だ液タンパク質(α-アミラーゼ)の分析
~電気泳動による分子量決定と酵素活性の測定~
人の体はさまざまなタンパク質から成り立っている。タンパク質とは、20 種のアミノ酸と いう物質が 100 個以上重合して出来る生体高分子である。髪の毛、爪、皮ふなどもタンパ ク質からできており、生体内のタンパク質には、これ以外にもいろいろな種類と機能があ る。このうち、ある化学反応を触媒するタンパク質を特に酵素(こうそ)という。酵素反 応の種類は多岐多様であり、生き物は酵素のおかげで食物を分解して必要な物質を消化吸 収することができたり、低分子化合物から必要な物質を合成したりすることができる。こ の SSH 高大連携事業では、①人のだ液中に存在するタンパク質を電気泳動法により検出し、 ②さらにだ液アミラーゼについてヨウ素―デンプン反応を利用した酵素作用(活性とい う)の検出を行うことにより、だ液中のタンパク質と酵素(α-アミラーゼ)のはたらき について理解を深めることを目的としている。 *この実験で自分のだ液を分析したい方は、実験前に採取します。実験① だ液タンパク質の SDS ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)
による分析
電気泳動について
電気泳動は、「電荷をもつ物質あるいは分子(イオン)を電場に置くと、その電荷と反対 符号の電極方向に移動をはじめる」現象である。電気泳動法は、このときの移動速度の違 いを利用してイオンを分離・分析しようという方法である。電気泳動は、核酸やタンパク 質など電荷を有する分子に適用されるが、電気泳動を行う目的は次のようなものがあげら れる。(1)あるタンパク質の精製の程度(純度)を調べる。(2)部分配列決定のためにタン パク質を分離・精製する(普通の精製が困難な場合)。(3)タンパク質を同定するため、等 電点、組成、分子量、特異反応(酵素反応、抗体との反応)を調べる。(4) タンパク質の 含量を定量する。(5) 各細胞内タンパク質の発現変化の追跡など。 電気泳動には、試料であるタンパク質をそのまま分析する方法(ポリアクリルアミドゲル 電気泳動:PAGE)や、タンパク質を変性させてから分析する方法(SDS-ポリアクリルアミ ドゲル電気泳動:SDS-PAGE)などがある。ここでは後者の SDS-ポリアクリルアミドゲル電 気泳動により、だ液中のタンパク質の分子量について調べる。-
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図1 タンパク質の電気泳動概念図 いろいろなタンパク質をゲル(ポリアクリルアミドゲル)に乗せ、電気をかけるとゲル中をタンパク質が 移動する(電気泳動)。ゲルの網目の大きさは一定で、タンパク質がゲル中を移動する距離は分子量や電 荷、会合状態に依存する。ゲルの上部(陰極)および下部(陽極)には緩衝液(pH を一定に保つ液)が満 たされており、ゲルを通して電気が流れる。SDS-ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動 (SDS-PAGE)
支持体としてポリアクリルアミド・ゲル(下図)を用い、タンパク質を変性条件下で実施 できるようにしたのが SDS-PAGE である。これはタンパク質をβ-メルカプトエタノール(β ME:還元剤)と SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)存在下で加熱し、タンパク質を変性させ、SDS が結合したポリペプチド鎖(立体的な形を持たないタンパク質)の状態とする。SDS の結 合量はタンパク質 1g あたり 1.4g であり、SDS が結合することによりタンパク質は負電荷 を持つ棒状の粒子となり、電気泳動による移動度は長さ(分子量)にのみ依存するため、 SDS-PAGE によりタンパク質の分子量を測定することができる。 図2 アクリルアミドの重合反応 アクリルアミドが重合して出来たポリアクリルアミドはゲル状の物質で、規則正しい網目構造を持つ。+SDS
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O S O -O O Na+ ドデシル硫酸ナトリウム(SDS) タンパク質 変性したタンパク質 (ポリペプチド鎖)高分子の分子量表記
タンパク質のような高分子の分子量(分子質量ともいう)は一般に数値が大きいため、分 子量に単位(D:ドルトン)を付け、キロ(K;103)やメガ(M:106)を使用してケタ数を減らすこ とで簡便に表示できる。例えば、分子量が 114,000 のタンパク質の場合、この表記法で 114 KDa と簡便に表すことができる。試薬・装置
*こちらで準備してあります。 ① ポリアクリルアミドゲル ② 電気泳動装置 ③ 泳動用緩衝液 (25mM Tris-192mM Glycine 緩衝液 (pH 8.3)+0.1% SDS) (①~③は組み立ててあります) ④ マイクロピペット P-20 (1~20μl を取る時に使います)、チップ ⑤ 試料処理液(色素,βME,SDS を含む) ⑥ 分子量マーカー ⑦ だ液試料 ⑧ 1.5ml マイクロチューブ実験手順
(1) だ液試料(⑦)10ul および試料処理液(⑤)2ul をマイクロチューブに入れる。 混合し、100℃,5 分加熱する。 (2) ポリアクリルアミドゲル中のレーン(溝)に、(1)の試料 5μl をマイクロピペットを 用いて静かに注入する。各自、1 レーンずつ使用する。分子量マーカー(⑥)は、その まま 5ul を空いているレーンに注入する。 (3) 電気泳動装置の電源をセットし、約 30 分間電気泳動を行う。 (4) 泳動終了後、ゲルを取り出し、染色液で 30 分間加温染色する。 図3 ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の作用 SDS は界面活性剤(洗剤の仲間)の一種で、タンパク質の三次元的な形を破壊し、機能を失わせる(変 性という)。(5) 脱色液で 30 分間加温脱色する。ゲル中のタンパク質があるところ(バンド)は染色 されたままであるが、その他の部分は脱色される。その後、ゲルを写真撮影する。 (6) 分子量マーカーと対比させ、だ液中のタンパク質の種類と分子量を推定する。 (参考)電気泳動からの正確な分子量を求める ためには、まず図 5 のように、分子量マーカー の各バンドの Rf 値を求めます。これを用いて、 横軸に分子量マーカーの Rf 値(表1)、縦軸に log10(分子量)をプロットしたグラフ(検量線: 図 6)を作成します。得られた直線の式を y= ax + b とします。次に、試料の各バンドの相対移 動度(Rf という)を求め、先ほどの式の x に代入 して、y を求めます。求めるタンパク質の分子 量は、10 y (KDa)となります。 図5 電気泳動 (SDS-PAGE) の例 1.分子量マーカー, 2.~4. 試料の例 タンパク質はバンドとして検出される。 各バンドの相対移動度 (Rf) は Y/X で求められる。 Xはゲルの上端から下端までの長さ、Yはゲルの 上端から各バンドの位置までの長さである。