エストニア共和国国際私法の改正について―新旧法 の比較検討―
著者 笠原 俊宏
著者別名 Kasahara Toshihiro
雑誌名 東洋法学
巻 56
号 3
ページ 127‑167
発行年 2013‑03
URL http://id.nii.ac.jp/1060/00004103/
目 次一 前書き 七 契約外債務二 改正の経緯 八 婚姻関係三 総則 九 親子関係四 人事 一〇 相続五 物権 一一 後書き六 契約 (参考資料)エストニア共和国国際私法
一 前書き 一九九一年のソビエト連邦崩壊に伴うエストニア共和国の分離・独立後における同共和国国際私法立法である「民法典の一般原則に関する法律」(一九九四年六月二八日国会可決、一九九四年七月一三日エストニア共和国大統領裁
決第三八三号公布、官報一九九四年第一部第五三号第八八九項、以下、「旧法」とする)については、乏しい外国資料 《研究ノート》
エストニア共和国国際私法の改正について
― 新旧法の比較検討 ―
笠 原 俊 宏
(Estland: Neues IPR―Law on the general principles of the Civil Code, Praxis des internationalen Privat- und Verfahrens- rechts 1996, S.439ff.)に依拠されながらも、既に紹介されているところである(拙稿「外国国際私法立法に関する研究
ノート(6)―エストニアの国際私法規定(一九九四年)」大阪国際大学紀要国際研究論叢一一巻四号八七頁以下)。それにより、同共和国における新たな法体系の整備における特徴として、ソビエト連邦による併合前への懐旧的な回帰を匂わせつつ、総体的には、当事者利益の保護に向けられた択一的連結の規則、及び、当事者意思の尊重としての当事者自治の立場が導入されており、欧州諸国の国際私法立法に見られる趨勢に従っていることが指摘され、また、それとともに、その新しい国際私法立法において徹底した住所地法主義が採用されている点において、同じくバルト海沿岸諸国であるフィンランドやスウェーデン等の北欧型国際私法と共通する点が見られることも、その特徴として指摘されたところである(拙稿・前掲九〇頁)。
しかし、その後、二〇〇二年三月二七日、エストニア共和国国際私法における更なる展開として、新しい国際私法立法「国際私法に関する法令」(以下、「新法」とする)が成立して、それが同年七月一日から施行され、その後、二〇〇四年四月二二日及び二〇〇九年一一月一八日の二度の改正を経て、現在に至っている。形式的には、旧法が、「民法典の一般原則に関する法律」の一部(第五部「国際私法」第一〇章ないし第一五章)として、一般規定、人及び法律行為、家族法、物権、相続権、債務法(契約、不法行為及び不当利得)に関する四四箇条が置かれていたのに対して、新法は、独立した国際私法典として編成され、より精緻化された六七箇条によって構成されている。
一〇年間も経たずに実行された大改正は、如何なる目的をもってなされたものであるか、そして、それにより、如何なる変更がもたらされているか。本稿においては、新法と旧法とを比較することにより、それらの点について解明し、そして、わが国際私法の今後のあり方を探究するための一つの手懸かりとしたい。
二 改正の経緯 エストニアの国際私法立法の歴史を遡れば、先ず、一八六四年のバルチック私法典(「リヴォニア、エストニア及
びクールランド民事立法」)中の諸規定がそれである(A. Makarov, Quellen des internationalen Privatrechts, 2 Aufl., Bd.
I (Gesetzestexte), 1953, 16. Estland(LʼEstonie), S.1.)。同法典は、旧プロシア・ラント普通法と類似する内容を有するものであり、一八六五年に施行された。その後、一九一八年にエストニアが独立した後、エストニア民法典の制定が着手された。一九四〇年には、前記バルチック私法典、ドイツ民法典、スイス民法典に倣った草案が完成されたが、同年、エストニアがソビエト連邦に併合されたため、その草案は成立することなく、再び独立するまで施行されていた国際私法規則は、エストニア・ソビエト社会主義共和国民法典(一九六四年六月一二日採択、一九六五年
一月一日施行)中のそれであった(Karin Sein, The development of private international law in Estonia, Yearbook of pri-
vate international law 2008, p.459 et seq.)。一九九一年の独立後、新しいエストニア民事法の起草が開始されたが、その際、指針とされたのは、一九九二年に、エストニア共和国最高会議によって示された「法体系の準備は、ソビエトによる占領前のエストニアにおいて適用された原則によって導かれなければならない」という命令であり、従って、バルチック・ドイツ法の一部を構成していたエストニア法においては、ドイツ法系の特徴が原則となっていた
(Sein, op. cit., p.460.)。かような情況のもとに、エストニア国際私法の法源として、一九九四年に採択されたのが旧法であり、また、それとともに、ハーグ国際私法条約や国際物品売買契約に関する国連条約(ウィーン売買条約)等の条約がある(Sein, op. cit., p.460.)。
しかし、旧法については、その採択の当時から、暫定的立法であるという認識が抱かれており、他の民事法の分
野の改正が推進されるに従い、旧法の現代化の要請も高まり、その結果、国際私法規定が独立した法典として改正されることが決定され、一九九七年には、法務省の作業班が新しい国際私法の起草を開始した。そして、その際にも、エストニア法の伝統に従い、ドイツ法、オーストリア法、スイス法が手本とされた(Sein, op. cit., p.460.)。作業班においては、当初、抵触規則の他、国際的裁判管轄規則及び外国裁判承認・執行規則を含むスイス国際私法に倣うことが考慮されたが、最終的に、新法は、ドイツ法及びオーストリア法に倣っており、国際民事訴訟法問題に関しては、主として、二〇〇五年のエストニア民事訴訟法典、条約、欧州連合規則によって規律されるに至っている
(Sein, op. cit., p.461.)。
三 総則 先ず、新法第一条は、法令の適用範囲として、「法律関係が一国より多くの法律と関連する場合」とする。これに相応する旧法第一二四条第一項は、より具体的に、⑴法律関係の当事者の一方でも外国人である場合、⑵法律関係に関連する物がエストニア共和国の領域外に所在する場合、⑶法律関係がエストニア共和国の領域外において発生、変更又は終了する場合を列記していた。又、同条第二項は、国の定義として、「独立の法体系が実施されている領域をいう。」と定めていたが、この規定は、未承認国家法の適用の正当性の根拠として援用することができると見られる規定であった。
旧法第一二五条が、「外国法の適用の根拠」として、「本法、他の何れかのエストニア法、エストニアと外国との間において締結された合意、エストニアにおいて認められた国際的慣行並びに法律、外国との協定又は慣行に反しない法律行為によって規定されているときは、外国法が法律関係に適用されるものとする。」と定めていた規定
は、新法第二条第一項においては、寧ろ、国際私法の強行性を明らかにする規定となっている。
次に、反致に関する旧法第一二六条第一項が、「本法又は他の何れかのエストニア法が外国法の適用を規定し、又、その外国法がエストニア法の適用を規定するときは、エストニア法が適用されるものとする。」とする規定は、新法第六条第一項と同様である。それに対して、旧法第一二六条第二項が、「本法又は他の何れかのエストニア法が外国法の適用を規定し、又、その外国法が第三国法の適用を規定するときは、エストニア法が適用されるものとする。」と定めて、転致を禁止していたことは、新法第六条第二項においても同様であるが、その場合に、エストニア法に依るべきとした立場は採られていない。しかし、学説上の解釈として、同様に、エストニア法に依るものとされている(Sein, op. cit., p.461.)。
又、旧法第一二七条が、「外国法の解釈」として、「エストニアにおける外国法の解釈にあたっては、当該国における同法の解釈及び適用上の実務から導かれるものとする。」(第一項)とし、「外国法に基づく請求を行なう者は、同法の条文又は同法の適用に関連する他の情報を提供することを求められることができる。」(第二項)とし、「外国法の解釈に関する情報を得るため、裁判所、仲裁裁判所及び中央政府又は地方政府の組織は、法務省、外務省に依頼するか、又は、専門家を利用することができる。」(第三項)とし、そして、「外国法の内容を見出すことができないときは、エストニア法が適用されるものとする。」(第四項)とする諸規定は、新法第四条において、ほぼ同一の内容の規定として受け継がれている。
更に、旧法第一二八条が、「外国法の適用に関する制限」として、「外国法がエストニア法、組織の秩序又は善良な道徳に反するとき、それは適用されてはならず、又、同法から生じる権利及び義務はエストニアにおいて有効とは見做されない。その場合においては、エストニア法が適用されるものとする。」とする規定の公序概念は、新法
第七条において、「エストニア法の主要な原則(公の秩序)」というように、表現が変更されている。しかし、エストニア法が補充法とされることについては、変わりはない。
尚、旧法第一二九条は、「外国との協定の適用可能性」として、「エストニアと外国との間において締結された協定が民法典の一般原則に関する法律と異なる規定を含むときは、外国との協定上の規定が適用されるものとする。」と規定していたが、それに相当する規定は新法には置かれていない。それに対して、新法第三条は、不統一法国法の指定に関する規定を新設し、間接指定主義を原則としながら、密接関連性の原則に依拠した直接指定をもって補充している。また、新法には、法律行為の方式に関する第八条、代理に関する第九条等が追加されている。これらの規定は、旧法上、それぞれ、法律行為、債務法の章に置かれていた規定である。
四 人事 先ず、「人」について、旧法第一三〇条は、「外国人」の概念として、「本法において使用されている意味における外国人とは、住所がエストニア外にある自然人、又は、所在地がエストニア外にある法人をいう。」と規定していたが、それに相当する規定は、新法には置かれていない。それに対して、自然人の居所に関して新設された新法第一〇条は、エストニア法上の属人法決定基準である居所につき、領土法説の立場から、エストニア法上の概念が基準とされることを規定している。住所主義はエストニア法において一貫して採用されてきた立場である。それは前出バルチック私法典以来、一九四〇年草案、そして、旧法においても同様であり、部分的に国籍主義が採用されたのは、ソビエト連邦に併合された時期のみである(Sein, op. cit., p.462.)。かようにして、旧法第一三一条第一項は、「外国自然人の権利能力及び法律行為能力は、その者の住所地によって確定されるものとする。」と規定してい
たが、これは、新法第一二条第一項に受け継がれている。
それに対して、自然人の国籍は、新法上、相続の準拠法選択(新法第二五条)、及び、婚姻の一般的効力の準拠法決定の補則(新法第五七条第二項)において採用されているが、その概念の決定については、準拠法説(lex causae)の立場に依拠される(Sein, op. cit., p.463.)。重国籍の場合の決定基準は、最密接関連性であり、エストニア国籍の優先は認められていない(新法第一一条第二項)。
次に、法人について言えば、旧法第一三三条が、「エストニアにおける法人の設立は、エストニア法によって決定される。」とし、又、旧法第一三四条が、「外国法人の中心的管理が所在する国の法律が、その法人の権利能力及びその法律行為能力に適用されるものとする。」(第一項)とし、又、「外国法人の主たる活動がその中心的管理が所在する国において行なわれないときは、その主たる活動が行なわれる国の法律が適用されるものとする。」(第二
項)とする規定は、新法第一四条にも受け継がれている。これらの諸規定については、設立に関する設立地法主義、管理に関する本拠地法主義、活動に関する行為地法主義という分割主義が採用されていると言うことができる
(Sein, op. cit., p.463.参照)。 この他、旧法第一三五条は、「エストニアにおける外国法人の承認」として、「外国法人がエストニア共和国において承認され、又、法律又は契約によって別段に定められていない限り、それはエストニアの法人によって享受されている権利能力及び法律行為能力と等しいそれらを享受する。」と規定しながら、相互主義から、旧第一三六条が、「政府は、エストニア共和国の市民、永住者及び法人の権利能力及び法律行為能力に制限を課した諸国の人の権利能力及び法律行為能力に反対制限を課すことができる。」と規定していたが、新法には、そのような報復的な規定は置かれていない。
又、人格権に関して、旧法第一三七条が、「人格権が侵害されたときは、被害者の選択により、請求権の根拠となる行為が行なわれた国の法律、又は、その者の永住地国の法律が適用されるものとする。」と定め、そして、旧法第一三八条が、「人格権を保護するため、裁判所が、情況により、緊急な措置がその権利を保護するために執られなければならないことを認めるときは、それはエストニア法を適用することができる。」と定めていた諸規定も、新法には置かれていない。
しかし、知的財産権については、旧法第一三九条が、「法律、又は、エストニアと外国との間において締結された協定によって別段に定められていない限り、エストニア法が知的財産権に適用されるものとする。」とする規定は、新法第二三条において、物権に関する法律関係として、保護地法主義の立場へと変更されている。
五 物権 先ず、エストニア国際物権法における基本原則は物の所在地法主義である(Sein, op. cit., p.464.)。旧法第一五三条において、「物権は物が所在する国の法律によって決定される。」(第一項)とし、「物が不動産又は動産の何れであるかは、物が所在する国の法律によって確定される。」(第二項)とし、「エストニア外において輸送中である動産は、当事者が別段に合意していない限り、動産の目的地の法律に従う。」(第三項)とし、そして、「国の登録簿に登録された船舶又は航空機についての物権は、船舶又は航空機が登録された国の法律によって確定される。」(第四
項)とする規定に続いて、旧法第一五四条が、「物権の発生及び消滅は、物が物権の発生及び消滅のための原因となる行為又は事件の間に所在した国の法律によって確定される。」と規定し、それに続いて、旧法第一五五条が、物権の動的抵触の場合における「物権の保護に適用されるべき法律」につき、「物権に関する請求は、権利者の選
択により、物が所在する国の法律、又は、請求が裁判所において審理される国の法律の何れかに従う。」(第一項)とし、又、「輸送手段に関する物権的請求は、権利者の選択により、輸送手段が国の登録簿に登録された国の法律によっても決定されることができる。」(第二項)と規定していた。これらの諸規定は、新法第一八条、第二〇条、第二二条に相当するものである。但し、制限的当事者自治は、新法第二〇条において、運送中の物の仕向地国法
(第一項)、又は、物の本源国法若しくは契約の準拠法(第二項)に縮減されている(Sein, op. cit., p.465.)。 又、証券に対する物権については、旧法第一五六条が、「保証証券及び持参人払式証券は、当事者によって別段に合意されていない限り、証券が発行された国の法律に従う。」(第一項)とし、又、「証券の譲渡は、次に掲げる法律に従う。⑴保証証券については、当事者によって別段に合意されていない限り、証券が発行された国の法律、⑵持参人払式証券については、証券が所在する国の法律」(第二項)と規定していた。それに対して、新法は、物を伴う証券(新法第二一条)及び登録証券(第二三条の一)に特化して、それらに関する詳細な規定を置いている。後者は、二〇〇二年の欧州連合指令第四七号との調和のために、二〇〇四年の改正によって加えられたものである
(Sein, op. cit., p.464 et seq.)。
六 契約 先ず、契約に関する基本規定として、旧法第一四一条が、「法律行為の内容は、当事者が適用することを合意した国の法律によって決定される。」(第一項)とし、「当事者は、全部又は一部の法律行為への特定の国の法律の適用について合意することができる。」(第二項)とし、「当事者間の合意がないときは、法律行為が開始された場所の法律が適用されるものとする。」(第三項)とし、「法律行為の履行の場所は、法律行為から生じる債務と最も密
接な関連を有する国の法律によって確定される。債務は、債務の履行者の住所又は所在地が所在する国の法律と最も密接な関連を有するものと見做される。」(第四項)とし、そして、「仲裁裁判所によって到達された合意は、当事者によって別段に合意されていない限り、法律行為の内容に適用される国の法律によって決定される。」(第五項)と規定し、次いで、方式につき、旧法第一四二条が、「法律行為の方式は、法律行為が開始された国の法律によって決定される。」(第一項)とし、「当事者は、法律行為の方式が、法律行為が履行されるべき国の法律、当事者の住所若しくは所在地の法律、又は、法律行為の目的である財産が所在する国の法律によって決定されることを合意することができる。」(第二項)とし、「当事者が法律行為の方式に適用されるべき法律について合意しておらず、かつ、法律行為が第一項において言及されている方式に従っていない場合において、法律行為がエストニア法又は法律行為の内容に適用されるべき法律上の要件に従っているときは、法律行為は方式の違反のみを理由として無効を宣言されてはならない。」(第三項)とし、そして、「目的がエストニアに所在する不動産、又は、エストニアにおいて登録された船舶若しくは航空機である法律行為の方式は、エストニア法によって決定される。」(第四項)と規定していた。新法において、法律行為の方式に関する規定が総則規定として置かれていることは前述したところである。その内容は、旧法に比して、極めて簡明なものとなっている。
次に、各個契約に関し、先ず、旧法第一五九条が、売買契約について、「当事者が、不動産売買契約において、何れの国の法律が契約の内容に適用されるべきかを合意しなかったときは、物が所在する国の法律が適用されるものとする。」(第一項)とし、「当事者が、動産売買契約において、何れの国の法律が契約の内容に適用されるべきかを合意しなかった場合においては、契約締結の当時における売り主の住所地法、又は、次に掲げるときは、契約締結の当時における買い主の住所若しくは所在地の法律が適用されるものとする。⑴契約がその国において締結さ
れたとき、又は、⑵契約が、物がその国において引き渡されるべきことを約定するとき」(第二項)とし、そして、「競売、競争的入札又は株式取引所において締結された契約が、何れの国の法律が適用されるべきかを確定しないときは、競売又は競争的入札が開催された国の法律、又は、株式取引所が所在する国の法律が適用されるものとする。」(第三項)と規定していた。又、旧法第一六〇条が、消費者と販売者との間の契約について、「当事者が、消費者と販売者との間の契約において、何れの国の法律が契約の内容及び方式に適用されるべきかを合意しなかったときは、エストニア法が適用されるものとする。」(第一項)とし、又、「消費者及び販売者が適用されるべき法律について合意したときは、これは消費者の権利のためにエストニアの消費者保護法によって定められたその者の権利に影響を及ぼさないものとする。」(第二項)と規定していた。
更に、旧法第一六一条が、「代理の委任、並びに、代理本人とその者の代理人の相互の権利及び義務は、代理本人又はその者の代理人と第三者が適用することを合意した国の法律に従う。」(第一項)とし、「当事者間における合意がない場合において、代理人又は第三者の住所又は所在地が、代理人が委任から生じる行為を遂行する国に在るときは、同国の法律が適用されるものとする。」(第二項)とし、「代理委任権の書式及びその有効期間は、代理委任権が創設された国の法律によって決定される。」(第三項)とし、そして、「代理委任権の書式がそれが発行された国の法律に従っていない場合において、それがエストニア法に従っているときは、代理委任権は有効とする。」
(第四項)と規定していた。代理については、新法が総則として規定していることはすでに述べたところである。
そして、「各個の類型の契約に適用されるべき法律」について、旧法第一六二条が、「当事者が何れの国の法律を適用するかを合意しなかったときは、一定の契約の内容は、貸し主、賃貸人、許可者、寄託物保有者、取次商人、運送業者、荷送人、保険業者又は贈与者の住所又は所在地の法律に従う。」(第一項)とし、「第一項において言及
されていない契約は、その履行が契約について主要である者の住所又は所在地の法律によって決定される。債務の履行は、それが特定の類型の契約に特徴的であるとき、主要とする。」(第二項)とし、そして、「第一項及び第二項において言及されている契約の当事者が法人であるときは、法人の所在地の国の法律が第一三四条第二項によって定められている場合において適用される。」(第三項)と規定していた。
それに対して、新法は一九八〇年のローマ条約に倣って旧法を改正しているが、二〇〇四年五月一日、エストニアが欧州連合に加盟した結果、二〇〇六年四月一九日、エストニアは同条約を批准している。従って、それによって規律される法律関係に関する新法上の規定は適用されないこととなる。比較国際私法立法上、新法に特異と見られる新法第四〇条ないし第四七条の諸規定も、「欧州保険契約法」に適合することを目したものであったが、二〇〇九年一二月一七日以後、ローマⅠ規則がローマ条約に代わって施行されることに伴い、ローマⅠ規則第七条に取って代わられることとなる(Sein, op. cit., p.466 et seq.)。
七 契約外債務 先ず、基本規定として、旧法第一六四条が、不法行為について、「不法行為に因る損害の賠償についての請求権は、請求権を発生させる行為又は事件が生じた国の法律に従う。」(第一項)とし、「行為又は事件が損害の賠償についての請求権の根拠であるか否かの事実は、行為が実行されたか、又は、事件が発生した国の法律によって確定される。」(第二項)とし、そして、「損害の賠償についての請求権を発生させた行為又は事件が何れかの国において生じながら、被った損害が他の国において生じたときは、被害者の要求により、損害が惹起された国の法律が適用されることができる。」(第三項)と規定し、又、旧法第一六五条が、「損害についての請求権へのエストニア法
の適用」として、「外国において被った損害の賠償についての請求権は、加害者及び被害者の住所又は所在地がエストニアにあるときは、被害者の要求により、エストニア法によって決定されることができる。」(第一項)とし、「エストニアの裁判所又は仲裁裁判所が損害についての賠償に外国の法律を適用するときは、損害の範囲はエストニアにおいて確立された実務に従って決定される。」(第二項)と規定していた。
そして、特殊な不法行為について、旧法第一六六条が、「商品又はサービスの購入時に消費者によって被られた損害の賠償についての請求権は、消費者の要求により、次に掲げる法律によって決定される。⑴消費者の住所地国の法律、又は、⑵製造業者又はサービス提供者の住所又は所在地の国の法律、又は、⑶第一三四条第二項において言及されている場合において、製造業者又はサービス提供者が法人であるときは、その法人の国の法律、又は、⑷消費者が商品を取得したか、又は、サービスを提供された国の法律」と規定していた。
新法においては、契約外債務について、一九九九年のドイツ民法施行法第三八条ないし第四二条に倣った規則を導入している。しかし、それらの諸規定も、二〇〇九年一月一一日に、いわゆるローマⅡ規則が欧州連合において施行されることにより、その大部分は重要性を失うこととなる。但し、同規則の射程範囲に入らない領域、すなわち、欧州連合に加盟していない諸国との間における関係、及び、施行前の契約外関係については、新法の存在意義は失われない(Sein, op. cit., p.467 et seq)。 八 婚姻関係 先ず、「婚姻の締結に適用されるべき法律」として、旧法第一四三条は、「婚姻の締結のための要件は、婚姻を開始する両当事者のそれぞれの住所地の法律によって決定される。」(第一項)とし、「婚姻の締結の方式は、婚姻が
締結される国の法律に従う。」(第二項)とし、そして、「外国において締結された婚姻、又は、エストニアに所在する外国の領事館において締結された婚姻は、それが第一項及び第二項において言及されている要件、又は、婚姻を開始する者の市民権の法律上の要件に従っているときは、エストニアにおいて有効と見做される。」(第三項)と規定していた。新法がこれらの諸規定と異なる点は、婚姻の実質的要件について、将来の夫婦の居所地法が適用される点である(新法第五六条第一項)。
次に、婚姻の効力として、旧法第一四六条は、「夫婦の身分的権利及び財産的権利は、夫婦の共通住所地法に従う。」(第一項)とし、「夫婦が異なる国に居住していながらも、共通の市民権を共にするときは、それらの者の身分的権利及び財産的権利は市民権の法律に従う。」(第二項)とし、「夫婦が異なる国に居住しており、かつ、それらの者が異なる市民権を保有するときは、それらの者の身分的権利及び財産的権利は、最後の共通住所地法に従う。夫婦が共通住所を有しなかったときは、婚姻が締結された国の法律が適用されるものとする。」(第三項)とし、そして、「不動産に関する夫婦の財産的権利は、不動産が所在する国の法律に従う。」(第四項)と規定していた。それに対して、新法第五七条第四項において改正が加えられている点は、夫婦に共通住所も、共通国籍もないときは、最密接関係法によって補充される点である(Sein, op. cit., p.469 et seq.)。
又、「離婚に適用されるべき法律」として、旧法第一四四条は、「離婚は夫婦の共通住所地法に従う。」(第一項)とし、「夫婦が異なる国に居住しているときは、最後の共通住所地法が適用されるものとする。但し、夫婦双方の住所地法によって許容されるときにのみ、離婚は可能とする。夫婦が共通住所を有しなかったときは、婚姻を解消させる機関が所在する国の法律が適用されるものとする。」(第二項)とし、そして、「外国において行なわれた離婚は、それが、離婚が行なわれた国の法律に従っているときは、エストニアにおいて有効と見做される。」(第三項)
と規定していた。新法において新しく導入されたのは、婚姻の一般的効果と同一の規律に依るとする規則(新法第
六〇条第一項)であり、又、離婚保護のためにエストニア法に依るべき場合を定めている規則(同条第二項)である
(Sein, op. cit., p.470.)。尚、旧法第一四五条は、婚姻の無効につき、婚姻の締結の準拠法に従うことを規定していたが、新法第六〇条第三項においても同様である。
九 親子関係 先ず、「親子関係の確定に適用されるべき法律」として、旧法第一四八条は、「親子関係の確定にあたっては、子の利益を考慮して、子の出生の当時における一方の親の住所地法又は市民権の法律から導かれる。」と規定し、又、「親子間の関係に適用されるべき法律」として、旧法第一四七条は、「親子の相互の権利及び義務は、それらの者の共通住所地法に従う。」(第一項)とし、「親子が異なる国に居住しているときは、子の市民権の法律が適用されるものとする。」(第二項)とし、そして、「婚姻外から出生した子の権利は、子の出生の当時における子の母の住所地法に従う。」(第三項)と規定していた。それに対して、新法においては、そのいずれの法律関係についても、子の居所地法を基準としている(新法第六二条第一項、第六五条)。しかし、後者の法律関係については、二〇〇三年に、エストニアが、一九九六年一〇月一九日の「親責任及び子の保護措置についての管轄権、準拠法、承認、執行及び協力に関するハーグ条約」に加盟したことから、その限りにおいて、右第六五条は機能していない
(Sein, op. cit., p.470 et seq.)。 「扶養義務に適用されるべき法律」についても、旧法第一五〇条は、
「別居した配偶者を扶助すべき義務は、離婚に適用されるべき法律に従う。」(第一項)とし、「親及び子並びに他の家族構成員を扶助すべき義務は、請求した
者の選択により、その者の住所地法、又は、請求が提起された者の住所地法に従う。」と規定していたが、新法第六一条は、明文により、一九七三年一〇月二日の「扶養義務の準拠法に関するハーグ条約」によって規律されるべきことを規定している。
又、養子縁組について、旧法第一四九条は、「養子縁組は養親の住所地法又は養親双方の共通住所地法に従う。養親が異なる国に居住しているか、又は、異なる国の市民である夫及び妻であるときは、養子縁組は夫及び妻の双方の住所地法、又は、夫及び妻の双方の市民権の法律に従わなければならない。」(第一項)とし、「養子縁組の可能性、及び、養子縁組についての子とその法定代理人の同意は、養子とその法定代理人の住所地法に従う。」(第二
項)と規定していた。これらの諸規定に相応する新法第六三条第一項及び第二項においては、婚姻の一般的効力に準ずる規律、及び、徹底した子の法の適用へと変更されている。前者が、夫婦共同養子縁組の場合における統一的な規律を目するものであることは、推察するに難くない。
尚、旧法第一五一条は、「監督及び保護は、監督及び保護が与えられる国の法律に従う。」と規定していたが、それは、後見及び保佐に関する新法第六六条に相当するであろう。
一〇 相続 先ず、旧法第一五七条は、「相続に適用されるべき法律」として、「エストニアに所在する不動産の相続はエストニア法に従う。」(第一項)とし、「外国に所在する不動産の相続は、物が所在する国の法律に従う。」(第二項)とし、「動産の相続は、遺言者の最後の住所地法に従う。」(第三項)とし、そして、「人は、遺言により、その者の動産の相続が、動産が所在する国の法律、又は、その者の市民権の法律に従うことを確定することができる。」(第四
項)と規定して、相続分割主義及び制限的当事者自治の立場を採用していた。それに対して、新法は、相続分割主義から相続統一主義へと変更し(新法第二四条)、又、被相続人の本国法の適用、若しくは、相続契約の締結を認めて(新法第二五条)、大幅な改正を加えている(Sein, op. cit., p.465 et seq.)。相続統一主義が採用されることにより、不動産相続についての準拠法の実効性を巡る問題が生ずる場合が考えられるが、新法の規則はその点をも踏まえたものであると見られる。
次に、旧法第一五八条は、「遺言に適用されるべき法律」として、「人の遺言を作成、変更又は撤回する能力は、遺言を作成、変更又は撤回する当時における遺言者の住所地法によって確定される。」(第一項)とし、「遺言の方式及び意味は、人が遺言を作成、変更又は撤回した国の法律によって確定される。」(第二項)とし、「外国において作成された遺言の方式が、それが作成された国の法律に従っていない場合において、それがエストニア法に従っているときは、その方式はエストニアにおいて有効とする。」(第三項)とし、「エストニアに所在する不動産を遺贈するためには、遺言並びにその修正及び撤回の方式はエストニア法に従わなければならない。」(第四項)とし、そして、「遺言による遺贈は、第一項ないし第四項の規定に従う。」(第五項)と規定していた。それに対して、新法は、より端的に、一九六一年の「遺言の方式の準拠法に関するハーグ条約」の適用につき、相続契約の方式をも含めて規定している(新法第二七条)。
以上における改正の他、新法における相続ないし遺言に関して注目されるのは、相続契約及び共同遺言についての規定が置かれていることであろう。特に、後者については、諸国の法制は異なっているが、新法においては、夫婦間におけるそれを前提として、遺言者による準拠法の選択が認められており、一層の遺言保護の立場が表明されている(新法二九条参照)。
一一 後書き 実務上、エストニア国際私法は、二〇〇八年当時、未だ、エストニア最高裁判所において適用されていない。その理由として指摘されているのは、エストニアの法律家にとって、恐らく、国際私法は余り馴染みのない存在であるからである。事実、幾つかの離婚事件において、エストニア国際私法により、本来、外国法が準拠法とされるべき場合に、エストニア最高裁判所はエストニア法を適用している。但し、国際民事訴訟法については、より頻繁に、そして、的確に適用されている。例えば、ブルュッセルⅠ条約及びブルュッセルⅡ条約改訂規則が適用された件数は、外国法が適用された件数よりも勝っている(Sein, op. cit., p.472.)。
欧州連合に加盟したエストニアにとって、国内国際私法立法の重要性が減少していることが指摘されている。その理由の一つとして、実質法の統一があり、いま一つとして、欧州連合域内における国際私法の統一がある(Sein, op. cit., p.472.)。その格好な例として挙げられるのが、ローマⅠ条約及びローマⅡ条約、そして、ハーグ国際私法条約であり、それらは、エストニア国際私法に取って代わろうとしている。しかし、それにも拘わらず、欧州連合以外の諸国との関係におけるエストニアの対外的交渉の絶えざる隆盛が、エストニア抵触法をも同時に必要としていると指摘されている(Sein, op. cit., p.472.)。これは、欧州連合加盟諸国に同様に見られる趨勢と言えるでろう。
次に掲げるのは、二〇〇四年及び二〇〇九年の改正を踏まえた二〇〇二年のエストニア共和国国際私法に関する法令である。訳出に際しては、エストニア政府による公式英訳資料に依拠した。
(参考資料)エストニア共和国国際私法
国際私法に関する法令
(二〇〇二年三月二七日成立、二〇〇二年七月一日施行)
二〇〇四年四月二二日改正
二〇〇九年一一月一八日改正 第一部 総則 第一条 法令の適用範囲 本法令は、法律関係が一国より多くの法律と関連する場合に適用される。
第二条 外国法の適用⑴ ⑵外国法は、該当する国家における支配法の解釈及び適用の実践に従って適用されるものとする。 されているか否かに拘わらず、当該法律を適用するものとする。 何れかの法令、国際的合意又は法律行為に従い、外国法が適用されるべきとき、裁判所は、かような法律の適用が要求
第三条 国内法が不統一体系によって構成された国家 本法令の規定が、国内法不統一体系によって構成される国家の法律を指示するとき、かような国家の法律によって定められた法秩序が適用されるものとする。かような国家の法律に相当する規定がないとき、法律関係の状況と最も密接に関係している法秩序が適用される。
第四条 外国法の確認⑴ 続を行なっている裁判所は、当事者の援助を要求する権利を有する。 適用されるべき外国法の内容は、手続を行なっている裁判所によって確認されるものとする。かような目的のため、手
⑵ 当事者は、外国法の内容の確認のため、裁判所へ文書を提出する権利を有する。裁判所は、当事者によって提出された文書に従って行為することを求められない。⑶ 裁判所は、エストニア共和国の法務省又は外務省からの援助を要求する権利、及び、専門家を利用する権利を有する。⑷ 外国法の内容が、あらゆる努力に拘わらず、合理的な期間内に確認されることができないときは、エストニア法が適用される。
第五条 外国法の適用における行政機関の権利 裁判所に関する本法令の諸規定は、行政機関へも適用される。
第六条 反致⑴ 本法令が外国法の適用(送致)を定めるときは、該当する国家の国際私法規則が適用される。かような規則がエストニア法の適用(反致)を定めるときは、エストニア実質法規則が適用される。⑵ 外国法が第三国法の適用を定めるとき、かような送致は考慮されないものとする。⑶ 第二三条の一又は本法令第六部第一章第一節の諸規定が外国法の適用を定めるときは、かような国家の実質法規則が適用される。
(官報第一部二〇〇四年第三七項第二五五号改正、二〇〇四年五月一日施行)
第七条 公の秩序 外国法は、その適用の結果がエストニア法の主要な原則(公の秩序)と明らかに衝突することとなるとき、適用されないものとする。かような場合には、エストニア法が適用される。
第八条 法律行為の形式的要件 法律行為は、それが法律行為を支配する法律、又は、法律行為が行なわれている国家の法律上の形式的要件を遵守しているとき、方式上、有効とする。
第九条 代理⑴ ⑶不動産物権の処分についての委任は、不動産が所在する国家の法律上の形式的要件に従って認められるものとする。 ⑵本条第一項に特定された法律は、代理権を有しない代理人と第三者との間の関係へも適用される。 となるものは、代理人が行為を行なった国家の法律によって支配されるものとする。 代理人によって行なわれた法律行為の前提条件であって、本人について、第三者に関する権利又は義務をもたらす結果
第二部 自然人 第一〇条 自然人の居所 エストニア法が自然人の居所の決定へ適用される。
第一一条 自然人の市民権⑴
⑶ している国家の市民権が適用される。 ⑵自然人が幾つかの国家の市民権を有するとき、本法令によって別段に規定されていない限り、その者が最も密接に関係 自然人の市民権は、決定されるべきである市民権が帰属する国家の法律に従って決定されるものとする。
がその市民権に代わって考慮されるものとする。 本法令が無国籍者、市民権が確認されることができない者、又は、避難民へ適用されるべきであるとき、その者の居所 第一二条 自然人の消極的及び積極的法律能力⑴ 自然人の居所がある国家の法律は、その消極的及び積極的法律能力へ適用される。⑵ 居所の変更は、既に取得された積極的法律能力を制限しないものとする。⑶
極的法律能力が制限されていたとき、かような者は、その者が、その者が法律行為を行なった国家の法律に従えば積極的 人がその居所のある国家の法律へ従って法律行為を行なったが、その者が積極的法律能力を有しないか、又は、その積
法律能力を有していたとき、その無能力を援用しないものとする。かような規定は、他方当事者がその者の積極的法律能力の欠如を知っていたか、又は、知るべきであったとき、適用されない。⑷ 本条第三項の諸規定は、家族法若しくは相続法から生起している法律行為、又は、他の国家に所在する不動産に関する法律行為へ適用されない。
第一三条 死亡宣告⑴ 死亡宣告の原因及び効果は、行方不明者の最後に知られた居所がある国家の法律によって支配される。⑵ 本条第一項に指定された法律が外国法であるとき、行方不明者は、利害関係人がその点について正当な利益を有するとき、エストニア法に従って死亡を宣告されることもできる。
第三部 法人 第一四条 法人の支配法⑴ 法人は、法人の創設の基礎が帰属する国家の法律によって支配されるものとする。⑵ 法人がエストニアにおいて実際に運営されているか、又は、法人の主たる活動がエストニアにおいて遂行されているとき、法人はエストニア法によって支配されるものとする。
第一五条 支配法の範囲 法人を支配している法律に基づき、特に、次に掲げる事項が決定されるものとする。
一 法人の法的性質 二 法人の創設及び終了 三 法人の消極的法律能力 四 法人の名称又は商標
五 法人の組織 六 法人の内部関係 七 法人の負債責任 八 法人の法定代理人 第一六条 代表権の制限 法人は、法人の組織の代表権に関する制限、又は、法人の消極的法律能力に関する制限が、法律行為の他方当事者の居所若しくは事業地の法律上知られていないとき、かような制限を援用しないものとする。かような規定は、他方当事者が制限を知っているとき、適用されない。
第一七条 他の人的団体及び資産の共同出資⑴ 本部の諸規定は、他の組織された人的団体及び資産の共同出資へも適用される。⑵ 組織化する構造を有しない契約上の団体は、契約に関する本法令の諸規定によって支配されるものとする。
第四部 物 第一八条 物権の支配法⑴
⑷不動産に基因する加害的生活妨害から派生する請求権は、本法令第五〇条によって支配されるものとする。 実は、エストニアにおいて発生したものと見做されるものとする。 ⑶動産がエストニアへ運ばれ、かつ、物権の成立又は消滅が外国において完成されているとき、外国において発生した事 ⑵物権は、物が所在する国家の法律上の主要な原則と衝突して行使されることがないものとする。 物権の成立及び消滅は、物が、物権の成立又は消滅の当時所在していた国家の法律に従って決定されるものとする。
第一九条 法定相続問題における物の所在国の法の適用
物権が、特に家族法若しくは相続法を基礎として、一般相続によって成立又は消滅するとき、物が所在する国家の法律が、物が所在する国家の法律が一般相続の場合へも適用されることを定めない限り、かつ、その限りにおいて、法定相続を支配する法が、一般に、かような物権へ全体として適用される。
第二〇条 移動中の物⑴ 法律行為に基づいて移動中の物の物権の成立及び消滅は、物の仕向地がある国家の法律によって支配されるものとする。⑵ 当事者は、物の本源国の法律、又は、法律行為を支配している法律を適用することを合意することもできる。⑶ 支配法に関する合意は、物に関する第三当事者の権利に影響を与えないものとする。
第二一条 物を伴う証券⑴ 物を伴う証券は、証券に規定された法律によって支配されるものとする。物を伴う証券が支配する法律を指定しないとき、証券は、証券の発行者の事業地が所在している国家の法律によって支配されるものとする。移動中の物を伴う証券は、物の仕向地がある国家の法律によって支配されるものとする。⑵ 物を伴う証券を支配する法律は、物の取得につき、証券の引渡しが物の引渡しと同一であるかを決定する。物の取得につき、物を伴う証券の引渡しが物の引渡しと同一であるとき、証券を支配する法律は物へも適用される。⑶ 適用されることとなる法律が適用される。 されていなかったならば適用されることとなる法律に基づき、かようになしたとき、証券が発行されていなかったならば 何れかの者が、物を伴う証券を支配する法律に基づき、物権の有効性を援用し、かつ、他の者が、物を伴う証券が発行
第二二条 輸送手段⑴ 航空機、船舶及び鉄道車両は、その本源がある国家の法律によって支配されるものとする。本源がある国家とは、次に掲げる国家とする。
一 航空機の場合には、国籍がある国家
二 船舶の場合には、登録地がある国家、それがないときは、母港がある国家 三 鉄道車両の場合には、鉄道車両を使用する許可を下した国家⑵ 輸送手段によって惹起された損害の賠償についての請求権、又は、輸送手段に関してなされた出費の補償についての請求権を保証する法律から派生する担保権及び留置権は、保証された請求権を支配する法律によって支配される。異なる国家の法律に基づいて成立した担保権の場合には、より先に成立した担保権が優先するものとする。
第二三条 知的財産権 知的財産権、並びに、その創作、内容、消滅及び保護は、財産権の保護が与えられる領域が帰属する国家の法律によって支配されるものとする。
第二三条の一 登録証券⑴
⑶ が保存されている国家の法律によって支配されるものとする。 示された権利(保管者によって保有された有価証券)は、保管者によって保有された有価証券に関し、それぞれの登録簿 登録簿(それぞれの登録簿)以外の口座に被登録有価証券を保有するとき、それぞれの登録簿へなされた登録によって表 ⑵何れかの者(保管者)が、登録簿中の他の者のため、かつ、その者の計算においてか、又は、本条第一項に指定された されている国家の法律によって支配されるものとする。 株式、債券、及び、登録簿への登録の形式の下に表示された他の権利(被登録有価証券)は、それぞれの登録簿が保存 るものとする。 被登録有価証券、及び、保管者によって保有された有価証券を支配する法律に基づき、特に次に掲げる事項が確認され 一 有価証券の法的性質 二 有価証券に対する物権の内容、成立及び消滅 三 有価証券から派生する権利のための担保の処分の効果
四 有価証券から派生する行使権の要件 五 売却権の成立及び行使を含め、有価証券を担保物件として使用すること 六 有価証券に負わせる権利の順位 七 保管者によって保有された有価証券に対する保管者の権利及び義務 (官報第一部二〇〇四年第三七項第二五五号改正、二〇〇四年五月一日施行)
第五部 相続権 第二四条 相続の支配法 相続は、遺贈者の最後の居所がある国家の法律によって支配されるものとする。
第二五条 法選択 人は、その遺言において、その市民権がある国家の法律がその遺産へ適用されることを表意するか、又は、相続契約を締結することができる。かような表意は、その者がその死亡当時に該当する国家の市民でなくなっているとき、無効なものとする。
第二六条 支配法の範囲 相続を支配する法律は、特に次に掲げる事項を決定するものとする。
一 遺言処分の種類及び効果 二 相続能力及び相続無資格 三 相続の範囲 四 相続人及び相続人間の関係 五 遺贈者の負債に対する責任
第二七条 遺言の方式の支配法⑴ ⑵本条第一項に指示された条約は、相続契約の方式へも適用される。 号)が、遺言の方式へ適用される。 一九六一年の遺言処分の方式に関する法律の抵触に関するハーグ条約(官報第二部一九九八年第一六/一七項第二八
第二八条 遺言作成の能力⑴ ⑶本条の諸規定は、それぞれ、人の相続契約を締結、修正又は終了する能力へ適用される。 ⑵居所又は市民権の変更は、既に取得された遺言をする能力を制限しないものとする。 与えられるとき、その遺言を作成、修正又は撤回することができる。 いとき、その者は、その者が、その者が遺言を作成、修正又は撤回する当時、市民である国家の法律に従えばその資格を その遺言を作成、修正又は撤回することができる。かような国家の法律に従えば、その者が遺言を作成する能力を有しな 人は、その者が、遺言の作成、修正又は撤回の当時、その居所がある国家の法律に従って該当する能力を有するとき、
第二九条 相続契約及び相互遺言⑴ 相続契約は、契約締結当時における遺贈者の居所がある国家の法律、又は、本法令第二五条に指示された場合においては、その者の市民権がある国家の法律によって支配されるものとする。支配法は、相続契約の許容性、有効性、内容及び拘束力、並びに、相続法の下における契約の効果を決定する。⑵ あって、遺言者によって共同して選択されたものに従ってなされるものとする。 相互的遺言をする際には、遺言は、遺言者双方の居所がある国家の法律、又は、夫婦の一方の居所がある国家の法律で 第六部 債務法
第一章 債務法総則及び契約 第一節 総則及び契約 第三〇条 適用範囲 本節の諸規定は、法人の団体の定款、又は、法人の義務についての法律から派生する法人の組織、株主若しくは構成員の個人的責任へ適用されない。
第三一条 エストニア法における一般適用規定 本節の諸規定は、契約を支配する法律に拘わらず適用されるエストニア法上の諸規定の適用を妨げないものとする。
第三二条 支配法の選択⑴ 契約は、当事者によって合意された国家の法律によって支配されるものとする。⑵
⑷ ができない国家の法律上の規則(強行規定)の適用を妨げないものとする。 たという事実は、選択の当時、契約に関連する全ての要素が一国のみと関連する場合には、契約によって退けられること ⑶当事者が、外国裁判管轄の選択によって伴われるにせよ、又は、伴われないにせよ、契約を支配すべき外国法を選択し きる。 当事者は、契約が全体又は部分の仕方で分割できるとき、契約の全体又はその一部を支配する法律を選択することがで ⑸本法令第三六条及び第三七条の諸規定は、法選択に関する合意の実質的及び形式的有効性へ適用される。 第三当事者の権利にも影響を与えないものとする。 契約締結後になされた準拠法に関する如何なる変更も、本法令第三七条の下における契約の形式的有効性を損なわず、
第三三条 法選択の不存在における準拠法⑴ 契約を支配する法律が本法令第三二条に従って選択されなかったとき、契約は、契約が最も密接に関係している国家の
律によって支配されるものとする。契約が区分可能であり、かつ、契約の一部が独立して他の国家とより密接な関連性を有するとき、かような部分は、当該他の国家の法律によって支配されることができる。⑵ 契約は、契約の成立の当時、契約の特徴的債務を履行すべきである当事者の居所又は管理組織の本拠が所在している国家と最も密接に関係しているものと推定される。契約が、契約の特徴的債務を履行すべきである当事者の経済的又は職業的活動の過程において成立しているとき、契約は、かような当事者の主たる事業地が所在している国家と最も密接に関係しているものと推定される。契約期間の下に、契約の特徴的債務が主たる事業地以外の事業地において履行されるべきであるとき、契約は、当該他の事業地が所在する国家と最も密接に関係しているものと推定される。⑶ 契約の特徴的債務が決定されることができないとき、本条第二項は適用されない。⑷ 契約の目的が不動産における物権、又は、不動産を使用する権利であるとき、契約は、不動産が所在している国家と最も密接に関係しているものと推定される。⑸
⑹ へ適用される。 と最も密接に関係しているものと推定される。貨物運送契約に関する諸規定は、主たる目的が貨物運送である全ての契約 又は、荷積地若しくは荷揚地が同一国家に所在しているとき、運送人の主たる事業地が契約締結の当時所在している国家 運送契約の場合には、契約は、出発地若しくは仕向地、又は、貨物運送契約の場合においては、荷主の主たる事業地、
用されない。 本条第二項ないし第五項は、全体の状況から、契約が別の国家とより密接に関係していることが明らかとなるとき、適 第三四条 消費者契約⑴ 消費者契約の場合において、法選択は、次に掲げるとき、消費者から、その居所がある国家の強行規定によって消費者へ与えられた保護を奪う結果を有しないものとする。
一
消費者の居所がある国家において、契約の締結が消費者へ向けられた特定の提供によるか、又は、広告によって先行
されており、かつ、消費者がかような国家において契約の締結に必要な全ての行為を実行しているとき 二 他方当事者又はその代理人が消費者の居所がある国家において消費者の注文を受けているとき 三 契約が商品売買についてであり、かつ、消費者の旅行が、消費者に契約を締結することを勧誘するため、販売者によって準備されたとした場合には、消費者がその居所がある国家から他の国家へ旅行して、かつ、そこにおいてその注文を出しているとき⑵
⑷消費者の居所がある国家の法律は、本条第一項に指示された状況の下に締結された消費者契約の方式へ適用される。 る。 されるべきである場合におけるサービス供給契約へ適用されない。本条第一項及び第二項はセット旅行契約へ適用され ⑶本条第一項及び第二項は、運送契約、及び、サービスが専ら消費者の居所がある国家以外の国家においてその者へ供給 た状況の下に締結された消費者契約へ適用される。 準拠法が本法令第三二条に従って選択されていないときは、消費者の居所がある国家の法律が、本条第一項に指示され 第三五条 雇用契約⑴ 雇用契約の場合において、法選択は、本条第二項に従い、法選択がないときに適用されることとなる国家の法律上の強行規定によって被用者へ与えられた保護を被用者から奪う結果を有しないものとする。⑵ 法選択がないとき、雇用契約は、次に掲げる国家の法律によって支配されるものとする。
一
する国家 被用者が一時的に他の国家において雇用されるときであっても、被用者が平常的に契約の履行としてその作業を遂行 二 被用者が何れか一つの国家において平常的にその作業を遂行しないときは、被用者が従事させられていた事業地が所在している国家⑶
本条第二項の諸規定は、全体の況から、雇用契約が他の国家とより密接に関係していることが明らかとなるとき、適用
されない。かような場合には、当該他の国家の法律が適用される。
第三六条 契約の実体的有効性⑴ 契約、又は、契約の何れかの規定の有効性は、契約又は規定が有効であったならば適用されることとなる国家の法律に基づいて決定されるものとする。⑵ 用することができる。 明らかであるとき、当該当事者は、その者が契約を締結しなかったことを確証するため、その居所がある国家の法律を援 諸状況から、当事者の一方の行為の結果へ本条第一項に指示された法律を適用することが公平でないこととなることが
第三七条 契約の形式的有効性⑴ 異なる国家にある者によって締結された契約は、それが、かような国家の一つの法律上の形式的要件、又は、契約を支配する法律上の形式的要件に適合して締結されているとき、方式上有効なものとする。⑵ 要件に適合して締結されているとき、方式上有効なものとする。 ⑶不動産に対する物権、又は、不動産を使用する権利が目的である契約は、不動産が所在している国家の法律上の形式的 ものとする。 契約が代理人を通じて締結されているときは、代理人が行為する国家が、本条第一項の適用のために適切な国家である
第三八条 請求権の譲渡⑴ る。 債務の履行を要求することができる前提条件、及び、債務者の債務が履行されたかの何れかの問題を決定するものとす ⑵譲渡されるべき請求権を支配する法律は、請求権の譲渡可能性、被譲渡人と債務者との間の関係、被譲渡人が債務者へ 律によって支配されるものとする。 請求権の譲渡の場合において、譲渡人と被譲渡人との間の関係は、譲渡人と被譲渡人との間の契約を支配する国家の法
⑶ 本条は請求権の担保設定へも適用される。
第三九条 法定代位⑴ 第三当事者が債権者の請求権を満たすべきであるときは、第三当事者の債務を支配する法律が、第三当事者が、債務者に対し、債権者が債務者に対してそれらの者の関係を支配する法律の下に有した権利を行使する権利を与えられるかを決定するものとする。⑵ 本条第一項は、幾人かの者が同一の請求権に服し、かつ、それらの者の一人が請求権を満たしたときも適用される。
第二節 保険契約 第四〇条 適用範囲 本節の諸規定は、エストニア又は欧州連合構成国家の領域に所在した危険に保険を掛ける保険契約へ適用される。本節の諸規定は、再保険契約へ適用されない。
第四一条 被保険危険の所在⑴ 非生命保険契約の場合において、被保険危険が所在する国家とは、次に掲げる国家とする。
一
設の内容と関係する危険に関わるときは、不動産が所在する国家 保険が、不動産、就中、構造若しくは建設と関係する危険、又は、内容が同一契約に含まれる限り、構造若しくは建
二
は、登録国家 保険が、エストニア又は欧州連合の何れかの構成国家の登録簿へ登録されるべき車両と関係する危険に関するとき 三 保険が、四箇月までの期間の保険契約の下における旅行又は休暇の危険に関わるときは、保険契約者が契約への加入に必要な行為を行なった国家⑵
生命保険契約、及び、本条第一項に特定されていない非生命保険契約の場合において、被保険危険が所在する国家と
は、次に掲げる国家とする。
一 保険契約者が自然人であるときは、保険契約者の居所がある国家 二 保険契約者が自然人でないときは、契約が関係する保険契約者の事業地がある国家 第四二条 支配法選択の自由 契約は、次に掲げるとき、当事者によって選択された法律によって支配されるものとする。
一
家に所在するとき 被保険危険、及び、保険契約者の居所若しくは管理組織の本拠が、法律の自由選択を許容する欧州連合の同一構成国 二 保険契約が、自らも、また、仲介者を通じても、本法令第四〇条に指示された何れかの国家における保険活動に従事しない保険会社と締結されるとき
三
四二七条第二項ないし第四項に指示された保険契約であるとき 非生命保険の場合において、契約が、債務の準拠法に関する法令(官報第一部二〇〇一年第八一項第四八七号)第 四 非生命保険の場合において、契約が、保険契約者の経済的又は専門的活動と関係し、かつ、本法令第四〇条に指示されたとは異なる国家に所在する危険に関し、かつ、被保険危険の一つが、準拠法の自由選択を許容する欧州連合の何れかの構成国家に所在するとき
第四三条 非生命保険の場合の支配法選択の制限⑴ て、次に掲げるものを選択することもできる。 非生命保険が本法令第四二条に指示された要件を遵守して加入されていないとき、当事者は、契約を支配する法律とし 一 本法令第四〇条に指示された国家であって、被保険危険が所在するものの法律 二 保険契約者の居所又は管理組織が所在する国家の法律⑵ 本条第一項に指示された国家が他の何れかの法の選択を許容するとき、当事者はかような選択を利用することができる。
⑶
保険契約が、被保険危険が所在する国家、及び、本法令第四〇条に指示された国家において発生しうる被保険事実を含むとき、当事者は、後者の国家の法律を選択することができる。
第四四条 生命保険の場合の支配法選択の制限⑴ 生命保険契約が本法令第四二条第一号の条項に指示された要件を遵守して加入されていないとき、当事者は、契約が、被保険危険が所在する国家の法律によって認められた国家の法律によって支配されることを選択することもできる。⑵ とができる。 ものに所在しないとき、当事者は、契約が、その者の市民権が帰属する国家の法律によって支配されることを選択するこ 自然人である保険契約者の居所が、本法令第四〇条に指示された国家であって、その者の市民権が帰属する国家である
第四五条 法選択がないときの準拠法⑴ つかの異なる国家に所在するときは、本条第二項第三文が、それぞれ適用される。 ⑶生命保険は、被保険危険が契約への加入の当時に所在する国家の法律によって支配されるものとする。被保険危険が幾 国家とより密接な関連性を有する契約の独立部分は、当該他の国家の法律によって支配されることができる。 接に関係しているものと推定される。本法令第四二条及び第四三条に従って選択されることができる法律が帰属する他の よって支配されるものとする。本法令第四〇条に指示された諸国家の中から、契約は被保険危険が所在する国家と最も密 契約は、本法令第四二条及び第四三条に従って選択された国家であって、契約が最も密接に関係しているものの法律に ⑵保険契約の当事者が契約を支配する法律を合意せず、かつ、状況が本条第一項に規定された諸要件を満たさないとき、 家の領域内に所在するときは、当該国家の法律が適用される。 保険契約の当事者が契約を支配する法律を合意せず、かつ、保険契約者の居所又は管理組織及び被保険リスクが同一国
第四六条 強制保険⑴ 強制保険契約は、保険契約へ加入すべき義務を定める国家の法律によって支配されるものとする。