LCT 言語学習者の動機づけに関する研究
渡 邉 千 晃
はじめに
国際化が進む今日において、異文化理解教育の重要性がますます高まっている。日本 における異文化理解教育は主に英語を通じて行われており、英語に極端な関心が集中し ている。その一方で、近年では多様な言語が大学等で学べるようになってきている。近 年では日本で「あまり教えられていない言語」を母語とする外国人の来日者数が増加し ており、そういった言語を学ぶことの重要性も高まっている。本稿では、この「あまり 教えられていない言語」を米国の National Council Of Less Commonly Taught Lan- guages(NCOLCTL)が使用する、 Less commonly taught languages (一般的にあまり 教えられていない言語)という用語に基づき、「LCT 言語」と呼ぶことにする。
本稿では大学で LCT 言語を主専攻として学ぶ学習者の動機づけと異文化理解意識を 調査した。LCT 言語学習の動機が多様である大学生を対象とし、どのような動機でも LCT 言語学習によって異文化理解意識は変化するのか、また LCT 言語学習だからこそ 身につけることのできる異文化理解意識は何か、を明らかにすることで多様な外国語教 育の重要性を立証する。
また、日本の大学における LCT 言語は、文部科学省の「大学における教育内容等の改 革状況について」(平成21年度)内の「 .大学の国際化に向けた取組状況」を参考に、
英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語、ロシア語、ラテン語、朝鮮語(韓 国語)、アラビア語、イタリア語以外の言語と定義する。
1.動機づけについて
第二言語または外国語学習において学習者の動機づけが学習の成果に関係があること はこれまで多くの研究によって報告されている。
Gardner and Lambert (1959, 1972)は 外 国 語 の 学 習 動 機 を「道 具 的 動 機」(in- strumental motive)と「統合的動機」(integrative motive)に二分した。道具的動機とは 外国語力を仕事の役に立てたい、自分自身の社会的地位を高めたいなどのように、ある 東京女子大学言語文化研究( )23(2014)pp.67‑81
目的を達成するための手段、道具として外国語を学習するという動機である。これに対 して統合的動機とは学習者が目標言語を使用している社会や文化について知りたい、目 標言語話者の友達を作りたい、そして最終的には自分もその社会の一員になりたいと いった動機である。
さらに、縫部・狩野・伊藤(1995)は道具的動機や統合的動機のほかに、「いい成績を 取りたい」や「周囲の人に言われて勉強を始めた」といった日本語学習自体が目的となっ ていない「誘発的動機」(incentive motive)を認めた。本稿ではこの統合的動機、道具的 動機、誘発的動機の つに限定して調査・分析を行うこととする。
2.調査の概要
2.1. 対象・方法・回答者
調査は東京外国語大学で LCT 言語を専攻している大学生を対象に行った。東京外国 語大学の LCT 言語の専攻は具体的にポーランド語、チェコ語、ポルトガル語、ラオス 語、ウルドゥー語、ヒンディー語、ベンガル語、カンボジア語、ビルマ語、インドネシ ア語、モンゴル語、マレーシア語、フィリピン語、タイ語、ベトナム語、ペルシア語、
トルコ語である。東京外国語大学の学部段階における在籍者数は約3800名であるが、そ の中で LCT 言語を専攻している学生は約1200名である。調査にはアンケートを使用し た。アンケートはフェイスシート(学年、専攻言語、学習歴、母語、学習機関、海外滞 在経験を記入)と LCT 言語学習の動機に関する質問と LCT 言語学習前の異文化理解意 識に関する質問、現在の異文化理解意識に関する質問で構成されている。LCT 言語学 習前の異文化理解意識に関する質問と現在の異文化理解意識に関する質問は同内容であ る。アンケートは東京外国語大学に通う友人の協力のもと配布し、後日回収した。
アンケート調査を行った結果、51部の回答を得ることができた。回答者の専攻言語と 人数はタイ語が14名、マレーシア語が 名、インドネシア語が 名、ビルマ語が 名、
ウルドゥー語が 名、ベンガル語が 名、ヒンディー語が 名、ポルトガル語が 名、
ポーランド語が 名、トルコ語が 名である。
回答者の母語は51名中50名が日本語、 名が日本語とタイ語であった。また、LCT 言 語を学んだ場所は51名中50名が大学のみ、 名が親や知人などと大学であった。
2.2. LCT 言語学習動機づけ
LCT 言語学習者の動機づけに関する質問では、Gardner and Lambert(1972)、成田
(1998)、バルスコワ(2006)、縫部・狩野・伊藤(1995)、郭・大北(2001)、奥川(2008)
を参考に、「統合的動機」、「道具的動機」、「誘発的動機」の つの動機に基づいた23項目
(統合的動機の項目が 個、道具的動機の項目が 個、誘発的動機の項目が 個)から 成るアンケートを作成した。アンケートの回答尺度は 段階尺度形式( =あてはまる、
=ややあてはまる、 =どちらともいえない、 =あまりあてはまらない、 =あて はまらない)である。
回答者の LCT 言語学習動機づけを「統合的動機グループ」「道具的動機グループ」「誘 発的動機グループ」のいずれかに分類するために、 項目ごとに回答を = ポイント、
= ポイント、 = ポイント、 = ポイント、 = ポイントとし、動機グルー プごとに平均値を出した。その平均値が最も小さい動機グループを回答者の動機グルー プとした。結果は表 の通りである。統合的動機グループと道具的動機グループの平均 値が同じ値だった回答者 名については、動機によるグループ分けから外した。
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表 学習動機グループ別人数内訳(単位:名)
2.3. 異文化理解意識
異文化理解意識に関する質問は沼田(2010)の使用した質問紙を基本にして作成した。
沼田(2010)は日本人学部学生に異文化理解意識に関する調査を行った。回答を因子分 析した結果、第 因子「多様な価値観」、第 因子「少数派への無関心」、第 因子「保 守的思想」、第 因子「ステレオタイプ的理解」、第 因子「自己中心性」という つの 因子が抽出され、日本人大学生にはこのような異文化理解意識があることが明らかに なった。本稿では LCT 言語を専攻する大学生の異文化理解意識と LCT 言語を学ばな い日本人大学生の異文化理解意識を比較し、LCT 言語学習だからこそ学ぶことのでき る異文化理解意識とはどのようなものかを明らかにするため、この沼田(2010)の調査 と同様の方法を用いた。
ただし、質問文で意味が通じにくいと思われる点については質問文を大きく意味が変 わらない程度に修正した。沼田(2010)の因子分析において最終的に抽出された質問の みを使用し、回答尺度は 段階尺度形式( =大変そう思う、 =そう思う、 =やや そう思う、 =あまりそう思わない、 =そう思わない、 =全くそう思わない)に変 更した。異文化理解意識を明らかにするために、項目ごとに回答を = ポイント、
= ポイント、 = ポイント、 = ポイント、 = ポイント、 = ポイントと し、それぞれ全体の平均値、動機グループ別の平均値を求めた。なお、動機グループ別 の平均値を求める際、動機を尋ねる質問で動機が不明だった 人は除いた。さらに沼田
(2010)の因子分析の結果、「保守的思想」に含まれていた項目「31.男性は女性と比べ ておおざっぱであると思う」と、「自己中心性」に含まれていた項目「33.教師は権威的 な人ばかりではないと思う」はそれぞれの因子において異質なものと考えられるので、
これらを除いて考察を行う。
3.全体の結果と沼田(2010)の比較 3.1. 結果
ここでは LCT 言語を専攻する大学生の異文化理解意識が LCT 言語学習前と現在で どのように変化するかを明らかにする。そしてその結果を沼田(2010)の日本人大学生 全体の異文化理解意識と比較することで LCT 言語学習だからこそ学ぶことのできる異 文化理解意識とはどのようなものかを明らかにする。
沼田(2010)は第 因子「多様な価値観」、第 因子「少数派への無関心」、第 因子
「保守的思想」、第 因子「ステレオタイプ的理解」、第 因子「自己中心性」という つの因子を抽出し、日本人大学生にはこのような異文化理解意識があることを明らかに した。この沼田(2010)の結果を踏まえて本調査では日本人大学生の異文化理解意識と LCT 言語学習者の異文化理解意識を比較したところ、「多様な価値観」については、
LCT 言語学習者が日本人大学生と同様に多様な価値観を認める姿勢があるという結果 であったが、「少数派への無関心」、「保守的思想」、「ステレオタイプ的理解」、「自己中心 性」に差がみられた。ここではこの 因子に焦点をあてて考察を行う。
3.2. 少数派への無関心
「少数派への無関心」に分類される項目は表 に示した 項目である。表 によれば LCT 言語学習前に少数派への強い関心を持つ人はおらず、約半数が少数派への関心が
ややあったといえる。現在において大きく変化したのは「 .日本は単一民族国家であ ると思う」の0.74ポイントが最高で、他はあまり変化しないという結果になった。「 . 日本は単一民族国家であると思う」では LCT 言語学習前と現在で14人(全体の約27%)
の回答尺度が少数派への無関心を改善させる方向に ポイント以上変化した。
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表 「少数派への無関心」の平均値
これは LCT 言語を学習していくうちに、日本に住む LCT 言語話者に会う機会が増 え、日本には想像していた以上に LCT 言語話者が住んでいるということに気が付くか らではないだろうか。さらにいえば、LCT 言語学習者の多くが学習前には、日本に多様 な民族が暮らしているということを意識していなかったのではないだろうか。全体の結 果から LCT 言語学習者は学習前から少数派にやや関心があることは明らかで、もし日 本に多くの民族が暮らしているということを学習前に意識していたら、「 .日本は単 一民族国家であると思う」の学習前と現在の差はもっと小さいと推測される。現にメ ディアなどで多く取り上げられていて、目にする機会の多い、在日韓国・朝鮮人に関す る項目(6)や沖縄米軍基地に関する項目(18)については大きな変化がなかった。日本 の民族多様性についてはメディアなどで取り上げられる機会は少なく、LCT 言語学習 をきっかけに日本には多くの民族が住んでいることを強く意識するようになると考えら れる。言語を学ぶということは言語そのものを学ぶということだけではなく、その言語 の背景にある文化や考え方、社会を学ぶことでもある。そういった背景を学んでいくう
ちに日本国内の LCT 言語話者にも注意を向けるようになり、日本の民族多様性をより 強く感じるため、LCT 言語学習後に大きな変化が出たのではないかと考えられる。
沼田(2010,pp.179‑180)は「少数派への無関心」について「多くの日本人大学生は 少数派の声を真剣に受け止めようとする意識は低いということを示しているということ がうかがえる」と考察している。それと比較すると、LCT 言語学習者も学習前は少数派 への関心が高いとは言えず、LCT 言語学習によって少数派への関心が高まるとは言え ない。しかし「 .日本は単一民族国家であると思う」の結果から LCT 言語学習者は 日本には多様な民族が住んでいることを改めて強く意識するようになることが明らかに なったため、LCT 言語学習をすることで少数派への無関心という現状を改善すること ができるのではないだろうか。
3.3. 保守的思想
「保守的思想」に分類される項目は表 に示した 項目である。表 から、学習前には 強い保守的思想を持つ人はほとんどおらず大半の人が社会が変化していくことにあまり 抵抗がない、あるいは保守的思想でも革新的思想でも、どちらでもない人であるという ことがいえる。しかし、LCT 言語学習前と現在を比較して平均値が最も変化したとこ ろでも、「 .男性が育児休暇を取ることに違和感を覚える」の0.36ポイントにとどまる
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表 「保守的思想」の平均値
ため、LCT 言語学習によって保守的思想が改善されるとは言えない結果となった。
沼田(2010,p.180)は「保守的思想」について「日本人大学生の多くが社会の在り方 を変革していくことに抵抗があるということを表していると考えられる」と考察してい る。それと比較すると、LCT 言語学習者の中に学習前から強い保守的思想を持つ人が ほとんどいない、また学習によって保守的思想が改善されるとはいえないという結果と 比較すると、大学に入る前の段階で LCT 言語を専攻している人とそうでない人に保守 的思想の差が出ていると考えられる。
3.4. ステレオタイプ的理解
「ステレオタイプ的理解」に分類される項目は表 に示した 項目である。表 から は学習前にややステレオタイプ的理解をしているといえる。項目別回答者数の割合を示 した表 からも分かるように、LCT 言語学習前は約半数以上の人が他者をステレオタ イプで判断してしまう傾向があると言える。学習前と現在の平均値で最も変化した項目 は「 .中高年の人は頭が固いと思う」で0.39ポイントにとどまる。しかし、表 の項 目別回答者数の割合を示した表で現在の結果を見ると(8)、(37)を除く全ての項目でス テレオタイプ的理解が減少していることが分かる。
沼田(2010,p.180)は「ステレオタイプ的理解」について「日本人大学生は他者を画 一的・固定的に捉えようとする傾向があることが考えられる」と考察している。それと
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表 「ステレオタイプ的理解」の平均値
比較すると約半数以上が LCT 言語学習前は日本人大学生と同様に他者をステレオタイ プで判断する傾向がみられるが、現在では(8)、(37)を除いたすべての項目において、
その傾向が改善されていることが分かる。この結果から LCT 言語学習によってステレ オタイプ的理解が改善されるといえる。今回、調査に協力してくれた学生はほとんどが アジア圏の言語を専攻しているが、アジアはまだまだ経済的に豊かではない国が多いと いったステレオタイプで判断されがちである。しかし、アジア圏の言語や文化を学ぶこ とで自分が想像していたその国と実際のその国の違いを知り、様々な面から自分の目で 客観的に判断することの大切さを学んだのではないかと考えられる。
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表 項目別回答者数の割合
3.5. 自己中心性
「自己中心性」に分類される項目は表 に示した 項目である。表 から LCT 言語学 習者は学習前においても自己中心性が低く、他者に関心を持ち、他者との関わりを持ち たいという人が多いということが分かる。また、その傾向は学習前よりも現在において 若干強くなっている。
沼田(2010,p.180)は「自己中心性」について「日本人大学生が自己中心的に振る舞 う傾向があるということを示していると考えられる」と考察している。それと比較する と LCT 言語学習者は学習前から他者に興味を持ち、他者と共に生きているという意識 が強いことから、LCT 言語学習以前の段階で他の大学生と異なる意識を持っていると いえる。しかし、この外国語学習する前から自己中心性が低いという傾向は LCT 言語 学習者に限らず、他のよく教えられている言語を学習する人にも同様の傾向があるので はないかと考えられる。なぜなら外国語を学んだ先の目標をその言語自体(例えば文法 など)の習得までと設定する人は少なく、言語学習で身につけたことを使用して、目標 言語話者との関わりを持てるようになるということを目標としている人が多いと考えら れるからである。他人に関心があるからこそ外国語を学ぶのであり、他人に無関心な人 は外国語を学ぼうとしないのではないだろうか。LCT 言語を学ぼうとする人だけが他 者に興味があるのではなく、LCT 言語に限らず外国語を学ぼうとする人が元々他者に 興味、関心を持っているのではないかと推測される。この点について結論づけるために は確認する必要がある。
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表 「自己中心性」の平均値
4.学習動機のグループ別比較 4.1. 結果
調査の結果「多様な価値観」、「保守的思想」、「自己中心性」に関しては統合的動機グ ループ、道具的動機グループ、誘発的動機グループのどの動機グループで LCT 言語を 学習し始めた人でも、異文化理解意識に差は生じないことが分かった。ここでは動機グ ループによって異文化理解意識に差があった「少数派への無関心」、「ステレオタイプ的 理解」について考察を行う。
4.2. 少数派への無関心
「少数派への無関心」の LCT 言語学習前と現在の動機グループ別平均値は表 の通り である。
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表 「少数派への無関心」の動機別平均値
LCT 言語学習前のそれぞれの項目において つの動機グループの平均値の差は小さ く、どの動機グループも同程度に少数派への関心があるといえる。しかし、現在では大 きな変化がみられた。「 .日本は単一民族国家であると思う」においては学習前後で 統合的動機グループが+0.52ポイント、道具的動機グループが+1.06ポイント、誘発的 動機グループは+1.58ポイントの変化があった。道具的動機グループの学習者、誘発的 動機グループの学習者が「 .日本は単一民族国家であると思う」においてそれぞれ+
1.06ポイント、+1.58ポイントと、大きく変化し、道具的動機グループ、誘発的動機グ ループと統合的動機グループに差が生じた経緯は、以下の事を考える余地があるのでは ないだろうか。道具的動機とは外国語を「自分の」仕事に役立てるためや、「自分の」社 会的地位を高めるために外国語学習をする動機である。また、誘発的動機も「自分の」
テストでいい成績を取るためなどといった目的のために外国語学習をする動機である。
しかし、統合的動機は自分が外国語を学ぶことで「他者の」文化や社会を知りたい、そ して最終的にはその社会の一員になりたいといった動機である。つまり、道具的動機、
誘発的動機は「自分の」目的を果たすために外国語学習を行うという動機であるのに対 して、統合的動機は「自分の」目的を果たすためだけでなく、「他者」への意識も含まれ ている。どの動機グループの学生も日本には多くの民族が住んでいることは知っていた と思われるが、「自分の」目的のために LCT 言語を学び始めた道具的動機グループ、誘 発的動機グループは「他者」という視点を強く持っていなかったため、日本を単一民族国 家と呼ぶことに違和感を覚えなかったのではないだろうか。しかし、LCT 言語を学ぶこ とで「他者」を強く意識するようになり、日本を単一民族国家と呼ぶことの問題性を具体 的に意識するようになったのではないだろうか。この点で LCT 言語学習によって道具 的動機グループ、誘発的動機グループの人が日本の民族多様性を強く意識するようにな ると推論される。しかし、 つの動機グループとも学習前と現在で最も大きなポイント の変化があったのは(3)のみで、他はわずかな変化であったため、LCT 言語学習前も、
現在も動機グループによって少数派への関心度に差はないという結果となった。
4.3. ステレオタイプ的理解
「ステレオタイプ的理解」の LCT 言語学習前と現在の動機グループ別平均値は表 の 通りである。LCT 言語学習前のそれぞれの項目において つの動機グループの平均値 の差は小さく、 つの動機グループのステレオタイプ的理解については同程度であると いえる。
現在の つの動機グループで平均値の差が最も大きかったのは「30.英語が話せれば、
外国人とのコミュニケーションはうまくいくと思う」の1.23ポイントであった。動機グ ループごとに LCT 言語学習前と現在を比較すると大きな変化があったのは道具的動機 グループで(8)、(12)の 項目、誘発的動機グループでは(8)、(12)、(30)の 項目 で、すべての変化はステレオタイプ的理解を改善する方向であった。誘発的動機グルー プで全 項目中 項目、ステレオタイプ的理解が改善されたことから、LCT 言語学習は 誘発的動機によって LCT 言語を学習し始めた人のステレオタイプ的理解を改善するの に有効であるといえる。統合的動機グループ、道具的動機グループにおいて LCT 言語 学習前と現在でテレオタイプ的理解を改善する方向に大きな変化があった項目は少数で あったため、両動機グループによって LCT 言語を学習し始めた人のステレオタイプ的 理解は LCT 言語学習の前後で大きな変化はみられないという結果になった。
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Ꮫ⩦๓ 3.04 3.20 3.25
⌧ᅾ 3.32 3.53 3.63 30㸬ⱥㄒࡀヰࡏࢀࡤࠊእᅜேࡢࢥ࣑ࣗࢽࢣ࣮ࢩࣙࣥ
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Ꮫ⩦๓ 2.72 2.47 2.86
⌧ᅾ 2.92 2.40 3.63 37㸬ⱝ࠸ேࡣබඹࡢሙ࡛ࡢ࣐ࢼ࣮ࡀ࡞ࡗ࡚࠸࡞࠸ᛮ
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⌧ᅾ 3.84 3.93 3.88
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表 「ステレオタイプ的理解」の動機別平均値
5.まとめ
LCT 言語学習者の学習動機と異文化理解意識について調査を行った結果、道具的動 機グループ、誘発的動機グループの学習者は LCT 言語学習によって日本の民族多様性 を強く意識するようになること、誘発的動機グループの学習者は LCT 学習によってス テレオタイプ的理解が改善されるということが明らかになった。また、LCT 言語学習 者は学習前の段階で「多様な価値観を認めようとする姿勢がみられる」、「少数派へ強い 関心がない」、「社会が変化することに強い抵抗がない」、「他人に興味・関心があり、他 者と共に生きているという意識がある」といった傾向があり、この傾向は学習後もあま り変化しないことが分かった。
以上の考察から LCT 言語学習を通じた異文化理解教育の利点は道具的動機、誘発的 動機の強い学習者が、「日本に多くの民族が住んでいることを知るきっかけとなること」、
誘発的動機の強い学習者が「他者をステレオタイプで判断しないようになること」であ るといえる。
本調査では LCT 言語学習前の段階で学習者のほとんどが「強い保守的思想を持たな い」こと、「自己中心性が低い」という傾向があることが分かった。この結果は沼田(2010)
で見られた強い保守的思想を持ち、自己中心的な傾向がある日本人大学生と異なる傾向 である。このことから LCT 言語学習前の段階で LCT 言語学習者とそうでない人の差 はどのようにして生まれるのかを調査することが必要である。また、今回は回答者の多 くがアジア圏の言語を専攻しているなど偏りがあった。本調査で LCT 言語学習は道具 的動機、誘発的動機の強い学習者が、日本に多くの民族が住んでいることを知るきっか けとなり、誘発的動機の強い学習者が他者をステレオタイプで判断しないようになると いう利点があることが明らかになったが、LCT 言語の中には日本人が比較的接触する 機会の多い言語と、全く接触する機会のない言語がある。したがって次回は LCT 言語 を学ぶ際、ある程度の知識がある言語と全く知識のない言語ではどのような異文化理解 の違いや利点があるかを明らかにしたい。
参考文献
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郭俊海・大北葉子(2001)「シンガポール華人大学生の日本語学習の動機づけについて」『日本語 教育』110号 pp.130‑139 日本語教育学会
成田高宏(1998)「日本語学習動機と成績の関係―タイの大学生の場合―」『世界の日本語教育』
号 pp.1‑11 国際交流基金
縫部義憲・狩野不二夫・伊藤克浩(1995)「大学生の日本語学習動機に関する国際調査―ニュー ジーランドの場合―」『日本語教育』 86号 pp.162‑172 日本語教育学会
沼田潤(2010)「日本人大学生の異文化理解に関する質問紙調査―異文化理解の意識に関わる諸 要因の基礎研究―」『評論・社会科学』第91号 pp.169‑186 同志社大学
バルスコワ、アンナ(2006)「ロシア人大学生の日本語学習の動機づけについて」『新潟大学国際 センター紀要』 第 号 pp.144‑151 新潟大学
Gardner, R. C., & Lambert, W. E. (1959). Motivational variables in second language acquisition.
, 266‑272.
Gardner, R. C., & Lambert, W. E. (1972). .
Rowley, Massachusetts: Newbury House.
参考資料
文部科学省「大学における教育内容等の改革状況について(平成21年度)」
http://www.mext.go.jp/a̲menu/koutou/daigaku/04052801/1310269.htm 2013/12/5 閲覧 東京外国語大学 http://www.tufs.ac.jp/ 2013/12/5 閲覧
National Council of Less Commonly Taught Languages(NCOLCTL)
http://www.ncolctl.org/ 2013/12/5 閲覧
Abstract
This present thesis surveys the motivation of students who study less commonly taught languages (LCTLs) and how LCTLs study is important in education for international understanding. I gathered answers to questionnaires from 51 students who major in LCTLs at Tokyo University of Foreign Studies.
From analyzing the questionnaire results, I found that education for international understanding through LCTLs study is a good way to remove stereotype orientation, especially for the LCTLs learner with incentive motivation. In addition, I found that education for international understanding through LCTLs study gives a chance to know that there are many people of diverse nationalities living in Japan, especially for the LCTLs learner with instrumental motivation and with incentive motivation. Furthermore, I found that LCTL learners do not tend toward conservatism, and are interested in other people from before they
started LCTL study.
By these results, I think that education for international understanding through LCTLs study is good for making multicultural symbiotic societies.