大学生における「好かれる教授」と「嫌われる教授
」の特徴
著者 豊田 弘司
雑誌名 教育実践総合センター研究紀要
巻 11
ページ 19‑22
発行年 2002‑03‑31
その他のタイトル The characteristics of professors who were liked or disliked by undergraduates
URL http://hdl.handle.net/10105/4075
大学生における「好かれる教授」と「嫌われる教授」の特徴
慧 LI]弘 "蝣]
(奈良教育大学心理学教室)
The characteristics of professors who were liked or disliked by undergraduates
Hiroshi TOYOTA
(Department of Psychology, Nara University of Education)
Abstract : The purpose of the present study was to clarify the characteristics of professors who were liked or disliked by undergraduates. A total of 563 undergraduates were requested to write down the characteristics of an imaginary professor (including an associate professor or a lecturer) they liked. They were also required to write down the characteristics of a imaginary professor they disliked. For a professor who was liked there were frequently positive statements about the person's lectures (interesting and comprehensive) , personality‑
traits (gentle and friendly) and appearance. In contrast, for a professor who was disliked there were often negative statements about the person's lectures (not interesting and incomprehensive) , personality‑traits (frequently angry, ironic, and conceited) and speech (too loud or too soft), The results indicate that the quality of lectures and the personality of a professor determine whether the person is liked or disliked.
Keywords:好かれる教授Iiked professor、嫌われる教授disliked professor、好ましさIikableness
1.はじめに
どのような人間が好かれるかという問題については、
対人魅力(interpersonal attraction)という研究領 域で検討されてきた。 Anderson (1968)によって、
好かれる性格特性に関する検討がはじまって以来、多 くの研究が行われてきた。ただし、近年の対人魅力の 研究は、主に同性一異性という視点から検討されたも のが多い。例えば、松井・江崎・山本(1983)は「もっ とも魅力を感じる異性」、豊田(1998、 1999)は「男 性から嫌われる男性」 「女性から嫌われる男性」 「女性 から嫌われる女性」及び「男性から嫌われる女性」、
豊田(2000a)は、 「男性から好かれる男性」 「女性か ら好かれる男性」 「女性から好かれる女性」及び「男 性から好かれる女性」の特性を検討している。そして、
対象によって好かれる特性や嫌われる特性が異なるこ とが明らかになっている。
このような研究経過から対人魅力は、とかく教育研 究としての意義が乏しいように思われてきた。しかし、
教育現場において教師が児童・生徒から好かれるとい うことは、児童・生徒の学習活動に促進的に機能する
ことは明らかである。したがって、好かれる教師と嫌 われる教師の特徴を明らかにすることは重要である。
杉村(1979)は、大学生に小学校、中学校、高校時 代に好きだった教師と嫌いだった教師の特徴を自由記 述させた。その結果、小学校時代に好きだった教師は、
やさしい、一緒に遊んでくれる、親しみやすい、親切 な、おもしろいという特徴、嫌いだった教師はえこひ いきする、よく怒る、怖い、うるさい、ヒステリック
という特徴をもっていた。中学校時代に好きだった教 師は、親しみやすい、ユーモアがある、やさしい、理 解してくれる、厳しいという特徴をもっており、嫌い だった教師は、よく怒る、えこひいきする、皮肉を言 う、しつこい、馬鹿にする教師であった。さらに、高 校時代においては、好きだった教師はユ‑モアがある、
親しみやすい、意欲がある、理解してくれる、相談に のってくれる教師であり、嫌いだった教師は皮肉を言 う、押しつける、意欲がない、馬鹿にする、冷たいと いった特徴をもっていた。同じように、豊田(1994) は、大学生に印象に残った教師を各時代ごとに思い出
してもらったが、その教師のほとんどが好きだった教 師であった。そして、その教師の印象についてあらか じめ設定しておいて特性項目にあてはまる程度を評定
してもらい、その評定値を因子分析した結果、 3つの 時代に共通する5つの因子を抽出した。それらの因子 は、信頼感、個人的な関わり、快活さ、厳しい指導、
授業のうまさであった。厳しい指導という因子に含ま れる項目については評定値が低いので、好かれる特徴 に含めることはできないが、その他の因子はそれぞれ 好きな教師の特徴であると言えよう。
また、豊田(1996)は、過去に好きだった教師と嫌 いだった教師の特徴を自由記述させた。その結果、好 きだった教師は、思いやりのある、親しみのある、優 しい、温厚などの特徴を持ち、回想する時代に該当す る年齢が高くなるにつれて、授業のうまさが重視され ることがわかった。一方、嫌いだった教師については、
総じて、男子学生では、厳しい、体罰、下手な授業と いった客観的にとらえることのできる特徴が多くあげ られているのに対し、女子学生では、不公平、自己中 心的、うるさいという人格面の特徴があげられていた。
このように、自由記述を用いた研究によって好きだっ た教師と嫌いだった教師の特徴が明らかになっている が、いずれの研究も大学生が回想した過去の教師につ いての結果であった。古くは、岸田(1968)が児童・
生徒に対して直接調査した結果から、好きな教師と嫌 いな教師の特徴を示している。ただし、今現在授業を 担当している教師について自由記述を求めるような最 近の研究は見あたらない。しかし、過去の回想に基づ く自由記述よりも現在授業を担当している教師につい て自由記述を求める方がより精度の高いデータが得ら れる。
そこで、大学生が今現在授業を担当している教師、
すなわち大学教官をどのように見ているのかについて 検討することにした。最近、 FD (ファカルティ・デ
ヴェロブメント)が盛んに叫ばれているが、大学生に 好かれる教官になることは、重視されなければならな い。それ故、本研究では、大学生に「好かれる教官」
と「嫌われる教官」の特徴を明らかにすることを目的 とした。 「好かれる教官」と「嫌われる教官」の特徴 を明らかにすることによって、大学の教官の資質の向 上に貢献できる資料が得られると考えられる。
なお、本研究では、大学生に「好きな教官」と「嫌 いな教官」の特徴を自由記述してもらう方法を用いる ことにした。異体的特徴をあらかじめ呈示し、それぞ れの特徴に該当する程度を評定させる方法もあるが
(豊田、 1999、 2000b)、自由記述の方が、被調査者 にとって重要な特徴が抽出できる可能性は高い。また、
頻度の高い自由記述の中から、評定を用いる場合の具 体的特徴を選択することが可能になる。このような理 由から自由記述を用いて「好きな教官」 「嫌いな教官」
の特徴を明らかにしようとしたのである。
2.方 法
2. 1.被調査者
大学生563名(男子225名、女子338名)。平均年齢は、
18歳10か月であった。
2. 2.材 料
調査には図1に示すようなB 6判の用紙を使用した。
図1 本研究で用いられた自由記述用紙
2. 3.手 続
調査は集団調査を行った。上述の調査用紙を配布し、
大学生に、 「好きな教官」と「嫌いな教官」それぞれ に特徴を3項目ずっ自由記述してもらった。ただし、
特徴は長い文にならないようにという制限を加えた。
記述時間には個人差があったが、 10分以内で記述を終 了してもらった。
3.結果と考察 3. 1. 「好きな教官」の特徴
自由記述であるので、類似した意味内容はまとめて 集計した。なお、項目同士をまとめるかどうかに関し ては、著者及び評定者4名が合議の上決定した。表1
は、 「好きな教官」の特徴に関する自由記述の結果で あるが、記述数の多い上位20項目のみが示されている。
「授業がおもしろい」 「やさしい」 「見た目がよい」
「授業がわかりやすい」 「親しみやすい」の上位5項目 が男女ともに記述数が多かった。これらの特徴が「好 きな教官」の特徴として男女に共通して重視されてい ることがわかる。大学教官は、授業でしか学生と接す る機会のない場合が多い。それ故、授業のおもしろさ やわかりやすさが上位に入るのほうなづける結果であ る。豊田(1996)では、高校時代に好きだった教師の 特徴について自由記述させているが、そこでは男子学 生において、授業がうまい、おもしろいという項目が 上位にあがっている。男子学生は授業のうまさを重視 する傾向があるが、大学教官に対しては、総じて、授 業のうまさとおもしろさが求められるのである。
また、性差に関しては、男子学生の自由記述では
「話がうまい」 「単位をくれる」 「授業が早く終わる」
「授業が楽」 「雑談をしてくれる」といった授業に関す
大学生における「好かれる教授」と「嫌われる教授」の特徴
表1 自由記述による「好きな教官」の特徴(上位20項目)
男 子 学 生 女 子 学 生
順 位 項 目 n % 順 位 項 目 n %
1 授 業 が お も し ろ い 9 0 4 0 ー0 0 1 授 業 が お も し ろ い 1 7 9 5 0 ー0 0
2 見 た 目 が よ い 7 5 3 3 .3 3 2 や さ し い 14 5 4 0 .5 0
3 や さ し い 7 2 3 2 .0 0 3 見 た 目 が よ い 7 4 2 0 .6 7
4 授 業 が わ か りや す い 5 1 2 2 .6 7 蝣I 親 し み や す い 7 1 1 9 .8 3
5 親 し み や す い 4 5 2 0 .0 0 5 授 業 が わ か り や す い 5 7 1 5 .9 2
6 話 が う ま い 2 3 1 0 .2 2 6 穏 や か で あ る 2 5 6 .9 8
7 知 識 が 豊 富 で あ る 2 0 7 知 識 が 豊 富 で あ る 2 1 5 .8 7
7 明 る い 2 0 7 笑 顔 が よ い 2 1 5 .8 7
9 熱 心 で あ る 19 8 .4 4 9 明 る い 1 9 5 .3 1
10 単 位 を く れ る 17 7 ー5 6 1 0 熱 心 で あ る 1 8 5 .0 3
l l 授 業 が 早 く終 わ る 16 7 .l l 1 0 声 が よ い 1 8 5 .0 3
12 声 が よ い 15 6 .7 7 1 2 感 じ が よ い 1 6 4 .4 7
13 穏 や か で あ る 14 6 ▼2 2 13 単 位 を くれ る 1 5 4 .1 9
14 授 業 が 楽 13 5 ー7 8 14 雑 談 を して く れ る 1 2 3 .3 5
15 雑 談 を し て くれ る 12 5 .3 3 14 丁 寧 で あ る 1 2 3 .3 5
16 誠 実 で あ る 1 1 14 声 が 聞 き 取 り や す い 1 2 3 .3 5
16 感 じが よ い 1 1 4 ー8 9 1 7 偉 そ う で な い 1 0 2 .7 9
16 笑 顔 が よ い 1 1 4 .8 1 7 ダ ン デ ィ で あ る 1 0 2 .7 9
19 親 切 で あ る 4 .0 0 19 話 が う ま い 9 2 ー5 1
2 0 学 生 思 い 2 .6 7 19 若 々 し い 9 2 ー5 1
2 0 丁 寧 で あ る 2 .6 7
2 0 細 か い こ と を い わ な い 2 .6 7
2 0 人 生 経 験 が 豊 富 2 .6 7
nは記述数、 %‑n÷男女それぞれの人数×100
表2 自由記述による「嫌いな教官」の特徴(上位20項目)
男 子 学 生 女 子 学 生
順 位 m 順 位 項 目 n %
1 授 業 が お も しろ くな い 36 16 .00 1 授 業 が お も しろ くな い 7 1 19.8 3
2 授 業 が 分 か りづ らい 28 12 .44 2 声 が大 きい 18.9 9
3 嫌 味 を 言 う 26 11 ー 56 3 す ぐ怒 る 6 1 17.04
4 す ぐ怒 る 24 10 .67 4 嫌 味 を言 う 58 16.2 0
4 偉 そ うで あ る 24 10 ー 67 5 授 業 が 分 か りづ らい 56 15.64
4 声 が 大 き い 24 10 ー 67 6 声 が小 さ い 40 11.17
7 厳 しい 19 8 ー 44 7 言 って い る意 味 が分 か らな い 35 9 .78
7 言 って い る意 味 が 分 か らな い 19 8 .44 7 しつ こ い 35 9 .78
9 や る気 が な い 17 7 .56 9 厳 しい 28 7.?
9 感 じが 悪 い 17 7 .56 10 こ わ い 24 6 ー 70
ll か た い 15 6 .67 ll 一 方 的 な授 業 を す る 23 6 .42
12 声 が 小 さい 13 5.78 12 板 書 の 字 が 汚 い 20 5 .59
12 板 書 の字 が 汚 い 13 5.78 13 自 己中 心 的 19 5 .3 1
12 学 生 を見 下 す 13 5ー 78 13 不 潔 で あ る 19 5 .3 1
12 親 しみ に くい 13 5.78 15 偉 そ うで あ る 18 5 ー 03
12 自 己 中心 的 13 5.78 15 冷 た い 18 5 .03
16 しつ こい 12 5.33 17 親 しみ に くい 17 4 .7 5
17 暗 い 11 4 i 18 学 生 を 見 下 す 14 3 .9 1
18 意 地 悪 で あ る 10 4.45 19 意 地 悪 で あ る 13 3 .63
18 冷 た い 10 4.45 20 きつ い 11 3 .07
18 話 が 下手 10 4.45 20 自慢 ば か りす る 11 3 .07
20 暗 い 1 1 3 .07
nは記述数、 %‑n÷男女それぞれの人数×100
る特徴の記述数が多い。これは、先の研究(豊田、
1996、 2000b)において、男子学生が女子学生よりも 授業の適切さを重視していることと一致する。一方、
女子学生の自由記述では「穏やかである」 「笑顔がよ い」 「明るい」 「感じがよい」 「偉そうでない」 「ダンディ である」 「若々しい」といった人格に関する項目が多
く認められる。これも豊田(1996、 2000b)と同様に、
女子学生は男子学生よりも教師のもつ人格的な特徴を 重視していることと一致している。これらの特徴は、
大学教官自身が努力することによって身につけること が可能な項目も含まれている。大学教官にとっては、
具体的な努力目標として参考になるものである。
3. 2. 「嫌いな教官」の特徴
「授業がおもしろくない」 「授業がわかりずらい」
「嫌みをいう」 「声が大きい」 「すぐ怒る」の5項目が 男女に共通して記述数が多かった。男子、女子学生と
もに、 「嫌いな教官」の特徴として「授業の不適切さ」
が重視されているといえる。この結果は、高校時代の
「嫌いだった教師」の特徴を検討した豊田(1996、 2000 b)の結果と一致する。年齢が高くなるにつれて、授 業内容や方法に注目するようになり、それが不適切で あると、教師は嫌われる可能性が増大することが示唆 される。大学教官が大学生に嫌われないためには、授 業内容と方法の改善が重要であるといえよう。
また、興味深い結果として、男女ともに、 「声が大 きい」 「声が小さい」という、声量に関する項目が上 位にあげられていた。贋兼・吉田(1984)は、対象人 物の声が、その人物の印象を形成する上で顔、服装、
体格よりも優位に機能することを示している。また、
大坪・吉田(1990)は、対象人物が自己紹介している 声を皇示されることによって印象が影響されることを 示している。さらに、笹山(1990)は、実験的に操作 された感じのよい話し方(親しみやすい、人のよい、
人なっっこい、おもしろい、上品な、まとまったとい う印象をもたれる話し方)が、外見的魅力と同程度に 相手からの好意に影響することを示している。
これらの先行研究を考慮すると、大学教官の話し方 や声は、大学生の印象や好意度を規定する重要な要因 であるといえよう。残念ながら、感じのよい話し方が 何によって規定されているのか(声質か、スピードか、
話の内容か等)については末検討であり(笹山、 1992)、
結論はでていない。しかし、本研究結果から言えるこ とは、大学生からよい印象をもたれるためには、最低 限「声の適切な大きさ」に留意する必要があろう。
なお、 「嫌いな教官」の特徴には大きな性差はなく、
「嫌いな教官」の特徴は男女で共通していた。
最後に、本研究は自由記述を用いたが、豊田(1999、
2000b)と同じく、本研究で記述数の高い項目につい
て「好きな教官」 「嫌いな教官」の特徴として該当す る程度を評定させる調査研究が必要である。評定を用 いれば、性差がより明確になるであろう。
付 記
デ‑夕集計にあたり、奈良教育大学心理学教室4回 生の西田賀嗣君、 3回生の岩本弥子さん、菊池保子さ ん、斉藤恵理さん、吉本有希さんの協力を得た。記し て感謝の意を表します。なお、データは、著者が演習 授業として指導した上で、平成13年奈良教育大学大学 祭(輝責祭)において上記3回生4名が研究発表した。
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