博 士 ( 医 学 ) サ イ エ ダ ベ ー カ ム
学 位 論 文 題 名
Screening for bacterial vaginosis and cervicitis aimed at preventing premature delivery
(早産予防のための細菌性膣症と頚管炎のスクリーニングについて)
学位論文内容の要旨
絨毛羊膜炎(CAM)は早産と前期破水(PROM)の重要な原因であるが、そのほとんどは、
腟・頚管を経由した上行性感染により引き起こされる.C」へMにより早産が生じる機序と しては、脱落膜で産生された炎症性サイトカインが羊膜・脱落膜におけるプロスタグラン ジン産生を刺激し、子宮収縮を惹起させることが考えられている.また、細菌性腟症のス クリ ーニン グと治療 は、早 産とPROMの頻 度を減 少させる ことが 推察されている.しか し、頚管炎については十分に解明されていない.
本研究では、早産予防の目的で妊婦の細菌性腟症・頚管炎のスクリーニングと治療を前 方視的に行い、これらの感染症と早産の頻度・病因を検討することにより、この方法の有 用性と問題点を明らかにすることを目的とした.さらに、頚管無力症の初期変化の発見に 有効とされる経腟超音波断層法を一部の症例で併せて行い、上記の感染症と頚管無力症の 両 者 をス クリー ニングす る方法 (doublescreening)の有効 性につ いても言 及した . 対象と方法
1992年12月から1996年4月までの 間に、 妊婦外来を受診した妊婦のうち,早産の原因 となる内科的・産科的合併症や胎児奇形,多胎妊娠などのなぃ365例(平均年齢29.4歳、
平均分娩回数0.7)を対象とした.すべての症例で細菌性腟症と頚管炎のスクリーニングを 行 い、1994年9月以降の135例については、経腟超音波断層法による頚管無カ症のスクリ ー ニング も同時に施行した.なお、これらの検査は同一の医師が一定の方法で行った.
細 菌性腟 症と頚管炎のスクリーニングは、妊娠10週,20週,30週の健診時に行った,
同意を得た後、腟・頚管から検体を採取し、グラム染色標本の鏡検ならびに菌の培養、分 離菌の同定を行った.細菌性腟症は、Spiegel et al.(1983)の診断基準を参考にして腟分 泌物の鏡検所見から診断し、腟洗浄とクロラムフェニコール腟錠またはメトロニダゾール 腟錠の投与により治療した.頚管炎は、Brunham et al.(1984)の診断基準を参考にし、
頚管粘液の細菌培養とグラム染色標本の鏡検所見から診断した.頚管の検体については、
Neisseria gonorrhoeae(DNAプ ロ ー ブ法 ) とChlamydia trachomatis(ELISA法 ) の 検 出も併 せて行った. N. gonorrhoeaeまたはC.trachomatis抗原が検出された場合も 頚 管 炎 と 診 断 し た. な お 、頚 管 炎 の 症例 に は 、amplcimnま た はerythromycinを 経 口投与した.
一 方、経 腟超音波断層法による頚管無力症のスクリーニングは、妊娠20週と30週の健 診 時 に 行っ た. 子宮収縮 がなく 、頚管の 上部にFunnelingが観 察され 、頚管長 が20mm 未満である場合を頚管無カ症を疑う所見と定義し、このような症例は入院の上、塩酸リト
ドリ ン の 予防 的 投 与 とべ ッ ド 上安 静を とらせ、 頚管開 大状況を 連続的 に観察し た.
統計解 析用ソフトは Abacus Concepts,StatView@ を用Lゝ、x2 testとFisher S exact probability methodに て 有 意 差 を 検 定し 、Pく0.05で有 意 差 あり と し た.
結 果
365例中58例(15.9%)が、グラム染色標本の鏡検所見から細菌性腟症と診断された.細 菌性腟症群は非発症群と較べて、グラム陰性桿菌(Pく0.0001)、グラム陽性球菌(Pく0.005)、 S. agalactiae(Pく0.05)、P.anaerobius(Pく0.05)、グラム陰性球菌(Pく0.05)が多く検 出された.細菌性腟症の治療後、グラム染色標本所見は54例で陰性化したが、3例では陽 性のままであり、1例は陰性化後、再度陽性となった,頚管炎は37例(10.1.%)で診断さ れ、そのうち7例(1.9%)は細菌性腟症も合併していた,頚管炎群は非発症群と較べ、
C.trachomatis(Pく0.0001) とN.gonorrhoeae(Pく0.05) が多 く 検 出 され た が 、 Ureaplasma urealyticum、 グラム陰 性桿菌 、S.agalactiae、グラム陽性球菌では両群 間に有意差はなかった.また、治療後、すべての頚管炎症例で、グラム染色標本所見の陰 性 化 ま た は C. trachomatis、 N. gonorrhoeaeの 消 失 が 認 め ら れ た . 365例中9例(2.5%)と1例(0.3%)が各々、妊娠37週未満と35週未満で分娩となった.
一 方 、1991年8月 か ら1992年10月 まで の 間 に分娩 した401例(対照 群)で は、20例
(5.0%)と8例(2.0%)が各々、妊娠37週未満と35週未満で分娩した.早産の原因となる内 科的・ 産科的 合併症や 胎児奇形、多胎妊娠例を含まない、この401例にはC.trachomatis 以外の上記感染症の系統的スクリーニングは行われていなかった.この対照群と較べて、
本研究では妊娠37週未満の早産の発生は減少する傾向(P=0.07,RR: relative risk=0.5) を、また35週未満の早産率は有意な減少(Pく0.05,RR=O.1)を示した.なお、妊娠35週未 満で分娩(23週6日)した本研究の1例は、頚管無カ症が早産の原因であった.この症例は、
経 腟 超 音 波 断 層 法 に よ る 頚 管 無 力 症 の ス ク リ ー ニ ン グ を 受 け て い な か っ た . 経腟超音波断層法により135例中3例が頚管無力症を疑われて入院したが、2例では頚管 所見の増悪はみられずに正期産となった.しかし、1例では徐々に外子宮口が開大したた め、頚管無力症と診断して頚管縫縮術を施行した.この症例は妊娠36週2日で前期破水し た後、 翌日分 娩となっ た.本研究における9例の早産例の原因としては2例が頚管無力症 と関連 してい たが、7例では頚管無力症、CAM、子宮胎盤虚血、アレルギー反応などの特 定の原因は究明できなかったため、特発性と考えられた.
考 察
細菌性腟症の存在は、早産. PROMのりスクを増大させることが考えられている.本研 究に おいては 、早産 の頻度は2.5%(9/365)と少なく、CAMの症例は認められなかった.
さら に、臨床 的に重 要である妊娠35週未満の早産の発生率は、対照群と比較して有意に 減少した(Pく0.05,RR=O.1).その理由としては、細菌性腟症と頚管炎の治療が、腟・頚 管で 増殖した 微生物 の子宮腔 内への 侵入を阻 止して、CAMの発生を防止したことが考え られる.
これらの感染症のスクリーニングと治療には、早産を予防するという長所がある反面、
幾っかの問題点があることが明らかになった.そのーつは、頚管炎の診断に要するコスト の問題であり、今後は、より効率的で安価なスクリーニング法の開発が必要と思われた.
また 、これら の感染 症はかなり蔓延しており、今回の検討では約4人に1人を対象に治療 を試み、早産率の低下を得た.しかし:子宮頚管にはサイトカインを含めて種々の感染防 御機構が存在することや、妊婦の細菌性腟症の約半数は自然治癒する点を考慮すると、治 療 を 行う 症 例 を合 理 的 に選 択 す るた め の 検 討も今後 は必要な 問題点 と考えら れた.
一方、頚管無カ症による早産は主に妊娠中期に生じるため、母児にとって悲惨な結果と
なることが多い.経腟超音波断層法により子宮頚部の状態を観察することで、頚管無力症 を早期に診断す ることが可能となった.今回の検討では2例の頚管無カ症が存在したが、
両者とも細菌性腔症・頚管炎のスクリーニング検査の結果は陰性であった.下部生殖器の 感 染症 のス ク1Jーニ ング と頚 管 無力 症の スク リー ニングとを併せたdouble screenng が 、早 産を 予防 する 上で 非常に有効な手段である可能性が本研究によ り示唆された.
学 位 論 文 審 査 の要 旨
学 位 . 論 文 題 名
Screening for bacterial vaginosis and cervicitis aimed at preventing premature delivery
( 早産予防 のための 細菌性膣 症と頚管 炎のスクリ ーニング について )
絨毛 羊 膜 炎(CAM)は 早 産 と前 期 破水(PROM)の重 要 な 原因で あるが、 そのほと んどは、
腟・ 頚管を経 由した上 行性感染 により引き 起こされ る. 本研究では、早産予防の目的で 妊婦 の細菌性 腟症・頚 管炎のス クリーニン グと治療 を前方視的に行い、これらの感染症と 早産 の頻度・ 病因を検 討するこ とにより、 この方法 の有用性と問題点を明らかにすること を目 的とした .さらに 、頚管無 カ症の初期 変化の発 見に有効とされる経腟超音波断層法を 一 部 の症 例 で併 せ て 行い 、 上記の感 染症と頚管 無力症の 両者をス クリーニ ングする 方法 (double screening)の有 効性につ いても検 討した・
妊婦外来 を受診し た妊婦の うち,早産 の原因と なる内科 的・産科的合併症や胎児奇形,
多胎妊娠 などのな い365例(平 均年齢2914歳、 平均分娩 回数0.7)を対象とした.すべての 症例で細 菌性腟症 と頚管炎 のスクリー ニングを 行い、135例 について は、経腟 超音波断 層 法による 頚管無力 症のスク リIニングも 同時に施 行した. なお、こ れらの検 査は同一 の医 師が一定 の方法で 行った.
細 菌 性腟 症 と頚 管 炎 のス クリ ーニングは 、妊娠10週 ,20週,30週 の健診時 に行った ・ 細菌性腟症は、Spiegel et al.(1983)の診断基準を参考にして腟分泌物の鏡検所見から診 断し、腟 洗浄とク ロラムフ ェニコール 腟錠また はメトロ ニダゾール腟錠の投与により治療 した.頚 管炎は、Brunham et al.(1984)の診断 基準を参考 にし、頚 管粘液の 細菌培養 と グ ラ ム 染 色 標 本 の 鏡 検 所 見 , か ら 診 断 し た . 頚 管 の 検 体 に つ い て は 、Neis seria gonorrhoeae(DNAプ ロ ー ブ 法 ) とChlamydiatrachomatis(ELISA法 ) の 検 出 も 併 せ て 行った. N. gonorrhoeaeまたはC.trachomatis抗原が検出された場合も頚管炎と診断し た . な お 、 頚 管 炎 の 症 例 に は 、ampicillinま た はerythromycinを 経 口 投 与 し た . 一 方 、経 腟 超音 波 断 層法 によ る頚管無カ 症のスク リーニン グは、妊 娠20週と30週 の健 診時 に 行 った . 子宮 収 縮 がな く 、頚 管 の 上部 にFun nelingが 観 察さ れ 、頚 管 長 が20mm 未満であ る場合を 頚管無力 症を疑う所 見と定義 し、この ような症例は入院の上、塩酸リト ド リ ン の 予 防 的 投 与 と べ ッ ド 上 安 静 を と ら せ 、 頚 管 開 大 状 況 を 連続 的 に観 察 し た.
紀 彦郎 一 知 邦征 川林 本 皆小 藤 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
統 計 解 析 用 ソ フ ト は AbacusConcepts,StatView を 用 い 、 ズ testとFisher|S exact probability methodに て 有 意 差 を 検 定 し 、Pく0.05で 有 意 差 あ り と し た ・ 365例 中58例 (15.9黝 が 、 細 菌 性 腟 症と診 断さ れた .細 菌性 腟症 群は 非発 症群 と較 べ て、グラム陰性桿菌(Pく0.0001)、グラム陽性球菌(Pく0.005)、S.agalactiae(Pく0.05)、
P.anaerobius(Pく0.05)、グラム陰性球菌(Pく0.05)が多く検出された.細菌性腟症の治 療 後 、 グラ ム染 色標 本所 見は54例 で陰 性化し たが 、3例で は陽 性の ままで あり 、1例は 陰 性化 後、 再度陽性となった.頚管炎は37例(10.1絢で診断され、そのうち7例(1.9絢は細 菌性 腟症 も合 併し ていた .頚 管炎 群は 非発症群と較べ、Ctr achoma tis(Pく0.00 01)と N.gonorrhoeae(Pく0.05) が 多 く 検 出 さ れ た が、Ureaplasmaurealyticum、グ ラ ム 陰 性桿菌、S,.agalac tiae、グラム陽性球菌では両群間に有意差はなかった.また、治療後、
す べ て の 頚 管 炎 症 例 で 、 グ ラ ム 染 色 標 本 所 見 の 陰 性 化 ま た はC.tr achomatis、N.
gonorrhoeaeの消失が認められた・
365例中9例(2.5%)と1例(0.3%) が各 々、 妊娠37週未 満と35週 未満で分娩となった.
一方 、対 照群 の401例で は、20例(5.0%)と8例(2.00/0)が各々、妊娠37週未満と35週未満 で分娩した.早産の原因となる内科的・産科的合併症や胎児奇形、多胎妊娠例を含まない、
こ の401例 にはC.trachomatis以外 の上 記感染 症の 系統 的ス クリ ーニ ング は行 われ てい な か っ た . この 対 照 群 と 較 べ て 、 本 研 究 で は 妊 娠37週 未 満 の 早 産 の 発生 は減 少す る傾 向 (P=0.07,RR:relative risk=0.5) を 、また35週 未満 の早 産率 は有 意な 減少(Pく0.05, RR=O.1) を示 した .なお 、妊 娠35週未 満で分娩(23週6日)した本研究の頚管無カ症の1例 は経腟超音波断層法によるスクリーニングを受けていなかった・
経 腟 超 音波 断 層 法 に よ り135例 中3例 が頚 管無 力症 を疑 われ たが 、2例 では 頚管 所見 の 増悪 はみ られ ずに 正期産 とな った .し かし 、1例では 徐々 に外 子宮 口が開大したため、頚 管無 カ症 と診 断し て頚管 縫縮 術を 施行 した .本 研究 にお ける9例の 早産例の原因としては 2例 が 頚 管 無 力 症 と 関 連 し て い た が 、7例で は頚 管無 カ症 、CAM、子 宮胎 盤虚 血な どの 特 定の原因は究明できなかったため、特発性と考えられた.
細 菌 性腟 症の 存在 は、 早産 .PROMの りスク を増 大さ せる こと が考 えら れて いる .本 研 究に おい ては 、早 産の頻 度は2.5%(9/3 65)と少なく、CAMの症例は認められなかった.
さ ら に 、臨 床的 に重 要で ある 妊娠35週 未満の 早産 の発 生率 は、 対照 群と 比較 して 有意 に 減少した.その理由として|ま、細菌性腟症と頚管炎の治療が、腟・頚管で増殖した微生物 の 子 宮 腔 内 へ の 侵 入 を 阻 止 し て 、C」 洲 の 発 生 を 防 止 し た こ と が 考 え ら れ る . . 経 腟超 音波 断層 法によ り子 宮頚 部の 状態を観察することで、頚管無力症を早期に診断す るこ とが 可能 とな った. 今回 の検 討で は2例の 頚管無 力症 が存 在し たが、両者とも細菌性 腟症 ・頚 管炎 のス クリー ニン グ検 査の 結果は陰性であった.下部生殖器の感染症のスクリ ー ニ ン グ と頚 管 無 カ 症 の ス ク リ ー ニ ン グと を併 せたdoublescreeningが 、早 産を 予防 す る 上 で 非 常 に 有 効 な 手 段 で あ る 可 能 性 が 本 研 究 に よ り 示 唆 さ れ た . 口頭発表において、皆川教授よりmetronidazoleの胎児毒性、腟内乳酸桿菌数と治療効果 との関連、ならびにトリコモナス腟炎、カンジ夕腟炎の頻度と治療の有無あるいはこれら の腟炎と早産との関係について、次いで小林教授よりchloramphenicolの催奇形性、CAMに よる早産が認められなかったことの理由と治療との関係、さらに細菌性腟症と頚管炎の頻 度について質問があった。また、藤本教授からは、double screeningによる早産防止につい
てこれまでに報告があるか否かなどの質問があった。
申 請 者 は こ れ ら の 質 問 に 対 し て 概 ね 妥 当 な 回 答 を 成 し え た と 判断 さ れた 。 周産期医療の一層の改善のために、早産とくに35週未満の早産の防止を目的にdouble screemngを導入することの意義は大きく、審査員協議の結果、本論文は博士(医学)の学 位授与に値するものと判定された。