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ラット臼歯の発育に伴う歯根膜血管網の変化

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Academic year: 2021

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博 士 ( 歯 学 ) 塚 田 東 香

学 位 論 文 題 名

ラット臼歯の発育に伴う歯根膜血管網の変化

― 血 管 鋳 型 走 査 電 子 顕 微 鏡 法 に よ る 観 察 ―

学位論文内容の要旨

  歯 根 膜 血 管 網 は 、 歯 根 膜 へ の 栄 養 供 給 や 咬 合 カ に 対 す る 緩 衝 作 用 な ど 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る こ と が 知 ら れ て い る 。 そ の た め 、 こ れ ま で 歯 根 膜 血 管 網 に 関 す る 光 学 顕 微 鏡 や 走 査 電 子 顕 微 鏡 を 用 い た 数 多 く の 報 告 が な さ れ て い る が 、 そ の 形 成 過 程 に つ い て は ほ と ん ど 報 告 さ れ て い な い 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 ラ ッ ト 上 顎 第 一 臼 歯 の 発 育 に 伴 う 歯 根 膜 血 管 網 の 微 細 構 築 学 的 変 化 を 血 管 鋳 型 走 査 電 顕 法 を 用 い て 観 察 し た 。

  実 験 材 料 と し て 生 後5,10,15,20,30日 目 のWistar系 ラッ トを 各年 齢ご とに3匹ず つ 用 い た 。 ペ ン ト バ ル ピ 夕 一 ル に よ る 腹 腔 内 麻 酔 下 で 開 胸 し 、 左 心 室 よ り 上 行 大 動 脈 ま で カ ニ ュ ー レ を 挿 入 し て 生 理 食 塩 水 に て 血 液 を 洗 い 流 し 、10% ホ ル ム ア ル デ ヒ ド 液 に よ る 灌 流 固 定 を 行 っ た 後 に メ チ ル メ タ ク1」 レ ー ト 樹 脂(Mercox、 大 日 本 イ ン キ ) を 血 管 内 に 注 入 し 、 室 温 で 重 合 さ せ た 。 樹 脂 の 重 合 完 了 後、 上顎 骨を 一 塊と して 切り 出し 、 40℃ の20% 水 酸 化 力1」 ウ ム 溶 液 に2―12時 間 浸 漬 し て軟 組織 を腐 食 ・除 去し た。 次い で 標 本 をt― ブ チ ル ア ル コ ー ル に 浸 漬 し て 凍 結 し 、 上 顎 第 一 臼 歯 歯 冠 の 中 央 部 を 近 遠心 方 向 に 凍 結 割 断 し た 後 、 蛋 白 分 解 酵 素 溶 液 に 浸 漬 し て 残 存 す る 軟 組 織 を 完 全 に 腐 食 ・ 除 去 し た 。 割 断 標 本 は 水 洗 後 、 自 然 乾 燥 し 、Pt−Pd蒸 着 を 施 し て 走 査 電 子 顕 微 鏡 ( 日 立 S−4000)に て 観 察 し た 。 ま た 、 光 学 顕 微 鏡 用 試 料 と し て 墨 汁 注 入 標 本 と パ ラ フ ィ ン 切 片 標 本 も 併 せ て 作 製 し た 。

  生 後5日 目 の 上 顎 第 一 臼 歯 で は 象 牙 質 形 成 と ェ ナ メ ル 質 形 成 が 歯 冠 の 全 域 で 行 わ れ て お り 、 歯 胚 周 囲 を 取 り 囲 む エ ナ ヌ ル 器 の 毛 細 血 管 が 密 な 血 管 網 を 構 成 し て い る 。   生 後10日 目 で は 象 牙 質 形 成 と ェ ナ メ ル 質 形 成 は さ ら に 進 行 し 、 歯 根 形 成 が 開 始 さ れ て い る 。 こ の 時 期 の 歯 根 膜 血 管 網 は ェ ナ メ ル 器 血 管 網 の 下 端 か ら 下 方 ( 根 尖 方 向 ) に 向 け て 、 歯 根 長 軸 に 沿 っ て 平 行 に 伸 び 出 す 血 管 に よ り 構 成 さ れ て い る 。 こ の 段 階 で は ェ ナ メ ル 器 の 血 管 網 と の 境 界 部 は や や 不 明 瞭 で あ る が 、 エ ナ ヌ ル 器 血 管 網 の 方 が 歯 根 膜 血 管 網 よ り も 密 度 が 高 く 、 し か も 網 目 模 様 を 呈 し て い る た め 、 両 者 は 容 易 に 区 別 さ れ る 。 ま た 、 歯 胚 の 基 底 部 付 近 で は い く っ か の 毛 細 血 管 ル ― プ が 観 察 さ れ る 。   生 後15日 目 に な る と 歯 胚 は 萌 出 の 開 始 に 伴 っ て 口 腔 側 に 近 づ い て い る 。 ま た 、 歯 根

(2)

形成の進行に伴って歯根長軸に沿って伸びる歯根膜血管は長さを増し、互いに平行に 走る血管同士が枝を出して連結するため、目の粗い血管網を呈するようになる。特に エナメル器血管網と歯根膜血管網の移行部では、エナヌル器血管網下端の血管が両者 を区別するかのように水平方向に直線的に連結するため、その境界は非常に明瞭とな る。一方、歯根形成に伴って歯槽骨が形成され始めると、歯槽壁のフォルクマン孔を 通って歯根膜に出てきた血管が、歯根膜血管と連結するようになるので、歯根膜血管 網はこれまでの根尖方向からの血液供給に加えて、歯槽骨からの血管供給も受けるよ うになる。なお、根尖付近の歯根膜血管網は密度が高いバスケット様構造を呈し、い くっかの毛細血管ループが観察される。

   生後20 日目になると歯冠が口腔内に萌出するため、工ナメル器の血管網は歯肉内縁 上皮直下に分布する血管網となる。歯根膜血管網の基本構造は生後15 日目とほとんど 変わらないが、歯根中央部における血管網の分布密度のみが他の領域に比ぺて粗な傾 向を示すようになる。

   生後30 日目では歯冠は完全に口腔内に萌出している。生後20 日目と同様に、歯根膜 血管網の基本構造は生後15 日目とほとんど変わらないが、歯根中央部における血管網 の分布密度は、他の領域に比べて明らかに粗になっている。また、根尖付近の歯根膜 血管網も、生後15 日目と同様に密度が高いバスケット様構造を呈し、いくっかの毛細 血管ループが観察される。

   本研究の結果、歯根膜血管網は歯根形成の開始に伴って、エナメル器血管網の下端 から下方(根尖方向)に向かい、歯根長軸に沿って平行に伸び出す血管として形成が 開始され、互いに吻合することによって目の粗い血管網を構成してゆくことが明らか となった。この時、エナメル器血管網が非常に密な網目状の血管網を形成するのに対 し、歯根膜血管網が目の粗い血管網しか形成しないのは、このニつの領域での栄養要 求の違い、すなわちェナメル質形成ではセメント質に比ぺてより多くの栄養供給が必 要となるためであろうと考えられた。

   通常、歯根膜には3 方向(根尖側、歯槽骨側、歯肉外縁上皮側)からの血液供給が なされていると言われている。しかし、本研究において歯根膜血管網の形成過程を血 管鋳型走査電顕法で観察した結果、形成初期の歯根膜血管網は根尖側から血液供給を 受けており、歯根形成の進行に伴って歯槽骨が形成されると歯槽骨側からの血液供給 が加わることが明らかとなった。本実験では、生後30 日以降の検索を行っていないが、

岸( 1982 :イヌ)や吉田(1984 :ラット)の歯肉内緑上皮と歯肉外縁上皮の血管網 は歯が完全に萌出したしばらく後でないと連絡しないという報告と考え併せると、少 なくとも形成過程の歯根膜血管網は2 方向(根尖側、歯槽骨側)からしか血液供給を 受けておらず、これに歯肉外縁上皮側からの血液供給が加わるのは歯の萌出後しばら くたってからであろうと考えられる。

   一方、歯根膜血管網は歯根側を走行する血管網と歯槽骨側を走行する血管網の2 層

構造を呈していると言われている。イヌではこの2 層が明瞭に区別されるのに対し、

(3)

本実験のラットでは起始部を確認しない限りこの2 層を区別するのは困難であった。

これはラットの歯根膜はかなり薄いことに起因していると思われる。また、歯根中央 部における歯根膜血管網の目が粗いことについては他にも多くの報告があるが、歯頚 部や根尖部では強い咀嚼圧を受けるために血管網が密であるのに対し、中央部はそれ ほど強い圧を受けないので粗になっているのであろうと思われる。このことはまた、

一 般 的 に 歯 根 膜 は 中 央 部 が 薄 い と い う 報 告 と も 一 致 し て い る 。    根尖部における歯根膜血管網が密度の高いバスケット様構造となっていることは、

他の論文でも指摘されているが、これは強い咀嚼カを緩衝するため、および歯根形成 に伴う活発なセヌント質形成や象牙質形成に対応するためと思われる。なお、歯根膜 血管網にはヘアーピン様ループが広い範囲で存在することがいくっかの論文で報告さ れており、咀嚼カの緩衝やセヌント質形成との関係が示唆されているが、本研究にお いてはこのようなループは根尖部以外には全く観察されなかった。これが動物による 違いによるものか、あるいは年齢によるものかは不明であるが、いずれにしても今後、

歯 根 膜血 管 網の 加 齢的 変 化に つ いて も 観 察を 行 う必 要 があ ると考 えている。

‑ 185

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ラット臼歯の発育に伴う歯根膜血管網の変化

―血管鋳型走査電子顕微鏡法による観察一

審 査 は 主 査 、 副 査 が 申 請 者 と 個 別 に 会 し て 口 頭 で な さ れ 、 は じ め に 本 論 文 の 要 旨 の 説明を求 め、申請者から以下の内容についての論述がなされた。

歯根膜血 管網は、歯根膜への栄養供給や咬合カに対する緩衝作用など、重要な役割を担って い るこ とが 知ら れ てい る。 その ため 、こ れま で歯 根膜 血管 網に 関す る光学顕徹鏡や走 査 電 子顕 徹鏡 を用 い た数 多く の報 告が なさ れて いる が、 その 形成 過程 についてはほとん ど 報 告さ れて いな い。そこで本研 究では、ラット上顎第ー臼歯の発育に伴う歯根膜血管網 の 微細構築 学的変化を、血管鋳型走査電顕法を用いて観察した。

  実験材 料として生後5.10.15,20,30日目のWistar系ラットを各年齢ごとに3匹ずつ用い た。走査電子顕徽鏡用試料として、メチルメタクリレ―ト樹脂(Mercox、大日本インキ)を血 管 内に 注入 した 血 管鋳 型標 本、 光学 顕徹 鏡用 試料 とし て墨 汁注 入標 本とパラフイン切 片 標本を作 製した。

  本 研 究 の 結 果 か ら 、 歯 根 膜 血 管 網 は 歯根 形成 の開 始 に伴 って 、エ ナメ ル器 血管 網の 下 端か ら下 方( 根 尖方 向) に向 かい 、歯 根長 軸に 沿っ て平 行に 伸び 出す血管として形 成 が 開始 され 、互 いに吻合するこ とによって目の粗い血管網を構成してゆくことが明らか と な っ た 。 こ の 時 、 工 ナ メ ル 器 血 管 網 が 非常 に密 な網 目 状の 血管 網を 形成 する のに 対し 歯 根 膜 血 管 網 が 目 の 粗 い 血 管 網 し か 形 成 し な い の は 、 こ の ニ つ の 領 域 で の 栄 養 要 求 の 違い 、す なわ ち ェナ メル 質形 成で はセ メン 卜質 に比 べて より 多く の栄養供給が必要 と な るた めで あろ う と考 えら れた 。通 常、 歯根膜には3方向(根尖側、歯槽骨側、歯肉側 ) か らの 血液 供給 が なさ れて いる と言 われ てい る。 しか し、 本研 究に おいて歯根膜血管 網     ー186ー

郎 光

順 重

田 田

飯 吉

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

の 形 成過 程 を 血管 鋳 型 走査 電 顕 法で 観 察 した 結 果 、 形成 初 期 の歯 根 膜 血管網は 根尖側 か ら のみ 血 液 供給 を受け ており 、歯根形 成の進 行に伴っ て歯槽骨 が形成 されると 歯槽骨 側か らの血液 供給が 加わるこ とが明 らかとな った。本 実験では、生後30日以降の検索を行 っていないが、岸(1982:イヌ)や吉田(1984:ラツ卜)の歯肉内縁上皮と歯肉外縁上皮の血 管網は歯が完全に萌出したしばらく後でないと連絡しないという報告と考え併せると、少なく とも 形成過程 の歯根 膜血管網 は2方 向(根 尖側、歯 槽骨側 )からし か血液 供給を受けてお らず、これに歯肉側からの血液供給が加わるのは歯の萌出後しばらくたってからであろうと 考 え られ る 。 ー方 、歯根 膜血管 網は歯根 側を走 行する血 管網と歯 槽骨側 を走行す る血管 網の2層構 造を呈 している と言われ ている 。本実験 におい ても歯根 膜血管 網には由来の異 なる2つの血管網が存在することが明らかになったが、イヌではこの2層が明瞭に区別される のに対し、本実験のラツ卜では起始部を確言忍しない限りこの2層を区別するのは困難であっ た。これはラットの歯根膜はかなり薄いことに起因していると思われる。また、根尖部および 歯頚 部に比較 して、 歯根中央 部にお ける歯根 膜血管網 が粗であることが観察された。これ は 、 歯頚 部 や 根尖 部では 強い咀 嚼圧を受 けるた めに血管 網が密で あるの に対し、 中央部 はそれほど強い圧を受けないことによるものと考えられる。なお、歯根膜血管網にはへアー ピン 様ル―プ が広い 範囲で存 在する ことがい くっかの 論文で報告されており、咀嚼カの緩 衝やセメント質形成との関係が示唆されているが、本研究においてはこのようなル―プは根 尖部以外には観察されなかった。これが動物による違いによるものか、あるいは年齢による もの かは不明 である が、いず れにし ても今後 、歯根膜 血管網の加齢的変化についても観察 を行う必要があると考えている。

    以 上 の論 述 に引 き続き 実験方法 、結果、 考察、 展望及び 関連分 野につい ての質 疑応 答を 行い申請 者はい ずれにも 明快な 回答、説 明を行っ た。申請者の説明から、本研究は,

歯根 形成と歯 根膜微 小血管の 形成と の関係を 論じた点 で独創性に富むものであり、また、

歯胚 周囲の血 管の歯 貝丕成長 に伴う 分布と、 部位によ る形態の変化を初めて報告した研究 であ る事が明 瞭に理 解された 。加え て本研究 により、 歯根形成段階における生理的基本構 造が明瞭にされたことは、臨床における病体変化を把握するのに,大変重要なことであり、今 後の 歯科臨床 の発展 に寄与す るとこ ろの大き い結果を 提示したものと、高く評価出来るも ので ある。さ らに、 試問の内 容から 、申請者 は歯肉と 歯根膜の血管分布に関して豊富な実 験データと広範な基礎知識を有し、関連分野にも幅広い学識を有していると認められた。よ って 、審査担 当者全 員は、申 請者は 博士(歯 学)の学 位を授与される資格を有するものと 認めた。

    ―187―

参照

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