別紙1
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
報告番号
甲 第 3242 号 氏 名高橋 慎平
論文審査担当者
主査 教授 真鍋 厚史 副査 教授 中村 雅典
副査 教授 長谷川 篤司
(論文審査の要旨)
論文題名「High-resolution mechanical mapping of the adhesive–dentin interface: the effect of co-m onomers in 10-methacryloyloxydecyl dihydrogen phosphate.(象牙質接着界面の高解像度機械的マッピ ング:MDPプライマーに含まれるコモノマーの影響について)」
掲載雑誌名:Journal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials(掲載予定)
上記の主査1名、副査2名が個別に審査を行った。
セルフエッチングプライマーに含有される10-methacryloyloxydecyl dihydrogen phosphate(MDP)は歯質 と接着界面でカルシウムとイオン結合し、熱化学的に安定なナノレイヤリングを形成するが、接着強さが不 十分である。そこで歯質との結合性を高めるため、コモノマーとしてHydroxyethyl methacrylate(HEMA)や 4-methacryloyloxyethyl-trimellitic acid (4-MET)などが期待されている。HEMAはボンディング材やプラ イマーの希釈材として関わるが、ナノレイヤリングの形成を減少させる可能性がある。4-METはナノレイヤ リングの形成を阻害せず、コモノマーとして有望である。本研究ではHEMAまたは4-METのレジン象牙質接 着界面への影響について、ナノインデンテーション試験とモジュラスマッピングを用い、接着界面の貯蔵弾 性係数、損失弾性係数、粘弾性について比較検討した。貯蔵弾性係数は4-MET含有プライマーで処理した試 料が最も高く、HEMA 含有率が高くなるにつれて低下した。粘弾性は 4-MET 含有プライマーで処理した試料 に比べ、HEMA 含有プライマーで処理した試料で高くなった。以上の結果から MDP プライマーのコモノマー
としてHEMAよりも4-METの方が優れていることが示唆された。今回用いたナノインデンテーション試験と
モジュラスマッピングは接着界面を非破壊で直接評価できることからプライマーと象牙質に対する接着相 関試験として有用であると考察した。
本論文において、副査の中村委員および長谷川委員から多くの質問があり、その一部とそれらに対する回 答を以下に示す。
中村委員の質問とそれらに対する回答:
1.本研究で採用しているプライマーとボンディング材のHEMAや4-METの濃度の決定根拠は何か。
(本研究はHEMAがレジン象牙質接着界面への影響があると報告があることから、HEMA含有率を調整し、ど のような影響があるか比較検討することを目的としました。濃度決定は過去の論文を参考に行いました。) 2.貯蔵弾性係数と粘弾性の臨床上どのような指標として考えているのか。
(貯蔵弾性係数が高いほどレジン象牙質接着界面の機械的特性が高くなり、破壊されにくくなるためレジン 修復物の維持力が高まると考えられます。一方、粘弾性は低いほど、レジン象牙質接着界面の変形をおこし にくくなるため、レジン修復物の維持力が高まると考えられます。)
3.コモノマーとしてこれら2つ以外に用いられるものは何か。
(カルボン酸系(4-META,MAC-10など)やリン酸系(Phenyl-Pなど)などの機能性モノマーがあげられます。)
4.解析した4群でカルシウムとの結合性に変化はないのか。
(過去の論文よりMDPとカルシウムの結合により機械的特性が高まるとことから今回は貯蔵弾性係数で判 断しましたが、ラマン分光法など成分分析が可能な方法を用いることで変化を観察できると考えています。)
長谷川委員の質問とそれらに対する回答:
1.試作ボンディング材において硬化後に物性が低下すると論じられているHEMAをdimethacrylate含有量 を下げてまで含有する意義は何か。
(HEMAはボンディング材やプライマーの希釈材として用いられ、さらに脱灰された象牙質表面のコラーゲ ン層に浸透しコラーゲン繊維を膨潤させる役割と、他のモノマーの象牙質への浸透性を高めるために含まれ ていますが、接着に関与せず、最近ではHEMAを含まない歯面処理剤も誕生しています。本研究ではHEMAが 接着界面の機械的特性に影響を及ぼすことを想定し含有されています。)
2.本研究において示される接着界面における接着強さや弾性係数はどのような値が最適な状態か。
(貯蔵弾性係数が低いと破壊されやすく、レジン修復物の耐久性が低くなるため、モジュラスマッピングで レジン象牙質接着界面に弾性係数の低い層が観察されないものが理想的であると考えています。)
3.本研究において最良と論じた接着システムが、臨床上最良であると考える根拠は何か。
(脱灰や樹脂含浸層などの機械的嵌合力に頼らず、歯質とレジンが接着する形態が理想であり、その上で接 着界面においても貯蔵弾性係数の低下などが力学的特性の低下が起こらないものが最良であると考えてい ます。本研究ではG2サンプルにおけるモジュラスマッピングにて、弾性係数が低い層が観察されなかった ためが示されたため、臨床上最良であると考察しました。)
両副査は、上記を含めた質問に対する回答が、いずれも満足のいくものであることを確認した。
主査 真鍋委員の質問とそれらに対する回答:
1.コンポジットレジンとボンディングの組成について違いを説明しなさい。
(コンポジットレジンは無機材料であるフィラーと有機材料であるマトリックスレジン、すなわちBis-GMA、
HEMA、3Gなどの機能性モノマーなどからできています。ボンディング材はマトリックスレジンのみからで
きています。この時のマトリックスレジンはBis-GMA、UDMAなどがベースとなっています。) 2.従来の接着強さを評価する物には何があるか。
(引張試験、微小引張試験、せん断試験、衝撃試験、剥離試験、クリープ試験などがあげられます。)
3.最新のレジンについてどのように使い分けることが理想的であると考えているか。
(近年は単純窩洞ではフロータイプを用い、複雑窩洞ではペーストタイプを用いて窩洞を単純化する傾向に あるとの報告がありました。流動性についてローフローのレジンで充填するとよいとの報告もありました。)
主査の真鍋委員は、両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張をさらに確認 するために上記の質問をしたところ明確かつ適正な回答が得られた。
本論文は本学大学院学位(博士)審査基準を満たしており、学位論文に値すると判断した。
(主査が記載)