3年ほど前から,趣味で天体写真撮影を行ってい ます.最初は,家に帰って星でもぼんやり眺められ たらいいなという軽い気持ちで口径 60mm の小さ な屈折望遠鏡を購入してみたのですが,どんどん深 みにはまっていき,現在では,200mm 反射望遠鏡 1台,60mm 屈折望遠鏡 2台,ディジタル一眼レ フカメラ 2台,USB カメラ 2台,電動赤道儀 1台 を有するに至っています (図 1). ここ数年,天文ファンの中には,筆者のように新 しく始めた方や,しばらく天文から遠ざかっていて 復帰された方が多く,賑わいをみせています.これ は,感度も高く,コストパフォーマンス抜群のディ ジタルカメラが手軽に入手できるようになり,従来 の銀塩写真では手間がかかっていた現像のプロセス を PC 上で行えることがひとつの要因かと思いま す.ディジタルカメラには撮ってすぐに画像が見ら れるという利点がありますが,天体写真の場合は撮 影後の画像処理が必須で,しかも天体写真に独自な 画像処理手法を用いる場合が多くあります.本稿で は,そのひとつの方法として,安価な USB カメラ を用い,短時間露出で大量の画像を取得し,それを コンピューター上で積算して処理するというディジ タル画像ならではの撮影方法を紹介したいと思いま す. 1. 天体撮影で われるディジタルカメラ 天体撮影に われるディジタルカメラはおもに, ① コンパクトディジタルカメラ,② ディジタル一 眼レフカメラ,③ 冷却 CCD カメラ,④ USB カメ ラがあります.それぞれのカメラの われ方を簡単 にまとめておきます.① のコンパクトディジタル カメラは望遠鏡の接眼レンズに押し付ければすぐに 画像が撮れますので,天体撮影初心者向きで,月な どを簡単に撮ることができます.次に,② のディ ジタル一眼レフカメラですが,直焦点撮影 (望遠鏡 の対物レンズの焦点位置に CCD 素子がくる撮影 法) が可能なので,フォーカスがばっちり合えば, きわめてシャープな像が得られます.また,バルブ 撮影で長時間露出ができるため,比較的暗い星雲な どを撮影するのに向いており,中∼上級者が って います.③ の冷却 CCD カメラは,ディジタル一眼 と同じく星雲の撮影などに向いていますが,冷却す ることによりノイズの発生を抑えるので,より長時 間の露出が可能であり,淡い星雲の撮影に向いてい ます.しかし,個人で購入するにはかなり勇気がい る値段なので,おもに上級者が っています.最後 の ④ の USB カメラですが,安価な上,パソコン の USB 端子に接続するとすぐにカメラとして え ( ) 20 610 48
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光科学及び光技術調査委員会
図 1 (a)反射望遠鏡 (口径 し, 0mm)と電動赤道儀, (b) USB カメラ.付属のレンズを取り外 けら 望遠鏡 の接眼スリーブに取り付 れるように改造が て あ 施し る. 光 学ますし,また,動画が簡単に撮れるので,初心者か ら上級者まで広く われており,次に紹介する画像 処理方法と合わせて,惑星を拡大して撮影する場合 に用いられます. 2. USB カメラを用いた拡大撮影 USB カメラでは,動画が簡単に撮影できるので, 短時間に大量の画像が得られます.天体撮影の場合 には,それをコンポジット (合成) する処理が適し ています.次に,大量の画像をコンポジットするこ との利点を述べます. まず,第 1の利点は,1枚 1枚の画像の SN 比が 悪くても,コンポジットすることによって SN 比 が改善されることです.これはよく知られているよ うに,積算する画像の枚数が n であるとすると, SN 比は n で改善されることがもとになっていま す. 第 2の利点は,シンチレーションの影響を低減で きることです.シンチレーションとは,大気の屈折 率が時間・空間的に変動することにより,星の像が 歪む現象のことです.特に月や惑星を拡大してみる と,まるで生き物のようにゆらゆらと形が変わって 見えます.次に,大量の画像をコンポジットするこ とにより,なぜシンチレーションの影響を低減でき るのかを図 2を用いて簡単に説明します.星を理想 的な点光源とし,望遠鏡にはまったく収差がない場 合の星の像 (点像) は図 2(a)のようになるとしま す.実際の観察では,シンチレーションの影響によ って点像は歪み,その歪み方は時々刻々変化します (図 2(b)).しかし,十 長い時間でみれば,その 歪み方はランダムであるとみなすことができます. そこで,歪んだ像を積算し平 すれば (図 2(c)), 限りなく理想的な点像に近い像が得られるはずであ る,というのがこの方法の根本的な え方です. 上では星が点であるとして説明しましたが,惑星 などは面積があります.積算した画像は,少しぼや っとした画像になります.そこで,実際には,積算 した画像に,さらにウェーブレット変換を施し画像 を鮮明化させます. 第 3の利点は,星を正確に追尾する必要がなくな ることです.星の撮影は,① 固定撮影 (三脚にカ メラをつけて固定して撮影する方法),② ガイド撮 影 (望遠鏡を赤道儀に搭載し,日周運動と合わせて 動かして撮影する方法) があります.星を点として 撮影するためには,ガイド撮影が欠かせません.し かしながら,惑星などを拡大して撮影する場合,お のずと焦点距離が長くなってしまい,星を正確に追 尾するための条件がシビアになってしまいます.こ れに対して,短時間露出で繰り返して撮影すれば, 1回 1回の露出時間内には星は止まっているものと みなせます.また,コンポジットは,例えば,惑星 の輝度の重心を基準にコンピューター上で位置あわ せをして画像を合成するので,撮影対象がカメラの 写野内に収まっていればよく,正確な追尾から開放 されます. この撮影方法は,月や惑星などの強拡大など比較 的明るい対象に向いており,光害が激しい都市部で も十 に楽しめる撮影方法です.
光
の
広
場
37巻 9号(2 08) 611 49( ) 図 2 (a) 理想的な点像.(b) 実際には,大気の変動 により点像は時々刻々変化する.(c) 長時間積算すれ ば,理想的な点像とみなすことができる.3. 木星の撮影例
この方法を用いた木星の撮影例を図 3に示しま す.直径 200mm の反射望遠鏡 (Vixen, R200-SS) に USB カメラ (フィリップス,ToUcam Pro) を 用いて撮影を行いました.撮影場所は東京都内の筆 者宅のベランダです.1フレームの露出時間は 1/25 秒で,毎秒 10フレーム,2 間連続して撮影しま した.図 3(a)は,そのうちのある 1フレームの画 像です.これに対して,図 3(b)は,得られた全フ レームを一度,木星の縞模様の鮮明さを基準に並び かえ,画質の向上につながる 500枚の画像を選択し て積算平 し,さらにウェーブレット変換を用いて 縞を鮮明化した画像です.このように,1枚ではわ ずかに縞が見える程度の画質ですが,コンポジット することによって劇的に画質が向上し,縞が浮かび 上がってきます.なお,画像のコンポジットおよび 後処理には,天体撮影で定番のフリーソフトである registax を用いています. 以上,天体撮影における撮影のひとつの方法とし て,USB カメラを用いて大量の画像をコンポジッ トする方法を紹介しました.撮影例は木星の 1つし か示せませんでしたが,他の撮影例は,ネットで 「天体撮影」などのキーワードで検索すると,さま ざまな方がホームページやブログなどにきれいなカ ラー画像や自慢の機材を掲載していますので,そち らをご覧いただけたらと思います.本稿で述べた手 法のほかに天文特有の撮影法・画像処理法がありま すが,それらは文献にあげた書籍を参照してくださ い.天体撮影は趣味としてはかなり高級な部類に入 りますが,画像処理の基本をマスターするにはきわ めて良い題材かと思います.興味をもたれたら是非 チャレンジしてみてください. この記事に関する問い合わせは,tenchan@brain. riken.jp までお願いいたします. (理化学研究所脳科学 合研究センター 深野 天) 文 献 1) 浅田英夫:天体観察入門―はじめてのスター・ウオッ チング (アストロアーツ,2006). 2) アストロアーツ (編):DVD ではじめる天体観察入門 (アスキー,2008). 3) 天文ガイド編集部:天体ビデオ撮影マニュアル (誠文 堂新光社,2005). 4) 岡野邦彦:冷却 CCD カメラによる天体撮影テクニッ ク (誠文堂新光社,2002). 図 3 木星の撮影例.(a) 1フレームの画像.(b) 500 枚積算した画像.ウェーブレット変換を用いて縞を鮮 明化させている. ( ) 2 5 61 0 光 学