Title
黒毛和種牛の遺伝性腎尿細管形成不全症における
Paracellin‐1の解析( はしがき )
Author(s)
鬼頭, 克也
Report No.
平成13年度-平成14年度年度科学研究費補助金 (基盤研究
(C)(2) 課題番号13660316) 研究成果報告書
Issue Date
2002
Type
研究報告書
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/617
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。平成13年度∼平成14年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2)) 研究成果報告書 研究課題:黒毛和種牛の遺伝性腎尿細管形成不全症における Paracellin-1の解析 課題番号:13660316 は しが き 1990年頃から岐阜県を中心に,腎不全,過長蹄,発育不良を主徴とする疾患 が黒毛和種牛に多発した。われわれはこの疾患について,臨床学的,疫学的お
よび病理学的に検討し,常染色体劣性の遺伝性疾患セあることを明らかにした。
また,痛理組織学的には腎臓における尿細管上皮細胞の配列異常と尿細管の形 成不全が特徴であるため,尿細管形成不全症(Renaltubular dysplasia,RTD)と名付けた。さらに,RTDの原因遺伝子がウシ第一染色体中央部付近に存在す
ること,この遺伝子がヒトで報告されたクローディンファミリーの一つである pa招Ce〟血-ノ遺伝子と一致しており,発症牛ではp∂乃CeJJ加」遺伝子のexon lからexson4が欠失していることを明らかにした。 paracellIn-1遺伝子にコードされるparacellin-1は,L ヒトでは腎臓にのみ 発現しており,尿細管上皮細胞のタイトジャンクションを構築するタンパク質 の一つである。機能的にはマグネシウム 佃g)とカルシウム(Ca)の paracellularreabsorptionに関与することが知られている。このためヒトの
ク∂∫甘CeJJ元一J遺伝子の異常では,尿細管におけるMgとCaの再吸収障害によっ て,低Mg血症と高Ca尿症ならびに腎臓石灰化を主徴としたFamilialhypomagnesaemia with hypercalciuria and nephrocalcinosi_Sの発症が認めら
れている。しかし,ウシではparacellin-1の体内分布はもとより,paraCellin -1の欠損と腎臓におけるMgとCaの再吸収能との関係については明らかではな い。そこで,本研究では,はじめにウシparacellin-1mRNAの発現分布につい て検討し,つぎにRTl)牛を対象に腎臓におけるMgとCaの排泄動態について検討 した。
まず,p∂乃Ceノブ血」遺伝子を正常に保有する異毛和種牛2頭とp∂招Ce〟由一J
遺伝子が欠失したRTD牛1頭を対象に,大脳,心臓,肺,肝臓,膵臓,第Ⅰ胃, 第Ⅱ胃,第Ⅲ胃,第Ⅳ胃,空腸,結腸,牌臓,腎臓,皮膚(頚部),骨格筋(大 腿部)および後肢の蹄(起始部)の16組織におけるparacellin-1mRNM)発現 について検討した。方法は各組織からRNAを抽出し,RT-PCR法とnested-PCR法 によりparacellin-1m即兢を増幅し,アガロースゲル電気泳動法によって確認 した。その結果,paraCellin-1mRNAtま正常牛の腎臓においてのみ発現が認め られ,RTD牛では腎臓を含むすべての組織に発現が認められなかった。したが って,RTI)牛の腎臓ではparacellin-1が欠損しており,これが尿細管の形成不 全に関与している可能性が考えられた。 つぎに,RTD牛の腎臓におけるMgとCaの排泄動態を知るために,RTl)牛33頭, キャリア牛17頭,正常牛27頭を対象に,血中MgとCa濃度,尿素窒素濃度,クレ アチニン濃度,尿中Mg,Ca濃度を測定した。その結果,RTD牛には低Mg血症は 認められず,尿中Ca濃度も高値ではなかった。しかし,RTD牛では腎臓におけ るMgの再吸収率は低く,paraCellin-1の欠損が尿細管におけるMgの再吸収に影 響を及ぼしている可能性が示唆された。一方,Caの尿中濃度と再吸収はRTD牛 と正常牛で差が認められず,paraCellin-1の欠損はCaの尿への排泄および再吸 収とは無関係であることが示唆された。このようにウシとヒトではpa和ぐeJノ元 一J遺伝子異常の表現型が異なっており,今後,p∂乃Ce〟血一ノ遺伝子の機能解 析を進めていくことが必要であると考えられた。
以上,本研究により,RTD牛では腎臓にparacellin-1mRNAの発現が圃められ
ずparacellin-1が欠損すること,これが尿細管の形成不全と機能異常に関与している可琴性が考えられた。しかし,paraCellin-1の腎臓における局在性や
paraCellin-1の欠損と尿細管の形成不全との関係あるいはRTD牛で見られる過 長蹄や発育不良など他の病態との関連については,引き続き検討することが必要である。RTDは現在もなお発生しており,特に肉質の良い血統に多くの発生
が見られるなどその経済的損失は大きい。このため,RTDの発症機序の解明は
獣医学畜産学において重要な課題である。この報告書が今後の研究の一助とな れば幸である。なお,本研究を計画するまでのわれわれの成果を公表した論文 を末尾に付した。 本研究を遂行するにあたり,材料の採取に対して農家,共済組合,市町村など多数の関係者にご協力を頂いた。また,講座のボスドク研究員の大場恵典博 士ならびに学部学生諸君,とくに奥田秀子嬢,中村裕幸君には研究の実施にあ たり多大なご協力を頂いた。心から謝意を申し上げたい。最後に科学研究費の 補助を得て本研究が行われ,この報告書をまとめることができたことに対し, 文部科学者,日本学術振興会はじめ関係各位に深く感謝申し上げたい。