氏 名 ・(本籍) 飯川 延子(茨城県)
専 攻 分 野 の 名 称 博士(医学)
学 位 記 番 号 医博甲第 894 号 学 位 授 与 の 日 付 平成 27 年 9 月 24 日
学 位 授 与 の 要 件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研 究 科 ・ 専 攻 医学系研究科医学専攻
学 位 論 文 題 名 Intra-Golgi Connexin26 behaves in a pro-oncogenic manner in head and neck cancer cells
(ゴルジ体に貯留する Connexin26は頭頸部癌細胞の造腫瘍能を増強する)
論 文 審 査 委 員 (主査) 教授 田中 正光
(副査) 教授 羽渕 友則 教授 後藤 明輝 Akita University
学位論文内容要旨
論 文 題 目
Intra-Golgi connexin26 behaves in a pro-oncogenic manner in head and neck cancer cells
(ゴルジ体に貯留するconnexin26は頭頸部癌細胞の腫瘍形質を増強する)
申請者氏名 飯川延子
研 究 目 的
Gap junction(GJ)は隣り合う細胞の細胞質を直接連結する細胞間チャネルであり、水溶性小分子の往来 による細胞間コミュニケーションを担っている。GJを介した細胞間コミュニケーション(gap junctional intercellular communication ; GJIC)は細胞の恒常性維持に重要な役割を果たしている。GJタンパクは コネキシンと呼ばれ、ホニュウ類で 20 種類以上が確認されており、それぞれの組織で様々なコネキシン の発現が認められている。
GJIC は腫瘍抑制的に機能することが知られており、腫瘍においては、コネキシンの発現低下および消 失、局在の異常、またリン酸化の異常などでGJICの減弱や消失が生じている。一方、コネキシンの細胞 質や細胞内小器官への過剰な蓄積は、むしろ腫瘍の浸潤や転移を亢進する傾向があり、例えば頭頸部や食 道の扁平上皮癌においては、コネキシン 26(Cx26)の細胞質への貯留が腫瘍悪性度やリンパ節転移と相 関しているとの報告がある。我々のグループも先に、肝細胞癌由来細胞株を用い、ゴルジ体へのコネキシ
ン 32(Cx32)の貯留が癌幹細胞を増加させ、転移能を亢進させることを見出した。本研究においては、
ヒト舌扁平上皮癌SAS細胞にゴルジ体貯留シグナルを付加した変異型Cx26 cDNAを過剰発現させ、ゴル ジ体に貯留するCx26の様々な癌形質に対する効果を解析し、その腫瘍進展における役割を明らかにする ことを企図した。
研 究 方 法
変異株の作製…ヒト野生型Cx26 (wtCx26) cDNAとゴルジ体貯留シグナルAKKFFをC末に付加された 変異型Cx26 (mtCx26) cDNAをpQCXINレトロウイルスベクターに挿入しコンストラクトを作製した。
PT-67パッケージング細胞に各コンストラクトをFuGENE HD Transfection Reagentを用いて遺伝子導 入し、G418耐性の安定株を作製した。組換えウイルスを多量に含む安定PT-67株の上清内でSAS細胞を 培養し、ウイルスを感染させ、G418で3週間選択後、G418耐性細胞をクローニングしてSAS細胞安定 株を作製した。これらの安定株をそれぞれmtCx26、wtCx26、mock導入株とした。
Immunoblotting…細胞を溶解しタンパクを抽出し、SDS-PAGE で展開、PVDF メンブレンに転写した。
タンパクを転写したメンブレンに対し、抗Cx26 ポリクローナル抗体と抗GAPDHモノクローナル抗体 を反応させた後、抗ウサギまたは抗マウス IgG-HRP を反応させ WEST-one Western Blot Detection Systemでシグナルを検出した。
間接蛍光免疫染色…抗Cx26ポリクローナル抗体と抗ゴルジ58Kタンパクモノクローナル抗体をアセトン 固定した細胞に反応させ、抗ウサギIgG-Alexa 488と抗マウスIgG-Alexa568を反応させ可視化した。
Scrape-loading dye-transfer assay…ピペットティップで細胞培養ディッシュを引っ掻くことで、コンフ ルエント状態にある単層培養細胞に傷を付け、Lucifer yellowとRITC-dextranの混合液を細胞上に添加 した。Lucifer yellowは傷害された細胞からギャップ結合を介して隣接する無傷の細胞に拡散するので、
拡散の程度を蛍光顕微鏡で評価した。
細胞の運動能および浸潤能の計測…Boyden chamber を用いて、運動能やMatrigel 基底膜への浸潤能を 評価した。
研 究 成 績
コントロールとしての mockはCx26 タンパクの発現は認められなかった。一方、wtCx26タンパクや
mtCx26タンパクは発現が認められた。さらに免疫染色にて、wtCx26は細胞膜の細胞間領域に強い発現
を認めGJプラークを形成し、mtCx26は細胞膜には発現せず、ゴルジ体に蓄積が認められた。
RITC-dextran 、Lucifer yellowによるscrape-loading dye-transfer assay では、wtCx26はGJICが 認められたが、mtCx26は認められなかった。
ゴルジ体内に蓄積するCx26の増殖能への影響を調べるため、mtCx26、wtCx26、mock
のpopulation doubling timeを検討した。wtCx26はmockよりも長く、mtCx26は有意に短縮された。
さらに、足場非依存性の増殖能も検討すると、mtCx26はmockの2倍のコロニーを形成し、wtCx26は mockと比較して30%の形成であった。細胞の運動能を、serum-stimulated transwell migration assay により検証したところ、mtCx26はmock と比較して有意に運動能が亢進しており、wtCx26は有意に減 少していた。さらに、浸潤能もmtCx26はmockと比較して亢進し、wtCx26はmockと比較して低下し た。
結 論
ヒト舌扁平上皮癌SAS細胞において、Cx26タンパクは細胞間にGJを形成しGJICを誘導するととも に、様々な悪性腫瘍の形質を抑制した。一方、Cx26をゴルジ体に過剰に局在させると、GJが形成されな いだけではなく、SAS細胞の腫瘍形質をむしろ増強することが明らかとなった。これらの結果は、GJが 腫瘍抑制的に機能するのに対し、GJに関与しないコネキシンは向腫瘍的に機能することを示唆している。
Akita University
学位(博士-甲)論文審査結果の要旨
主 査: 田中正光
申請者: 飯川延子
論文題名: Intra-Golgi connexin26 behaves in a pro-oncogenic manner in head and neck
cancer cells (ゴルジ体に貯留するconnexin26は頭頸部癌細胞の腫瘍形質を増強する)
要旨
著者の研究は、論文内容要旨に示すように、細胞間チャネルであるギャップジャンクショ ンの構成分子である connexin が、頭頸部癌細胞においてゴルジ体に貯留する事で癌細胞の 形質を悪化させる事について解析したものである。Connexin26 の野生型およびゴルジ体貯 留シグナルを付加した変異型を、頭頸部癌由来であるSAS細胞に導入して作成した安定発現 株を用いて、そのギャップジャンクション機能の変化と細胞増殖能、運動・浸潤能、および 腫瘍形成能を検討したものである。
本論文の斬新さ,重要性,実験方法の正確性,表現の明瞭さは以下の通りである。
1) 斬新さ
Connexin は細胞膜においてギャップジャンクションを形成する役割において、従来がん
抑制性に働くと考えられてきた。一方、細胞質内に貯留する connexin が悪性度の高い癌細 胞で観察されるようになり、その因果関係を明らかにする事は臨床的にも重要である。本研 究の斬新生は、頭頸部癌細胞においてconnexin26がゴルジ体に貯留する事が同癌細胞の様々 な腫瘍生物学的な特性を悪化させる事を初めて見いだしたことにある。
2)重要性
ギャップジャンクションに局在しない connexin26 は、細胞間チャネルの機能を失うとい う負の因子であるばかりでなく、癌細胞の増殖、移動、浸潤を促進し、免疫抑制マウスにお
ける腫瘍形成能を増加させる、向腫瘍性の機能を有する事を明らかにしたことは、connexin の持つ新たな機能として重要であると考えられる。また,臨床上も頭頸部癌の悪性度の判定 や治療における標的分子を考える上でも重要である。
3)研究方法の正確性
野生型、変異型のSAS細胞株は、レトロウイルス感染により安定発現細胞を作製している。
ギャップジャンクションの細胞間チャネルとしての機能を測定するdye-transfer assayは、
既に著者らのグループがこれまでにも報告した実績のある方法を用いている。また,細胞増 殖に関わる doubling time の測定、soft agar を用いた足場非依存性の増殖比較、Boyden
chamberによる細胞の移動アッセイと浸潤アッセイも標準的な適切な方法に準じている。こ
れらはいずれも統計学的検討を加えており,客観的な評価法で,正確性があると考えられて いる。
4)表現の明瞭さ
これまでの問題点の解決、すなわちゴルジ体に貯留した connexin26 の癌細胞の形質にお ける影響を明らかにするための研究目的、方法、実験結果、考察を簡潔、明瞭に記載してい ると考える。
以上述べたように、本論文は学位を授与するに十分値する研究と判定された。
Akita University