『
釋
摩
訶
衍
論
』と
密
教
『釋
摩
訶
衍
論
』 (そ
の
ー
) に於
け
る字
輪
に つ い てー
遠
藤
純
一区
良
『釋摩訶衍論』と密教 (その1
>(遠 藤)は
じ
め
に
『 釋 摩 訶衍
論 』 ( 以 下 『 釋 論 』 ) は 龍 樹 菩薩
造 ・姚
秦 筏提
摩
多
訳 の 論 書 と し て 伝 え ら れ て い る が 、戒
明 の 日 本 将 来 の直
後 よ り 、 そ の 真偽
を 巡 っ て 盛 ん に 議 論 が な さ れ てき
た 。真
言宗
祖 弘法
大 師 空 海 は こ の 書 を龍
樹 の真
撰 と み な し 、 三 学 録 に 於 い て 『 菩提
心 論 』 と と も に 真 言 宗 所 学 論 蔵 に据
え 、 ま た 顕 密 の 優 劣 を 定 め る 根 拠 と し て積
極
的 に活
用 し た た め 、 そ れ は 教 学 上極
め て 重要
視 さ れ る こ と と な っ た 。 そ れ故
、 空 海 以 後 、真
言宗
で は 『 釋 論 』 に 対 し て緻
密 な 註 解 が な さ れ る よう
に な っ た の で あ る が 、 天台
宗 な ど で は 偽 撰 と す る 立 場 を と る な ど 、 他宗
の 関 心 を 惹 く こ と は あ ま り な か っ た よ う であ
る 。 こ の よ う な 経 緯 か ら 『 釋 論 』 は 専 ら 真 言 教学
に 即 し て 理 解 さ れ、 そ れ は 森 田 龍 僊 氏 の 『 釋摩
訶衍
論
之 研究
』 が 刊 行 さ れ る ま で 主 流 を占
め た 。 氏 の 研 究 に よ り 、 『 大乘
起信
論
義
記
』 ( 以 下 『 義 記 』 ) と の 関 連 性 か ら 『 釋論
』 が偽
撰 で あ る こ と が 確定
さ れ る と 、 中 国仏
教 史 の視
点 か ら 再 評価
す べ き こ と が求
め ら れ 、 空海
以 前 の 『 釋論
』 が 注 目 さ れ る 一53
一NII-Electronic Library Service 智 山学報 第五十 一輯 よ
う
に な り 、真
言 教学
と=
疋 の 距 離 が と ら れ る こ と と な っ た 。 こ れ よ り 以 来 、 『 釋 論 』 の 成 立 問 題 が多
く の 研 究者
に よ り と り あ げ ら れ て き た が 、 そ の 年 代 ・ 地 域 を 特 定 す る に は 至 っ て い な い 。 こ の こ と は 、 『 釋 論 』 の 成 立 を 十分
に 決定
づ け る だ け の資
料 が 発 見 さ れ て い な い こ と に起
因 し て お り 、 恐 ら く は今
後
も そ の よ う な資
料 の 出 現 を 必 ず し も期
待
す る こ と は で き な い で あ ろ う か ら 、 広 く 七 百年
代 の 中 国 ・朝
鮮
の宗
教 の動
向 を 踏 ま え 、 そ の 問 題 を継
続 的 に 考察
し て い か ね ば な ら な い だ ろう
。 こ れ ま で 『 釋 論 』 と 他 と の 関 係 性 は 、 『 釋 論 』 の教
理 面 に 於 い て 討 究 さ れ る 場 合 が多
い よ う で あ る が 、 そ の 考察
の 際 に 鍵 と な る 『 釋論
』 の 特 異性
は 、 『 起 信 論 』 思 想 の 抽象
的 な 議 論 に 限 定 さ れ て い る わ け で は な い 。寧
ろ 「 大乘
起 信 論 』 ( 以 下 『 起 信 論 』 ) で 極 め て 簡潔
に 述 べ ら れ る に 過 ぎ な い 実 践 面 、 つ ま り 修 行 信 心 分 に 関 わ る 解 釈 に 広 くう
ち だ さ れ て お れ ば 、 そ れ を 看 過す
る こ と は で き な い だ ろう
。筆
者
は既
に修
行 信 心 分 中 の 印 知 邪 正 因 縁及
び舎
宅 造 立 因 縁 を 検 討 し、 そ の結
果、 そ こ に 『 占 察 善 惡 業 報 經 』 や 『眞
誥
』 の影
響
が 見 出 さ れ 、 『 釋 論 』 は仏
教
だ け で は な く 、 道教
的 要 素 を も 内 包 し て お り 、相
当 に多
様 な 内 容 を有
す る典
籍 であ
る こ と が確
認 さ れ た 。 こ の よ う な観
点 か ら す る と 、 先 に 、真
言 教学
と .定
の 距離
を 保 っ て 『 釋 論 』 を 再 評価
す べ き こ と を 述 べ た の で あ る が 、 そ の 修行
信 心 分 解釈
の 中 に は 密 教 典 籍 に顕
著 な 用 語 が 散 見 さ れ る た め 、 そ れ を密
教的
要
素
と し て捉
え う る か に つ い て も 考察
し て お く 必 要 が 有 り 、 そ の 可能
性
を直
ち に 退 け る べ き で は な い 。 本 論 で は先
ず
密 教 と の 関 連 性 を 探 る キ ー ワ ー ド と し て 「 字輪
」 を取
り 上 げ、 『 釋 論 』 に 於 い て そ れ が 如 何 な る 性格
を 有 す る も の で あ る の か に つ い て考
え て み る こ と に し た い 。N工工一Electronlc Llbrary Servlce
一
顕
教
に
於
け
る
字
輪
『 釋論
』 の字
輪 を 検 討 す る に 際 し て 、先
ず 従 来 の 顕 教 に 於 い て ど の よ う に字
輪
が把
握 さ れ て い た か を 概 観 し て み『釋摩訶 衍論』と密教 (その
1
)(遠藤) よう
。先
に 、字
輪
は 密教
典 籍 に顕
著 な 用 語 で あ る と し た が 、 こ れ は 顕教
の 典 籍 に あ ま り そ の用
例 が 見受
け ら れ な い こ と か ら 評 し た も の で あ る 。 実際
、 『 釋論
』 の 成 立年
代 以 前 に 存 在 し て い た と 思 わ れ る 顕 教 の 典 籍 の 中 で 字輪
の 用 例 を 具体
的 に眺
め て み る と 、 そ の 数 は さ ほ ど多
く な く 、 そ の 用法
も 限定
的 で あり
、 ほ ぼ 以 下 の 様 な分
類 が 可能
で あ る Q( ↓
「
般
若 經 」 の 輪字
に 関 わ る も の 『 大 般 若波
羅
蜜多
經 』『
大
般
若波
羅
蜜
多
經 般 若 理 趣 分 述 讃 』「
華
嚴 經 」 の 字輪
に 関 わ る も の 『 度 世 品經
』『
大
方廣
佛華
嚴
經 』 ( 六 + 巻 )『
大
方 廣佛
華
嚴
經 』 ( 八 + 巻 )『 新 華
嚴
經論
』『 略 釋
新
華
嚴
經
修
行
次 第 決疑
論
』『
華
嚴
經 探 玄 記 』「 般 若 經 」
系
の輪
字
「 般 若 經 」系
の輪
字
と し て は 、 玄 奘 訳 『 大 般若
波
羅 蜜多
經 』 に 初 見 さ れ る 。爾
時
世尊
復
依 一 切 無 戲 論法
如
來 之 相 。爲
諸
菩
薩 宣 説 般若
波 羅蜜
多
甚
深 理 趣輪
字法
門 。 謂 一 切 法 空無
自
性 故 。 一 切法
無 相離
衆 相故
。 一 切法
無 願 無 所願
故
。 一 切法
遠 離 無 所 著故
。 一 切 法寂
靜
永寂
滅 故 。 一 切 法 無常
性
常無
故 。 一 切法
無樂
非 可 樂故
。 一 切法
無 我 不自
在
故
。 一 切 法無
淨
離淨
相故
。 一 切法
不
可 得 推 尋其
性 不 可 得故
。 } 切 法 不 思議
思 議其
性無
所有
故 。 一 切 法 無 所有
衆
縁 和 合 假 施 設故
。 一 切法
無 戲 論本
性 空寂
離 言説
故
。 一 切法
本
性 淨 甚 深 般若
波
羅蜜
多
本性
淨
故 。佛
説
如 是 離諸
戯
論
般 若 理 趣輪
字法
已 。告
金 剛手
菩
薩
等 言 。 若有
得
聞 此 無戲
論
般若
理 趣( 2 )
輪
字
法
門 。 信 解受
持
讀 誦修
習
。 於 一切
法
得
無 碍智
。疾
證無
上 正等
菩
提 。 こ こ で は 輪字
を 「般
若
波 羅蜜
多
甚 深 理趣
輪
字
法
門 」 と し て 挙 げ て い る 。 そ の法
門 は 上 掲 の 引 用 文 で 述 べ ら れ て い 一55
一NII-Electronic Library Service 智 山学報第五 十一輯 る よ う に 「 一 切 法 空
無
自性
故
。 一 切 法 無 相 離 衆 相 故 。 」 云 々 を 内 容 と し て お り、輪
字 は 「 般 若 經 」 の 空 と 密 接 な 関 係 を 有 し て い る も の と 理 解 さ れ る 。 慈 恩大
師 基 は 『 大 般 若 波羅
蜜多
経
般
若 理 趣 分 述 讃 』 に 於 い て 、 こ の 輪字
法
門 を 解 釈 し て 次 の よ う に 述 べ て い る 。 輪字
法
門 者 輪有
二 義 。 一周
圓義
二 摧壞
義 。 由 觀 眞 如 性無
戲
論 遍 一 切 法 故 名 周 圓 。 由 觀 此 故 離 分 別執
摧 壞 生 死 一 切執
著 故 名 摧 壞 。 詮 此輪
理 所有
法 門名
輪 字 法 。 教 能 詮 顯故
名 爲 門 。 由 聞 此 教 遂 起 輪 行 。 起 輪 行 已得
輪 果得
輪 果 ( 3 ) 已復
爲 他 轉 。 如 是 展 轉 。 彼 の解
釈 に よ れ ば 、 「 輪字
法
門 」 と 言う
場 合 の 「 輪 」 と いう
言 葉 に は 「 周 圓義
」 と 「摧
壌 義 」 の 二 種 の 義 が 有 る と いう
。 「 周 圓 義 」 に つ い て は 、 「 真 如 性 が 一 切 法 に 遍 じ て い る 」 と いう
こ と に 因 ん で 「 周 圓 」 と し て お り 、 こ れ は 『大
般 若 波 羅 蜜多
經 』 で コ 切法
空 無自
性 故 。 一 切法
無 相離
衆 相故
。 」 云 々 と 述 べ て い る 個 所 に 基 づ い た解
釈 で あ る 。 「 摧 壞 義 」 で は 、 こ の 真 如 性 を観
じ る こ と に よ り 、 分 別 ・執
著 を 離 れ る こ と か ら 「 摧壊
」 と し、 「輪
」 に 武 器 と し て の 性 格 を 読 み 込 ん で い る 。 ま た 「 詮 此 輪 理 所 有 法 門名
輪 字法
」 と 言 い 、 輪 字法
は真
如 理 の あ ら ゆ る 法 門 を 顕 す も の と し て 位 置 づ け ら れ 、 続 け て 「 教 能 詮 顯故
名 爲 門 」 と 言 っ て お れ ば 、 そ れ が 「 教 」 と し て の 性 格 を 有 す る も の で あ る こ と が 知 ら れ る 。 密 教 の 祖 師 ら の 翻訳
に も、 こ の輪
字 が 認 め ら れ る 。 金 剛 智 訳 『 金 剛頂
瑜 伽 理 趣 般若
經 』爾
時 世 尊復
依 一 切 無 戲論
法 如 來 之 相 。 爲 諸 菩 薩 。 説 文字
轉
輪 品般
若
波 羅 蜜多
理 趣 法 門 。 所 謂 一 切 法 空 。 無 自 性故
。 一 切法
無 相 。 離 衆 相 故 。 一 切 法 無 願 。 離 諸 願 故 。 乃 至 一 切法
自
性 清淨
。 即 般 若 波 羅 蜜多
自
性 清淨
。 佛 説 如 是離
諸 戲 論 文 字法
已 。告
金 剛手
菩 薩等
言 。 若 有得
聞 此 無戲
論 般若
理 趣 輪 字 法 門 。 信 解 受 持 讀 誦 正 念 思惟
。 於 此 ( 4 > 一 切 法 。得
無 碍智
。疾
證 無 上 正 等 菩提
。 一56
一 N工工一Electronlc Llbrary不 空
訳
『 大 樂 金剛
不 空眞
實
三 麼耶
經 」復
説
轉
字
輪 般 若 理 趣 。 所 謂 諸法
空 。與
無 自性
相
應 故 。 諸法
無 相 。與
無 相性
相 應 故 。 諸法
無 願 。 與 無 願性
相應
故
。 ( 5 )諸
法
光
明
。 般若
波
羅蜜
多
清 淨故
。 こ れ ら の 翻 訳 は 『大
般若
波 羅蜜
多
經 』 の 内容
と 大 き く 異 な ら ず 、 輪字
と い う 表 現 に 密 教 的 な 理解
が 持 ち 込 ま れ て い る よう
に も 思 わ れ な い 。 『釋 摩訶衍 論』 と密教 (その ユ) (遠藤)「 華
嚴
經 」系
の 字輪
「 華 嚴 經 」 に於
い て は 以 下 の 様 な 箇 所 に 「 字輪
」 と い う 用 語 が 用 い ら れ て い る 。『
度
世 品 經 』菩
薩
有
十 事 經法
隨
時 。何
謂 爲 十 。 御 一 切法
。 使 入 一法
。 則 以 一法
。 化 一 切 法 。化
衆 生性
。 使 不 諍 訟 。 一 切 諸法
。皆
令
順 入 般若
波
羅
蜜 。 教 度彼
岸
。 } 切 諸法
。 入 於衆
生 。捨
諸法
想 。 使 一 切 法 。 入 於 一義
。演
無 數 劫 不 可 盡教
。以 一 切 法 。 入
無
央
數 百 千法
門 。 見 衆 生 心 。 悉 説 本末
。 又 一 切法
。 普 門輪
字 。 曉 了 隨時
。 一 切 諸 法 。 入 一法
門 。無
所
諍 訟 。宣
無 數 劫義
不 可 盡 。 一 切 諸法
。 入 諸 佛 道 。 以 化 衆 生 。 一 切佛
法 。 現 無央
數 。 諸 内 正 教 。 一 切諸
法 。( 6 )
悉
入 本 際 。無
量 網 内 。 現無
數
劫
。 衆 生盡
耗
。 是爲
十事
隨 時 也 。 「 大 方廣
佛
華 嚴 經 』 ( 六 十 華 嚴 )ω 我 唯
知
此菩
薩 所 言 不 虚法
門 。 云 何能
説
諸 菩 薩 行 。彼
諸 菩 薩 隨 順深
入 衆 生 一 切 相 海 。隨
順 深 入 衆 生 一切
施 設 海 。隨 順
深
入 諸名
號
海 。隨
順 深 入 諸 語言
海
。 隨 順 深 入諸
句 相續
海 。 隨 順 深 入 諸 解 説 句次
第
海 。 隨 順 深 入諸
解 説句
相
續
次
第海
隨 順 深論
如 來晦
隨 順 深 入 分 別 諸句
無
隨 順 深 入 一 切衆
生 諸 語 言 . 海 。 逮 得 一 切 圓滿
荘 嚴微
妙
音
聲
。 出 生 分 別 諸 文字
輪 。 一57
一NII-Electronic Library Service 智蜘学報第五十一輯
爾
時善
財 見 彼女
入 處寶
師 子座
。 顔 貌 端嚴
妙
相成
就 。 身如
眞
金 冒髪
紺 色 。 不長
不短
。 不白
不黒
。 身 分具
足 。 一( 8 )
切 欲 界 無 與 等
者
。 何 況 有 勝 。言
音 婉 妙 世無
倫 匹 。 善 知 字 輪 技 藝 諸 論 。周
復
次善
男 子 。我
鐵 生現
在 正念
法
門 。 名字
輪
法
門故
。 出 競 一 切 衆 生 等身
。 種種
方
便 。 隨 其 所應
。 除 滅 恐 怖而
爲( 9 )
説
法 。 令 發 阿耨
多
羅 三 藐 三菩
提
心 。 得 不 退轉
。 未 曾 失 時 。 時 彼童
子 告 善 財 言 。 善 男 子 。 我 得 菩 薩解
脱
名善
知 衆 藝 。 我 恒 唱持
入 此 解 脱根
本
之 字 。 唱 阿字
時
。 入 般 若波
羅ー
i
… ( 10 )蜜 門 。 門 中
略
】 唱 拏字
時
。 入 般若
波
羅蜜
門 。名
不 動字
輪 聚集
諸
億字
。 『 大 方 廣 佛 華嚴
經 』 ( 八 + 華 嚴 ) ω其
心復
入 十 種持
門 。 何 者爲
十
。 所謂
入佛
持
故
。得
不 可 説 佛 刹 微 塵 數諸
佛 護念
。 入法
持
故
。得
十 種 陀 羅 尼光
明無 盡
辯
才 。 入 行 持故
。 出 生 圓滿
殊 勝 諸 願 。 入力
持
故 。無
能 映 蔽無
能 摧 伏 。 入智
持故
。 所行
佛
法
無有
障
碍
。 入…
大 悲
持
故 。 轉於
不 退 清 淨法
輪
。 入 差 別善
巧
句
持
故
。 轉 一 切 文 字 輪 淨 一 切 法 門 地 。 入 師 手受
生法
持 故 。 開法
關鑰 出
欲
淤 泥 。 入 智力
持
故 。修
菩
薩 行 常 不休
息 。 入 善友
力
持
故 。令
無
邊
衆
生普
得
清 淨 。 入無
住
力
持故
。 入 不 可…
( 11 )
説 不 可 説 慶 大
劫
。 入 法 力持
故
。 以 無 碍 方便
智 。 知 一 切法
自 性 清淨
。 働 佛 子 。 菩 薩 摩訶
薩 。 有 十種
法
無 碍 用 。 何等
爲 十 。 所 謂知
一 切法
入 一法
。 一法
入 一 切 法 。而
亦 不 違 衆 生 心 解 無碍 用 。 從 般 若
波
羅 蜜 。 出 生 一 切 法 。 爲他
解
説 。 悉 令 開悟
無 碍 用 。 知 一 切 法離
文
字
。 而令
衆
生 。 皆 得懐
入無
礙用 。
知
一 切 法 入 一 相 。 而能
演
説
無
量 法 相 無 碍 用 。 知 一 切 法 離 言説
。能
爲 他 説無
邊法
門 無碍
用 。 於 一 切法
。善
轉
普
門 字 輪無
碍
用 。 以 一 切法
。 入 一 法 門 。 而 不 梱違
。於
不 可 説劫
。 説 不 窮盡
無
碍 用 。 以 一 切法
。悉
入 佛 法 。傘
諸衆
生 。皆
得
悟 解 無 碍用
。 知 … 切 法 。 無 有邊
際無
碍 絹 。 知 】 切 法 。 無 障碍
際
。 猶如
幻
網
。 無 量 差 別 。 於無
( 12 )
量
劫
。 爲 衆 生説
。 不 可 窮 盡無
碍 用 。 是爲
十 。 善 男子
。 我 唯知
此 菩 薩 妙音
陀
羅 尼光
明法
門 。如
諸 菩薩
摩
訶 薩 。 能普
入 一 切衆
生 種種
想 海 。 種種
施 設海
。 種種
N工工一Electronlc Llbrary『釋摩訶衍論』と密教 (その
1
)(遠藤) 名號
海 。種
種 語 言海
。 能普
入 説 一 切 深密
法句
海 。 説 一 切 究 竟 法句
海 。 説 一 所 縁中
有
一 切 三 世 藤縁
法
句 海 。 説 上法
句
海 。説
上 上法
句
海 。説
差別
法
句
海 。 説 一切
差 別法
句
海 。 能 普 入 一 切 世 間呪
衛
海
。 一 切 膏聲
荘 嚴輪
一 切ー
( 13 ) 差 劉 字輪
際 。 如 是功
徳 。 我今
云何
能
知能
説
。 ω 善 男 子 。我
得 菩 薩解
脱 。名
善 知 衆藝
。 我 恒 唱持
跳 之字
母 。 唱 阿 字 時 。 入 般 若 波羅
蜜 門 。名
以 菩薩
威 力 入 無 差−
露 ) 別境
界
。 門 中略
唱 拏字
畴
。 入 般 若波
羅蜜
門 。 名觀
察
字
輪
有
無蠱
諸
億字
。 「華
嚴
經 」 は 顕 教 の 中 でも
最 も 字輪
の 用 例 が認
め ら れ る経
典 で あ る が、 以 上 の 用 例 を 傭 瞰 し て み る と 、 『 度 世 晶 經 』 の記
述 は 『 八 十 華嚴
』 の と 同 じ 内 容 で あり
、 『 六 十 華 嚴 』 の ω@
D
は 『 八 十 華 嚴 』 の そ れ ぞ れ ω に対
応 し 、 要約
す る と 六 傍 に約
め る こ と が で き る 。 し か し 、 そ れ ら が そ れ ぞ れ の 文 脈 に於
い て 、 実 際 ど の よう
な意
味
合 い で 用 い ら れ て い る の か に つ い て は 、 経 の本
文 か ら だ け で は 十 分 に 明 ら か に す る こ と は で き な い 。 そ の た め、 「 華 嚴 經 」 に即
し て 字輪
を 理解
す
る こ と は 極 め て 園難
で あ姶
、 諸 註釈
を参
照 せざ
る を え な い こ と に な る が 、 そ も そ も本
論 は 『 釋 論 嘸 の字
輪
の 虚 来 を求
め よう
と す る も の で あ る か ら 、如
何
に 「華
嚴 經 」 が 中 国 で受
容 さ れ た か と い う点
に 比 重 を置
く べ き で あ り 、 「 華 嚴經
」 の 字輪
自 体 を 問 う こ と より
も 、寧
ろ 中国
の 諸 註 釈 に於
い て 字 輪 が如
何 に 理 解 さ れ て い た か と いう
こ と が 一義
的
な 問 題 と な っ て く る の で あ る 。賢
首 大 師法
蔵
は 『華
嚴
經 探 玄 記 』 で 次 の よ う に 述 べ て い る 。o
ゆ
第 四 生貴
住
中 五 分 同前
。 粉 舉法
勸修
中 。 國 通 城 騨 。 名自
在
者
良醫
於 此攝
化 自 在 故 以爲
名
。 又表
此 位 中種
姓 尊貴
生在
佛
家
。 是故
國名
自 在 。城
名咒
藥 者 。謂
於 魏 城 中放
三昧
光破
無 明 闇 。 如 咒 除鬼
病
。 説輪
字
法
破 餘煩
惱
。 ( 15 ∀ 如 藥療
餘
病
。説
輪
字
莊
厳
光 經 者 明 所説
教 法 。 有本
錯 作論
字
。 諸 徳 種種
解
釋
。 近 勘 兩 本 梵經
皆名
輪
字
。 請則
改 正 謂 三藏
解 云 。 輪有
多
義
。 一約
字
相 。楞
糎 中字
輪 圓 滿如
象
跡
等
。 二 約 所詮
。 盡 理 周備
如輪
滿 足 。 三約
用 。謂
下 所 言 不 虚 等有
一59
一NII-Electronic Library Service 智 山学 報第五 十一輯
i
( 16V 傳授
義
滅
惑
義
。 如法
輪等
。 劉輪
字 教 法 詮示
。 莊厳
光行
。 除 障 爲光
。證
理 爲 厳 。 法蔵
の 『華
嚴
經 探 玄 記 』 は 『 六 十 華 嚴 』 の 註釈
書 で あ る が 、 経 自体
に は 「 字輪
」 と いう
用 語 が 用 い ら れ て い な が ら も 、彼
は特
に そ の 語 を 取 り 上 げ る こ と は な く、 僅 か に 「 輪 字 」 に つ い て 解 釈 を 示 す の み で あ る 。 し か し 、 『 華 嚴經
探玄
記 』 の引
用 文 働 で は 、 輪掌
の 解 釈 に 際 し て 「字
輪
」 と い う 用語
を 用 い て い る 程 であ
る か ら 、 彼鼠
身
も輪
掌
と字
輪 の 用 語 の区
別
を 厳 密 に な し て い た よ う に は 思 わ れ な い 。 そ の た め 、彼
の字
輪 に 対 す る 解 釈 は 、 こ の 輪 字 の解
釈 を 通 し て 知 る こ と に な る 。 法蔵
は 先ず
、 m輪
字
荘 巌 光 經者
所
説 教 法 」 と 述 べ 、 「 輪字
荘嚴
光
經 」 は第
四 生 貴 住 の説
・ 王 の 説法
で あ る と し て い る 。次
に 、 日 照 一. 一蔵
の 解 釈 で あ る こ と を 断 っ て、 約 字相
・ 約 所 詮 ・ 約 用 と いう
三種
の 観 点 か ら 輪 字 を解
釈 し て い る 。 こ れ に依
る な ら 、引
用 文 ω で 「 説輪
宇
法
破餘
煩 惱 。 如 藥療
餘
病
。 」 と あ る の は 、約
用 の観
点 か ら 述 べ た も の と いう
こ と に な ろ う 。 こ れ は 慈 恩 大師
基 が 「 摧 壊義
」 と し て い る の と 同 じ 発想
に 基 づ く 解 釈 で あ る 、 ま た約
所
詮 の 場 合 も 、 理 の 円満
で あ る こ と を 喩 え て 輪 字 と表
現 し て い る とす
る の であ
る か ら、 あ る い は 慈 恩大
師 基 の 言う
「 周 圓義
」 と 重 ね て 見 る こ と も で き よ う 。 し か し 約字
相 で 「字
輪 圓滿
如
象
跡 」 と す る 解釈
は 、 『 華 嚴 經 探 玄記
』 以 前 の 文 献 に そ の痕
跡 を 全 く 見 出す
こ と は で き な い 。 ま た 、 文 中 で こ の 解 釈 が 「楞
伽 經 」 に基
づ く も の と し て 示 さ れ て は い て も 、 そ ( 17V の 一 文 は 現 行 の 「 楞 伽 經 」 に は 確 認 す る こ と が で き な い 。 「楞
伽 經 」 に は 現存
し な い 異 本 の 存在
が 考 え ら れ て い る た め 、 そ の異
本
に そ の よう
な 寵 述 が存
荘 し た の か も し れ な い が 、 現 時点
で は 、 約 字 相 の 解釈
の 根拠
を尋
ね る こ と は で き な い 。 こ の 日 照 三蔵
の 解 釈 は 文献
的 に は 『 華嚴
經探
玄 記 』 に 初 見 さ れ る と い う こ と に な る が 、 こ の 解釈
は法
蔵
以 後 、 彼 の 弟 子 で あ る静
法
寺 慧苑
に も 継 承 さ れ 、 更 に 澄 観 へ と 引 き継
が れ て い く 。 こ の 意 味 か ら 、 こ の 解釈
は華
厳
宗 に 於 け る 標 淮 的 理 解 と し て 捉 え る こ と が で き よう
。 し か し李
通 玄 は こ れ に 依 拠 す る こ と な く 、 法 蔵 ・ 慧苑
・澄
観
と は 異 な 一60
… N工工一Electronlc Llbraryる 見 解 を
示
し て い る 。彼
の 『 略釈
新 華 厳 経 修 行 次 第 決 疑 論 』 爲 説輪
字 品 者 。輪
者
圓
滿 之義
。 以 俗 間 名 字 説法
。 圓 滿清
淨
。 で は 次 の よう
に 述 べ て い る 。能
壞 生 死 諸 不善
業 。句
義
名 詮次
第
圓 滿 有 見 。 及聞
『釋摩 訶衍 論』と密 教 (その1
) (遠藤)受 持 之 者 。
得
溏 淨智
業
。 破 生 死 業 。 破 不 善 之 海 。 成 大善
海
。 破 愚 癡 海 。 成大
智 海 。破
貧
窮苦
惱
海 。 成 大福
徳
海
。=
句
義 。 主 伴相
成
。 無 失 道 意 。 一 一 句義
説 。鰍
ー
→ 一字
内 。 鰍韆
.轉
無 量 法 轍 。無
異世 問
諸
名 字法
。 便成
出 生 死法
。 能 變 世 間 法 。 以 爲 佛 法 。能
變
世 間 愚 癡 。 以爲
智 慧 。能
變 世 間雷
音 。 以 爲諸
佛
言
( 18 )
音 。
廣
説 無 量利
益
。略
而舉
之 。 思 之 可 見 。彼
は 先ず
、 「 輪 」 と は 円満
の 義 であ
る と し て い る 。 こ の 「輪
」 を 円 満 の 意 と し て解
す る こ と は 、 慈 恩 大師
基 の 「周
圜義
」 や 日 照… 一. 蔵 の 「約
所
詮
」 の 解 釈 と 岡 様 の 発 想 に 基 づ く も の で あ る と 理 解 で き る 。 ま た 、傍
線
部 を 見 て み る と 、 そ れ は 慈 恩 大 師 の 言う
「摧
壞
義 」 や 日 照 三 藏 の 「 約 用 」 の解
釈
に 相 当 す る も の で あ る こ と が 知 ら れ る 。 し か し 、波
線
部
に つ い て は こ れ ま で の解
釈 に 見受
け ら れ な い 内容
が 示 さ れ て い る 。 こ の 部 分 は 実 に李
通 玄 の輪
字解
釈 の特
徴
と な っ て い る の で あ る 。 『 新華
厳
経
論
』 で は次
の よう
に 述 べ て い る 。第
四 生貴
住 。 明 封治
世間
法 鋼 及 生 死 煩 關 不 自 在 障 令 自在
故
。瑚
如善
財 於 市 肆 之 上 見彌
伽 長 者説
輪字
經 。 即表
生死 市 躑 鬧 而 常
寂
。於
一 一 字 猶 如車
輪 。 一多
圓
滿 互 體 相成
。又
如
帝釋
寶 網 互爲
縁 起 。映
徹
重 重 。 一字
之 中有
無
盡( 19 )
字
句
。爲
世 間名
句
文
身
。 引 諸 未學
以 成 教 軌 。こ こ で は 「 輪 字 」 を 「
車
輪
」 に 準 え 、 一 々 の字
は 「 一多
圓滿
互體
相 成 」 し て い る も の と し 、 延 い て は 「 又如
帝
釋寶
網
互 爲 縁 起 映 徹 重 重 」 と 述 べ 、 「 輪 字 」 は 一字
の 内 に無
尽
の 字 句 を 有す
る 様 子 を表
現 し た も の と し て解
釈
し て い る 。但
し 、 こ の 重 重 無 尽 と さ れ る 輪字
は 、 密 教 で 言う
真 言 の よう
な レ ベ ル の 言 語 な の で は な く 、先
の 『 略 釈新
華
厳
経修
行
次第
決
疑
論 』 中 の破
線
部 の よう
に 、 量 間 に 通 用 す る 言語
に卸
し て 語 ら れ て い る も の と 理 解 し て お か ね ば な ら ハ 20} な い 。 一61
一NII-Electronic Library Service 智 山学 報第五十一輯
二
『
釋
論
』に
於
け
る
字
輪
こ れ ま で 顕 教 に 於 け る字
輪 ( 輪 字 ) の 用法
を概
観 し て き た が 、 そ れ で は い て い る の で あ ろう
か 。 『釋
論 』 の字
輪 ( 輪 字 ) に は、 以 下 の 五 種 の 用 例 が挙
げ ら れ る 。虚 空 輪 字
大 虚 空 字 輪
邪 字 輪 ・ 正 字 輪
字 輪 服 膺 因 縁
標 竭 那 羅
字
輪 『 釋論
』 で は そ れ を ど の よ う な意
味
で 用 一62
一N工工一Electronlc Llbrary Servlce
虚 空
輪
字
『 釋論
』 で は 「虚
空 輪 字 」 を 以 下 の 箇 所 に於
い て 述 べ て い る 。 字 有 二種
。 云 何 爲 二 。 一 者 依 聲 字 。 二 者 依 空字
。 楞 伽 契經
中 作如
是 説大
慧
。 復 次字
身
者 。 謂 聲 長短
音韻
高 下 名 爲 字身
。大
海
契 經 中 作 如 是 説 。 佛 告 文 殊 師 利 言 。 汝 所 前 間 。 云 何 名 爲虚
空 輪 字 者 。譬
如 虚 空 中 飛鳥
。 踰 明 耀 時( 21 )
出 十
種
和
聲
。 虚 空 輪 字 應 如 是 觀 故 。 如 是 二 中各
初 一 種 。 不能
詮表
甚
深 眞 理 。各
後 一種
得
詮眞
理 故 。 こ こ で は 、真
理 を 表 す こ と の で き な い 「 依 聲 字 」 と 、 そ れ を表
す こ と の でき
る 「 依空
字
」 の 二 種 の字
に つ い て 述 べ て お り 、 そ れ ぞ れ 『 楞 伽契
經 』 と 『大
海
契
經 』 を 引 用 し て 、 そ の内
容
を 説 明 し て い る 。 こ の 内 、 『 大 海 契 經 』 の『釋摩訶 衍論 』と密教 (その
1
) (遠藤) 説 とす
る 部 分 に 「虚
空 輪 字 」 と いう
用 語 が 用 い ら れ て い る 。 つ ま り依
空 字 が 虚 空 輪字
に 相当
す
る も の であ
る と 考 え て い る の で あ る 。 こ の 虚 空輪
字
は 「 空 を 飛 ぶ 鳥 が 明耀
( 太 陽 ) を 遮 る 時 に 十 種 の和
声
を 出 す よう
な も の だ 」 と 説 明 さ れ て い る が、 こ の譬
喩 が 具体
的 に ど の よ う な イ メ ー ジ の も と で 語 ら れ て い る の か 、 『 釋 論 』 本文
か ら だ け で は 十分
に 把握
す る こ と が で き な い 。 そ れ で は 、 『 釋 論 』 の註
釈 書 で は こ れ を ど の よ う に考
え て い る の だ ろう
か 。 聖 法 の 『 釋 摩 訶衍
論
記 』 で は 「 言 十 聲者
、 謂 飛 鳥 一踰
明
耀 時、 十塵
相
觸 出微
音故
、 於 彼 一 塵各
一 音 、 是故
言 出 十 ( 22 )種
和
聲 也 。 」 と 言 い 、鳥
と 十 塵 の摩
擦 に よ っ て 十種
の 和声
が 生 じ る と し て い る 。 ま た 法悟
の 『 釋摩
訶衍
論
賛
玄
疏 』 ( 23 ) と 志 福 の 『 釋 摩 訶衍
論
通 玄 鈔 」 で は 極 め て簡
潔
に そ れ ぞ れ 「大
海
經
中
證 依 空 字 。眞
猶
虚 空 、 字若
鳥
也 。 」 、 「譬
如 虚 ( 24 ) 空等
者 、眞
似 虚空
、字
如鳥
鳴
也 。 」 と 言 い 、 真 理 を 虚 空 に 、 字 を 鳥 ( 或 い は 鳥 鳴 ) に 配 し て い る 。 普 観 の 『 釋摩
訶 衍 ( 25 ) 論記
』 で は 「 日 輪 照 爍説
名 明 曜 。 飛鳥
踰 越則
蔽 其 形 。身
雖
隠 空 、聲
傳 于 下 。 世 謂 此 聲 從 空 而 出 。 虚 空 字輪
亦 復 如 是 。 」 と 述 べ 、 「 鳥 が 太 陽 を遮
る 時 に、 そ の姿
は 見 え な く な る が 、 そ の声
は 下 界 に も 届 く た め 、 世 間 で は そ の 声 を 虚 空 の 声 だ と 思 っ て い る 。 虚 空輪
字
は實
に こ の よ う な も の で あ る 。 」 と 明 か し て い る 。現
存
す
る 中 国撰
述 の 註釈
書
の 中 か ら 、 当 該 箇 所 の 註 釈 が 付 さ れ て い る も の に つ い て 概 観 し て み た が、 そ の何
れ の解
釈も
極
め て 断片
的 で 、 虚 空 輪 字 に つ い て 直 接 に 語 る こ と が 無 く 、 ま た そ こ で 語 ら れ る 内 容 も 】 定 し て い な い 。 そ れ故
、 こ れ ら を た よ り に し て も 、 虚 空輪
字
の 意 味 す る 所 を特
定
す る こ と は 不 可 能 だ と 言 わ ね ば な る ま い 。 こ の よう
に 註釈
書
を 参 照 し て も 、 『 大 海 契 經 』 の引
用文
の範
囲
内 で 虚 空 輪 字 を 理 解 す る こ と は極
め て 困 難 で あ る た め 、 こ こ で 一度
立 ち 戻 っ て 、 そ れ と 同 義 と さ れ る依
空字
か ら 内容
を 探 っ て み る よ り 他 に 方 策 は 無 い だ ろう
。 『 釋 論 』 で は 「字
有
二種
」 と 述 べ 、依
空 字 と 並 ん で 依 声字
が 挙 げ ら れ て い る 。依
声字
の 経 証 と し て 『 楞 伽契
經 』 の 「謂
聲
長 短音
韻
高 下名
爲
字
身 」 が 示 さ れ て い る が 、 こ の こ と か ら す る と依
声 字 と は 「声
に 依 拠 し た字
」 と 理 解す
る こ と 一63
一NII-Electronic Library Service 智 山 学報 第五 十一輯 が で き る 。 な れ ば 、
依
空 字 も そ れ と 同 様 に 「空
に 依 拠 し た 字 」 と 読 み取
る べ き で あ ろ う 。 聖法
や普
観 の解
釈 も 、 こ れ に 即 し て 眺 め て み る と 、 確 か に 「 空 に依
拠 し た 字 」 と いう
在
り 方 が そ こ に 窺 わ れ る 。 し か し 、 両 者 の 内 容 は 全 く 異 な っ て お り 、 何 れ の 解 釈 が 適 当 で あ る と す べ き か 、 必ず
し も 決 す る こ と が で き な い 。 『 釋 論 』 に 於 い て 虚 空 輪 字 が 如 何 な る 意 味 に お い て 語 ら れ て い る の か 、 そ の 特 定 を試
み て も 、僅
か に 以 上 の よ う な 内 容 が 知 ら れ る の み で あ る 。 し か し 、 虚 空 輪字
が 「 空 」 と極
め て密
接 な 関 係 に あ る こ と は 確実
で あ り 、 こ の こ と か ら 、 従 来 説 と の 比較
の 上 で、 「 般 若經
」系
の 輪 字 と の 関 係 性 が先
ず 疑 わ れ て く る の で あ る 。 「般
若 經 」 系 の輪
宇 は 先 に 見 て き た よ う に 真 如 理 のあ
ら ゆ る 法 門 の 教 で あ り 、 そ れ に 対 し て 『 釋 論 』 の 虚 空 輪 字 は 「 真 理 を あ ら わ しう
る 」 字 で あ り、 両 者 が 直 ち に 対 応 す る も の であ
る か は 明確
で は な い 。 し か し 『 釋 論 』 で は 真 理 を表
示
しう
る説
と し て 「 如如
如 説 」 、或
い は 「 如 義 語 」 と い う も の を挙
げ
て い る が 、 こ れ に 関 し て 「 金剛
三 昧 契 經 中 作如
是 説 。舎
利 弗 言 。 一 切 萬法
皆
悉 言 文 。 言 文 之 相即
非 爲義
。如
實
之 義 不 可 言 説 。 今 者 如 來 云 何 説 法 。 佛 言 我 説 法 者 。 以 汝衆
生 在 生 説 故 。 説 不 可 説 。 是 故 説之
。 我 所説
者義
語 非文
。衆
生 説 者 文 語 非義
。 非義
語 者 皆 悉 空 無 。 空 無 之 言 無 言 於義
。 不 言義
者 皆 是 妄 語 。 如義
語 者實
空 不 空 。 空實
不 實 。離
於 二 相 中 間 不 中 。 不 中 之法
離 於 三相
。 不 見 ( 26 ) 處 所 如如
如 説故
。 」 と 述 べ て お れ ば 、 こ の 如義
語 と い う 用 語 は 仏 陀 の 説 法 に即
し て考
え ら れ て お り、 「真
理 を あ ら わ し う る 」 説 ( 語 ) に 「 教 」 と し て の 性格
が見
受 け ら れ る 。 「真
理 を あ ら わ し う る 」 と いう
こ と が 、密
教 で 言う
真
言 の よう
な 特 殊 な 言 語 に 関 わ る も の で は な く 、 仏陀
の 説 法 に 就 い て 言 わ れ て い る こ と で あ れ ば 、 如義
語 と 並 ん で 「真
理 を あ ら わ しう
る 」 も の と し て 挙げ
ら れ た 虚 空輪
字 に つ い て も そ れ と 同 一 線 上 に 考 え る べ き で あ ろ う 。 『 釋 論 』 の 「 畢竟
平 等 無 有 變 異 不 可破
壊 者 。 顯 示 三 離 之 功 徳 故 謂 一 切差
別 以 四 種 妄 言 説 。而
爲
根
本 而 轉 。 一 切外
道 九種
變
論 十種
異 執 。 唯 以 名字
爲本
而 轉 。 一 切煩
惱 破 障 一 切 所 知 壊 障 。 唯 以 心 品 爲依
轉
故
。 而 眞 體 中離
三 相故
滿 三 ( 27 ) 徳 耳 。 」 と す る箇
所 に 注 目 す る と、 こ れ は 真如
體 が 言説
相 ・名
字
相 ・ 心 縁 相 を 離 れ て い る こ と を 明 か し て い る が 、 一64
一 N工工一Electronlc Llbrary「釋摩訶 衍論 』と密 教 (その
1
) (遠藤) こ こ で離
れ る と さ れ る 言 説 相 は 四 つ の 妄言
説 で あ り 、 如義
言
説 に つ い て は 除外
さ れ て い る 。 な れ ば ⊃ 切外
道 九 種 變 論十
種
異 執 」 と さ れ る 名 字 と は 、字
に つ い て は依
声 字 が 相 当 す る も の と考
え ら れ る 。 こ の 「 外 道 九種
變 論 」 は 『 楞 伽 阿 跋多
羅
寶 經 』 に 見 ら れ る 言葉
で 、 そ こ で は 「復
次 大 慧 。 外 道 有 九種
轉 變論
。 外 道轉
變 見 生 所 謂 形 處轉
變
。 相 轉 變 。 因轉
變
。 成轉
變 。見
轉 變 。性
轉
變 。縁
分 明 轉變
。 所 作 分 明 轉 變 。事
轉 變 。 大 慧 。 是 名 九種
轉
變 見 一 切外
道 因 是 起 有無
生轉
變 論 。 云 何形
處 轉 變 。 謂 形 處異
見 。 譬如
金 變 作諸
器 物 。 則 有 種 種形
處 顯 現 。 非 金性
變 。 一 切性
變
亦
復 如 是 。或
有
外
道 作如
是 妄 想 。 乃 至事
轉
變 妄 想 。彼
非如
非
異 妄想
故 。 如 是 一 切 性轉
變 。 當知
如 乳酪
酒 果等
熟 。外
道 轉 變妄
想 。 彼亦
無 有 轉 變 。若
有 若 無自
心 現 外 性 非 性 。大
慧 。 如 是 凡 愚 衆 生 自 妄 想修
習 生 。大
慧 。無
有
法若
生若
滅
。 如 見 ( 認 ) 幻 夢 色 生 。 」 と 述 べ ら れ て い る 。 以 上 の 記 述 に よ れ ば 「 外 道 九 種 變 論 」 の 原 因 は 「 自妄
想 修 習 生 」 に 在 る こ と が 了解
さ れ る が 、 こ の こ と は そ の 記 述 よ り 前 の部
分 で 「如
縁 言 説 義 計 著 。 堕 建 立 及 誹謗
見 。 異 建 立 異 妄 想 。如
幻
種
種 妄( 29 ) 想 現 。 譬
如
種 種 幻凡
愚 衆 生 作 異 妄 想 。 非 聖 賢也
。 」 と し て い る箇
所 と 深 く 関 わ り を 有 し て い る 。 つ ま り 「外
道
九 種變
論 」 の 原 因 は 「言
葉 通 り に 義 を計
著 す る 」 こ と に在
る と いう
こ と で あ る 。 こ の こ と か ら 、依
声
字 と は 「言
葉
通 り に 義 が 計著
さ れ た字
」 で あ る こ と が 予 想 さ れ よ う 。 『 釋 論 」 で は依
声字
の 経証
と し て 「 謂 聲 長 短 音 韻高
下 名 爲字
身
」 を挙
げ て い る が 、 こ の 一 文 は 現 行 の 『 入 楞 伽經
』 に 認 め ら れ 、 そ こ で は 続 け て 「名
身與
句
身及
字身
差 別凡
夫 癡 ( 30 ) 計 著如
象
溺 深 泥 」 と 述 べ 、 「字
身
差 別 」 は 「 凡夫
癡 計 著 」 さ れ る も の と し て 位 置 づ け ら れ て お り 、 こ の こ と か ら も 先 の 予 想 に 齟 齬 は な か ろ う 。 ま た 、 こ の 言葉
と義
に つ い て 『 楞 伽 阿 跋多
羅寶
經
』 で は 、 「 云 何 爲 語 。謂
言字
妄 想 和 合 。 依 咽喉
脣
舌齒
断 頬 輔 。 因 彼 我 言 説 妄想
習
氣
計 著 生 。 是名
爲 語 。 大 慧 。 云何
爲
義 。 謂 離 一切
妄 想 相 言説
相
。 是 ( 31 ) 名 爲義
。 」 と 述 べ て お り、 依 声 字 は そ こ で 言う
「 語 」 の範
疇 に 収 め ら れ る こ と に な ろう
。 経 で は 更 に こ の 両者
の 関( 32 ) 係 に つ い て 「 觀 語
與
義
非 異 非 不 異 。 觀 義 與 語 亦 復 如 是 。若
語異
義
者
。 則 不 因 語 辯 義 。而
以 語 入義
如灯
照 色 。 」 と 述 べ 、 語 を た よ り と し な け れ ば 「 離 一 切 妄 想 相 言 説相
」 な る 義 ( 仏 陀 の 説 法 の 真 意 ) に 入 れ な い と し て お り 、 こ れ が 「 真 一65
一NII-Electronic Library Service 智 山学 報第五十一輯 理 を
表
しう
る 」 字 で あ る 依 空 字 に 相当
す る も の と 考 え ら れ る 。 先 の 依 声字
と 対 照 し て 換 言 す れ ば 、 「 言 葉 通 り に義
が 計著
さ れ な い 字 」 と 言 え よう
が 、 「 依 空字
」 と いう
表 現 に 順 じ て 言う
な ら ば、 「 言 葉 に 即 し て実
体 視 さ れ て い な い〔 33 ) 字 」 と い
う
こ と に な ろ う 。 ま た 「 不 生 不 滅自
性
涅
槃
三 乘 一 乘 心自
性
等
。 如 縁 言 説義
計
著 。 堕建
立 及 誹 謗 見 。 」 と 述 べ 、 仏 説も
言葉
通 り に 義 を 計 著 し た ら 建 立 や誹
謗
見 に 堕 落 す る と し て お り 、 同 じ 言 葉 で あ っ て も 邪 見 に 堕 す る か 、 或 い は 真意
を 捉 え る か と い っ た 相 違 が 有 り 、 こ れ は 偏 に そ の 語 を 理 解 す る 側 に 委 ね ら れ て い る と いう
こ と に な る 。 以 上 の考
察
か ら 、 依 空 字 が 「 真 理 を あ ら わ しう
る 」 字 で あ る こ と は 、 言 葉 に 即 し て 実 体視
さ れ な い 限 り に 於 い て 成 立 す る も の で あ り 、 ま た 、 そ の 真 理 と は 仏陀
の 教 説 に よ り 示 さ れ た 真 理 で あ る こ と が 確 認 さ れ た が 、 そ こ に 「 般 若 經 」 系 の 輪 字 と の 類 似 性 が 明 瞭 に 見 出 さ れ よう
。 『大
海 契 經 』 は如
何 な る 経 録 に も そ の存
在
が知
ら れず
、 そ れ は 架 空 経 典 で あ る こ と が 推 測 さ れ る の で あ り 、 な れ ば 『 釋論
』 の作
者 は依
空 字 を わ ざ わ ざ 「 虚 空 輪 字 」 と 換言
し た こ と に な る が 、 こ れ は 完 全 に 独 創 的 な 表 現 と し て捉
え る べ き で は な く 、 「般
若
經 」系
の輪
字
か ら 、 そ の 表 現 を拝
借 し た も の と考
え る の が 妥 当 で あ ろう
。 一66
一N工工一Electronlc Llbrary Servlce
大 虚 空 字 輪 「 大 虚 空
字
輪 」 と い う語
は 、 『 釋 論 』 の 以 下 の 箇 所 に て 用 い ら れ て い る 。言 坐 其 座 中 因 縁 者 。 謂
若
爲修
彼 止 輸 門 。當
具 十 事 坐 其 座 中 。 云何
爲
十 。 一 者 足 等 事 。 兩 膝 末 中其
兩 母指
。 互 相契
當
令 無差
故
。 二 者 膝 等事
。 兩 膝 平攝
令 無 差故
。 三 者 腰 端事
。其
腰 端 直 無 戝 顱 故 。 四 者 手 累事
。 兩手
相
對 右 手爲
下 左手
爲
上 。左
手 爲 下 右手
爲 上 。經
一 日 已 互 互易
變 不 忘失
故
。亦
復 其 手 置根
上 故 。 五 者 頚端
事 。 其 頚 之 質 端直
不 動定
建
立 故 。 六 者 面 端事
。 其 面 相 貌 不 仰 不 俯令
平 相 故 。 七者
口 相事
。 其 口 之 相 不 廣 不 狹 開 中 間故
。 八 者鼻
相
事 。 出其
氣息
令
無 差 違 不 出 一故
。 九 者 眼 相事
。其
眼根
量 不 上不
下 平等
舒 故 。 十 者 止 眼事
。 置 其 眼處
安
置 大 虚『釋 摩訶 衍論』 と密教 (その
1
) (遠 藤)( 34 ) 空 字 輪 中 。 恒 不 離 故 。 是
名
爲 十 。 こ こ で は 、 止 を 修 行 す る際
の 座 り 方 に つ い て 解 説 し て い る 。 「 釋 論 』 に は 法 蔵 の 『 義 記 」 か ら の 影 響 が 多 く 見 受 け ら れ る が 、 『義
記 』 で は 専 ら 『 釋禪
波 羅 蜜 次 第 法 門 』 の 説 を 引 用 し 、 こ の 箇 所 の 解 釈 に 充 て て い る 。 そ こ で は 次 の よう
に 述 べ て い る 。 調身
者
。先
安 坐 靜 處 。毎
令
安
穩 久 久 無妨
。 次當
正 脚或
全 跏 或半
跏 。 若 全 跏者
。 先 以 右 脚 置 左 髀 上 。牽
来 近身
。令
脚指
與髀
斉
。 次 解 緩衣
帶
使
周 正 。 不令
坐 時 脱 落 。次
以 左手
置右
掌 上 。 累手
相 對 頓置
脚 上 。 牽 来 近身
。當
心 而 安 。次
當 正身
。 先 挺 動 其身
。 開 諸支
節作
七 八 反 。 如自
按
摩
法
。亦
勿
令 手 足 差 異 。 正身
端直
令
脊 骨相
對
。 勿 曲 勿聾
。次
正 頭頸
。 令鼻
與 臍 相 對 。 不偏
不斜
。 不 低不
昂
。 平 面 正 住 。次
以 舌 約 上 齶 。 次 閉 眼 不令
全 合 。廣
如 天 台 顎( 35 )
禪
師 二 卷 止觀
中 説 也 。 以 上 の 文 を 眺 め て み る と 、 『釋
論 』 の 坐 其 座 中 因 縁 と 共 通 す る内
容 が散
見
さ れ る が 、 『義
記
』 で は 眼 に 関 す る 項 目 に つ い て 述 べ て お ら ず 、 そ の た め 『 釋 論 』 の 「 止 眼事
」 に類
す
る 内 容 も 見 出す
こ と は で き な い 。 し か し 、 『 釋 禪 波( 36 ) 羅
蜜
次
第
法 門 』 に直
接 あ た っ て見
る と 、 そ こ に は 「 次 當 閉 眼 。 纔令
斷 外光
而 已 」 と あ り 、 「 光 が 目 に 入 ら な い 程 度 に 眼 を閉
じ よ 」 と し て い る 。 こ れ に 対 し て 『 釋 論 』 で は 「 眼 相事
」 で 「 其 眼 根 量 不 上 不 下平
等
舒故
」 と し 、 続 い て 「 止 眼 事 」 に て 「 置 其眼
處
安 置大
虚 空 字輪
中 」 と 述 べ て い る の で あ る か ら 、 目 は 閉 じ ら れ て い な い も の と考
え ね ば な らず
、 『義
記 』 に も 『釋
禪 波 羅蜜
次
第法
門 』 に も共
通 し な い 内容
が 示 さ れ て い る と いう
こ と に な る 。 こ の こ と か ら 、 『 釋 論 』 の 眼 に 関す
る項
目 は 相当
に独
自 な 内 容 を 有 す る も の と 言 え よう
。 さ て 、 こ こ で 問 題 と な る 第十
の 「 止 眼事
」 であ
る が 、 そ こ で は 「 置 其 眼 處安
置 大 虚 空字
輪 中 不離
故 。 」 と 述 べ 、 視 線 を大
虚 空 字 輪 に定
め よ と指
示
し て い る 。 し か し こ の大
虚 空 字 輪 と は 何 を 意 味 し て い る も の で あ る の か は 、 全 く 本 文 中 で解
説 さ れ て お ら ず 、 ど の よ う に 理 解す
べ き か 甚 だ 明瞭
で は な い 。 『 釋 論 」 の 註釈
書 を参
照 し て み て も 、 僅 一67
一NII-Electronic Library Service 智 虜学 報第五十 一輯 か に