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わが国中小企業における事業所展開の実態
当公庫総合研究所では、 第187回中小企業動向調 査の付帯調査として特別調査 「事業所の立地戦略に ついて」 (調査時点:2005年9月30日) を実施した1 (以下、 第187回付帯調査という)。 このアンケート 調査では、 主要事業所の所在地、 現状の機能及び今 後強化したい機能、 現状の課題、 今後の方向性及び 立地場所選定の理由等について尋ねているが、 その 結果、 次のような 「中小企業における事業所展開の 特徴」 が浮かび上がってきている。 主要事業所の所在地は、 「本社のみ」 「本社・事 業所が1地方内のみ2 」 が8割前後を占める (図1)。 海外に事業所がある企業は全体の1%に満たな い (図2)。 本社及び本社以外の事業所における 「現状の機 能」 は、 本社については 「企画・設計・研究・ 中小企業金融公庫総合研究所 産業・地域・政策研究グループ 上席研究員鋸屋
弘
要 旨
○ 企業の立地戦略には、 経営・事業展開の戦略 及び 重視する経営資源 の選択が強く影響する。 すなわち、 「市場・顧客のニーズ」 「ニーズへの最も効率的・効果的な対応の方法」 等を踏まえて、 経営・事業展開の戦略 及び 重視する経営資源 の選択が行われ、 限られた経営資源を最大限活 用して、 目指す経営・事業展開が着実に実現されるような立地場所・立地戦略の選定が行われる。 多くの中小企業では、 目指す経営・事業展開の実現に向けた方策 として 「イノベーションの強 化」 が選択され、 「イノベーションの強化」 による 「経営革新」 「省力化・合理化」 等の着実な実施 に向けて 「有能な人材や多様かつ高度な専門能力等を有する協力企業」 などが重要な経営資源と認 識されている。 こうした経営資源の効率的・効果的な活用に最適の立地場所を比較検討した結果、 多くの中小企業では 「国内での事業展開」 が選択されていると考えられる。 ○ また、 個別企業における事業所の立地戦略には、 「当該企業及び当該企業の事業、 取扱製品・サー ビスのライフサイクル上のポジション」 の如何が強く影響する。 これは、 企業・事業や取扱製品・ サービスのライフサイクル上のポジションによって、 次の2点が異なることに起因する。 ① 経営・事業展開の戦略 重視する経営資源 重視する外部資源の活用のあり方 ② 活用可能な外部資源の多様性・広域性 ○ わが国中小企業における国内での事業展開を確保するためには 「これまで以上にイノベーション を強化してアジア諸国等との差別化・棲み分けを推進し、 国内での事業展開を維持・発展させるこ と」 が肝要である。 そのためには、 立地企業等の 「内発的な事業展開」 を促進することが不可欠であり、 こうした取 組みを支援する施策を講じることによって、 わが国全体あるいは各地域の立地条件・地域資源の高 度化・独自化を図ることが重要と言える。わが国中小企業における事業所立地戦略
―イノベーションの推進を実現する戦略策定―
1 調査時点:2005年9月30日、 調査対象:当公庫取引先 12,172社、 有効回答企業数:5,448社 (回収率44.8%)、 質問票:中小公庫レポート№2006-6巻 末に掲載。 2 例えば、 本社が群馬県に所在し、 事業所が関東地方内のみに所在する場合、 「本社・事業所が1地方内のみ」 に該当する。開発 (以下、 企画・開発等という)」 「生産・加 工・製作 (量産、 ロット生産。 以下、 量産等と いう)」 「仕入先・外注先管理」 「販売・受注・ サービス提供 (以下、 販売等という)」 の比率 が高い。 本社以外の事業所では、 本社に比べて 「企画・開発等」 のほか 「マーケティング・市 場調査」 等が低くなっている (図3)。 本社及び本社以外の事業所における 「今後強化 3 業種区分は次のとおり (以下同じ)。 内需関連:飲食料品、 繊維・繊維製品、 紙・紙加工品、 化学、 プラスチック製品、 印刷・同関連、 その他製造業 建設関連 (鉄鋼除く) :木材・木製品、 窯業・土石製造業、 鉱業、 建設業 機械金属関連:鉄鋼、 非鉄金属、 金属製品、 一般機械、 電気機械、 電子部品・デバイス、 輸送用機械、 精密機械製造業 運輸・流通・情報関連:運送業 (水運業含む)、 倉庫業、 情報通信業、 卸売業 小売・サービス関連:小売業、 飲食宿泊業、 サービス業、 ガス供給業、 不動産業 図1 業種別3にみた本社・事業所の所在地 内需関連 建設関連 (鉄鋼除く) 機械金属関連 運輸・流通・ 情報関連 小売・ サービス関連 0 20 40 60 80 100 (%) 本社のみ 本社・事業所が1地方内のみ 本社・事業所が2地方にまたがる 本社・事業所が3地方以上にまたがる 52.3 15.6 55.6 9.9 53.8 15.1 49.9 13.1 58.3 22.3 29.7 23.1 30.6 33.8 6.3 資料:中小企業金融公庫総合研究所「第187回中小企業動向調査付帯調 査」に基づき作成(図1、2) 図2 業種別にみた「海外に事業所がある企業」の割合 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 (%) 0.3 0.4 0.9 0.4 0.1 内需関連 建設関連 (鉄鋼除く) 機械金属関連 運輸・流通・ 情報関連 小売・ サービス関連 図3 業種別にみた事業所の「現状の機能」(2つまでの複数回答) 内需関連:本社 同上:本社以外の事業所 建設関連(鉄鋼除く):本社 同上:本社以外の事業所 機械金属関連:本社 同上:本社以外の事業所 運輸・流通・情報関連:本社 同上:本社以外の事業所 小売・サービス関連:本社 同上:本社以外の事業所 0 20 34.0 10.7 30.4 7.6 29.7 11.2 20.2 企画・設計・研究・開発 生産・加工・製作(量産、ロット生産) 物流(保管、入出庫管理、配送) マーケティング・市場調査 仕入先・外注先管理 その他 試作、単品・特注品製作 販売・受注・サービス提供 無回答 28.1 9.5 40 60 80 100 120 140 160 180 200 (%) 10.6 8.0 48.3 24.9 37.1 13.3 12.1 5.8 37.0 12.0 49.2 23.3 10.4 6.2 27.0 39.0 50.3 5.8 9.5 5.4 32.2 22.3 57.2 15.3 9.0 15.4 57.8 26.8 24.0 8.4 8.2 13.2 53.9 16.1 34.1 15.5 13.9 30.3 52.8 34.0 9.5 13.7 61.8 45.9 18.0 28.3 51.5 9.4 11.3 15.8 78.1 10.1
したい機能」 は、 「現状の機能」 と比較して、 いずれも 「企画・開発等」 「マーケティング・ 市場調査」 の比率が高く 「量産等」 「仕入先・ 外注先管理」 「販売等」 の比率がおおむね低く なっている (図4)。 本社及び本社以外の事業所の 「今後の方向性」 については、 「現在地で操業継続」 が95%前後 となっている。 また、 「国内の他の場所への移 転」 とする企業の大半が 「現在事業所が所在す る地方内あるいは隣接する地方内へ移転する」 と回答している4 (図5−1、 5−2)。 「現在の事業所で操業継続」 とする企業におけ る立地場所選定理由は、 「有能な人材の確保」 「既往顧客・市場・仕入先・外注先との取引拡 図4 業種別にみた事業所の「今後強化したい機能」(2つまでの複数回答) 内需関連:本社 同上:本社以外の事業所 建設関連(鉄鋼除く):本社 同上:本社以外の事業所 機械金属関連:本社 同上:本社以外の事業所 運輸・流通・情報関連:本社 同上:本社以外の事業所 小売・サービス関連:本社 同上:本社以外の事業所 0 20 48.6 20.6 36.0 15.7 40.2 16.9 28.2 7.9 企画・設計・研究・開発 生産・加工・製作(量産、ロット生産) 物流(保管、入出庫管理、配送) マーケティング・市場調査 仕入先・外注先管理 その他 試作、単品・特注品製作 販売・受注・サービス提供 無回答 35.8 15.1 25.9 11.3 29.0 15.8 29.7 12.0 23.7 8.4 27.3 10.2 39.1 20.6 24.2 7.2 17.8 26.9 43.9 7.2 19.8 6.5 23.0 19.0 46.8 14.3 22.0 20.0 37.9 19.0 21.7 8.1 20.1 16.1 39.3 16.9 27.2 13.2 28.4 22.3 43.9 27.2 21.4 15.7 55.8 35.0 34.7 14.7 43.2 7.2 21.9 15.7 69.3 9.7 40 60 80 100 120 140 160 180 200 (%) 資料:中小企業金融公庫総合研究所「第187回中小企業動向調査付帯調査」に基づき作成(図3、4) 図5−1 本社所在地別5にみた本社の事業所の立地方針 北海道 東北 関東 北陸東海 近畿 中国 四国 九州 0 20 40 60 80 100 (%) 現在地で操業継続 海外への移転 国内の他の場所への移転 閉鎖 98.1 97.4 95.3 96.1 96.0 97.2 97.7 98.5 4 「国内の他の場所への移転」 の移転先については本稿では掲載していない。 中小公庫レポート№2006-6第1章を参照されたい。 5 地方区分は、 北海道 (北海道)、 東北 (青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島県)、 関東 (東京都、 茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・神奈川・新潟・ 山梨県)、 北陸東海 (富山・石川・福井・長野・岐阜・静岡・愛知・三重県)、 近畿 (京都・大阪府、 滋賀・兵庫・奈良・和歌山県)、 中国 (鳥取・島根・ 岡山・広島・山口県)、 四国 (徳島・香川・愛媛・高知県)、 九州 (福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島・沖縄県) (以下同じ)。
大・深耕」 「物流の合理化・効率化」 が多い (図6)。 「今後、 事業所を増設する方針・計画がある」 と回答した企業における 「事業所増設先」 をみ ると、 現在本社が所在する地方に隣接する地方 内を含めた 本社所在地及び周辺地域 が大半 を占めている (図7、 8) また、 第182回中小企業動向調査付帯調査6 (調査 時点:2004年6月30日。 以下、 第182回付帯調査と いう) において、 今後 (5年後目途) の経営の方向 性を尋ねたところ、 リストラによる事業規模の適正 化、 生産・販売拠点の国内他地域あるいは海外への 拡大・シフトは少数にとどまり、 「新分野進出など 経営革新の推進」 「省力化・合理化の推進」 「既存生 産・販売拠点の能力増強」 「業種や組織・経営体制 の転換」 等の比率が高くなっている (図9)。 図6 「現在の本社・事業所で操業継続」と回答した企業における「現在地を選定した理由」(2つまでの複数回答) 内需関連:本社 同上:本社以外の事業所 建設関連(鉄鋼除く):本社 同上:本社以外の事業所 機械金属関連:本社 同上:本社以外の事業所 運輸・流通・情報関連:本社 同上:本社以外の事業所 小売・サービス関連:本社 同上:本社以外の事業所 0 20 有能な人材の確保 既往顧客・市場への販売拡大・取引深耕 企業間連携・ネットワークの構築、強化 物流の合理化・効率化 労働コストの削減 新規仕入先・外注先との取引開拓 産学連携の構築、強化 その他、無回答 新規顧客・市場の開拓 既往仕入先・外注先との取引拡大・深耕 情報入手の円滑化 20.3 12.1 19.7 14.7 25.3 18.4 17.2 8.8 19.3 18.5 16.0 20.1 42.4 16.4 16.5 13.6 24.6 46.4 13.3 16.8 13.7 19.9 47.0 15.5 9.7 14.1 25.3 49.3 11.3 12.7 12.4 14.7 40.4 20.0 14.3 16.5 22.1 46.4 14.2 18.1 11.3 21.9 44.1 13.2 23.3 8.3 30.8 53.9 10.5 25.5 7.3 23.4 48.3 9.9 8.3 7.1 37.3 54.8 8.8 8.1 40 60 80 100 120 140 160 180 200 (%) 資料:中小企業金融公庫総合研究所「第187回中小企業動向調査付帯調査」に基づき作成(図5−1、5−2、6) 6 調査時点:2004年6月30日、 調査対象:当公庫取引先 12,710社、 有効回答企業数:6,254社 (回収率49.2%)、 質問票:中小公庫レポート№2006-6巻 末に掲載。 図5−2 事業所所在地別にみた本社以外の事業所の立地方針 北海道 東北 関東 北陸東海 近畿 中国 四国 九州 0 20 40 60 80 100 (%) 現在地で操業継続 海外への移転 国内の他の場所への移転 閉鎖 96.8 95.6 93.3 96.6 93.6 96.5 94.9 96.4
M. E. Porter (1990) は、 「国の競争優位」 を決 定する要因として 「要素条件」 「需要条件」 「関連産 業・支援産業」 「企業戦略・構造・競合関係」 を提 起しているが7 、 多くの中小企業では、 経営革新の 推進等を志向し、 イノベーションの円滑な実施に向 けて、 「わが国の競争優位」 に着目した事業所立地 戦略を選択していると考えられる。 すなわち、 メガ・コンペティションが進展する中、 多くの中小企業は、 Q (品質) ・C (コスト) ・D (納期・供給) のさらなる向上を目指して、 「新分野 進出など経営革新の推進」 「省力化・合理化の推進」 といったイノベーティブな取組みを志向している。 こうした経営・事業戦略の選択にあたり、 「要素 条件」 に関しては、 「安価な労働力」 ではなく、 企 図7 今後(5年後目途)、事業所を増設する方針・計画がある企業の比率 内需関連 建設関連(鉄鋼除く) 機械金属関連 運輸・流通・情報関連 小売・サービス関連 0 5 10 15 20 25 30(%) 25.8 19.0 21.1 15.1 18.7 図9 今後の経営の方向性(2つまでの複数回答) 0 20 現状の経営方針の維持 既存生産・販売拠点の能力増強 アウトソーシング活用等による本業への集中 生産・販売拠点の国内他地域への拡大、シフト 業種や組織・経営体制の転換 リストラによる事業規模の適正化 省力化・合理化の推進 新分野進出など経営革新の推進 生産・販売拠点の海外への拡大、シフト その他・無回答 31.5 11.1 36.0 39.6 4.7 37.9 7.9 6.0 15.2 40 60 80 100 120 140 160 180 200(%) 資料:中小企業金融公庫総合研究所「第182回中小企業動向調査付帯調査」に基づき作成 図8 今後の事業所の増設先 (単位:%) 増 設 先 北海道 東北 関東 北陸東海 近畿 中国 四国 九州沖縄 海外 本 社 所 在 地 北 海 道 67.4 5.8 17.3 3.8 1.9 3.8 東 北 76.1 11.4 2.3 3.4 6.8 関 東 0.9 6.3 73.9 4.2 4.8 0.6 0.3 3.6 5.4 北陸東海 2.6 3.3 15.1 64.4 5.3 0.7 0.7 7.9 近 畿 0.4 0.9 11.9 6.2 63.4 4.0 0.4 6.6 6.2 中 国 1.4 5.5 2.7 6.8 67.2 4.1 6.8 5.5 四 国 1.4 16.7 9.7 4.2 56.8 5.6 5.6 九 州 1.1 1.1 10.6 2.1 1.1 1.1 77.6 5.3 資料:中小企業金融公庫総合研究所 「第187回中小企業動向調査付帯調査」 に基づき作成 (図7、 8)
画・開発等を着実に推進できる 「有能な人材」 の確 保・活用を重視している。 また、 「需要条件」 「関連産業・支援産業」 につい ては、 多様かつ高度なニーズを有する既存の国内顧 客・市場をメイン・ターゲットとし、 多様かつ高度 な知識・ノウハウや高い専門能力等を有する協力企 業等の活用強化を志向している。 このように、 多くの中小企業においては、 イノベー ションの推進を主軸とする事業戦略、 外部資源等活 用戦略を志向し、 「海外展開よりも国内での事業展 開」 という事業所立地戦略を選択していると考えら れる。
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中小企業の事業所立地戦略に係る仮説
では、 なぜわが国中小企業の多くが 「海外展開よ りも国内での事業展開」 を志向するのだろうか。 確 かに大企業・中堅企業に比べて経営資源上の制約が あり、 海外投資に係るリスクテイキングができない という事情を多くの中小企業が抱えており、 それが 足枷になっていることは否めない。 しかし、 国内での事業展開を選択する要因は、 そ うした消極的なものだけなのだろうか。 国内での事 業展開を継続するにあたり、 イノベーションの推進 による新分野進出・経営革新、 効率化・合理化、 事 業転換といった取組みだけでなく、 「リストラによ る事業規模の適正化」 といったような取組みの選択 肢もある。 それにもかかわらず、 なぜ多くの中小企 業が国内におけるイノベーションの推進を志向する のか。 そうした取組みを志向する背景に、 「経営資 源の制約」 といった消極的な要因だけではなく、 自 社が活用できる既存の経営資源を再評価し 「敢えて 国内での事業展開を図る」 といった積極的な要因が 作用しているのではないだろうか。 本節では、 こうした問題意識に基づき、 当公庫総 合研究所のこれまでの調査の分析結果8 を踏まえて、 「中小企業の事業所立地戦略に係る仮説」 の提起を 試みる。 あらためて言うまでもなく、 営利企業は 「利潤の 最大化」 を究極の目的としている。 それゆえ、 営利 企業の立地戦略についても 「利潤の最大化を実現す るために、 いつ (when)、 誰が (who)、 どこで (where)、 何を (what)、 どのような要因に基づい て (why)、 どのように (how) 実施するか を明 確にし、 5W1H の妥当性について一つ一つ綿密 に分析・検討して立地戦略を決定する」 ことが肝要 である。 具体的には、 立地場所・立地戦略を決定するにあ たり、 図10に示すような手順・プロセスで行われる と考えられる。 すなわち、 最初に、 市場・顧客の需要・ニーズを見極める とともに、 自社を取り巻く状況・事業環境と自 社の現況、 経営資源の現状、 強み・特徴と弱点・ 課題、 自社のポジショニングを的確に把握し、 今後の見通しを見定めた上で、 経営・事業展 【仮説1−1】 企業の立地戦略には、 次の2つの選択が強く影 響する。 ① 経営・事業展開の戦略 の選択 ② 重視する経営資源 の選択 すなわち、 「市場・顧客のニーズ」 「ニーズへの 最も効率的・効果的な対応の方法」 等を踏まえて、 経営・事業展開の戦略 及び 重視する経営資 源 の選択が行われ、 限られた経営資源を最大限 活用して、 目指す経営・事業展開が着実に実現さ れるような立地場所・立地戦略の選定が行われる。 8 具体的には、 中小企業金融公庫総合研究所 「中小公庫レポート№2004−7∼9 地域中小企業の現状と展望 シリーズ第3∼5編 地域資源を活用 した地域中小企業の取組みの現状と展望 (北海道編、 九州編、 北関東・京滋地域編)」 (2005.3)、 「同№2006−2∼3 同シリーズ第6、 7編 地域資源 を活用した地域中小企業の取組みの現状と展望 (東北編、 中・四国編)」 (2006.4)、 「同№2006-4 同シリーズ第8編 大都市に立地する中小企業の事業 展開」 (2006.4) 並びに第182回及び第187回付帯調査の結果を活用する。
開の方向性 を決定する。 具体的には、 所与の条件の中で 「利潤の最大 化」 「収益の向上」 を図るべく、 「価格競争力向 上による収益増加=コストダウン」 を目指すの か、 「品質・性能等価格以外の競争力向上によ る収益増加=高付加価値化」 を目指すのか、 あ るいは、 その組合せを図るのか、 を選択・決定 する。 次に、 設定された 経営・事業展開の方向性 を踏まえて、 目指す経営・事業展開の実現に 向けた方策 を決定する。 すなわち、 上記プロセスにおいて見極めた市 場・顧客のニーズ、 自社の現況、 強み・特徴と 弱点・課題、 自社のポジショニング、 今後の見 通し等に基づきつつ、 「高付加価値化」 「コスト ダウン」 といった方向性を踏まえて、 「イノベー ションの強化」 か、 「事業規模・立地場所の適 正化」 か、 といった 目指す経営・事業展開の 実現に向けた方策 の選択・決定が行われる。 そして、 選択した 経営・事業展開の方向性 目指す経営・事業展開の実現に向けた方策 に基づき 経営・事業展開の戦略 を決定し、 「経営革新」 「能力増強による既往事業拡大」 「省力化・合理化」 「リストラ、 低コスト地への 移転・シフト」 といった具体的な事業展開の態 様を選択する。 その上で、 選択した 経営・事業展開の戦略 の着実な実現を図るには、 どのような経営資源 図10 企業における立地場所・立地戦略の決定プロセス ○以下のとおり、現状の把握・今後の見通しの分析を行う ・市場・顧客の需要・ニーズの把握 ・自社を取り巻く状況、事業環境、自社の現況、経営資源の現状、強み・特徴と弱点・課題、 自社のポジショニングの把握 ・今後の見通しの見極め 『経営・事業展開の方向性』 の決定 『目指す経営・事業展開の 実現に向けた方策』の決定 『経営・事業展開の戦略』・ 事業展開の態様の決定 『重視する経営資源(特に 外部資源)』の決定 立地候補地の比較検討 立地場所・立地戦略 の決定 ○価格競争力向上による収益増加 =コストダウン ○イノベーションの強化 ○品質・性能等価格以外の競争力向上に よる収益増加=高付加価値化 ○事業規模・立地場所の適正化(拡大・ 縮小、移転・シフト) ○人材(多様かつ高度な能力を有する人材か、低コストの人材か)、市場・顧客、協力企業、 研究開発リソース、インフラ 等 ○能力増強による 既往事業拡大 ○リストラ、低コスト 地への移転・シフト 等 ○海外への事業所 増設・移転を図る ○国内他地域への事業 所増設・移転を図る ○既往事業所の 再編・強化を図る ○経営革新 ○省力化・ 合理化 ○以下の事項の妥当性・実現可能性等について立地候補地を比較検討 ・事業内容、取扱製品・サービスの需要見通し ・経営資源(内部資源・外部資源)の確保・強化、活用 ・社内の事業実施体制・システムの構築・強化 ・販売・受注先、仕入・外注先等との受発注体制、調達・供給体制の構築・強化 ・投資及び操業上のリスク ・上記を勘案した投資効果(収益・費用) 等
の活用が重要・不可欠か、 という分析・検討を 行い、 重視する経営資源 を選択する。 以上の 経営・事業展開の戦略 の着実な実施 並びに 重視する経営資源 (特に外部資源) の効率的・効果的な活用を実現する上で 「既往 事業所の再編・強化」 「国内他地域への事業所 増設・移転」 「海外への事業所増設・移転」 の いずれが妥当か、 あるいは、 どの組合せが妥当 か、 について分析・検討する。 具体的には、 各立地候補地での事業展開に関し て、 「事業内容、 取扱製品・サービスの需要見 通し」 「経営資源の確保・強化、 活用」 「社内の 事業実施体制・システムの構築・強化」 「販売・ 受注先、 仕入・外注先等との受発注体制、 調達・ 供給体制の構築・強化」 「投資及び操業上のリ スクと投資効果」 等の妥当性・実現可能性につ いて比較検討し、 立地場所を決定する。 そして、 その立地場所に最適の立地戦略を策定する。 このように、 「市場・顧客のニーズ」 「ニーズへの 最も効率的・効果的な対応の方法」 等を踏まえて立 地場所・立地戦略の決定が行われる際、 経営・事 業展開の戦略 及び 重視する経営資源 の選択が 重要な位置を占めると言える。 第182回付帯調査の回答企業から 「市場・顧客の ニーズ」 に関して 「今後、 多様化・高度化する」 と 予想する企業と 「今後、 単価引下げ・小口化・短納 期化が進展する」 と予想する企業を抽出し、 それぞ れにおける 「今後の経営の方向性」 をみてみると、 次のような結果が得られた (図11)。 【仮説1−2】 仮説1−1のプロセスを踏まえて、 多くの中小 企業における立地場所・立地戦略の決定のプロセ スを推察すると、 次のとおり指摘できる。 ① 目指す経営・事業展開の実現に向けた方策 としては 「イノベーションの強化」 が選択さ れ、 具体的な事業展開の態様としては 「経営 革新」 「省力化・合理化」 が選択されている。 ② 「イノベーションの強化」 によるこうした事 業展開の実現に向けて 「有能な人材や多様か つ高度な専門能力等を有する協力企業」 など が 重視される経営資源 として選択されて いる。 ③ こうした経営資源の効率的・効果的な活用に 最適な場所に立地するという観点から、 結果 的に、 多くの中小企業において 「国内での事 業展開」 という選択が行われている。 図11 市場・顧客ニーズ予想別にみた今後の経営の方向性(2つまでの複数回答) 0 20 現状の経営方針の維持 既存生産・販売拠点の能力増強 アウトソーシング活用等による本業への集中 生産・販売拠点の国内他地域への拡大、シフト 業種や組織・経営体制の転換 リストラによる事業規模の適正化 省力化・合理化の推進 新分野進出など経営革新の推進 生産・販売拠点の海外への拡大、シフト その他・無回答 29.7 29.7 16.6 32.0 44.6 3.7 35.2 6.4 4.8 16.4 9.0 35.6 35.2 5.3 43.5 10.2 6.9 15.4 40 60 80 100 120 140 160 180 200(%) 資料:中小企業金融公庫総合研究所「第182回中小企業動向調査付帯調査」に基づき作成 ニーズが多様化・ 高度化すると予想 単価引下げ等が 進展すると予想
「市場・顧客のニーズが多様化・高度化する」 と予想する企業においては、 「単価引下げ・小 口化・短納期化が進展する」 と予想する企業に 比べて、 「既存生産・販売拠点の能力増強」 「新 分野進出など経営革新の推進」 の比率が高い。 「単価引下げ・小口化・短納期化が進展する」 と予想する企業では、 「ニーズが多様化・高度 化する」 と予想する企業に比べて、 「リストラ による事業規模の適正化」 「省力化・合理化の 推進」 の比率が高い。 こうした結果から考察すると、 「市場・顧客のニー ズが多様化・高度化する」 と予想され、 「品質・性 能等価格以外の競争力向上による収益増加が必要」 と判断する企業においては、 「既存生産・販売拠点 の能力増強」 「新分野進出など経営革新の推進」 と いった事業展開による高付加価値化の実現を目指す 傾向が比較的強いと考えられる。 これに対し、 「市場・顧客からの単価引下げ・小 口化・短納期化要請が強まる」 と予想され、 「価格 競争力向上による収益増加が必要」 と考える企業に おいては、 「リストラによる事業規模の適正化」 「省 力化・合理化の推進」 といった事業展開によるコス トダウンの実現を目指す傾向が比較的強いとみられ る。 企業においては、 前記のように、 「市場・顧客の 需要・ニーズ」 等を踏まえて 「高付加価値化」 「コ ストダウン」 といった 経営・事業展開の方向性 の選択・決定が行われるが、 さらに、 こうした経営・ 事業展開を着実に行うために 「イノベーションの強 化」 が必要なのか、 「事業規模・立地場所の適正化」 が必要なのか、 といった 目指す経営・事業展開の 実現に向けた方策 の選択・決定が行われる。 そして、 経営・事業展開の方向性 及び 目指 す経営・事業展開の実現に向けた方策 の2つの視 点に基づいて、 「経営革新」 「能力増強」 「省力化・ 合理化」 「リストラ」 といった具体的な事業展開の 態様が規定されると考えられる。 このうち 目指す経営・事業展開の実現に向けた 方策 の選択・決定においては、 自社の経営資源の 現状、 強み・特徴と弱点・課題、 ポジショニングが 前提条件・制約要因になるとともに、 M. E. Porter (1990) が指摘する 「要素条件」 「需要条件」 「関連 産業・支援産業」 「企業戦略・構造・競合関係」 と いった競争優位の決定要因が強く意識され影響を及 ぼしているとみられる。 すなわち、 前掲図11をみると、 「高付加価値化」 を目指す企業においては 「能力増強」 よりも 「経営 革新」、 「コストダウン」 を目指す企業においては 「リストラ」 よりも 「省力化・合理化」 が志向され ており、 いずれの事業展開の方向性においても 「イ ノベーションの強化」 が、 目指す事業展開の実現 に向けた妥当な方策 として、 多くの中小企業で選 択されていると推察される。 「イノベーションの強化」 のためには、 社内の実 施体制・能力の強化とともに、 有能な人材や多様か つ高度な専門能力等を有する協力企業などの活用を これまで以上に強化することが不可欠である。 そして、 こうした 重視する経営資源 (特に外部 資源) を効率的・効果的に活用するのに最適の立 地場所はどこか。 それは、 「要素条件=有能な人材」 「需要条件=多様かつ高度なニーズを有する市場・ 顧客」 「関連産業・支援産業=多様かつ高度な専門 能力等を有する協力企業」 「企業戦略・構造・競合 関係=高い競争力を有する競合先」 がすべてハイレ ベルで揃っているところを選定する。 多くの中小企業において、 以上のようなプロセス で立地場所・立地戦略が決定され、 結果的に 「国内 での事業展開」 が選択されていると言えるのではな いだろうか。
3
中小企業の事業所立地戦略に係る仮説
前節では、 経営・事業展開の戦略 及び 重視
する経営資源 の選択が、 企業の立地戦略に強く影 響すると指摘したが、 当公庫総合研究所のこれまで の調査結果 (ケーススタディ、 アンケート調査) の 分析から、 さらに次のような仮説が導出される。 中小公庫レポート№2006-4 「 地域中小企業の現 状と展望 シリーズ第8編 大都市に立地する中小 企業の事業展開」 において、 「企業・事業や製品・ サービスのライフサイクル上のポジション」 と 「市 場・競合先の特徴」 「活用される知識・情報」 「製品・ 【仮説2】 個別企業における事業所の立地戦略には、 「当 該企業及び当該企業の事業、 取扱製品・サービス のライフサイクル上のポジション」 の如何が強く 影響する。 これは、 企業・事業や取扱製品・サービスのラ イフサイクル上のポジションによって、 次の2点 が異なることに起因する。 ① 経営・事業展開の戦略 重視する経営資 源 重視する外部資源の活用のあり方 ② 活用可能な外部資源の多様性・広域性 【仮説2−1−1】 経営・事業展開の戦略 については、 企業・ 事業や取扱製品・サービスのライフサイクル上の ポジションによって、 次のような傾向がみられる。 すなわち、 「ビジネスモデル構築期」 「勃興期」 等においては、 企業の経営体制・事業実施体制や 取扱製品・サービスの品質・機能等が確立されて おらず、 それらを円滑かつ迅速に確立あるいは改 善・改良することが不可欠であるため、 企画立案・ マーケティング・研究開発・試作・設計といった 取組みが重要である。 これに対し 「成熟・衰退期」 においては、 取扱 製品・サービスが標準的・一般的になり、 品質・ 機能や生産・販売方式等の改良の余地が殆どなく なるため、 いかに低コストで効率的に生産・販売 するかが重要となることから、 生産・調達・販売・ 受注・供給・物流等において合理化・効率化を推 進し、 固定費を中心にコストを削減する取組みが 重要である。 図12 「企業・事業や製品・サービスのライフサイクル上のポジション」 と 「市場・競合先の特徴」 「活用される知 識・情報」 「製品・サービスの性質・形態」 の関連性に係る概念整理 ライフサイクル 上のポジション 市場・競合先の特徴 活用される知識・情報 製品・サービスの性質・形態 ① ビ ジ ネ ス モ デ ルの構築 市 場 は 創 造 さ れ ず、 他社との競合 はない 暗黙知、 潜在情報等を活用して製品・サー ビスや生産・販売方式等を開発・構築。 知識・技術・ノウハウ・情報等が未確立、 あるいは完全にオープンになっていない 製品・サービス等が確立されていない。 類似製品等とのコスト競争力もあるが、 まずは品質・機能・性能等の確立が不可 欠 ②勃興期 市場規模は小さい が、 競合先は殆ど ない 製品・サービスや生産・販売方式等が独 自で、 模倣や同業者の出現が殆どなく、 知識・技術・ノウハウ・情報等が殆どオー プンになっていない 製品・サービス等の独自性・特殊性が高 く、 受注・販売は小規模。 コストよりも 品質・機能が重視される ③成長期 市場規模は拡大を 続け、 競合先も増 加する 暗黙知・潜在情報等に基づき製品・サー ビスや生産・販売方式等の改良が進めら れるが、 他社の参入が進み、 競合が出て くるとともに知識・技術・ノウハウ・情 報等が徐々にオープンになってくる 製品・サービス等が普及してくるのに伴 い、 生産・販売の規模・ロットが拡大。 品質・機能の向上とともに価格・コスト に対する要求が厳しくなってくる ④成熟・衰退期 市場規模は拡大が 止まり、 あるいは 縮小し、 他社との 競合が激化する 製品・サービスや生産・販売方式等の改 良の余地が殆どなくなり、 知識・技術・ ノウハウ・情報等がほぼオープンになっ ている 製品・サービス等が標準的・一般的にな り、 量産・量販が定着。 品質・機能の向 上が限界に達し、 価格・コスト競争が激 化する 資料:中小公庫レポート№2006-4をベースに筆者が加除修正
サービスの性質・形態」 の関連性について概念整理 を試みているが、 再掲すると次のとおりである (図 12、 13)。 すなわち、 「ビジネスモデル構築期」 「勃興期」 は、 暗黙 知、 潜在情報等を活用して製品・サービスや生 産・販売方式等を開発・構築している段階で、 知識・技術・ノウハウ・情報等が未確立、 ある いはオープンになっていない状況である。 した がって、 製品・サービスに対してはコストより も品質・機能が重視される。 「成長期」 においては、 市場規模は拡大を続け、 競合先も増加してくる。 すなわち、 暗黙知・潜 在情報等に基づき製品・サービスや生産・販売 方式等の改良が進められる一方、 市場規模拡大 に伴って他社の参入が進み、 競合が出てくると ともに知識・技術・ノウハウ・情報等が徐々に オープンになってくる。 そして、 製品・サービ ス等の普及、 生産・販売の規模・ロットの拡大 に伴って、 品質・機能の向上と同時に価格・コ ストに対する要求が厳しくなってくる。 さらに 「成熟・衰退期」 になると、 市場規模は 拡大が止まり、 あるいは縮小してくるが、 反面、 他社との競合が激化してくる。 今や、 知識・技 術・ノウハウ・情報等がほぼオープンになって おり、 製品・サービス等が標準的・一般的にな り生産・販売方式等の改良の余地も殆どなくなっ ている。 量産・量販が定着しているが、 品質・ 機能の向上が限界に達しているため、 価格・コ スト競争が激化するという状況である。 以上の概念整理を踏まえながら、 第182回付帯調 査の結果をみると、 ライフサイクル上のポジション によって 「今後の経営の方向性」 に違いがあること が指摘できる。 同調査の回答企業から 「勃興期・成長期企業」9 と 「成熟期企業」10 を抽出し、 両者の 「今後の経営の方 向性」 を対比すると、 次の特徴が浮かび上がってく る (図14)。 勃興期・成長期企業では 「現状の経営方針の維 持」 「既存生産・販売拠点の能力増強」 「省力化・ 合理化の推進」 「新分野進出など経営革新の推 進」 等が主として志向されている。 成熟期企業では 「省力化・合理化の推進」 「リ 9 ここでいう 「勃興期・成長期企業」 とは、 市場・顧客の需要量について、 2・3年前と比較した現状、 今後 (5年後目途) いずれにおいても 「拡大 している」 「拡大する」 と回答している企業をいう (図17も同じ)。 10 ここでいう 「成熟期企業」 とは、 市場・顧客の需要量について、 2・3年前と比較した現状、 今後 (5年後目途) いずれにおいても 「縮小している」 「縮小する」 と回答している企業をいう (図18も同じ)。 図13 「形式知・顕在情報」 と 「暗黙知・潜在情報」 の概念整理 形式知・顕在情報 暗黙知・潜在情報 特徴・ 性質 (形式知・暗黙知) 言葉や文章で表現できる知識・ノウハウ。 標 準化された知識・ノウハウ 勘や直観、 個人的洞察、 経験に基づく知識・ ノウハウ。 言葉や文章で表現できず、 標準化 されていない知識・ノウハウ (顕在情報・潜在情報) 公表されている情報。 外部に現れている情報 公表されていない情報。 外部に現れず内部に 潜んでいる情報 知識・ 情報の 保有者 (形式知・暗黙知) 官庁、 企業、 学校等各種組織・機関 個人 (消費者、 就業者) (顕在情報・潜在情報) 官庁、 企業、 学校等各種組織・機関、 個人 (消費者、 就業者) 知識・情報の認知・入手方法 非公開の形式知を除き、 各種メディア (TV、 ラジオ、 新聞・書籍・印刷物・出版物、 CD・ DVD、 Web 等) を通じて認知・入手可能 Face to Face、 五感で直接体験することに よって認知・入手可能 知識・情報の集積地 特になし (非公開の形式知を除き、 知識・情 報は分散・広域化する) 人や組織・機関が集積するところに知識・情 報が集積 資料:中小公庫レポート№2006-4をベースに筆者が加除修正
ストラによる事業規模の適正化」 に加え、 「新 分野進出など経営革新の推進」 「業種や組織・ 経営体制の転換」 等が志向されている。 「新分野進出など経営革新の推進」 「業種や組 織・経営体制の転換」 の比率合計は勃興期・成 長期企業、 成熟期企業いずれにおいても高くなっ ている。 成熟期企業においては、 当該比率が 「リストラによる事業規模の適正化」 の比率よ りも高くなっている。 また、 勃興期・成長期企 業においても 「既存生産・販売拠点の能力増強」 と同程度に 「新分野進出など経営革新の推進」 が志向されている。 以上の分析結果を総合すると、 各社が自社のコア・ コンピタンスやライフサイクル上のポジション等を 明確に把握し、 いくつかの選択肢の中から、 自社に とって最適の 経営・事業展開の戦略 (経営・事業 展開の方向性及び実現に向けた方策) を見定めて いることが指摘できよう。 例えば成熟期企業においては、 「リストラ」 によ る縮小均衡だけでなく、 経営革新や業種等転換によ る 「若返り (成熟期→勃興期・成長期)」 が志向さ れているが、 国内での操業継続を志向する成熟期企 業にあっては、 むしろ後者の方が比率が高くなって いる。 M. E. Porter (1980、 1993) は、 衰退産業に おける戦略として、 「リーダーシップ戦略」 「ニッチ 戦略」 「収穫戦略」 「早期撤退戦略」 を提起している が11 、 成熟期あるいは衰退期を迎えている中小企業 においては、 リストラとともにイノベーションの推 進に取り組み、 省力化・合理化や経営革新等を実現 して、 現状のポジションからの脱却、 若返りを図ろ うとしていると考えられる。 また、 勃興期・成長期企業の中でも、 現状及び今 後の見通しについて楽観視せず、 ライフサイクルの 短縮化の動きを見据えて 「若さの維持」 を強く意識 している企業も少なくないと言える。 【仮説2−1−2】 重視する経営資源 重視する外部資源の活 用のあり方 については、 ライフサイクル上のポ ジションによって次のような傾向がみられる。 す なわち、 「ビジネスモデル構築期」 「勃興期」 等で は、 企画立案・マーケティング・研究開発・試作・ 設計といった取組みが重要であることから、 「多
11 M. E. Porter (1980), 土岐他訳 「競争の戦略」 ダイヤモンド社, 1982, pp. 333-358、 M. E. Porter, Harvard Business Review. July-August 1993、 竹内訳 「競争戦略論Ⅰ」 ダイヤモンド社, 1999, pp. 177-208。 図14 勃興期・成長期企業と成熟企業における今後の経営の方向性(2つまでの複数回答) 0 20 現状の経営方針の維持 既存生産・販売拠点の能力増強 アウトソーシング活用等による本業への集中 生産・販売拠点の国内他地域への拡大、シフト 業種や組織・経営体制の転換 リストラによる事業規模の適正化 省力化・合理化の推進 新分野進出など経営革新の推進 生産・販売拠点の海外への拡大、シフト その他・無回答 24.9 29.3 24.7 26.4 38.8 3.3 40.7 5.5 4.1 22.3 3.4 42.1 39.2 5.1 43.2 11.0 7.8 11.0 40 60 80 100 120 140 160 180 200(%) 資料:中小企業金融公庫総合研究所「第182回中小企業動向調査付帯調査」に基づき作成 勃興期・成長期企業 成熟期企業
第187回付帯調査において、 「本社における主要課 題」 として 「企画設計・研究開発の強化」 と回答し た企業、 並びに、 「リストラ」 及び 「省力化・合理 化」 と回答した企業をそれぞれ抽出して13 、 両者に おける 「今後の立地場所の選定理由」 を対比してみ ると、 以下の点が指摘される (図15)。 勃興期・成長期企業が多く含まれると目される 「企画設計・研究開発の強化が課題」 とする企 業においては、 「有能な人材」 「既往の顧客・市 場への販売拡大・取引深耕」 に加え、 「企業間 連携・ネットワークの構築・強化」 「産学連携 の構築、 強化」 「情報入手の円滑化」 の比率が 比較的高くなっている。 企画立案・マーケティ ング・研究開発・試作・設計といった取組みを 行うにあたり、 「多様かつ高度な暗黙知・潜在 情報・非公開の形式知や専門能力、 企画・構成・ 設計・提案能力を有する人材、 パートナー企業、 研究機関等」 の効率的かつ効果的な活用を重視 していることが窺われる。 これに対し、 成熟期企業が多く含まれると目さ れる 「リストラ、 省力化・合理化が課題」 とす る企業においては、 「労働コストの削減」 に加 え、 「既往仕入先・外注先との取引拡大・深耕」 様かつ高度な暗黙知・潜在情報・非公開の形式知 や専門能力、 企画・構成・設計・提案能力を有す る人材12 、 パートナー企業、 研究機関等」 といっ た外部資源が重視される。 こうした外部資源を最 大限活用するためには、 当該外部資源の近隣に事 業所を立地し、 緊密なコミュニケーションを実施 することが肝要である。 これに対し 「成熟・衰退期」 では、 いかに低コ ストで効率的に生産・販売するかが重要となるた め、 「マニュアルに基づき忠実に、 しかもミスな く作業を実施できる低コストの人材」 「一定の Q・ D を満たしつつ低コスト対応が可能な協力企業 等」 といった外部資源の重要性が増してくる。 こ うした人材・協力企業等は偏在するものではなく、 また協力企業等については、 近隣に存在しなくて も 「高速物流・通信が可能な交通インフラ・情報 インフラ」 の活用によって円滑な事業展開が確保 できるようになる。 12 人材のうち社員については、 「雇用契約・就業規則等に基づき使用者側に一定の裁量権・占用権があり、 異動・配置転換等は一般的・日常的に行わ れている」 ことから内部資源的な要素が依然強い。 反面、 多様かつ高度な暗黙知・潜在情報等や専門能力、 企画・構成・設計・提案能力を有する人材を 中心に 「非終身雇用、 能力・成果主義、 契約の多様化等が進展し、 自身の能力・資質・志向のみならず日常生活のスタイルや場を前提に職務・職場を柔 軟に選択している」 というような外部資源的な側面もあり、 業務請負契約に基づく協力業者と同様の自主性・独立性が認められるようになってきている。 本稿では、 こうした点に着目し、 社員を 「外部資源的な面もある経営資源」 として捉えることとする。 13 「本社における主要課題」 として 「企画設計・研究開発の強化」 及び 「リストラ」 または 「省力化・合理化」 と回答した企業は、 「企画設計・研究 開発が課題」 とする企業、 「リストラ、 省力化・合理化が課題」 とする企業の双方に含まれる。 有能な人材の確保 既往顧客・市場への販売拡大・取引深耕 企業間連携・ネットワークの構築、強化 物流の合理化・効率化 労働コストの削減 新規仕入先・外注先との取引開拓 産学連携の構築、強化 その他 新規顧客・市場の開拓 既往仕入先・外注先との取引拡大・深耕 情報入手の円滑化 無回答 図15 「企画設計・研究開発の強化が課題」の企業と「リストラ、省力化・合理化が課題」の企業にお ける「現在地で操業を継続する理由」(2つまでの複数回答) 0 20 22.0 23.4 19.6 13.9 38.2 15.9 16.0 13.8 20.1 39.3 10.9 16.7 40 60 80 100 120 140 160 180 200(%) 資料:中小企業金融公庫総合研究所「第182回中小企業動向調査付帯調査」に基づき作成 「企画設計・研究開 発の強化」が課題 「リストラ」「省力化 ・合理化」が課題
の比率が比較的高くなっている。 また、 「物流 の合理化・効率化」 の比率も高く、 「リストラ」 「省力化・合理化」 の推進に向けて、 「低コスト の人材の確保」 や 「既往仕入先・外注先との取 引関係の再構築・強化」、 「社内体制の整備とと もに交通インフラ等の活用強化による物流の合 理化・効率化」 を図ることによって、 事業効率 化やコストダウンを実現する方針であると考え られる。 このように、 各企業や取扱製品等のライフサイク ル上のポジションによって、 経営・事業展開の戦 略 (経営・事業展開の方向性及び実現に向けた方策) が異なり、 それに伴って 重視する経営資源 が異 なってくると言うことができる。 また、 重視する外部資源の効率的・効果的な活 用のあり方 が、 重視する外部資源の所在状況によっ て異なってくることも指摘される。 前掲の中小公庫レポート№ 2006-4において、 大 都市立地型中小企業の事業展開の特徴とそれぞれの 取組みに活用される外部資源の特徴等について分析 し、 「大都市には集積するヒトや企業等に付随して 暗黙知・潜在情報等 の集積が存在しており、 大 都市立地型中小企業では、 こうした 暗黙知・潜在 情報等 を独自の事業展開に活用している」 と指摘 した。 すなわち、 大都市立地型企業では、 新たなビジネ スモデルの構築や研究開発型・特注品特化型の事業 展開等を行うにあたり、 暗黙知、 潜在情報、 非公開 の形式知等の活用を重視し、 「これらの外部資源の 最も効率的・効果的な活用を図るには、 大都市に立 地するのが最適である」 と明確に認識している (図 16)。 そのほか、 第182回付帯調査に基づき 「勃興期・ 成長期企業」 及び 「成熟期企業」 を抽出して、 両者 における 「期待する事業活動エリア内の活性化策」 をみると、 成熟期企業では、 企業誘致やインフラの 整備・拡充等への期待が比較的強く、 「受注基盤の 再構築等による販売・受注の拡大、 事業転換の推進」 「人の交流、 物流、 情報交換等の円滑化・効率化に よるコストダウンの推進」 が実現されることを望ん でいることが窺われる結果となっている (図17)。 以上の調査・分析結果を踏まえると、 「企業・事 業や製品・サービスのライフサイクル上のポジショ ン」 と 経営・事業展開の戦略 (経営・事業展開の 方向性及び実現に向けた方策) 重視する経営資源 重視する外部資源の活用のあり方 の関連性は、 図16 大都市立地型中小企業における事業展開の特徴と活用する外部資源の特徴 大都市立地型中小企業の事業展開の特徴 活用する外部資源 活用する暗黙知・潜在情報等 ①顧客の研究開発・試作、 生産・販売、 業務効率化の支援に係 るニッチで特殊な分野ながらヒトや企業等の集積に伴い一定 の需要規模が形成されている製品・サービスを取り扱ってい る 特定業務・機 能の集積 市場・顧 客として のヒトや 企業等の 集積 「潜在的なニーズ・課題」 「潜 在的な消費性向、 趣味・嗜好等」 の集積 ②ライフサイクルが非常に短く販売リスクが高い 「ファッショ ン性の強い製品・サービス」 を取り扱っている 消費者・関連 業者の集積 ③高度な専門能力を有する人材や感性豊かな人材を確保し、 能 力や感性等の育成を図りつつ、 こうした人材を活用して企画・ 研究開発・デザイン・設計や高精度・高品質の加工といった 高付加価値な業務プロセスを中心に取り組んでいる 高度な専門能 力・豊かな感 性等を有する 人材の集積 事業展開 をサポー トする外 部資源と してのヒ トや企業 等の集積 ヒト並びに企業等に属する人材 が有する 「属人的な知識・ノウ ハウ・経験・アイデア・技能や 企画能力・構成能力・設計能 力・提案能力等」 の集積、 企業 等が有する非公開の形式知・情 報・データ等」 の集積 ④近隣に集積する専門能力の高い企業との間に連携関係・ネッ トワークを構築し、 協力会社として活用している サポーティン グインダスト リーの集積 資料:中小公庫レポート№2006-4をベースに筆者が加工
図18に示すとおり整理される。 すなわち、 知識・技術・ノウハウ・情報等が未確 立、 あるいは完全にはオープンになっていない 「ビ ジネスモデル構築・勃興・成長期の企業」 等におい ては、 企画立案・マーケティング・研究開発・試作 設計といった業務プロセスが重要で、 こうした機能 を強化し、 「既存生産・販売拠点の能力増強」 「省力 化・合理化の推進」 とともに 「新たな製品・サービ ス・ビジネスモデルの確立、 改良の推進」 といった 取組みを重点的に行うことが有効である。 企業経営支援政策の拡充 地方分権の推進、地方独自の政策推進 都市基盤整備の推進 インキュベーション施設、産業支援機関の整備・拡充 その他 無回答 規制緩和の推進 交通インフラ、情報インフラの整備・拡充 中堅・大企業の事業所・工場の誘致推進 大学、高専、公設試験研究機関の整備・拡充 特にない 勃興期・成長期企業 成熟期企業 勃興期・成長期企業 成熟期企業 0 20 64.9 57.7 64.8 47.9 26.7 8.9 24.8 6.2 15.5 22.5 11.5 21.1 11.5 15.0 24.8 9.8 24.8 10.5 21.3 18.7 18.7 26.9 19.4 22.5 40 60 80 100 120 140 160 180 200 (%) 3 大 都 市 圏 3 大 都 市 圏 以 外 図17 勃興期・成長期企業と成熟期企業が望む事業活動エリアの活性化策(2つまでの複数回答) 資料:中小企業金融公庫総合研究所「第182回中小企業動向調査付帯調査」に基づき作成 (注)「3大都市圏」とは関東・北陸東海・近畿を、「3大都市圏以外」とは北海道・東北・中国・四国・九州をそれぞれいう。 図18 「企業・事業や製品・サービスのライフサイクル上のポジション」と「経営・事業展開の戦略」 「重視する経営資源」「重視する外部資源の活用のあり方」の関連性 資料:中小企業金融公庫総合研究所が作成 既存生産・販売拠点の能力増強 新たな製品・サービス・ビジネ スモデルの確立、改良の推進 ライフサイクル上 のポジション ビジネスモデル 構築期 勃興期 成長期 成熟・衰退期 経営・事業展開の戦略(経営・事業展 開の方向性及び実現に向けた方策) 重視する経営資源 重視する外部資源の活用のあり方 頻繁かつ緊密なコミュニケーション の必要性は少ない。協力企業等が 近隣になくてもインフラの活用に よって円滑な事業展開が可能 ミスなく作業を実施できる低 コストの人材、一定のQ・D を満たしつつ低コスト対応 が可能な協力企業 等 省力化・合理化・コスト ダウンの推進 多様かつ高度な知識・情報・ ノウハウ・技術・経験や専門 能力、企画・構成・設計・提案 能力を有する人材、パートナー 企業、研究機関 等 重視する外部資源は都市部を 中心に偏在。円滑かつ緊密な コミュニケーションを実現し、 効率的・効果的な資源活用を 図るためには、当該外部資源 の近隣への立地が重要
そして、 こうした事業展開を円滑に行うためには、 「多様かつ高度な知識・情報・ノウハウ・技術・経 験や専門能力、 企画・構成・設計・提案能力を有す る人材、 パートナー企業、 研究機関等」 が不可欠で ある。 このような外部資源は都市部を中心に偏在してい るが、 移動コストの低減や円滑かつ緊密なコミュニ ケーション (Face to Face の打合せ・情報交換) を実現し、 効率的・効果的な資源活用を図るために は、 当該外部資源の近隣に事業所を立地することが 重要である。 これに対し、 知識・技術・ノウハウ・情報等がほ ぼオープンになっており、 製品・サービス等が標準 的・一般的になり量産・量販が定着している 「成熟・ 衰退期の企業」 においては、 「いかに低コストで効 率的に生産・販売するか」 が重要となるため、 「マ ニュアルに基づき忠実に、 しかもミスなく作業を実 施できる低コストの人材」 のほか、 「一定の Q・D を満たしつつ低コスト対応が可能な協力企業等」 と いった外部資源の重要性が増してくる。 このような人材・企業等は、 「ビジネスモデル構 築・勃興・成長期の企業」 が求めるものに比べて普 遍性が認められる (偏在していない)。 しかも、 受 発注内容等が標準化・定型化されているため、 頻繁 かつ緊密なコミュニケーションの必要性は少ない。 したがって、 協力企業等については、 近隣に存在し なくても 「高速物流・通信が可能な交通インフラ・ 情報インフラ」 の活用によっても円滑な事業展開が 確保できる。 このように、 企業・事業や取扱製品・サービスの ライフサイクル上のポジションによって 経営・事 業展開の戦略 (経営・事業展開の方向性及び実現に 向けた方策) が異なってくることに伴い、 重視す る経営資源 重視する外部資源の活用のあり方 も異なってくることが指摘できる。 新事業創出や経営革新等を実現すべくイノベーショ ンに取り組むにあたり、 パートナー企業等が有する 設備の活用とともに、 人材・パートナー企業・研究 機関等が有する多様かつ高度な暗黙知・潜在情報・ 非公開の形式知等の活用が不可欠である。 野中・竹内 (1996) は、 「共同化 (暗黙知→暗黙 知)」 「表出化 (暗黙知→形式知)」 「連結化 (形式知 →形式知)」 「内面化 (形式知→暗黙知)」 という4 つの知識変換モードのスパイラルが形成され、 循環 【仮説2−2】 「ビジネスモデル構築期・勃興期等の企業」 と 「経営革新等に取り組む成熟期の企業」 において は、 いずれも 「多様かつ高度な暗黙知・潜在情報 等や専門能力、 企画・構成・設計・提案能力を有 する人材、 パートナー企業、 研究機関等」 が重視 されるが、 重視する外部資源の活用のあり方 は両者で異なる。 すなわち、 「ビジネスモデル構築期・勃興期等 の企業」 が新たなビジネスモデルを構築したり新 製品・サービスを開発し事業化する場合、 過去の 蓄積が乏しく一から構築・開発しなければならな いため、 Face to Face の打合せ・情報交換は相 当程度緊密に行うことが不可欠である。 これに対し、 「成熟期の企業」 が経営革新等に 取り組む場合、 既に構築された取引関係・ネット ワーク、 共有化された知識・ノウハウ・情報・技 術、 強固な信頼関係をベースとしつつ、 それら既 存の外部資源の活用を強化することで経営革新等 を実現できることから、 「ビジネスモデル構築期・ 勃興期の企業」 ほど緊密にパートナー企業等との コミュニケーションを図る必要はない。 このように、 同様の業務プロセスを実施する際 に、 「成熟期の企業」 の方が、 活用する外部資源 はより多様かつ広域的になると言える。
することによって知識創造・高度化が推進され、 イ ノベーションが創出されるとしているが14 、 暗黙知・ 潜在情報等の共有化・デジタル化・複合化・蓄積化 といった作業を重ねることが、 イノベーションの推 進において不可欠である。 しかしながら、 そうした 「多様かつ高度な暗黙知・ 潜在情報等や専門能力、 企画・構成・設計・提案能 力」 を有する人材、 パートナー企業、 研究機関等の 効率的・効果的な活用のあり方は、 活用する企業に おけるライフサイクル上のポジションによって異なっ てくると考えられる。 中小公庫レポート 「 地域中小企業の現状と展望 シリーズ 第3∼8編」 で採り上げた事例企業94 社15 について、 業歴を基準に 「勃興期・成長期企業」 「経営革新等に取り組む成熟期企業」16 に大別し、 そ れぞれにおける域内外の外部資源の活用状況をみる と、 以下の点が指摘できる (図19−1、 19−2)。 全体としては、 勃興期・成長期企業、 経営革新 等に取り組む成熟期企業を問わず 「人材」 のほ か 「地域内の企業等」 「地域内の研究開発リソー ス」 が重点的に活用されている。 また、 経営革 新等に取り組む成熟期企業の方が、 企業等の活 用を中心に 「活用する外部資源の多様性・広域 性」 「外部資源を活用する業務プロセスの多様 性」 がみられる。 企業等の活用については、 両者とも 「地域内企 14 野中・竹内 「知識創造企業」 東洋経済新報社, 1996, pp. 83-141。 15 地域別の内訳は、 北海道12社、 東北15社、 北関東8社、 東京14社、 京都・滋賀7社、 大阪8社、 中・四国16社、 九州14社。 16 ここでいう 「勃興期・成長期企業」 とは、 調査時点で創業後経過年数が20年以下の企業をいう (25社が該当)。 また 「経営革新等に取り組む成熟期 企業」 とは、 調査時点で (親会社・前身企業を含めて) 創業後経過年数が21年以上の企業で、 近時において新分野進出や経営革新等に取り組んでいる企 業をいう (69社が該当。 事例企業94社は、 いずれかに該当する)。 なお、 各事例の詳細な分析については中小公庫レポート№2006-6の巻末図表3を参照 されたい。 図19−1 勃興期・成長期企業25社における地域内外の外部資源の活用状況 需要把握、 企画・開発 生産・加工・販売・受注・サービス提供 企業等 (事業者 (個人・企業)、 自治体、 各種機関等、 連携・ネットワーク) 地域内(注) 56.0% (=14/25) 80.0% (=20/25) 地域外(注) 16.0% (=4/25) 32.0% (=8/25) 研究開発リソース (大学・高専・公設 試験研究機関等) 地域内 52.0% (=13/25) 地域外 16.0% (=4/25) 図19−2 経営革新等に取り組む成熟期企業69社における地域内外の外部資源の活用状況 需要把握、 企画・開発 生産・加工・販売・受注・サービス提供 企業等 (事業者 (個人・企業)、 自治体、 各種機関等、 連携・ネットワーク) 地域内 71.0% (=49/69) 97.1% (=67/69) 地域外 30.4% (=21/69) 59.4% (=41/69) 研究開発リソース (大学・高専・公設 試験研究機関等) 地域内 39.1% (=27/69) 4.3% (=3/69) 地域外 10.1% (=7/69) 1.4% (=1/69) 【凡例】 需要把握、 企画・開発 生産・加工・販売・受注・サービス提供 企業等 (事業者 (個人・企 業)、 自治体、 各種機関等、 連携・ネットワーク) 例) 事業者間・企業間・産官の連携による 共同開発、 実証試験・企画・デザイン・ 設計・試作等協力の相手先等 例) 生産・加工・製作に係る原材料・資材等調達 先、 製造・加工・組立・施工等委託先等 例) 販売・受注・サービス提供に係る販売・受注 窓口、 販売等代理・委託先、 物流等委託先、 OEM 元・元請・親企業、 特注品・オーダーメ イド品のユーザー等 研究開発リソース (大学・ 高専・公設試験研究機関等) 例) 産学連携による共同研究開発、 実証試 験・理論構築・機器利用等の相手先等 例) 特注品・オーダーメイド品のユーザー等 資料:事例調査の結果に基づき中小企業金融公庫総合研究所が作成 (図19−1、 2) (注) 地域内とは本社が所在する地方内 (例えば群馬県に本社があれば関東地方内)、 地域外とは本社が所在する地方以外の広域的なものを指す。
業等」 の比率が高くなっている。 両者を比較す ると、 「地域外企業等の活用」 並びに 「生産・ 加工・販売・受注・サービス提供プロセスにお ける地域内外の企業等の活用」 に関しては、 経 営革新等に取り組む成熟期企業の方がより活用 されている。 「需要把握、 研究・開発」 プロセスにおいて活 用する外部資源は、 勃興期・成長期企業では 「研究開発リソースが主体」 であるのに対し、 経営革新等に取り組む成熟期企業では 「企業等 が主体」 となっている。 以上から考えると、 両者いずれにおいても研究開 発プロセスを中心に 「人材や企業・研究開発リソー ス等の能力、 暗黙知、 潜在情報等」 が重点的に活用 されているが、 「経営革新等に取り組む成熟期企業」 においては、 培ってきた事業基盤や企業等とのネッ トワークなどを強みに、 多様かつ広域的な外部資源 の活用が図られている。 これに対し、 「勃興期・成 長期企業」 においては 「人材」 「研究開発リソース」 の活用、 「地域内の外部資源」 の活用が主体となっ ていることがわかる。 このように、 「新たなビジネスモデルの構築や新 製品・サービスの開発・事業化といったプロセスに おいては、 いずれの企業も 人材や企業等が有する 多様かつ高度な能力、 暗黙知、 潜在情報等 の活用 が不可欠であるが、 ライフサイクル上のポジション によって、 活用する外部資源の多様性・地域性が異 なる」 という点が指摘できよう。
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国内立地企業の内発的事業展開促進の必
要性
東アジアを中心に 「良質かつ低コストの労働力」 「急速な拡大を遂げる市場」 が海外に豊富に存在す るにもかかわらず、 わが国中小企業の多くが、 「海 外展開」 よりも 「国内での事業展開」 を選択してい る。 ただし、 国内での事業展開を継続・強化していく ためには 「これまで以上にイノベーションを強化し てアジア諸国等との差別化・棲み分けを推進し、 国 内での事業展開を維持・発展させること」 が肝要で ある。 とりわけ、 多品種少量短納期の製品や取扱企 業等の淘汰が進展した製品等を除き、 成熟期・衰退 期に属する製品等を国内で取り扱う妥当性は弱まり つつあり、 成熟期・衰退期企業においては経営革新 等による 「若返り」 が不可欠と考えられる。 本稿では、 前2節のとおり 「中小企業の事業所立 地戦略に係る仮説」 を提起したが、 わが国における 企業・事業所立地を維持するとともに立地企業等の 「内発的な事業展開」 を促進して、 地域活性化を実 現するためには、 次に掲げるような方策を講じ、 わ が国全体あるいは各地域の立地条件・地域資源の高 度化・独自化を図ることが重要と言える。 すなわち、 わが国事業所の90%超を占める中小企 【提言】 わが国における企業・事業所立地を維持すると ともに立地企業等の 「内発的な事業展開」 を促進 し地域活性化を実現するための方策 「多様かつ高度な暗黙知、 専門能力、 企画・ 構築・設計・提案能力を有する人材の確保・ 育成・活用」 の支援 上記人材の定着化を図るための生活環境等の 整備・改善 新分野進出や経営革新等への支援強化 企業間、 産学間の連携・ネットワークの強化 による高度かつ専門的な外部資源 (高度な暗 黙知・専門能力等を有する人材、 潜在情報・ 非公開の形式知、 設備機器・システム等) の 活用促進の支援 暗黙知の形式知化の促進、 非公開の形式知・ 情報・データの保護の支援 情報インフラのさらなる整備業においては、 今後も国内での操業継続を志向して いるが、 事業所増設の意向はさほど強くなく、 しか も、 事業所を増設・移転するにしても現在の操業地 周辺への立地を志向していることから、 いずれの地 域においても、 交通インフラの整備・拡充や企業誘 致の推進による施策効果はそれほど期待できない。 したがって、 既存の事業所における事業活動の拡 大・強化を促進することによって、 雇用機会の増加、 受発注や付加価値の増加等地域経済への波及効果を 創出することが肝要である。 こうした既存事業所における内発的な取組みを促 進するためには、 個別企業における基盤強化を促進 するとともに、 必要とする外部資源の効率的かつ効 果的な活用を実現するための支援施策や環境整備が 不可欠である。 具体的には、 個別企業における 「多様かつ高度 な暗黙知、 専門能力、 企画・構築・設計・提案能力 を有する人材の確保・育成・活用」 の支援とともに、 こうした人材が地域に定着するための生活環境等 の整備・改善を図ることが重要である。 また、 当該企業のみならず取引先企業や協力企業 等を含めて、 各企業における新分野進出・経営革 新等基盤強化のための取組みに対する支援を強化す るとともに、 企業間、 産学間の連携・ネットワー クを強化するための措置を講じて企業・研究開発リ ソース等の活用促進を支援することが必要である。 そのほか、 暗黙知の形式知化の促進、 非公開の形 式知・情報・データの保護の支援、 情報インフラ のさらなる整備等、 企業における円滑な事業展開を 確保・促進するための方策も重要かつ有効であると 考えられる。 こうした施策の立案・実施にあたり、 個々の地域 では対応が困難なケース、 企業の事業活動エリアが 広域的なケース等については、 地域間の広域的な連 携により一体的な施策を講じることが重要と言えよ う。 いずれにしても、 地域に立地する企業・事業所並 びに重要な地域資源である人材・企業等の実態とニー ズを的確に把握し、 それらを十分に地域活性化策に 反映させることが不可欠である。 参考文献 M. E. Porter・竹内訳 「競争戦略論Ⅰ、 Ⅱ」 ダイヤモンド社、 1999年 M. E. Porter・土岐他訳 「競争の戦略」 ダイヤモンド社、 1982年 野中郁次郎・竹内弘高 「知識創造企業」 東洋経済新報社、 1996年 D. J. Skyrme・太田他訳 「知識ネットワーキング―企業連携の創造―」 晃洋書房、 2005年 中小公庫レポート№2004-6 「 地域中小企業の現状と展望 シリーズ 第2編 地域資源の活用により基盤強化を進 める地域中小企業」、 2005年3月 中小公庫レポート№2004-7∼9、 №2006-2,3 「 地域中小企業の現状と展望 シリーズ 第3∼7編 地域資源を活用 した地域中小企業の取組みの現状と展望 (九州編) (北海道編) (北関東・京滋地域編) (東北編) (中・四国 編)」、 2005年3月, 2006年4月 中小公庫レポート№2006-4 「 地域中小企業の現状と展望 シリーズ 第8編 大都市に立地する中小企業の事業展 開」、 2006年4月 中小公庫レポート№2006-6 「 地域中小企業の現状と展望 シリーズ 第9編」、 2006年7月