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アストロサイト依存的脳虚血耐性の分子メカニズム解析 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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氏 名 平山 友里 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医科学 ) 学 位 記 番 号 医工博甲 第 282 号 学 位 授 与 年 月 日 平成26年3月20日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 人間環境医工学専攻(生体環境学コース) 学 位 論 文 題 名 アストロサイト依存的脳虚血耐性の分子メカニズム解析 (Astrocyte-mediated brain ischemic tolerance) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 飯島 裕幸 委 員 准教授 長井 薫 委 員 講 師 川端 健一

学位論文内容の要旨

(研究の目的) 虚血耐性現象とは、先行して非侵襲的な虚血を経験すると、その後の侵襲的な虚血に対する抵抗性 を獲得する現象であり、虚血に最も脆弱な臓器である脳でも認められる。これまで虚血・再灌流後の 脳保護薬として 100 種類以上の薬物が開発されているが、十分な有効性を呈する薬物は存在してい ない。その一方で、虚血耐性は強力な脳保護効果を示すことから、虚血耐性現象の分子メカニズムの 解明は、脳梗塞治療の開発及びその治療戦略において重要視されている。これまでに多くの精力的な 研究がなされ、複数の分子メカニズムが報告されているが、そのほとんどが神経細胞の変化に注目し たものであった。近年、神経細胞の機能維持及び保護には、神経細胞以上にグリア細胞の役割が重要 であることが分かってきているが、虚血耐性におけるグリア細胞の役割はほとんどわかっていない。 そこで本研究は、in vivo 脳虚血耐性モデルを用いて、虚血耐性現象の分子メカニズムをグリア細胞 の視点から明らかにすることを目的とした。 (方法) 脳虚血モデルには、臨床病態で起こる虚血・再灌流を再現することができるマウス中大脳動脈閉塞 (MCAO)モデルを採用した。短時間(15 分間)の非侵襲的な虚血 Preconditioning(PC)と長時 間(1 時間)の侵襲的虚血(Lethal MCAO)を組み合わせることで虚血耐性モデルを作成した。脳 梗塞巣の大きさはTTC 染色により、グリア細胞の形態変化は免疫組織学的解析にて評価した。また、 各分子のmRNA 発現量の変化は定量的 RT-PCR を用いて解析した。 (結果と考察) PC の先行負荷(3 及び 6 日前)により、Lethal MCAO によって惹起される脳梗塞巣の大きさは

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顕著に抑制された(虚血耐性獲得)。PC それ自体は傷害を惹起しなかったが、線条体と大脳皮質の グリア細胞の形態を活性化型にし、特にアストロサイトの活性化の時・空間変化が虚血耐性獲得のそ れとよく一致していた。Fluorocitrate を用いてアストロサイトの活性化を抑制したところ、虚血耐 性効果は消失した。一方、minocycline によるミクログリアの活性化の抑制は、虚血耐性に影響しな かった。よって、虚血耐性獲得にアストロサイトの活性化が重要であることが示唆された。 アストロサイト依存的虚血耐性の分子メカニズムを解明するために、神経細胞-アストロサイト間 の相互作用において中心的な役割を果たすATP の受容体に注目した。この受容体の中でも、イオン チャネル型ATP 受容体である P2X7 受容体は、病態時におけるさまざまなシグナル伝達を担ってい る。本研究では、PC によって活性化したアストロサイトで P2X7 受容体発現亢進が起こり、P2X7 受容体欠損マウスは虚血耐性を獲得しなかった。これらの結果から、アストロサイト由来P2X7 受容 体は脳虚血耐性獲得の責任分子であることが示唆された。さらに、P2X7 受容体活性以降のシグナル カスケードとして、虚血耐性のマスター分子と知られる転写因子hypoxia inducible factor (HIF)-1 αの発現亢進を見出した。HIF-1αは PC によって神経細胞と活性化アストロサイト両者で発現亢進 するが、前者はPC 直後に P2X7 受容体非依存的に発現亢進するのに対し、後者は PC 後数日経過し てからP2X7 受容体依存的なメカニズムで発現亢進した。HIF-1αのターゲット分子であり、強い神 経保護作用を示すerythropoietin(EPO)の発現も P2X7 受容体依存的であったことから、これらの 分子がアストロサイト依存的虚血耐性のメカニズムに関与している可能性が示唆された。 (結論) 本研究により、「グリア性虚血耐性」現象を見出し、その重要性及び分子メカニズムの一端を明ら かにした。

論文審査結果の要旨

平山友里氏は,脳虚血耐性現象における,虚血耐性獲得メカニズムを明らかにする目的で,マウスの 中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルを用いて研究を行った.まず前駆する非侵襲的虚血である preconditioning (PC)と,侵襲的虚血までの経過時間に関して,線条体では 3 日,皮質では 6 日前の PC が必要であることを明らかにした.次に PC 後のグリア細胞(アストロサイトとミクログリア) の活性化の時間経過を調べ,ミクログリアはPC 後 1 日ですでに活性化しているのに対して,アスト ロサイトは線条体でPC 後 3 日,皮質では PC 後 6 日で活性化していることから,アストロサイトの 活性化が虚血耐性効果発現に関わっていることを示した.さらにアストロサイト,ミクログリアそれ ぞれの活性化阻害薬投与実験の結果から,脳虚血耐性獲得メカニズムには,PC 後 3 日以後に生じる アストロサイトの活性化が関与していることを示した. PC 後のアストロサイトの活性化に関わる分子メカニズムに関して,イオンチャンネル型 ATP 受容 体であるP2X7 受容体に注目して実験を行った.まず P2X7 受容体遺伝子に緑色蛍光蛋白遺伝子をノ ックインしたマウスを使用して,PC によって活性化されるアストロサイトで P2X7 受容体が発現し ていることを免疫組織学的手法で明らかにした.さらにP2X7 受容体ノックアウトマウスでも PC 後 にアストロサイトの活性化が生じたが,PC による虚血耐性はみられないことを示し,アストロサイ ト活性化後にP2X7 受容体が発現して,虚血耐性を生じるメカニズムを確認した.

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最後に虚血耐性獲得にはPC1 日後にみられる神経細胞での HIF1α発現だけではなく,PC3 日以後 にみられるアストロサイトのHIF1α発現が必要であることを示し,PC 後の P2X7 受容体発現上昇 によるアストロサイトの活性化が,アストロサイトでのHIF1α発現を誘導し,その結果生じる EPO などの神経保護分子の働きで虚血耐性をもたらす可能性を示した. これまでの薬剤を用いたin vitro 主体の実験ではなく,実際に in vivo で血管に操作を加えて虚血を 作成する本研究は虚血耐性獲得メカニズムを明らかにする上で有意義で,また従来,神経細胞にのみ とらわれて行われてきた虚血耐性研究をグリア細胞との関連で行った点で新規性に富む. 今後,得られた成果を実際の治療薬創薬にどのようにつなげていくか,容易ではないが,研究の発展 が期待される.

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