RF
信号処理による入力振幅比制御型
2
軸指向性可変アレーアンテナ
豊田
一彦
†a)田中
裕喜
†西山
英輔
†田中
高行
†A Dual-Axis Beam Steering Array Antenna with Input Amplitude Control
Based on RF Signal Processing
Ichihiko TOYODA
†a), Yuki TANAKA
†, Eisuke NISHIYAMA
†, and Takayuki TANAKA
†あらまし 本論文では,平面型マジックT を用いた RF 信号処理による入力振幅比制御型の 2 軸指向性可変 アレーアンテナを提案し,その特性について理論,シミュレーション及び試作アンテナの測定により検討した結 果を報告する.提案するアンテナは,2 種類の平面型マジック T とマイクロストリップアンテナを組み合わせた 同相/逆相 3 給電アレーアンテナを用いたものであり,三つの入力端子に入力する信号の振幅比を制御すること によりアンテナの指向性を変えるものである.5.8 GHz 帯の試作アンテナにより E 面,H 面とも約 30 度の指向 性制御が実現できることを確認した.マイクロ波回路とアンテナを一体複合化することで,RF 信号処理の機能 をアンテナに組み込み,簡易な構成で指向性可変アレーアンテナを実現している. キーワード マジックT,3 給電アンテナ,指向性可変,位相誤差
1.
ま え が き
携帯電話や無線LANなどのコンシューマ向け無線 システムが広く使われるようになり,今や我々の生活 になくてはならないものとなった.そして,更なる利 便性の向上のために通信速度やシステム容量,周波数 利用効率などの向上が強く求められており,これに合 わせて通信機器の高性能化・高機能化が必要となって いる. これまでの無線システムでは主に,電波をスカラー の電気信号として扱い,振幅や周波数,位相等のパラ メータを使って情報を伝送している.しかしながら, 空間を伝搬する電磁波はベクトル量であり,偏波や伝 搬方向といった空間領域のパラメータももっている. これまでも偏波ダイバーシチやポラリメトリックレー ダなどでこれらの空間領域パラメータが用いられてき たが,次世代の高度無線システムを実現するためには その一層の活用が必要である.第5世代移動通信シス テム(5G)では,多数のビームを形成し空間を分割す ることで大容量システムを実現するmassive MIMO (Multiple-Input Multiple-Output)が有力な技術とし †佐賀大学,佐賀市Saga University, 1 Honjo-machi, Saga-shi, 840–8502 Japan a) E-mail: [email protected] て期待されているが,これも一種の空間領域パラメー タの活用である.また,周波数帯の逼迫に伴って,5G ではミリ波帯などの高周波帯の利用が検討されている. ミリ波帯では,伝搬による減衰が大きいため利得の高 い指向性アンテナの利用が必須となるが,移動通信の 場合には指向性の制御が必要となる. 指向性可変機能をもつアンテナとしては,複数のア ンテナ素子への給電位相を制御するフェーズドアレー アンテナや周波数により放射方向を変えることのでき る漏れ波アンテナが一般的である.その他に,可変リ アクタンスを装荷した無給電素子により指向性を切り 替えるマイクロストリップアンテナ[1]やスイッチン グ用ダイオードを装荷した無給電素子により指向性を 切り替えるモノポールアンテナ[2],放射素子にU字 形のスロットを設け,スイッチング素子により給電を 切り替えるマイクロストリップアンテナ[3],バラン の電気長をPINダイオードで切り替えて,左右の放 射素子の位相を変える準八木ダイポールアンテナ[4], チューナブルなインピーダンスサーフェスを用いて2 軸の指向性可変を実現したアンテナ[5]∼[8]等が報告 されている. 一方我々は,時間領域で直交する励振モードを利用 した指向性可変アレーアンテナを提案してきた[9].こ のアンテナでは,二つの入力信号をマジックTで和信
号と差信号に変換し,この和信号と差信号により二つ のアンテナ素子を励振する.これによりアンテナ素子 間に位相差が生じ,この位相差によりアンテナの指向 性を変えようとするものである.マジックTを用いる ことにより,アンテナ素子間の位相差は入力信号の振 幅比で制御できるため,入力信号の振幅比を変えるこ とで指向性を自由に変えることができる. 本論文では,まず,空間領域パラメータの活用に適 したRF信号処理について概説し,続いてRF信号処 理による入力振幅比制御指向性可変の原理について述 べる.次に,2種類の平面型マジックTを用いた3給 電アレーアンテナの構成について説明し,これを用い た入力振幅比制御型2軸指向性可変アレーアンテナを 提案するとともに,理論,シミュレーション及び試作 アンテナによりその特性を検討した結果を示す.最後 に,このアンテナでは二つの入力信号に90度の位相 差を与えることが必要となるが,振幅比を制御した場 合に位相差も変わってしまうことが懸念されるため, アレーアンテナへの給電に位相誤差が生じた場合の特 性変動について検討した結果を示す.
2. RF
信号処理
従来の無線通信では,搬送波の振幅や周波数あるい は位相を情報信号で変調することにより通信を行って いる.この場合,信号を式(1)で示すようなスカラー 信号として取り扱っていることになる. s(t) = A sin(2πf t + θ) (1) しかしながら,実際の電波はベクトル量であり,例え ば電界は式(2)のように表すことができる. E(r, t) = E0sin(2πf t − k · r + θ) (2) ここでE0は電界のベクトル振幅であり,振幅の大き さと電界の向き(すなわち偏波)という2種類のパラ メータをもっている.また,kは波数ベクトルであり, 電波の伝搬方向を表す.古典的な無線通信ではこれら のベクトル量すなわち空間領域パラメータが積極的に 用いられてきたとは言い難いが,将来の無線通信の高 度化に向けてこれらを活用することは必須である.こ のような空間領域パラメータを活用した無線通信シス テムを実現するためには,電波をRF帯で直接演算す るRF信号処理の技術が有効である.例えば,偏波は 空間的に直交する二つの信号のベクトル合成として取 り扱うことができる.また,アンテナから放射される 電波の伝搬方向は後述するとおり二つのRF信号の和 と差を用いて制御することができる.したがって,ベ クトル量である空間領域パラメータを取り扱うために は,それを構成する複数のスカラー信号の位相をいか に制御するかが鍵となる.RF信号処理を実現する代 表的なマイクロ波回路としては,同相分配合成を実現 するウィルキンソンディバイダ,90◦の分配合成を実 現する90◦ハイブリッド,0◦/180◦の分配合成を実現 するラットレースハイブリッドやマジックTがあり, これらの回路によりRF信号の加算や減算を行うこと ができる.また,90◦ハイブリッドに可変抵抗素子や 可変容量素子を接続した可変減衰器や可変移相器を用 いることでRF信号の振幅や位相を変えることができ る.更に,ダイオードの非線形性を利用した乗算器に よりRF信号どうしの乗算を行うことができる. 我々の研究室ではこれまで,このようなRF信号処 理回路を用いて1軸の入力振幅比制御型指向性可変ア ンテナ[9]やビーム追尾アンテナ[10],偏波切替アン テナ[11],到来角推定アンテナ[12], [13],乗算器を用 いた例としては,推定角度を広角化した到来角推定ア ンテナ[14]や偏波識別アンテナ[15],単一の制御電源 で垂直・水平・右旋・左旋の四つの偏波を切り替える アンテナ[16]などの高機能アンテナを提案してきた. 本論文では,同相/逆相分配合成回路であるマジック Tを用いてRF帯で二つの信号の振幅比により位相差 を制御する方法を紹介し,これを適用した2軸指向性 可変アンテナを提案する.本論文で提案する指向性可 変アンテナは,既報告の到来角推定アンテナ[12]と本 質的に同じ構造であり,受信アンテナとして用いるこ とにより電波の到来方向を知ることができる.このよ うに本構造では,電波の到来方向に基づいて放射方向 を変えるというような制御が可能となり,従来の各素 子への給電位相を直接制御するフェーズドアレーでは 実現することが難しい機能をアンテナシステムに容易 に組み込むことができる.3.
入力振幅比制御型指向性可変アンテナ
3. 1 指向性可変の原理 図1に本論文で提案する入力振幅比制御による指 向性可変アレーアンテナの動作原理を説明するための ブロック図を示す.間隔dで配置された二つのアンテ ナがマジックTのポートM1,M2に接続されている. ポートH及びEはそれぞれマジックTの同相分配入 力及び逆相分配入力であり,それぞれ導波管マジック図 1 入力振幅比制御による指向性可変の原理 TのH面分岐入力,E面分岐入力に相当する.この ポートH及びEに入力する二つの信号の振幅比を制 御することによってアンテナの指向性を制御する. ポートH及びEはそれぞれマジックTの同相分配 入力端子,逆相分配入力端子のため,ポートHに入力 された信号はポートM1,M2へ同相分配され,ポー トEに入力された信号はポートM1,M2へ逆相分配 される.またポートEとHは互いにアイソレーション ポートとなる.したがって,ポートH及びEに二つの 信号を入力すると,ポートM1へは二つの信号の和が 出力され,ポートM2へは二つの信号の差が出力され ることになる.今,この二つの入力端子に振幅Aの信 号と振幅√1− A2の二つの信号を入力する場合を考 え,二つの信号はアンテナで90度の位相差をもって 合成されるようにする.このとき,図1のベクトル図 に示すとおり,ポートM1に現れる和信号(Σ)はポー トHに入力した信号(赤矢印)よりも位相がϕだけ 進み,ポートM2に現れる差信号(Δ)は位相がϕだ け遅れる.したがって,二つのアンテナに給電される 信号ΣとΔには2ϕの位相差がつくことになる.こ こで,位相差2ϕは次式で与えられる. 2ϕ = 2 tan−1 √ 1− A2 A (3) 二つのアンテナに位相差2ϕがある場合には,式(4) で与えられる角度θの方向で二つアンテナから放射さ れた信号の位相が揃い,アンテナの指向性はθの方向 に形成される. 2ϕ = k0d sin θ (4) ここで,k0は波数である.したがって,二つの入力端 子に入力する信号の振幅比を変えることにより指向性 を制御することができる. 本原理に基づいて,アンテナの指向性を計算する. 図 2 理論式より求めた指向性可変特性 和信号Σと差信号Δは式(5),(6)で与えられる. Σ =√1 2{A + √ 1− A2ejπ2} (5) Δ = √1 2{A − √ 1− A2ejπ2} (6) このとき,二つのアンテナによるアレーファクタf (θ) は式(7)となる. f (θ) = Σ + Δejk0d sin θ (7) 本論文では,マイクロストリップアンテナを用いた アレーアンテナについて検討するため,アレーアンテ ナの指向性はマイクロストリップアンテナの素子指向 性をD0(θ)として式(8)で与えられる. D(θ) = f (θ)D0(θ) (8) マイクロストリップアンテナの指向性D0(θ)はE面, H面のそれぞれで式(9),式(10)で与えられる[17]. D0(θ) = cos πL λ0 sin θ (9) D0(θ) = cos θ sin(πL λ0 sin θ) πL λ0 sin θ (10) ここで,λ0及びLはそれぞれ波長及びマイクロスト リップアンテナの長さである. 3. 2 理論式から求めた指向性可変特性 図2に,前節で述べた理論式より求めた入力振幅比 に対する主ビームの角度を示す.後述する試作アンテナ の設計に合わせて,アンテナ素子の間隔はd = 0.8λ0, マイクロストリップアンテナの一辺の長さL = 0.33λ0 としている.ポートHのみに入力した場合が振幅比0 であり,このときビームは正面方向(θ = 0◦)を向く.
また,ポートEのみに入力した場合には,二つのアン テナの位相差は180度となり,このときビームの方向 は式(4)より無指向性アンテナの場合で約38度とな る.E面の場合には,振幅比を0.1∼10まで変化させ ることによって30度の指向性可変を実現することが できる.また,H面の場合には28度となる.アンテ ナ間隔dを小さくすることによって指向性可変幅を広 げることができるが,この場合にはアレーアンテナの 利得が低下するなどのトレードオフが生じる.
4. 2
軸指向性可変アンテナ
4. 1 アンテナ構成と動作原理 図3に本論文で提案する2軸指向性可変アレーア ンテナの構成を示す.本アンテナは,同相/逆相3給 電アレーアンテナ[18]を用いている.四つのアンテナ 素子#1∼#4が四角形の頂点に配置されており,アン テナ素子#1と#4はそれぞれ位相反転回路を通して マジックT1とT2に接続されている.一方,アンテ ナ素子#2と#3はそれぞれマジックT1とT2に直接 接続されている.マジックT1,T2のポートHはア レーアンテナの入力端子2につながっており,ポート EはマジックT3に接続されている.更に,マジック T3のポートH,Eはそれぞれアレーアンテナの入力 端子1及び3につながっている. 図において,アンテナ素子の横に示した赤,青,緑 の矢印はそれぞれ,端子1,2,3から入力した信号の アンテナ素子での位相関係を示している.端子1か ら入力された信号はマジックT3で同相分配され,更 にマジックT1,T2で逆相分配される.逆相分配され た信号の片方は位相反転回路を通るため,最終的には 図 3 提案する入力振幅比制御型 2 軸指向性可変アレーア ンテナの構成 赤色の矢印で示したように四つのアンテナ素子は全て 同相で励振されることになる.これに対して,端子2 から入力された信号は同相分配されたのち,マジック T1,T2で更に同相分配される.このため,位相反転 回路の効果によりアンテナ素子#1と#2は逆相で励 振され,同様にアンテナ素子#3と#4も逆相で励振 される.一方,アンテナ素子#1と#4,#2と#3は それぞれ同相励振となる.したがって,アンテナ素子 での位相関係は青色の矢印のようになる.このような 構成とすることで,3.に示した原理を用いてアンテナ の端子1,2に入力する二つの信号の振幅を制御する ことにより,アンテナ素子間の位相差を変え,y–z面 で指向性を制御することができる. また,端子3から入力した信号はまずマジックT3 で逆相分配され,次にマジックT1,T2で逆相分配さ れるが,位相反転回路の効果によりアンテナ素子#1 と#2,#3と#4はそれぞれ同相で励振される.一方, アンテナ素子#1,#2と#3,#4は逆相で励振される ため,端子1及び3から入力した信号の振幅比を制 御することによりx–z面の指向性を変えることがで きる. 4. 2 アンテナ設計 図4に本論文で提案する入力振幅比制御による2軸 図 4 提案する入力振幅比制御 2 軸指向性可変アレーアン テナの構造指向性可変アレーアンテナの構造を示す.アンテナ素 子にはマイクロストリップアンテナを用い,アンテナ 素子とマイクロストリップ線路の信号線は基板表面, スロット線路は基板裏面に配置している.そして,2 種類の平面型マジックTを用いることで簡易な構造で 提案原理のアンテナを実現している.付録に示すとお り,マジックT1,T2はマイクロストリップ線路T分 岐とスロット–マイクロストリップ線路T分岐を組み 合わせることで実現しており,マジックT3はスロッ ト線路T分岐とマイクロストリップ–スロット線路T 分岐を用いている.位相反転はマイクロストリップア ンテナの給電点の位置を上下逆にすることにより実現 することができ,位相反転回路を挿入する必要はない. 設計はKeysight Technologies社のMomentumを用 いて行った.基板はテフロン基板(εr = 2.15,厚さ 0.8 mm)であり,アンテナ素子は設計周波数5.8 GHz において共振するように設計している.また,各入 力端子のインピーダンスは50 Ωとし,給電回路は端 子1∼3より入力した信号がアンテナ素子で適切な位 相関係をもつように設計した.アンテナ素子の大き さは17.0 × 17.0 mm,素子の中心間距離は41.4 mm (0.8λ0)である.このように本アンテナでは,2種類の 平面型マジックTを用いることにより非常に簡易な構 成で入力振幅比制御による2軸指向性可変アンテナを 実現している. 4. 3 測 定 結 果 図5に5.8 GHz帯の試作アンテナの写真を示す.ア ンテナの大きさは130 mm× 125 mmである.端子3 のスロット線路は同軸コネクタを接続するためにマイ クロストリップ線路に変換し,ビアを介して裏面のコ ネクタと接続している. 図 5 5.8 GHz 帯試作アンテナの写真(130 mm × 125 mm)(a) 表面,(b) 裏面 図6に入力端子1∼3の反射特性を示す.赤線が端 子1,青線が端子2,緑線が端子3の反射係数であり, 実線が測定値,破線がシミュレーション値である.設 計周波数である5.8 GHz付近でS11,S22,S33のい ずれも−10 dB以下になっており,良好な反射特性が 得られている.また,シミュレーション結果ともよく 一致している. 図7に各入力端子から入力した場合のE面指向性 図 6 反 射 特 性 図 7 放射パターンの測定値 (a) E 面,(b) H 面
(y–z面)とH面指向性(x–z面)の測定結果を示す. 赤線が端子1,青線が端子2,緑線が端子3から入力 した場合の特性である.端子1から入力した場合には, E面,H面とも正面方向に指向性をもっており,全て のアンテナ素子が同相で励振されていることが確認で きる.また,端子2から入力した場合には,E面で正 面方向でヌルとなっており,上下のアンテナ,すなわ ちアンテナ素子#1と#2,#3と#4がそれぞれ逆相 で励振されていることが分かる.更に,端子3から入 力した場合には,H面で正面方向にヌルが形成されて おり,左右のアンテナ,すなわち#1,#2と#3,#4 が逆相で励振されていることが分かり,設計どおりの 特性を有していることを確認した. 図8にE面の指向性可変特性とH面の指向性可変 特性を示す.赤線が測定値であり,青線がシミュレー ション値である.E面指向性の測定では,アンテナの 入力端子1及び2から信号を入力し,端子3は終端し ている.端子1からの入力振幅A1と端子2からの入 力振幅A2の比を0から10まで変えることにより約 30度の指向性可変特性が得られた.また,H面指向性 図 8 入力振幅比に対するビーム角 (a) E 面,(b) H 面 の測定では,アンテナの入力端子1及び3から信号を 入力し,端子2は終端している.H面の場合にも振幅 比を0から10まで変えることにより約28度の指向 性可変が実現できている.いずれの特性もシミュレー ション値とほぼ一致しているとともに,図2に示した 理論値ともおおむね一致している.
5.
給電位相誤差に対する特性変動
5. 1 理論式による検討 図1に示したように,本アンテナは二つの入力信号 に90度の位相差をもたせることで入力振幅比のみで 指向性を変えることができる.しかしながら,入力振 幅を変えた場合,位相差も変わってしまうことが懸念 される.そこで,入力信号に図9に示すような位相誤 差ϕeが生じた場合の特性について検討した[19].位 相誤差ϕeを考慮した場合の和信号Σと差信号Δは それぞれ式(11)と式(12)で与えられる. Σ =√1 2 A +√1− A2ej(π2+ϕe) (11) Δ = √1 2 A −√1− A2ej(π2+ϕe) (12) これらを式(7)に代入し,式(8)を計算することで入 力位相誤差がある場合のアンテナの指向性を求めるこ とができる. 図10に位相誤差ϕeが生じた場合の入力振幅比に 対する主ビームの方向を示す.ここでA1,A2,A3は それぞれアンテナの入力端子1∼3の入力振幅である. 位相誤差ϕeが大きくなるにつれてビーム方向のずれ も大きくなるが,位相誤差が45度の場合でもその差 は1∼2度である. 5. 2 シミュレーション結果 図11 に入力振幅比1の場合の位相誤差に対する ビーム角と利得のシミュレーション結果を示す.それ 図 9 入力信号に位相誤差のある場合図 10 入力位相誤差がある場合の指向性可変特性 (a) E 面,(b) H 面 ぞれ赤線が主ビーム角,青線が利得を示している.位 相誤差ϕeが増加しても,ビーム角はほとんど変わらな いが,利得が徐々に低下していくことが分かる.図11 ではビーム角が不連続に変化しているように見えるが, これは1度単位でプロットしているためであり,実際 には滑らかに変化する.
6.
む す び
本論文では,マジックTを用いたRF信号処理につ いて紹介し,これを用いた2軸指向性可変アレーアン テナを提案した.試作アンテナによりその特性を評価 し,ほぼ設計どおりの特性が得られていることを確認 した.また,給電信号に位相誤差が生じた場合の特性 変動について理論及びシミュレーションにより検討し た.位相誤差が生じた場合,主ビームが広がり,利得 は低下するが主ビームの方向はほとんど変わらないこ とが明らかとなった.本アンテナは,マイクロ波回路 とアンテナを一体複合化した構成であり,信号をRF 帯で直接信号処理することにより簡易な構成で2軸 図 11 入力位相誤差に対するビーム角と利得のシミュレー ション結果 (a) E 面,(b) H 面 指向性可変アンテナを実現している.試作アンテナは 5.8 GHz帯で設計しているが,本アンテナは受動回路 のみで構成されているため,提案したコンセプトはマ イクロ波帯からミリ波帯などの広い周波数帯で利用可 能であり,様々な用途への適用が期待できる. 謝辞 本研究の一部はJSPS科研費JP17K06429 の助成を受けて実施したものです. 文 献[1] R.J. Dinger, “Reactively steered adaptive array us-ing microstrip patch elements at 4 GHz,” IEEE Trans. Antennas Propag., vol.AP-32, no.8, pp.848– 856, Aug. 1984.
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[4] P.Y. Qin, Y.J. Guo, and C. Ding, “A beam switching Quasi-Yagi dipole antenna,” IEEE Trans. Antennas Propag., vol.61, no.10, pp.4891–4899, Oct. 2013. [5] D. Sievenpiper, J. Schaffner, R. Loo, G. Tangonan,
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[6] D.F. Sievenpiper, J.H. Schaffner, H.J. Song, R.Y. Loo, and G. Tangonan, “Two-dimensional beam steering using an electrically tunable impedance sur-face,” IEEE Trans. Antennas Propag., vol.51, no.10, pp.2713–2722, Oct. 2003.
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[19] 田中裕喜,西山英輔,田中高行,豊田一彦,“入力振幅比 制御指向性可変アンテナの給電位相誤差に対する特性変動 の検討,”映情学技報,BCT2017-5, Jan. 2017.
付
録
平面型マジックT ここでは,本論文で提案する2軸指向性可変アレー アンテナを実現するための鍵となる平面型マジックT について説明する. マジックTは同相/逆相分配合成回路であり,同相分 配合成を実現する並列分岐回路と逆相分配合成を実現す る直列分岐回路を組み合わせて構成することができる. 図A· 1に,マイクロストリップ線路とスロット線 路で構成することのできる分岐回路の平面図を示す. 図において,マイクロストリップ線路のストリップ導 体は基板の上面に配置されており,スロット線路は 基板の下面,すなわち接地導体面に形成されている. 図A· 1 (a)はマイクロストリップ線路T分岐であり, 並列分配合成回路である.また,図A· 1 (b)はスロッ ト線路T分岐であり,直列分配合成回路,図A· 1 (c) はマイクロストリップ–スロット線路T分岐であり,並 列分配合成回路である.最後に,図A· 1 (d)はスロッ ト–マイクロストリップ線路T分岐であり,直列分配 合成回路である.これらのうち,並列分配合成回路で ある図 A· 1 (a)のマイクロストリップ線路T分岐と 直列分配合成回路である図A· 1 (d)のスロット–マイ クロストリップ線路T分岐をマイクロストリップ線路 を共有するように組み合わせると,提案アンテナのマ ジックT1,T2として用いているマジックTを構成 することができる.同様に,図A· 1 (b)のスロット線 路T分岐と図A· 1 (c)マイクロストリップ–スロット 線路T分岐をスロット線路を共有するように組み合わ図 A· 1 マイクロストリップ線路とスロット線路で構成で きる分岐回路 (a) マイクロストリップ線路 T 分 岐,(b) スロット線路 T 分岐,(c) マイクロスト リップ–スロット線路 T 分岐,(d) スロット–マ イクロストリップ線路 T 分岐 せるとマジックT3として用いているマジックTを構 成することができる. (平成 30 年 6 月 3 日受付,8 月 5 日再受付, 11月 12 日公開) 豊田 一彦 (正員:シニア会員) 1985年 3 月大阪大学工学部通信工学科 卒,1990 年 3 月同大大学院工学研究科通信 工学専攻博士後期課程修了.工学博士.同 年 4 月日本電信電話 (株) 入社.1990 年∼ 2001年 NTT 研究所及び NTT エレクト ロニクス (株) にて,3 次元 MMIC の研究 及び事業化に従事.2001 年より NTT 研究所にて,ミリ波ワイ ヤレスシステムの研究開発及び標準化並びに研究所のインキュ ベーション業務に従事.2004 年∼2007 年新潟大学客員助教授, 2007年∼2011 年東京電機大学非常勤講師,2011 年 4 月より 佐賀大学教授.2017 年 4 月∼2018 年 3 月工学系研究科副研究 科長,10 月より学長補佐.2018 年 4 月より副理工学系長,副 理工学部長,現在に至る.電磁波の波動的性質を活用したマイ クロ波回路とアンテナを融合したマイクロ波信号処理技術の研 究に従事.本会東京支部評議員,九州支部運営委員,英文論文誌 編集委員,和文論文誌特集号編集委員会委員長,マイクロ波研究 専門委員会幹事,短距離無線通信研究専門委員会委員,無線電力 伝送研究専門委員会委員,電気学会電子デバイス技術委員会委 員長・副委員長・幹事,EuMA GA メンバー,ミリ波実用化コ ンソーシアム Vice Chair 等を歴任.1993 年度本会学術奨励賞, Japan Microwave Prize (APMC’94),第 18 回電気通信普及 財団テレコムシステム技術賞,2004 年度本会エレソ賞,2010 年,2016 年本会論文賞,2017 年度佐賀大学教育功績者等表彰, NTT社内表彰など受賞.電気学会,IEEE,EuMA 各会員. 田中 裕喜 2015年 3 月佐賀大学理工学部電気電子 工学科卒,2017 年 3 月同大大学院工学系 研究科電気電子工学専攻博士前期課程修了. 在学中は RF 信号処理用平面型マジック T 及びこれを用いた指向性可変アンテナの研 究に従事.現在電機メーカに勤務. 西山 英輔 (正員:シニア会員) 1987年佐賀大学理工学部電子工学科卒, 1989年同大大学院修士課程修了.同年佐 賀大学理工学部技官,助手,助教.現在同 大理工学部准教授.2007 年∼2008 年米国 カリフォルニア大学ロサンゼルス校訪問研 究員.平面アンテナの研究に従事.2013 年∼2014 年 IEEE AP-S Fukuoka Chapter Chair.博士 (工 学).IEEE 会員. 田中 高行 (正員) 1986年佐賀大学理工学部電子工学科卒. 1988年同大大学院修士課程了.同年同大 理工学部助手.現在,同大理工学部准教授. 博士(工学).マイクロ波回路の研究に従 事.IEEE,映像情報メディア学会各会員.