簡約型等質空間への固有不連続な作用
東大 理学部 小林 俊行 (Toshiyuki Kobayashi) 【序】 この報告集では、必ずしもRiemannian
でない簡約型等質空間 $G/H$ に格子が存在する かという問題を取り扱う。 $H$ がコンパクトの時にはBorel
の有名な定理によって $G/H$ にー様格子及び$-$様でない格子が常に存在することが保証されている。$-$方、 $H$ がコンパ クトでないときの難しさは $G$ の離散部分群 $\Gamma$ が必ずしも $G/H$ に固有不連続に作用し ない事にある。 特に、 $\Gamma\backslash G/H$ はハウスドルフ空間とは限らず、 その空間上の素直な解 析を妨げていると考えられる。 $H$がコンパクトでない時にどの程度大きな離散部分群が、 $G/H$ に固有不連続に作用できるかは $G$ 及び $H$ の条件に著しく依存している。 この事 は、今まで主にランク 1の半単純対称空間である $SO$ ( $p+1$ , q) $/SO$ ( $p,$ q) に 対していくつかの研究がなされていた ([2], [9]. [5], [8]) 。 ここではー般の簡約型等質空間に対して、離散部分群に関する条件を$-$旦連続な群に関する条件に置き換える方法によってこの問題を取り扱う。
ある意味で最も極端な場合が完全に 分かることになる。 【準備】 定義 位相群 $L$ が、位相空間X
に作用しているとき、 この作用が、 の任意のコンパクト集合$S$ に対して $\{g\hat{\xi}L:gS\cap S\neq$ $\emptyset\}$ がコンパクトのとき;b) 固有不連続 ($p_{\Upsilon 0}$perly discontinuous) であるとは、 作用が固有かつ $L$ が離散群のと
き;
c) 自由 $(free)$ であるとは、X の任意の点の固定部分群が単位元のみであるときをいう。
ユニタリ表現論セミナ−報告集 VIII, 1988 pp.17-22
固有な作用は、 ー般に不規則な振舞いをする非コンパクト $Lie$群の作用がコンパクト $L$ $ie$ 群作用のように良い性質を持つための条件として
Palais
が組織的な研究をした ([6])。 固有不連続な作用については、 次の事実が理解を助ける:
X
が局所コンパクトハウスド ルフ空間である時、 離散群 $\Gamma$ のX
への作用が固有不連続ならば、 $\Gamma\backslash X$ もまた商位相 $\backslash$ で局所コンバクトハウスドルフ空間となる。X
が多様体である時、離散群 $\Gamma$ のX
への 作用が固有不連続であれば $\Gamma\backslash X$ は佐武 ([7]) の意味でV– 多様体であり、さらに作用が 自由でもあれば $\Gamma\backslash X$ は多様体となる。 なお、作用が固有不連続な時にはその作用が自 由であるかどうかはそれほど深刻な問題ではない。 実際、 多くの場合、適当な指数有限の 部分群の作用に置き換えることによって自由な作用を得ることが出来る。定義 $Lie$群 $G$ が簡約線型 $Lie$ 群 (real
reduct
ive
linear
group) であるとは、 $G$が連結な複素簡約$Lie$ 群の実形であるときをいう。 ( $G$ 自身は連結でなくともよい)
。
$G$の閉部分群 $H$ が $G$ において簡約 (reduct$ive$
in
G) であるとは $H$ の連結成分が高 々有限個であり $H$ の $Lie$環の $G$ の$Lie$ 環への随伴表現が完全可約である時をいう。 またこのとき $G/H$ を簡約型等質空間 ($a$ homogeneous spaceof
reductive
type) と呼ぶ。簡約線型$Lie$ 群 $G$ に対してその
Cartan
involut
ion
の $-1$ 固有空間 $P$ の極大可換部分空間
a
あるいはその $G$ による共役を極大分裂可換部分空間 (maximally $spl$it abe
l-ian
subspace) とよぶ。R-rank
$G$:
$=dim$a
, $d(G)$ $:=diIIIp$ とおく。簡約型等質空間 $G/H$ がここでの舞台である。以後特に断わらなければ $G,$ $H$ は上の定
義の条件を満足しているものとする。
定義 $G$ の離散部分群 $\Gamma$ が、
$G/H$ のー様格子 (uniform lattice) であるとは、 $\Gamma\backslash G/H$ がコンパクト多様体である
時;
$G/H$ の格子 (latt ice) であるとは、 $\Gamma\backslash G/H$ が体積有限な多様体である時 ;
$G/H$ のー様でない格子 (non-uniform lattice) であるとは、 $\Gamma\backslash G/H$ が体積有限であ るがコンパクトでない多様体である時をいう。
これらの用語は $H$ がコンパクトの時は通常のものとー致していることに注意しよう。
次の事は定義から直ちに確かめられる
:
観察 $\Gamma$ が $G$の$-$様格子であり、$G$ が局所コンパクトな空間
X
に作用しているとする。1) $\Gamma\backslash X$ がコンパクト $\simeq$ $G\backslash X$ がコンパクト。
2) $\Gamma$の
X
への作用が固有不連続 $\simeq$ $G$のX
への作用が固有。 そこで、我々は次の方針をとる。 方針:
$G/H$ に固有不連続に作用する離散部分群 $\Gamma$ を求める代わりに、$G/H$ に固有 に作用するできるだけ大きい簡約部分$Lie$群 $L$ を探し、 $L$ の離散部分群を $G/H$ に作 用させる。 この方法によって全ての離散部分群の $G/H$ への作用が捉えられるわけではないが、ある 意味で最も極端な場合を扱っていると考えられる。 なお、$H$ がコンパクトなら $L$ として $G$ 自身を取れることに注意しよう。 上の方針に従って、我々は $L,$ $H$ が簡約線型$Lie$群 $G$ における簡約部分群である時 1) いっ $L$ が $G/H$ に固有に作用するか?
2) いつ 両側剰余空間 $L\backslash G/H$ がコンパクトになるか? を明確な形で知りたい。 これについて以下の回答が得られる。 【主な結果】 定理1 次の3 っの条件は同値である。 a) $L$ は $G/H$ に固有に作用する。 b) $H$ は $G/L$ に固有に作用する。 c) $W$.
a
$(L)\cap$ a(H) $=$ $\{0\}$ 。 ここで $W$ は $G$ の極大可換分裂空間a
に対する $G$ のルート系のワイル群。 a(L), a(H) はそれぞれ $L,$ $H$ の極大分裂可換部分空間を $G$ の各元の共役によってa
に含 まれるように移したもの。 c) の条件はこれらの選び方に関する不定性に依存しない。定理2 定理1 の同値な 3 条件が成り立っているとき、次の2条件は同値である。
a) $L\backslash G/H$ が商位相でコンパクト。
b)
$d(L)+d(H)=d(G)$
。定理
1 の系として次の事が分かる。
系1 $G$ の簡約部分群 $L$ が簡約型等質空間 $G/H$ に固有に作用するならば、
$R$
-rank
$L$ $+$ $R$-rank
$H$ $\leq$ $R^{1}$-rank
$G$$d(L)+d(H)$
$\leqq$ $d(G)$。
系2 $r$ $:=$
R-rank
$G-$ $\mathbb{R}$-rank
$H$ $>0$ の時 $Z\oplus Z\oplus\cdot$ $\oplus Z$ ($r$ 個の直和) に同型な $G$ の離散部分群が $G/H$ に自由かっ固有に作用する。
系3 (Calab$i$
-Markus
現象の特徴づけ) 次の3 つの条件は同値である。a) $G/H$ に固有に作用しうる $G$ の離散部分群は有限群のみである。
b) $G/H$ に自由かつ固有に作用しうる $G$ の離散部分群は有限群のみである。
c)
R-rank
$G=$R-rank
$H$。定理2の証明の系として、
系4 $H$ が $G$ の極大階数簡約部分群である時 $G/H$ がー様格子を持っためには、
rank
$(H\cap K)$ $=$rank
$K$なるを要する。 ここで $K$ は $H$ を不変にする
Cartan
involution
に対応する $G$ の極大 コンパクト部分群。 系5 $G/H$ を既約半単純対称空間とする。この時、次の3条件は同値:
a) $G$ の任意の算術的離散部分群が $G/H$ に固有不連続に作用する。 b) $G$ のある算術的離散部分群が $G/H$ に固有不連続に作用する。 c) $G/H$ は、$Riem$
a
$nn$対称空間である。
$-20-$
系3及び系4の典型的な例を挙げよう。
例
$G/H=GL$
$(n, \mathbb{C})/GL$ ( $n$, R) に固有不連続に作用する離散部分群は有限群に限る。
$G/H=Sp$
$(2 n, \mathbb{P}_{\vee})$ $/Sp(n, \mathbb{C})$ には、 $Z\oplus Z\oplus\cdot$. .
$\oplus Z$ ( $n$個の直和) に同 型な $G$ の離散部分群が自由かっ固有に作用するが、 -様格子は存在しない。さらに定理1 と定理 2 の各判定条件を用いて、
系6 次の簡約型等質空間 $G/H$ にはそれぞれ–様格子及び–様でない格子が存在する。
$SO(2,2n)/U$
( $1$,
n) ;$SO(2, 2n)/S0$
( $1$,
2
n) ;$SO(4_{\text{、}}4n)/Sp$ ( $1$
.
n) ;$SO(4, 4n)/S0$
( $3$ ,4
n) ;$U$ (2, 2n) $/Sp$ ( $1$
,
n);
$U(2, 2n)/U(1)xU(1,2n)\text{
。
}$
【証明について】
定理1 は $L$ と $H$ が共に可換群である時に帰着できる。 この場合には作用が固有である
(でない) 条件が$Lie$環の各ルート空間への作用を用いて捉えられるが、 詳細は技術的に
なるので省く。
系3 (Calabi-Markus 現象の特徴づけ) で c) $\Rightarrow a$ ) $\Rightarrow b$ ) の証明は易しく、b) $\Rightarrow c$ )
は系2より直ちに従う。 定理2は再び$Lie$ 群の問題をそれに含まれる離散群の問題に直し、次の補題を用いるこ とによって得られる。 補題 $G$ の離散部分群 $\Gamma$ が $G/H$ に固有不連続に作用しているとする。 1) $\Gamma\backslash G/H$ がコンパクトならば、 $vcd(\Gamma)=$
$d(G)-d(H)$
2) $\Gamma\backslash G/H$ がコンパクトでないならは $vcd(\Gamma)\leqq$$d(G)-d(H)$
または は有限生成ではない。ここで $vcd(\Gamma)$ は $\Gamma$ に指数有限の捻れのない (torsion $free$) 部分群 $\Gamma$ ’ が存在 するとき、整数 $Z$ の $\Gamma$ ’ の自明な作用による群環 $Z$ $(\Gamma$ ’ $)$
-
加群としての射影的次元 として定義される。 これは、 $\Gamma$’ の取り方に依存しない。 この補題は、 $\Gamma$ を $\Gamma$に含まれる捻れのない指数有限部分群
$\Gamma$ ’ に置き換え、正規被覆$G/Harrow$ $\Gamma\backslash G/H$ に対応する Serre
のスペクトル系列を計算する事によって位相幾何
の問題に帰着する。 系4 は、$G/H$ とホモトピー同値である $K/H\cap K$ 及び $G/H$ の複素化のコンパクト実形の各オイラー指標を用いて
$\Gamma\backslash G/H$ のオイラー指標を別々に表示し、それを比較す ることによって得られる。 前者はSerre
のスペクトル系列に Euler-Poincari3原理を用いて群のコホモロジーを援用して表され、
後者は$-$般化されたHirzebruch
の比例性原理 ([4]) によって表される。 系5は、算術的離散群の $vcd$ に関するBorel-Serre
の定理 ([1]) と上の補題から不等式
:
R-rank
$G\leqq$R-rank
$H+$ $d(H)$を満たす半単純空間を探すことに帰着する
(対称空間の分類を使う) 。
REFERENCES
[1] A.Borel and $J.p$.Serre, $Co\iota ers$ and $a’\dot{\backslash }thmetic$ groups, Comment. Math. Helv.
48 (1973), 436-491.
[2] E.Calabi and L.Markus, Relativistic space forvns, Ann. of Math. 75 (1962),
$63arrow 76$
.
[3] T.Kobayashi, Proper action on a homogeneous space
of
reductive type,preprint(1988).
[4] T.Kobayashi and K.Ono, Note on $Hirzebfi\iota ch’s$ proportionality $p-nciple$,
preprint(1988).
[5] $R.S$.Kulkarni, Proper actions and pseudo-Riemannian space $fo\tau ms$, Advances
in Math. 40 (1981), 10-51.
[6] $R.S$.Palais , On the existence
of
slicesfor
actionsof
non-compact Lie groups,Ann. of Math. 73 (1961), 295-323.
[7] I.Satake, On a generalization
of
the notionof
manifold, Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A. 42 (1956), 359-363.
[8] $N.R$.Wallach, Two problems in the $th\epsilon 0\tau y$
of
automorphic forms, in “OpenProblems in Representation Theory.” (Proceedings held at Katata, 1986.) [9] $J.A$.Wolf, The