000 0 500 1, 000 1, 500 2, 000 2, 500 (症例数) 2013 年 2014 年 2015 年 1, 301 1, 520 1, 436 1, 106 1, 092 1, 026 45 56 5145. 2%
43. 0%
44. 6%
度でできることや,強力な流量補助を得られること から,心肺停止状態のような重症の心原性ショック 症例にも使用されその効果を発揮する.また VAD 導入へのつなぎ(bridge to bridge;BTB)のための 循環補助としても役割を果たす. PCPS の管理 末梢循環を十分保ちながら血圧を維持するために は中心静脈圧(CVP),肺動脈楔入圧(PCWP)を正常 範囲内に保ち,MAP ≧₆₀︲₇₀ mmHg,補助流量 ₅₀︲ ₈₀ mL/kg/min を目標に維持する.心原性ショック による多臓器不全の場合にはできるだけ高流量が望 ましい.腎機能を維持するためには腎血流量が得ら れる最低限の血圧維持が重要であり,腎血流維持目 的の昇圧剤としてはノルアドレナリンよりもバゾプ レッシンが有用である.ヒト心房性利尿ペプチド (hANP)も糸球体濾過量の増加に役立つ.最低限の 尿量が保てない場合には血液透析(CVVH)が必要に なる.透析回路は PCPS 回路に組み込むことも可能 であるが,空気を吸引する危険性が高く推奨されな い. PCPS 補助中は抗凝固療法が必須となる.へパリ ン の 静 脈 内 持 続 点 滴 に よ り APTT ₅₀︲₅₅,ACT ₁₈₀︲₂₂₀ で維持する.出血性合併症が問題の場合に は APTT ₄₅︲₅₀,ACT ₁₄₀︲₁₈₀ で維持する.へパリ ン起因性血小板減少症(HIT)などによりへパリンが 使用できない症例ではアルガトロバンやナファモス タットなどで代用する.いかに厳重に抗凝固療法を 行っても,遠心ポンプ,人工肺,回路内の血栓形成 を完全に予防することは難しい.人工肺や回路の接 続部位は血栓の好発部位である.補助が長期になる ほど血栓塞栓症のリスクは上がるため,可及的早期 の離脱を目指すべきである. 溶血の有無を確認することは重要である.尿の色 調の観察,LDH や遊離ヘモグロビン値の測定を行 う.溶血の原因としては,血栓形成,遠心ポンプの 高回転による軸受けの発熱,送脱血管の狭窄に伴う 過度の陰圧,陽圧などがある.最も多い原因は PCPS 内血栓形成であり,人工肺,遠心ポンプ,回路のど の部分に血栓が発生しても溶血は起こりうる.溶血 発生時には可能であればポンプ回転数の低下や,ハ プトグロビン投与などで対処するが,治まらない場 合は血栓形成を疑いシステム全体の交換を考えるべ きである. また大腿動脈の細い症例や下肢動脈硬化のある症 例では,送血管による末梢への血流不全により容易 に下肢虚血を引き起こす.下肢虚血で壊死に至った PCPS 患者はほぼ救命できないので,虚血が起こる 前に処置すべきである.送血管が挿入されていると ころの遠位の大腿動脈を剝離して,₅︲₀ prolene で巾 着縫合をかけて,セルジンガー法で ₄︲₅ Fr のシース を挿入しこれを PCPS 送血回路に耐圧チューブで つないで下肢灌流を行う.エコーガイド下に経皮的 に穿刺できることもあるが,PCPS 送血管のため血 管が虚脱しており穿刺は必ずしも容易ではない. しっかり開創して行うべきである.また末梢側送血 を行う際に同側に脱血管が入っている場合は静脈還 流を悪くしている場合があるので脱血管を逆側に入 れ替えることも考慮する. PCPS の合併症と注意点 PCPS 補助中の注意点としては,自己心機能に よって自己心からの順行性灌流血液(自己心拍出)と PCPS からの逆行性灌流血液との mixing point が変 化することである(図 2).心機能が極端に落ちてい る時は mixing point は限りなく大動脈弁付近まで 到達し,脳,心臓を含め全身の灌流はほぼすべて PCPS からの逆行性灌流血液となる(図 2A).このた め自己心機能が落ちている場合,自己肺の酸素化を 評価することは困難である.一方で,心機能がある 程度回復した場合,mixing point は弓部分枝より末 梢になり,自己心から拍出された順行性灌流血液が 脳,心臓を灌流することになる(図 2B).自己肺ガス 交換能が低下している場合は十分に酸素化されてい ない血液が脳,心臓を灌流することになるので注意 が必要である.したがって脳や心臓に十分な酸素供
給がされているか評価するために,右上肢に動脈ラ インを留置し,さらに SpO₂をモニタリングする必 要がある. PCPS の限界と対策 PCPS の長所は開胸することなく低侵襲に流量補 助できることであり,一方短所は左室の後負荷を上 げることによる左室拡張末期圧の上昇,肺水腫や悪 化すれば肺出血を起こしうるということである(図 2A).また大動脈弁の開放が得られない場合には大 動脈基部や左室内の血栓も生じうる.この PCPS の 長所を生かし短所を抑えるためには,しっかり PCPS の 流 量 を と る こ と( 下 記:₁.PCPS の up-grade),IABP カテコラミン併用でも自己拍出が得 られないようであれば左室ベントを行う(下記:₂. PCPS+左室ベント,₃.PCPS+IMPELLA)ことが 重要である.また体のサイズ等の問題で低侵襲な補 助循環が成り立たない場合や ₂︲₄ 週間を超える補助 循環が必要な場合は従来の体外式 VAD を植込み型 LVAD への bridge として使う(BTB).これら ₄ つ の方法について詳述する. 1 . PCPS の upgrade まず,蘇生(CPR)のために入れられた PCPS と補 助循環としての PCPS は異なるものであることを 認識する必要がある.つまり CPR しながら入れられ た PCPS の送脱血管は細いものが多いので,可能で あれば送血管は ₁₆︲₁₈ Fr,脱血管は ₂₂︲₂₅ Fr に入 れ替える.補助流量に関しては,日本循環器学会の 急性心筋炎ガイドラインによると,補助+自己拍出 量の合計が ₂. ₅︲₃. ₀ L/min/m₂必要とされており, カテコラミン,IABP 併用してできるだけ全身灌流 量をかせぐ. 2 . PCPS+左室ベント PCPS の送脱血管をサイズアップしても十分な流 量がとれない,後負荷増加による左室―肺うっ血が 起こる場合は左小開胸で左室心尖からベントを挿入 する(図 3).手術手技としてはまず CT 画像等を参 照して左第 ₅ または第 ₆ 肋間小開胸する.心尖部や や前壁よりにフェルト付きの ₃︲₀ prolene で巾着縫 合をかけて穿刺し,透視下にガイドワイヤを進め弓 部大動脈にワイヤを留置しセルジンガー法にて ₁₈ Fr の PCPS 用送血管を脱血管としてその先端を 大動脈弁直下に留置させる.心尖アプローチの TAVI の様に心尖やや前壁よりから左室流出路に十 分脱血管を進ませることで,僧帽弁下組織との干渉 や脱血不良を防ぐ.補助循環回路のデザインとして 図 2 自己心機能と PCPS 流量によって変化する Mixing point 脳 脳 肺 肺 肺 肺 肺 肺 肺 肺ううううううっっっっっ血血血血血血血 右 右心心 M Mixxiinnngg pppoooooooinnnttt Mixiing point PCPS PCPS 左 左心心心心心 右心 左心 左室内圧の上昇 A B
は図 3A の様に ₁ つの遠心ポンプに ₂ つの脱血管を つなぐ方法と,図 3B の様に遠心ポンプを ₂ つ使う 方法がある.いずれにせよ,回路はあまり長くする ことなく,₂ つの脱血管の流量をモニターすること により,一方の脱血管が流量不足で血栓形成するこ とを防ぐ必要がある.₂ つの脱血管の流量バランス を取るには図 3A の方法であれば脱血管を外から締 めて流量を減らしたり,図 3B の方法であれば ₂ つ のポンプの回転数でバランスをとる.₁₈ Fr の送血 管を左室ベントとして使う場合 LV ベント流量は ₁ L/min 前後保てれば良いと考えている. 3 . PCPS+IMPELLA ₂₀₁₇ 年 ₁₀ 月以降 IMPELLA ₂. ₅,CP,₅. ₀ が全国 ₁₀₀ 以上の施設で認可され,₂ 年間で ₁₁₀₀ 例以上の 心原性ショック症例に使われている.そのうちの ₄₇%の症例では PCPS+IMPELLA として使われて いる.IMPELLA の使用方法に関しては参考文献を 示す₁, ₂).本法は開胸することなく低侵襲に循環補助 +左室 unloading できるのみならず,IMPELLA ₅. ₀ または CP を併用できる場合は自己肺機能,右心機 能が回復すれば PCPS を離脱させ,IMPELLA 単独 による左心補助に移行することが可能である.腋窩 動脈に吻合した人工血管から挿入する方法であれば 離床してリハビリも可能である.また IMPELLA 単 独で循環維持できれば,植込み型 LVAD 単独で循環 維持が可能であることを示しており,植込み型 LVAD の適応を判断するうえにおいても有用であ る.注意すべき点としては,下肢から IMPELLA+ PCPS とした場合 IMPELLA が駆出する順行性血流 と大腿動脈から PCPS が駆出する逆行性血流が混 ざる mixing point に近い下行大動脈内の IMPEL-LA カテーテルに血栓形成の可能性がある.また下 肢から挿入した IMPELLA は体動による位置異常 を起こしやすい.以上より,心原性ショックに陥っ た PCPS 症例を IMPELLA を用いて回復または植 込み型 LVAD に bridge させるためにはできるだけ 腋窩動脈に人工血管を吻合して IMPELLA ₅. ₀(血 管径が細ければ IMPELLA CP)を留置して,循環呼 吸状態を改善させ,PCPS を抜去し離床,抜管する ことが望ましい. 4 . 体外式 VAD(遠心ポンプ,または拍動式 NI-PRO-VAD),central ECMO 体のサイズ等の問題で低侵襲な補助循環が成り立 たない場合や,₂︲₄ 週間を超える補助循環が必要な 場合は従来の体外式 VAD を用いる.この方法の利 点は,十分な左心バイパス流量がとれることや離床 してリハビリが可能であり全身状態の改善につなが る.問題点は手術侵襲とともに,送脱血管皮膚刺入 部からの感染のリスクがあり,植込み型 LVAD へ移 行した症例のポンプポケット感染回避率,LVAD 植 込み後生存率は体外式 VAD を介さずに植込み型 LVAD を植込んだ症例に比して不良である₃).植込 A B 図 3 PCPS に左室ベントを併用した補助循環法
み型 LVAD へ移行させる際に送脱血管皮膚刺入部 感染が疑われる場合,我々はポンプ本体を腹腔内パ ウチ内留置にしてその周囲に大網充填を追加してい る(図 4)₄).
文 献
₁) Yoshida S, Toda K, Miyagawa S, et al:Impella ₅.₀ as a Bridge to Implantable Left Ventricular Assist Device ︲ First Clinical Case in Japan. Circ J ₂₀₁₈;25:₈₂(₁₁):
₂₉₂₃︲₂₉₂₄
₂) 戸田宏一,澤 芳樹:Impella 挿入法:胸部外科手術の 基本手技とコツ up to date.胸部外科 ₂₀₁₉;72(₁₀): ₇₃₈︲₇₄₃
₃) Kinugawa K, Nishimura T, Toda K, et al:The second official report from Japanese registry for mechanical assisted circulatory support(J︲MACS):first results of bridge to bridge strategy. Gen Thorac Cardiovasc Surg ₂₀₂₀;68(₂):₁₀₂︲₁₁₁
₄) Toda K, Sawa Y:Clinical management for complica-tions related to implantable LVAD use. Gen Thorac Cardiovasc Surg ₂₀₁₅;63(₁):₁︲₇ 体外式 LVAD 植込み型 LVAD 腹腔内ゴアテックスパウチ LVAD 本体を腹腔内パウチ内に留置して その周囲に大網を充填 LVAD 図 4 体外式 LVAD から植込み型 LVAD 移行症例での感染予防のための腹腔内パウチと 大網充填 (文献 ₄ を一部改変)