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<研究ノート>国際刑事法廷の「積極的補完性」概念の発展と国際刑事裁判所(ICC)の実行に関する先行研究の分析

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国際刑事法廷の「積極的補完性」概念の発展と

国際刑事裁判所(ICC)の実行に関する先行研究の分析

小阪 真也

An Analysis of the Development of the Idea of “Positive Complementarity” of the

International Criminal Tribunals and Previous Researches about the Practices of the

International Criminal Court (ICC)

Shinya KOSAKA

Abstract

This article discusses the process of the development of the idea of the “positive complementarity” and analyzes previous researches about the practices of ICC (International Criminal Court) based on the idea of the “positive complementarity.” International society has been making much effort to address the issue of “impunity gap” which is made by the limit of the functions of the international criminal tribunals to address a lot of war crimes. The idea of the “positive complementarity” has been getting attentions from practitioners or scholars in the field of international criminal justice as a measure for filling in the “impunity gap.”

This article specifically points out the fact that various international criminal tribunals not limited to ICC are sharing the idea of the “positive complementarity.” Although the idea of the “positive complementarity” firstly coined by ICC, there was an international context that sought more collaborative relationship between international and national criminal tribunals than the approach emphasized primacy of the international tribunals. The shared functions of outreach or capacity-building among today’s international criminal tribunals indicates that there has been a shift from competitive to collaborative understanding of the idea of complementarity.

At the final part, this article analyzes previous researches about the practices of ICC under the idea of “positive complementarity” to organize points to be considered to evaluate the effects of their practices.

1.はじめに

国際刑事法廷では対処し切れない戦争犯罪によって生 じる「不処罰の溝(impunity gap)」を埋めるための措 置として、各国の国内の法の支配を強化し、国内の司 法機関による戦争犯罪の訴追を促進することが求めら れている。このような理念は近年では「積極的補完性 (positive complementarity)」と定義され、注目を集め ている。 本稿では、「積極的補完性」に関する議論を確認すべ く、概念の発展経緯と「積極的補完性」に基づく実行の 意義に関する先行研究の議論を分析する。本稿は、「積 極的補完性」を広く国際刑事法廷が国内の刑事司法を 通じた正義の追求を支援する理念としてとらえる1。本 稿は「積極的補完性」が提唱されるに至った経緯とし て、1990 年代後半に見られた旧ユーゴスラヴィア国際 刑事法廷(ICTY:International Criminal Tribunal for the Former Yugoslavia)およびルワンダ国際刑事法廷

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(ICTR: International Criminal Tribunal for Rwanda) の国内司法機関への優位性を主張するアプローチに対す る国際的な批判と活動方針の修正の存在を確認する。国 内司法機関を補完する機関として国際刑事法廷を位置づ け運用することを求める動きは ICC 以外の国際刑事法 廷にも共有されており、ICTY および ICTR 両国際刑事 法廷に見られた訴追に限定されない法廷機能の発展か ら、国際刑事法廷と国内法廷のより相互補完的な形態で の活動が求められていた背景が存在していたことを本稿 の議論を通じて指摘する。 次に本稿は、「積極的補完性」に基づく活動の意義に ついて論じられている先行研究を整理する。「積極的補 完性」に基づく活動の意義については特に ICC の活動 の現状に依拠して否定的に論じられたものが多い。そ の内容としては、ICC の機能の限界を指摘するものと、 ICC の機能の限界を踏まえた上で改善のための提言を 行うものが存在する。本稿では、前者の例としてセイ ルズ(Paul Seils)の議論を、後者の例としてホール (Christopher Hall)の議論を概観する。両者の議論を踏 まえた上で、特に ICC による「積極的補完性」の実行 の効果を分析する上で考慮されるべき点を導出する。

2.国際刑事法廷における「積極的補完性」概

念の発展

2.1.ICC における「積極的補完性」 ICC における「積極的補完性」は、ICC が設立当初か ら活動指針として有している「補完性の原則」に対し、 国内の刑事司法を通じた正義の追求を支援する立場をよ り強調した理念である。ICC の「補完性の原則」とは、 各主権国家が国内で発生した戦争犯罪の訴追義務を一義 的に負い、ICC はあくまで各主権国家が訴追意思を欠い ている場合、あるいは訴追する司法能力を有していない 場合にそれらに該当する主権国家を補完する形で当該戦 争犯罪の訴追を行うとする原則である2。ICC は当該原 則を設立根拠文書である「国際刑事裁判所に関するロー マ規程(ICC 規程)」第 1 条において明記しており、第 17 条で定められている事案の受理許容性の基準として 具体化している。 ICC の補完性の原則は、国際刑事法廷と国内司法機関 の分業体制を明確化するとともに、戦争犯罪に対する刑 事訴追の一義的な権限保持者が各主権国家であることを 確認する意味を持った。しかし一方で、多数国間条約に 基づく初の常設の国際法廷として設立された ICC にお いては、ICTY や ICTR に見られたような国連憲章上の 国連安全保障理事会の権限に基づく強い管轄権の行使が 常に可能であるわけではなかった。もちろん現実の実務 を遂行するにあたって ICTY や ICTR も管轄地との競 合的な関係から後述するように多くの問題に直面した。 しかし、ICC の場合は法的なレベルでの各国の協力義務 を主張することが必ずしも可能ではないという性格を有 しており、ICTY や ICTR よりも一層捜査の実施や管轄 権の行使に際して締約国の協力を不可欠とするもので あった3 このような背景から、活動を開始して間もない 2003 年の時点で、ICC は「積極的な(positive)」という言葉 を用いて ICC が各国の国内刑事司法と競争(compete) するのではなく、国内刑事司法を支援するという協働の 姿勢を示していた4。その後、2006 年にはより具体的な 補完性に対する積極的なアプローチという名目で同様の 姿勢が ICC 検察局の訴追戦略として提示された5。もっ ともこの時点では国内刑事司法との協働の姿勢が提示さ れただけであり、具体的に何が積極的なアプローチに該 当するのか定義されていたわけではなかった6 「積極的補完性」に基づく活動の意味を最初に定義し たものは、2010 年に発表された ICC 検察局の訴追戦略 に関するレポートであった。当レポートにおいて、まず ICC における補完性が、①事案の受理許容性のテスト、 ②国内刑事司法との協働のための積極的な補完性の 2 つ の側面から構成されることが明示された7。また、補完 性に対する積極的なアプローチが、「ICC が直接的に能 力構築、財政的あるいは技術的な支援に直接的に関与す ることなく、多様なネットワークと協力に基づいて、予 備捜査および捜査を行っている国々を含み、可能である 場合に真正なる国内司法手続きを支援すること」と定義 された8。ICC が具体的に当レポート内で挙げた「積極 的補完性」に基づく活動は、表 1 にある通り 4 つに区分 されて明記された 。 2010 年に具体的な「積極的補完性」に基づく活動態 様が定義された際に明らかになった点として、締約国か らの協力要請に応じた「積極的補完性」の理念に基づく 協働関係の法的根拠が ICC 規程第 93 条 10 項に存在す ると明言されたことが挙げられる。第 93 条は「他の形 態の協力」として、犯罪者の引き渡しなどの規程内に明

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記されたもの以外の広範な締約国の協力義務を定めたも のであり、例えば第 93 条 1 項(l)には、「裁判所の管 轄権の範囲内にある犯罪の捜査及び訴追を容易にするた め、その他の形態の援助であって被請求国の法律が禁止 していないものを行うこと」など、広い協力義務につい て規定されている。第 93 条 10 項(a)では「裁判所は 要請に従い、ICC 管轄権行使の対象となる重大犯罪につ いて、要請を行った締約国の国内法下における裁判に向 けた捜査を行うために締約国と協力し活動を支援するこ とができる」と規定されている。2010 年の当レポートは、 ICC 規程内に「積極的補完性」の理念に基づいた活動の 法的根拠が存在することを確認する意味を持った9 加えて、特に「積極的補完性」に基づく活動として含 まれる国内司法機関の能力構築については、ICC 自身が プロジェクトを実施するのではなく、他の機関と協力し 合いながら間接的な役割を果たすことが明言されている 点も、現在の ICC の取り組みを分析する上で重要であ ろう。2010 年のレポート内で述べられている「直接的 に関与することなく」という文言が意味しているのは、 国内司法機関の能力構築において、ICC 自身が大規模な 能力構築のプロジェクトを形成するのではなく、原則と して第三者機関のプロジェクトに ICC が参加する形で 活動を遂行するということを意味している。 このような ICC の能力構築への間接的な関与の姿勢 は、2015 年に提出された最新の ICC 検察局の訴追戦略 を示したレポート内においても維持されている10。例え ば第 3 者機関を媒介した国内司法機関の能力構築の近年 の例としては、2017 年 3 月 13 日から 15 日までナイジェ リアのラゴスで開催された、ワヤモ財団、国際ニュルン ベルク原則アカデミー、正義と責任応答性における協力 のためのアフリカグループが共催した能力構築ワーク ショップへの ICC スタッフの講師としての派遣などが 存在する11 2.2.ICTY・ICTR における優越的なアプローチの修正 以上の ICC による「積極的補完性」の理念は、必ず しも ICC 独自の活動理念として形成されたものではな い。実際には 1990 年代の活動当初から ICTY と ICTR が有していた国内裁判所との競合管轄権行使における優 越的なアプローチに対する批判を受けて、国際刑事法廷 と国内司法機関へのより協調的な協働体制を求める国際 的な潮流を反映して形成されたものだと言える。 ICTY および ICTR は、国連憲章第 7 章下の措置とし て国連安全保障理事会によって国連機関として設立され た純粋な国際刑事法廷であった。設立根拠文書はいずれ も安全保障理事会決議であり、国連加盟国は両裁判所 の活動に対する国際法上の協力義務を負っていた12。例 えば、1993 年の国連事務総長報告書においては、国内 裁判所と ICTY は競合管轄権を有するものの、国際法 廷である ICTY の優越性に国内法廷は服すると述べら れている13。さらに、1995 年 10 月 2 日のタジッチ事件 ICTY 上訴裁判部判決においても、戦争犯罪が国際社会 全体に悪影響を及ぼす深刻な国際人道法違反であり、国 際法廷が国際社会を代表して当該違反行為の訴追を行う 表 1:2010 年に定義された ICC の「積極的補完性」に基づく活動内容 ICC 規程 93 条 10 項に基づく情報共有 ・現地の裁判官や証人を保護する信頼できる制度の存在と治安上の警告を前提 とした、ICC 規程 93 条 10 項における現地司法機関からの求めに応じた情報 提供。 ・開示可能な資料および犯罪パターンに関するデータベースの共有。 国内司法機関の能力構築 ・予備捜査および捜査が行われている国々の現地の専門家及び法律家の保護を 考慮した上での協働。 ・ICC が有する法執行機関ネットワーク(LEN)への現地専門家及び法律家の 参加の招待。 ・現地専門家及び法律家との専門知識の共有および捜査技術や保護を必要とす る証人への質問技術の訓練。 政治的調停に関与するアクターとの情報共有 ・ICC の活動を補足する国連やその他の特使などの国内あるいは地域における 活動を支援するための情報提供。 現地における責任追及のための活動の媒介 ・現地での責任追及へ向けた努力への支援を促進するための開発機関やドナー 国の会議における活動。 ICC(2010)をもとに筆者作成

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ことに適しているとして、ICTY の管轄権が国内裁判所 の管轄権よりも優越的に行使されることが確認されて いる14。このような国内法廷にその権限において優越す るという ICTY および ICTR が有していた方針は、両 国際法廷の 1990 年代の活動を特徴づける優越的なアプ ローチとして位置づけられる。 しかし、国内司法機関に対する国際刑事法廷の優越的 なアプローチは、管轄地における国際刑事法廷への反発 を招くことで職務遂行上の阻害要因となり、両国際刑事 法廷の効率性への国際的な批判を招く要因となった。例 えば ICTY の場合、戦争犯罪の証拠収集、証人へのイン タビュー実施に際して、現地政府および国内司法機関の 協力が欠如するという問題が発生した15。クロアチアや セルビアにおいては、紛争中の軍の犯罪行為を記録した 資料へのアクセスについて、ICTY が稼働してから 10 年間もの期間提供が拒まれることになった16。また、管 轄地域における犯罪人引渡にも遅延が生じ、結果的に逃 亡者の訴追に莫大な時間がかかり、ICTY の効率性に対 する疑義が呈される事態につながった17 ICTY および ICTR の採用していた優越的なアプロー チは、1999 年頃から徐々に管轄権を行使する対象の国々 の司法機関とのより協力的な関係性を強調する見解が両 裁判所から提示され、両国際刑事法廷が完了戦略を模索 する中で修正されていった。例えば、1999 年の ICTY お よび ICTR の活動報告書で提示された完了戦略の枠組み の中で、現地に住まう人々と国際法廷の間の距離の開き と、両国際刑事法廷が抱えていた現地の国内社会との軋 轢という課題が認識されていた18。両国際刑事法廷はこ のような課題の認識から、具体的に課題解決のために訴 追機能に限定されない国内社会に利益を提供するような 機能を構築した。例えば、公的なセミナーの開催を含む 現地の司法機関の能力構築や、現地語における包括的な アウトリーチ機能が両法廷で明示的に備えられた19。こ れらは当初の ICTY、ICTR の指針内では主要な活動と して位置づけられてはおらず、両国際刑事法廷において 明確な政策変更が発生したことを示す事実だと言える20 その後、ICTY や ICTR の完了後の活動のために設立 された国際刑事法廷メカニズム(MICT)などの残余メ カニズム(Residual Mechanisms)では、共通する継続 的機能として、国内刑事司法手続きへの支援が挙げられ ている。これは、上記の問題点を踏まえて拡充された国 際刑事法廷の機能を原型にしたものととらえられる21 2017 年の MICT の報告書においても、国内司法機関の 能力構築への支援は独立した項目として挙げられ、成果 が報告されている22。以上から、ICTY 及び ICTR で採 用されていた従来の優越的なアプローチは修正され、近 年の実行においては国内の司法機関との協働や能力構築 を通じた正義の追求を行う「積極的補完性」を具体化す る活動の実行に向けて政策関心が変化していることが分 かる23 2.3.優越的なアプローチから「積極的補完性」への移 行を求める国際的な動向 2000 年代に入ると、国際的な実行としては ICTR や ICTY に類した純粋な国際刑事法廷ではなく、戦争犯罪 が発生した現地における国際刑事法廷と国内司法機関の 職務遂行上の協働関係を前提とするような性格を持った 混合法廷(hybrid court)の設立・運用が主流化した。 右記表 2 にある通り、ICC を除き、2000 年代以後に新 たに設立された国際刑事法廷はいずれも混合法廷として の性格を持っていた 。 これらの混合法廷については、国際刑事法廷としては 初めてテロ行為を訴追対象としている STL と地域機構が 主体となって設立した EAC を除き、実際に戦争犯罪が発 生した国々に法廷が設置され、国際スタッフと国内スタッ フが協働して職務を遂行するという点で共通する性格を 持っている。国際刑事法廷と国内司法機関の協働が強調 されているが故に、例えば SCSL のように ICTY や ICTR が政策変更の結果備えることとなった能力構築やアウト リーチなどの管轄する国内に利益をもたらそうとする機 能が設立当初から備えられている法廷も見られた24 以上のような混合法廷の主流化は、国際刑事法廷が国 内司法機関と協調的な関係を築き、国内司法機関を支援 しながら正義を追求する「積極的補完性」の理念を求め る動向の具体化の 1 つとしてとらえることができる。例 えば、2004 年の国連事務総長報告書においては、管轄 地から離れて設置されていた ICTY および ICTR 両国 際刑事法廷に欠如していた点として、戦争犯罪が発生し た地域におけるプレゼンスの低さが指摘されていた25 同報告書においては、管轄地域に国際刑事法廷が存在す る利点が以下のように挙げられている。 ・・・ 国内に法廷が設置されることはまた、暫定的な国 際刑事法廷が有する国内における能力構築へ向けた取

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り組みを強化し、国際刑事法廷が、(建築物、設備、 備品などを含む)物体的なインフラを国内司法システ ムに譲り渡すことや、国内の司法専門家の能力を構築 することを可能にする。国内に設立された国際刑事法 廷においては、国際スタッフが国内スタッフと協働し、 国内の弁護士、公人、職員が現場での訓練を積む機会 を与えることができる。公的に成果を発信し続ける工 夫を凝らした方法と、能力構築のための効果的な技術 を組み合わせることで、そのような利益は、国際刑事 法廷の管轄地で将来に渡って残り続ける遺産をもたら すことに貢献する26 ここで強調されている活動成果の発信と能力構築は、 まさに ICTY および ICTR の優越的なアプローチが修 正された後、ICC や混合法廷などで備えられたアウト リーチと能力構築に対応するものだと言える。すなわち、 「積極的補完性」という国際刑事法廷と国内刑事法廷の 協調的な関係性を求めるアプローチは、従来の国際刑事 法廷の機能に対する理解とは異なり、より長期的に管轄 地域に国際刑事法廷がもたらす利益を還元するという発 想に基づいて求められていると考えられる。

3.

「積極的補完性」に基づく活動の実行の意

義に関する先行研究の動向

以上の「積極的補完性」の理念に基づく活動が有する 意義に関する先行研究は、現状では ICC が主体となっ て「積極的補完性」概念を定義したこともあり、ICC の 活動に焦点を当てて論じるものが多い。その内容として は、ICC の機能の限界を指摘するものと、ICC の機能の 限界を踏まえた上で改善のための提言を行うものが存在 する。以下前者の例としてセイルズの議論を、後者の例 としてホールの議論をそれぞれ確認する。 3.1.セイルズの議論 セイルズは、2010 年に出版された自身の論文におい て、ICC に焦点を当てながら「積極的補完性」に沿った 実行の問題点を指摘する。第 1 の問題点として、特に ICC の機能や活動指針上の制約が指摘されている。セイ ルズは、ICC 検察局の一義的な役割は、国内での訴追意 思と、訴追に向けた努力を審査することであり、国家 に意思を持たせ訴追を可能にすることではないと述べ る27。一方で、ICC 書記局が行うにしても同様の機能上 の問題が発生することが指摘され、ICC 書記局が通常有 表 2:2000 年代以後に新たに設立された主な国際刑事法廷と法廷の設置形態 2000 年 東ティモール重大犯罪パネル

(SPSC: Special Panels for Serious Crimes in Timor Leste) ・国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)がディリ地方裁判所内 に設置。 国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK) 裁判所(規則 64 パネル) ・国連コソボ暫定行政ミッションの発布した規則に基づき、コソボ司法 省が裁判官の任用などの管理を行い、国際裁判官および国内裁判官が コソボ各地の国内裁判所で協働。 ・コソボが独立宣言をした 2008 年以後は、欧州連合法の支配ミッション (EULEX)が引継ぎ。 2002 年 シエラレオネ特別裁判所

(SCSL:Special Court for Sierra Leone)

・シエラレオネ政府と国連の合意に基づき首都フリータウンに国際・国 内スタッフが協働する法廷として設置。

・2014 年の活動終了後はシエラレオネ特別残余法廷(RSCSL)に移行。 国際刑事裁判所(ICC) ・多数国間条約に基づく国際法廷としてオランダのハーグに設置。 2003 年 カンボジア特別裁判部

(ECCC: Extraordinary Chambers in the Courts of Cambodia)

・カンボジア政府と国連の合意に基づきプノンペン郊外に国際・国内ス タッフが協働する法廷として設置。

2009 年 レバノン特別法廷

(STL:Special Tribunal for Lebanon) ・国連安全保障理事会決議 1757 および国連とレバノン政府の合意に基づき、オランダのハーグに国際・国内スタッフが協働する法廷として 設置。

2013 年 特別アフリカ裁判部

(EAC:Extraordinary African Cambers)

・セネガル政府とアフリカ連合の合意に基づき、セネガルのダカールに セネガルおよび他のアフリカ連合の国々のスタッフが協働する法廷と して設置。

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している専門的な知見については、「積極的補完性」に 求められるような国内司法機関への技術上の援助を行う ものに該当しないと述べる28 またセイルズは、「不処罰の溝」を「積極的補完性」 に基づく行為で埋めたところで、能力と意思を備えた国 内司法機関が国内の政治情勢上困難な対象を訴追しない という別種の問題が生ずる可能性があると指摘する29 結論として、セイルズは、ドナー機関や、能力のある非 政府組織、国家、そして多様な国連組織が技術的な支援 などは行うべきであり、ICC 検察局が行うべき行為では ないと論じた30 3.2.ホールの議論 以上のセイルズの議論で見られた否定的な見解は共有 しつつも、ICC における「積極的補完性」が抱える問題 点を乗り越えるための提言を行っているのがホールの議 論である。ホールは「積極的補完性」に則った ICC の 活動を評価するために、まず自身の論文が出版された 2010 年当時に捜査対象とされていたコンゴ民主共和国、 ウガンダ、中央アフリカ共和国、スーダン(ダルフール)、 それに加えて、当時予備捜査の段階にあった 7 か国など における ICC の活動状況を概説した31。ホールは現状で は ICC の「積極的補完性」が各国の国内司法機関によ る戦争犯罪訴追を促進していない状況にあると結論付け た上で、改善のための以下の提案を検察局に対して行っ ている。 ・可能である限り、公的声明においてローマ規程の批准 を非締約国に対して求めること。 ・補完性と協力義務を果たすための効果的な立法を行っ ていない大半の締約国に対して、そうすることが優先 事項であると促すこと。 ・国内司法機関に対する支援を国際的な組織に求める場 合、人権の保護を強化する方針で実施されるように明 示すること。 ・各国に国際法上の犯罪の捜査と訴追のための立法を促 す際、数人の公人や紛争の一方の勢力のみではなく、 そのような犯罪に責任を持つ者全てに対して正義を追 求するための国家的な計画を作ることを求めること。 ・国内の裁判が死刑、拷問その他の不適切な取扱いを排 した公正な裁判を受ける権利に厳格に沿って行われる ようにすること。 ・戦争犯罪に対する恩赦や不処罰のための類似した手法 が全ての事件において国際法に反することを明示する こと。 ・あらゆる捜査や訴追のための訓練は直接的に ICC に よって行われるのではなく、世界中の多様な警察およ び検察機関の職員によるプログラムを通じて行われる ことを保障すること。 ・支援を行うことで死刑、拷問その他の不適切な取扱い、 あるいは不公正な裁判の実施に繋がる可能性がある場 合に国内の捜査や訴追に対する直接的な支援を提供し ないこと。 3.3.ICC による「積極的補完性」の実行に対する先行 研究の評価の分析 以上のセイルズとホールの議論は、ICC による「積極 的補完性」の実行の効果に関して分析を行う場合に留意 しておくべき点を提示している。第 1 に、特に現状の ICC 検察局が有する機能については極めて限定的な評価 がされているということが指摘できる。本稿で触れた通 り、例えば「積極的補完性」に基づく能力構築について は、ICC は自身が直接的に関与しないという立場を取っ た。これは、ICC が第一義的にはセイルズが指摘したよ うに戦争犯罪に対する捜査および訴追を行うために設け られており、各国の司法能力の強化を行う開発機関とし て設立されているわけではないことが強調されているた めである。ホールの提言においても、あらためてその事 実について敷衍されている。 第 2 に、ICC が「積極的補完性」に基づいた活動を行 うことで、体制変動期にある国内の微妙な政治プロセス に悪影響を与える可能性が考慮された分析が行われてい る。セイルズが指摘したように、仮に ICC の活動の対 象とされた国々の能力構築と正義を追求する意思が ICC の活動を通じて培われたとしても、それが常に国内の司 法機関による戦争犯罪の訴追に結びつくとは限らない。 すなわち、各国の訴追能力や訴追への積極性の存在は、 各国の国内政治状況を踏まえた国内検察官の訴追に係る 政治的な判断自体を除去することを意味しない。例えば 和平交渉の当事者など、特定の対象を訴追することで逆 に情勢不安を呼び込む危険性と正義を追求することの意 義は常に各国の政策実務者によって天秤にかけられる事 項である。これは ICC による「補完」の在り方そのも のにも深く関わる事項であり、いたずらに正義の追求を

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強制すると、国内司法機関の「補完」ではなく、従来の 国内司法機関に対する国際司法機関の「優越」に立ち戻 ることになりかねないということも意味している。また、 ホールが指摘したように、現地の司法機関の現況を慎重 に精査しなければ、逆に人権侵害を助長するような国内 における立法や司法活動の実施を ICC が支援している という実態が公に晒され、常設の国際刑事法廷としての 正統性が損なわれる危険性が存在する。

4.おわりに

本稿では、「積極的補完性」に関する議論を整理すべ く、概念の発展経緯と特に ICC の「積極的補完性」に 基づく活動の意義に関する先行研究の議論を確認した。 「積極的補完性」の理念は ICC によって定義された。し かし本稿で確認した通り、その背景には ICTY および ICTR という純粋な国際刑事法廷が採用していた優越的 アプローチの修正と、その後に国際社会で提唱された より調和的な国際刑事法廷と国内司法機関の協働体制 を求める動向が存在していた。例えば優越的アプロー チが修正された後に ICTY や ICTR が備えたアウトリー チ機能や能力構築機能は、その後の混合法廷において も備えられていることが観察される。ICTY や ICTR、 そして 2000 年代以降に主流化した混合法廷が備えてい るそれらの機能は、ICC の「積極的補完性」に基づく 国内司法機関を支援するための活動内容とも通底する 要素がある。 また、本稿では特に ICC に着目しながら「積極的補 完性」を論ずる場合に多くみられる ICC の機能上の限 界と、それを改善するための提言を行っている先行研究 の分析を行った。分析の中で述べた通り、ICC の「積極 的補完性」に基づく活動を分析する場合は、ICC 自身が 有する機能上の限界とバランスを取るための取り組みが 現実の対応としては求められる点に留意しなければなら ない。例えば現在まで維持されている第三者機関との協 働を前提とした能力構築への ICC の関与方法は、単に ICC のみではなく、ICC に協力するより多くのアクター が「積極的補完性」に関与しているものとして分析の視 野を広げる必要性を示している。 加えて、ICC の「積極的補完性」に基づく活動が現地 の政治情勢に悪影響を与え、ICC 自身の国際刑事法廷と しての正統性を損なう危険性が存在することも、研究に 際して注意しておくべき点だと言える。例えば複雑な民 族的対立が発生している国々や、現在進行形で紛争が発 生している国々においては、ICC が「積極的補完性」に 則った活動を遂行することで逆に正義の追求を阻害する 場合があり得る。それらの国々における「積極的補完性」 に基づく活動の評価にあたっては、単に ICC 自身の能 力や機能の不足によって低い効果が生じているのではな く、むしろ ICC 自身が独立した国際刑事法廷としての 正統性の維持を優先するという判断が取られることはあ り得る。いわば国内の司法機関を補完しないという選択 を ICC が意図的にしているため、そもそも低い効果と してしか活動の成果を観測できないという場合も想定さ れなければならないだろう。

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1 「積極的補完性」という用語や意味内容は、国際刑事裁判所

(ICC: International Criminal Court)の検察局による言及で 一般的に知られるようになった。しかし、本稿では「積極的 補完性」の理念を広く国際刑事法廷が国内の刑事司法を通じ た正義の追求を支援する考え方ととらえ、同様の理念が ICC による言及以前から国際刑事法廷の実行において共有されつ つあったという立場を取る。 2 ICC (2003), p. 1. 3 See Stahn (2010), pp. 260-273.

4 ICC, supra note 2, paras. 2-3. なお、初代主任検察官として

着任したオカンポ(Luis Moreno-Ocampo)も、補完性の実 行に際して「積極的な」アプローチを採用すべきだと主張し ている。ICC (2004), pp. 1-2.

5 ICC (2006), “Report on Prosecutional Strategy,” p. 5. 6 中澤(2014)、pp. 346-348. 7 ICC (2010), para. 16. 8 Ibid, para. 17. 9 例えば当時主任検察官であったオカンポも 2010 年に出版さ れた自身の論文内で「積極的補完性」の法的根拠として ICC 規程第 93 条 10 項を挙げている。Moreno-Ocampo (2010) p. 22. 10 ICC (2015), para. 96.

11 International Nuremberg Principles Academy (2017),

“Press Release: Capacity Building for Prosecutors in Nigeria,” Retrieved 29 October 2017 from https://www. nurembergacademy.org/news/detail/press-release-capacity-building-for-prosecutors-in-nigeria-56/

12 UN (1993a); UN (1994) 13 UN (1993b), para. 65.

14 Prosecutor v. Tadic, Case No. IT-94-1-AR72, Appeals

Chamber Decision on the Defence Motion for Interlocutory Appeal on Jurisdiction (2 October 1995), para. 59.

15 Brammertz and Hughes, p. 188. 16 Ibid., p. 189. 17 Hazan (2004), p. 69. 18 UN (1999), paras. 146-153. 19 UN (2004), paras. 314-326; UN (2005), paras. 63-68. 20 例えば ICTY が備えた能力構築機能は、当初は ICTY のマン デートには明確には含まれていなかったと指摘されている。 Brammertz, Javis, Šoljan (2016), p. 340.

21 現地の司法専門家の能力構築は、現地に「遺産」をもたらす

包括的なアウトリーチ活動の一部とされていた。ICTY (2013).

22 UN (2017), Annex II, paras. 67-73.

23 ICC が主張する「積極的補完性」と ICTY の政策変更後

の取り組みの類似性を指摘するものとしては以下を参照。 Tolbert and Kontić (2010).

24 例えば SCSL の最初の年次報告書内で、既に国内の法律専門 家への訓練や、裁判所の活動成果を国内に広く伝えるため のアウトリーチ活動に従事していることが報告されている。 SCSL (2003), pp. 22, 26. 25 UN (2004b), para. 44. 26 Ibid. 27 Seils (2010), p. 1012. 28 Ibid. 29 Ibid. 30 Ibid. 31 Hall (2010), pp. 1034-1046.

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参考文献

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参照

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