切削中 に生ず る油圧駆動往復台 の スティ ッ クス リッ プ
堀 込 泰 雄
1. ま え が き
工作按枕の自動化にしば しば採用 される油圧駆動送 り装置は,その剛性の低 さにより,低 速送 りのときにステ ィックス リップを生ず ることがある.特に切削していない状態で円滑な 運動を している場合でも,切削の状態に入 ると,切削力の周期的変動とステ ィックス リップ とが互に相手を強めあ う状態が作 り出され る(1). ここでは,切削中に生ず るステ ィックス リ ップを実験的に観察 し,その発生機構の説明づけを し,それにもとづいた解析結果 と実験結 果 との比較について述べることにす る.
2 .
実 験 装 置 お よび 実 験 方 法 切削中に発生するステ ィックス リップを観測す るための実験装置の概要を図
1
に示す.使用 した旋盤の大きさは,ベ ッド上の振 り450mm, 最大センタ間距離8 00mm
であ る. この旋盤の 送 り用 ピニオンをとりはず し,往復台を油圧で 駆動する構造 とした.流量制御弁は圧力補鱗形( 0. 1 ‑1 g /mi n)
で, 作動油はDTE o
ilLi g ht
を用いた.また切削工具には,P2 0,3 3 ‑3
形を 用い,工具形状は( 0
,6
,6
,8
,0, 0 . 5)
とした.実験方法は次のとうりである.往復台を油圧 駆動によって送 り,切削中における往復台の変 位 と切削力送 り分力 とを,それぞれ差動変圧器 とス トレンゲージで同時に検出 して電磁オ ッシ pに記録させた.差動変圧器の 拡大 率 を 大 に し,しかも記録値がす く・に測定範囲か らはずれ ないようにす るため,同期電動概で駆動される
̲r.作物 差動変圧 器
スケ 工トー往復台具 jr 一G)T> 朋里 円板直定規
∫ 巾
器 君 r‑i● .i
歪 i■
刺
定
M
器
[璽 ≡
∃
Li2J 図1
実 験 装 置摩擦円板で,差動変圧器の鉄心に結合 している直定規を駆動させて,往復台との相対速度を 0に近 くさせた.
3 .
スティックス リップの発生原理 記号を次のように定める.i :
時間S M :
往復台の等価質量k g s 2 / c m
8 6 長野工業高等専門学校紀要 ・第 5 号
β:
油の体積弾性係数kg/c m
2p,:
油圧源の圧力kg/ c m
2P :シ 1)ソダ背圧kg
/ c m
2K
p:
背圧側配管の体積膨張係数cmS / kg V :
背圧側シ リンダ体積cm
Sy :往復台変位c
m v:
往復台速度cm/s vm…
:往復台平均速度cm/ s
qv:
流量制御弁を通過す る流量cm
3/ S
Fs:
静摩擦力kgfv:
動摩擦力‑Fd+c v kg
c :
粘性抵抗係数kgs /c m
A∫:油圧源側シ. j
ソダ断面積cm
2A :
背圧側シ リンダ断面積cm
2R
p,:毎秒主軸回転数〟 :
切削厚 さc m fc:
切削力kgA,: A f t / Aukg / c m
次の仮定をたてて往復台の運動方程式を作 った.(1)油圧系を集中定数系 としてとりあつか う.
( 2 )
流量制御弁を通過す る油の流量はステ ィックス リップ発生中にも変化 しない.( 3 )
摩擦力は速度だけの関数 として表わす.(4) ピス トソとシ リソダ間における油のもれはない.
v
<0のとき (ス 1)ップの間)M S it V・ c v‑A
,PrAp‑fc‑Fd‑‑
・・・(1)q
v
‑Av ‑ ( 音.Kp)芸 ‑・・・‑(2)
qv ‑Avm, a n(
一定) ・
‑ ‑
‑(3)
fE ‑kc u‑k̀ t y( t )‑y( i ‑ 1 /R
ps)) ‑ ・・・・・・(4)
V<0の とき (ステ ィックの間)
A, P. ‑Ap‑
I,<F, ・ ・
・‑・
・・(5)移 動 且
y→工 具 の 進
み(o 角度
n2打つ 加 工 物 外 周 の 撰 糊
図5 スティックス1)ツヅの 発生原理
なお
( 2 ) ,( 3 )
,(4)式はそのまま成立す る.( 5 )
式が成立 している間往復台は静止 し,不等号が道になる瞬間に運動を開始 し静止するま では(1)〜(4)式に従 って運動す るものと考える.もちろんステ ィックが発生せず(1)〜(4)式だけ に従 って運動を続けることもあ りうる.図
2
はステ ィックス リップの発生原理を説明す るもので,横軸は工作物外周を36
00
にわた って展開 した ものを示す.ステ ィック期間中は(2 ) 〜( 5 )
式を満足 させ,(2 )
および(3 )
式に より背圧 P
は減少する.図のA
点は1
回転前にス T)ップの始 まった点であ り,以後切削厚さが減少 し, したが って切削力f
cも減少す る.B
点に至 りついに(5 )
式の成立が破れ,ス リップが始 ま る.ス リップ中は(1)〜(4)式に従 う.
C点は切削厚 さが最小になる点であ り,D点は 1回転前 にステ ィックの始 まった点である.図において切削厚 さが周期的に変化 している.すなわち 切削力の周期的変動をひきおこす.ステ ィックス リップと切削力の周期的変動が互に原因 と な り結果 となる.なおステ ィックス リ・ソプの周期は工作物1
回転の時間より必ず長 くな り,また
2
回転の時間 より短い.切削中に生ずる油圧駆動往復台のスティックスリップ
4 .
実験結果お よび考察8 7
実験の諸値 は測 定 の結果次の とう
りである.
〟 ‑0. 2 6kg s 2 /c m2 F. ‑1 06 kg F d ‑1 02 kg 4 ‑1 9. 60 A‑1 5 . 69 c m
2β
‑1. 25×1 0
4kg / c m
3Kp‑0. 5 c m ソkg c‑l l . 1 kg s /c m k c ‑3 6 0 kg / c m
B「
叶 卜 叶 ハー ト t
E2 1 0
mO 0
==コ il
(a)
RL ' , ‑4 . 2 6 d ‑6 4 . 7 mm
切込1. 0 mm
送 り1 . 2 mm/ s 1 / RJ ' . ‑0 . 2 3 5 s e c Ts t i c k ‑0 . 1 6 s e c Ts l z l p‑ 0 . 1 6 s e c T ‑0. 3 2 s ec
llg.「叶L
o L ルT 汁 卜 叶 m
65 0 . 0
一一づ■ t
O) )
Rh‑5 . 8 5 d =5 6. 5 mm
切込1. 5 mm
送 り1 . 2 mm/ s I / R, L ' ‑0 . 1 7 1 s e c Ts t i c k‑0 . 1 0 s e e Ts L z l p=0 . 1 2 s e c T ‑0. 2 2 s e c
図3 実 験 結 果( 図 3
, a)k
c‑8 0 0 kg / c m
(図3
, b),P,
‑1 0kg/ c m2 ,V ‑1 8 0. 44 c m
3F
,とF
dは摩擦力の静特性 の測定結果 よ り得た値であ る. 同測定か らほ
Cは負にな るが, 実際 には他の原 因に よ り何 らかの減衰力が働 くと考 え られ る(2). ここ で は油圧系 の過渡応 答 特性 の振 巾減衰率 よ り求めた.図
3
にステ ィックス 1)ップ発 生時におけ る実験 結果 の記録 を示す.図中のylは, 曲線全 体0 0 . 2 0 . 4 0 . 6 s e c
f
Rp . ‑4 . 2 6
d‑64 . 7 mm R9 . ‑5 . 8 5
d‑56. 5 mm
切込1. 0 mm
送 り1 . 2 mm/ S
切込1. 5 mm
送 り1 . 2 mm/S
図
4
8 8
長野工業高等専門学校紀要 ・第5
号の傾斜を除けば
, y‑V
…n tである.また T.
,,・.A,T . I , . P
はそれぞれ ステ ィック時間,ス リッ プ時間を表わす.図 4は,図 3で得 られた記録をかきなお した実験結果 と,上記諸値を(1)〜(5)式へ代入 して 計算 した結果 との比較を示す.なお計算はデ ィジタル計算機によるシ ミュレ‑シ ョ./の方法 を用いた.実験結果では,工具の切れ味,構成匁先の生成脱落,工作物材料の不均一等の原 因により,切削力の変動が見 られ る. しか し全体 としては,両者の変動の挙動は よく類似 し ているといえよう. この ことは図
2
で説明 したステ ィックス リップ発生の原理の正当性を裏 付けている.計算機によるシ ミュレーシ ョンは,いずれ も実験結果に比較 してス リップ時に おける立ち上 りが急であ り振動の周期は短 くなっている.その理由は,ス リップ時‑こおけ る 摩擦特性 と切削力変動の非線形性によるものと考え られ る.特に摩擦力を静摩擦 と動摩擦 と に分け単に速度の関数 として取 り扱 った ことに問題があろ う.なお,ステ ィックス リップの 発生す るのはある回転数の範囲内であ り,他は同 じ条件で回転数を速 くしても,おそ くして もステ ィックス リップは消失す る. また同 じ回転数で,切込量,送 りを小さくす るとステ ィックス リップは発生 しない(1).
5 .
ま と め 以上を まとめると次のようになる.(1) ステ ィック状態 とス リップ状態について(1)〜(5)式の方程式を作 り,図 2のようなステ ィ ックス リップ発生のモデルを作成 した.
( 2 )
実験により得 られた結果 と,数学的モデルをデ ィジタル計算横で計算 した得 られた結果 とを比較 した.その結果,周期変動に関 して類似性が見 られ,発生践横の説明の妥当性を 裏付けている.( 3 )
しか しなお実験結果 と計算結果 との問に,ス リップ時間その他に相当の差が見 られ る.その理由は,摩擦力,切削力の非線形性によるものであると考え られ る.
参 考 文 献