• 検索結果がありません。

日本の大学における保険教育のあり方に ついて

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日本の大学における保険教育のあり方に ついて"

Copied!
17
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

日本の大学における保険教育のあり方に ついて

グローバル化,大学教育改革の流れの中で

中 林 真理子

■アブストラクト

保険学や保険論をめぐっては,大学で一科目として保険理論をどのように 位置づけるべきか,つまり,リスクマネジメント,さらには,金融分野の周 辺科目とどのように棲み分けるか,という科目固有の問題が常に存在し続け きた。しかし近年,日本の大学のグローバル化とそのための制度整備が急速 に推進され,保険学や保険論は他の科目と同様に,どのように変化に対応し,

存在意義を発揮し続けることができるのか,という問題に直面している。

アメリカを中心とした世界の保険教育の趨勢を知ることは,日本でこれか ら加速する大学教育改革の流れの中での保険教育のあり方を考える上で大い に参考になるものである。つまり,科目体系化のためのナンバリングをはじ め,現在進行中の大学教育改革の流れに適応可能な保険教育へと変革するこ とが,大学の一科目としての位置を確保することにつながると同時に,保険 関連科目の体系化を実現するものになると言える。

■キーワード

グローバル化,大学教育改革,カリキュラムの体系化

/平成25年11月12日原稿受領。

(2)

1.問題の所在と限定

日本の大学は,少子化による大学入学年齢人口の減少,グローバル化の流 れ,といったさまざまな環境要因から,そのあり方そのものを根本的に問い 直さなくてはならないような大きな変化にさらされている 。そして,保険 学や保険論をめぐっては,大学で一科目として保険理論をどのように位置づ けるべきか,言い換えれば,リスクマネジメント,さらには,金融分野の周 辺科目とどのように棲み分けるか,という科目固有の問題がこの20年以上常 に存在し続けきた。それに加えて,他の科目と共通する問題が近年急速に顕 在化するようになった。つまり,グローバル化に対応するための秋入学の議 論が起こるなど,日本の大学が急激な変化を迫られている中,保険学や保険 論が他の科目と同様に,どのようにその変化に対応し,存在意義を発揮し続 けることができるのか,という問題が深刻化しているのである。

本論文は,主に後者の論点をめぐる考察を試みるものである。この際,教 育再生実行会議 等で示された新たな方針や,それを受けた平成26年度文部 科学省概算要求において大学教育改革の支援として示された取り組み等 を 議論の発端として検討していく。なお,外国の現状を踏まえれば,大学院教 育を切り離した議論は難しいものの,本論文では日本の現状を踏まえ,学部 教育に主眼をおいて議論を進める。また,保険に関連した科目としては保険 法や保険数理といった科目も存在するが,本論文では基本的に,保険論また は保険学,さらにリスクマネジメント論を対象に議論をすすめる。以下,特

1) 保険教育は,学校を中心にさまざまな場面で実施されうるが,本稿では,そ の学問的本流に関わり,なおかつ,近い将来に保険契約の当事者となりうる 人々への教育を行う大学における保険教育に対象を限定して議論をすすめる。

2) 教育改革は内閣府の最重要課題の一つと位置付けて教育再生実行会議を設置 し,2013年5月28日には第三次提言として これからの大学教育等の在り方に ついて を公表した。http://

www.kantei.go.jp

/

jp

/

singi

/

kyouikusaisei

/

pdf

/

dai

3 1.

pdf

3)

http:

//

www.mext.go.jp

/

a menu

/

yosan

/

h

26/1339753.

htm

 

(3)

に断りのない場合は,保険学,保険論,リスクマネジメント論の総称として,

保険関連科目 と表記することとする。

以下,2.では日本の大学における保険教育をめぐる周辺環境を整理する とともに,アメリカを中心とした世界の保険教育の趨勢を示していく。3.

では,2.で得られた情報を受けて,あるべき保険教育について述べ,現在 進行中の大学教育改革の流れに適応可能な保険教育へと変革する必要性につ いて述べる。4.では,むすびにかえて,大学における授業としての保険論 とリスクマネジメント論の関係について若干言及する。

なお,本論文では,文献による資料に加え,筆者が2013年の春と夏の2回 アメリカで行ったインタビューで得た情報を織り交ぜながら議論を進めてい く。

2.保険学・保険論をめぐる周辺環境の整理

2‑1 大学における保険学・保険論の位置づけ 2‑1‑1 日本の場合

保険理論を扱う科目は,従来,経済・経営・商学部等において, 保険学 や 保険論 といった科目名で設置されてきた。そして,1990年代以降,

リスクマネジメント論 を設置する大学が増えているが, 保険論 と並行 して設置される例は限られる。定年等により担当者が変更となる際に, 保 険論 から リスクマネジメント論 に移行した大学が多い。しかし,さ らに深刻な問題は,このタイミングで 保険論 そのものをカリキュラムか ら外す大学が少なくないということである。アンケートからは,保険論が 1999年には全国の大学で163講座開講されていたが,2006年には77講座に減 少していることが明らかになっている。保険論を専任教員ではなく,非常勤

4) 以下の記述は主に小川[2010]pp.98‑99に依拠している。

5) リスクマネジメントという名称の科目で扱われている内容も多様で,保険と はほぼ関係のない内容の科目である場合も少なくない。これはリスクマネジメ ントの学問的な起源と深く関係するものである。この点については4.で言及 する。

(4)

講師が務める大学も増加している 。

次に,経済・経営・商学部のカリキュラム上での保険関連科目の位置づけ について述べていく 。日本では保険学部や保険学科を有する大学は存在せ ず,学科内のコース科目の一部と保険関連の科目が配置されているのが一般 的である 。また,金融コースの中で保険関連科目が扱われる,コース等は 設置されず,学部や学科の専門科目の中で,保険と金融関係の科目が同一の 科目群に配置されている,さらには保険という名前がついた科目は設置せず,

金融の総論的科目の中で数時間を使って保険に関する話題を取り上げる程度,

といった例も少なくない 。

このように,大学において保険関連科目はその存在意義そのものが問われ るような厳しい状況にある。

2‑1‑2 外国の場合

次に外国の事例を確認する。大学を中心とした世界の高等教育機関におい て保険関連科目がどのように設置されているか,については,何度か調査は 試みられているものの,全世界の実情が概観できるような結果は得られてい ない 。

6) 大学における保険教育に関するアンケートは日本保険学会,生命保険文化研 究所,生命保険文化センター,損害保険事業総合研究所により,1966年から 2006年まで,これまで7回実施されている。それらのアンケート結果の概要に ついては小川[2010]pp.98‑99を参照のこと。

7) カリキュラム上の位置づけは,保険とは何かという保険本質論に関わる重要 な課題であるが,ここでは敢えて本質的な議論は避け,金融系科目との対比に とどめる。

8) 筆者が所属する明治大学商学部では商学部内の7つのコースの一つがファイ ナンス アンド インシュアランスコースで,保険を扱うインシュアランスコ ースはサブコースという位置づけにある。この形態は,日本の大学としては保 険関連科目の重要性を比較的重視している一例を捉えられるだろう。

9) 金融論の研究や教育において保険がどのように扱われているか,については 家森[2010]が詳しい。

10) 例えばアジア各国の保険教育の現状調査としては

Mazars

[2013]が存在す

(5)

そのような中,2013年7月28日から31日までアメリカ・ニューヨークのセ ント・ジョーンズ大学 (School of Risk Management, The Peter J. Tobin College of Business, St. Johnʼs University  )で開催 さ れ たAsia‑Pacific Risk and Insurance Association (APRIA) 17  Annual Conferenceの

中で実施されたワークショップ“Curriculum  Development Discussion”で 示されたデータとそこでの議論が,保険とリスクマネジメント教育の現状を 知る上で役立つものであろう。本ワークショップは各大学の保険関連科目の プログラム責任者を中心に参加者を募ったものであった。出席者に対しては,

自校の保険関連科目を中心としたカリキュラムに関する事前アンケートを行 い,その集計結果を大会委員長のセント・ジョーンズ大学スクール・オブ・

リスクマネジメントJean Kwon研究科長が披露するとともに ,今後の保 険とリスクマネジメント教育の在り方について,インフォーマルな意見交換 を行った。当日はアメリカや中国の有力大学のプログラム責任者の他,筆者 を含め日本からも数名の研究者が出席していた。

ワークショップでは,アメリカでは1970〜80年代には保険コースが中心で,

リスクマネジメントコースはほとんど存在していなかったが,定量的分析へ のシフトも影響し,その後リスクマネジメントコースが主力になったという 歴史を踏まえ,その上で,現在は金融コース(financial major)との競争 が激化している,という潮流について確認した。そして,各国の状況を披露 するとともに,今後の保険教育のあり方について意見交換が行われた。この 際,日本の特徴として,保険やリスマネジメント教育が,他国のような学部 る。ここでは日本を含めたアジア地区の主要な大学で取得可能な保険関係の学 位の一覧が示されている。

11) アンケート回答者は37名だった。このアンケートはまだ集計中で,結果は公 表されていない。なお,Kwon教授は同様のアンケートをアジア地区に限定し て1999年 に 行 い,結 果 は,University and Institutional Programs in Risk

Management, Insurance, and Actuarial Science in Asia‑   Pacificとのタイ

トルで同教授のホームページで公開されている。このページはアップデートが 続けられており,2012年7月4日付のものが最新版となっている。http://

facpub.stjohns.edu/ kwonw

/

Insurance Schools.htm

 

(6)

や学科ではなく,学部や学科の一分野に組み込まれているため,統計上は 100校以上がリスクマネジメント専攻を擁するという結果になっていること が紹介された。

2‑1‑3 セント・ジョーンズ大学の事例

日本における今後の保険やリスクマネジメント分野におけるカリキュラム の在り方を論じる契機とするため,ここで,セント・ジョーンズ大学の学部

(undergraduate)レベルのカリキュラムを紹介する 。セント・ジョーン ズ大学スクール・オブ・リスクマネジメントはニューヨークのマンハッタン 島の金融街に位置し,その前身は高等保険教育機関であるカレッジ・オブ・

インシュアランス(The College of Insurance)であった。2001年にセン ト・ジョーンズ大学と合併し,現在は同校のThe Peter J. Tobin College of Businessの一部に再編された。同校には,学部,MBA  コース,さらに

実務家向け研修プログラム(Diploma in Risk and Insurance) が設置さ れている 。リスクマネジメント・保険・アクチュアリアルサイエンス学科

(Department of Risk M anagement, Insurance and Actuarial Science

(RMI and ACT)はリスクマネジメント・保険専攻とアクチュアリアルサ イエンス専攻に分かれ,専攻ごとに必修科目等の違いがある。図表1は専門 12) セント・ジョーンズ大学は保険とリスクマネジメント関係のカリキュラムが 世界で最も充実した大学の一つである。この大学を例に挙げることについては いろいろな見解があると考えられるが,今後の日本のよりよい方向性を見いだ すために,保険関連科目を専門的に集中して教育する同大学の事例を最も進ん だ一つの方向性として取り上げてみることとした。なお,筆者は2008年3月よ り2009年3月まで同校に客員研究員として在籍し,いくつかの授業にも参加し た。

13) 2セメスター24単位の認定プログラム(certificate program)。入学に際し 学位を有することは条件とされていないが,隣接分野の学位を有する実務家の 受講が多く,日本の複数の保険会社からも研修生が派遣されている。

14) 本論文では学部カリキュラムのみに言及するが,その他のカリキュラムとセ ント・ジョーンズ大学スクール・オブ・リスクマネジメントの全般的説明につ いては諏澤[2005]を参照のこと。

(7)

科目のカリキュラム一覧である。

2‑2 求められる対応

ここまで,保険やリスクマネジメントをめぐるカリキュラムの現状を確認 してきた。ここからは,日本の大学において現在急速に進んでいる変化の方 向性と,それにどう対処すべきか考察していく。

2‑2‑1 グローバル化と大学改革

グローバル化が急速に進行する中,大学の教育力を高めるための取組がさ まざまな形で進められている。その中でも,2012年に東京大学が秋入学への 全面移行を目指す構想を発表したことは,産業界を含め,少なからず衝撃的 に受け止められ,大きな議論を巻き起こした。その後,東京大学は,移行を 連携して進めるため,京都大学をはじめとした国内11大学に呼びかけ秋入学 図表1 セント・ジョーンズ大学リスクマネジメント・保険学科の専門科目一覧

必修科目

RMI2301:Principles of Risk Management RMI3360:Corporate Risk Management  

RMI3361:Insurance and Alternative Risk Transfer   RMI4390:Insurance Industry Structure and Operation  

選択科目(6科目から9単位(credit)分選択)

RMI3334:Property and Liability Insurance

RMI3335:Life, Health, Pension and Social Insurance   RMI3350:Risk Seminar  

RMI4364:Reinsurance   RMI4399:Internship   RMI4400:Internship  

実務家向け研修プログラム(Diploma in Risk and Insurance) 秋学期:RMI2301,

RMI3360, RMI3334, RMI4364

春学期:RMI3361,

RMI4390, RMI3335, RMI3341

(

RMI3361と RMI3341を RMI4399に変更可能)

(8)

移行のための協議会を設置して議論を重ねて,2013年6月18日に,秋入学移 行を当面見送り,代わりにクォーター制(4学期制)を2015年から導入する 計画を発表した 。東京大学のこの発表は,日本の大学のグローバル化の流 れを押し戻すものではなく,より柔軟に留学生の受け入れと送り出しを可能 にするものと考えられる 。

このように大学改革の流れが加速する中で,大学における保険教育も大き な変化を強いられることになる。クォーター制をはじめ学生の留学を促進す るための制度を導入するには,それに見合った教務関係の制度整備が必要に なる。かつて4単位科目として教えられてきた保険関連科目が,セメスター 制(2学期制)の導入で2単位科目に分割された大学が多いが,さらに今後 はクォーター制により1単位科目に細分化されることもあり得る。これに加 えて,教育体系を可視化させるツールでもある科目ナンバリング が導入

15)

http:

//

www.u

tokyo.ac.jp

/

ja

/

news

/

notices

/647/

なお,東京大学は2011年4月から 入学時期の在り方に関する懇談会 で議 論を重ね,2013年に秋入学への全面移行を提案するに至った。報告書を含めた 懇談会の概要は東京大学学内広報 入学時期の在り方に関する懇談会 報告 書 特集号 (2012年4月)が詳しい。http://

www.u-tokyo.ac.jp

/

gen

02/

pdf

/ 20120329

report.pdf

16) 諸外国の学年の始期の状況をみると,9月入学は欧米諸国では約80%を占め るものの,調査対象215カ国全体の中では54%にとどまっている(UNESCO

Statistical Yearbook)。  

17) 科目ナンバリングは,各授業科目の授業内容の水準を示すために科目番号 (

international code

)をつけるものである。その実施方法には必ずしも一致 した見解が存在する訳ではないが,100番台は基礎科目,200番台は中級科目,

300番台は上級科目といった方法が一般的である。例えば,2012年8月に公表 された中央教育審議会答申 新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向 けて では,カリキュラムの体系化に関連して 科目を履修する学生をはじめ,

当該大学,学部,学科等が提供している教育課程の内容に関心を持つ全ての人 に教育課程の体系が容易に理解できるように,科目間の連携や科目内容の難易 を表現する番号をつける(ナンバリング)など,教育課程の構造を分かりやす く明示する工夫が必要である。 と紹介されている。また,大学評価・学位授 与機構による大学機関別認証評価の平成25年実施分の自己評価実施要領におい

(9)

されれば,保険関連科目にもナンバー付けが必要となり,保険関連科目の関 連性を明確にし,体系化することが,科目ナンバリング実施の前提となる。

つまり,保険学を学ぶ前提となる基礎科目の上に保険関連科目が積み上げら れ,さらにその中でも最初に必須として学ぶべき総論的な導入科目と,そこ から発展的に細分化した科目があるということになる。従って,科目ナンバ リングを行うことは,そのまま,保険学の学問体系を再確認することにつな がる。かつての保険本質論をめぐる論争を再開する時間的余裕はないものの,

突き詰めて考えていけば,近い将来,全国の大学がこのような大きな問題に 直面することになると言えるだろう。

前述の教育再生実行会議の第三次提言 これからの大学教育等の在り方に ついて には, グローバル化に対応した教育環境づくりを進める こと,

学生を鍛え上げ社会に送り出す教育機能を強化する ことなどが盛り込ま れている。そのための具体的な施策としては,上述のナンバリングに加え,

キャップ制(履修単位制限)の導入 ,ダブルディグリー ,イングリッシ

ても,評価基準である カリキュラム・ポリシーに基づいて教育課程が体系的 に編成されており,その内容,水準が授与される学位名において適切であるこ と の根拠として,履修モデル,カリキュラム・ツリーとともに科目ナンバリ ングが例示されている。international codeによるナンバリングが導入されれ ば,国内外の他大学との間で,留学等による学生の相互の移動に伴う単位互換 や事前の時間割作成ができるようになる。しかし同時に,大学間で同一番号台 科目について同じ水準の授業内容を保証しなくてはならならず,どうやってこ れを実現するかという大きな問題がある。

18) 個々の授業に対する十分な準備時間を確保し,より授業の理解を深めるには,

単位の過剰登録を防ぐ必要があり,1年間あるいは1学期間に履修登録できる 単位の上限を設けている大学が増加している。

19) 中央教育審議会大学分科会大学教育の検討に関する作業部会大学グローバル 化検討ワーキンググループが2010年5月に発表した 我が国の大学と外国の大 学間におけるダブル・ディグリー等,組織的・継続的な教育連携関係の構築に 関するガイドライン では以下のように定義付けられている。ダブルディグリ ー(我が国と外国の大学が,教育課程の実施や単位互換等について協議し,双 方の大学がそれぞれ学位を授与するプログラム。),ジョイントディグリー(我 が国と外国の大学が,教育課程を共同で編成・実施し,単位互換を活用するこ

(10)

ュトラック などが挙げられる。また,産業界からのグローバル人材育成 の要請も高く,この流れは今後もさらに加速していると思われる 。

さらに,授業方法の質的転換として,アクティブラーニングを導入し,従 来のいわゆる座学による講義から課題解決型学習(Project Based Learn- ing)への転換が強く求められている 。

2‑2‑2 産業界からの要請

産業界からの要請が新たな教育・研究領域を生みだすことは珍しくない。

例えば,現在では大学の科目として確立している 企業倫理(Business Ethics) は,アメリカで1980年代に企業不祥事が多発した後,産業からビ 

ジネススクールに対し,高い倫理観を身に付けたビジネスパーソンを輩出す

とにより,双方の大学がそれぞれ学位を授与するプログラム)と定義した上で,

さらに両者の定義は,海外においても一様ではないことを付記している。

http:

//

www.mext.go.jp/ b menu/ shingi/ chukyo/ chukyo

4/

houkoku/

1294338.

htm

20) 英語による授業を受けるだけで卒業・修了できるイングリッシュトラック

(英語コース)を設置する大学が増え,保険関連科目でも,今後英語による講 義科目の提供がさらに求められる可能性が高い。

21) 2010年10〜11月に日本経団連が会員企業と地方別経済団体加盟を対象として 行ったアンケート(596社から回答,回答率24%)の結果からもこのような趨 勢が裏付けられる(㈳日本経済団体連合会 産業界の求める人材像と大学教育 への期待に関するアンケート結果 2011年1月)。このアンケートの調査目的 は,⑴企業の求めるグローバル人材の素質,能力。グローバル人材育成に向け て大学や企業に求められる取り組み,⑵大学生が社会に出るまでに身につける べき知識,能力や職業意識,⑶人材育成に関して大学と企業間で協力可能な取 り組みを明らかにすることである。なお,このアンケートにおけるグローバル 人材とは,企業の事業活動のグローバル化を担い,グローバル・ビジネスにお いて活躍できる日本人及び外国人の人材とされている。

22) 2012年8月の中央教育審議会答申 新たな未来を築くための大学教育の質的 転換に向けて では 知識の伝達・注入を中心とした授業から,教員と学生が 意思疎通を図りつつ,一緒になって切磋琢磨し,相互に刺激を与えながら知的 に成長する場を創り,学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的 学習(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である との提言がなされた。

(11)

るための講座の設置を求められたことをきっかけに設置された科目である 。 例えば,前述のセント・ジョーンズ大学のカリキュラムをみると,相対的 には損害保険に関する科目の比重が若干高くなっている。これは同大学に対 して損害保険系の会社から支援が多く,その業界で求められるスキルを有す る人材をより多く輩出するための配慮からなされていることである 。日本 の学部学生の新卒時の就職では,高度な専門知識が求めることはあまり見ら れないが,今後,保険業界,金融業界,さらには広範な産業界がさらに産学 連携を強め高い専門性を有する人材を育成することが予想され,それに対応 可能なカリキュラムの再編は必要であろう。さらに,日本でもインターンシ ップが取り入れられ始めているものの,まだ,欧米のようにそこから正社員 としての雇用に結び付くような体系化は進んでいない。しかし,将来的には 保険やリスクマネジメントを専攻する学生が正規の授業として保険関係の企 業でのインターンシップを体験できる体制を整備することも必要であろう 。

23) 1992年4月20日付の

Fortune誌では,当時のアメリカ企業の企業倫理への

具体的な取組についての実態調査の結果が示されている(Labich Kenneth,

“The New  Crisis in Business Ethics”, Fortune, April

20

,

1992

, pp.167‑

176)。また,1992年4月6日付の

Business Week

では,当時アメリカの証券 取引委員会の委員長だった

John Shadが,企業倫理教育の強化を求めて高額

の寄付を母校であるハーバードビジネススクールに申し出,同校がそれに応じ て企業倫理教育充実のための抜本的方策の立案と実践に取り組んでいることを 紹介 し て い る。Byrne, John A., “Can Ethics Be Taught? Harvard Gives

It the Old College Try

:John Shadʼ

s $20   million pledge to the B-school in

1987

still stirs debate”. Business Week, April6   ,

1992

, p.34

24) 2013年3月に行った

Jean Kwon

研究科長へのインタビュー内容に依拠し ている。

25) 前述のセント・ジョーンズ大学ではインターンシップは選択必修科目の一つ という位置づけになる。同大学ではインターンシップをしやすい環境整備がな されている。その一例として,学生の就職支援のためのキャリア・フェア

(Carrier Fair)が年数回開催されている。学生はレジュメ(履歴書)を持っ て個別企業のブースを回り,お互いのニーズが合致すれば,まずはインターン シップという形で企業でのキャリアを開始することになる。スクール・オブ・

リスクマネジメントの所在地であるマンハッタンキャンパスでは年1回3月に

(12)

2‑2‑3 学生からの要請

最後に,学生にとって保険関連科目を学ぶことが有意義で,なおかつ授業 そのものが学びたいと思う魅力的なものであるかは重要な問題である。

筆者が所属する明治大学商学部では学生は3年次より7つのコースから1 コースを選択するが,1学年約1000名の学生のうち,550名程度がマーケテ ィングコースに所属し,ファイナンスアンドインシュアランスコースに所属 するのは120名程度で,さらにインシュアランスサブコース所属学生は数十 名にとどまる。しかし,その半面,卒業生の就職先の中で保険会社を含む金 融機関の割合は,明らかにコース所属学生の比重を大きく上回っている 。 この矛盾を放置するのではなく,まずは学生に研究対象としての保険やリス クマネジメントの存在を認識させ,さらにその魅力をアピールするためのさ らなる努力も必要であろう。

そのような取り組みの一例として,2004年に活動を始めた全国学生保険学 ゼミナール(Risk and Insurance Seminar,以下RISと表記)を取り上げ る。 リスクと保険 をキーワードに全国21大学の保険やその周辺分野の22 のゼミナール所属学生が合同で研究発表会を行っている。年1回,年末に開 催される全国大会までに,関東ブロック,近畿ブロック,九州・中国ブロッ クに分かれ,春にキックオフミーティング,秋に中間報告会を行っている。

このように目標を設定して,大学の枠を超えて活動を積み重ねるという取り

1日かけてキャリア・フェアが行われる。2013年3月に筆者が同校を訪れた際 には,39の企業や組織がブースを設置し,将来就職を目指す在学生たちはみな スーツ着用で各ブースを回っていた。参加企業・組織としては,保険関係の企 業やコンサルタントはもちろん,ニューヨーク市やニューヨーク州の政府機関 も含まれて,大学院生レベルの学生を中心に,保険や保険数理のスキルを有す る学生に対する求人活動を行っていた。

26) 例えば,ダイアモンド就活動ナビの2013年度版就職人気ランキングでは,文 系男子では,6位東京海上日動火災,15位日本生命,16位損保ジャパン・日本 興亜損保,17位三井住友海上,18位第一生命となっている。

http:

//

navi

14.

shukatsu.jp

/14/

contents

/

special

/

ranking/2013/ ?rankId

=2

→脚注が入らないため、アキを作成しています。注意

(13)

組みは,2‑2‑1で取り上げた課題解決型学習につながるものと捉えられる 。 RISに参加することで各大学での教育活動が盛んになるだけでなく,大学 間交流が広まり,将来的には,大学を超えたカリキュラムの体系化に議論に まで発展することも期待できるだろう。

3.あるべき保険教育

以上,さまざま角度から日本の大学における保険教育をめぐる周辺環境の 変化と求められる対応について整理してきた。3.ではこれらの情報をもと に,これまでに行われた保険教育についての調査での結論と,その後の環境 変化を踏まえて,日本の大学における今後の保険教育のあり方と求められる 対応について述べていく。

一橋大学の米山教授らは㈶生命保険文化センター(当時)の助成を受けて,

2003年春から 大学院教育における保険。リスクマネジメント教育の体系化 と組織的活用手段の開発 という共同研究を行っていた。この研究において は,過去の保険学の体系化,それを踏まえた保険教育の現状認識をめざして おり,その現状認識のために,2004年の3月にヨーロッパに,同年8〜9月 にはアメリカで海外調査を行っている。そして プロジェクトを通して考え たこと として,以下の4点が挙げられている 。1.リスクからはじまる 保険論,2.練習問題で内容を身につける保険論,3.関連科学との関連性 の重視,4.国際的通用性,である。これら4点は,調査から10年たった今 でも重要な論点である。その後の10年で部分的な対応はしてきたものの,や

27)

RIS

ホームページ:http://

sites.google.com

/

site

/

riskseminar

/

RIS

のこれまでの取組を広く国内外に伝えるため,RIS参加教員による英文論 文(Okura and Yanase[2013]が公表されている。また,東京周辺に限定 すれば,2013年に第60回を迎えた東京学生保険ゼミナールが存在し,年1回の 研究報告会を行っている。現在は8大学10ゼミナールが参加しているが,近年 では法律系ゼミナールの参加もあり,RISとは役割分担ができていると考えて いる。

28) 米山[2005]pp.14‑19。

(14)

はり体系的に対応してきたとは言い難い状況にある。本論文は,保険本質論 ではなく,他の科目と共通する問題点に焦点をあてているので,特に3.と 4.の視点を重視しながら,緊急に対処すべき事柄について述べていく。

3‑1 科目としての体系化と全体としてのレベル向上

日本の大学で保険関連科目がその存在意義を発揮するには,金融等隣接科 目との関係性を明確にし,その上で,ナンバリング可能な体系化を行うこと が前提となるだろう。前述のセント・ジョーンズ大学のカリキュラムでは,

保険関係の基礎科目に位置付けられるRMI2301:Principles of Risk Ma- nagementの履修条件として,経済学 (ECO1301,1302)と法学 (LAW1310) の基礎科目履修が求められている。その後もRMI3360:Corporate Risk M anagement, RM I3361:Insurance and Alternative Risk  Transfer, 

RMI4390:Insurance Industry Structure and Operationが必修で,残 り の科目から9単位(credit)の履修が求められている。

これはセント・ジョーンズ大学という保険に特化した大学での一例であり,

なおかつ日米の大学の制度上の違いがあるものの,カリキュラムの体系化に 向けて参考とすべき事例であろう。そして,各大学がこのような体系化を進 めれば,大学を超えた保険関連科目の共通の基盤のようなものが出来上がり,

大学を超えたファカルティ・ディベロップメント を行い,保険関連科目担 当教員の質の向上を図るための基盤づくりができるはずである。

3‑2 大学教育改革への対応

3‑1では科目のナンバリングを推奨する動きを活用した科目の体系化につ

29) 中央教育審議会 我が国の高等教育の将来像 答申(平成17年1月)では以 下のように定義付けられている。 教員が授業内容・方法を改善し向上させる ための組織的な取組の総称。その意味するところは極めて広範にわたるが,具 体的な例としては,教員相互の授業参観の実施,授業方法についての研究会の 開催,新任教員のための研修会の開催などを挙げることができる。

→脚注が入らないため、アキを作成しています。注意

(15)

いて述べた。その他にも,グローバル化やIR の推進など,大学には大学 教育改革につながる取り組みが数多く求められている。現在求められている 取り組みの中には,保険関連科目にはなじまないものもある,しかし,日本 の大学をめぐる全般的な潮流に乗り,利用可能な改革は積極的に活用する必 要があるだろう。そしてグローバル化の流れの中で,英語による授業を設置 したり,海外の有力な大学とのジョイントディグリーやダブルディグリーを 推進したりすること,さらには,学部と大学院教育を一体化し,学部3年と マスター2年の計5年でのマスター学位取得を目指すといった流れに対して も,保険関連科目での実現可能性や具体的方策について今すぐ検討を始める 必要があるだろう。

4.むすびにかえて

ここまで,日本の大学における保険教育のあり方について述べてきた。最 後に,保険学または保険論と,リスクマネジメント論の棲み分けからさらに 発展し,リスクマネジメント論と称される科目を体系化する必要性について 言及しておく。保険学または保険論から発展した科目としてのリスクマネジ メント論は,保険制度という基礎の上に成り立つ一定の共通認識を持つもの と捉えられる。これに対し,金融論に隣接する科目として設置される場合は,

30)

Institutional Researchの略。文部科学省の 国際的な大学評価活動に関す

るワーキンググループ では,IRに関して以下のようなにコメントしている。

各大学においては,それぞれの目標や実情等に応じて情報の公表に関する適 切な体制を整備するとともに,その実施や達成の状況を評価するのみならず,

他大学の発信する情報を分析評価する

IR(Institutional Research

)機能を持 つことで,自らの戦略形成の基礎とすることが可能となる。また,改善を図る ためのプロセスを構築することも容易となり,大学運営に資するところは大き いものと考えられる。加えて,各大学における

IR

機能の充実に当たっては,

国内的な観点のみならず,国際的な観点から情報の評価・分析を行うことがで きる職員を育成することが期待される。

http:

//

www.mext.go.jp/ b menu/ shingi/ chukyo/ chukyo4/ houkoku/

1294329.

htm

 

(16)

リスクファイナンスに特化した科目となり,さらに,管理会計担当者が担当 する場合にはより会計色が強い科目となる 。リスクマネジメントの研究領 域の広がりを否定するものではないが,保険との関係を明確にし,体系的な 保険教育体系を構築しない限り,本家であるはずの保険領域がその存在意義 を失いかねないだろう。

本論文では,あえて保険本質論ではなく,周辺状況を整理することから日 本の大学における保険教育のあり方について述べることを試みた。そして,

どのようなアプローチを取るにしても,保険関連科目のカリキュラムや教授 法のあり方を考えることが保険教育のあり方を考える最初のステップとなる,

という結論に行きついた。従って,大学教育改革を契機に,これまで当然視 してきた保険関連科目の科目としての存在意義を再確認し,あるべき姿を考 え,それを実現しなくてはならない,という大きな課題に直面していると考 えることができるだろう。本論文が発展的な議論のきっかけになることを願 っている。

(筆者は明治大学商学部教授)

主要参考 献

堀田一吉[2009]: 保険教育の意義と課題 保険研究 第61巻。

M azars

[2013]:Jumping the talent curve : Insurance Industry Challenges

and  Initiatives in Asia.  

小川浩昭[2010] 保険研究の動向 生命保険論集 第171号。

岡田太[2005]: アメリカの大学における保険教育の発展と課題(特集 高等教育 レベルにおける保険・リスクマネジメント教育・研究の国際的動向) 生命保 険論集 第153号。

諏澤吉彦[2005]: セント・ジョーンズ大学スクール・オブ・リスクマネジメント

―環境変化に耐え得る管理・経営者養成のための学術教育のあり方への示唆 , 前掲 生命保険論集 第153号。

31) さらには,リスク認知の観点から工学系や心理学系の一科目として設置され ることもある。この場合には,保険との関連に言及されることはより少なくな る。

(17)

家森信善[2010] 金融論の研究・教育における保険 保険学雑誌 第609号。

Okura, M. and Yanase, N.

[2013]:New  Challenge to Broaden Undergrad-

uate Education for RMI in Japan

:Effective Use of Seminar Classes on

a Nationwide Scale, Discussion  Paper Series,   no.

2013‑10

, The Research Institute of Southeast Asia, Faculty of Economics, Nagasaki University.  

柳瀬典由[2005]: リスクマネジメント・保険教育ならびに研究の拠点―ペンシ ルバニア大学ウォートンスクール ,前掲 生命保険論集 第153号。

米山高生[2005] 保険学の将来と高等教育機関における保険教育の方向性‑㈶生 命保険文化センター助成プロジェクトの成果 ,前掲 生命保険論集 第153号。

参照

関連したドキュメント

     再び保険学の立場について       一二

今回の一連の保険金等の支払い問題の発端となったといわれる MY

料率設定をめぐる不公平には,垂直的不公平と水平的不公平がある。垂直 的不公平とは

保険教育は,国内外において,大学・大学院のみならず中学・高校も含め

これら提言を読み解くと,大学教育には学生に対しこれから一人前の社会

果仮説は、1960年代のコールマン ・ レポートやそれを さらに拡大検証したクリストファー ・ ジェンクスらの マクロデータ『不平等

2.保険募集・販売ルールのあり方について 2―1

A. 学生からの授業アンケートを見ると、板書につ いてのコメントが多く見られます。学生は予備校や