英語の音声教育と音声研究
英語の音声教育の問題点
初級段階での不十分な指導
初級向けの良い発音教材がない
きちんとした発音を学びたいという動機(付
け)の欠如
その結果、自己流の発音が固まってしまい、
後での矯正が困難になっている。(大学で
音声学を学んでも焼け石に水)
初級段階での不十分な指導
入門期の発音指導では、一部の困難と思われる 音素以外は扱われない(時間不足のため?) ⇒ 残りの音素は自習するしかないが、教材がない ため実行されない アクセント/イントネーションの指導は殆ど皆無 ← 教員の側の知識にも問題がある ← 日英語対照プロソディーの研究が未成熟で、英 語音声学の教科書を見ても全ての英語教員が 把握できるレベルになっていない初級向けの良い発音教材がない
検定済み教科書は殆ど発音の説明がない 学習用英和辞典の発音解説にも、的確なものと そうでないものがある。 検定済み教科書に gloss が付いているために、中学 段階で辞書を買う人も少ない(英語学習全般の問題) 市販の発音学習本は(音声の専門家が書いてい ないため?)必ず何らかの誤りを含んでおり、信 頼性が低い 荒唐無稽な“新説”を振りかざす「トンデモ本」も数多く あるきちんとした発音を学びたいとい
う動機(付け)の欠如
仮に入門期できちんと発音を学ぶことができても、 それを継続して使い続ける生徒がどれほどいる のか? 普通の授業や試験では「発音がいいこと」による メリットなし(むしろ、周囲からの同化圧力の方が 強い?) 大学入試センター試験へのリスニングテスト導入 で今後は変わる? 但し、リスニングの必要性が自らの発音重視に直結 するとは限らないなすべきこと
入門期の発音指導に対する発想の転換(全ての 音素を教えて全体像を見せる) ←検定教科書の内容を充実させるか、初級用の (内容の正しい)発音教材の提供 教員の知識水準の向上 ←教員養成上の問題 ←既存の教員の再研修の問題 いずれにしても、英語音声学の入門書の質を向上 させる必要がある英語音声研究の課題
日英語対照音声学をもっと押し進める必
要がある
目標言語である英語の発音の現状の把握
学習者の日本語の発音の実態の把握
学習者の英語発音の実態の把握
目標言語である英語の発音の
現状の把握
暗黙のうちに「アメリカ発音」がモデルとさ
れている
しかし、アメリカ発音の記述的研究は本国
では盛んでない
ESL指導用の発音モデルはあるが、音素
に関しては実態との乖離も指摘される。プ
ロソディーに関しては体系的記述はほとん
どない
目標言語である英語の発音の
現状の把握
ラボブ(Bill Labov)らによる『北米英語地図』 (2006)の刊行により、音素記述のレベルは向上 した Buckeye Corpus などが構築され、連続音声の 実態を調査する環境は整いつつある プロソディーに関しては、ToBI (Tone and Break
Index) による理論的研究が進んでいる
いずれも、学習用記述にどのように取り入れるかが これからの問題
目標言語である英語の発音の
現状の把握
イギリス発音の方が、継続的に Gimson’s Pronunciation of English が改訂されるなど、記 述は整備されている(但し、RPの一枚岩は徐々 に崩れつつある) ※現状では、入門段階を超えた英語音声学を学ぶには、イ ギリスの教材を使わざるを得ない。アメリカ発音指向の日 本としては「ねじれ」が存在している。 アメリカ発音をモデルとするのがいいのかどうか?Lingua Franca Core など、学習発音の単純化も提唱さ れている
学習者の日本語の発音の実態
の把握
英語の発音を教えるのにどの点に注目するべきかを知 るためにも不可欠 「古典的」な日本語発音の知識では、的外れな指導をし てしまう可能性がある /s/ を [θ] で発音する傾向 母音間の /d/ を [ð] で発音する傾向など 「日本語話しことばコーパス(Corpus of Spontaneous Japanese)」が構築され、環境は整いつつある学習者の英語発音の実態の把
握
これは入門期の指導には直接関係はないが、現 に発音指導が不十分なまま進んでしまった大多 数の学習者の発音を向上させるための基礎資 料として不可欠 従来は、英語発音/音声学の書籍の執筆者の 経験則による記述が行われてきた。私自身の 『日本人のための英語音声学レッスン』も例外で はない より客観的な記述が望まれる学習者の英語発音の実態の把
握
英語の他の部分では「学習者コーパス」が構築さ れ利用されているが、発音については立ち後れ ている 既存の電子テキストを取り込んでしまえばよい文 字コーパスと違い、音声コーパスに関しては、音 声学の技能を持った人が手作業で転写を行わな ければならない。これだけでも困難な作業となる 母語コーパスと違い、学習者コーパスでは何が 出てくるのか予想が付きにくいため、転写は更に 困難である学習者の英語発音の実態の把
握
学習者の音声を録音した「音声データベース」な ら存在する。(主に工学的目的のために収録) そのようなものの一つとして、東大工学部が中心 になって収録した「英語学習者音声データベース (English Learner’s Speech Database)」がある。 これは日本各地の大学生が、TIMIT音素バラン
ス文を中心とした単文を読み上げて録音したも の。同じ文を多人数が録音しているため、モデル 音声とのずれの変異も観察できる。