論文の内容の要旨
氏名:小 林 祐 介
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:妊娠高血圧腎症患者由来IgGによる絨毛癌細胞、ヒト妊娠初期絨毛細胞よりの soluble Endoglin産生の検討
妊娠高血圧症候群 (pregnancy induced hypertension PIH) は産科特有の疾患で基本病態は血管内皮障 害による臓器障害と血圧上昇であ り, 大部分は分娩後に軽快する。その中でも妊娠高血圧腎症
(preeclampsia PE) は高血圧, 蛋白尿, 凝固異常を併発し母児ともに危険に晒される疾患である。しかしな
がら, その病態については不明な点が多くその解明が望まれる。
soluble Endoglin (sEng) はTransforming growth factor-beta (TGF-β) と結合して, 血管新生に関わる antiangiogenic proteinとして知られている。TGF-βはendothelial Nitric Oxide Synthase (eNOS) を活 性化し血管拡張を引き起こす。このためsEngはTGF-βによるNOS依存性の血管拡張を阻害し, 高血圧を 発症しPE患者末梢血では高値を呈することが知られている。
PIHでは自己抗体の関与が報告されており, antiangiogenic protein産生との関連も報告されている。し かしながら, これまでPE患者における自己抗体とsEng濃度高値との関わりを直接示す報告はない。
そこで, 本検討ではPEにおいて血清IgGがsEng産生にどのような役割を担っているのか, 特に自己抗 体と sEng産生増加の関連を明らかにするため絨毛癌細胞株 (JEG-3 cells) 及びヒト妊娠初期絨毛細胞を 用いて検討を試みた。
結果として, PE患者血清中のIgG分画がヒト妊娠絨毛細胞に作用するとantiangiogenic proteinである sEngの産生に促進的に関与し, PE発症を引き起こす可能性が示唆された。さらに, 自己抗体を含むPE患 者血清IgGが深く寄与していることが判明した。
また, Losartan によりangiotensin II type 1 (AT1) のreceptorを特異的にブロックしsEngの産生と mRNAの発現が抑制されたこと, TGF-β濃度が上昇したことから, sEng産生機序にPE患者血清IgG中の AT1-receptor agonistic autoantibody (AT1-AA) が関与している可能性が示された。
これらの所見より, AT1-AAは胎盤絨毛を介しsoluble fms-like tyrosine kinase-1 (sFlt-1) の増加のみな らずsEngも増加させること,さらにTGF-βをも低下させTGF-βによる血管拡張作用並びに血管新生作用 を阻害し, PE患者の病態悪化に深く関連していると示唆された。
本検討の特筆すべき成果としては, これまで主に動物モデルでの研究により示唆されていた AT1-AA が, 実際にPE患者血清中に存在し, 絨毛を介しsEng産生やPEの発症に関与するという意義をヒト妊娠絨毛 細胞における解析で間接的にはじめて実証したことである。