◎シンポジウム
日 中 経 済 関 係 の 回 顧 と 展 望
時あたかも日中関係は﹁政冷経熱﹂と椰楡される不愉快な時代に遭遇している︒こうした重大な時期に︑覚書貿易の時代から実務と研究の最前線におられた愛知大学の嶋倉民生名誉教授が定年で退任された︒嶋倉先生の豊かな経験をベースに︑中国の知日派の先生方とともに︑今こそ重要な日中経済関係の﹁温故知新﹂を語っていただく︒
嶋倉民生︿愛知大学名誉教授﹀×趙自瑞︿眈錨雛騨院﹀×施用海︿羅姻鑛﹀×徐長文く琳翻殖嘱鱒蘇螺誇v
黄暁勇︿中国社会科学院弁公庁主任﹀×張淑英︿錨認騨賊日﹀司会服部健治︿愛知大学現代中国学部教授﹀
服部本日のシンポジウムにご出席あり
がとうございます︒このシンポジウムは︑
愛知大学現代中国学部の嶋倉民生名誉教
授が二〇〇四年三月で定年で退任された
ことを記念して企画されました︒
嶋倉先生は長らく日中経済関係に従事
してこられました︒日中国交正常化から
すでに三十数年︑新中国ができてすでに
五十数年以上経ち︑今︑日中経済関係は
非常に緊密ですけれども︑過去の日中経 済関係のことを知らない人が多くなって
きました︒特に若い人ですね︒そこで昔
のことをもう一度振り返って︑現在の問
題を考えてみようということが︑今回の
シンポジウムの一つの目的です︒﹁温故知
新﹂︒この成句も中国から来たものです
ね︒
もう一つは︑今確かに日中経済関係は
緊密ですが︑一方で政治的関係は必ずし
も緊密でないという問題が存在します︒ この状況は中国でも日本でも﹁政冷経熱﹂(政治は冷たく︑経済は熱い)という言葉
で表現されています︒こういった状況の
もと︑さらに日中経済交流を活発化させ
るにはどうしたらいいか︑といった問題
意識を持って討論したいと考えていま
す︒
今日︑日中経済関係は広範かつ多岐に
わたり︑問題も非常に複雑化・専門化し
てきました︒これからの日中経済関係は
日中経済関係 の回顧 と展望
121
二国間だけでなく国際的な視野を持っ
て︑あるいは東アジア全般の中で考えて
いかなくてはならない時代を迎えており
ます︒そういったことを踏まえて︑今日
の討論を進めたいと思います︒
まず最初に嶋倉先生に基調報告をして
いただき︑その後︑自由な討論に移りた
いと思います︒特に中国の先生方の自由
なご発言を期待しております︒
討論はほぼ八つのキーワードを考えて いますが︑大きく二つ︑日中国交正常化
以前の問題・教訓と︑日中国交正常化以
降の状況・評価に分かれます︒
嶋倉先生は︑理論面だけではなく︑日
中経済関係の実務も知っておられます︒
またもっと古い時代の中国も知っておら
れる非常に貴重な存在です︒嶋倉先生が
現役を去られるのは実に残念ですが︑こ
の機会に貴重な経験をご披露していただ
き︑討論したいと思っています︒
︻基調報告︼
日中経済交流の課題を語る
ω開題
◇回顧からの提言
四〇年前︑周恩来総理や屡承志先生の
下で﹁日中覚書貿易協定﹂に参画された
中国側の旧友やその後継者である新進気
鋭の研究者の皆様と︑今日ここ北京で意
見交換ができることは︑有意義で︑現在 嶋倉民生
の日中経済交流が抱える諸問題に対して
も示唆することが多いと思われます︒
LT協定からMT協定へと変化した︑
いわゆる﹁日中覚書協定﹂に参加しまし
た私も七〇歳となりました︒そこで北京
に出掛けて参りました私から初めに発言
させていただき︑現在の日中経済交流上
の諸問題について︑四〇年来の経過を観 て参りました者としての現状認識をωと
して前半で述べさせていただき︑後半︑
口Dにおいて論題提起のつもりで私の関心
事項を発表させていただきます︒先生が
たの忌揮のないご意見をお聞かせいただ
ければ幸いです︒
結語で述べる期待は﹁東アジア地域経
済融合発展のために﹂ということですが︑﹁融合発展﹂が私の期待です︒
◇市場経済の発展と自由の拡大
四〇年前の文革期の中国を回顧します
と︑食糧券や工業券といった配給キップ
を持って行列に並んで乏しい物品を購入
せねばなりませんでした︒しかしこの二
〇年来の中国の目覚ましい市場経済の発
展で︑商品を購入するための行列はなく
なり︑国営商店店員の横柄な態度に不愉
快な思いをすることも少なくなり︑自由
に人々は物を買い︑選ぶことができるよ
うになりました︒不快な店に行くのは止
めサービスの良い店に行けばよいわけ
で︑人々は豊かで自由になりました︒中
国市場経済の大発展は国際化を進め︑
人々の生活水準を高めましたが︑さらに
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1933年 中 国 遼 寧 省 金 州生 まれ 、 敗 戦 の翌 年 に 萌 藍 島 か ら両 親 と引 揚 げ る。1964年 農 林 省 大 臣官 房 企 画 官 に な り、1968年 ア ジ ア経 済 研 究 所 香 港 派 遣 研 究 員 、1969年 よ り 日中 国 交 正 常 化 前 の 日本 ・中 国 覚 書 貿 易 北 京 事 務 所 代 表 。帰 国 後 、1973年 よ り側) 日 中 経 済 協 会 初 代 調 査研 究 課 長 に な る 。 ア ジ ア経 済 研 究 所 の 動 向 分 析 部 長 を経 て 、1986年 よ り愛 知 大 学 経 済 学 部 お よび 同 現 代 中 国 学 部 で18年 間 教 授 を務 め 、2004年3月 に定 年 に て 退 任 。日 中経 済 協 会 評 議 員 。
重要なことは社会の自由の水準を高めた
ことだと思います︒市場で人々は選ぶと
いう自由を持てるようになりました︒自
由売買・自由交易は自由な社会を生み出
します︒市場経済には自由をもたらすと
いう肯定すべき側面があります︒
統制経済と自由経済の観点からみる
と︑中国は自由中国に向かって進んでい
るのであって︑これは避けることのでき
ない歴史の潮流だと思います︒
◇経済先行のもたらした成果
国交回復していなかった昔は︑東西冷
戦の敵対関係があり︑日中関係には厳し
い政治問題が続発しました︒﹁長崎国旗事
件﹂による貿易全面中断とか︑﹁吉田書
簡﹂による輸出入銀行資金の使用禁止と
かに私たちは直面しました︒当時︑これ
に対して︑﹁政経不可分﹂﹁政治三原則﹂
が提起されるなど︑政治上の厳しい対立
が生まれました︒しかし周恩来総理の英
明な指導もあって︑貿易拡大を通して日
中交流を拡大し︑一歩一歩﹁積み上げる﹂
方式で日中国交回復に進もうとする︑﹁覚
書﹂の方式が通商拡大を通しての国交実 現に貢献してきました︒
社会の下部構造つまり経済構造が上部
構造を決定するのでしょうから︑政治的
対決を避け︑政治と経済をできるだけ関
連させず︑経済交流を先行させて︑貿易
を進め経済の下部構造の親密度をこしら
えつつ︑上部に政治関係を構築するとい
う︑いわば﹁政経分離﹂の経済交流先行
の方式が︑日中復交を実現する上で大き
な貢献をしたと思います︒現実の社会は﹁政経不可分﹂でありましょうが︑友好交
流拡大には﹁政経分離﹂﹁経済先行﹂が重
要だと﹁覚書協定﹂の経験が教訓として
示しているように思います︒
◇日中経済交流発展の好ましい現状
最近﹁中国脅威論﹂や日本の﹁産業空
洞化論﹂を声高く言う人は少なくなりま
した︒日中経済交流の深化拡大の現実が
抜き差しならぬ日中相互の運命共同体を
形成しつつあるのかもしれません︒日中
両国内で見かける相手国人の多さは驚く
ほどです︒相互に相手を必要としている
からでしょう︒﹁中国脅威論﹂後退の背景を少し考察し
日中経 済関係の回顧 と展望 i23
てみます︒数年前には中国経済の目覚ま
しい成長と輸出の拡大に対し︑長期不況
の底で低迷する日本では中小企業まで含
めた企業の中国移転の流れがみられ︑﹁産
業空洞化論﹂が説かれました︒ところが
今や﹁中国脅威論﹂どころか︑中国に進
出した資本・企業は当然︑日本の産業界
も中国経済の活況による﹁中国特需﹂と
でも呼ぶべきものに救われているのであ
り︑脅威どころか中国からの世界各国へ
の輸出が停滞したり︑中国経済の成長が
日本経済のバブル崩壊期のような事態を
迎えないことを祈っている状態のように
みえます︒
アメリカ市場で︑日本製品と中国製品
が市場を争奪し合うということは少な
く︑相対的に日本はハイテク製品を︑中
国はロウテク製品を対米輸出しているの
であって︑日中が競合しているのではな
い︑中国は脅威ではない︑という分析に
基本的に私は賛成です︒
また日中間の巨大な貿易拡大もいわゆ
る水平分業の物財の取引であって︑その
相互補完性は大きく︑中国の研究者の 方々のよく言われcLa'win・win"の関係
であるという見方に賛成です︒
人民元の切り上げ要望の声も最近は穏
当なものに落ち着いてきているようで
す︒これには中国側の為替管理当局の動
揺を見せない姿勢と︑増値税の引き下げ
等の弾力的対応などがあり︑日米政財界
とも選挙を前にしていても︑人民元の切
り上げは中長期的課題であるとの理解が
形成されたように思われます︒そして何
よりも中国国内で生産し︑輸出している
外資企業は元切り上げのメリットはそれ
ほど大きいとは見ていないようです︒
日本国内には対中ODA円借款を減額
せよと声高く主張する人々がいました
が︑これも最近は声が小さくなっている
ように思います︒これは対中ODAは借
款が大部分であり︑長期ではあれ︑利子
付きで還付されるものであることが周知
されはじめたこともあります︒また︑円
借款によって日本企業にも事業機会が生
まれることや︑為替の日本円高傾向が続
けば還付時には日本に有利であることな
どの理解が進み︑私見では日本にとって も借りていただいたほうが良いぐらいだ
と思えます︒日本の財政事情から︑減少
は止むを得ないものでしょうし︑中国自
体の対外投資や援助の増大︑外貨準備の
激増もあるので︑日中双方ともこれが大
問題として提起されることはないと思わ
れます︒以上︑日中経済交流の現状につ
いての私の認識は﹁問題不大﹂であり︑
むしろ好ましい発展をみせていると思わ
れます︒
以下︑今後の日中経済交流上での課題
だと私が考えているいくつかの間題を提
起しますので︑御在席の諸先生の忌揮の
ないご意見をいただきたいと思います︒
㎝論題の提起
◇FTAとWTOの整合性
中国のFTAへの取り組みが日本に先
駆けて急展開したので︑日本の商社の幹
部の中に日本の立ち後れに危惧感を表明
する人が出てきました︒日本政府のFT
Aへの取り組みが中国との比較で遅れを
見せているのは事実でしょう︒
東アジアの政財界の指導者の発言は︑