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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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学 位 論 文 題 名

博 士 ( 医 学 ) 渡 辺 雅 男

Point mutation ofK一ras gene codon 12     in biliary tract tumors

  (胆道系悪性腫瘍のK―ras遺伝子コドン12における点突然変異)

学位論文内容の要旨

近年、癌遺伝子および癌抑制遺伝子の発見はめざましく、分子レベルでの発癌、

増殖、転移のメカニズムが次第に明らかになってきた。なかでもras 遺伝子は Weinberg らによって分離された最初の癌遺伝子で、多くの人悪性腫瘍において 点突然変異による活性化が認められている。この遺伝子は分子量21 ,000 の細胞 膜局在性の蛋白質をコードし、多くの受容体型チロシンキナーゼの情報伝達経 路の共役体として機能していることが最近明らかにされた。さらに、人以外の 哺乳類や酵母などの下等動物にも類似の蛋白質が存在し、その機能が真核生物 に広く普遍的であることを示唆している。ras 遺伝子は相同性の高い3 種類の iso ーform が同定されており、中でもK‑ras 遺伝子は大腸癌、膵癌などの消化器癌 で高率に変異が証明された。特に膵癌では驚くべきことに90 %以上の例で変異 が認められ、その大部分がcodon 12 に集中していた。一方、胆道系悪性腫瘍に おいてはこれまで変異の存在について否定的な報告がなされていた。最近、PCR 法と制限酵素消化を組み合わせた高感度な変異検出法が開発され、肝外胆管癌 において100 %の変異が報告された。そこで今回、同様の手法を用いて胆嚢癌を 含 む 胆 道 系 悪 性 腫 瘍 に お け る K‑ras 遺 伝 子 の 変 異 の 検 出 を 行 っ た 。

(方 法) 外科的に切除された胆嚢癌11 例、肝外胆管癌 10 例、乳頭部癌4 例を 対象とし、パラフイン切片より薄切切片の検鏡にて腫瘍の存在を確認後、沸騰 法にて DNA を抽出した。MvaI 認識部位を人為的に挿入したプライマーを用いた PCR 法 を行い、増幅したK‑ras 遺伝子のexonl を含む断片を制限酵素で切断し た後、再度nested PCR 法を行い、変異を持つ断片を相対的高率に増幅した。再 度生成物を制限酵素で切断し、アガロースゲル電気永動法にて変異バンドを分 離、確認した。続いて変異バンドをゲルより切り出し、DNA を回収後、非対称 PCR に て 1 本 鎖 DNA を 増 幅 し た 後 dideoxy 法 に て 塩 基 配 列 を 決 定 し た 。    (結果)対照とした非癌胆嚢粘膜9 例(担癌正常粘膜3 例、胆石胆嚢炎 3 例、

非担 癌正 常粘 膜3 例) はい ずれも 正常 バンドのみを認めた。胆嚢癌11 例中6

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例 ( 55 % ) 、 肝 外 胆 管 癌 10 例 中 10 例 ( 100 % ) 、 乳 頭 部 癌 4 例 中 4 例    ( 100 %)に変異バンドを認めた。変異バンドの回収による塩基配列解析で は GGT(Gly) から GAT(Asp) への変 異が最も多 く、胆嚢癌 6 例中 5 例、肝外 胆管 癌 10 例中 8 例、 乳 頭部 癌 4 例 中 4 例に 認 めら れ た。 他 の変 異 型は 胆 嚢癌 の 1 例 がGTT(Val) ヘ、肝外胆 管癌は AGT(Ser) とGIT(Val) の一塩基置換が各1 例、

GAT(Asp) .GTT(Val) への重複置換が2 例、GAT(Asp) .くJIT(Val) .AGT(Ser) への 三 重複置換が 1 例認 められた。胆嚢癌のうち1 例は腺腫内癌であり、癌と腺腫 の 部 分 を そ れ ぞ れ 切 り 出 し て 検 討 し た 結 果 、 同 一 の 変 異 を 検 出し た 。    (考察)これまでの胆嚢癌におけるK‑ras 遺伝子変異に関する検討は、Tada らに よる 9 例のみであり、.彼等はパラフイン切片より抽出・増幅したDNA から直接 塩基配列を決定したが、いずれも異常は認められず、肝外胆管癌においても変 異 は極めて低 率であったとしている。一方、kvi らはPCR 法と制限酵素切断を 組み合わせた方法により検体中に存在する少量の変異アレルを特異的に増幅す る ことに成功 し、肝外胆 管癌におい て100 %の 変異を検出した。今回われわ れは、同様のアプローチを採用することにより、胆道系悪性腫瘍においても他 の消化器系悪性腫瘍と同様に高率に K ‐raS 遺伝子変異が起きていることを証明 した。中でも胆嚢癌の変異は初の報告であり、kvi らによれば O .1 %の比率で存 在する変異アレルの検出を可能にする高効率なシステムを用いたことが従来と 異なる結果となった原因と考えられる。

   興味あることには、このような選択的増幅を用いて初めて変異を検出し得た 事実は、全腫瘍細胞集団中の変異を有する細胞の比率が低いことを示唆してい る。また今回変異を検出した胆嚢腺腫の他にも、大腸腺腫、潰瘍性大腸炎など のいわゆる前癌状態と考えられている病変でも raS 遺伝子変異が認められてい る。これらの事実を符合して考えると、raS 遺伝子変異は癌化の初期段階で起こ っているが、胆道系悪性腫瘍においてはその発育・進展とともにむしろそれを 保持した細胞の割合を減じていく可能性も示唆される。それには他の癌遺伝子 異常などによる何らかの環境の変化が変異細胞を選択・淘汰し、正常ras 遺伝子 を 持 った細 胞がむしろ 優勢に発育 する機構が 存在するも のと推測さ れる。

   今 回の検討で は、 G からA への置換が最も多い結果となった。膵癌・大腸癌

でもGAT (Asp )変異が最も多かったとする報告が多く見られ、その原因のーっと

して化学物質を考慮する必要があると思われる。アルキル化剤のーつであるメ

チルニトロソウレアは、DNA に作用してメチルグアニンなどのアルキル化プ1J

ンを生成する。グアニンは本来シトシンと塩基対をっくるが、メチル化によル

チ ミ ンと も 対 合す る よう に なり 、 DNA 複製を通 じてGC 塩基対 がAT 塩基対に

変化する。実験的に投与されたメチルニト口ソウレアにより発生したマウス乳

癌 細 胞でも raS 遺伝子 の Codon12 が G から A に変異し ており、人 においても 変

異惹起物質の発癌への関与が示唆される。その一方で海外の報告として大腸癌

で G から T への変 異( GTT ( V め)が最も多かったとする報告もみられ、人種・

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環境等の差異が変異型に影響する可能性も考えられ、今後の症例の蓄積が待た れる。

   以上胆嚢・総胆管・乳頭部とぃう一連の胆道系の悪性腫瘍が、同じ発生原基

由来の膵癌と同様の変異を有することが明らかになった。今回我々が用いた方

法は 少数の変異細胞を検知する目的において、極めて鋭敏で優れた方法であ

り、まだ変異の証明されていない疾患における適応も期待できるものと考えら

れる。また全腫瘍細胞中における変異細胞の低比率化の原因の究明は今後の課

題と思われる。

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学位論文審査の要旨

学 位 ・ 論 文 題 名

Point mutation ofK―ras gene codon 12     in biliary tract tumors

    I′

  (胆道系悪性腫瘍のKイas遺伝子コドン12における点突然変異)

近 年、癌 遺伝子・ 癌抑制 遺伝子研究の進展はめざましく、分子レベルでの発癌、増殖、転 移 の メ カ ニズ ム が 次第 に明ら かにな ってきた 。ras遺 伝子はWeinbergらによ って分離 さ れ た最初 の癌遺伝 子で、 多くの人悪性腫瘍において点突然変異による活性化が認められて い る。中でもK‑ras遺伝子は大腸癌、膵癌などの消化器癌で高率に変異が証明され,特に膵 癌 では変 異率が90% 以上と 高率でそ の大部 分がcodon 12に 集中して いた。 一方、胆道系 悪 性腫瘍 において は、こ れまで変 異の存 在は否定 的な報告がなされていた。最近、PCR法 と 制 限 酵 素消 化 を 組み 合 わ せた 高 感 度な 変 異 検出 法が開 発され、 肝外胆 管癌にお ぃて 100%の 変異が報 告され た。そこ で今回 、同様の 手法を用 いて胆嚢癌を含む胆道系悪性腫 瘍におけるK‑ras遺伝子の変異の検出を行った。

( 方 法 ) 外科 的 に 切除 された 胆嚢癌11例、肝外 胆管癌10例、乳頭 部癌4例を対 象とし、

パ ラ フ イ ン切 片 よ り薄 切切片 の検鏡 にて腫瘍 の存在を 確認後 、沸騰法 にてDNAを抽出 し た 。MvaI認識 部位を 人為的に 挿入した プライ マーを用 いたPCR法を行 い、増 幅したK‑ras 遺 伝 子 のexon1を 含 む 断片 を 制 限酵 素 で 切断 し た後 、再度semi‑nested PCR法 を行い 、 変 異を持 つ断片を 相対的 高率に増幅した。再度生成物を制限酵素で切断し、アガロースゲ ル 電気泳 動法にて 変異バ ンドを分離、確認した。続いて変異バンドをゲルより切り出し、

DNAを 回 収 後 、 非 対 称PCRに て1本 鎖DNAを 増 幅 し た 後dideoxy法 に て 塩 基 配 列 を 決 定した。

( 結 果 ) 対照 と し た非 癌胆嚢 粘膜9例(担 癌正常粘 膜3例、胆石 胆嚢炎3例、 非担癌正 常 粘 膜3例 ) は い ず れ も 正 常バ ン ド のみ を 認 め た。 胆 嚢 癌11例 中6例 (55% ) 、肝 外 胆 管 癌10例 中10例 (100% ) 、 乳 頭 部 癌4例 中4例 (100% ) に 変 異 バ ン ド を 認 め た 。変異 バンドの 回収に よる塩基 配列解 析ではGGT(Gly)からGAT(Asp)へ の変異が 最も多 く 、 胆 嚢 癌6例 中5例 、 肝 外 胆 管 癌10例 中8例 、 乳 頭部 癌4例中4例 に認 め ら れた 。 他 の 変 異 型 は胆 嚢 癌 の1例 がGTT(V al)へ 、 肝 外胆 管 癌はAGT(SerとGTTヅal)の一 塩基置 換が各1例、GAT(A8p).GTTヅal)への重複置換が2例、GAT(A8p).GTTヅal).AGT(Ser) へ の三重 複置換が1例 認められ た。胆嚢 癌のう ち1例 は腺腫 内癌であ り、癌と 腺腫の部分 をそれぞれ切り出して検討した結果、同一の変異を検出した。

( 考 察 ) これ ま で の胆 嚢 癌 にお け るKIras遺 伝 子変 異に関 する検討 は、Tadaら による9

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例 であ り、 彼等 はパ ラフ イン 切片 より 抽出 ・増 幅し たDNAから 直接 塩基配列 を決定した が、いずれも異常は認めら れず、肝外胆管癌においても変異は極めて低率であったとして い る。 一方 、Leviら はPCR法と 制限 酵素 切断 を組 み合 わせ た方 法に より検体 中に存在す る 少量 の変 異ア レル を特 異的 に増 幅す るこ とに 成功 し 、肝 外胆 管癌 において100%の変 異を検出した。本研究では 、同様のアプローチを採用することにより、胆道系悪性腫瘍に お いて も他 の消 化器系悪性腫瘍と同様に高率にK‑ras遺伝子変異が起きている ことを証明 し た。 中で も胆 嚢癌の変異は初の報告であり、LeviらによればO.l%の比率で 存在する変 異アレルの検出を可能にす る高効率なシステムを用いたことが従来と異なる結果となった 原因と考えられる。

  興味あることには、この ような選択的増幅を用いて初めて変異を検出し得た事実は、全 腫瘍細胞集団中の変異を有 する細胞の比率が低いことを示唆している。また今回変異を検 出した胆嚢腺腫の他にも、 大腸腺腫、潰瘍性大腸炎などのいわゆる前癌状態と考えられて い る病 変で もras遺 伝子 変 異が 認め られ ている。 これらの事実を符合して考えると、ras 遺伝子変異は癌化の初期段 階で起こっているが、胆道系悪性腫瘍においてはその発育・進 展とともにむしろそれを保 持した細胞の割合を減じていく可能性も示唆される。それには 他の癌遺伝子異常など他の 因子による発育環境の変化が変異細胞を選択・淘汰し、正常ras 遺 伝 子 を 持 っ た 細 胞 が む し ろ 優 勢 に 発 育 す る 機 構 の 存 在 な ど も 推 測 さ れ る 。   本研究により、胆嚢・総 胆管・乳頭部とぃう一連の胆道系の悪性腫瘍が、同じ発生原基 由来の膵癌をはじめとする 他の消化器系悪性腫瘍と同様の変異を有することが明らかにな った。さらにこの方法は少 数の変異細胞を検知する目的において、極めて鋭敏で優れた方 法であり、まだ変異の証明 されていない疾患における適応も期待できるものと考えられる。

以 上 よ り 、 本 研 究 は 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 論 文 と し て 妥 当 な も の と 判 断 さ れ た 。

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