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足関節捻挫に対する画像検査の活用

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Academic year: 2021

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はじめに  足部・足関節の捻挫においてもっとも多い受傷機転は足部の 底屈,内がえしによる受傷であり,外反捻挫と比べて圧倒的に 多いと報告されている1)。そのため本論文においても内反捻挫 に焦点をあてて話を進めていきたい。発生頻度に関する先行研 究においては,全世界で 1 日あたり 1 万人に 1 人の割合で発症 し,アメリカでは 1 年間のうちに 1,000 人あたり 2.15 人が罹患 すると試算されている1‒4)。スポーツにおいて外傷全体に占め る足関節捻挫の割合は,13.9 ∼ 17%5‒7),特にサッカーにおい ては,足関節外傷の発生率は 11 ∼ 31%であり,そのうち足関 節捻挫の発生頻度は 60 ∼ 70%と他の競技と比べて高いと報告 されている8)。しかしながら,全例が医療機関を受診するわけ ではなく,損傷部位や程度によって予後は大きく異なってい る。症状としては,関節可動域制限,筋力低下,荷重時痛,こ の 3 つのファクターは復帰時期に影響するという報告9)や, 足関節捻挫後に慢性的な不安定感が遺残する割合は 72.6%と高 率であることが報告されている10)11)。このように疼痛が寛解 した後も不安定感や違和感が残ることがあり,長期に競技を離 脱することもめずらしくない。それならば観血的治療はどうか というと,保存治療と観血的治療を比較した研究においては, 保存治療の方が成績がいいという報告もなされており12‒17), 足関節捻挫の治療にはまだまだ議論の余地が残されているよう に思われる。  臨床においても,初回受傷時に軽症だったため患部の治療を せず,その後再発を繰り返したのちに慢性的な不安定感を訴え て来院する選手を経験することがある。再発に関する研究は諸 家により報告されているが,理学療法実施の有無により 9 ∼ 80%と大きく異っている5)8)18)。このような慢性的な不安定に 移行する症例を防ぐため,初回受傷時に重症度の客観的な評価 を行い,予後予測や再発リスクの把握に努める必要があると考 える。  そこで,本論文においては,これまで筆者らが行ってきた足 関節外側靭帯損傷に関する画像検査の研究について,その概要 と臨床的意義を紹介し,日常で足関節外側靭帯損傷の診療を行 う理学療法士への参考に提供したい。 足関節捻挫後の合併症  足関節捻挫後の合併症としては,短期的にはインピンジメン ト症候群や足根洞症候群が挙げられる。インピンジメント症候 群は,距骨の前方に衝突するタイプと後方で衝突するタイプが ある。分類として骨性と軟部組織性にも分けられているが,い ずれも距腿関節,または,脛腓関節の不安定により発症すると いわれている19)20)。もうひとつ難治性の合併症に,足根洞症 候群が挙げられる。足根洞は距骨と踵骨に囲まれた空洞で,自 由神経終末が豊富であるため,距骨下関節の不安定性に過敏に 反応することにより発症すると考えられているが,まだまだ不 明な点も多い21)。長期的には,踵骨の不安定によりアキレス 腱炎を発症する可能性や,距腿関節の不安定により有痛性三角 骨障害が起こりうるのではないかと筆者は考えている。その 他,足部外側荷重になると足関節捻挫を再発しやすくなること から,これを避けるために,代償性に足部内側に過剰に荷重し すぎ,母趾の種子骨障害を発症することや,距腿関節の不安定 による変形性足関節症などが挙げられる22)。特に変形性足関 節症は長期に渡り外側不安定性を有する症例の発生率が高いと 報告されている23‒25)。解析装置を用いた先行研究によると, 靭帯を切除した後足部アライメントは内反位となり,距腿関節 の内側に強い圧迫力が加わり,距腿関節の内側に変形が発生す る可能性が報告されている26)27)。 足関節不安定分類  近年,足関節捻挫後の不安定は構造的不安定と機能的不安定 の 2 つに分けて考えられている23)。構造的不安定は解剖学的 に関節構成体そのものが破綻していることによる不安定であ

足関節捻挫に対する画像検査の活用

豊 岡   毅

1)

 杉 浦 史 郎

1)2)

 松 下 幸 男

1)

 高 田 彰 人

1)

 大 森 康 高

1)

城山恵理子

1)

 中 村 恵 太

1)

 大 槻 和 美

1)

 志 賀 哲 夫

1)

 大 山 隆 人

1)

酒井田千芽子

1)

 石 崎   亨

1)

 鈴 木 裕 佳

1)

 木 村 安 見

1)

古 手 礼 子

1)

 鈴 木 雅 子

1)

 西 川   悟

1)

運動器理学療法研究部会

Clinical Assessment of the Ankle Sprain Using Imaging 1) 医療法人社団 健陽会 西川整形外科

(〒 285‒0817 千葉県佐倉市大崎台 1‒14‒2)

Takeshi Toyooka, PT, Shiro Sugiura, PT, Yukio Matsushita, RT, Akito Takata, PT, Yasutaka Omori, PT, Eriko Shiroyama, Nr, Keita Nakamura, PT, Kazumi Otsuki, PT, Tetsuo Shiga, PT, Takato Oyama, PT, Chikako Sakaida, PT, Tohru Ishizaki, PT, Yuka Suzuki, PT, Yasumi Kimura, PT, Ayako Kote, PT, Masako Suzuki, AT, Satoru Nishikawa, MD: Nishikawa Orthopaedic Clinic 2) 千葉大学大学院医学研究院環境生命医学

S h i r o S u g i u r a , P T : C h i b a U n i v e r s i t y D e p a r t m e n t o f Bioenvironmental Medicine

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り,前方引き出し徴候や,距骨傾斜角度,距骨下関節内側辷り テストが指標として挙げられる。一方,機能的不安定は神経筋 機能の低下によるもので,関節位置覚,神経筋反応時間,筋出 力,姿勢制御などの変化を指標としている(表 1)。 自覚的不安定感と他覚的所見に関する研究  これほどたくさんの指標があるなかで,一番大事な指標はど れなのか? という問いに対する回答は得られていない。どれ も他覚的な所見であり,症例が訴える自覚的な不安定感と比べ ている研究はまだまだ少ない。そこで,実際に筆者らが研究し た内容を報告する。 1.方法  受傷後長期経過した後の患者自身による自覚的不安定感を数 値化し,構造的不安定,および機能的不安定と比較すること で,どのような所見が自覚的不安定感を反映しているのか検討 することとした。対象は,足関節捻挫の既往を有する成人 14 名 28 足。このうち,スポーツを週 3 日以上行っている症例は おらず,レクリエーションスポーツを不定期に行う症例は 9 名, まったく行わない症例は 5 名であった。なお,最終足関節捻挫 から 3 ヵ月以内の症例,下腿,および足部に変形や麻痺など重 篤な疾患の既往を有する症例は除外した。不安定の測定方法と して,自覚的不安定感には karlsson ankle function score(表 2)27)を用い,他覚的所見には,構造的不安定としてレントゲ ンストレス撮影による距骨傾斜角を,機能的不安定には最大ラ ンジ距離,閉眼片足立ち時間,サイドホップ回数を測定した。 距骨傾斜角(図 1)とは,足関節を他動的に最大内反位にさせ た肢位にてレントゲン撮影し,脛骨天蓋と距骨滑車のなす角度 を測定する方法である。健常人(図 2)では 5 度以下と報告28) されており,角度が増大することで外側靭帯損傷が示唆される と報告されている29‒31)。最大ランジ距離は,立位から最大に 一歩踏み出した姿勢を保持し,元の立位に戻れる距離を計測し たものを,身長に対する比率に換算した。閉眼片足立ち時間 は,目を閉じたまま,片側股関節を 90 度に屈曲し,姿勢を保 持できる時間を計測した。サイドホップ回数は,片足にて 5 秒 間で素早くラインを左右に跳ぶことができる回数を計測した。 ラインの幅は 1 cm とし,失敗はカウントせず再度測定とした。 自覚的不安定感の尺度として採用した karlsson ankle function score は,疼痛,腫脹,不安定感,動きづらさ,階段,走行, 日常生活,装具テーピングの 8 項目で構成されており,それぞ れあてはまる状態を選択し,無症状の場合は,満点の 100 点と なり,症状が強いほど点数は低くなるよう設定されている。こ の karlsson ankle function score より 85 点以上の症例を安定群 とし,85 点未満を不安定群に分類した。そしてこの 2 群を目 表 1 不安定性分類  ・構造的不安定(関節構成体の不安定)   ¾ 前方引き出しテスト   ¾ 距骨傾斜テスト

  ¾Medial subtalar glide テスト

 ・機能的不安定(バランス能力の低下)   ¾ 関節位置覚

  ¾ 筋反応時間   ¾ 筋出力   ¾ 姿勢制御

表 2 karlsson ankle function score(J Karlsson. The FOOT. 1991)

大項目 詳細項目 得点 大項目 詳細項目 得点 疼痛 特にない 20 動きづらさ 特にない 5 練習中または試合中 15 練習中または起床時 2 悪路を歩いているとき 10 いつも 0 平地を歩いているとき 5 階段 問題ない 10 常に痛い 0 不安感がある 5 腫脹 特にない 10 困難 0 練習後 5 走行 問題ない 10 いつも 0 不安感がある 5 不安定感 特にない 25 困難 0 1 年に 1 ∼ 2 回程度 20 日常生活 問題ない 15 月に 1 ∼ 2 回程度 15 スポーツ活動を除けば問題なし 10 悪路を歩いているとき 10 時折スポーツ活動が難しい 5 平地を歩いているとき 5 日常生活に支障がある 0 いつも 0 装具 テーピング 必要でない 5 スポーツ時に必要 2 日常生活に必要 0 ※ 8 つの大項目の中からそれぞれあてはまる状態を選択し,無症状の場合は満点の 100 点となる.症状が強いほど点数は低 くなるよう設定されている.

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的変数とし,その他の項目(距骨傾斜角,最大ランジ距離,閉 眼片足立ち時間,サイドホップ回数)を独立変数として,自覚 的不安定感に与える因子を多重ロジスティック回帰分析を用い て検討した。 2.結果  解析の結果,採用された変数は,構造的不安定の指標である 距骨傾斜角のみであり,機能的不安定の指標として測定した最 大ランジ距離,閉眼片足立ち時間,サイドホップ回数は採用さ れなかった。   OR = 1.22 p < 0.05 95% CI = 1.003 ‒ 1.489 3.臨床的意義  長期にわたり不安定感を訴える症例の病態を的確に把握する ことができる指標は,機能的不安定よりも構造的不安定のほう が適している可能性が示唆された。それでは具体的に何度にな ると不安定感が出現しやすいのかというと,安定群の距骨傾斜 角は平均 5.9 ± 3.8 度,不安定群は平均 10.3 ± 7.6 度であった。 先行研究では構造的不安定を有さない症例でも,機能的不安定 があると,慢性的な不安定を訴えることがあると報告されてい る19)32‒36)。距骨傾斜角についてまだまだ賛否両論あるものの, 今回の結果からは不安定の要因となりうることが示唆された。 今後は構造的不安定を補っている機能的な安定性の指標につい ても,もっと解明していく必要があると考える。 レントゲンストレス撮影  ストレス撮影を用いない通常のレントゲン側面像において も,距腿関節の異常を認めることがある。正常な脛骨天蓋は, 距骨側が凸,脛骨側が凹となり,この曲率半径は一致するのが 正常である(図 3)。しかし,足関節捻挫をしてしまうと,距 骨が前方に変位し脛骨天蓋の前縁に距骨滑車が衝突したまま戻 らないことがある(図 4)。この症例では関節可動域制限,特 に距腿関節の背屈制限を認めた。さらに,レントゲンストレス 撮影を用いた構造的不安定のチェック方法として前方引き出し 距離と先の研究報告にも用いた距骨傾斜角を測定する方法があ る。前方引き出し距離の撮影方法は,下腿を固定して踵骨を前 方に移動させることで,踵骨を介して距骨を前方に移動させた 肢位にてレントゲン撮影し,脛骨に対する距骨の移動距離を計 測する方法である。この方法によって得られる情報は,ストレ スの加わる方向が水平面であることから考えると,踵腓靭帯に よる影響は少なく,前距腓靭帯の断裂やエロンゲーションの可 能性を示唆しているものと思われる。健常人では 3 mm 以下と 報告されており,距離が増大することで靭帯損傷の可能性が増 大すると報告されている37)。 一方距骨傾斜角の撮影方法は,下腿を固定して他動的に足部 を最大内反位にさせた肢位にてレントゲン撮影し,脛骨天蓋と 距骨滑車のなす角度を測定する。これによって得られる情報 は,前距腓靭帯よりも踵腓靭帯の損傷やエロンゲーションの可 図 1 レントゲンストレス撮影正面像(傾斜角増大) 図 3 レントゲン側面像(正常) 図 2 レントゲンストレス撮影正面像(正常) 図 4 レントゲン側面像(距骨前方偏位)

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能性を示唆しているものと予想される。 MRI 画像を用いた前距腓靭帯の研究について  図 5 は前距腓靭帯の断裂部位を示している。図 6 の正常な画 像と比べると前距腓靭帯の断裂部位がよく確認できる。図 5 を 撮影した時期は受傷後初期の段階であるため,断裂部位がはっ きり確認できるが,前距腓靭帯は関節包靭帯であるため,経過 とともに再生する。再生するとしても,断裂した靭帯が図 6 の ように元に戻るかどうか定かではない。関節包の再生能力は高 いため,靭帯の連続性は戻ると思われるが,臨床的には捻挫の 痛みがなくなっても,内返しの関節可動域が異常に大きい症例 をしばしば経験する。この矛盾から,ひとつの仮説が予想され た。受傷により断裂した前距腓靭帯は,連続性が回復したとし ても,元通りの機能を有していないのではないか? という仮 説である。先行研究においても受傷直後に損傷した前距腓靭帯 は,7 週目までに連続性が回復38)し,3 ヵ月後には肥厚して いたと報告されている39)。それならば一度断裂した靭帯はエ ロンゲーションしているのではないか? と考えた。そこで筆 者らが行った,MRI を用いた前距腓靭帯の検討について以下 に報告する。 1.方法 A  前距腓靭帯の測定方法として,MRI を撮像し,TI 強調画像 にて前距腓靭帯がもっとも鮮明に認識できるスライスにおいて 靭帯の最大横径を計測した。次に,レントゲンにて内反ストレ ス撮影を行い,距骨傾斜角を測定し,MRI での前距腓靭帯の厚 みとの相関関係をピアソンの積率相関係数を用いて調査した。 2.結果 A  距骨傾斜角と前距腓靭帯の厚みの相関は相関係数 0.328 とな り,弱い相関を認めた。(図 7)  さらに,自覚的不安定感を有する症例の前距腓靭帯の厚み が,不安定感を有さない症例と比べて有意差があるかどうかに ついても検証した。 3.方法 B 対 象 者 が 自 己 記 入 す る 方 法 で 自 覚 的 不 安 定 感(karlsson ankle function score)を評価し,これをもとに対象者を安定 群(score85 点以上)と不安定群(score85 点未満)に分類し, MRI で観察された先ほどの前距腓靭帯の厚みを対応のない t 検 定を用いて比較検討した。 4.結果 B  前距腓靭帯の厚みは安定群 2.53 mm,不安定群 3.47 mm と なり,不安定群の方が有意に肥厚していることが判明した(図 8)(図 9)。 5.臨床的意義  このように,前距腓靭帯は再生能力が高く,受傷から長期経 過している症例では,MRI において前距腓靭帯の連続性が回 復しているように見えても,実は肥厚しており,その機能が低 下している可能性が予想される。このことから,足関節捻挫後 の不安定を訴える症例に対して,機能的不安定に目を向ける前 に,大前提として,画像を活用して,構造的不安定を把握する ことが大切だと考える。  関節可動域制限があると,遷延治癒の因子となることは先行 研究においてすでに報告されているとおりである。関節可動域 図 5 MRI 画像(断裂) 図 7 距骨傾斜角と MRI における前距腓靭帯の厚みの関係 図 6 MRI 画像(正常)

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制限の原因は様々あるが,構造的不安定はそのひとつとして挙 げられる。この構造的不安定の原因を的確に把握し,この障害 に対してテーピングやサポーター,インソールなどを用いて しっかり対処したうえで,機能的不安定の原因となる筋力や神 経の協調性を回復させることが大切ではないだろうか。筆者は 臨床においてこの順番で障害の把握をすることが鍵と考えてお り,症状が遷延化してしまった症例はこの順番とは逆に構造的 不安定を対処する前に,機能的不安定から先に対処してしまっ たケースのことが多いような印象をもっている。MRI 画像の 活用方法をまとめると,損傷初期の靭帯は断裂が確認できる。 この靭帯は関節包靭帯であるため,経過により修復が確認され るが,通常よりもおよそ 1 mm 肥厚していることが予想される。 肥厚している靭帯は,レントゲンストレス撮影による距骨傾斜 角と弱い相関があり,靭帯としての役割が低下している可能性 がある。  ちなみに,踵腓靭帯は膜のように薄く,腓骨筋腱とも重なっ ているため,通常の平面画像では確認が困難であり,最新の 3 テスラ MRI 装置と 3DMRI ソフトを用いることで確認できる と報告されている40)。この他,前脛腓靭帯や骨間距踵靭帯な どの描出もまだまだ議論が必要なところであり,撮影機器や技 術の進歩により,今後はさらに構造的破綻を検討できることを 願っている。 画像と理学検査の比較に関する研究  画像を活用して構造的不安定を把握することはとても大切だ が,スポーツ現場ではレントゲンや MRI 画像を撮影すること は容易ではない。これらに代わる画像診断装置として超音波検 査が挙げられるが,撮影技術に影響されることや,プローブの あて方による再現性に疑問が残る。またストレス検査機器とし てテロス SE(Telos medical, USA)が用いられているが,広 くスポーツ現場に浸透しているとは言い難い。さらに,術前の 徒手最大内反ストレステストと,術中の徒手最大内反ストレス テストは高い相関が認められたが,テロス SE でのストレステ ストの結果と徒手最大内反ストレステストの結果は相関が低い という報告もされている41)。そこで,著者らはスポーツ現場 で有用となる理学検査を探るため,レントゲンでの足関節内反 ストレス撮影による距骨傾斜角と複数の理学検査の関係を比較 し,理学検査から距骨傾斜角を算出する方法を検討した。以下 に研究の概要を報告する。 1.方法  理学検査として①足関節背屈可動域 ②足関節底屈可動域 ③踵骨内反角 ④前方引き出し距離 ⑤内返し距離 ⑥下腿内 旋可動域 ⑦下腿外旋可動域の 7 項目を測定した。理学検査の 方法として,踵骨内反角は他動的に足関節を最大に内返しさせ た肢位での,踵骨中央を通る線と,下腿の中央線がなす角度を 踵骨内反角と定義した(図 10)。内返し距離は他動的に最大内 返しをさせた肢位での,外果下端から第 5 中足骨底までの最短 距離をストレス距離とし,椅子座位にて膝関節屈曲 90 度,足 関節背屈 0 度での同部位の距離を基本距離として,その差を計 算した(図 11)。下腿外旋可動域は,内返し距離と同じ肢位に て大腿骨の長軸を基本軸とし,第 2 中足骨を移動軸として,他 動的に足部を内旋させ,2 つの軸によってなす角度を下腿内旋 可動域と定義した(図 12)。そして,これらを距骨傾斜角と比 較し,ステップワイズ重回帰分析にて検討した。 2.結果  解析の結果,踵骨内反角,内返し距離,下腿外旋可動域が採 用された。計算式は距骨傾斜角 = ‒ 15.708 + 踵骨内反角× 0.361 +内返し距離× 0.289 +下腿外旋可動域× 0.135 であった(p < 0.0001 r=0.814)。計算例として,踵骨内反角が 40 度,内返し 距離が 35 mm,下腿外旋可動域が 40 度の症例では,距骨傾斜 角は 14.25 度と予想される。これらの理学検査は,お互いに相 関しなかったため,独立した評価であり,それぞれが異なる靭 帯を評価している可能性があるのではないかと考えている。 3.臨床的意義  画像診断装置を用いて構造的不安定を正確に評価することは とても大切である。なぜならば捻挫による構造的不安定は一度 生じると生涯にわたり遺残してしまう可能性があるためであ る。現在は自覚的不安定感の少ない症例であっても,受傷して から長期経過していると,本人が覚えていないくらい昔に捻挫 の既往があって,無症状のまま構造的不安定を抱えており,後 図 8 MRI 画像(肥厚) 図 9  MRI における安定群と不安定群の前距腓 靭帯の厚みを比較

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になってから他の足部疾患で受診することがある。そのような 症例は,実は代償的に内側縦アーチを低下させて構造的不安定 を回避している可能性もある。しかし,自覚症状のない選手も 含めてすべての選手に画像検査を行うことは,被曝のリスク や,コストの問題,設備の問題などにより,容易ではないこと はあきらかである。そのため有用な理学検査を用いてより多く の選手をスクリーニングすることで,構造的不安定が疑われる ような選手にだけ必要な検査を勧めることができると考える。 これにより,構造的不安定を抱えている選手には,障害を発生 する前にサポーターやテーピングで補強することや,トレーニ ングの内容を考慮することができるなど,多くのメリットが存 在すると考える。 ま と め ・足関節捻挫は高率に発生するが,疼痛が寛解しやすいため, 不安定のみが遺残しやすく,このことが,二次的障害のリス クとなっている。 ・足関節捻挫の構造的不安定を把握するためには画像診断が効 果的であり,足関節の不安定を定量的に把握することで,将 来を見据えた治療戦略に役立てることが可能と考えられる。 ・スポーツフィールドで足関節の不安定を把握するためには画 像診断と相関する有用な理学検査が必要である。有用な理学 検査によって,選手の潜在的な構造的不安定リスクを把握す ることが二次的障害の予防に必要と考える。 謝辞:今回このような貴重な機会をいただきまして,広島大学 の浦辺幸夫教授をはじめ,群馬大学の坂本雅昭教授や運動療法 部会の先生方にこの場を借りて感謝の意を述べさせていただき たいと思います。今後もスポーツにおける理学療法の発展に全 力を尽くしていく所存です。 文  献

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図 10 踵骨内反角

図 11 内返し距離

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図 11 内返し距離

参照

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