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中村 福間 金子 小林 肉流通センターの方法 (2002) に準拠して部分肉に分割 ( トリミング含む ) された. ソトモモの一部であるシキンボを材料筋肉として用いた. シキンボ (2.6 ± 0.2 kg,n = 32) は秤量後, 真空包装されたが, 乾燥熟成用のみガーゼ状のミートラッパーで包

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緒  言

 わが国では食肉を加工および販売する場合,食品衛 生法第 19 条の規定により,官能検査および微生物検 査などを行い食肉に消費期限または賞味期限を表示す る必要がある.例えば,解凍後,真空包装されたウシ 部分肉の可食期間(加工日を含めない最長期間)は, 0℃保存では 61 日間,2℃では 45 日間ならびに 4℃ では 26 日間のように設定される(日本食肉加工協会 2006).従って,現状では真空包装後に冷蔵で流通す る期間にも熟成が進行すると考えられる.  と畜直後の牛肉は獣臭があり生臭いが,熟成処理を 行うことにより食味の向上が期待できる.例えば,熟 成により牛肉は柔らかくなり(中村ら 2011;柳原ら 1995),食味に関与する遊離アミノ酸含量が増加する (常石ら 2008).また,牛肉の熟成方法は冷蔵庫のみ で可能となる冷蔵熟成の他にも,氷温熟成や ‘ ドライ エージング ’(以下,乾燥熟成)などの特殊な熟成技 術がある.例えば,‘ 氷温 ’ は株式会社氷温研究所(鳥 取県米子市)が商標登録(第 1487248 号)して研究開 発を行っており,これまでに様々な食品について氷温 熟成技術を実用化してきたが(山根ら 1982),牛肉な どの畜肉類に適用し商品化した事例はほとんどなく研 究報告も少ない(東ら 2000).福間ら(2012)は豚肉 を用いて氷温熟成(− 1℃,5 日間)を行ったところ, 筋肉部分の遊離アミノ酸含量の増加に加えて,脂肪部 分の遊離脂肪酸組成の変化や脂肪融点の低下などを報 告した.前報(中村ら 2015)では周年放牧肥育技術 により飼養された褐毛和種去勢雄牛の胸最長筋を用い て,氷温熟成(− 1℃,40 日間)の影響を調べたとこ ろ,破断強度の低下や遊離アミノ酸総量の有意な増加 (約 2 倍)が見られた.一方,乾燥熟成は温度,湿度, 風力ならびに微生物を制御して独特の香りと柔らかさ を牛肉に付加する技術である(Perry 2012).わが国 では日本ドライエイジングビーフ協会により普及活動 が行われているが,特に,微生物の制御について高度 な技術を要するために,同協会に認定された熟成業者 は数社程度であり商品化された事例も少ない.折目ら (2011)は粗飼料 100%で飼養された日本短角牛の最 長筋を用いて冷蔵熟成と乾燥熟成による効果を調査し た.その結果,学生や主婦などの消費者による官能評 価では乾燥熟成の方が香り,風味ならびに食感の項目 で有意に高く評価されたと報告した.しかし,部分肉 形態での実際の流通を想定し,同じ部位を用いて様々 な熟成方法による肉質の変化を比較検討した報告は見 られない.  そこで,本研究ではホルスタイン種去勢雄牛の半腱 様筋を用いて,様々な熟成処理および熟成期間が肉質 に及ぼす影響について調査した.

材料および方法

1.材料筋肉の前処理  平成 26 年 8 月から平成 27 年 5 月までの間に,宮崎 県内のホルスタイン種肥育専門の慣行肥育農家から 一般のと畜場に出荷されたホルスタイン種去勢雄牛 16 頭 [ と畜時体重:774(平均値)± 32(標準偏差) kg,と畜時月齢:19 ~ 23 ヵ月齢,肉質等級:2 等級 ] を用いた.供試牛は,と畜後,(公社)日本食肉格付 協会の専門格付員により判定および評価され,日本食

要 約    ホルスタイン種去勢雄牛 16 頭の半腱様筋を用いて,熟成処理の違いが肉質に及ぼす影響を調査し

た.熟成処理は無処理(NA),冷蔵熟成(2˚C で 38 日間;WA),氷温熟成 [ − 1˚C で 54 日間(HA-S)と 108 日 間(HA-L)] ならびに乾燥熟成(2˚C で 38 日間;DA)に区分した.NA に比べて WA と HA-S でドリップロスが 有意に増加した.HA-L と DA で破断強度が有意に低下し,DA で過酸化物価が有意に上昇した.WA で一般生菌 数が有意に増加したが,大腸菌群数は全ての検体で陰性だった.遊離アミノ酸総量は有意に増加し,特に HA-L で 顕著であった.また,脂肪融点,タウリンとカルノシン含量,遊離アミノ酸組成は変化しなかった.と畜後の熟成 処理により肉質は変化し,熟成方法によりその変化は異なることが示唆された. 日本暖地畜産学会報 60(1): 51-55, 2017

キーワード:半腱様筋,ホルスタイン種,熟成方法,肉質

技術報告

熟成処理の違いがホルスタイン種去勢雄牛モモ肉の

肉質に及ぼす影響

中村好德・福間康文

1

・金子 真・小林良次

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 1株式会社 氷温研究所 (受付 2015 年 9 月 14 日:受理2016 年 11 月 4 日)

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肉流通センターの方法(2002)に準拠して部分肉に分 割(トリミング含む)された.ソトモモの一部である シキンボを材料筋肉として用いた.シキンボ(2.6 ± 0.2 kg,n = 32)は秤量後,真空包装されたが,乾燥 熟成用のみガーゼ状のミートラッパーで包装された. その後,熟成処理まで冷却,加工ならびに輸送などに 要する 5 ~ 7 日間を 0 ~ 2℃で冷蔵保存された. 2.熟成処理  供試牛の左半丸からの部分肉は ‘ 無処理 ’(n = 16) へ,一方,右半丸からの部分肉は‘冷蔵熟成’(n = 4),‘氷 温熟成 ’(n = 8)ならびに ‘ 乾燥熟成 ’(n = 4)とし て熟成処理を行った.冷蔵熟成は 2℃で 38 日間,氷 温熟成は− 1℃で 54 日間(以下,短期:n = 4)およ び 108 日間(以下,長期:n = 4),一方,乾燥熟成は 2℃で 38 日間行った.熟成期間はと畜から熟成処理開 始までの期間を含めずに設定した.また,冷蔵熟成お よび氷温熟成(短期)の熟成期間は日本食肉加工協会 (2006)の方法に準拠し,実際の流通期間の中で最長 の熟成可能期間を設定した.しかし,氷温熟成(長期) および乾燥熟成については日本食肉加工協会(2006) の方法が適用されないため,仮想の熟成期間として設 定した.  温度以外の環境条件については,冷蔵熟成および氷 温熟成は湿度や風力などの制御は行われなかった.し かし,乾燥熟成は湿度 70%およびスタンド式工業扇 を用いた強風の環境下に置いた.熟成処理はいずれも 熟成専門業者へ委託し,冷蔵熟成および氷温熟成は株 式会社氷温研究所(鳥取県米子市)で行い,使用機器 は冷蔵熟成についてはインキュベーター(MIR-153, 三洋電機,大阪)を,氷温熟成については氷温研究所 オリジナルタイプ(プレハブ型,日本軽金属,東京) を用いた.また,乾燥熟成については日本ドライエイ ジングビーフ協会の技術認定業者である株式会社丸菱 (熊本県益城町)の乾燥熟成庫を用いた.熟成処理後 の部分肉は直ちに分析に供した.しかし,乾燥熟成に ついては,熟成後に表層のトリミング,真空パックな らびに冷蔵輸送を行ったため,24 時間以内に分析に 供した. 3.分析項目および方法  熟成に供試した部分肉であるシキンボから半腱様筋 (M. semitendinosus)を摘出して筋膜などの表層部 を約 1 cm 除去した後,分析に供した.また,乾燥熟 成後は部分肉の表面が黒褐色に変化したが,半腱様筋 を摘出前にこれらの部位は削除された.分析には半腱 様筋の前,中および後部から等量を採取し,よく混合 したものを用いた.肉質調査は家畜改良センターの技 術マニュアル(2010)を参考にして行われた.と畜か ら肉質調査までの間に材料筋肉の凍結は行われなかっ た. ①物性  材料筋肉を筋線維に対して垂直にカットした 1 cm 厚のスライス肉を作製し,ホットプレートで表裏を 200℃でそれぞれ1分間加熱後,室温で5分間放冷した. その後,レオメーター(RT-3002D,レオテック,東 京)を用いて直径 5 mm の円形プランジャーを 6 cm/ 分の速度で挿入して,得られた波形より破断強度を算 出した. ② pH  卓上型 pH メータ(F-52,堀場製作所,京都)を用 いて,等量の冷蒸留水を加えてホモジナイズした材料 筋肉に電極を挿入して pH 値を測定した. ③過酸化物価  材料脂肪から Folch 法を用いて脂質を抽出後(Folch ら 1957),日本油脂化学協会法で過酸化物価を測定し た(菅原と前川 2000). ④一般生菌数および大腸菌群数  表層から深部までを含む材料筋肉をよく混合して用 い,寒天平板法で測定した(菅原と前川 2000).培養 条件は,一般生菌数については標準寒天培地(極東製 薬工業,東京)を用いて 37 ± 1℃で 48 時間行い,一 方,大腸菌群数についてはデゾキシコレート培地(日 水製薬,東京)を用いて 35 ± 1℃で 24 時間とした. ⑤脂肪融点  材料脂肪から Folch 法を用いて脂質を抽出後(Folch ら 1957),毛細管に抽出脂質を吸い上げて分析まで冷 凍保存した.その後,加熱により毛細管中の脂肪の溶 解温度を測定して上昇融点を求めた. ⑥核酸関連物質,遊離アミノ酸,タウリンならびにカ ルノシン含量  核酸関連物質[アデノシン三リン酸(ATP),アデ ノシン二リン酸(ADP),アデノシン一リン酸(AMP), イノシン酸(IMP),イノシン(HxR)ならびにヒポ キサンチン(Hx)],遊離アミノ酸[アラニン(Ala), アルギニン(Arg),アスパラギン酸(Asp),システ イン(Cys),グリシン(Gly), ヒスチジン(His),イ ソロイシン(Ile),ロイシン(Leu),リジン(Lys), メチオニン(Met),フェニルアラニン(Phe),プロ リン(Pro),セリン(Ser),スレオニン(Thr),チ ロシン(Tyr)ならびにバリン(Val)]ならびにタウ リン(Tau)は次の方法で測定溶液を作製した.材料 筋肉 2 g に 10%過塩素酸溶液 10 mL を加えて 10,000 回転で 1 分間混合し,4℃で 30 分間静置後に濾過した. さらに,濾紙上の残渣に 5%過塩素酸溶液 10 mL を 加えて濾過し,この手順を 4 回繰り返した.濾過溶液 を水酸化カリウムで中和し 4℃で一晩静置した.その 後,100 mL に定容してマイクロフィルター(ポアサ イズ 0.45 μ m)で濾過したものを測定溶液とした[オ ルトフタルアルデヒド(OPA)法用測定溶液].  一方,上記以外の遊離アミノ酸[グルタミン(Gln), グルタミン酸(Glu)]ならびにカルノシン(Car)は 次の方法で測定溶液を作製した.即ち,材料筋肉 10

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g に最終濃度が 80%になるようにエタノール溶液 40 mL を加えて,85℃湯浴中にて還流抽出を 20 分間行 った.得られた溶液を 100 mL メスフラスコに濾過し, 残渣に 80%エタノール溶液を 40 mL を加えて再び還 流抽出後に濾過した.さらに残渣を 80%エタノール 溶液で洗浄しながら 100 mL に定容した.抽出溶液に 等量の 3%スルホサリチル酸溶液を加えて,除蛋白後, マイクロフィルター(ポアサイズ 0.45 μ m)で濾過 して測定溶液とした[フェニルチオカルバミル(PITC) 法用測定溶液].  次に測定前の処理を示す.PITC 法用試料溶液 20 μ L を 1.5 mL マイクロチューブに分取して凍結乾燥 した後,エタノール / 蒸留水 / トリエチルアミン混 合液(2/2/1)20 μ L を加えて撹拌し凍結乾燥した. その後,エタノール / 蒸留水 / トリエチルアミン / PITC 混合液(7/1/1/1)20 μ L を加えて撹拌して室 温で 20 分間静置し凍結乾燥した.最後に,移動相溶 液 A[Acetonitrile/60 mM Acetate buffer(pH 6.0) (6/94)]を 1 mL 加えてマイクロフィルター(ポアサ

イズ 0.45 μ m)で濾過して分析に供した.

 分析操作条件は,核酸関連物質分析については機種, Shimadzu LC-10A;検出器,Shimadzu SPD-6AV(UV 260 nm);カラム,Ashahipak GS-320 HQ(直径 7.5 × 300 mm);カラム温度,30℃;移動相,200 mM Phosphate buffer(pH 3.0); 流 量,0.6 mL/min な らびにデータ処理装置,Shimadzu C-R7A Plus とし た.遊離アミノ酸分析については,OPA 法について は機種,Shimadzu LC-20A;検出器,Shimadzu RF-10AXL(Ex 348 nm,Em 450 nm); カ ラ

ム,Shim-Pack ISC-07/S1504(Na);カラム温度,55℃;移動相, Citric acid buffer(pH 3.22);反応液,A:NaClO,B: OPA;流量,0.3 mL/min ならびにデータ処理装置, Shimadzu C-R8A とした.一方,PITC 法については 機 種,Shimadzu LC-10A; 検 出 器,Shimadzu SPD-6AV(UV 254 nm); カ ラ ム,Wakopack WS-PTC (直径 4.0 × 200 mm);カラム温度,40℃;移動相 A お よ び B,Acetonitrile/60 mM Acetate buffer(pH 6.0)(60/40);流量,1.0 mL/min ならびにデータ処 理装置,Shimadzu C-R7A Plus とした.

 鮮度の指標として一般的に用いられる核酸関連物質 の K 値は小関ら(2006)を参考にして次式から算出 した.   K 値(%) = (HxR + Hx)/(ATP + ADP + AMP + IMP + HxR + Hx)× 100.  一方,遊離アミノ酸総量は次式から算出した.  遊離アミノ酸総量(mg/100g)=

  Ala + Arg + Asp + Cys + Gly + His + Ile + Leu + Lys + Met + Phe + Pro + Ser + Thr + Tyr + Val + Gln + Glu.

4. 統計処理

 肉質データは熟成処理の有無による比較を行い,各

分析項目について一元配置分散分析と Tukey 法に

よる多重比較検定を用いた.統計処理ソフトは IBM SPSS Statistic 10.0J for Windows(IBM,Chicago, USA)を用いた.

結果および考察

 熟成処理による肉質の変化を表 1 に示した.ドリッ プロスは無処理に比べて冷蔵熟成および氷温熟成(短 期)において増加したが(P < 0.05),氷温熟成(長期) および乾燥熟成では変化がなかった(P > 0.05).また, 乾燥熟成では部分肉の重量(2.5 ± 0.1 kg,n = 4)が 熟成後に 2.1 ± 0.1 kg となり,約 400 g の水分が蒸発 したことが明らかになった.黒褐色に覆われた表面を トリミングすると 1.6 ± 0.2 kg となり,商品としての 最終歩留は 63 ± 5%であった.  破断強度は無処理に比べて氷温熟成(長期)および 乾燥熟成で低下した(P < 0.05).熟成期間中に牛肉 の硬さは組織構造の崩壊を伴い徐々に低下する(根 岸ら 1991;Palka 2003).柳原ら(1995)は 64 日間 まで冷蔵熟成した結果,30 日間以上では牛肉の硬さ は一定になることを報告した.一方,前報(中村ら 2015)において,褐毛和種去勢雄牛の胸最長筋を用い て,40 日間の冷蔵熟成と氷温熟成が破断強度に及ぼ す影響を調査したところ,両者の間に違いはなかった. しかし,本研究では冷蔵熟成および氷温熟成(短期) に比べて,108 日間の氷温熟成後の破断強度は低下し た(P < 0.05).一方,折目ら(2011)は 30 日間の乾 燥熟成後の牛肉の柔らかさは官能検査において評価が 高くなり,この特徴は結合組織の脆弱化と関係がある ことを示唆した.牛肉の品質に及ぼす氷温熟成や乾燥 熟成などの特殊な熟成技術の影響は解明されていると は言い難い.今後,筋肉の組織構造の変化なども含め て熟成方法と熟成期間の関係について追究する必要が ある.  過酸化物価は乾燥熟成で 0.95 から 2.09 meq/kg と 上昇した(P < 0.05).過酸化物価(油脂中に含まれ る過酸化物の量)は油脂の劣化の程度を示す指標とし て用いられる(今堀と山川 1998).食肉製品について の過酸化物価の規制値はないが,他の食品(例えば, 即席めん類)の規制値である 30 meq/kg 以下(厚生 労働省 1959)と比べても明らかに低いため,本研究 の結果は公衆衛生上の問題となるレベルではないと考 えられた.また,pH は 5.44 ~ 5.57 で推移し,脂肪融 点にも熟成処理による影響は見られなかった.  一般生菌数は,無処理が 101.3 CFU/g であったのに 対して熟成処理により 103.7 CFU/g 以上に増加し,特 に,冷蔵熟成で 104.2 CFU/g と増加した(P < 0.05). しかし,大腸菌群数は全てのサンプルで陰性であった (表 1).日本食肉加工協会(2006)によると食肉の期 限設定検査項目のうち,微生物検査においては一般生 菌数を 108.0 CFU/g 以上を異常値としている.日本食 肉加工協会(2006)が示す食肉に関する期限表示フレ ームには,保存温度が− 15℃以下,0℃以下,2℃以

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下ならびに 4℃以下の区分しかないため,氷温熟成(− 1℃)を行う場合は 0℃で 61 日間が最長の可食期間と して適用される.しかし,本研究では 108 日間の氷温 熟成を行っても,一般生菌数については衛生状態に異 常が見られない可能性が示された.氷温熟成は食肉中 の微生物繁殖を抑制する可能性が示唆されているが (東ら 2000),真空パック中で増殖が懸念される嫌気 性細菌についても同様の調査が必要である.一方,本 研究の結果から,期限表示フレームに記載される熟成 期間内では,乾燥熟成に衛生的な問題はないと考えら れた.しかし,乾燥熟成後の黒褐色な表層部について は除去しており微生物検査などを行っていない.今後, 水分活性などの微生物繁殖に関係する項目ついても調 査し,乾燥熟成された牛肉において一般生菌数の増殖 が抑制された原因を明らかにする必要がある.  核酸関連物質含量については,特に,熟成後の IMP 含量の減少と Hx 含量の増加が見られた(P < 0.05).魚肉において鮮度の指標として用いられる K 値(小関ら 2006)は,無処理の 28%から熟成後は 78 ~ 84%まで上昇したが(P < 0.05),熟成方法による 違いは見られなかった.遊離アミノ酸総量は,無処理 が 101 mg/100g であったのに対して,熟成後は 248 ~ 576 mg/100g と増加した(P < 0.05).特に,氷温 熟成(長期)では熟成後に 5 倍以上に増えた.しかし, タウリンおよびカルノシン含量は熟成方法の影響は 見られず(表 1),遊離アミノ酸組成も熟成方法の影 響を受けなかった(データは示していない).折目ら (2011)は 30 日間の乾燥熟成では冷蔵熟成よりも遊離 アミノ酸含量が約 1.8 倍増加し,甘味に関与するアミ ノ酸も約 1.6 倍増加することを報告した.常石ら(2008) は冷蔵熟成では各遊離アミノ酸の増加割合に差がある が,蛋白質構成アミノ酸でないタウリンや,ジペプチ ドであるカルノシン含量は熟成により変化しないと報 告した.本研究でも熟成処理により各遊離アミノ酸含 量は増加したが,タウリンおよびカルノシン含量は変 化しなかった(表 1).  本研究の結果から,流通過程において熟成処理を行 うと,部分肉の品質は変化すること,また,熟成方法 によりその変化は異なることが示唆された.本研究で は冷蔵熟成と氷温熟成(短期)については実際の流通 期間の中で最長の熟成可能期間を設定したが,氷温熟 成(長期)と乾燥熟成については日本食肉加工協会 (2006)の方法が適用されないため,仮想の熟成期間 を設定し調査するに止まった.今後,調査件数を増や すとともに,物理化学的評価に加えて官能評価も組み 合わせて調査し,それぞれの熟成方法の影響を追究す る必要がある.

謝  辞

 材料筋肉の採材についてはゼンカイミート株式会社  犬童良行氏にご協力頂きました.また,乾燥熟成につ いては株式会社丸菱 吉田裕喜氏ならびに平松和重氏 にご協力を頂きました.ここに深甚なる謝意を表しま す.

ドリップロス(%) 0.04 ± 0.04a 0.35 ± 0.15b 0.21 ± 0.12b 0.11 ± 0.04a 0.02 ± 0.01a 破断強度(g) 1,073 ± 92a 1,020 ± 82ab 989 ± 38ab 813 ± 76b 818 ± 205b

pH 5.46 ± 0.09 5.44 ± 0.09 5.49 ± 0.14 5.55 ± 0.06 5.57 ± 0.03

過酸化物価(meq/kg) 0.95 ± 0.71a 2.01 ± 0.26ab 2.01 ± 0.53ab 1.74 ± 0.37ab 2.09 ± 0.89b 一般生菌数(log of CFU/g) 1.3 ± 1.1a 4.2 ± 5.4b 3.7 ± 4.0ab 4.0 ± 4.3ab 3.7 ± 3.8ab 大腸菌群数

脂肪融点(℃) 20.8 ± 6.6 20.3 ± 2.3 16.8 ± 0.6 16.4 ± 0.7 27.6 ± 8.1

核酸関連物質含量†(μmol/g)

ATP 0.23 ± 0.06 0.21 ± 0.02 0.19 ± 0.05 0.14 ± 0.07 0.16 ± 0.05

ADP 0.36 ± 0.10 0.30 ± 0.03 0.29 ± 0.09 0.30 ± 0.05 0.30 ± 0.08

AMP 0.45 ± 0.08a 0.37 ± 0.02ab 0.35 ± 0.07ab 0.35 ± 0.04ab 0.28 ± 0.09b IMP 4.42 ± 0.47a 0.26 ± 0.03b 0.44 ± 0.37b 0.21 ± 0.12b 0.56 ± 0.51b HxR 1.01 ± 0.21a 1.15 ± 0.13a 1.05 ± 0.36a 0.36 ± 0.13b 0.89 ± 0.43a Hx 1.12 ± 0.25a 4.10 ± 0.14bc 3.52 ± 0.96b 4.83 ± 0.29c 3.58 ± 1.07b K値‡(%) 28 ± 5a 82 ± 0b 79 ± 4b 84 ± 1b 78 ± 7b 遊離アミノ酸総量§(mg/100g) 101 ± 20a 369 ± 60b 248 ± 60c 576 ± 64d 292 ± 121bc タウリン含量(mg/100g) 44 ± 12 51 ± 22 37 ± 12 48 ± 14 55 ± 23 カルノシン含量(mg/100g) 306 ± 77 340 ± 33 248 ± 156 373 ± 67 329 ± 107 熟成処理 (n = 4) (乾燥熟成n = 4) 分析項目 (無処理n = 16) (n = 4) a,b,c,d:一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定により異符号間に有意差(P < 0.05)あり. 平均値 ± 標準偏差. †アデノシン三リン酸(ATP),アデノシン二リン酸(ADP),アデノシン一リン酸(AMP),イノシン酸(IMP),イノシン (HxR)ならびにヒポキサンチン(Hx).

K値(%) = (HxR + Hx)/(ATP + ADP + AMP + IMP + HxR + Hx)×100.

冷蔵熟成 §遊離アミノ酸総量(mg/100g) = アラニン + アルギニン + アスパラギン酸 + システイン + グリシン + ヒスチジン + イソロイシン + ロイシン + リジン + メチオニン + フェニルアラニン + プロリン + セリン + スレオニン + チロシン + バリン + グルタミン + グル タミン酸. 陰性 陰性 陰性 陰性 陰性 (n = 4) 氷温熟成(短期) 氷温熟成(長期) 表 1.熟成処理の違いがホルスタイン種去勢雄牛の半腱様筋に及ぼす影響

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参照

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