論文の内容の要旨
氏名:中 島 隆 広
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:子宮内膜症病巣におけるMAS1(Angiotensin 1-7 receptor)の発現とその意義
【目的】子宮内膜症とは子宮内膜あるいはその類似組織が子宮内膜または子宮筋層以外で発生、増殖する エストロゲン依存性の疾患である。レニンーアンジオテンシン系renin-angiotensin system (RAS) は血管 系への作用だけでなく、細胞増殖、炎症作用との関連もある。子宮内膜症におけるレニン-アンジテンシ ン系の役割は不明であったが近年、子宮内膜症組織におけるangiotensin receptorの存在が証明され、RAS が子宮内膜症の病態に関連している可能性が示唆された。Angiotensin II が Angiotensin Converting Enzyme 2 (ACE2)により切り出されたAngiotensin (1-7) は受容体であるMAS1を介して、血管拡張、細 胞増殖抑制、抗炎症作用を持ち、AT1Rを介したAngiotensinⅡと相反する作用を示す。今回、子宮内膜症 病巣においてangiotensin 1-7のreceptor であるMAS1の発現を確認し、子宮内膜症とレニン-アンジオ テンシン系の役割を解明する事とした。
【方法】Informed consentのもと、当施設で開腹手術または腹腔鏡下手術を施行した婦人科良性疾患患者
を対象とした。非子宮内膜症の良性疾患の正所性内膜組織を対照とした。qRT-PCRを用いて子宮内膜症病 巣におけるMAS1 mRNA発現、また、AT1R、AT2Rとの関連性について検討した。更に免疫組織化学染 色を施行しMAS1蛋白局在についても検討した。
【成績】子宮内膜症患者の内膜症性嚢胞壁は非子宮内膜症患者の増殖期正所性内膜と比較して MAS1 mRNA の発現が有意に増加していた。また、非子宮内膜症患者の正所性子宮内膜では MAS1 mRNA と AT1R mRNAに強い相関関係を示した。一方で内膜症性嚢胞壁ではMAS1 mRNAとAT1R mRNAに相関 を示したが非子宮内膜症患者の正所性内膜と比較して相関は弱かった。子宮内膜症患者の増殖期正所性子 宮内膜は非子宮内膜症患者の増殖期正所性子宮内膜と比較して MAS1 mRNAの発現が有意に増加してい た。免疫組織化学染色よりMAS1は子宮内膜症病巣において腺上皮に蛋白の局在を認めた。
【結論】今回、子宮内膜症病巣において初めてMAS1の発現を確認した。子宮内膜症病巣ではMAS1の発 現が有意に高値であり、また、非子宮内膜症患者の正所性内膜と比較してAT1Rとの相関が弱く、AT1Rと MAS1の発現のバランスの変化が子宮内膜症病巣の形成に関与している事が考えられた。