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〈論文〉結果構文の意味論再考--2分類をめぐって

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(1)文学・芸術・文化/第 27 巻第 1 号/ 2015.9. 結果構文の意味論再考―2分類をめぐって 濱 本 秀 樹 1.はじめに この小論ではいわゆる結果構文の成立に関わる意味論的制約をめぐる話題につい て議論する。最近の論考を含め既存の議論を整理する。まず一般的に見た結果構文 の現象を確認し、次に最近よく議論される結果構文の2分類を検討する。ここでは Levin and Rappaport Hovav 2001、Iwata 2006、Croft 2012 の研究を紹介する。彼 らの2分類に関する議論の一致点と思われるもの、つまり「何らかの完結の方向性 を意味の一部に持つ動詞の、自然な完結点としての結果状態」を表す漸進的達成動 詞(incremental accomplishment)で構成される弱い結果構文のタイプ、「自然的に は因果関係を持たない2つの事態の間に因果関係を構築し結果状態を導く」強い結 果構文のタイプを検証する。 前者のタイプの結果構文では、進行アスペクトとの適合性から「達成動詞の自然 な完結点」とは Dowty (1979) で進行形のパラドックス解消のために提案された「慣 性的世界意味論 (inertia world semantics) 」の条件に類似した程度の蓋然性を持つ 因果関係ではないかと考えることができる。これを「さらなる特定化制約 (Further Specification Constraint : FSC) 」という意味的制約の精密化とすることを提案す る。 後者の強い結果構文は動詞の意味論的特性に動機づけられたものではなく「日常 的経験に基づく知識」に動機づけられた結果構文である。従って、このタイプの結 果構文は「2つの事態に自然な因果関係を認められる範囲で容認される」と言わね ばならないことを述べる。 また両タイプの間にいわゆる固有的方向性運動動詞 (verbs of inherently directed motion : VIDMs)を置くことをも提案する。結果構文という興味ある言語現象の全 貌はまだまだ不明であり、特に後者のタイプの結果構文の成立条件については、必 要条件は概略述べられても、十分条件は未だ明確ではないことも確認する。. −14−. ( 145 ).

(2) 結果構文の意味論再考―2分類をめぐって 濱本. 2.結果構文とその2分類 ここでは典型的な結果構文の紹介から話を始めたい。その後、最近よく議論されて いる結果構文の2分類に移る。. 2.1 結果構文とは  まず結果構文とはどのような現象を指すのかを大まかに確認しておきたい。結果 構文には典型的なものからその範疇に入れるべきか明確ではない非典型的なケース もある。しかしいかなる場合でも結果状態を示す XP を含むと言える。その XP の 標準的定義を Levin and Rappaport Hovav (1995)から引用する。. (1)An XP that denotes the state achieved by the referent of the NP it is predicated of as a result of the action denoted by the verb (L&RH 1995:34). これによれば結果状態 XP は「動詞によって示される行為の結果としてそれが叙述 する NP の指示対象が到達した状態」を示すということである。典型例をいくつか 見てみよう。これにより現象の特徴が見えてくる。. (2)a. John broke the vase open. b. Mary pounded the metal flat. (Tortora 1996). 一般に結果構文として想起されるのは(2)のような例であり、他動詞+目的語+結 果状態(下線部)で構成されている。(2)の下線部の結果状態は上記(1)の定義に完全 に適合する。(2a)であれば「壊す」という行為の結果、目的語 NP である the vase が「割れた」状態に到達した、ということである。下の(3)のように受け身文でも この関係は維持される。. (3)a. The vase was broken open. b. The metal was pounded flat.. ( 146 ). −13−.

(3) 文学・芸術・文化/第 27 巻第 1 号/ 2015.9.  さらに非対格動詞(unaccusatives)と呼ばれる自動詞の一部でも主語名詞の結果 状態を表現できる。非対格動詞とは表層の主語 NP は D 構造では目的語の位置を 占めていたと仮定する自動詞である。. (4)a. The vase broke open. b. The lake froze solid.. ここでも非対格動詞によって示される行為の結果としてそれが叙述する主語 NP の 指示対象が到達した状態として「割れた」、「固まった」という結果状態がもたらさ れている。  非対格動詞でも「固有的方向性運動動詞(verbs of inherently directed motion: VIDMs)」は結果構文を形成しないとの見解もある (Levin and Rappaport Hovav 1995) . VIDMs の例として arrive、ascend、come、depart、descend、enter、escape、 exit、flee、go、leave、return、rise などが挙げられている。VIDMs の多くは動作の 完結性(telicity)が意味の一部として組み込まれているのでそれ以外にさらなる完 結点を付加することが容認されないとする(Levin and Rappaport Hovav 1995)。. (5)a. *Willa arrived breathless. b. *John came sad. c. *John returned happy.. しかし Tortora(1998)が指摘するように VIDMs の中には descend ( 降りる)、rise (上がる)などのように行為動詞として意味的完結性を持たないものもある。これは 上記の予想では結果構文を形成できるはずである。ところがそうはならない。. (6)a. *The hang glider pilot descended breathless. b. *The gas rose cool.. しかしこれにもさらに例外が存在する。同じ descend が現れる次の例を見ていた. −12−. ( 147 ).

(4) 結果構文の意味論再考―2分類をめぐって 濱本. だきたい。. (7)(Edmund Hillary and Tenzing Norgay reached the summit of Mt. Everest.) They took some photographs, left some sweets and a cross, and descended triumphant. (NHK 攻略リスニング 2013 年 11 月). この例は NHK の語学番組からの抜粋であるが、放送のあと descended triumphantly ではないのかという質問が番組担当者に多数よせられた様子である。講師の柴原氏 は「ヒラリーとテンジンは意気揚々としていた」とし、主格補語と解説している。 これは結果構文であるという解釈と同じである。つまり(7)のように文脈が与えら れれば「下山した状態として意気揚々としていた」と理解可能であり容認されてい るが、一方(6a)では「文脈からの結果状態の読み込みの助け」が不足するというこ とになろう。この「結果状態の読み込み可能性」に関しては次のような例でも観察 される。. (8)a. The bottle broke open. b.*The vase broke worthless. (9)a. The wedding cake melted into a slimy mess. b. *The wedding cake melted ugly.         (Tortora 1998). こ れ ら の 動 詞 は VIDMs で は な く 一 般 的 な 非 対 格 動 詞 で あ る。 こ の 結 果 か ら Tortora は「さらなる特定化制約(Further Specification Constraint : FSC)」とい う意味的制約を提案した。. (10)FSC (Tortora 1998: 341) 固有の完結性のある動詞が結果構文となれるには動詞の意味の中に既に固有に存在 する結果のさらなる特定化に関わる場合に限られる。. ( 148 ). −11−.

(5) 文学・芸術・文化/第 27 巻第 1 号/ 2015.9. この制約は結局、結果状態の読み込み可能性が保証される範囲でこの構文が容認さ れることを示している。著者はさらに別個の制約として descend のような固有の 完結性を持たない動詞でも結果状態が自然な推移のうちに感覚できれば容認される と考える。しかしここで結論を急ぐ前に結果構文の2分類を確認し、その後再度こ の VIDMs を含む意味的制約に戻ることにしよう。. 2.2 結果構文の2分類  最近の研究(Levin and Rappaport Hovav 2001、Iwata 2006、Croft 2012)では結 果構文を2つに分類することが議論されている。この2つのタイプの結果構文は下 の(11)と(12)で示されている(Croft 2012: 321)。. (11)a. They froze the ice cream solid. b. The river froze solid. (12)a. Miss Kitty Perkins, who talked seven warts off my hands b. the dog barked him awake c. poor Sam had coughed himself into a haemorrhage. 上記(11)の結果構文は動詞 freeze が結果状態 solid と結合してできている。このタ イプの動詞は (13)のように、「結果状態を伴わない形」でも容認される。これを一 応 A タイプとしておく。. (13)a. They froze the ice cream. b. The river froze.. 一方、(12)のタイプは下の(14)のように「結果状態を伴わない形」では容認されな い。これを B タイプとする。. (14)a. *Miss Kitty Perkins talked seven warts. b. *The dog barked him.. −10−. ( 149 ).

(6) 結果構文の意味論再考―2分類をめぐって 濱本. c. *Poor Sam coughed himself.. Rappaport Hovab and Levin によれば、A タイプの結果構文では主動詞のもたら す事態と結果状態をもたらす事態とに時間推移の依存性が存在する、つまり同時性 を持つ。たとえば(11b)で「凍る」事態と「固まる」事態とは同時的である。一方 B タイプではこの同時性がないと主張する。例えば上記の(12b)では「その犬が吠 える」ことと、「彼が目が覚める」ことには時間的ずれがあると解するのが普通で ある。  この2分類とほぼ一致する分類が Iwata(2006)で提案されている。. (15)Iwata の結果構文分類(Iwata s dichotomy of Resultative constructions) (i)付加語的結果構文(Adjunct resultatives)  (1)の例(A タイプ):They froze the ice cream solid (ii)結果項追加型結果構文(Argument resultatives)  (2)の例(B タイプ): talked seven warts off my hands. Iwata の分析では先に A タイプとしたものは、「動詞の意味が(結果を示す句なし でも)結果状態を含意しており、結果を示す句は結果状態のさらなる特定化に貢献 するものの付加語(adjunct)である」とする。一方、先に B タイプとしたものは、 「動詞そのものには結果状態の意味は含まれておらず結果をもたらす項を追加して いる」と考えている。Iwata は前者の付加語的結果構文では結果を示す句には意味 的制約が課されるとしている。なぜなら動詞の意味に結果状態に関する含意がある のであるからそれをさらに補充するような結果句のみが許容されるとする。1  また Iwata は非典型的な付加語的結果構文の例として次のようなものも含めて いる。. (16)a. He cut meat thin. b. I closed my eyes tight. c. Sheila fell flat on her hands and face on the path.. ( 150 ). −9−.

(7) 文学・芸術・文化/第 27 巻第 1 号/ 2015.9. Iwata はこれらの結果状態を示す句は必ずしも動詞の意味からの含意(entailment) ではないと述べている。つまり、(16a)で「肉を切る」ことは「肉がスライス状に 薄くなる」ことを含意しないし、(16c) 「倒れる」ことは「うつぶせにばったりとな る」ことを含意しない。結果を示す句は各動詞の意味から可能な結果状態を選択的 に明確化しているのである。  次に Croft (2012) を検討する。彼は結果構文を2分類し、Iwata の「付加語的結果 構文」は「漸進的達成動詞型 (incremental accomplishment) 」とし、 「結果項追加型 結果構文」を「非方向性、非漸進的達成動詞型 (non-incremental accomplishment) 」 としている。彼は独自の2次元モデルを使って解説しているのでここで簡単に紹介 しよう。Croft(2012)では動詞句のアスペクトタイプを、「事態がどのように時間軸 上で展開していくか」で捉えようとする。横軸には時間 t をとり、縦軸にはイベン トタイプを特徴づける質的状態の連鎖(sequence of qualitative states)を置く。こ の質的状態は q で示す。そうすると、付加語的結果構文は下の(17)のように表現 される(Croft 2012:329)。. (17)The pond froze solid.. q solid f eeze fr SBJ. pond t. 池(pond)は主語(SBJ)で時間経過とともに freeze のプロセスが進展し(図中の右上 がり直線部分)、やがてある時点で固体化(solid)し(図中の縦線部分)、そのまま推 移(図中横の点線部分)することを示している。これは固体化の前に、池が漸次的で 少しずつ固まるという方向性を持つ freeze のプロセスがあり、それが達成点とし て固体化(=氷結)をむかえるという質的状態変化を時間軸上で示している。これは 漸進的達成動詞型(incremental accomplishment)である。  一方、結果項追加型結果構文では次のように説明される。. −8−. ( 151 ).

(8) 結果構文の意味論再考―2分類をめぐって 濱本. (18)They yelled themselves hoarse.. q OBJ. themselves. be hoarse. (=they) q yell SBJ. They t. このタイプの結果構文は2つの事態で構成されている。1つは[they yell]であり、 もう一つは[they be hoarse]である。2つとも行為動詞(activity)であり意味的に 内在化された完結点を持たない。またこの2つの事態は元々意味的に含意関係があ るわけではない。しかし「大きい声で叫べば声が嗄れる」事は経験的に周知の事実 である。彼らが「叫ぶ」という方向性を持たない行為(方向性を持たないのでプロ セスはジグザグで表現されている)を始めると、彼らの声が嗄れるという事態 (これ も方向性を持たないのでジグザグである)も開始される(最初の縦の矢印)。この矢 印が本来別個の2つの事態に因果関係(causality)が設定されることを示す。叫ぶと いう行為が時間軸に沿って進行し、声が嗄れる事態が明確になり完結点と意識され る(be hoarse の縦線)。   この2次元モデルは2つのタイプの結果構文の典型例をうまく表示している。 (17) “the pond froze solid”であれば freeze という動詞の「凍る」という意味に は方向性があり、それは完結点を持つ。この完結点に「固体化する(solid)」が対 応しそれが結果状態を明確化させている。このタイプは達成動詞の完結性という意 味 論 的 特 性 に 動 機 づ け ら れ た 結 果 構 文 と 言 え る。 一 方、(18) “they yelled themselves hoarse”では行為動詞の yell は方向性を持たず完結点も持たない。こ れは達成動詞の完結性という意味論的契機に動機づけられたのではなく、「日常的 経験に基づく知識」に動機づけられた結果構文である。従って、このタイプの結果 構文は「2つの事態に自然な因果関係を認められる範囲で容認される」と言わねば ならない。. ( 152 ). −7−.

(9) 文学・芸術・文化/第 27 巻第 1 号/ 2015.9. 2.3 慣性世界意味論:付加語的結果構文と慣性世界制約  先の(17)の例文は典型的な Iwata の「付加語的結果構文」の例であり、それは 「漸進的達成動詞型」と理解されるということである。それでは Iwata の周辺的な 「付加語的結果構文」では事情はどのようであろうか。上記の“the pond froze solid”のような典型的な付加語的結果構文と非典型例では進行アスペクトの文法 性に微妙な違いが感じられる。またこれを John built a house のような達成動詞と も比較してみよう。. (19)a. John was building a house.  ⊩ John built a house. b. The pond was freezing solid. c. ?She was closing her eyes tight. d. ?? Sheila was falling flat on her hands and face on the path.. (19a)で build a house は典型的な達成動詞(accomplishment)である。この進行形 は John built a house を論理含意しない。家ができたのかどうかは分からないから である。つまり達成動詞では全て結果状態(家が出来上がり存在する)を論理含意す ることはできないのである。このことをよく考えておかなくてはならない。では存 在が保証されない、つまりできるかどうか分からない物を a house と言えるのはな ぜか、また John が建てている物が house になるかどうか分からないのであれば、 この文を“John was building a factory”と区別するのは何かということが問題に な る。 こ れ を「 進 行 形 の パ ラ ド ッ ク ス(imperfective paradox)」(Dowty 1979: 133)という。このように達成動詞の進行形にどのような真理条件を与えるかが長ら く問題となった。Dowty はこの意味論上の難問に「慣性世界意味論」を考案する ことで対処した。これを簡単に紹介する。. (20)inertia worlds (慣性世界)の定義 (Dowty 1979: 148) 当該の時間に至るまではある所与の世界と同じであり、この時間以降の未来の事態 の進行も過去の事態推移と最も適合して進展するような世界を慣性世界とする。ま た Inr を慣性世界を導出する関数と規定する。. −6−. ( 153 ).

(10) 結果構文の意味論再考―2分類をめぐって 濱本. (21) [PROG φ]が< I, w > において真になるのは、I ⊂ I であり、かつ I が I の 最終部分区間ではないようなある区間 I について、かつ w ∈ Inr (< I, w >)である ような全ての w について、φが< I , w >において真であり、そしてその場合に限 られる。. φ成立 w’ w. I’. I. 過去から続く事態の推移の中で慣性的に展開していく世界を慣性世界と考え、その 可能な慣性世界の全てでφが真になれば、[PROG φ]も現実世界、かつ現実の時 間で真であることになる。達成動詞では結果状態の存在を論理含意できず、ただ慣 性世界の中にその状態の存在を仮想するだけである。この考えを利用し(19)の結果 構文の進行形の文法判断を考えよう。(19b)の“the pond was freezing solid”は 付加語的結果構文の典型例であり、「漸進的達成動詞型」と理解されるものの進行 形である。この文が“the pond became solid”を含意できないのは一般の達成動 詞の進行形と同じである。しかし「池が凍り始めこのまま慣性的に推移すれば可能 な慣性世界では the pond was solid の想定は充分可能である。そういう点でこの (19b)の達成動詞の進行形は文法的に容認される。ところが (19c,d)のように Iwata のいう非典型的周辺的な付加語的結果構文の進行形では文法性が落ちる。(19c) “she was closing her eyes tight”は彼女が目を閉じようとしている時点では、そ れがはたしてしっかり閉じられた状態になるかどうかは、確かに慣性世界で成立す る可能性はあっても「全ての慣性世界」での成立は想定が難しい。故に文法性は落 ちる。(19d) “Sheila was falling flat on her hands. ”では彼女が倒れる場面を目. 撃する時点では、全ての慣性世界で「両手、顔を路上に投げ出してその上にばった りと倒れこむ」ことを想定できない。従って文法性はさらに落ちる。  以上の考察から次のことが結論できる。(19c,d)の結果構文は過去形で現れた場 合は文法文として認可される。しかし進行形では文法性が落ちる。つまり「漸進的 達成動詞型」が結果構文に組み込まれた付加語的結果構文の場合、典型か周辺的か. ( 154 ). −5−.

(11) 文学・芸術・文化/第 27 巻第 1 号/ 2015.9. は Iwata の言うように動詞と結果状態との間に含意関係(entailment)が成立するか どうかではなく「慣性世界での成立可能性」にあることになる。典型的な例では通 常の達成度動詞と同様に「全ての慣性世界」での成立が想定できるが、(16a,b,c)の ような周辺的な場合、「慣性世界での成立可能性」が低くなっている。また次の例 を見られたい。. (22=(8) (9)) a. The bottle broke open. b. *The vase broke worthless. c. The wedding cake melted into a slimy mess. d. *The wedding cake melted ugly.         (Tortora 1998). これも付加語的結果構文の例であるが、非文法的と判断されたものは「慣性世界で の成立可能性」が皆無であると判断されるからである。つまり(22b=8b)で「花瓶 が割れて無価値になった状態」は主観判断であり慣性世界での自然の推移とは無関 係であり、(22d=9b)も「ウエディングケーキが醜くなった状態」も主観判断であ り慣性世界での自然の推移とは無関係である。  ここで先にあげた付加語的結果構文に関する Tortora の意味的制約「さらなる 特定化制約(Further Specification Constraint : FSC)」を「慣性世界意味論」から 再定式化する提案したい。下の(23)は FSC であり、それに代わるものが「慣性世 界制約」である。. (23=10)FSC (Tortora 1998: 341) 固有の完結性のある動詞が結果構文となれるには動詞の意味の中に既に固有に存在 する結果のさらなる特定化に関わる場合に限られる。. (24)慣性世界制約 (Inertia world constraint on Adjunct resultatives) 「漸進的達成動詞型」が結果構文として容認されるのは(少なくとも1つの)慣性世 界で結果状態が想定可能な場合、そしてその場合に限られる。 −4−. ( 155 ).

(12) 結果構文の意味論再考―2分類をめぐって 濱本. 2.4 固有的方向性運動動詞(VIDMs)をどう扱うか  非対格動詞のうち「固有的方向性運動動詞(verbs of inherently directed motion: VIDMs)」は一般的に結果構文を形成しないとされている(Levin and Rappaport Hovav 1995)。VIDMs の多くは移動を示す動詞であり着点が動作の完結点として 含まれている(arrive、return、come など)。しかし明確な着点を含まない移動行 為動詞(descend、ascend など)も存在する。前者を漸進的達成動詞と見ればこれ らの動詞の結果状態とはすなわち着点となる(= (25))。非文法的なケース(= (26)) は上述の「慣性世界制約」で説明される。. (25)a. John arrived at the office. b. Kenji came home happily. c. Keiko returned to work after having a baby. (26=(5))a. *Willa arrived breathless. b. *John came sad. c. *John retuned happy.. (26)の例は慣性世界で結果状態が想定可能ではないことにより容認されない。しか し VIDMs の中には descend (降りる)、rise(上がる)などのように行為動詞として 意味的完結性を持たないものもあり結果構文を形成できるものもある。. (27= (7) ) (Edmund Hillary and Tenzing Norgay reached the summit of Mt. Everest.) They took some photographs, left some sweets and a cross, and descended triumphant.. この descend という動詞そのものには結果状態の意味は含まれておらず、結果を もたらす項が追加されたと考えるべきであり「結果項追加型結果構文」の周辺的例 と捉えられるだろう。「エヴェレスト山から降りてくる」という行為動詞と「意気 軒昂になる」という行為動詞の結果状態とは別個の2つの事態である。2つとも行 為動詞であり意味的に内在化された完結点を持たず、この2つの事態は元々意味的. ( 156 ). −3−.

(13) 文学・芸術・文化/第 27 巻第 1 号/ 2015.9. に含意関係があるわけではない。しかし「危険な山に初登頂し降りてくれば意気 揚々とするだろう」ことは経験的に納得できる。彼らが「下る」という完結性を持 たない行為を始めると、「気持ちが高揚する」という事態も始まり、別個の2つの 事態に因果関係 (causality)が設定される。「下る」という行為が時間軸に沿って進 行し「意気軒昂となる」事態が完結点と意識される。これは達成動詞の完結性とい う意味論的契機に動機づけられたのではなく、「日常的経験に基づく知識」に動機 づけられた結果構文である。従って、このタイプの結果構文は「2つの事態に自然 な因果関係を認められる範囲で容認される」と言わねばならない。また普通、結果 項追加型結果構文のタイプでは再帰的な NP(themselves)が必要であるがこの例 には見られない。そういう点でこの例は付加語的結果構文と結果項追加型結果構文 との間に位置するとも言えよう。確認であるが、動詞の descend は到達点を持つ 漸進的達成動詞ではないので漸進的達成動詞型の結果構文容認条件である「慣性世 界制約」には従わない。むしろ結果項追加型結果構文に関わる「2つの事態間に因 果関係を認め、結果状態が自然な推移のうちに感覚できれば容認される」とする制 約に従うのである。. 3.結論  2つのタイプの結果構文、すなわち付加語的結果構文と結果項追加型結果構文の 意味論的違いを確認した。前者は「漸進的達成動詞」を持ち、後者は2つの元々意 味的繋がりのない行為動詞の示す事態間に因果関係を設定するものである。前者は FSC を精密化した意味論的に動機づけられた「慣性世界制約」に従い、後者はや や漠然とした「日常的経験に基づく知識」に動機づけられた「2つの事態に自然な 因果関係を認められる範囲で容認される」という制約に従う。この後者の制約では 「自然な因果関係が認められる範囲」をもう少し理論的(語用論的に)定式化できる 可能性があるが、それは今後の研究課題としたい。. −2−. ( 157 ).

(14) 結果構文の意味論再考―2分類をめぐって 濱本. 注 1.そのため形容詞句が結果状態の表現に使われるのであれば上限設定的(Kennedy and McNally 2005)な形容詞が好まれると判断される。. 参考文献 Croft, William. 2012.. , New York, Oxford University Press.. Dowty, David R. 1979.. , Boston, Reidel Publishing. Company. Iwata, Seizi. 2006.“Argument resultatives and adjunct resultatives in a lexical construction account: the case of resultatives with adjectival result phrases,” 28:449-96. Levin, Beth, and Malka Rappaport Hovav. 1995. . Cambridge, MIT Press. Levin, Beth, and Malka Rappaport Hovav. 2001.. . Cambridge, MIT. Press. Tortora, Christina, M. 1998.“Verbs of Inherently Directed Motion are Compatible with Resultative Phrases,”. ( 158 ). , vol.29 no.2 :338-345. −1−.

(15)

参照

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