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学生に実験装置を壊されないために

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Academic year: 2021

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(1)

学生に実験装置を壊されないために

静岡大学電子工学研究所技術部        勝 野 廣 宣

1.はじめに

 今から10年ほど前くらいから「ハンダ鍾も持ったことのない学生が工学部に来るよ うになった」と言われ始めた。

 理工系の学部では、教育・研究において必ず実験装置を使う。実験装置を正しく使わ ないと事故につながるとともに学生が怪我をする場合もある。また、その結果実験が数ヶ 月もストップしたり、経済的な損失も発生する。

 最近、私の周辺で学生が起こした失敗例について紹介し、学生に実験装置を壊されな いようにするためにどうしたらよいか考えたい。

2.学生が起こした失敗例

(1)EPMA試料駆動装置      駆動部    写真1に、EPMA(エックス線マ

  イクロアナライザー)の試料駆動部   を示す。

   EPMA分析を行う場合、分析場   所を探すのにこの装置では、回転機   構iによりX,Y,ZおよびRotationを   制御するようになっている。この駆   動装置は、可動範囲があり、その範   囲を超えて動かそうとするとストッ   パー機構が働き、回転が硬くなるよ   うになっている。これを壊した学生   は、分析したい場所が出てこないた   め回転機構が硬くなっても、駆動装   置を無理して回転させた。

(2)イオンコーター装置

   写真2に、イオンコーター装置を   示す。この装置は、ガラスチャンバー   内を真空ポンプで排気出来るように   なっている。試料を出し入れするた   めに、ガラスチャンバーの上部のブ   タが開閉でき、ガラスチャンバーと

   写真1 EPMA試料駆動部

ガラスチャンバー        フタ

       写真2 イオンコーター装置

の気密を保つためにゴムのパッキンが装着してある。この装置を壊した学生は・

ガラスチャンバー上部のブタを閉める時に、ブタとガラスチャンバーを正しく合

一1一

(2)

   わせないで、無理して閉めようとし    てガラスチャンバーの上部を割って    しまった。

(3)ガスボンベバルブ

    写真3に、ガスボンベのバルブ部    分と圧力調整器を装着した状態を示    す。この失敗例は、バルブが「開」

   の状態にあるにもかかわらず、バル    ブをさらに左回転したためにバルブ

       写真3 ガスボンベバルブと圧力調整器    が動かなくなってしまったものである。

3.なぜ、このような失敗をするのか

人間の知識には、 「形式知」と「暗黙知」があると言われている。ω

表1に、 「形式知」と「暗黙知」について示す。 「暗黙知」は、人間が経験などによ り獲得した知識で、数値などに表すことが困難な知識と言われている。

 2に紹介した失敗例は、いずれも「暗黙知」の獲得に原因があると考えられる。

形 式 知

 文章、図表、マニュアル、標準など の形で、具体的に「表現」され、他人 に伝達できる知識、ノウハウなどの知

暗 黙 知

人間の「経験」などに基づく知識やノウ ハウなどで、 「形式知」として表現する

ことが困i難な知識

表1 「形式知」と「暗黙知」

4. 「形式知」、 「暗黙知」をどう獲得するか

 「形式知」については、表1に示すように「他人に伝達できる知識」であり、他人に 教えることは、比較的容易である。一方、 「暗黙知」については、結論的に言えば、

「暗黙知」をすべて形式知化することは不可能であるから、他人に完全に伝達すること は困難である。

 日々の業務が完全にマニュアル化されていたとしても、現実には必ず「不測の事態」

が起こりうる。そのような事態に直面した時、その業務に精通した人であればマニュア ルはなくても適切な対応で業務をこなしていくことが出来る。また・なぜそのようなこ

とが起きたのかを推理し、そのような事態を予防する対応も考え出すことができる・

 ひとたび「こと」が起きてしまえば、それに対する対処などは後で文書化して形式知 化することができる。しかし、「不損‖の事態」に対する対応をその場で考え出すのは決

して形式知化することが出来ない暗黙知であり、個々の人が経験を積むことでしか蓄積 することができない「知恵」である。       一一.

 「暗黙知」.「形式知」の獲得方法について、野中郁次郎氏が提唱した「SECIモァ

一2一

(3)

ル」 (セキモデル)について紹介する。(2)

 SECIとは、 Socialization(共同化)、Externalization(表出化)、Conbination

(連結化)、InternaliZatiOn(内面化)の頭文字をとったものである。

 SECIモデルは、この4つのプロセスが相互に作用して一段上の知識レベルへ昇華す るプロセスを理論化したものである。

i ξ瞬望違禦聡璃

1社内の歩き回りに  よる暗黙知Φ獲得

2掛砕歩銅りに瞥

 よる暗㊧笠0Φ獲得 3暗塁知⑳善接

鰯蹴⊇云

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一ff ・シミュレーショ亡ノや

 実験による形i武知Φ体化

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       5.自己の暗顕知的表出

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洪、。、

 7.新しい影式知の獲得   と続合

 窪形…武知的伝ま圭、普]臣   口.1彩式知の編集

図1 SECIモデルの概念図  図1に、SECIモデルの概念図を示す。

 Socialization(共同化)とは、親から子、先輩から後輩あるいはi熟練者から未熟練者 へと共通の経験を共有することにより、言葉ではなく「体験」によって知識を伝授し・

獲i得するプロセスである。獲得された知識は、まだ言葉になっていないので「暗黙知」

である。

 Externalization(表出化)とは、個人や組織が体で覚え、共有・統合された知識を・

言葉や図表のような明確な形式で表すことを言う。ここで獲得された知識は・「形式知」

となる。

 Conbination(連結化)とは、 Externalizationによって形式知化された知識を組み合 わせて、新たな知識を創るプロセスである。

 InternaliZatiOn(内面化)とは、このようにして得られた知識を元に・個人が行動し・

実践することによって、新たな経験や学習結果が暗黙知として個人の内部に蓄積される

一3一

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状態をいう。

 「暗黙知」を指摘したハンガリーの物理学者であり哲学者であるマイケル・ポラニー は、次のように述べている。

 「科学では、主観を排した客観的な知識の確立が求められると考えがちだが、『暗黙 的な思考はすべて知識の不可欠の部分をなしている、ということを考えるならば、知識 の個人的な(パーソナルな)要素をすべて除去するという理想は、実際は、すべての知 識の破壊をめざしていることになるsのはたしかである。科学は普遍をめざすが、その 普遍には個の軸のようなものが必要なのである。」

 学生に実験装置を壊されないための方法の1っとして、野中郁次郎氏が提唱した SECIモデルを参考に、結局は学生に経験させ、実践させるようにすることにより個人 の内部に知識として蓄積させることが重要である。

 できれば、今回紹介したような失敗をしないための「暗黙知」を大学に来る前に獲得 して欲しいと考える。

参考文献

(1)マイケル・ポラニー 「暗黙知の次元一言語から非言語へ」

   佐藤敬三訳  1980年8月 紀伊国屋書店

(2)SECIモデル 野中郁次郎氏が1991年に「ハーバー一ド・ビジネスレビュー         に発表

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参照

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