要旨 本稿の目的は,不確実性下のキャリア選択行動の質的差異,および,その差異を生み出す曖昧性要因に ついて,新卒一括採用制度が存在する日本と韓国で国際比較することにある。日本の若者に多く見られる 「とりあえず• • • • •正社員になりたい」という曖昧性への対処に関する姿勢を例にとり,共通要素を持つ両国を 対比することで,曖昧性がもたらす多様な影響を制度面以外の観点から模索した。日韓両国の独自調査で 得られた「とりあえず志向」に関する自由記述回答をテキストマイニング手法により分析した結果,肯定 的評価が圧倒的であるという共通点,ならびに,韓国の方が「キャリア観」「曖昧性耐性」の 2 次元で明 確に捉えられる点を確認した。逆に,曖昧性の対処法の相違点を踏まえれば,相手国から得られる教訓を キャリア教育や進路指導等の教育実践場面へ還元可能であることを提案した。 キーワード:キャリア教育,就業プロセス,多義的曖昧性,テキストマイニング
Ⅰ.はじめに
─研究の目的と課題
日本的雇用慣行の変容による職業キャリアにおける 曖昧さの高まりへの抵抗感が 20 ~ 30 代の若者で高 まっている(労働政策研究・研修機構 , 2016)。確か に,我々の身の回りには多くの曖昧事象が存在する。 しかし,長い人生において曖昧さを完全に払拭するこ とは困難であろう。 曖昧さに対する個人の反応傾向に関する従来の研究 は,人が曖昧な状況に置かれたとき,それをどれだけ 許容できるか,すなわち,曖昧さに対する否定的な態 度 と し て 論 じ ら れ る こ と が 多 か っ た(Fren-kel-Brunswik, 1949; Budner,1962)。 一 方, 西 村 (2007)や Xu et al.(2015)および Xu(2017)のよう に,曖昧な刺激の処理過程において生じる認知的・情 緒的反応パターンから,不確実性を好機と肯定的な態 度として着目する研究も存在する。これらに近い心理 学の概念が多義的曖昧性である1)。 キャリア選択における曖昧性の意義を扱った研究で は,モチベーション・自己効力感の介在効果を強調す る Endres,Chowdhury & Milner(2009) や Xu &Tracey(2015)がある。Glenn & Robert(2018)は, 社会に対する個人の認知が行動や感情に影響を与える ことから,自己効力感を高めるような体験学習やキャ リア探索が意思決定において鍵になると指摘する。 そこで,本稿の目的は,不確実性下のキャリア選択 行動の質的差異,およびその差異を生み出す曖昧性要 因について,新卒一括採用制度が存在する日本と韓国 で国際比較することである。日本と韓国では,単線型 学校制度(6-3-3-4 制),学歴社会,晩婚化,性別役 割分業意識等,共通点は少なくない。労働市場におい ては,女性労働力率の低さや非正規雇用の拡大が社会 問題化している。韓国における進学熱のすさまじさは 周知の事実であるが,平田(2015)の調査によれば学 歴効果や男女差の効果は実は日本よりも弱い。すなわ ち,男女とも学歴に関係なく非正規の仕事に就かざる を得ないリスクが高く,二極化が進行する一因とされ ている。とりわけ,日本の若者に多く見られる「とり あえず正社員(定職)に就きたい」という曖昧性の対 処行動について,共通項を持つ 2 国間を対比する作業 は,曖昧性がもたらす多様な影響を制度面以外の観点
Article
The Journal ofEconomic Education No.38, September, 2019
論文
就業プロセス・キャリア意識の
違いから何を学ぶか
―日本・韓国の若手正社員を対象にした
自由記述分析─
What can differences in accession processes and career consciousness teach us?: Analyzing young full-time Japanese and Korean employee responses to open-ended questions
から模索することに繋がると考えた。 本稿の構成は以下の通りである。次節では,調査概 要と分析対象を説明する。基本属性の比較検討をし, 事実認識を行う。とりわけ,新卒一括採用制度下にお ける職業・キャリア選択の過程や背景要因に注目する。 第 3 節では,自由記述回答をテキストマイニング手法 により分析する。自由記述の文字数の検討(量的アプ ローチ)を行った後に,書かれた単語の内容に着目し た検討(質的アプローチ)を行う。そして,制度の背 景にある心理的・社会的要因を考察し,多義的曖昧性 の対処行動について日韓の相違を比較検討する。その 上で,最後の第 4 節では,本研究で得られた知見や他 国の状況を踏まえて,これからのわが国のキャリア教 育にどう生かすべきかという教育指導上の課題につい て考察することを目的とする。
Ⅱ.調査概要と分析対象
(1)調査概要 本研究で使用するデータは 2 つのアンケート調査 「若手社員の就業に関する心理行動調査」(2017)およ び「젊은 사원의 취직에 관한 심리행동 조사」(2018) により収集した。前者(日本調査)は,民間企業に勤 務する入社後 10 ~ 15 年までの 20 代・30 代の男女正 社員を対象に Web 調査法と郵送法を併用して行った 2)。有効回答は 2,216 件(Web 調査法:2000, 郵送法: 216)である。 後者(韓国調査)については,Web 調査法のみに より 20 代・30 代の男女正社員を対象に実施した(有 効回答数は 543)。両国の調査の質問項目は同一であ り,現在の職場における就業意識を問う質問が大問 4 問,および,「就職活動を開始した時期」「最終進路決 定時期」「新卒時における納得度」等の最初に行った 就職活動(新卒時)の進路選択意識を問う質問(5 問)を含む計 25 問を尋ねた。さらに,「とりあえず志 向3)」に関する自由記述形式の設問を 1 問設けた。回 答者の基本属性は表 1 の通りである。 (2)分析対象 就業経験の少ない若年層で共通の社会問題を抱える 日韓両国であるが,国のシステムといった社会経済的 要因,文化的差異,国民性(自己責任感),徴兵制の 有無等の相違点もある。このことから,職業選択への アプローチも,個人の現状認識や将来不安に対する捉 え方の違いにより,質的に異なることが考えられる。 実際,本調査の「Q18. 内定した会社(初職)に対 する入社前の気持ち(6 段階尺度)」の回答を用いた 分散分析より,日本と韓国の 20 ~ 30 歳代正社員の新 規学卒時の就業意識に関する質的差異を確認した(表 2)。「b. とりあえず安心できるのでこの会社で働く」 (F 値:17.5)と「c. とりあえず次のステップになるの でこの会社で働く」(F値:4.38)のみ有意差が認めら れた。 基本属性 N=2216日本 N=543韓国 性 別 男性女性 1120(50.5)1096(49.5) 266(49.0)277(51.0) 平均年齢 28.7 30.8 勤続年数平均 2.95 3.32 学 歴 高校卒 118(5.3) 52(9.6) 短大・高専卒 233(10.5) 84(15.5) 大学卒 1578(71.2) 364(67.0) 大学院卒 286(5.7) 84(15.5) 転 職 経 験 0 回 1378(62.2) 154(28.4) 1 回 469(21.1) 184(33.9) 2 回 253(11.4) 93(17.1) 3 回 76(3.4) 50(9.2) 4 回以上 42(1.9) 62(11.4) 業 種 製造業 504(22.7) 95(17.5) 建設業 129(5.8) 21(3.9) 情報通信 93(4.2) 19(3.5) 運輸・通信業 85(3.8) 14(2.6) 卸・小売・飲食 247(11.2) 32(6.1) 金融・保険業 192(8.7) 21(3.9) 不動産 207(9.3) 3(0.6) 教育 64(2.9) 60(11.0) 医療・福祉 162(7.3) 80(14.7) サービス業 242(10.9) 83(15.3) IT 関連産業 179(8.1) 42(7.7) その他 114(5.1) 73(13.4) 表 1 回答者の基本属性 丸括弧内は比率。 項目 N=2216日本 N=543韓国 a. この会社で定年まで働き続け たい (15.1)355 (16.9)92 b. とりあえず安心できるのでこ の会社で働く ** (35.9)799 (30.6)166 c. とりあえず次のステップにな るのでこの会社で働く * (17.5)388 (24.5)133 d. 状況次第で別の会社に転職す る 428(19.3) 109(20.1) e. その他 41(1.8) 6(1.1) f. わからない 222(10) 37(6.8) 表 2 内定企業に対する入社前の意識(新卒時) 注:**p < .01 *p < .05 丸括弧内は比率。当該表より,両国とも「b」の割合が 30 ~ 35%と最 も高く,「c」と合わせるとどちらも過半数が「とりあ えず」という曖昧心理を抱いていたことが分かる。す なわち,就職時の曖昧な不安要因を短期的に対処しよ うとするだけでなく,中長期的な視点から自己のキャ リア形成と向き合おうとする姿勢の一端を垣間見るこ とができる4)。 そこで,次章の分析では,なぜそうした就業場面に おける曖昧さへの対処行動に差異が生じるかに着目す る。具体的には,「とりあえず」という考え方に対す る自由記述回答データを比較する。ここでの分析には, テキスト型データを統計的に分析するソフトウェアで ある KH Coder を採用した(樋口,2014)5)。
Ⅲ.自由記述回答項目の分析
(1)分析手順 得られた自由記述回答データは,日本が 495 人 (文:2,499,行数 495),韓国が 543 人(文 701,行数 543)である。本分析の流れは,以下の通りである。 まず,自由記述回答データのExcelファイルをCSV形 式のテキストファイルに変換する。次に,機種依存文 字等を削除したテキストデータを KH Coder を用いて 前処理の実行を行う。その際,あらかじめコーディン グルール編集6)を行った。 (2)頻出語の分析 表 3・4 は,全文単位での「とりあえず(일단은)」 に関する自由記述に使用された名詞等に属する変換後 主要語の使用頻度が高かった上位 30 位を表示してい る。日本では最も高い頻度を示したものが「言葉」 「使う」であり,言語としての使用という認識が強い ことが分かる。一方,韓国では「就職」といった具体 的行為を伴う目的対象物として捉えられており,大き な違いが認められる。ただし,「とりあえず」の是非 については,両国共に「良い」が「悪い」を大きく上 回っている点で共通している。 加えて,表 5 は日本データを用いて,コーディング ルールにより「とりあえず」という姿勢に対する意見 別(賛成・中間・反対の 3 群)にクロス集計した結果 である。「行動力」を重視する賛成群,「その場しの ぎ」「計画性」を推す反対群に明確に区分できた。ま た,「大学生活」は中間群が最も顕著であり,就職先 や進路選び等の生活場面ごとに賛否両論あることが示 されている。 下記は,典型的な「良い」「悪い」の具体的記述例 を示す。(数値は対象 No を表す。以下同様) 〈「良い」の例示〉 日本 25 「何事にも挑戦していくときの“とりあえず” は積極的に何かをしていくので私は良いと考 える」 日本 189 「とても便利で使いやすい言葉ですが,言っ てしまうと必ずやることになる言葉だと思い ます。つまり,言質に近いかもしれません。 ですので,“とりあえず”を使い,言ったこ とを必ず実現していくなら良いと思います」 日本 413 「選択肢を絞るためにあるものだと思う。道 筋を明確にするために必要なもののように感 じる」 韓国 45 「確実なことはないので目の前の選択をするこ とも大丈夫だ」 韓国 47 「将来が不確かな時は,とりあえずという態度 は良いと思う。今の時代に必ず一つのことを 持続して行くよりはいろいろの仕事が融合さ れることによって,新しいことが派生して生 じる場合が多い。つまり,人生やキャリアの ために何でもしようとするエネルギーを持つ ならば良いと思う」 〈「悪い」の例示〉 日本 280「後先考えずに行動しているように思えてし まうため悪い意味として受け取ってしまうこ とが多い」 日本 322「とりあえず志向は場合によっては悪い結果 や失敗を生み出すこともある」 韓国 176「初めての一度はそのような姿勢が容認され るといっても,ずっとそのような姿勢を維持 するのは良くない」 韓国 376「無条件的な”とりあえず”という考えは, 絶対やってはいけない。そのような考えを 持っていると,後でいつかはそのような状況 に安住するだろうし,欲がなくなる。」 韓国 581「“とりあえず”という姿勢は良くない。ひた すら試してから選択することが重要な方法 だ」 (3)特徴語の検討 図 1・2 の多次元尺度法の結果を見ても,出現率の高かった「良い」が確かに原点(0,0)付近に付置さ れており,日本・韓国ともにポジティブな場面での使 用の多さがうかがえる。 次にポジティブな「とりあえず(志向)」の使用法 について,両国の間で違いがあるのかを分析する。 図 1 の次元 1 をみると,おおよそ値が小さいとぼん やりとした曖昧な群(左側の実線楕円),値が高いと 明確な目的意識に関連するもの(就職・目標・勉強) が右側に付置されている(実線の楕円)。また,図 2 の実線の楕円部分からは,「経験」「キャリア」「会社」 が右側,「人生」「生きる」は左側にくることから,次 元 1 は「キャリア観」に対応すると考えられる。すな わち,左方向ほどライフ,右方向ほどワーク(職業 キャリア)というキャリア観を強める。加えて,ライ フとワークで左右両サイドに鮮明に分割されるのは図 2 であることから,「とりあえず」という志向の使い 分けは韓国人の方が明確であり,日本の場合,多義的 な使用が多くなると解釈できる7)。このことは,図 1・2 において,各次元の軸の目盛の単位が半分の韓 国の方が,語の緊密さ(共起性)が強いことからも裏 付けられる。 次元 2 については,おおよそ値が低いと不安,値が 高いと安心感が示されていることから「曖昧性耐性」 を示していると解釈できる(図 1・2 の点線の楕円)。 こちらも図 2 の方が明確に区分けされている。表 4 よ り,頻度 4 位が「不安」である韓国の若者ほど,曖昧 さに対する耐性の個人差が顕著であることを表してい る。 先行きの不透明感と安定志向の高まりには一定の相 関がある(Derr, 1986)。実際,安定志向が強いとさ れる日本の若者の間では「安定」の出現率が 95 位 (出現回数 21),韓国においても 39 位(出現回数 14) であり,この言葉は上位に位置していなかった。すな わち,安定を求める人が「とりあえず」の姿勢で行動 するばかりではないという曖昧性の複雑さがうかがえ る。 (4)共起出現頻度の検討 使用パターンの傾向や関連語を見出すために,出現 した語と語の関係(共起)を明らかにする必要がある。 ここでは,「とりあえず」に関する自由記述回答デー タを用いて,共起出現頻度の違いより,日韓両国の比 較を行う。 共起ネットワーク分析とは,対象文章における諸々 の単語と単語の間の共起の強さを図示し,視覚的に分 析していく方法である。図 3・4 は,共起の強い語り (文書)のペアから順に60組を線で結んだものを示す8)。 また,共起の強さには Jaccard 係数を用いており,太 線 - 実線 - 点線の順で関係性の強さを表している。 ここでは,図1・2において2つの次元で捉えられた 「キャリア観(次元 1)」「曖昧性耐性(次元 2)」に注 目する。 まず,図 3 の日本では,「自分」「良い」を中心に 「考え」「志向」「行動」と点線で複雑に繋がっている。 次元の高さ(つながりの多さ)から,複雑な思考の中 にも自己キャリアに対する前向きな意識を抽出するこ とができる。一方,韓国では,「キャリア」を中心に 「積む」「就職」「会社」「離職」と繋がっており,具体 的なライフイベントとの結びつきの強さが確認できる (図 4)。 すなわち,“とりあえず”という曖昧意識とキャリ ア観の関係性について,キャリアを形成していくため の前向きな方法論と捉える前者(日本)と“とりあえ ず〇〇”という形で目的を事物化する後者(韓国)と いう明らかな相違が認められた。ただし,ここで留意 すべきは,いとう(2013)が指摘するように,具体物 としての現象(=単語)がないからといって,本質が 存在しないということではないという点である9)。 次に,曖昧性耐性について考察する。図 3・4 で共 通する共起関係の状況は見当たらない。そこで,逆に, 共に出現している語から共起の仕方の違いを探ってみ る。例えば,「持つ」に注目すると,日本では「目標」 と太線で繋がっており,“とりあえず”の姿勢で目標 を持つきっかけにしている(図 3 の点線枠)。ところ が,図 4 では「持つ」は「不安」「心」「考え」が太線 で繋がっており,かつ,「考え」-「始める」-「社会」 の強固な結びつきより,韓国の若者は国内就労事情を 不安視する中で,行動ベースのきっかけにしている可 能性が高い。 すなわち,“とりあえず”という曖昧な姿勢を中長 期的視点からの目標づくりの契機にしている日本と比 べて,韓国は曖昧さに対する備えが厳格であり,目の 前の目標・目的に対して即応的に対処しようとする過 酷さを感じ取ることができる。その意味において,韓 国の若者は日本の若者よりも曖昧性に対して短期的な 対応を行う傾向が強いと解釈することができる10)。 加えて,もうひとつの共通出現語は「自分」である。 こちらは,日本の方が多くの語が密集しており中心性 (次数)が圧倒的に高い(図 3)。しかし,韓国では 「自分」と「キャリア」「合う」が直接繋がっているの
表 3 頻出語リスト:上位 30 語(日本) 抽出語 頻度 抽出語 頻度 抽出語 頻度 1 言葉 586 11 多い 111 21 便利 68 2 使う 509 12 就職 109 22 行く 68 3 自分 504 13 今 107 23 失敗 60 4 志向 279 14 物事 94 24 必要 59 5 良い 254 15 悪い 89 25 始める 55 6 行動 229 16 持つ 86 26 イメージ 54 7 人 208 17 場合 82 27 結果 54 8 意味 147 18 目標 79 28 出る 54 9 言う 146 19 大学 78 29 生活 50 10 考え 122 20 決める 73 30 選択 48 注:総抽出語数 21,777, 異なり語数 2,518 抽出語 頻度 抽出語 頻度 抽出語 頻度 1 就職 89 11 考え 32 21 生きる 24 2 良い 83 12 悪い 31 22 離職 23 3 姿勢 47 13 今 31 23 心 22 4 不安 42 14 現実 30 24 人生 22 5 会社 41 15 キャリア 27 25 積む 22 6 職場 41 16 確実 26 26 合う 21 7 未来 40 17 気持ち 26 27 自分 21 8 重要 39 18 必要 26 28 経験 19 9 状況 35 19 持つ 24 29 他 19 10 現在 32 20 一旦 22 30 準備 17 表 4 頻出語リスト:上位 30 語(韓国) 注:総抽出語数 10,530, 異なり語数 2,213 図 1 全文単位でマイニングした多義的曖昧語の関係 注:図中の楕円(実線・点線)は各次元の 1 目盛(1 単位)の範囲内に収ま るものを筆者がグルーピングした。 図 2 全文単位でマイニングした多義的曖昧語の関係 注:図中の楕円(実線・点線)は各次元の 1 目盛(0.5)の範囲内に収まる ものを筆者がグルーピングした。
みである(図 4)。前項においても言及したが,こう した“自分事”として行動指針と捉える日本の傾向は, 「とりあえず」という考え方がキャリア意識を醸成す る方法として,日本において馴染みやすいことを端的 に示している。 Ⅳ.おわりに-今後のキャリア教育上の課題 本研究では,新卒一括採用制度が残る日本と韓国の 若手正社員の語り(自由記述)を対象に,テキストマ イニング手法を用いて職業・キャリア選択の過程の差 異について検討した。とりわけ,制度の背景にある心 理的・社会的要因を考察し,多義的曖昧性への対処行 動について日韓両国の比較検討をした。 「とりあえず」という曖昧な姿勢についての自由記 述データを分析した結果,「良い」が「悪い」を大き く上回り,肯定的評価が圧倒的であるという共通点を 確認した。また,韓国において,「キャリア観(次元 1)」「曖昧性耐性(次元 2)」の 2 つの次元で明確に捉 えることができた。 反面,積極的なキャリア形成に向けた手段としての 活用がみられた日本に対し,韓国は目的対象物として 事物化するという傾向の違いもみられた。 職業経験の少ない若年層で共通の社会問題を抱える 両国であるが,国のシステムといった社会経済的要因, 文化的差異,国民性(自己責任感),徴兵制の有無等 の相違点が背景要因として考えられた。 しかし,本分析のような文字データによるテキスト マイニング手法では少数意見は結果に反映されにくい という点,または,語と語の繋がりの行間を読むこと が難しく,背後にあるロジックの詳細な検討ができな い点は語用論的な限界といえる。分析過程における課 題として客観性の確保の問題がたびたび指摘されてき た(樋口 , 2014)。加えて,本稿で取り上げた「とり あえず」という曖昧な姿勢に好意的であったものの, 一歩踏み出せる人と地団駄を踏んでしまう人の差,行 動変容を促すために必要な要素等,実践的な検討課題 表 5 コーディングルールを用いたクロス集計表(日本) 大学生活 自分自身 その場しのぎ とりあえず 計画性 行動力 ケース数 賛成 2 (1.57%) 58 (45.67%) 3 (2.36%) 124 (97.64%) 2 (1.57%) 4 (3.15%) 127 中間 7 (2.86%) 134 (54.69%) 4 (1.63%) 158 (64.49%) 4 (1.63%) 1 (0.41%) 245 反対 1 (0.82%) 70 (57.38%) 5 (4.10%) 118 (96.72%) 4 (3.28%) 1 (0.82%) 122 合計 10 (2.02%) 262 (53.04%) 12 (2.43%) 400 (80.97%) 10 (2.02%) 6 (1.21%) 494 カイ 2 乗値 1.879 3.96 2.092* 85.732** 1.287 5.45* 注:** は 5% , * は 10%水準で統計学的に有意であることを示す。 図 3 頻出語・共起ネットワーク(日本) 注:太線箇所のみ Jaccard 係数を表示した(図 4 も同様) 図 4 頻出語・共起ネットワーク(韓国)
も残されている。 上記のような一定の限界はあるものの,尽きない不 安や曖昧さが残る中でキャリアを切り拓こうとする彼 らの語りを教育現場にいかに活用すればよいだろうか。 本稿での分析結果からキャリア教育や進路指導に携 わる教員は,以下のような指導やアドバイスを学生に 与えることが可能になる。 ・指導例 1: 〈日本で得られた知見を韓国側に反映可能〉 “とりあえず”に基づく行動は必ずしも曖昧な状況 から逃れることではなく,自分を知ることであり,完 全に見通すことは難しいキャリアの中に自分自身を位 置づけることである。選択肢を絞って何らかの選択を したり,何かを始めるきっかけを見つけることが中長 期的視点から見たキャリア形成の第一歩になる。手軽 にできることから着手するという自分に負荷をかけす ぎない姿勢そのものが,自分らしいキャリアを築く 「手段」として有効である11)。 ・指導例 2: 〈韓国で得られた知見を日本側に反映可能〉 将来の自己キャリアを完全に 100 パーセント思い描 くことは現実的ではない。‘ 今この時 ’ が瞬時に過去の 事象として移り変わるように,さまざまなことが派生 して次々と新しいことが生まれる状況下では,目の前 の身近なことを「目標」に掲げ,“とりあえず”実践 してみることが大切である12)。ただ,過去の延長や惰 性で進路を決めるほど危険なものはない。常に,何で もやろうとする貪欲さは不確かなものや不安と向き合 う姿勢の表れであり,曖昧性対処の仕方を熟練させる。 つまり,「目的」を持つと同時に,即実践に移すこと が重要である。実行に伴って生じる結果に一喜一憂せ ず,それを受け止める生き方が自覚的なキャリアの築 き方にとって有効である。 このように図 1・2 の多義的曖昧語の関係や図 3・4 の頻出語・共起ネットワークにおいて,日韓両国で得 られた異なる分析結果から,他国の状況を互いに教訓 として教育現場にフィードバックすることは,グロー バリゼーションの中の自国視点を学生に涵養するとい う意味においても教育的意義が高いと思われる。海外 展開の多い業界や外資系の希望者に対する進路指導用 の RJP 指標として機能する可能性が期待できよう。 謝辞 本調査研究において,同僚教員である周炫宗先生 (千葉経済大学)から韓国の若者事情に関する大変有 益な示唆をいただきました。ここに記して感謝を申し 上げます。なお,本研究は JSPS 科研費 17K03704 の研 究成果の一部です。 註 1) Budner(1962)によれば,曖昧さには 3 つの根源(新奇 性・複雑性・不可解性)があり,その曖昧な刺激の処理 過程で生じる多次元構造のことを多義的曖昧性と定義す る。 2) アンケート調査は,個人属性があらかじめ登録されてい るモニター協力者を確保している Web 調査会社に委託し て実施した。Web 調査会社を活用した理由として,国際 比較に耐えうる分析母集団を比較するために,十分なサ ンプル数が確保できることにある。通常,インターネッ トによるモニター協力者を対象とした研究では,回答者 の属性の偏りや回答内容の信憑性が懸念材料となる。実 際,信頼できる客観性の高い回答を回収するには「なり すまし」「重複登録」「多重回答」等の不良モニターを排 除し,回答者バイアスを極力軽減する必要があるが,本 調査会社はモニター登録情報の信頼性確保を定期的に 行っている。加えて,Web 調査ではモニター属性から調 査内容に最適な調査対象者の選定が可能である点もメ リットとして考えられる。 3) 若者の職業志向性の一種であるとりあえず志向の量的な 側面からの統計解析については中嶌(2013;2015)をご参 照。 4) 韓国における 4 人に 1 人が「c」を回答している点は,よ り遠い将来時点まで不安を抱えざるを得ないことを示唆 する。韓国人の不安の大きさは,教育に対する過度な期 待と格差の大きさを物語る危機意識の表れという解釈が できる。 5) 注目したいコンセプトを取り出して比較的少数サンプル でも分析できるという利点がある反面,内容分析の結果 が分析者の推論に大きく委ねられてしまう点で一定の限 界がある。 6) 無意味な語の抽出を回避するために,前処理の段階で 「思う」「考える」「分かる」「感じる」は[語の取捨選択] より,抽出しない。また,「自分」「自身」は「自分」と し,「就職」「仕事」は「就職」,「良い」「悪くない」は 「良い」に統一した。さらに,「したいこと」は文字列と して強制抽出した。 7) 大まかな傾向として,日本人はキャリア形成の方法論と してとりあえず志向の具体的内容を語るのに対して,韓 国人は目下の行動目標(例:会社でキャリアや経験を積 む)と捉える。そのことは,「キャリア」という語が韓国 だけに出現することが物語っている。 8) 実際,マイニング単位を大きくするほど共起する度合は 高まる。意味のある重要な語と語の組み合わせの見逃し を回避するというメリットと,膨大な無意味な語の組み 合わせを抽出してしまう結果,重要な共起関係を見えに くくしてしまうというデメリットが併存する。 9) 韓国のように,” とりあえず ” が「就職」・「離職」等と合 わさって目的化する場合,「目標」という語そのものが出 現しなくなることが多いと考えられる(日本では出現)。 このことから,出現回数が少ない(ゼロに近い)ことの 裏側に含まれるメッセージ性を考慮することも肝要であ
ると筆者は考える。 10) Budner(1962)の「曖昧さの 3 つの根源」を踏まえれば, 韓国の方が考慮すべき手掛かりが多すぎる点(=複雑性) が曖昧性への対応を早める要因になっていると考えるこ ともできる。 11) 本意の就職先でなくとも次のステップに繋がる職場に就 くことから得られる安心感,すなわち,「自分が目標を達 成すべく活動していることに確信が持てること」を中嶌 (2015)では「目的論的安心」と定義している。 12) 就職活動生の例を挙げると,まず 1 社内定を獲得するこ とから得られる安心感,すなわち,「自分がここに存在し ている理由に自分で確信が持てること」を指す「存在論 的安心」に該当する(中嶌,2015) 参考文献
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Title
What can differences in accession processes and career consciousness teach us?: Analyzing young full-time Japanese and Korean employee responses to open-ended questions
Author
NAKASHIMA, Tsuyoshi
Abstract
This study undertook an international comparison of qualitative differences in career choice activities under uncertainty and ambiguity factors that cause differences between Japanese and Korean systems, by which new graduates are employed all at once. We used an attitude related to the handling of ambi-guity often observed for Japanese youth that “I want to work as a ‘for the time being’ full-time employ-ee (regular employment).” We compared the two countries with that common item. Thereby, we eluci-dated various effects that ambiguity brought from non-institutional aspects. An original survey was administered in Japan and Korea. We used a text mining approach to analyze responses to open-ended questions related to “temporary orientation.” Results confirmed that the evaluations were overwhelm-ingly positive and that responses reflected two dimensions: “career consciousness” and “ambiguity toler-ance.” The results suggest that lessons learned from comparison were applicable to educational practice, career education, and career guidance.