1!3
理科教育における観察の機能に関する 実験的研究(第九報)
比較観察力の年令的発達について一一一一
自然科学教育研究室 高 野 恒 雄
§1.緒 云
§2.調 査 方 法
〔1)調 査 対 象
(2)比較観察方法および採点基準
§3.調査結果と考察
A ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察の場合
(1)比較観察記録の実例
②比較観察得点
〔3)各相異点の観察率
(4)学業成績,知能との相関 B サクラとクリの葉の比較観察の場合
(1)比較観察の実例
②比較観察得点
(3)各相異点の観察率
㈲ 学業成績,知能,他の観察得点との相関
§4.結 び
§1.緒 云
(i) ② (3)
筆者は本研究の第六,第七および第八報において,第五報までにおける単独観察と異な る比較観察の機能を実験的に調査し,分析して,いくつかの結論を生んだ。すなわち,第 六および第七報においては,ヨウ素と塩化アンモニウムの加熱実験における現象の比較観 察についてしらべ,第八報においては,サクラとクリの葉の比較観察について調査し,さ
らにそれぞれの場合において,比較観察方法の指示効果を吟味したのである。
しかし,これらの比較観察の実験的調査は,主として小学生について行ったものであ
り,それ以外はヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察の場合大学生について調査しただけ
であった。このようなこれまでの事情は,観察の機能を研究する場合,小学生を対象とす
る実験的調査がいろいろの角度から最も重要な意味をもつという考えによるところが大き
いのであるが,第九報においては,比較観察力の年令的発達について考察するため,調査
114 茨城大学教育学部紀要 第九号
対象を主として中学生とし,あわせてサクラとクリの葉の比較観察の場合大人の大学生を 比較対象に選んでみたわけである。
そして,ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察とサクラとクリの葉の比較観察という質 的に型の異なるそれぞれの比較観察において,比較観察力の年令的差異はどのようにあら われてくるかを分析的に比較検討し,また比較観察方法の指示の有無とも関連ずけて考察 したのである。
§2. 調 査 方 法
(1)調 査 対 象
、
?骭ァ西茨城郡岩間町立岩間第一中学校,2年生39名,茨城大学教育学部学生31名,計 70名。 ・
岩間第一中学校は,これまでの調査校である岩間第一小学校と同じ岩間町の同じ学区に あり,生徒の構成や環境はほぼ同質と認めることができる。またいずれの被検者もヨウ素 と塩化アンモニウム,サクラとクリの葉の両方の比較観察を行い,両者の比較検討に適す るようにした。
② 比較観察方法および採点基準
まずヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察において,比較観察方法を指示しない場合 は,第六報にのべたように,2本の試験管に入れた少量のヨウ素と塩化アンモニウムを,
それぞれ順々にアルコールランプで熱していったときあらわれる現象を,できるだけよく 観察し,両現象の相異点を指摘し記録するという調査方法をとった。また比較観察方法を 指示した場合は,第七報,第1表に示してある4項目の文章による指示を行って比較観察 させた。
サクラとクリの葉の比較観察において,比較観察方法を指示しない場合は,第八報にの べたように, 目の前にあるサクラとクリの葉をあらゆる角度からよく注意深く比較観察 し,その相異点をできるだけ指摘し記録するという調査方法をとった。また比較観察方法 を指示した場合は,第八報,第1表に示してある5項目の文章による指示を行って,比較 観察させた。
つぎに被検者の比較観察記録の採点基準は,ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察の場 合は第六報,第1表に示したものであり,サクラとクリの葉の比較観察の場合は第八報,
第2表に示したものである。いずれの場合も,採点基準に示した相異点1つを見出し記録
高野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第九報) 115 することができた場合,これを1点の得点として,各被検者の比較観察記録を評価したわ けである。
§3.調査結果と考察
A ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察の場合
(1)比較観察記録の実例
ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察において,被検者が中学生の場合,どのような観 察をしているかを個別的にみるために,実際の比較観察記録をあげてみる。
まず比較観察方法を指示しない場合について,例をあげてみる。中学校2年の男子生徒 のものである。視力は左1.5,右2・0であり,学業成績は5段階法で全教科,理科ともに
3である。
「白い塩化アンモニウムは,熱しても,なかなか,かわらない。そのままだ。
黒いヨウソは熱すると,すぐちがった色のガスになる。黒いヨウソは,火であぶらないと,また 黒いかたまりになる。
塩化アンモニウムは熱しているうちに,白いきりのようなものになってくる。それがモヤモヤと 動いている。ヨウソはむらさき色のガスになるが、静かに上にあがっていく。
ヨウソは,むらさき色のガスがひえて,かべについて,かたまりになると,金色にみえる。塩化 アンモニウムは,こまかいのが白くかべに,くっついている。」
この記録は,中学生にしては表現が簡単であるが,いくつかの相異点は指摘している。
採点基準で採点すると,相異点2,3,5を見出していることになり,得点は3となる。
つぎは,比較観察方法を指示した場合の例であるが,中学校2年の女子生徒のものであ る。視力は左1.5,右1.2であり,学業成績は全教科4,理科3である。
「(1)黒い薬は,熱すると紫色になって,だんだんぼやけてきて,黒いところが上にのぼっていく。
白い薬は変らないで,いっこうになくならず,下に薬がかたまっている。
(2)黒い薬は,試験管のかべに光ったかたまりがついて,もようができている。白い薬は小さいの
が白くつ、・て㌔・る。
㈲ かぺについている黒い薬は,ひとどころに集まってかたまっていて,ほかの所は何の色もなく すきとおっている。白い薬は,一面についている。
(4)試験管のかべを熱すると,白い薬は紙のようになって,だんだんはがれて,底におりてくる。
黒い薬の方はかたまりがまたガスになり,もようができる。
もう一度下から熱してみると,黒い薬は,下の方からだんだんに紫色のガスになって,上に広が っていく。白い薬は,熱するといろいろに白いガスが動く。」
この記録は・比較観察方法を指示してあるために,第七報,第1表の「指示した4項目
の比較観察方法」の順に整理されている。記録の内容も,それだけ豊かになっている。採
点基準で採点すると,相異点2,3,5,6,7を見出していることになり,得点は5と
116 茨城大学教育学部紀要 第九号
なる。相異点1(溶融するか,しないかのちがい)と相異点4(ガスの重さのちがい)だ けが見出せなかったわけで,すぐれたものといえる。
以上,比較観察方法を指示しない場合と指示した場合における比較観察記録の実例を各 々一つずつあげたが,比較観察方法の指示効果は中学校2年生のこの場合にも認められる のである。しかし一面,第六および第七報における小学校6年生の記録と比較すると,記 録の仕方そのものには,大きい程度の差異が認められないことも事実である。
(2)比較観察得点
ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察における中学校2年生の比較観察得点と人数の関 係を,年令的差異をみるために小学生,大学生の得点分布(第六報,第1図で求めてある
)と一緒に図示すると,第1図のようになる。なおこの図は,いずれも比較観察方法を指 示しない場合について比較したものである。
第1図 比較観察得点分布
夕o
ト 阜沸 ハ 、40
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「//\\ご\ 、 、 、煽 ! 2 3 4 3 6 7
ピし較観察得彙
第1図において,中学校2年生の得点分布は,予想通り小学校4年生・6年生と木学生 の問にはさまっているが,つぎのような特ちょうをもっていることがわかる。
まず低得点者が小学生に比ぺると大巾に減少しており,人数の山は得点3にあり,小学 校4年生および6年生の人数の山にあたる得点1に比ぺて,2点の差をもっている。すな わち,全体的に得点上昇がみられることが理解されるのである。ただ最高得点で比較する と,少学校6年生と同じ得点4であるのが注意させられる。
つぎに,各学年における全体の比較観察得点の平均値を比較してみると,第1表のよう
高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第九報) 117 になる。また比較観察方法を指示した場合と指示しない場合における各学年の平均得点を 示すと第2表のようになる。
第1表平均比較観察得点の比較
「小。4年生
小・6年生 中・2年生 大 学 生 由・2年生 大 学 生
F一一一一一一一一「一−F一一一
ャ・6年生 小・6年生
1・181 1・43 2・21 3・4・ 1・55i 2・38
第2表 比較観察方法の指示効果の比較
\ 指示し B嚥旨示した 指 示 し た
w示しない
小・4年生1 1・181 L951 1・65
小・6年生1 1・431 2・52− 1・76 中・2年生1 2・21 2・9・1 1・31
この2つの表から,比較観察力の年令的発達について,つぎのような考察が成りたつ。
まず第1表から,ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察得点にあらわれている比較観察 力は,小学校4年から6年,中学校2年,大学へと年令の進むにしたがって,順調に発達 していることが認められるが,この場合,比較観察力の発達速度は特に小学校から中学校 への段階で大きいことがわかるのである。すなわち,小学校6年生と中学校2年生とでは 年令差は2年であるが,平均得点の比率はL55という高い値になっている。この値は,小 学校6年生と大学生との平均得点の比率2・38と比べると,2年という小さい年令差にして は非常に大きい比率であることが感じられる。したがって,ヨウ素と塩化アンモニウムの 比較観察の場合には,小学校高学年から中学校にかけての,比較観察力の発達速度の大き い期間は,特に比較観察力養成の立場から重要な時であるといえよう。
ところが,この年令的差異を第2表の比較観察方法の指示効果と結びつけて考えると,
興味ある事実が見出される。第2表に示されているように,小学校6年生の比較観察方法
を4項目指示した場合と指示しない場合の比較観察得点の比率は1.76である。この値は非
常に大きく,前述した中学校2年生と小学校6年生の年令差にもとずく得点比L55よりも
さらに大きいのである。しかもこの場合の比較観察方法の4項目の指示の内容は,第七報
にものべてあるように,主な実験操作と着眼点についてのごく平凡なものである。すなわ
ち,このことから,ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察においては,小学校6年から中
学校2年への2年の年令差にもとずく比較観察力の発達よりも,比較観察方法の指示効果
の方がより著しいといえるわけである。比較観察方法の指示がいかに有効であるかを,よ
く示している事実といえよう。
コ18 茨城大学教育学部紀要 第九号
第2表からもう一つ理解されることは,比較観察方法の指示効果の年令的差異について である。指示効果の最も高いのは小学校6年生であり,それについで小学校4年生,中学 校2年生の順となる。この場合これまでの研究からも,比較観察方法の指示効果は年令が 進むにしたがって小さくなるのは自然なことであるので,中学校2年生の指示効果が低い
ことは当然であるが,小学校4年生が6年生より指示効果が低いことは,逆の関係のよう に一応みうけられる。しかし,このことを実際の比較観察記録についてしらべると,4年 生の場合,比較観察方法の指示の意味を十分にくみとって役立てることがむずかしい様子 であることが,わかるのである。すなわち,4年生の場合は,比較観察方法の指示をうけ るにふさわしい受入態勢ができていないといえるであろうし,またある意味では,4年生 はまだやや自己中心灼で他からの指示の影響力が低くなるとも考えられるのである。とも かくこの場合,比較観察方法の指示効果は小学校6年生において最高であることが,認め られるわけである。
(3)各相異点の観察率
ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察において見出しうる7つの各相異点について,全 体の被検者に対する観察率(%)を,小学校6年生と中学校2年生の場合について比較す ると,第3表のようになる。なお,この表はいずれも比較観察方法を指示しない場合につ いての値である。
第3表 第3表から,大体においてはもちろん各 相異点 小・6年生 中・2年生 中・2年生i 相異点について,中学校2年生の方が小学 番 号 観察率(%) 観察率(%) 幽小・6年生
校6年生よりも観察率は高いことがわかる
一 9・113L613・47 『
が,その程度にはかなりの差があり,また
2 52・3}42・11・・8・
中には逆に低いものもある。
3 27・31 31・61 Ll6
各相異点の観察率における年令差の大き
41 4・51 到31 1・18
5}18・2}68・413・76 さは,中学校2年生と小学校6年生の観察
6i 22・7 21・11・・93 率の比として示してあるが,ここにいくつ
71 9・1i 2王・112・32i かの特色ある事実が見出される。
まず最も比の大きい相異点5に注目させ
られる。相異点5は,壁に析出した結晶の大きさと形のちがい(ヨウ素は比較的大きい針
状結晶,塩化アンモニウムは微細結晶)であり,試験管の壁にあらわれる細かい結晶に対
する微視的観察によってヨウ素と塩化アンモニウムを比較した場合に見出されることであ
り,ここに年令差が最も強くあらわれたのは,年令の増加にともなう「観察の微細化」に
高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第九報) 119
よるものと考えてよいであろう。
つぎに相異点5についで比の大きい相異点1は,溶融するか,しないかのちがい(ヨウ 素はとける,塩化アンモニウムはとけないで固体→気体)であり,この相異点を見出す場 合問題になる点はヨウ素の入った試験管を熱していったときの観察であるが,紫色のモヤ モヤしたきれいなガスの発生に目を奪われて,とけて液体になるなどということは見失な ってしまう可能性があるわけである。相異点1の観察率の年令差が大きいことは,年令の 小さい者ほどこの可能性が大きいことを意味していると考えられる。したがってこのこと は,年令の増加にともなう「観察の客観化」といえるであろう。
つぎに,やはり比の大きい相異点7についてであるが,これは壁に析出した結晶を再び 熱したときのちがい(ヨウ素は結晶の間に新結晶,塩化アンモニウムは紙状になる)であ
り,この相異点を見出すためにぜひ必要なことは,試験管の壁に結晶が析出してから再び 壁を熱するという操作である。この操作に気ずいて行ってみなくては,見出せないことで
ある。この点で年令差があらわれると考えられるので,年令の増加にともなう観察時の「
実験操作の多角化」といえるであろう。
以上にのぺた各相異点とは反対に,中学校2年生の方が小学校6年生より観察率の劣る 相異点2は注目させられるが,これは気化しやすさのちがい (ヨウ素の方が気化しやす
く,早くガスになる)であり,第六報にものぺてあるように試験管を加熱した場合,ガス はモヤモヤと管内に次第にひろがっていくという動的な現象についての比較である。この ような動的な現象は,年令の小さい者の方がより興味が深く観察率も高いと考えられるこ とは,第六報においてこの相異点2の観察率は大学生が小学校6年生より劣ることをみて も,理解されるのである。
㈲ 学業成績,知能との相関について
中学校2年生におけるヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察得点とこれらの問の相関係 数を求めて整理してみると,第4表のようになる。
第4表 相関係数 第4表から,全教科成績,理科成績,知能のいずれの場合
全教科成績 1−0.10 1
も,比観察得点との相関はその存在が疑わしいことがわか 生科成矧一・・15 る。第六および第七報における小学校6年生の場合より,異
知 能 一〇.11 常に低い結果になっている。
コ20 茨城大学教育学部紀要 第九号
B サクラとクリの葉の比較観察の場合
(1)比較観察記録の実例
サクラとクリの葉の比較観察において,被検者が中学生の場合どのような観察をしてい るかを個別的にみるために,実際の比較観察記録をあげてみる。
まず比較観察方法を指示しない場合について,例をあげてみる。中学校2年生の男子生 徒のものである。視力は左右ともにL2であり,学業成績は全教科,理科ともに3であ
る。
「(1)クリの葉の方が,大きくて長い。サクラの葉は,それより丸こい。
(2)どちらの葉も,わきがノコギリの目のようになっているが,サクラの葉の方がこまかく,かさ なっている。クリの葉はあらい。
{3)葉のすじは,サクラの葉の方はこまかく,ほそく,途中から葉のふちの方にいくつにも,わか れている。クリの葉はあらく,まっすぐすじが,とおっている。
(4)サクラの葉のつけねの上の方に,小さなかたまりができているが,クリにはない。
㈲ サクラの葉の表面に,細い毛がはえている。クリの葉にはない。
《6)クリの葉は色がうすく,サクラの葉は色がこい。
(7)サクラの葉は平らだが,クリの葉は凸凹している。」
この記録は,中学生にしては表現が粗雑であるが,・かなりの数の相異点は指摘してい る。採点基準で採点すると,相異点1,4,5,6,7,8,13,15を見出していることになり,得点 は8となる。この場合,記録の(7)は葉面のそり具合(わん曲の程度)の相異(記録にもあ
るように大体クリの葉の方が全体的にも各葉脈間でもより,そっている)を指摘している わけであるが,第八報にものぺたように,材料が生物のため個体差がありうるので一概に 断定しにくく,採点基準から除いてあるものである。 したがって得点にはならないので
ある◎
つぎは,比較観察方法を指示した場合の例であるが,中学校2年生の女子生徒のもので ある。視力は左右ともに1.5であり,学業成績は全教科,理科ともに3である。
「(1)クリの葉は長いが,サクラの葉は,たまご形している。
② サクラの葉のつけねの所に,ぼんぼりがついているが,クリにはついていない。
⑧葉のヘリのギザギザは,クリの方があらくて,サクラの方がこまかい。
(4)そのギザギザは,サクラの方は一つおきずつに,小さいのと大きいのがついていて,かさなっ ているが,クリの方はどれも大体同じになっている。
⑤ クリの葉のギザギザの方が,先がとがっている。サクラはとがっていない。
㈲ どちらの葉にも,たくさん線があるが,サクラの方がこまかくて多い。クリの葉のまん中から 出ている線は,どこまでもわれないで,とおっているが,サクラの方は途中からわれて,いくつ にもわかれている。
(7)クリの葉の方は,なめらかであるが,サクラの方は,でこぼこがあり,毛が少しはえている。
⑧ クリの葉は,まん中の線が出ばっているが,サクラの方はへこんでいる。
高野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第九報) 12麿
⑨葉のつけねのクキのようなものは,クリの葉はなめらかだが,サクラの葉ぽ毛がはえている。
⑩ クリの葉は遠くからみると,つやがあって光っているが,サクラの葉は色はこいが,つやがな
、、o
⑳ 葉を折ってみると,クリの葉の方がじようぶで,サクラの方はすぐおれる。かたさがちがう。」
この記録は,比較観察方法を指示してあるために,前にあげた記録に比べるとやや整理 されているが,指示した5項目の比較観察方法の順には必ずしも比較観察を進めてはいな いし,自由さが認められる。採点基準で採点すると,相異点1,3,4,5,6,7,8,
9,12,13,14,15を見出していることになり,得点は最高の12となる。比絞現察しうる 相異点は全体で16あるが,その内12まで見出したのであるから,すぐれた比絞観察記録と いえよう。この記録においては,比較観察方法はかなり効果約であったとみてよいであろ
う。
(2) 上ヒ 較 観 察 そ尋 ,点
サクラとクリの葉の比較観祭における中学佼2年生と大学生の平均比較観察得点を,小 学校6年生の平均得点(第八報で求めた)と一緒に示すと,第5表のようになる。
第5表 平均比較観察得点の比較 また比較観察得点の
「一 l
縁ャ゜6轍i中゜2牲 r 蛛@学 生 中・2年生1だ宝_生 最高と最低を比較してみ 小・6年生 小・6年生
{5・411乳1列 9.24!1・32 1・711
方法を指示しないという 条件で,小学校6年生は最高10,最低2,中学校2年生は最高10,最低4,大学生は最高 12,最低7である。概括的にいえば,年令が進むにしたがって,比較観祭得点は最高より
も最低に大きい差を示すのであり,いいかえれば主として低得点者の減少という形で進歩 しているといえるわけである。また第5表の平均得点をみても,年令の増加にともなう比 較観察力の発達は順調なことがわかる。
しかし,中学校2年生の小学校6年生に対する平均得点の比は1.32で,この値はヨウ素と 塩化アンモニウムの比較観察の場合の1・55に比べて小さく,大学生の小学校6年生に対す る平均得点の比は1.71で,ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察の場合の2,38に比べてや はり小さい。すなわちサクラとクリの葉の比較観察においては,比較観察力の年令的発達 の程度は,ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察の場合よりも小さいといえるのである。
ところが,つぎの第6表に示す比較観察方法の指示効果の大きさをあわせ考えると,特 色ある事実が見出される。
すなわち,前述の1.32という比率は比較的小さいとはいいながら,小学校6年生の比較
122 茨城大学教育学部紀要 第九号
第6表 比較観察方法の指示効果の比較 観察方法の指示効果の比率である1.19
\
\, 指示しない 一一一1指示した
A無矯 一 一一一一τ一一
よりはかなり大きい値なのである。い
「かえれば,サクラとクリの葉の比較
1
小・6年生 5.41 6・45i 1・19
1 観察においては,小学校6年から中学
に巴12馴 7・151乳74−・・8
校2年までの2年の年令差による比較 観察力の発達の方が,比較観察方法の指示効果よ りも大きいわけである。このことはヨウ 素と塩化アンモニウムの比較観察の場合と全く逆の関係になる。
この理由は,サクラとクリの葉の比較観察がヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察に比 べて,同じ比較観察とはいいながら,タイプの異なったものであることにあると考えられ る。サクラとクリの葉の比較観察における比較観察方法の指示効果が,ヨウ素と塩化アン モニウムの比較観察における指示効果よりもずっと小さい原因の一つは,サクラとクリの 葉の比較観察においてはヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察におけるような実験操作を 必要とせず,静的な比較観察であることであろう。実験操作を心要とする場合には,被検 者自身にはそのままでは気ずかないような操作も,指示した比較観察方法によって白覚し 行ってみることができるので,指示効果は著しいわけである。ところがサクラとクリの葉 の比較観察においては実験操作は必要なく,静的な注意力が主なはたらきを演ずるのであ るから,平凡な比較観察方法の指示によってはあまり影響されないと考えられるのであ る。したがってサクラとクリの葉の比較観察においては,年令の進みにともなって比較観 察の観点のとらえ方に手すみが入るようになることの方が,大きい影響力をもっているよ
うに考えられるわけである。
それから第6表において,中学校2年生における比較観察方法の指示効果が小学校6年 生より劣るのは,ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察の場合と同じ,年令の増加にとも なう指示効果の減少の傾向で,自然なことと考えられる,
(3)各相異点の観察率
サクラとクリの葉の比較観察において見出しうる16の各相異点について,全体の被検者 に対する観察率(%)を,小学校6年生と中学校2年生の場合について比較すると,第7 表のようになる。いずれも比較観察方法を指示しない場含についての値である。
各相異点の観察率における年令差の大きさは,中学校2年生と小学校6年生の観察率の
比として示してあるが,ここでまず注目させられるのは,相異点6の場合10・20という非
常に大きい値の比になっていることである。相異点6は,葉の表面の状態のちがい(サク
ラの葉はうすい毛が生えているが,クリの葉は平滑である)であり,これは特に葉の表面
高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第九報) 123 第7表 に対する微視的観察によって見出しうる相
1番 号 相異点小・6年生
@ 観察率(%) 中・2年生 マ察率(%)
中・2年生一一
ャ・6年生 異点であるので,ヨウ素と塩化アンモニウ
1192・71g…1・.97一 ムの比較観察におけると同様,年令の増加
2 31・716… 1.89 にともなう「観察の微細化」が著しくあら
一3129・31・…11.37 われたと解されるのである。
述4168・3ig…11.31 相異点6についで比の大きい相異点15
1『 は,密腺の有無のちがい(サクラの葉には
i61 4・915…11・.2「 あるが,クリの葉にはない)であり,この
国 53・719・国 1.68 場合は相異点6におけると同様,年令の増 一
W153・7i 85・・11.58 加にともなう「観察の微細化」として考え
91 4・91 5・・11・・2 られるが,そのほかに,中学生の場合は密
1・1 ・1 ・1 『
腺についての知識をもっている者が増加す
11134・− 15・・[・・44
ることにも原因するであろう。
121 2・41 5・・i2.・8一
相異点12および相異点2も比がかなりの
13158・5145・・1・・77 大きさを示しているが,相異点12は葉柄の
14163・414…1一一@」一 0.63
毛の有無のちがい(サクラの葉にはある 一15i 19・列 75・・i 3.85
が,クリの葉にはない)であり,この場合
16, ・i ・1 一 は文字通り年令の増加にともなう「観察の 微細化」 として考えられ,また相異点2は葉の先端の形のちかい(サクラの葉は急にとが
っているが,クリの葉はそれほどではない)であり,これは葉の全体と部分との形の関係
を把握することによって見出されて相異なので,この点に年令差があらわれたことは自然 ,
なことと考えられるのである。
以上とは反対に・中学校2年生の方が小学校6年生より観察率の劣る相異点がいくつか あるが・相異点11が最も劣り,それについで相異点14,相異点13が目立っている。相異点 11は葉柄の長さのちがい(サクラは長く,クリは短い),相異点14は葉の硬さのちがい(
サクラは軟らかく・クリは硬い),相異点13は葉の色のちがい(サクラは濃い緑色だが,
クリはうすい緑色)である。いずれの相異点も,葉に対する概括杓,全体約な把握によっ て見出されるものであり,やや単純な相異点であるという共通点をもっている。その点φ 微視的観察によって見出される前述の各相異点とは性質を異にするといえる。
したがって,サクラとクリの葉の比較観察とヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察だけ
からは一概に断云はできないかもしれないが,一般約に年令の増加によって微視的観察に
進歩をみせ,いいかえれば「観察の微細化」が著しく,概括約,全体的観察には発達の跡
124 茨城大学教育学部紀要 第九号 をみせないという傾向が見出されるのである。
㈲ 学業成績,知能,他の観察得点との相関
中学校2年生におけるサクラとクリの葉の比較観察得点とこれらの間の相関係数を求め て整理してみると,第8表のようになる。
第8表から,いずれの場合にも有意の十の相関があ 第8表 相関係数
全教科成副+0.47 ることがわかる。そして相関の高さの順位が全教科成
1
理科成績1+・・44 績,理科成績,知能の順になることは,これまでの小
知 能1+・.36 1
学生における比較観察の場合の傾向と一致する。
診矯譲縣瀦引+・5・