論文の内容の要旨
氏名:渡邊 駿
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:培養ヒト顎関節線維芽細胞様細胞を用いた顎関節炎症病態関連因子の検索 -DNAマイクロアレイ解析および線維芽細胞様細胞と単球の共培養-
DNA マイクロアレイ解析を用いた炎症病態関連因子の検索
顎関節において比較的高頻度に発生する顎関節円板転位障害 (internal derangement:ID)および変形性 顎関節症 (osteoarthritis of the temporomandibular joint:OA-TMJ)の滑膜には, 毛細血管の増生や炎 症性細胞の浸潤といった滑膜炎所見が認められる. また, ID や OA-TMJ 患者滑液中では, 代表的な炎症性サ イトカインである Interleukin-1 (IL-1) や tumor necrosis factor - (TNF-) が検出されると報告 されている. IL-1や TNF-は,滑膜細胞やマクロファージに作用し, 炎症性因子や細胞外基質分解酵素の 産生を促進することから, 関節疾患の炎症病態形成や組織破壊に関与すると考えられている. そこで, 顎 関節の炎症病態形成メカニズムを解明する一環として, ヒト顎関節滑膜由来線維芽細胞様細胞に IL-1と TNF-を作用させ, 網羅的な遺伝子発現解析を行った. 遺伝子発現上昇した上位遺伝子中には Chemokine superfamily の遺伝子が多く認められた. Chemokine 以外で最も遺伝子発現の上昇率が高かったのは GM-CSF であった. GM-CSF は CSF の一員であり, その他に M-CSF, G-CSF が存在する. これら CSF はマクロファージ や顆粒球の増殖因子として発見され, その後, 多様な作用を持つことが明らかとなった. また, ID や OA 患者の関節滑液中に GM-CSF や M-CSF が検出されることや, G-CSF は関節疾患のバイオマーカーとして注目 されていることから CSF は関節疾患に関与することが考えられる. そこで, 本研究では, CSF について注目 し, CSF の遺伝子発現量, タンパク質産生量およびタンパク質産生経路ついてさらに検討を行った.
線維芽細胞様細胞と単球の共培養時における炎症病態関連因子の調査
顎関節滑膜の表層には, 線維芽細胞様細胞とマクロファージ様細胞が存在しており, 線維芽細胞様細胞 は滑液の産生や細胞外マトリックスの産生, マクロファージ様細胞は異物の除去などを行っている. 両細 胞は顎関節の恒常性の維持を行うとともに, 炎症の病態形成にも重要な役割を担っていると考えられてい る. マクロファージ様細胞は骨髄中の単球由来と報告されており, 滑膜炎症時に細胞の増加が認められる.
また, 関節リウマチ等の関節疾患病態形成において, マクロファージ様細胞と線維芽細胞様細胞でのクロ ストークについて研究が行われており, 両細胞のクロストークによる病態形成の研究は顎関節の炎症 病態形成メカニズムを解明する上でも重要である. しかし, 顎関節滑膜でマクロファージ様細胞と線維 芽細胞様細胞とのクロストークに関する報告はない. そこで本研究では, ヒト末梢血より分離した単球と ヒト顎関節線維芽細胞様細胞の共培養を行い, 両細胞のクロストークによる産生される炎症病態関連因子 について調査した.
本論文では以上の 2 つの研究を行い, 以下の結果を得た.
1)DNA マイクロアレイ解析の結果, 発現上昇した上位遺伝子中に CSF が認められた.
2)GM-CSF, G-CSF 遺伝子発現は各刺激後 8 時間まで経時的に上昇し, 共刺激>IL-1> TNF-の順で上昇 率が高かった. 一方, M-CSF 遺伝子発現は刺激後 4 時間がピークであった.
3)GM-CSF, G-CSF タンパク質産生は各刺激後 48 時間まで経時的に上昇し, 共刺激>IL-1> TNF-の順で 産生量が高かった. 一方, M-CSF 遺伝子発現は刺激後 24 時間以後プラトーとなった.
4) GM-CSF, G-CSF 遺伝子発現およびタンパク質産生は共刺激時において IL-1と TNF-の相乗的な効果が 認められた. 一方, M-CSF には共刺激時において IL-1と TNF-の相乗的な効果は認められなかった.
5)CSF タンパク質産生は IL-1および TNF-の刺激濃度依存的に産生量の上昇を認めた. M-CSF は無刺激時 においてもタンパク質産生を認めた.
6)IL-1および TNF-刺激滑膜線維芽細胞の GM-CSF 産生は, PD98059 (ERK1/2 inhibitor),SB20358 (p38 inhibitor),APDC (NFB inhibitor)により減少した. また, IL-1刺激時では,SP600125 (JNK1/2 inhibitor)による GM-CSF の産生量の減少も認められた.
7)IL-1および TNF-刺激滑膜線維芽細胞の M-CSF 産生は, PD98059 (ERK1/2 inhibitor), SP600125 (JNK1/2 inhibitor), APDC (NFB inhibitor)により減少した. また, IL-1刺激時では,SB20358 (p38 inhibitor),
による M-CSF の産生量の上昇が認められた.
8)末梢血から分離した単球は, 円形状および紡錘形状を呈する 2 種類の細胞形態が認められた. 両細胞 は免疫組織化学染色にて CD14 および CD68 陽性所見を認めた.
9)IL-1IL-6 および IL-8 産生は滑膜線維芽細胞と単球の共培養では, 単独培養に比べて, 著しい産生上 昇を認めた.
以上の結果より, 顎関節滑液中に IL-1および TNF-が存在すると滑膜線維芽細胞は CSF を産生し, IL-1
と TNF-が共存した場合は GM-CSF および G-CSF が過剰に産生されることが示唆された. IL-1および TNF-
刺激時の滑膜線維芽細胞における GM-CSF や M-CSF の産生には MAPK および NFB 経路を介していることが考 えられた. また, 滑膜線維芽細胞とヒト末梢血より分離した単球の接触は, IL-1, IL-6 および IL-8 とい った炎症性サイトカインの産生を上昇させることが明らかとなった. このことから顎関節滑膜組織の炎症 病態形成には CSF が関与すること, 滑膜線維芽細胞とマクロファージ様細胞のクロストークは炎症病態を 亢進させることが示唆された.