中学校社会において新聞を教材化するための視点と手順 ― 公民的分野「少子高齢化社会」を題材に ―
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(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第9号. 自由投稿論文. 中学校社会において新聞を教材化するための視点と手順 ― 公民的分野「少子高齢化社会」を題材に ― 池田 泰弘*1・森 健一郎*2. 概 要 平成33年度から完全実施される次期学習指導要領では、新聞が教材として位置付けられ、新聞活用 への期待が高まっている。しかし、新聞を教材化する具体例が現時点では少ないため、教師にとって 新聞の活用が困難であるという課題が存在する。本稿の目的は、中学校社会科における新聞の教材化 の一例を紹介することである。本稿では、新聞を活用する授業の充実を図るために、 「新聞記事を読 み取る問題」と「新聞記事から考える問題」について具体的に示した。このことで、新聞活用の普及 に資することができると考えた。今後の課題は、新聞を活用する授業の単元構成を明らかにすること や教材化の視点・手順の精緻化などである。. 1.はじめに 新聞を活用する教育はNIE(Newspaper in Education)と呼ばれている。日本新聞教育文化財団が 2009年に実施したNIE効果測定調査によれば、新聞の活用は児童・生徒の文章の読解力や語彙力の向 上、社会への関心の高まり、調べ学習での有効性が報告されている1)。教師への調査では、子どもが 社会への関心を高めることや多面的な見方・考え方を身に付けることなど学習能力の向上に対する期 待が高いと指摘されている。しかし、教材研究の時間が不足しているため記事の活用が難しいと回答 した教師も多い。この調査から、教師はNIEの有効性を認めているが、新聞活用の課題として新聞を 授業で取り入れる難しさを挙げることができる。 平成29年3月に告示された学習指導要領総則では、新聞を教材の一つとして位置づけている。社会 科においては、新聞を学習過程において資料として活用することが明記された。新聞を活用する学習 は、子どもの言語能力や情報活用能力、あるいは思考力・表現力・表現力の育成につながる。子ども が新聞を読み取り、その情報をもとに思考・判断し、自らの考えを表現することは生きる力を育む上 で必要な資質・能力である。こうした資質・能力を育むためには、教師が新聞を教材化する方法、ま たは教材化するための視点をもっていることが前提となる。しかし、新聞記事を活用する具体的な実 践例は現時点ではあまり提示されていないため、新聞活用に難しさを感じてしまう実態もある。 中学校社会科において新聞は、教材の一つとして従来から活用されてきた。先行研究によれば、日 本のNIE研究は授業づくりや実践研究が多い2)。新聞活用における教材化の方法に着目した報告は NIEの授業開発の基盤となる役割を果たすことが期待できる3)。本稿では、中学校社会科における新 ───────────────────── *1. 釧路市立北中学校. *2. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)釧路. 189.
(3) 池田 泰弘・森 健一郎. 聞記事の教材化の一例を紹介したい。. 2.新聞を教材化する視点と手順 ⑴ 教材化の視点 一般的に、新聞は国民に社会の出来事を端的に短時間で伝達することや、大量の情報を面や欄を通 して伝えている。学校教育との関連では、 新聞は児童・生徒用を対象に発行される紙面ではないため、 教育用に教材として変換する必要がある。 教材とは、教師と子どもとの関係において、 「 『教育内容』が学習されるように学習者に与えられる 4) であり、教材の質が授業の質に影響する。教材化とは、 「授業者の素材の研究を基礎として、 もの」. 教育目標や単元の目標、学習者の実態を考慮し、何をどのような順序で教え・学ばせたらよいかにつ 5) と定義されている。 いて、 “順次性の原則”を考慮しつつ、授業の展開に即して明らかにすること」. 一般的に、教材化の視点として樋口ら(2002)の4点が挙げられる。 ① 教材で学習することを通して、学習者に授業者が願うことは何か。 ② 教材による学習を通して、授業者が学習者に学ばせたいと期待する内容は何か。 ③ 素材の学習にあたって学習者がつまずくと予想されるところはどこか、またそれをどのように 対処するか。 ④ 素材を学習者の興味・関心を考慮しながら、学習者の立場に立って教材化できているか。 教科の学習において、教材は子ども自身で選ぶことができないため、教師の教材選択が授業の在り 方を左右する。では、社会科における新聞記事の教材化はどのような手順で進められるのだろうか。 ⑵ 教材化の手順 この教材化の4つの視点を踏まえると、教師が新聞記事を教材化する手順は次のようになる。 ① 記事を保管・保存する 新聞の発刊は一時的なものであるため、 授業で使える記事を「保管・保存」することになる6)。デー タの保存形式は、一例としてPDFやJPEGが挙げられる。データの利点は記事を散逸させることなく 保存できることであるが、保存時のファイル名を工夫することで、検索性を上げることもできる。な お、新聞記事を学校で利用する時は、著作権法との関係で留意点が存在する7)。あくまで法令の範囲 内で記事を利用することが求められる。 ② 新聞記事と教科書との関連を見出す 新聞記事を活用する授業において両者は相互補完の関係にある。両者の関連を見出すには次の2つ の手順を踏む。第1に、新聞記事の内容の検討である。教師が記事内容を確実に読み取り、記事に示 された知識や考え方を理解する。第2に、新聞記事と教科書記述との関連性の検討である。 ③ 記事内容に合わせた授業を構成する ここでは2つの授業構成を提示したい。1点目は、理解を中心とする授業の構成である。教科書の 記述内容を基本としながら、新聞記事の内容を理解する。新聞記事の見出しや使用語句は独自の言い 回しや用法があるため、語彙力を高めることも期待できる。2点目は、解釈を中心とする授業の構成 である。教科書の記述内容と関連する記事を提示し、記事内容を解釈させる。子どもが記事から得た 情報を活用し、自らの考えを表現することで、情報活用能力の育成も期待することができる。. 190.
(4) 中学校社会において新聞を教材化するための視点と手順. 3.教材化の実際:中学校社会科公民的分野「少子高齢化社会」を例に ⑴ 教科書の記述内容の確認 資料1は、教科書本文の主な記述内容である。①から⑤の説明は次の通りである。 ①から③は、少子化と高齢化の現状とその背景を説明している。④と⑤は、少子高齢化が直面する 課題とその解決に向けた国による施策の展開を説明している。教科書に示された学習課題は、 「子ど もたちが安心して育ち、高齢者が幸せに暮らせる社会を築いていくためには何が必要でしょうか。 」 である。また、写真やグラフなど7点の資料が教科書本文と対応する形で配置されている。 教師が①から⑤の内容を教科書本文に沿って解説、あるいは資料の読み取りを含めて1時間の授業 を構成することは可能である。しかし、子どもの出生数や合計特殊出産率は、教科書の発行時点まで の統計資料しか掲載されないことから、最新の情報は教科書以外から補足する必要がある。また、北 海道に関する情報が欠落しているため、道内で少子高齢化が進展している実情を知ることはできな い。そのため、新聞記事から情報を補うことによって、子どもに社会の実情を学ぶ機会を提供する必 要がある。 資料1 教科書本文の主な記述内容 ① 日本では1973年ごろを境に、合計特殊出生率が減少し、少子化が進んでいる。 ② 少子化の原因として、子育てできる環境の不十分さや晩婚化・非婚化、教育費の負担増加、単独世帯 や核家族世帯の増加などが考えられる。 ③ 2007年以降、日本では高齢化が進み、超高齢社会を迎えている。今後は、「超高齢・人口減少社会」 を迎えるといわれている。 ④ 「生産年齢人口」の減少は産業の衰退や世代間交流の希薄化、介護の問題にまで及ぶ。 ⑤ 少子化社会対策基本法や育児・介護休業法によって育児・介護の両立を目指した環境づくりが進めら れている。. ⑵ 新聞記事の内容の確認 ⑴に示した疑問を解決するためには、新聞記事によって教科書の記述内容を補足する必要がある。 資料2は、選定した3枚の新聞記事の内容を整理したものである8)。 新聞記事1は、主に出生数が減少したことを伝えている。最新の統計資料をもとに、記事が構成さ れていると同時に全国的な数値と道内の数値が掲載されている。新聞記事2は、主に平成の時代は安 心して子どもが産める社会ではなかったことを伝えている。第3次ベビーブームが起きなかった背景 を分析し、仕事と育児についての道民の声を掲載している。新聞記事3は、主に働くシニア層が期待 されていることを伝えている。人口減少社会についての解説や実際に働くシニアの声が掲載されてい る。新聞記事2と新聞記事3は北海道に関する情報が提供されており、子どもが実情や少子高齢化に ついての見方・考え方を理解する格好の記事である。 ⑶ 問題の作成 新聞記事の内容を読み取り、少子高齢化について考察を深めるために2つの問題を提示した。 授業資料1は新聞記事を読み取る問題である。答えとなる語句や数字は、少子化に関する基本的知 識や最新情報であり、理解させたい内容である。新聞記事の見出しは本文の内容を端的に表現したも のであるため、最初に見出しを答えさせ、何に関する記事なのかを確認する。子どもが答えやすいよ 191.
(5) 池田 泰弘・森 健一郎. 資料2 新聞記事の主な内容 〔新聞記事の資料1〕 ① 厚生労働省の人口動態統計によれば、2017年の出生数は97万人であり、最少記録を更新した。 ② 道内の出生数は3万4040人(男子1万7503人、女子1万6537人)であり、11年連続で減少した。 ③ 合計特殊出生率は1.43(道内は1.29)であり、自然減は過去最大の減少幅となった。 ④ 母親の年代ごとの出生数は45歳以上を除く全ての世代で減少し、晩産化傾向が続いている。 〔新聞記事の資料2〕 ① 平成は高齢化と少子化が進んだ時代であるが、安心して子育てができる社会ではなかった。 ② 第3次ベビーブームが起きなかった背景には、女性の社会進出、子育て環境の整備が後手に回ったこ と、景気の悪化とともに多くの女性が結婚や出産を控えたことが挙げられる。 ③ 非正規の職に就く若者が将来の不安から結婚をためらい、結果的に少子化につながっている。 ④ 経済的な負担の重さから2人目の出産を断念する人もいる。 〔新聞記事の資料3〕 ① 世界最速で高齢化が進んだ平成は働くシニアが増えた時代であった。 ② 65歳以上の労働力人口は上昇傾向にあり、介護の担い手不足解消のために期待されている。 ③ 体力のあるシニア層は、社会とのつながりを持つことが働く意欲につながっている。 ④ 人口減少社会を迎えるにあたり、元気なシニアの活躍が期待されている。. うに問題文の最後に段落を明記し、 確実に解答できるように工夫を図った。また、 新聞記事を加工し、 見出しや段落の位置を示した。 授業資料2は新聞記事から考える問題である。 新聞記事1は情報提供の機能を持つ記事であるため、 価値判断が分かれる新聞記事2と新聞記事3から考えさせる。これらの問題は教科書に解答が存在し ないため、記事を読んだ上で自らの意見を記述しなければならない。 「教科書からの離陸」と言われ る作業によって、思考力や表現力を育てたい。. 4.おわりに 本稿は中学校社会科における新聞活用について、教材化する視点・手順に着目して具体的な教材化 の一例を紹介するものであり、 「新聞記事を読み取る問題」と「新聞記事から考える問題」の具体例 を提示した。今後の課題としては、次の2点を挙げることができる。1点目は、新聞記事を活用する 授業の単元構成を提示にすることである。単元全体を通して、新聞記事を活用する授業をどのように 位置づけるのかを検証していきたい。2点目は、中学校社会科固有の教材化の視点・手順を精緻化す ることである。 【附記】本稿の文章については、池田と森の共同によったため抽出は不可能である。また、池田が授 業の構想および実践を担当し、森が原稿の構成と調整を担当した。. 192.
(6) 中学校社会において新聞を教材化するための視点と手順. 授業資料1 新聞記事を読み取る問題 ■新聞記事の資料1に関する問題 ⑴ 記事の見出しを書きなさい。【1段目】 ⑵ 2017年の出生数を答えなさい。【1段目】 ⑶ 人口動態統計(概数)を発表した国の機関の名前を答えなさい。【1段目】 ⑷ 道内の出生数を答えなさい。【1段目】 ⑸ 道内の出生数は何年連続で減少しているのか。【1段目】 ⑹ 女性1人が生涯に産む子供の推定人数を占める割合をなんというか。【2段目】. . また,その割合を数字で答えなさい。【2段目】 ⑺ 死亡数を答えなさい。【2段目】 ⑻ 出生数から死亡数を差し引いた人口をなんというか。【2段目】. . また,過去最大の減少幅となったその人数を答えなさい。【2段目】 ⑼ 人口維持に必要とされる合計特殊出生率の割合を答えなさい。【2段目】 ⑽ 出生数が9千人以上減った母親の世代を2つ答えなさい。【3段目】 ⑾ 第1子出生児の平均年齢は何歳か。【3段目】 ⑿ 道内で2017年に生まれた男子と女子の数を答えなさい。【3段目】 ⒀ 道内の合計特殊出生率を答えなさい。【3段目】 ■新聞記事の資料2に関する問題 ⑴ 記事の見出しを書きなさい。 ⑵ 次の説明に当てはまる語句を答えなさい。【3段目】 世界最速で① が進んだ平成は,② が進んだ時代でもある。 ⑶ 次の説明に当てはまる語句を答えなさい(左上の虫眼鏡マークの説明文と3段目)。 戦後の1947年から1949年にかけて,年間で250万人の赤ちゃんが誕生した現象を① とい い,その期間に生まれた世代は「団塊の世代」と呼ばれる。 また,1971年から1974年にかけて,年間200万人の赤ちゃんが誕生した現象を② といい, その期間に生まれた世代は「団塊ジュニア世代」と呼ばれる。 ⑷ 第3次ベビーブームが起きなかった理由を説明しなさい。 ■新聞記事の資料3に関する問題 ⑴ 記事の見出しを書きなさい。 ⑵ 次の説明に当てはまる語句を答えなさい。【1段目】 世界最速で高齢化が進んだ平成は, が増えた時代でもあった。 ⑶ 人口減少社会とはどのような意味か。説明しなさい。(虫眼鏡マークの説明文). 授業資料2 新聞記事から考える問題 ⑴ 新聞記事の資料2について,「安心して産めない社会」を「安心して産める社会」にするためには, どのようなことが必要であると考えますか。あなたの考えを書きなさい。 ⑵ 新聞記事の資料3について,高齢者が働くことはどのようなプラス面があると考えますか? あなたの考えを書きなさい。. 193.
(7) 池田 泰弘・森 健一郎. 【註】 1)2009年度「NIE効果測定調査」結果報告(2010年7月,財団法人日本新聞教育文化財団,博物館・NIE委員会) , pp.4,5,14,16,18~21.参照。 2)日本教科教育学会編『教科教育研究ハンドブック-今日から役立つ研究手引き-』 (2017年,教育出版) ,pp.172~ 175.参照。 3)妹尾彰・枝元一三編著『子どもが輝くNIEの授業-新聞活用が育む人づくり教育-』(2008年,晩成書房),p.273. 枝元は「NIEは実践からスタートしました」と述べているが,NIEの基礎理論の構築は現在も研究途上である。 4)樋口直宏・林尚示・牛尾直行編著『実践に活かす教育課程論・教育方法論』(学事出版,2002年),p.37. 5)妹尾彰・枝元一三編著『子どもが輝くNIEの授業-新聞活用が育む人づくり教育-』(2008年,晩成書房),p.39. 6)本稿では, 「保管」とは新聞記事を一時的に管理すること,「保存」とは新聞記事をそのままの状態で保つこと を意味する。 7)日本新聞協会はホームページ上で,学校における新聞の二次利用(著作権)について具体的に解説している。 詳細は,https://nie.jp/teacher/copyright/(2018年9月25日閲覧),を参照。 8)北海道新聞2018年6月13日,6月19日,6月22日の朝刊を使用した。本論文における新聞の掲載は,北海道新 聞社から2018年9月26日に許諾を得ている。. 194.
(8) 中学校社会において新聞を教材化するための視点と手順. 新聞記事の資料1. ※新聞記事の資料1は,2018年6月2日北海道新聞の掲載記事(共同通信配信)である。. 195.
(9) 池田 泰弘・森 健一郎. 新聞記事の資料2. 新聞記事の資料3. ※新聞記事の資料2は,2018年6月19日北海道新聞の掲載記事である。新聞記事の資料3は,2018年6月22 日北海道新聞の掲載記事である。. 196.
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