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著者 櫛田 卓志

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Academic year: 2021

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超好熱性アーキアのDNA損傷ストレス下におけるゲ ノム維持・修復機構の解明

著者 櫛田 卓志

学位授与大学 東洋大学

取得学位 博士

学位の分野 生命科学

報告番号 32663甲第459号 学位授与年月日 2019‑09‑25

URL http://id.nii.ac.jp/1060/00011257/

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

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超好熱性アーキアの DNA 損傷ストレス下における ゲノム維持・修復機構の解明

学籍番号 4910131001 氏名 櫛田  卓志

【緒言】

超好熱性アーキアThermococcus kodakarensisには、Family B型とD型のDNAポリメラーゼ がそれぞれ1つずつ見出されている(PolB, PolD)。これらは校正機能(3′→5′エキソヌクレアーゼ 活性)をもつため(Gueguen et al., 2001; Killelea et al., 2014)、誤った塩基が新生DNA鎖に取 り込まれても除去され、正しい塩基配列を持ったコピーが合成される。更に、鋳型鎖や基質となる デオキシリボヌクレオチドの損傷(塩基修飾など)を認識し、合成反応を停止させることができる ため(Gill et al., 2007; Palud et al., 2008; Richardson et al., 2013)、新生DNA鎖への変異導入を 抑制できる。以上の特徴から、両者は複製型ポリメラーゼであると考えられてきた。PolBは、PolD よりもDNA合成速度が速く、RNAプライマーからのDNA合成活性が低いことから、PolBはリ ーディング鎖の合成を担い、PolD はラギング鎖を合成していると推測されてきた。Čuboňová ら は、T. kodakarensisのpolBを破壊できることを報告した(Čuboňová et al., 2013)。報告された polB 破壊株は、至適生育温度(85℃)で親株と同様に生育した。紫外線に対しては感受性となっ たが、メチルメタンスルホン酸やマイトマイシンCといったアルキル化剤に対しては感受性を示さ なかった。本研究では、T. kodakarensisにおいて、polB遺伝子完全破壊株(ΔpolB株)を作出し た。更に、polB遺伝子相補実験を行うことで、ΔpolB株のDAD 損傷ストレスに対する感受性が、

polB遺伝子の破壊によることを証明した。

【実験・結果】

i. ΔpolB株の作出

T. kodakarensisでは相同組換え機構を利用した遺伝子破壊法が確立されている。この方法によ

り、T. kodakarensis DAD株を親株として作出した株について、PCR解析とサザンブロット解析 を行い、染色体DNA上からのpolB遺伝子の破壊を確認した。

ii. polB遺伝子相補実験

ΔpolB株の親株であるDAD株は、アルギニン脱炭酸酵素遺伝子(pdaD)の欠損株であり、アグ

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マチン栄養要求性を示す。Escherichia coli − T. kodakarensis シャトルベクターpTKG02 は、

pTK02の誘導体であり(Nagaoka et al., 2013)、pdaDを含んでいる。T. kodakarensis由来グル タミン酸脱水素酵素遺伝子(Tko-gdh)は、その細胞内で強力かつ構成的に発現している(Rahman et al., 1998)。ΔpolB株で遺伝子相補実験を行うため、pTKG02を元に、Tko-gdhのプロモーター を利用した、PolB発現プラスミドを構築した。これをΔpolB株に導入した、ΔpolB/pTKG-polB株 を取得した。pTKG02 を DAD 株と ΔpolB 株に導入した株をそれぞれ DAD/pTKG02 株と ΔpolB/pTKG02 株とした。ウェスタンブロット解析を行った結果、ΔpolB 株、ΔpolB/pTKG02 株 ではPolBの発現が認められず、DAD株、DAD/pTKG02株、ΔpolB/pTKG-polB株では、PolBの 発現が認められた。ΔpolB/pTKG-polB株のPolB発現量はDAD株とDAD/pTKG02株のそれを顕 著に上回っていた。

iii. ΔpolB株の変異原に対する感受性

T. kodakarensisには、Base excision repair(BER)(塩基除去修復)、Alternative excision repair

(AER)、Nucleotide excision repair(NER)(ヌクレオチド除去修復)、Mismatch repair(MMR)

(ミスマッチ修復)、Homologous recombination repair(HR)(相同組換え修復)に関与する酵素 遺伝子が存在し、それらが機能してゲノムを維持していると考えられる。これらのDNA修復機構 の過程には、DNAポリメラーゼによる修復合成が必要である。そこでΔpolB株について、紫外線

(UV-C)、電離放射線(γ線)、メチルメタンスルホン酸(MMS)、マイトマイシンC(MMC)と いった変異原に対する感受性を解析した。MMSは、主にグアニンとアデニンを修飾し、メチル化 塩基を生じさせる。N7-メチルグアニンとN3-メチルアデニンは、MMSにより生じるメチル化塩基

の90%以上を占めている(Beranek, 1990)。MMSによる損傷は、BERまたはNERにより修復

されると考えられる(White et al., 2018)。MMCは、化学的または酵素的に活性化されると、グ アニンに結合し修飾する。更に、2つのグアニン間で架橋を形成させる。同一鎖上でグアニンが隣 接していると鎖内架橋が生じる。5′-CpG-3′配列が存在すると3′側のグアニンと5′側のシトシンに対 合しているグアニンとの間に鎖間架橋が生じる(Tomasz, 1995)。MMCによる修飾塩基と鎖内架 橋はNERにより、鎖間架橋はHRにより修復されると考えられる(White et al., 2018)。UV-Cに より生じる主要なDNA損傷は、同一鎖上で隣接した2つのピリミジン塩基において形成される二 量体(シクロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)や(6-4)光産物((6-4)PP))である。これらの二 量体は、NERにより修復されると考えられる(Sinha et al., 2002; Rastogi et al., 2010)。γ線は、

DNAの二本鎖切断(DSBs)を引き起こす(Daly, 2012)。DSBsは、HRにより修復されると考え られる(White et al., 2018)。変異原に暴露した後の生育頻度をDrop Dilution Assayにより評価 した。その結果、DAD株に比してΔpolB株の生育頻度は低下した。ΔpolB株は、試行した全ての

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変 異 原 に 対 し 感 受 性 と な る こ と が 確 認 で き た 。ΔpolB/pTKG-polB 株 の 変 異 原 感 受 性 は 、

DAD/pTKG02株と同程度に回復した。

iv. ΔpolB株の熱ショックに対する感受性

紫外線、電離放射線、種々の化学物質の他に、「熱」によってもDNA損傷は誘発される(Suzuki et al., 1994; Marguet et al., 1998)。高温環境下においてDNAは不安定化し、脱塩基部位(APサ イト)の形成に伴う一本鎖切断(SSBs)や二本鎖切断(DSBs)が促進される。常温環境下でも DNA 鎖は分解され断片化するが、分解速度が非常に遅いため、常温菌細胞内では分解の初期段階 で修復される。一方、高温環境下では分解速度が非常に速く、DNA 鎖は速やかに断片化する

(Kampmann et al., 2004)。塩基の脱アミノ化も「熱」よって促進される(Connolly, 2009)。「熱」

により導入された、DNA損傷を修復するためには、DNAポリメラーゼによる合成が必須であると 考えられる。そこで、ΔpolB 株の熱ショックに対する感受性を解析した。その結果、ΔpolB 株は、

熱ショック対し感受性となることが確認できた。ΔpolB/pTKG-polB 株の熱ショックに対する感受 性は、DAD/pTKG02株と同レベルに回復した。

v. ΔpolB株染色体DNAのゲル電気泳動解析

熱ショックを与えた菌体から染色体DNAを抽出し、損傷の程度を解析した。損傷(二本鎖切断:

DSBs)を受けた染色体 DNA を、アガロースゲル電気泳動(弱アルカリ性条件)に供するとスメ

アバンドとして観察される。アルカリアガロースゲル電気泳動(強アルカリ性条件)では、二本鎖 DNAが融解し一本鎖 DNAへと変性するため、片方の鎖にニック(一本鎖切断: SSBs)が生じて いるだけでスメアバンドとなる。DAD株とΔpolB/pTKG-polB株の染色体DNAを弱または強アル カリ性条件下で電気泳動したところ、熱ショックの有無に関わらず、それぞれ単一バンドとして検 出された。熱ショックを与えなかったΔpolB株の染色体DNAも、DAD 株と同様、熱による分解 は観察されなかった。一方、熱ショックを与えたΔpolB株の染色体DNAを弱アルカリ性条件下で 電気泳動に供すると、熱ショックを与えた時間の増加に伴って、スメアバンドの増大が観察された。

更に、強アルカリ性条件下においては、単一バンドが観察されずスメアバンドとして検出された。

vi. ΔpolB株の増殖特性

ASW-YT-S0 液体培地により、DAD 株、ΔpolB 株、DAD/pTKG02 株、ΔpolB/pTKG02 株、

ΔpolB/pTKG-polB株を 85℃、93℃で培養し、増殖曲線を解析した。その結果、DAD 株とΔpolB 株 の 増 殖 に 顕 著 な 相 違 は 認 め ら れ な か っ た 。 更 に 、DAD/pTKG02 株 、ΔpolB/pTKG02 株 、 ΔpolB/pTKG-polB株の間でも増殖に顕著な相違は認められなかった。

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【考察】

T. kodakarensis DAD株を親株とし、polB遺伝子破壊株(ΔpolB株)を作出した。更に、pTKG02 由来のプラスミドを用いた遺伝子相補株(ΔpolB/pTKG-polB 株)を取得した。ウェスタン解析の 結果、DAD株とDAD/pTKG02株のPolB発現量は、同程度であったが、ΔpolB/pTKG-polB株の PolB 発現量は、それらの株を顕著に上回っていた。85℃、93℃培養では、DAD 株と ΔpolB株の 増殖特性に顕著な相違は認められなかった。これらのことから、PolB の欠失や過剰発現は、細胞 の生育に影響しないことが明らかとなり、PolB は、DNA 複製に必須ではないと考察できた。T.

kodakarensisでは、PolDをコードする遺伝子は破壊できないことが報告されている(Čuboňová et al., 2013)。細胞内でPolDは、複製起点認識タンパク質(Orc1/Cdc6)やDNA複製ヘリカーゼ(MCM, GINS)と複合体を形成していることが報告されている(Li, et al., 2010)。これらのことから、細 胞内でPolDは、DNA複製に重要な役割を果たすと考えられた。

Čuboňováraらが報告したpolB破壊株は、UV-Cに対しては感受性となったが、MMSやMMC といったアルキル化剤に対しては感受性を示さなかった。本研究で作出したΔpolB株は、試験した 全ての変異原(UV-C、γ 線、MMS、MMC、熱ショック)に対し高い感受性を示した。この表現 型が、polBの破壊によるものであることを証明するため、E. coli − T. kodakarensisシャトルベク ターpTKG02を用いてpolB遺伝子を相補した、ΔpolB/pTKG-polB株を取得した。この相補株の変 異原感受性は、DAD/pTKG02株と同程度に回復した。これらの結果から、ΔpolB株の示す、紫外 線(UV-C)、電離放射線(γ線)、アルキル化剤(MMSとMMC)、熱ショックに対する感受性は、

polB遺伝子の破壊によることが証明できた。PolBは、BER、AER、NER、HRといったDNA修 復機構に関与することが強く示唆された。これらのことから、細胞内でPolBは、DNA修復に重要 な役割を果たすと考察した。

【参考文献】

Beranek, D. T. (1990). Mutation Research/Fundamental and Molecular Mechanisms of Mutagenesis, 231(1), 11−30.

Connolly, B. A. (2009). Biochem. Soc. Trans., 37, 65−68.

Čuboňová, L. et al., (2013). Journal of Bacteriology, JB-02037.

Gill, S. et al., (2007). Journal of Molecular Biology, 372(4), 855−863.

Gueguen, Y. et al., (2001). European Journal of Biochemistry, 268(22), 5961−5969.

Kampmann, M. et al., (2004). Nucleic Acids Research, 32(12), 3537−3545.

Killelea, T. et al., (2014). Frontiers in Microbiology, 5, 195.

Li, Z. et al., (2010). mBio, 1(5), e00221-10.

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Marguet, E. et al., (1998). Extremophiles, 2(2), 115−122.

Nagaoka, E. et al., (2013). Journal of Bacteriology, 195(15), 3442−3450.

Palud, A. et al., (2008). Molecular Microbiology, 70(3), 746−761.

Rahman, R. et al., (1998). Molecular and General Genetics MGG, 257(3), 338−347.

Rastogi, R. P. et al., (2010). Journal of Nucleic acids 2010, 592980.

Richardson, T. T. et al., (2013). Nucleic Acids Research, 41(7), 4207−4218.

Sinha, R. P. et al., (2002). Photochemical & Photobiological Sciences, 1(4), 225−236.

Suzuki, T. et al., (1994). Nucleic Acids Research, 22(23), 4997−5003.

Tomasz, M. (1995). Chemistry & Biology, 2(9), 575−579.

White, M. F. et al., (2018). FEMS Microbiology Reviews, 42(4), 514−526.

参照

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