要 旨 症例は 63歳男性.上腹部不快感を主訴に近医を受診した.上部消化管内視鏡検査で胃前 部小弯に,2型の 腫瘍を認め,生検の結果,中∼低 化管状腺癌と診断され,石井病院外科に紹介された.CT 検査で肝左葉に大 きさ約 5 cmの低吸収領域を認め, 胃癌の肝転移と診断した. 平成 22年 4月から S-1+CDDP療法を開始し た.7コース終了後の内視鏡では腫瘍は明らかに縮小傾向で,瘢痕組織様であった.また MRI で肝転移の著明 な縮小がみられ, 腫瘍は外側区域に限局した. 平成 23年 3月群馬大学医学部附属病院で幽門側胃切除 D2郭 清, Billroth I 法再 , 肝外側区切除を施行した.
病理学的には tub2, pT2 (MP), pN0, INFβ, ly0, v2, PM (−),DM (−),H1,pStage IVであったが R0切除 ができた. 経過は良好で, 第 12病日に退院した. その後石井病院外来で経過観察中であるが, 術後 5ヶ月の現 在明らかな再発はない.(Kitakanto Med J 2011;61:519∼524) キーワード:胃癌, TS-1, CDDP, 肝転移, 肝切除 は じ め に 胃癌の同時性肝転移は Stage IVであり, 全身化学療法 が標準治療と えられている. 化学療法としては, 本邦 では S-1+CDDP併用療法が first-lineとして位置付け られている. しかし非治癒因子が肝転移のみであれば, 切除した方が生存率は向上するという報告も散見され る. 肝転移をきたした進行胃癌患者に対して術前化学療法 として S-1+CDDP療法を行った後, R0手術をしたので 報告する. 症 例 患 者:63歳, 男性 主 訴:上腹部不快感 家族歴,既往歴:特記事項なし 現病歴:平成 22年 3月上旬より上腹部不快感を訴え近 医を受診した. 上部消化管内視鏡検査で胃癌と診断され 石井病院外科に紹介された. 初診時現症:眼瞼結膜に 血なく, 腹部には腫瘤を触知 しなかった. 血液生化学的検査:腫瘍マーカーの CEA が 18.3ng/ml と上昇していた. Hb: 13.4g/dl, Ht: 41.4%と 血はな く,AST : 30U/L,ALT : 30U/L,Cr: 1.2mg/dL と肝・ 腎機能に異常はなかった. 上部消化管内視鏡検査:胃前 部小弯に, 2型の腫瘍を 認め (図 1a), 生検の結果, 中∼低 化管状腺癌と診断さ れた. CT検査:幽門前 部に内腔へ突出する軽度造影効果の ある病変がみられた (図 2a). 肝外側区を中心に内側区に およぶ大きさ 54mmの低吸収領域を認め, 中肝静脈を圧 排し,尾状葉に浸潤が疑われた (図 3a).また#6に径 1 cm を超えるリンパ節腫大が認められた (図 4a). 胃癌の肝転 移, リンパ節転移と診断された. 術前経過:平成 22年 4月から S-1 (80mg/m /day・ 2 を 3週投与, 2週休薬) +CDDP (60mg/m : day 8) を開 1 群馬県伊勢崎市波志江町1152 石井病院外科 2 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科臓器病態外科学 3 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科病態病理学 平成23年8月23日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科臓器病態外科学 竹吉 泉
始した. 嘔気, 嘔吐が出現し, Grade 3の白血球減少を生 じたため, 2コース目から TS-1と CDDPを 20%減量し て治療を継続した. 一度 81.3ng/mlまで上昇していた CEA 値は 4コース開始時には著明 に 低 下 し 4.1ng/ml までさがり, 以後基準値以内を保っていた. 画像上も US では 4コース開始時には肝転移は縮小傾向を認めた. 7 コース終了後, 腎機能低下によって造影 CT が困難で あったため,単純 CT (図 3b) と MRI (図 3c) での評価で は肝転移は著明に縮小していた. また, 内視鏡では腫瘍 は明らかに縮小傾向で, 瘢痕組織様であった (図 1b). 化 学療法前の CT 検査で幽門前 部に内腔に突出される軽 度造影効果のある病変はほぼ消失していた (図 2b).また リンパ節腫大も 2コース終了後にほぼ消失していた (図 4b). 群馬大学医学部附属病院に入院し平成 23年 3月幽門 側胃切除 D2郭清, Billroth I 法再 , 肝外側区切除を施 行した. 手術所見:原発巣は L 領域小弯にあり, 胃壁は厚く 化 していたが漿膜面に露出はしていなかった. #6にやや いリンパ節があった. 肝外側区に直径 2 cm大の比較 的境界明瞭な腫瘤を認めた. 腹膜播種はなかった. 病理検査所見:L,5型,size 2.5×2.2cm.tub 2,pT2(MP), pN0,INFβ,ly0,v2,PM (−),DM (−),H1,pStage IV,R0 (胃 : 図 5a, 肝 : 図 5b). 原発巣の腫瘍細胞は viableなも のが主体であるが, 腫瘍間には繊維の増加がみられた (図 5c). 肝では腫瘍細胞が篩状構造や胞巣を形成しなが ら増殖し, 腫瘍間には繊維の増加とリンパ球などの炎症 細胞浸潤がみられた (図 5d). 組織学的効果判定は Grade (a) 初診時 : 胃前 部小弯に,白苔を伴う 2型の腫瘍 (→) を 認めた. (b) 化学療法後 : 腫瘍は明らかに縮小傾向で, 瘢痕組織 (→) 様であった. 図1 上部消化管内視鏡検査 (a) 化学療法前 : 幽門前 部に内腔に突出される軽度造影効 果のある病変 (⇨) がみられた (造影). (b) 化学療法後 : 幽門前 部に内腔に突出される軽度造影効 果のある病変はほぼ消失していた (単純). 図2 腹部 CT 検査 : 原発巣
1a. リンパ節転移はなかった. 術後経過:経過は良好で, 第 12病日に退院した. その後 石井病院外来で経過観察中である. 術後補助療法として S-1: 80mg/bodyを 4週投与 2週休薬で開始したが, 副 作用のため 2週投与 2週休薬にして継続中である. 現在 まで再発徴候はない. 図3 腹部 CT, MRI 検査 : 肝転移 化学療法後 : 肝転移は著明に縮小し, 内側区に限局していた ((b) 単純 CT, (c) MRI). (a) 化学療法前 : 肝外側区を中心に内側区におよぶ大きさ 54mmの低吸収領域を認め, 中 肝静脈を圧排し, 尾状葉浸潤が疑われた (造影 CT). (a) 化学療法前 ; 腫大した No6リンパ節 (⇨) (b) 化学療法 2コース終了後 : 腫大していたリンパ節はほぼ 消失していた. 図4 腹部 CT 検査 : リンパ節
察 同時性肝転移を有する胃癌の治療方針は様々な見解が あり, いまだコンセンサスは得られていない. 近年, 外科 的治療に加え全身化学療法や肝動注療法を組み合わせる 集学的治療で, 長期生存が得られた症例の報告を散見す る. 2010年の胃癌治療ガイドラインでは遠隔転移が あった場合は化学療法, 放射線療法, 緩和手術, 対症療法 が推奨されている. 進行胃癌の標準的化学療法は 2007 年の American Society of Clinical Oncology の報告に より,S1+CDDP併用療法である.しかし,肝転移を有す る胃癌であっても原発巣のコントロールが可能で, 他臓 器浸潤や第 3群リンパ節転移, 肝転移以外の遠隔転移, 腹膜播種などの非治癒切除因子がないこと, 肝切除が可 能で肉眼的に根治度 B手術ができれば手術適応である という意見もある. 今回のわれわれの症例も初診時にこ の条件を満たしていた可能性があるが, 術後の再発形式 として 73%に残肝再発を認めた報告 があり, 残肝再発 を予防する意味で術前に化学療法を行った. またもう一 つの理由として, 腫瘍が大きく, 中肝静脈を圧排し尾状 葉浸潤が疑われたため, 抗腫瘍効果があれば尾状葉や中 肝静脈を温存して, 外側区域のみで切除が可能になると も えて術前化学療法を行った. 予後規定因子としては病理学的に N0または N1で, Hr0で切除できることが良好な予後因子であった とい う報告や, 一葉に限局する肝転移巣で 4cm未満の腫瘍径 が良好な予後規定因子となるとの報告がある. また, 単 発であることおよび 10mmを超える切除断端の確保 に よって, あるいは単発ならば 良好な予後が得られると の報告がある. 本症例は単発で切除断端も確保され, リ ンパ節転移もないので良好な予後が期待できるのではな いかと えている. しかし R0切除ができたと言っても, すでに遠隔転移があったので全身疾患ととらえている. 術前化学療法の効果から S-1の感受性が高いと判断し, 術後も S-1を投与しているが, 現在のところ再発はない. 大腸癌肝転移例に対する良好な切除成績は数多く報 告 されており, 子標的治療薬を含む化学療法の進歩 によって R0手術が増加している. 胃癌肝転移例におい (a) 胃切除標本 : 瘢痕組織様の腫瘍 (→) (b) 肝切除標本 : 腫瘍 (→) (c) 胃病理標本 : 化学療法により一部壊死に陥っている (→) (H.E. ×10) (d) 肝病理標本 : 化学療法により一部壊死に陥っている (→) (H.E. ×4) 図5 切除標本と病理組織
1+CDDP併用化学療法により二期的に根治切除を施行 した胃癌同時性肝転移の 1例. 癌と化学療法 36(12): 2330-2332, 2009. 2. 萬羽尚子, 梨本 篤, 藪崎 裕 他 : 胃癌同時性肝転移に 対する切除症例の検討. 癌と化学療法 36(12): 2016-2018, 2009. 3. 橋本毅一郎, 鈴木道成 : 肝切除を含む集学的治療を行っ た 胃 癌 異 時 性 肝 転 移 の 1例. 癌と化学 療 法 36(12): 2324-2325, 2009.
4. Boku N, Yamamoto S, Fukuda H, et al: Fluorouracil versus combination of irinotecan plus cisplatin versus S-1 in metastatic gastric cancer: a randomized phase 3 study.
8. Okano K,Maeba T,Ishimura K,et al: Hepatic resection for metastatic tumors from gastric cancer. Ann Surg 235(1): 86-91, 2002
9. Yamamoto J, Shimada K, Kosuge T, et al: Factors in-fluencing survival of patients undergoing hepatectomy for colorectal metastases. Br J Surg 86: 332-337, 1999 10. Wanebo HJ, Berz D : The neoadjuvant therapy of
color-ectal hepatic metastases and the role of biologic sensitiz-ing and resistance factors. J Surg Oncol 102(8): 891-897, 2010
A Case of Advanced Gastric Cancer
with Liver M etastases Resected Successfully
after S-1+CDDP Combination Chemotherapy
Masaaki Arai,
Ryo Ochiai,
Keitaro Hirai,
Yutaka Sunose,
Hideaki Yokoo
and Izumi Takeyoshi
1 Department of Surgery, Ishii Hospital, 1152 Hashie-cho, Isesaki, Gunma 372-0001, Japan 2 Department of Thoracic and Visceral Organ Surgery, Gunma University Graduate School
of Medicine, 3-39-22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, Japan
3 Department of Human Pathology,Gunma University Graduate School of Medicine,3-39-22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, Japan
A 63-year-old male presented with abdominal discomfort. Gastrointestinal endoscopy showed advanced gastric cancer type 2, which was diagnosed as moderate to poorly differentiated adenocar-cinoma. Computed tomography(CT) showed a solitary liver metastasis about 5cm in diameter in the left lobe. The patient was treated with oral S-1, 80mg/m /d for 21 d, followed by a 14-d rest, and cisplatin (CDDP),60mg/m ,on day 8. The dose of S-1 and CDDP was reduced to 80% after one course because of side effects. After seven courses of treatment, CT and magnetic resonance imaging showed reduction of the liver metastasis to 2 cm in diameter in the lateral segment. A distal gastrectomy,lymph node dissection,and hepatic lateral segment resection were performed. Five months postoperatively,the patient is doing well and shows no sign of recurrence.(Kitakanto Med J 2011;61:519∼524)