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大腿神経麻痺に伴う大腿四頭筋の筋出力低下に対するロボットスーツHAL® 単関節タイプおよび随意運動介助型電気刺激装置IVES® の有効性

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 232 44 巻第 3 号 232 ∼ 237 頁(2017 年) 理学療法学 第 44 巻第 3 号. 症例報告. 大. 神経麻痺に伴う大 四頭筋の筋出力低下に対する ロボットスーツ HAL® 単関節タイプおよび 随意運動介助型電気刺激装置 IVES® の有効性* 小 谷 尚 也 1)# 後 藤 恭 輔 1) 鎌 田   聡 1) 塩 田 悦 仁 1)  山 本 卓 明 1) 井 上   亨 1). 要旨 【目的】大 神経麻痺は人工股関節全置換術(以下,THA)後の合併症として稀に起こり,回復には長期間 ® を要する。THA 後,大 神経麻痺を合併した 1 症例に対し,ロボットスーツ HAL 単関節タイプおよび随 ® 【対象】THA 後, 意運動介助型電気刺激装置 IVES を用いた運動を行い,良好な結果を得たため報告する。 ® 大 神経麻痺を合併し,手術翌日に大 四頭筋 MMT0 であった 50 歳代女性。 【方法】HAL 単関節タイプ ® 【結果】術後 2 週でわ と IVES を用い,麻痺の回復状況に応じて適宜内容を変更しながら運動を行った。. ずかな膝関節伸展運動が可能となり,術後 4 週で MMT2,術後 6 週で MMT3,術後 9 週で MMT4(非術 側比 54%) ,術後 12 週で MMT5(非術側比 97%)へと改善を認めた。 【結論】大 神経麻痺に伴う大 四頭 ® ® 筋の筋出力低下に対し,HAL 単関節タイプおよび IVES を用いた神経筋再教育によって早期の回復をも. たらす可能性が示唆された。 キーワード 大. ® ® 神経麻痺,ロボットスーツ HAL 単関節タイプ,随意運動介助型電気刺激装置 IVES.  予後に関しては,歩行能力の獲得は可能である場合が. 目   的  大. 多いが,その経過に関しては様々である。Simmons ら. 神 経 麻 痺 は 人 工 股 関 節 全 置 換 術(Total Hip. Arthroplasty;以下,THA) ,特に前方アプローチにお いて稀に起こりうる合併症である。Simmons ら. 1). 440 例の THA 術後患者のうち,10 例(2.3%)に大 2). は THA 術後大. 神経麻痺患者の大. 1). 四頭筋の筋力変化. を経時的に調査し,徒手筋力テスト(Manual Muscle. は. Test;以下,MMT)が 4+∼ 5 レベルへ回復するまで. 神. に要した期間は最短で 1.5 ヵ月,診断時の大. 四頭筋の. は 2,012 例の THA. MMT が 0 であった患者がもっとも期間を要し 11 ヵ月. 術後患者のうち,14 例(0.7%)になんらかの末梢神経. であり,診断直後の MMT が低いほど回復に長期間を. 麻痺を認め,そのうち大. 要する傾向にあった。Farrell ら. 経麻痺を認めたとし,Weber ら. 神経麻痺を合併した患者は 6. 5). は 47 例の THA 術. 例(0.3%)であったとしている。. 後末梢神経麻痺患者(坐骨神経麻痺・腓骨神経麻痺を含.  大. む)のうち完全麻痺 29 例中 10 例(36%)は術前の筋力. 神経麻痺の原因には出血,血腫,過伸展,脚延長,. 直接的損傷,熱損害,術後の前方脱臼等が挙げられるが, 実際には発生原因が特定困難であることが多い *. ®. ®. 3)4). 。. HAL Single-Joint Type and IVES are Effective for Quadriceps Femoris Complication of Femoral Nerve Palsy 1)福岡大学病院 (〒 814‒0180 福岡県福岡市城南区七隈 7‒45‒1) Naoya Kotani, PT, Kyousuke Gotou, PT, Satoshi Kamada, MD, PhD, Etsuji Shiota, MD, PhD, Takuaki Yamamoto, MD, PhD, Tooru Inoue, MD, PhD: Fukuoka University Hospital # E-mail: naoyakotani@fukuoka-u.ac.jp (受付日 2016 年 6 月 22 日/受理日 2017 年 1 月 18 日) [J-STAGE での早期公開日 2017 年 2 月 28 日]. へ回復,11 例(39%)は部分回復,7 例(25%)はまっ たく回復しなかったとし,完全回復した患者も回復まで に平均 21.1 ヵ月を要したとしている。また,最終的に 21 例(45%)は杖を,15 例(32%)は装具着用を,5 例(10%)は鎮痛薬内服を要したとしている。  このように,THA 術後の大. 神経麻痺は患者にとっ. て重大な問題となるが,これに対するリハビリテーショ ンの報告はきわめて少なく,治療に難渋することも少な くない。.

(2) 大.  今回,THA 術後に大. ®. ®. 神経麻痺に対する HAL -SJ と IVES の有効性. 神経麻痺を合併した症例に対. 症   例. ®. し,ロボットスーツ HAL 単関節タイプ(CYBERDYNE ® 社製,Hybrid Assistive Limb-Single Joint;以下,HAL ®. 233.  変形性股関節症に対し,当院整形外科において左. SJ)および随意運動介助型電気刺激装置 IVES (OG. THA(前方アプローチ)を施行した 50 歳代の女性。使. Wellness 社製,Integrated Volitional control Electrical. 用 機 種 は Zimmer 社 の Continuum Trilogy,Kinectiv,. ® Stimulator;以下,IVES )を用いた運動を実施し,大. カップの設置位置は外方開角 32° ,前方開角 25° ,脚延. 神経麻痺の主症状のひとつである大. 四頭筋の筋出力. 長量は 17 mm,出血量 618 cc,手術時間は約 1 時間 30. 低下に対して良好な結果が得られたため報告する。. 分であった。手術翌日より理学療法を開始した。初期評. ®  HAL -SJ は,膝関節(もしくは肘関節)屈曲筋およ. 価にて大. び伸展筋表面に電極を貼付し,装着者が運動を企図した. にかけてのしびれ感,触覚鈍麻(筆を用い皮膚を軽く刺. 際に起こる生体電位信号を読み取り,その信号にした. 激し,非術側を 10 とした場合の割合:大. がった制御を行うことで,装着者の身体運動を補助する. 大. ロボットスーツである。アシストゲイン(アシストの強. ており,医師より大. さ)や屈曲筋・伸展筋のアシストバランス等を調整する. 直接的損傷はなかったこと,MRI にて出血や血腫の徴. ことで,状態に応じた最適な補助を得ることができる。. 候は認めなかったことから,麻痺の原因としては術中の. また,検出された生体電位信号はモニターにてグラフ化. 伸展操作もしくは脚延長による神経損傷の可能性が考え. ® され,リアルタイムで確認が可能である。HAL -SJ に. られたが,詳細は不明であった。MRI にて神経断裂の. よる末梢神経障害への効果を述べた報告はみられない. 所見は認めなかったこと,Tinel 徴候が確認できなかっ. 6). 四頭筋の筋力低下(MMT0)と大. 前面 0/10,大. 外側 5/10,下. ∼下. 内側 2/10,. 内側 2/10)を呈し. 神経麻痺の診断を受けた。術中の. の研究にて膝関節術後の膝関節自動伸展. たことから,神経損傷の程度としては Seddon の分類上. 不全患者への即時効果,持続的効果を認め,運動学習効. の Neurapraxia であると推測された。しびれに対しビ. 果が示唆された。また,末梢神経障害への視覚的フィー. タミン剤,術創部の疼痛に対し鎮痛剤が処方された。今. ドバックや自動介助運動の適応は古くから報告されてお. 回の研究介入以外の理学療法として,当院の THA 術後. が,筆者ら. り. 7)8). ®. ,それらの効果を併せもつ HAL -SJ もその効果. が期待される。. プロトコル(表 1)に準じ,関節可動域運動,筋力増強 運動,基本動作練習,歩行練習を行った。. ®  IVES は,対象とする筋の表面に電極を貼付し,常. に随意筋電量をモニタリングし,安静時には収縮閾値以. 方   法. 下の電気刺激を行い,随意収縮が検出されるとそれに比. ®  今回の介入には CYBERDYNE 社製 HAL -SJ および. 例した電気刺激を与えることのできるバイオフィード. ® OG Wellness 社製 IVES を使用し,介入期間中,日曜・. バック機能付低周波治療器である。電気刺激のモードや. 祝日を除き,ともに毎日 1 回ずつ実施した。HAL -SJ. 強さ,筋電の感度を設定でき,状態に応じて多様な使用. ® は 30 回の膝関節伸展運動,IVES は 10 分間の指定し. 方法が可能である。また,本体上部に筋電量を 5 段階で. た運動を実施した。. 表示するインジケーターランプがあり,随意収縮を視覚.  大. 化できる。半田. 9). によると末梢神経筋枝への治療的電. ®. 神経麻痺発症直後の段階では,大. 四頭筋を賦活. ® する目的で,IVES を使用し TES にて強制的に筋収縮. 気刺激(Therapeutic Electrical Stimulation;以下,TES). を促した。大. の効果には筋を支配する運動枝を刺激することによる遠. かったため,わずかな収縮が得られた外側広筋に電極を. 心性効果と,筋紡錘,腱器官,筋膜などからくる知覚枝. ® 貼付した。IVES のモードはノーマルモードとし,周. を刺激することによって生じる求心性効果があるとし,. 波数 30 Hz,筋収縮が得られる強度で通電時間 5 秒,休. 末梢神経障害による脱神経筋に対し,その神経支配の再. 止時間 10 秒で間欠的に連続 10 分,長座位にて大. 接着や神経移行を行って再神経支配を待つ間,TES を. 筋のマッスルセッティングを電流が流れたタイミングで. 行っておくことは有意義であると述べている。また,渡. 筋収縮を企図するよう促した。. 部ら. 10). は通常の電気刺激による筋収縮では,随意収縮. 直筋・内側広筋はまったく収縮を認めな. 四頭. ®.  術後 1 週時点で随意的な筋収縮を認めたため,IVES. 時に利用されるエファレンス写(発現する運動について. のモードをパワーアシストモードに変更した。筋電の感. 一時的に大脳皮質や小脳などに保存される出力情報であ. 度は最大で,得られた筋電の強さに比例して起こる電気. り,これがフィードバックによる運動結果と照合され,. 刺激の最大強度を疼痛閾値に設定し,インジケーターラ. ® 誤差修正を行うもの)が生じないが,IVES ではエファ. ンプにて視覚的に筋収縮を確認しながら大. レンス写が利用でき,誤差修正を行える利点があるとし. マッスルセッティングを実施した。この際,腹臥位にて. ている。. 足部を接地した閉鎖性運動連鎖(Closed kinetic chain;. 四頭筋の. 以下,CKC)での運動を実施した。また,同時期より.

(3) 234. 理学療法学 第 44 巻第 3 号. 表 1 当院の人工股関節全置換術術後プロトコル. 安静度. 術翌日. 術後 2 日. 術後 1 週. 術後 1 ヵ月. 車椅子. 歩行器. 杖歩行. 独歩. 寝返り (非術側) 基本動作. 術後 3 ヵ月. 寝返り (術側). 起き上がり 端座位 起立・立位 食事開始. ADL. トイレ排泄 シャワー浴. 浴槽入浴 足の爪切り. ROM-ex MS-ex 理学療法. 基本動作 ADL 練習 歩行練習 階段昇降 外転枕着用. その他. 弾性靴下 血栓予防. ADL:Activity of daily living;日常生活動作 ROM-ex:Range of motion exercise;関節可動域運動 MS-ex:Muscle strengthening exercise;筋力増強運動. 図1. a)IVES® を使用した腹臥位閉鎖性運動連鎖での大 四頭筋マッスルセッティング 膝関節軽度屈曲位からの伸展運動.IVES® 本体上部のインジケーターランプが筋電の強さを表して いる. ® b)HAL -SJ を使用した膝関節伸展運動 自動運動では困難な角度までの運動を HAL®-SJ がアシストしている.右下はモニター画面の拡大図. モニター画面上向きの波形が屈曲筋(大 二頭筋)の,下向きの波形が伸展筋(外側広筋)の生体 電位を表している.. HAL®-SJ を使用した端座位での膝関節伸展運動を開始. ため,立位や歩行時の大. 四頭筋の収縮を誘発し膝折れ ®. した。これも同様に電極は外側広筋に貼付し,アシスト. を予防する目的で,IVES の運動を立位でのセラバン. ゲインは最大値に設定し,膝関節完全伸展を目標に,モ. ドを抵抗として使用した大. ニターにて生体電位の波形を視覚的に確認しながら 30. グ(図 2)および平行棒内でのステッピング動作(術側. 回の膝関節伸展運動を行った(図 1)。. 下肢を軸とし,非術側下肢を前後方向へステップ 20 回) ®.  術後 2 週時点で腹臥位での筋収縮は IVES のインジ ケーターランプにて最大の 5 個点灯が常時可能となった. 四頭筋マッスルセッティン. ®. に変更した。その後,外側広筋は十分な筋収縮(IVES ®. のインジケーターランプにて常時 5 個点灯,HAL -SJ.

(4) 大. ®. ®. 神経麻痺に対する HAL -SJ と IVES の有効性. 235. はアシストを加えた状態で膝の完全伸展が可能)を得た ® ® ため,IVES ・HAL -SJ ともに術後 23 日時点で電極貼. 付部位を大. 直筋に変更し,上記同様に大. 直筋の筋収. 縮が十分に確認できた術後 38 日時点で内側広筋に変更 ® した。その後,IVES は筋電の感度をインジケーター ® ランプが 5 個点灯する最小の設定で漸減,HAL -SJ は. アシストゲインを膝完全伸展できる最小の設定で漸減 した。  大. 四 頭 筋 の MMT が 3 レ ベ ル に 達 し た 時 点 で ®. ® HAL -SJ を終了し,IVES の運動を端座位でのセラバ. ンドを抵抗として使用した膝関節伸展運動に変更し,そ の強度で完全伸展が可能となったタイミングでセラバン ドの強度を漸増した。また,膝関節伸展筋力を定量化す るためハンドヘルドダイナモメーター(HOGGAN 社製, Handheld Dynamometer microFET2;以下,HHD)を 使用して経時的に計測した。HHD での膝関節伸展運動 の計測は加藤ら. 11). の方法に準じ,ベルト固定法にて膝. 関節屈曲 75° の位置で等尺性運動を行った。. 図 2 IVES® を使用した立位での大 四頭筋マッスル セッティング セラバンドを抵抗としたマッスルセッティング.IVES® のインジケーターランプを確認しながら大 四頭筋の筋 収縮を意識して実施した..  表 2 に本症例に行った運動および筋力・感覚の経過を 示す。  本研究を行うにあたり,本症例には本研究の目的,方. 表 2 介入内容および筋力,感覚,歩行状態の経時的変化. ®. With IVES. 術翌日. 術後 1 週. 術後 2 週. 四頭筋 Setting (長座位). 四頭筋 Setting (腹臥位). 四頭筋 Setting (立位). 術後 4 週. 術後 6 週. 術後 9 週. 術後 12 週. 膝伸展 抵抗運動 (端座位) (黄バンド) (緑バンド) (黒バンド). Stepping 膝伸展 自動運動 (端座位). ®. With HAL -SJ 四頭筋 MMT. 0. 1. 1. 2. 0. 1. 1. 2. 0. 1. 1. 2. 2. (HHD 非術側比) 腸腰筋 MMT. 3. 4. 5. (26%). (54%). (97%). 2. 3. 4. (22%). (41%). 4. 4. (HHD 非術側比) 縫工筋 MMT 大. 前面触覚. 0/10. 1/10. 1/10. 2/10. 3/10. 5/10. 5/10. 大. 内側触覚. 2/10. 3/10. 3/10. 4/10. 5/10. 7/10. 7/10. 大. 外側触覚. 5/10. 7/10. 8/10. 9/10. 10/10. 10/10. 10/10. 下. 内側触覚. 2/10. 2/10. 3/10. 4/10. 5/10. 6/10. 7/10. 大. 前面しびれ. +++. ++. ++. ++. ++. +. +. 不可. 歩行器 (病棟内) (装具有). 歩行器 (院内) (装具有). 歩行器 (院内) (装具無). T 字杖 (病棟内). T 字杖 (院内). 独歩 (院内) T 字杖 (屋外). 歩行状態. 四頭筋:大 四頭筋 MMT:Manual Muscle Test(徒手筋力テスト) HHD:ハンドヘルドダイナモメーターを用いた定量化筋力 Setting:マッスルセッティング Stepping:平行棒内でのステッピング動作(術側下肢を軸とし,非術側下肢を前後方向へステップ 20 回) 装具:ニーブレース着用の有無.

(5) 236. 理学療法学 第 44 巻第 3 号. 図 3 HAL®-SJ を使用した膝関節伸展運動前後での膝関節自動伸展運動の比較 HAL®-SJ 実施前後の膝関節伸展自動運動の最大角度.左が実施前,右が実施後.ビデオ動作解析システム ToMoCo-Lite(東総システム社製)を使用し膝関節伸展 0°からの差を計測している.実施後の角度が改善し ている.. 法,得られたデータおよび画像等の利用について十分な. が 残 存,6 例 は 重 篤 な 障 害 が 残 存 し た と し て お り,. 説明を行い,同意を得た。. Weber ら. 2). は 6 例の THA 術後大. 神経麻痺患者の術. 後 1 年での診察にて 1 例のみ完全に回復し,残りの 5 例. 結   果. は筋電図上の回復が不完全もしくはまったく認めなかっ.  術後 1 週時点で大. 四頭筋の随意的な筋収縮がわずか. たとしている。本症例の大. 四頭筋の筋出力は過去の報. に出現し,大 四頭筋の筋力が MMT1 レベルとなった。. 告と比較し,早く良好な回復を認めた。前述の通り,本. 歩行は膝折れ防止のためニーブレースを着用したうえで. 症例の神経損傷の程度としては Neurapraxia であること. 歩行器を使用し病棟内は自立したが,上肢支持量が多く. が予想された。Schmalzried ら. 歩行器への依存度が高かった。術後 2 週時点で膝関節伸. でも運動機能を有した患者,もしくは術後 2 週間以内に. ® 展の随意運動がわずかに認められた。同時期,HAL -SJ. 運動機能の改善がみられた患者に関しては回復が良好で. の使用前後で膝関節伸展角度が 5° 以上改善することもあ. あったとしており,Neurapraxia は多くの患者が数日∼. り(図 3) ,症例自身も回復を実感し,意欲の向上が認め. 数週間で自然回復するといわれているため,本症例の予. られた。術後 4 週時点で大. 四頭筋の筋力が MMT2 レ. 後も良好であることが期待できた。それに加え,早期か. ベルとなり,歩行はニーブレースを除去した歩行器歩行. らの理学療法介入や投薬によるしびれ・疼痛の軽減も早. にて院内自立レベルとなったが,膝関節を伸展位でロッ. 期回復をもたらした一因と考えられる。さらに,本症例. クした歩容であった。術後 6 週時点で大. 四頭筋の筋力. ® ® は HAL -SJ および IVES を使用した膝関節伸展運動を. が MMT3 レベルとなり,歩行は T 字杖にて病棟内自立. 積極的に実施したことで,良好な回復を得た可能性が示. レベルとなった。術後 9 週時点で HHD での膝関節伸展. 唆された。その要因として,両者に共通する点としては,. は 51.6 Nm(非術側比 54%)となり,歩行は T 字杖にて. 随意的筋収縮をモニターないしインジケーターランプに. 院内自立レベルとなった。また,同時期には膝関節の伸. て視覚化できたことであると考える。対象筋の筋電図を. 展位ロックが軽減し,Double knee action も出現するよ. 検出し,その筋電量をインジケーターや音からフィード. うになった。術後 12 週時点で HHD での膝関節伸展は. バックさせることで,筋肉の収縮・弛緩のさせ方を認識. 92.4 Nm(非術側比 97%)となり,歩行は独歩にて屋内. させながら動作訓練を行う筋電図バイオフィードバック. 自立レベルとなった。また,この時期には階段昇降も手. 療法に代表されるように,運動麻痺に対する視覚情報の. すりを使用し 1 足 1 段にて自立レベルとなった。術後 14. 有用性は多く報告されている. 12). は手術直後より少し. 13)14). 。 そ れ に 加 え,. ®. 週時点で ADL はすべて自立し,階段昇降を含む屋内・. HAL -SJ は得られた生体電位信号に基づきロボットが. 外の移動も自立したため,自宅退院となった。. 適切なアシストを行うことで,実際には起こりえない, もしくは不十分な随意運動を介助することが可能であ. 考   察  Schmalzried ら. り, 「運動企図」と「実際の動き」という正のフィード 12). による comprehensive review によ. バックが起こることで,皮質からの運動指令と介助され. る と,36 例 の THA 術 後 神 経 麻 痺 患 者 に 対 す る 術 後. た随意運動による末梢からの体性感覚入力が促通され,. 24 ヵ月時点での診察にて,7 例は正常,23 例は軽い障害. 適切な運動学習がなされたと考える。また,運動麻痺の.

(6) 大. ®. ある患者は,随意性の低下に伴い運動学習意欲が低下し, “learned nonuse”の状態になるといわれている. 15). が,. ®. HAL -SJ 実施中・実施後の即時的な膝関節伸展運動の 変化は回復の実感をもたらし,本症例の運動学習意欲向 上につながったと考える。石尾ら. 16). は随意収縮が認め. られない場合でも,TES での収縮閾値刺激による促通効 果によって随意筋電位を検出できるようになる可能性が あるとしている。また,矢形ら. 17). は CKC での大. 四. 頭筋マッスルセッティングが,長座位での同運動や背臥 位での下肢挙上運動(Straight Leg Raising;SLR)と比 較 し 有 意 に 内 側 広 筋 の 筋 活 動 を 高 め た と し て い る。 ® IVES に関し,大 神経麻痺発症直後の随意収縮がまっ. たく得られない状況でも,ノーマルモードにて TES を 実施可能であったこと,足底接地腹臥位や立位などの CKC の姿勢で実施できたこと,抵抗運動にも用いるこ とができたことが有効であったと考える。 結   語  大. 神経麻痺の主症状であり,かつ長期化しやすい大. ® ® 四頭筋の筋出力低下に対し,HAL -SJ および IVES. を状態に応じて適切に使用することで,大. 四頭筋の神. 経筋再教育が短期間で可能であり,歩行能力の改善につ ながる可能性が示唆された。本研究は単独症例であり, ® また,神経損傷が軽度であったこと,HAL -SJ および ® IVES 以外の理学療法や投薬による効果も十分に考え. られ,その有効性を証明するには至らないものの,これ まで有効的な報告が少なかった大. ®. 神経麻痺に対する HAL -SJ と IVES の有効性. 神経麻痺のリハビリ. テーションについて,本稿がその一助となれば幸いで ある。 文  献 1)Simmons CJ, Izant TH, et al.: Femoral neuropathy following total hip arthroplasty. Anatomic study, case reports, and literature review. J Arthroplasty. 1991; 6 Suppl: 57‒66.. 237. 2)Weber ER, Daube JR, et al.: Peripheral neuropathies associated with total hip arthroplasty. J Bone Joint Surg Am. 1976; 58(1): 66‒69. 3)Schmalzried TP, Amstutz HC, et al.: Nerve palsy associated with total hip replacement. Risk factors and prognosis. J Bone Joint Surg Am. 1991; 73(7): 1074‒1080. 4)高尾正樹:THA の合併症対策 神経麻痺.関節外科.2012; 31(2): 144‒147. 5)Farrell CM, Springer BD, et al.: Motor nerve palsy following primary total hip arthroplasty. J Bone Joint Surg Am. 2005; 87(12): 2619‒2625. 6)小谷尚也,吉村ゆかり,他:膝関節術後症例の extension ® lag について HAL 単関節タイプでの即時的改善を踏ま えた一考察.理学療法学.2016; 43 Suppl. 2. 7)鈴木俊明,大工谷新一,他:運動器疾患の評価と理学療法. エンタプライズ,東京,2003,p. 285. 8)眞野行生:末梢神経障害のリハビリテーション.リハビリ テーション医学.1991; 28(6): 453‒458. 9)半田康延:麻痺筋・廃用筋に対する治療的電気刺激.総合 リハビリテーション.1996; 24(3): 211‒218. 10)渡部幸司,長岡正範:リハビリテーションにおける電気刺 激療法の展望.順天堂医学.2010; 56: 29‒36. 11)加藤宗規,山崎裕司,他:ハンドヘルドダイナモメーター による等尺性膝伸展筋力の測定 固定用ベルトの使用が検 者間再現性に与える影響.総合リハビリテーション.2001; 29(11): 1047‒1050. 12)Schmalzried TP, Noordin S, et al.: Update on nerve palsy associated with total hip replacement. Clin Orthop Relat Res. 1997; (344): 188‒206. 13)Kim CY, Lee JS, et al.: Effect of spatial target reaching training based on visual biofeedback on the upper extremity function of hemiplegic stroke patients. J Phys Ther Sci. 2015; 27(4): 1091‒1096. 14)長谷公隆:機器を用いた機能訓練 筋電図バイオフィー ド バ ッ ク 療 法. 総 合 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン.2004; 32(12): 1167‒1173. 15)Taub E, Uswatte G, et al.: The learned nonuse phenomenon: implications for rehabilitation. Eura Medicophys. 2006; 42(3): 241‒256. 16)石尾晶代,村岡慶裕:リハビリテーション治療への応用 電気刺激 IVES も含めて.MEDICAL REHABILITATION. 2014; (166): 79‒85. 17)矢形幸久,濱田全紀,他:内側広筋の選択的強化:閉運動 鎖による setting exercise.リハビリテーション医学:日 本リハビリテーション医学会誌.1996; 33(12): 936..

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