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人権擁護法案の問題点と人権救済機関の課題

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Academic year: 2021

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(1)人権擁護法案 の問題点 と人権救済機 関の課題. 人権擁護法 案 の問題 点 と人権救済機関 の課題 北. 口 末. 広. 1、 人 権 擁 護 法 案 の 問 題 点 二 〇 〇二 年 四 月 二 四 日、 「人 権 擁 護 法 案 」 が 参 議 院 に上 程 さ れ た が 、 こ の法 案 に は重 大 な問 題 点 が 含 まれ て い る。 第 一 に、 法 案 で は、 人 権 委 員 会 が 法 務 省 の外 局 と さ れ て い る た あ独 立 性 に欠 け て い る と い う点 で あ る。 法 務 省 の 外 局 と して の人 権 委 員 会 で は、 有 効 な人 権 救 済 が で きな い。 特 に法 務 省 管 轄 下 の 機 関 で 生 じて い る数 多 くの人 権 侵 害 に的 確 に対 応 す る た あ に は少 な くと も内 閣 府 の 外 局 とす べ きで あ る。 第 二 に、 人 権 委 員 会 を 中 央 に一 っ だ け しか 置 か な い体 制 で は、 実 効 性 の あ る人 権 救 済 は で き な い。 少 な くと も都 道 府 県 や 政 令 指 定 都 市 に も人 権 委 員 会 を設 置 しな け れ ば、 これ まで の 人y=rr'護行 政 の 反 省 の 上 に た って 立 案 され て き た に もか か わ らず 事 実 上 これ まで の 法 務 省 によ る人 権 擁 護 行 政 と何 ら変 わ らな い こ と に な る。 第 三 に、 人 権 委 員 会 の 事 務 局 の 問 題 で あ る。 政 府 案 で は現 行 の 法 務 省 人 権 擁 護 局 の事 務 局 体 制 が 基 本 的 に横 滑 りす るだ け と な って い る。 地 方 法 務 局 に い た って は法 務 省 職 員 の ま まで 人 権 委 員 会 の 仕 事 を す る こ と に な って お り、 独 立 性 と は ほ ど遠 い もの に な って い る。 事 務 局 に は人 権 問 題 に精 通 した独 自 に採 用 した職 員 を当 て るべ きで あ る。 第 四 に、 マ ス メ デ ィ アの 規 制 に関 す る問 題 で あ る。 マ ス メ デ ィ ア に よ る人 権 侵 害 も重 要 な問 題 で あ るが 、 そ れ らの人 権 侵 害 事 象 に対 して は、 原 則 と して メ デ ィ ア の 自主 的 な取 り組 み に委 ね るべ きで あ る。 表 現 の 自 由 と人 権 救 済 を 対 立 的 に捉 え るの で は な く、 一 体 の も の と して 捉 え る こ とが重 要 で あ る。 第 五 に、 人 権 擁 護 委 員 制 度 の 問 題 で あ る。 政 府 案 で は、 若 干 の 手 直 しで 活 用 す る 一1一.

(2) 人権 問題 研究資料. 第17号. こ と と して い るが 、 これ で は現 行 の有 名 無 実 化 した 人権 擁 護 委 員制 度 と ほ とん ど変 わ らな い。 人 権 擁 護 委 員 予 定 者 に対 す る充 実 した研 修 の義 務 付 け と専 門性 を 高 め る 必 要 が あ る。 少 な くと も上 記 五 点 の 問 題 点 が 克 服 され た 「人権 擁 護 法 」 が制 定 され な けれ ば な らな い と考 え る。 多 くの 問 題 点 を 持 っ 政 府 案 が成 立 す れ ば、 ニ ー 世 紀 の 日本 の 人権 擁 護 行 政 に大 きな 禍 根 を 残 す だ けで な く、 国 際 的 に も大 きな マ イ ナ ス とい え る。. 以 上 、 結 論 的 な要 約 を提 示 したが 、 そ もそ も今 回 提 案 され て い る 「人 権擁 護 法 案 」 と は どの よ うな もの なの か と い う こ とを 本来 紹 介 しな け れ ば な らな い の で あ るが、 筆 者 も他 の論 考 で解 説 して お り、 こ こで は省 略 し、 差 別 、 虐 待 、 公 権 力 に よ る人 権 侵 害 、 マ ス メデ ィ ア に よ る人 権 侵 害 にっ い て 冒頭 に論 じ る こ とに した い。 そ う した点 を ふ まえ て 、 今 日の 人権 救 済 機 関 に求 め られ る事 務 局 体 制 を 中心 と し た若 干 の課 題 と司法 シ ス テ ム との 関連 に関 わ って い くっ か の点 を紹 介 した い。. 2、 人 権 侵 害 の 類 型 と 具 体 的 事 例 概 括 す るた め に二 〇 〇二 年 一 月号 の 「法 学 セ ミナ ー」 に掲 載 され て い た 「同性 愛 者 の人 権 侵 害 」 と 「外 国籍 市 民 」 の事 例 を い くっ か紹 介 し、 参 考 と した い。 事 例 一 か ら四 まで提 示 され て お り、 事 例 一 が 同性 愛 者 に対 す る差 別 、 事 例 二 が 虐 待 、 事 例 三 が公 権 力 によ る人権 侵 害、 事 例 四 が マ ス メ デ ィア に よ る人 権 侵 害 で あ る。 (こ れ ら事 例 は い くっ か の事 実 に基 づ い て再 構 成 され た もの で あ る。). ・公 権 力 によ る 人権 侵 害 まず事 例 三 で は、 あ る県 の 教 員 採 用試 験 を受 け たCさ ん の ケ ー ス と して 紹 介 され て い る。 適 性 検 査 に望 ん だ 時 、Cさ. ん の 筆 の 動 きが 止 ま った。 「同性 に性 的 な感 情. を抱 い た こ とが あ るか」 とい う質 問 が あ った か らで あ る。Cさ ん は同 性 愛 者 だ った が、 周 り に 自分 か ら 口を 出 して言 った こ とは な か った ので あ る。 知 られ る ことで ど 一2一.

(3) 人権擁護法案の問題点 と人権救済機関の課題 ん な 不 利益 が生 じる か わ か らな か った か らで 、 適 性 検 査 で 「あ る」 と答 え れ ば、 不 採 用 にな るか も しれ ず、Cさ. ん は悩 み に悩 ん だ 末 「な い」 を 選 択 した。Cさ ん は採. 用 試 験 に合格 した が、 教 職 を 目指 す 人 間 が うそ を 付 いた と い う良 心 の 呵 責 に長 期 問 悩 ん で い る、 とい うケ ー ス で あ る。. ・メ デ ィア に よ る人 権 侵 害 事 例 四 で は、 大 学 一 年 のDさ ん の ケ ー スで 、 家 族 と一 緒 に民 間 放 送 の バ ラ エ テ ィ 番 組 を 見 て い た 時 の こ とで あ る。 そ の 番 組 は、 数 名 の 人 が 「モ ー ホ ー ち ゃん 」 と い うふ れ こみ で登 場 し、 ス テ レオ タイ プ の 同 性 愛 者 を 演 じて は、 タ レ ン トた ち に徹 底 的 に馬 鹿 に され る とい う形 で 、 同 性 愛 を ネ タ に、 笑 い に して い た もの で あ る。 家 族 はTVを. 見 て、 笑 い転 げ て、 「ホ モ って嫌 や、 気 持 ち悪 い」 等 と口 々 に話 して い た。. Dさ ん はず っ と、 自分 の性 的 嗜 好 が 同 性 に 向 い て い る こ と に悩 ん で お り、 自分 の 家 族 まで も同性 愛 者 を そ の よ うに 思 って い る と思 い 、Dさ ん は 自分 は ど うす れ ば 良 い の か わか らな くな る とと も に、 強 い孤 独 を感 じて そ の 日 は眠 れ なか った、 とい うケー スで あ る。 部 落 出 身者 に お い て も、 自身 が部 落 出 身 を 語 る とい う こ と は、 か な りの 抵 抗 が あ るが 、 部 落 出身 者 の場 合 は、 ほ とん どの 場 合 、 家 族 も同 じ部 落 出 身 者 で あ るか ら上 記 の よ うな こ とに は な らな い。 しか し、 同 性 愛 の 人 た ち にっ い て は、 家 族 さえ も理 解 して くれ な い とい う現 状 が存 在 して い る。. ・虐 待 次 に事 例二 で は、 都 市 郊 外 の 田 園 地 帯 に住 む 女 性Bさ ん の ケ ース で 、 以 前 か ら男 性 を 性 的 な対 象 と して捉 え る こ とが で きな か った が 、 そ れ は 自分 が 消 極 的 な タイ プ だ か らと思 って い た。 三 〇 才 を 過 ぎ、 親 の 薦 め で 地 元 の 有 力 者 の 人 と結 婚 した が 、 結 婚 後 も、 男性 との性 行 為 に違 和 感 が 取 れ ず 、 自分 の 性 的 嗜 好 は男 性 で はな く、女 性 に向 い て い る こ とを 強 く意 識 す るよ う にな る。 結 婚 生 活 に耐 え られ な くな り、 夫 一3一.

(4) 人権問題研究資料. 第17号. に 自分 が レズ ビア ンで あ る こ とを 告 げて 離 婚 を 切 り出 した が 、 夫 は拒 否 し、 そ の 後 、 夫 はBさ ん に対 して 暴 力 を ふ る う よ う にな った の で あ る。 親 族 もBさ ん に 騙 され た と、 夫 を 擁 護 して い る。Bさ ん は、 レズ ビア ンで あ る こ とを 、 相 談機 関 に 告 げ る こ と に も恐 れ を 感 じ、 誰 に も相 談 で きな い 状 態 が続 い て い る、 とい うケ ー ス で あ る。 (事例 一 の 「差 別 」 の ケ ー ス は省 略 す る。) 人 権 とい うの は、 最 も虐 げ られ て い る と ころ 、最 も困難 を抱 え て い る と ころ か ら 見 る と、 多 くの 矛 盾 が 非 常 によ く理解 で き る。 以 上 の よ うな 事 例 を ふ まえ れ ば職 員 に高 度 な専 門性 が求 め られ る こ とは充 分 に理 解 で き る はず で あ る。. 3、 外 国 籍 市 民 に 対 す る 人 権 侵 害 同性 愛 者 だ けで な く、外 国籍 の人 の人 権 救 済 の場 合 に お い て も高 い専 門 性 が 求 め られ る。 一 っ は、 そ れ ぞ れ の 国 の実 情 や文 化 を わか っ て い る こ と、 も う一 っ は、 そ れ ぞ れ の 国 の人 々 との コ ミニ ヶ一 シ ョ ン能 力 が あ る と い うこ とが 求 め られ る。 そ う で な け れ ば正 確 な調 査 ・相 談 に は の れ な い。 例 え ば、 フ ィ リピ ン国籍 の人 、 イ ン ドネ シア国 籍 の人 、 ブ ラ ジル国 籍 の人 た ち に 対 して そ の 国情 や文 化 、 習 慣 等 が 理 解 され ず 、 日本 の 感 覚 で 相 談 にの る とす れ ば、 極 め て不 十 分 な対 応 しか で きな い。 それ ぞ れ の国 に は それ ぞ れ の 背 景 が 存 在 して い る の で あ る。. ・専 門 性 が 求 め られ る事 務 局 職 員 この よ うに外 国 籍 市 民 の相 談 に対 応 す る人 に も極 め て 高 い専 門 性 が 必 要 で あ り、 専 門 性 に は そ れ ぞ れ の地 域 の実 情 、 政 情 、 文 化 等 を 理 解 して い る こ と も含 まれ る。 そ れ ぞ れ の地 域 に は異 な っ た背 景 が あ り、 そ れ ぞ れ の 地 域 の こ とを 理 解 して い な い と人 権 相 談 や人 権 救 済 はで き な い ので あ る。 さ らに、 決 定 的 な こ と は通 訳 の問 題 で あ る。 今 日、 刑 事 事 件 の 現場 で もそ うで あ 一4一.

(5) 人権擁護法案の問題 点 と人権 救済機関の課題 るが、 国際 人 権 規 約 で は、 そ の 人 の 母 国 語 で 取 り調 べ を受 け る権 利 が 認 め られ て い るが、 十 分 に は保 障 さ れ て い な い。 通 訳 が 翻訳 を 間違 う と、 そ の 間違 い の ま ま起 訴 され る とい う こ とが あ り得 る。 当然 、 刑 法等 の 日本 の 法律 に 関 わ る こ とに な る と、 専 門 的 な言 葉 が 理 解 で き な い と充分 な通 訳 が で きな い とい う問題 が発 生 す る。 現 在 、 法 務 省 の地 方 機 関 と して全 国八 ヵ所 の 「管 区」 法 務 局 と各 都 道 府 県 に 置 か れ て い る地 方 法 務 局 が あ る。 「管 区 」 法 務 局 で は、 「外 国 人 相 談 を受 け付 け ま す 」、 「日本 に違 法 滞 在 して い る人 が 相 談 に来 て も、 警 察 に通 報 す る こ と は致 しませ ん 」 と明示 して い る。 しか し、 通 訳 が で きる人 は都 道 府 県 に置 か れ て い る各 地 方 法 務 局 に あ る人 権 擁 護 課 に は お らず、 全 国 で八 カ所 の 「管 区」 法 務 局 に しか い な い。 な お かっ 配 置 され て い る の は、 月 に一 回 だ け とい う状 況 で あ る。 この よ うな点 か らみ て も、 現 在 の法 務 省 人 権 擁 護 局 が行 って い る人 権 擁 護 行 政 は実 効 性 あ る人 権 救 済 を推 進 す る事 務 局 体 制 に は な っ て い な い の で あ る。 っ ま り、 事 務 局 職 員 は法 律 的 な認 識 だ け で は な く、 外 国 籍 市 民 や 多 くの国 の民 族 の人 権 状 況 を 正 確 に知 らな い と、 充 分 な人 権 救 済 に は のれ な い ので あ る。 そ の よ う な人 権 状 況 を しっか り把 握 す る た あ に は、NGOやNPO等. で 活 動 して. き た経 験 や知 識 の あ る人 を 職 員 と して 採 用 して い くこ とが 求 め られ る。. ・急 増 す る外 国 籍市 民 特 に今 日、 外 国 籍 市 民 は急 増 して お り、 緊 急 の 課 題 で あ る と いえ る。 この ま ま 日 本 の 人 口が推 移 して い くと、 外 国 籍 の 人 を 入 れ な けれ ば 、 ニ ー ○ ○年 に は 日本 の人 口が 七,○○ ○ 万 人 に な る とい わ れ て い る。 少 な くと も、 今 の状 況 を 維 持 しよ う と思 え ば 、 多 数 の 外 国 籍 の 人 を 日本 に招 か な けれ ば な らな い こ と は明 白 で あ る。 と こ ろで、 現 在 の 日本 の定 住 外 国 人 や 外 国 籍 市民 に は、 い くっ か のパ ター ンが見 られ 、大 き く分 け る と、 三 っ に分 か れ る。 一 っ は、 戦 中 に 日本 政 府 の責 任 によ って、 徴 用 な どで 日本 に連 れ て来 られ て、 戦 一5一.

(6) 人権問題研究資料. 第17号. 後 も 日本 で 暮 らす こ とを 決 意 した 旧植 民 地 出 身 者 、 っ ま り、 歴 史 的 な 経 緯 を も と に 日本 に住 ん で い る人 た ち で あ る。 二 っ 目 に は、 一 九八 五 年 以 降、 就 労 を 目的 と して 来 日 して、El本 に 暮 ら して い る 人 で あ る。 正 規 の在 留 資格 を持 って い る人 、 主 に 中南 米 出身 の就 労 目的 で来 日 した 日系 の人 な ど で あ る。 そ して三 っ め は、 日本 国籍 を持 っ人 で あ る。 日本 国籍 者 や永 住 者 な ど と婚 姻 を し て、 婚 姻 目的 で、 日本 社 会 との関 係 が で き た人 た ち の こ とで あ る。 外 国 人 登 録 者 数 を五 年 ご とに 区切 る と、 一 九 八 〇 年 、 七 八 万 人 、 一 九 八 五 年 は同 じ く七 八 万 人 。 一 九 九 〇 年 に急 に増 え て、 一 〇 七 万 人 。 一 九 九 五 年 に は一 三 六 万 人 。 そ して 二 〇 〇 〇 年 に は一 六 八 万 人 。 っ ま り、 一 九 八 五 年 か ら二 〇 〇 〇 年 まで の、 この 一 五 年 の間 で 倍 に な っ て い る。 長 期 的 な視 点 で 見 れ ば この 数 字 は一 層 増 加 す る と いえ る。 さ らに、 正 規 の在 留 資 格 を 持 た な い外 国 籍 市 民 と い う こ とで 見 て い くと、 一 九 九 〇 年 で 一 〇 万 人 、 一 九 九 五 年 に は二 八 万 人 、 二 〇 〇 〇 年 に は、 若 干 減 って 二 五 万 人 に な って い る。 これ は経 済 に よ る影 響 が 非 常 に大 きい が 、 少 な く と もそ うい う人 た ちが 急 速 に増 え て い る。 私 た ち は、 一般 的 にニ ュー カ マ ー とい う言 い方 を して い る が 、 最 初 に分 け た三 っ の 分 類 で い う と、 在 日 コ リア ンを 中心 とす る定 住 外 国人 と は 違 うニ ュ ー カ マ ーの 人 た ち が 急 増 して い るの が現 状 で あ る。. ・公 務 員 に よ る 人権 侵 害 と こ ろで 、 外 国籍 市 民 に対 して も公 権 力 に よ る人 権 侵 害 が多 発 して い る。 第一 は、 国 家 公務 員 ・地 方 公 務 員 の差 別 意 識 、 誤 った情 報 な ど に よ って、 人 権 侵 害 を す る場 合 で あ る。 具 体 的 な事 例 と して は、 外 国 籍 市 民 に 「国 に帰 れ」 と い う言 動 や、 あ るい は本 来 、 外 国籍 市 民 に も権 利 が 有 る に も関 わ らず 、 相 手 の公 務 員 が 知 らな い とい う こ とに よ って、 人 権 侵 害 を受 け る と い うこ と も起 こ って い る。 これ ら の こ とは、 公 務 員 に よ る人 権 侵 害 に も深 刻 な ものが あ る こ と を表 して い る。. 一6一.

(7) .....a. 人権擁護法案 の問題点 と人権救済機関 の課題 ・公 的 な 機 関 に よ る人 権 侵 害 ま た、 公権 力 に よ る人 権 侵 害 の第 二 は、 公 的 な機 関 に よ る人 権 侵 害 が あ り、 差 別 の煽 動 等 で あ る。 例 え ば、 「外 国人 に レイ プ さ れ た」 と い う噂 が 流 れ、 実 は そ の噂 は事 実 で は なか っ た ので あ るが 、 そ の デ マ に よ って、 教 育 機 関 に お い て正 規 の在 留 資 格 を持 た な い子 供 の入 学 拒 否 、 あ る い は、 医 療 機 関 に於 け る診 療 拒 否 等 が実 際 に 発 生 して い る。 他 に も、 差 別 の煽 動 と して は、 警 察 庁 が 問 題 と な った もの で神 奈 川 県 警 が 地 域 住 民 に対 して 、 不 審 な外 国 人 を見 た ら通 報 す る よ うに呼 びか け た チ ラ シ を配 布 した こ と、 石 原 都 知 事 の 「三 国 人 」 発 言 な ど、 そ の よ うな公 的 な機 関 に よ る 人 権 侵 害 ・差 別 の煽 動 と い う ことが あ る。. ・制 度 上 、 法 令 上 の 差 別 に よ る人 権 侵 害 次 に、 制 度 上 、 法 令 上 の差 別 に よ る人 権 侵 害 と い う こ とが あ る。 っ ま り、 い くっ か の法 律 を 改 正 しな けれ ば な ら な い と い う問題 で あ る。 日本 国 憲 法 に は、 「全 て 国 民 は 」 と い う主 語 と、 「何 人 も」 と い う主 語 が あ る。 自 由 権 に 関 す る と ころ で は 「何 人 も」 とい う主 語 を使 って お り、 生 存 権 、 社 会 権 の と ころ で は、 「全 て 国 民 は」 と い う主 語 に な って い る。 こ の主 語 の違 い に よ って 、 外 国 籍 市 民 を生 存 権 や社 会 権 か ら事 実 上 排 除 して き た し、 法 制 度 の 中 に今 もその よ う な規 定 が 現 存 して い る。 日 本 国 憲 法 の これ らの規 定 は外 国 籍 市 民 を積 極 的 に排 除 す る と い う規 定 で は な いが 、 国 際 人 権 規 約 が 批 准 され る まで 、 事 実 上 は排 除 され て き た ので あ る。 特 に 出入 国 管 理 に於 け る トラ ブ ルが 起 こ って お り、 そ の よ う な場 合 、 これ か らで き る人 権 救 済 機 関 に訴 え て も提 案 され て い る 「人 権 擁 護 法 案 」 の体 制 で は、 殆 ど何 も変 わ らな い ので は な いか と い え る。. ・私 人 間 で の 人 権 侵 害 そ して、 公 権 力 に よ る問 題 で は な いが 、 外 国 籍 市 民 に対 す る重 要 な問 題 の一 っ と して、 私 人 間 で の人 権 侵 害 ・差 別 の問 題 が あ る。 先 に公 的 な機 関 の 人 権 侵 害 を 挙 げ 一7一.

(8) 人権 問題研 究資料. 第17号. て きた が 、 私人 間 の人 権 侵 害 で は、 例 え ば、 職 場 に於 け る賃 金 や 労 働 条 件 に於 け る 差 別 、極 め て低 い賃 金 、 い わ ゆ る 「た こ部 屋 」 で働 か さ れ る な ど、 とい う問 題 が あ る。 また 、 外 国aで あ る とい う こ とに よ るい じあ の報 告 も多 くあ る。 さ ら に、 地域 住 民 の差 別 意 識 に よ って 引 き起 こ され る人 権 侵 害 が あ る。 他 の文 化 を理 解 で きな い とい う こ とに よ って、 起 こ って い る人 権 侵 害 で あ る。 入 居 拒 否 の 問 題 、 商 店 な ど の入 店 拒 否 、 「外 国 人 お 断 り」 と書 い た 店 、 それ に外 国籍 児 童 に対 す るい じめ や虐 待 、 ま た、 人 身 売 買 が実 際 に行 わ れ て い る。. 4、 実 態 把 握 が 行 わ れ な い 問 題 点 以 上 の よ うな 問題 に対 して、 現 在 の人 権 救 済 機 関 は、 殆 ど有 効 に機 能 して い な い。 そ もそ も人権 相 談 に も行 け な い の で あ る。 具 体 的 な数 字 で は、 外 国籍 市 民 の訴 え で人 権 侵 害 事 件 とい うこ とで 受 理 した件 数 は、 一 九 九五 年 は全 国 で三 二 件 、 この数 字 は法 務 省 の人 権 擁 護 局 が 全 国 で 集 約 した 件数 で あ る。 九 六 年 に三 三 件 、 九 七 年 に六 四件 、 九 八 年 に六 〇 件 、 九 九 年 に六 二 件 で あ る。 一 都 道 府 県 と して集 約 す る と年 間一 件 だ け とい うこ と に な る。 殆 ど集 約 さ れ て いな い実 態 が浮 き彫 りに な って く る。 これ は現 行 人 権 救 済 機 関 が 機 能 して いな い証 左 で もあ る。 現 行 と変 わ らな い よ うな事 務 局 機 能 しか 持 た な い人 権 救 済 機 関 が で きて も殆 ど変 わ らな い とい う こ と は明 らか で あ る。 人 権 救 済 の前 提 は、 正 確 な事 実 の認 定 で あ る。 正 確 な事 実 の認 定 の ため に はそ の ため の 権 限 と体 制 が必 要 で あ り、 そ れ な しに効 果 的 な人 権 救 済 はで きな い 。 現 行 の 法 務 省 人 権 擁 護局 を 中心 とす る人 権 救 済 シス テ ムが 殆 ど そ の機 能 を 果 た して いな い の も、 そ の 事 務局 体 制 な どが整 備 され て い な い か らで あ る。 実 効 的 な人 権 救 済 機 関 が で きれ ば 持 ち込 まれ る人 権 侵 害 事 案 は飛 躍 的 に増 加 す る。 米 国 のEEOC(米. 国雇 用 機 会 均 等 委 員 会)の. セ クハ ラ事 案 の 取 り扱 い が 、 ガイ. ドラ イ ンの 明 確化 等 と と もに飛 躍 的 に増 加 して い る こと を考 え るな ら、 日本 で も同 様 の 状 況 が 考 え られ る。 米 国 の セ クハ ラ被 害 者 は、EEOCに 一8一. 救済を求めた後、民.

(9) 人権擁護 法案の問題点 と人権救済機関の課題 事 訴 訟 を起 こす こ とが で き る よ う に な って い るが 、 一一九 九 一 年 で 六r八 八 三 件 、 一 九 九 六 年 で一 五,八 八 九 件 と な って い る。EEOCが. セ クハ ラの ガ イ ドライ ンを発. 表 した の は一 九 八 〇年 、 そ の ガ イ ドライ ンが法 的 禁 止 の レベ ル に な った の が 、一 九 九一 年 の公 民 権 法 改 正 か らで あ る。 っ ま り、 潜 在 的 な 人 権侵 害 は膨 大 な 量 が あ り、 確 か な人 権 救 済 機 関 と明確 な基 準 が あ れ ば、 そ れ らの 潜 在 的 な 人 権 侵 害 事 案 が救 済 機 関 に持 ち込 ま れ て く る とい う こ とで あ る。 そ れ は司 法 が 強 化 され 、 利 用 しや す く な れ ば新 規 訴 訟 件 数 が増 加 す るの と同様 で あ る とい え る。. ・人権 救 済 機 関 の スパ イ ラ ル状 況 この よ うな状 況 を放 置 す る と、 螺 旋 構 造 上 に景 気 が 低下 して い くデ フ レスパ イ ラ ル と同 じよ う に、 人 権 救 済 機 関 の スパ イ ラル を起 こす の で はな い か と危惧 す る。 人 権 相 談 を 開 い て い るに も関 わ らず、 相 談 が来 な い。 相 談 者 が 来 な い か ら、 事 務 局 体 制 整備 の必 要 性 が な くな る。 体 制 整 備 の必 要 性 が な くな る こ と によ って職 員 を 削減 し、職 員 が ます ま す少 な くな り、 さ らに信 頼 され な くな る こ とに よ って、 ます ま す 人権 侵 害 を受 けた人 が来 な くな る とい う こ とに な るの で あ る。 日本 国 内 で人 権 擁 護 委 員 に相 談 して、 人 権 侵 害 が解 決 す る と考 え て い る人 は殆 どい な い とい え る。 冒 頭 に問題 点 を指 摘 した人 権 擁 護 推 進 審 議 会 『答 申』 を受 けて創 設 され る人 権 救 済機 関 が真 に実 効 性 の あ る もの に な れ ば、 人 権 救 済 事 案 が持 ち込 ま れ るの も増 加 す る。 これ まで法 務 省 人 権 擁 護 局 の人 権 擁 護 シス テ ム に人権 侵 犯 事 案 が あ ま り持 ち込 まれ な か った の も、 解 決 や救 済 す る能 力 も シス テ ム もな か った か らで あ る。 大 阪府 内 で部 落 出身 者 や被 差 別 部 落 に対 す る差 別 事 案 だ けで年 問約 三 〇 〇件 も発 生 ・発 覚 して い る現 状 を ふ ま え るな らば、 各 府 県 な ど に人権 委 員会 と強 力 な事 務 局 を 設 置 しな い と実効 的 な人 権 救 済 が で きな い こ と は言 う まで もな い。 この約 三 〇〇 件 と い う数 字 も、行 政 機 関 に集 約 され た もの だ けで あ り、 氷 山 の一 角 で あ る こ とは 種 々の 調 査 か ら も読 み とれ る。. 一9一.

(10) 人権問題研究資料. 第17号. ・集 約 され な い シ ス テム 大 阪 府 で集 約 され る事 件 と い うの は、 行 政 機 関 に相 談 した 一.二%と 談 した七%だ. 運 動 体 に相. け な の で あ る。 この件 数 だ けで 大 阪 で は三 〇 〇 件 もあ る。 部 落 差 別 事. 件 よ り も、 外 国 籍 市 民 に対 す る差 別 の方 が 、 現 在 で は圧 倒 的 に多 い と いえ る。 日本 の法 律 や 制 度 も法 律 を作 る と きに は立 法 事 実 が 必 要 で あ る。 この よ う な事 実 が あ る か ら こそ、 それ に対 処 す る法 律 が 必 要 だ と い う根 拠 で あ るが 、 この 分 野 で は充 分 な 事 実 が 集 約 され て い な い の で あ り、 集 約 され る よ う な シス テ ム に はな って い な い の で あ る。 現 在 の管 区 法 務 局 に、 常 時 、 通 訳 者 が い る と い う体 制 を っ くった だ けで もか な り 変 化 す る。 通 訳 と い った場 合 も、 英 語 だ けで はな く多 くの 言 語 が 必 要 で あ り、 多 く の外 国 籍 市 民 の人 権 救 済 に必 要 な通 訳 体 制 が 求 め られ て い る。 ま た、 人 権 に関 す る専 門 性 を有 す る職 員 を 採 用 しな けれ ば 正 確 な 人 権 侵 害 の 状 況 は把 握 され な い。 そ の専 門 性 は、 先 に指 摘 した よ う に、 そ の 国 の 政 治 的 ・文 化 的 背 景 等 を理 解 して い る こと も求 め られ て い る。 この よ うな こ とを どの よ う に構 築 して い くの か と い う ことが 求 め られ て い るの で あ る。 こ こで 外 国 籍 市 民 の人 権 救 済 に関 す る課 題 を 整 理 して お きた い。 例 え ば 、部 落 問 題 で は、 総 務 庁 の地 域 改 善 対 策 室 と い う担 当部 局 が あ った。 ま た、 大 阪府 で は 人 権 室 、 大 阪 市 で は人 権 部 と い うよ うに担 当 部 局 が は っ き り して い る。 しか し、 外 国籍 市 民 の 種 々 の人 権 問 題 に取 り組 む 行 政 機 関 の担 当部 局 が 明確 で な い。 国 の機 関 で も 明 確 で は な く、 多 くの 外 国 籍 市 民 の相 談 に確実 に対 応 で きる よ うな シス テ ム が で き て い な い。 外 国 籍 市 民 や 、 現 在 は 日本 国 籍 を 持 って い るが、 も と も とは違 う国籍 を 持 って い た人 、 そ の よ うな人 た ち の人 権 保 障 シ ステ ム が で きて い な い と問題 が解 決 しな い ので あ る。 通 訳 者 を ど う配 置 す る のか と い う問 題 、 さ ら に現行 職 員 や新 規 採 用 した職 員 に対 して 、 言 葉 や 異 文 化 を 理 解 す る研 修 を どの よ うに 行 って い くか とい う問題 もあ る。 そ の ため に は 日本 政 府 や 地 方 自治 体 にお い て 、 外 国籍 市 民 の人 権 保 障 の シス テ ム を 一10一.

(11) 人権擁護法案 の問題点 と人権救済機 関の課題 創 造 して い くこ とが 求 め られ て い る。 ニ ー 世 紀 の同 和 行 政 の キ ー ワ ー ドは人 権 相 談 とい わ れ る よ うに、 外 国籍 市 民 に対 して も人 権 相 談 に対 応 で き る よ う な シス テ ムが 必 要 で あ る。 そ う した取 り組 み の 中 で 、 具 体 的 な相 談 を解 決 す る方 法 が な い と い う場 合 、 「当 該 相 談 を 解 決 で きな い の は、 法 律 や 制 度 の問 題 が な いか らだ」 と い う政 策 提 言 を政 府 や 地 方 自治 にで き るよ う な機 能 を 持 た な い と、 人 権 救 済 シス テ ム も前 進 して いか な い と いえ る。. 5、 司 法 制 度 改 革 と 人 権 救 済 以 上述 べ た人 権 救 済 機 関 の整 備 と と も に、 真 に人 権 救 済 を 図 って い くた め に は人 権救 済機 関 の基 盤 に な る 司法 制 度 の 問題 が あ る。 脆 弱 な 司 法 制度 の も とで は強 力 な 人 権 救 済 機 関 を創 造 す る こ と はで きな い。 そ こで、 司法 制 度 改 革 と人yIrq.護 に 関 し若 干 の検 討 を して お きた い。 今 後 、 日本 の司 法 制 度 は司 法 制 度 改 革 の 中 で大 き く変 わ り、 多 くの分 野 に多大 な 影 響 を与 え る。 全 般 的 に は行 政 的 事 前 規 制 か ら司法 的事 後 規 制 の 時代 に突 入 して い く。 二 割 司法 とい わ れ て い る現 行 の司 法 シス テ ム を改 め、 司法 が十 分 に機 能 す る よ うな状 況 を構 築 す る こ とを 目指 して い る。 二 〇 〇 四年 度 開 講 を予 定 して い る ロー ス クー ル(法 科 大 学 院)構 想 もそ の重 要 な一 っ で あ る。 法 曹 人 口 を飛 躍 的 に増 加 させ 、 司法 サ ー ビ ス を充 実 させ よ うと して い る ので あ る。 こ う した動 きの 中 で司 法 が 関 与 す る人 権 救 済 の あ り方 も大 き く変 わ り、 人 権 救 済 シス テ ム全 般 に影 響 を与 えて い く とい え る。 そ う した視 点 に立 って 、 若 干 の 日米 比 較 と司 法 を取 り巻 く内外 の状 況 を概 括 して お きた い。. ・百 万 人 の 弁 護 士 が いる 米 国 米 国 で は毎 年 四 、 五 万 人 の 新 た な弁 護 士 が 生 まれ て い る。 それ に比 較 して 日本 で 一11一.

(12) 人権問題研究資料. 第17号. は司 法 試 験 に合 格 す る のが 千 人 強 で あ る。 か っ て は五 百 人 強 の時 代 が 長 く続 い た。 この合 格 者 の数 を3千 人 に ま で高 あ よ うと して い る。 これ らの司 法 シス テ ム の改 革 を通 じて 司 法 サ ー ビス を充 実 させ よ うと して い る ので あ る。 米 国 に は弁 護 士 はす で に約 百 万 に い る。 人 口三 百 人 に一 人 の割 合 で 弁 護 士 が い る。 日本 の六 千 人 強 に一 人 と は大 き な違 い で あ る。 米 国 も元 々、 訴 訟 社 会 とい わ れ る よ うな状 況 で はな か っ た。 一 九 六 〇 年 代 か ら大 き く変 化 して い る。 日本 も これか ら十 年 で 司 法 を 取 り巻 く環 境 は大 き く変 化 す る。 そ の一 っ の モ デ ルが 米 国 で あ る。 例 え ば、 日本 の大 企 業 が 国 内で 支 払 う弁 護 士 費 用 は平 均 して 米 企 業 の 三 〇 分 の 一・ で あ る。 三 〇 分 の一 と い うこ と は、 同 規 模 の 企 業 で あ れ ば 日本 企 業 が 一 億 円 の 弁 護 士 費 用 に対 して 米 国 企 業 は三 〇 億 円 も支 出 して い る こ と にな る。 最 近 、 日本 にお いて も大 企 業 で リー ガル(法 的)リ ス クマ ネ ジ メ ン トとい う言 葉 が 使 わ れ る よ う に な って き たが 、 米 国 の 企 業 に比 較 す る とま だ ま だ 不 十 分 で あ る。 日本 で は医 療 の 過 ち、 医 療 過 誤 によ って訴 え られ る医者 が い るが、 米 国 で は弁 護 過 誤 によ って 訴 え られ る弁 護 士 が い る くらい で あ る。 つ ま り、 弁 護 士 の弁 護 の仕 方 が 悪 か った こ と に よ って 敗 訴 にな った ん だ か ら、 そ の損 害 を弁 護 士 に請 求 す るの は 当 然 だ とい う こ とで あ る。 ま た 、 英 国 で は金 融 ビ ッグバ ー ンが 実施 さ れ た一 九 八 五 年 、 法 律 事 務 所 は3千 人 規模 の と ころ も現 れ 、 法 律 事 務 所 そ の もの が大 き く変 化 して い る。 世 界 で は ビ ッグ フ ァイ ブ とい わ れ る五 大 会 計 事 務所 が弁 護 士 事 務 所 を 吸収 す る とい う現 象 も起 こ っ て い る。. ・米 国 の 法 律 産 業 こ う した動 き は 日本 に も多 大 な影 響 を与 え て い る。 米 国 の リー ガ ル(法 律)産 業 は 自動 車 産 業 に 匹 敵 す る利 益 を上 げ て い る とい われ て お り、 リー ガ ル サ ー ビス の輸 出先 と して 日本 は極 め て大 きな市 場 で あ る。 一12一.

(13) 人権 擁護法案 の問題点 と人権救済機 関の課題 日本 で は これ ま で法 律 事 務 所 とい う と小 規模 な事 務 所 が ほ とん ど で あ った が 、 今 日で は百 人 を越 え る弁 護 士 が い る事 務 所 も出現 して い る。 こ う した動 きの 中 で行 政 的事 前 規 制 か ら司法 的事 後 規 制 の社 会 へ ま す ま す加 速 さ れ て い る。 か っ て は金 融 機 関 とい え ば大 蔵 省(現. 財務 省)を. 中心 と した護 送 船 団 方 式 とい わ. れ、 金 融 機 関 は一 貫 して大 蔵 省 頼 み で あ った が 、 これ が弁 護 士 頼 み に変 化 して きて い る。 弁 護 士 へ の リー ガ ル ・オ ピニ オ ン(法 律 意 見書)の 発 注 が急 増 して い るの で あ る。 経 営 や業 務 執 行 の判 断 を す る 時 に 「役 所 」 に お伺 い を た て る こ とか ら法 的 リス クが な い か ど うか とい う判 断 に重 点 が 置 か れ て い るの で あ る。 債 権 放 棄 の判 断 を す る時 に も株 主 代 表 訴 訟 等 に耐 え られ る か ど うか とい う こ とが重 視 さ れ て い る の で あ る。 これ は 当然 の こ とで あ る が、 これ ま で は 「役 所 」 に お伺 い を た て る こ とが 当然 と考 え られ て きた の で あ る。 これ らの変 化 が企 業 や行 政 機 関 に与 え る影 響 は か な り大 き な ものが あ る と い え る。 ま た、 経 済 の グ ローバ ル化 は各 国 の 国 内法 の変 化 を迫 る もの に な って きて い る。 国 の経 済 競 争 力 を維 持 す る た め や治 安 を守 る た め、 国際 協 調 の た め に と い う理 由 で、 この動 きが加 速 さ れ て い る。 そ う した 中 で、 司法 サ ー ビス の分 野 で は、 先 に も述 べ た よ うに 欧米 勢 が攻 勢 を か け ビ ッグ フ ァイ ブ とい わ れ る世 界 五 大 会 計 事 務 所 が 地 球 規 模 の サ ー ビス網 を完 成 さ せ る勢 い で進 ん で お り、 日本 の弁 護 士 事 務 所 と も関 係 を 構 築 しよ うと働 きか け を強 化 して い る。. ・ネ ッ トで原 告 が 集 結 一 方 、 ネ ッ ト法 律 相 談 も広 が って きて い る。 山一 フ ァイ ナ ンス事 件 の場 合 、 ネ ッ トで原 告 が集 結 し、 大 き な成 果 を得 る こ とが で き た。 山一 証 券 が 自主 廃 業 して 山一 フ ァイ ナ ンス もダ メ に な っ たが 、 山 一 フ ァイ ナ ンス の抵 当証 券 を買 って い た人 が 九 五 〇 〇 人 ∼九 六 〇 〇 人 い た。 一18一.

(14) 人権問題研究資料. 第17号. 例 え ば この うち の一 人 が 自 らの抵 当証 券 が 紙 切 れ に な る前 に取 り戻 した い と い う こと で訴 訟 を提 起 した とす る。 一 人 で や って も弁 護 士 費 用 が か さ み、 取 り戻 せ る金 額 は限 られ て しま う。 そ こ で東 京 の弁 護 士 会 が バ ック ア ップ し大 き な成 果 を あ げ る ことが で き た。 これ は仮 の数 字 で あ るが 、 百 万 円 の抵 当 証 券 を買 って い た人 は弁 護 士 へ の着 手 金 一 万 五 千 円、 五 百 万 円 の人 は七 万 五 千 円 と い う よ う な形 で ネ ッ トで募 集 す る と、 九 千 五 百 人 の うち 四千 五 百 人 もの人 が 集 り、 弁 護 士 へ の着 手 金 と して一 人 一 人 は小 額 で あ っ たが 、1億. 円 も集 ま っ た ので あ る。 これ で 二 六 人 の弁 護 団 を組 織 し、 被 害 総. 額 の八 五%、 四 五 億 円 を取 り戻 し解 決 したの で あ る。 イ ンタ ー ネ ッ トが な けれ ば 考 え られ なか っ た こ とで あ り、 司 法 の 世 界 も大 き く変 化 しっ っ あ る証 だ と いえ る。. ・集 団 訴 訟 と懲 罰 的 賠 償 金 日本 の司 法 改 革 の 一 つ の モ デ ルで あ る米 国 にお け る司 法 と企 業 と い う問題 で は、 一 九 九 九 年 の東 芝 事 件 が 象 徴 的 で あ る。 東芝 はパ ソ コ ンの 「欠 陥」 を め ぐ る問題 を 提 訴 され 千 百 億 円で 和 解 して い る。 原 告 弁護 団 の 費 用 は百 億 円 だ とい わ れ て い る。 敗 訴 す る と桁 が さ ら に変 わ る可 能 性 が あ り、 東 芝 は苦 渋 の 決 断 を した の で あ る。 米 国 一 審 の 特 徴 は、 「デイス カバ リ」 と い って、 事 前 の証 拠 調 べ が 日本 の刑 事 事 件 の よ う に民 事 事 件 で もで き る と い う こ と。 さ らに 陪審 に伴 う陪審 コ ンサ ル タ ン トが 存 在 し、 集 団 訴 訟 と懲罰 的 賠 償 金 によ って高 額 だ とい う こ とで あ る。 例 え ば 米 国 三 菱 自動 車 製 造(イ. リノイ 州 ノー マ ル工 場)が 一 九 九 八 年 に セ クハ ラ. で 米 国 雇 用 機 会 均 等 委 員 会 と和 解 を して 四八 億 円 を 支払 って い る事 例 もあ る。 当 初 二 六 人 の訴 え で あ っ たが 、 女性 が三 百 人 強在 職 して お り、 自分 た ち と同 じ条 件 に あ る とい う こ とで 集 団 訴 訟 を提 起 した 。 当 事 者 の女 性 が 、 「私 はそ の 訴 え に参 加 しな い」 と言 わ な い限 り、 訴 訟 に参 加 した こ とに な る。 例 え ば三 百 人 の うち二 人 が 訴 え て 、 あ と二 九 八 人 が 同 じ条 件 だ と して集 団訴 訟 を裁 判 所 が認 め れ ば集 団 訴 訟 に な る。 その 場 合 、 一 人 にっ き懲罰 金 が三 〇 万 ドル に な る。 一 ドル を百 円 と して も 一14一.

(15) 人権擁護法案 の問題点 と人 権救済機関の課題 三 千 万 円。 三百 人 で 九 〇億 円で あ る。 米 国三 菱 自動 車製 造 の場 合 はそ の約 半分 と な っ た ので あ る。 日本 の司 法 制 度 改 革 も これ か ら大 き く変 化 し、 企 業 を は じあ 多 くの組 織 、 個 人 が 受 け る影 響 も非 常 に大 き くな って くる。. ・ ドイ ツの 権 利 保 護 保 険 と こ ろで 、 米 国 に匹 敵 す る訴 訟 社 会 とい わ れ る ドイ ッで は多 くの市 民 が 訴訟 を容 易 にで き る よ うな シス テ ムが 整 備 さ れ て い る。 ドイ ツの例 か らい え る こ と は、訴 訟 社 会 か 否 か も シス テ ム に よ って決 ま る とい う こと で あ る。 ドイ ツの 司 法 シス テ ム の特 徴 は、 訴 訟 費 用 の公 的 扶 助 が 充 実 して い る とい う こ と と民 間 の 保 険 会 社 が 取 扱 う 「権 利 保 護 保 険 」 が 普 及 して い る とい う こ とで あ る。 健 康 を 害 した と き に健 康 保 険 を使 うよ うに、 権 利 を侵 害 さ れ た場 合 に権 利 保 護 保 険 を使 って 訴 訟 費 用 等 が 負 担 され る シス テ ムで あ る。 ドイ ッ で は一 九 九 九 年 で全 世 帯 の 四 五%の 加 入 で あ る。 四 五%の 加 入 率 と い う こ と は、 今 日 の 日本 の携 帯 電 話 の 普 及 と比 較 す れ ば よ く理 解 で き る。 携 帯 電 話 が 五 〇%を 超 え 六 千 万 台 に な っ た時 、 社 会 的 な活 動 を して い る人 の ほ とん ど は持 って い た。 ドイ ッ の権 利 保 護 保 険 もそ の よ うな状 況 だ と い うこ とで あ る。. ・最 終 的 解 決 機 関 は司 法 健 康 保 険 の な い時 代 は、 風 邪 を ひ いて もあ ま り医 者 に行 か なか った のが 、 か な り の人 が健 康保 険 を使 って 医者 に行 くよ うにな った。 同 じよ うに今 まで 権利 侵 害 が あ っ て もほ とん ど訴 訟 しなか っ た人 が 、 権 利 保 護 保 険 に よ って 訴 訟 す る人 が 増 え て くる。 日本 に も二 〇 〇 〇 年 に この 保 険 が で き た。 まだ まだ 普 及 して い な いが 、 この保 険 が 普 及 す る よ う に な る と司 法 環 境 は大 き く変 わ る。 今 まで 泣 き寝 入 り して い た人 が 訴 訟 を 起 こす ケ ー スが 増 え て くる。 訴 え られ る対 象 は個 人 よ り も多 くの個 人 を相 手 に して い る企 業 や 行 政 機 関 等 に な る。 そ の よ う にな る と米 国 の よ うに三 〇 倍 の弁 護 一15一.

(16) 人権 問題研究 資料. 第17号. 士 費 用 が必 要 とな る。 この と き に人 権 の 視 点 が 欠 か せ な い と い う こ とを 十 分 に認 識 して お く必 要 が あ る。. 以 上 の よ う に諸 外 国 の事 例 で も司 法 シ ス テ ムが 強 化 され る こ と は、 そ れ を基 盤 と す る多様 な 人権 救 済 シ ステ ムが 強 化 され る こ と にっ なが る。 どん な に強 固 な 人権 救 済 シ ス テ ムが構 築 され て も、 そ の 基盤 とな る司 法 シ ス テ ムが 脆 弱 で あ る と十 分 に は 機 能 しな い。 そ の意 味 で今 日い わ れ て い る司 法 制 度 改 革 が 、 人権 救 済 シ ステ ムの 強 化 と司法 サ ー ビ スを受 け る市 民 の視 点 で 実 行 され て い く必 要 が あ る。 どの よ うな人 権 救 済 機 関 もそ の背 後 に控 え て い るの は司法 シス テ ム で あ る。 人 権 救 済 機 関 で 問題 が解 決 しな か った場 合 は裁 判 所 等 にそ の解 決 が委 ね られ る。 そ の最 終 的解 決 機 関 で あ る司法 シス テ ムが脆 弱 で十 分 に機 能 しな い とい う こ とは、 ど ん な に 強 力 な人 権 救 済 機 関 を創 設 して も砂 上 の楼 閣 と同様 の もの に な って しま う。 最 後 に、 今 日の 司法 制 度 改 革 と新 た な人 権 救 済 シス テ ム の創 設 が、 多 様 な市 民 の 真 の人 権 救 済 にっ な が る方 向 に前 進 す る こ とを期 待 した い。. 一16一.

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