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事実婚の法的保護 と内縁保護法理 についての一考察

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(1)

岡山大学大学院社会文化科学研 究科紀要第27(2009.3)

事実婚の法的保護 と内縁保護法理 についての一考察

古 川 瑛 子

1.はじめに

2.婚姻 と婚姻外男女関係 一内縁 と事実婚

3.男女関係 をめ ぐる社会の実態 と内縁保護法理の確立 (1)内縁問題の発生 と内縁保護法理

(2)準婚理論 による内縁の保護基準 と判例 ・裁判例 (3)準婚理論 による内縁保護の法的効果

(4)小括

4.事実婚の法的保護

(1)内縁概念の変化 と事実婚 (2)準婚理論の再検討

(3)事実婚の法的保護 についての学説 (4)学説の検討

(5)小括 5.おわ りに

1.はじめに

民法739粂 1項は、「婚姻 は、戸籍法 (昭和22年法律第224号)の定めるところにより届け出ること によって、その効力 を生ずる」 と規定 し、明治民法 (民法旧規定775条) を踏襲 し、届出婚主義 を採 用 している この規定 により、婚姻の届出の存否によって婚姻 と婚姻外男女関係 は区別 され1、届出 がなければ婚姻は法律上不存在 となる。そのため、明治民法下において、社会的には夫婦 と認め られ ていても婚姻の届出をしていないがために、法律上の正式な夫婦 として取 り扱われない内縁が生 じた。

しか しなが ら、届出婚主義 をとれば内縁問題が生 じるであろうことは、明治民法立案の際の法典調査

1明治民法審議 の法典調査会で、梅謙次郎 は、「七百八十八健 二於テ届出 卜云 ウモ ノガ婚梱成立 ノ要素ニナツタ以上ハ其要素 ヲ鉄イテ居 ルモノハ最早私通 デアツテ婚姻 デハナイ」 と、述べている (法務大 臣官房司法法制調査部監修 f法典調査会民法 議事速記録六 (日本近代立法資料叢書6

)

̲i212頁 (商事法務研究会、1984年))0

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事実婚の法的保護 と内縁保護法理 についての一考察 古川 輝子

会の審議の ときに予想 されていた ことであった 2。婚姻の届 出が出 されなかった主 な原因 として、嫁 として家風 に合 うか どうか、家の跡継 ぎの子 を出産で きるか どうか とい う伝統的婚姻慣行 によるもの、

明治民法の家制度 による戸主の同意 (明治民法750条)や父母の同意 (同772条)が得 られない、また、

法定推定家督相続人 (同744条)3は、他家 に入 ることがで きない等の婚姻 阻害要因による もの、法律 婚 に関心が薄い層 の存在 にとって届出制度が利用 しに くか った等がある4。そのため、判例 は、明治 民法制定当時か ら内縁 の不当破棄 を深刻 な問題 として受 け止めた。大審院大正4年1月26日判決 (氏 録21輯49頁) (以下、「大審院大正 4年判決とす る) は、傍論5で 「婚姻予約理論6」 によ り正当な 理由な く違約 した場合 は、婚姻予約の債務不履行責任 を認めた。そ して、最高裁第二小法廷昭和33年 4月11日判決 (民集 12巻 5号789頁) (以下、「最高裁昭和33年判決」 とす る) は、内縁 を婚姻 に準ず る関係 とす る 「準婚理論7」 によって内縁 の不当破棄 を不法行為責任 とした。以後、内縁保護法理で ある婚姻予約理論、準婚理論 により内縁の法的保護 を図って きたが、準婚理論が通説的地位 を占めて きた また、戦後、現行民法 の家制度の廃止、婚姻の届 出の普及8等 によ り内縁 は減少 している9。

しか し、昨今、従来の内縁 とは質的 に異なる 「事実婚」 とい う形態の婚姻外男女関係が現れた。事実 婚 は、夫婦共同生活 を してい るが、夫婦別姓 を実践す るため、戸籍制度や婚姻制度 に伝統的に浸透 し ている性別役割分業の回避10、婚外子差別の反発 、高齢者 による相続制度 の回避等様 々な理由で、意

2法典調査会で土方寧氏 は、届出婚主義 よ り旧民法人事編47条の儀式婚主義の方が慣習 に適 しているのではないか、 とくに 届出婚主義 をとると、儀式 をあげて届出を しない うちに当事者の一方が他方 を嫌い婚姻継続の意思 を失 ったような場合 は ど うするのか と質問 しているが、梅謙次郎は 「儀式 ヲ先二挙ゲテ置テ後 トカラ届出 ヲスルヤウナコ トガアックラ夫 レハ ドゥモ 仕方ナイ」 と答弁 している (法務大臣官房司法法制調査部監修 ・前掲注 (1)185‑186頁)0

3法定推定家督相続人は、明治民法 による家制度 において、家の永続 とい うことが重大 な要請であったため、 もし戸主 を失 っ た ときに家督相続人がいないことで家が断絶 しないようにす るために、法定推定家督相続人は家 を去ることがで きない と規 定 された (谷口知平 F日本親族法』 149頁 (信山社、復刻版、1989年))0

1 二宮周平 7事実婚の現代的課題』 3‑ 5頁 (日本評論社、1990年)、太田武男 『現代 の内縁問題』 9‑lo衷 (有斐閣、1996 年)0

5 川井教授 は、当該事件 についての結論 に対応す る判決理由でな くて も、当該事件 についての解決の指針 を示 しかつその理 由を説 く判 旨は広義の 「判決理 由」 に属す るから、婚姫予約理論 は傍論でな く、広義の 「判決理由」である とする (川井健

「内線の保護」F現代家族法大系2∠12頁以下 (有斐閣、1980年))0

6 婚梱予約」ない し 「婚姻の予約」 とい う言葉 は、婚姻外 の男女関係 に法的救済 を、与 えるか どうかが問題 になった事案 の処理に際 して、判例上発達 して きた言葉である (太田 ・前掲往 く4) 4頁)0「婚姻 の予約 とは、将来夫婦 になろうとい う 合意 (契約)であるが、 しか し、判例 は ‑ 婚鰯の儀式 を挙げて成立 した実質的な夫婦共同生活 も、届 出がないこと ‑

を婚姻の予約 とした。そ して、か ような実質的 な夫婦共同生活が一方の責 に帰すべ き事 由によって破綻 した場合 に、婚姻予 約の不履行 として損害賠償 を認めた」 (我妻栄 r親族法』188頁 (有斐閣、オンデマ ン ド版、2001年)).

7中川善之助 F日本親族法』280頁 (月 本評論社、1942年)0

8 挙式 ・同居開始 日と婚姻届出 目の期間が、 1ケ月未満の届出の割合は、1950年17.9%、1970年50.2%、1970年75.5%、1994 年73.9%、]年未満の届 出の割合は、1994年95.7%である (善積京子 ア近代家族 を超 える一非法律婚 カップルの声i19

(青木書店、1997年))。

9 内縁率は、1918年 までの人口静態統計、1920・1925年国勢調査 か ら推計 した内縁率 (有配偶者稔数 に占める内縁配偶者の 割合)か ら、男性約17%、女性約16%前後であった (二宮周平 「日本民法の展開 (3)判例 の法形成 一内縁」広中俊雄 ‑星 野英一編 F民法典の百年』343頁 (有斐閣、1998年))o現在の内縁率は、「内縁の全婚姻 に占める割合 は、今 日ではおよそ

2%と推測 されている (泉久雄 『親族法』 172貫 (有斐 閣、1997年))0

t()大村教授 は、「民法の定める r婚梱iその ものは、嫁役割 ・妻役割 を強制するものではない」(大村敦志 『家族法』242頁 ( 斐閣、第2版補訂版、2004年) とするが、戦後の民法改正要綱の起草委員会 による改正要絹原案の作成 において、祭紀 に関 する権利の承継の 「祖先の祭紀 を主宰すべ き相続人」の規定 (民897粂)は、「特別財産の相続の問題 は ・‑ 家族制度の名 残であると非難 を受ける一方、家族制度存置論者の攻撃 を防御す るのに若干の効果があったことを後 に思い知ったのであ り ま した」 (我妻栄編 ア戦後 における民法改正の経過二25‑26頁 (E]本評論社、 1956年))、 と述べ ているように、家制度が改 正民法の中に残存 してお り、嫁役割が残存 していると考 える。

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岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要第27 (2009.3)

図的に婚姻の届出を出さない ものである11このように事実婚が徐 々に増 えて きている12中で、事実 婚 に内縁保護法理によって法的保護 を与 えるべ きなのかが問題 となっている。準婚理論は、内縁が明 治民法下の婚姻阻害要因等で婚姻の届出が出せないという当事者の責に帰せ られない事由であるため、

内縁の当事者の救済を目的 として設けられたものである そのため、自らの意思で婚姻の届出をして いない事実婚に準婚理論で法的保護 をすることはするべ きでない とする学説上の批判があるそこで、

本稿では、事実婚 に準婚理論 による法的保護 を実現すべ きなのか検討 してい きたい と考えるなお、

重婚的内縁 は、一般的な内縁 と区別 して考察 しなければならないため、本稿では、対象に しない。

以下、婚姻 と楯姻外男女関係である内縁 と事実婚の概要 を述べ、それにかかわる内縁保護法理 を紹 介 し、事実婚 に準婚理論 による法的保護 を図るべ きか否かの学説 を考察 した上で、最終的に、事実婚 に準婚理論 による法的保護 を実現すべ きかを検討する

2.婚姻 と婚姻外男女関係一内縁 と事実婚

婚姻が成立するためには、民法739条 に規定 されるように、婚姻の形式的要件 として届出が必要で ある そのため、男女関係 において婚姻届 を出 している場合が 「婚姻」 とな り、婚梱届 を出 していな い場合は 「婚姻外男女関係」 となる婚姻外男女関係 は、「内縁」 と 「婚約13」「私通関係」に分けら れ、 さらに、「内縁」は、「狭義の内縁」 と 「事実婚」に分け られる内縁 とは、「社会的事実 として の夫婦共同生活体であるにも拘 わらず、婚姻の届出を欠 くために、法律上の夫婦 (姫神 ・配偶者) と 認め られない男女関係14」 をい う。「狭義の内縁」 とは、明治民法下 において①戸主や父母の同意が 得 られない、②法定推定家督相続人は、他家に入ることがで きない等の婚姻阻害要因、③法律婚 に関 心が薄い社会層の存在 にとって届出制度が利用 しにくかった等で不可避的に生 じていた男女関係 をい う そこで、本稿では、「内縁」の中で特 に区別する必要のあるときは、 この 「狭義の内縁 を 「伝 統的内縁15」 と称することにする また 「事実婚」 とは、婚姻意思については多様 とされるものの、

夫婦共同生活 として一定期間の同居があ り、社会的に釆認 されていなが らも、意図的に婚姻届 を出 し ていない事実上の夫婦関係である。

11二宮 ・前掲注 (4)239‑248頁。

12欧米では、近年、同棲 を積極的に選択する人々が増加 し、アメリカの同棲 カップル数は、1970年52.3万組、1994年366.1 組に達 し、同棲世帯率 も、1970年1.2%、1994年6.3%と増加 している。日本の国勢調査 ・人口動態統計 には 「非婚同棲世帯 とい う分類 カテゴリーが設けられていないため、非法律婚率の統計数値 はない (善積 ・前掲注 (8)18‑22頁)0

13婚約 とは、将来婚梱 しようとい う確定的な合意であ り、婚約は一種の予約であるが、一方が予約完結権 を有するものでは な く予約完結権 を行使 して婚姻には到れない。 また、婚約の成立には、結納の授受、婚約指輪の交換等一定の形式は必要で はない (我妻 ・前掲注 (6)189頁)0

14我妻 ・前掲注 (6)194頁。

15大村 ・前掲注 (10)224頁。

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事実婚の法的保護 と内縁保護法理 についての一考察 古川 瑛子

3.男女関係 をめ ぐる社会の実態 と内縁保護法理の確立

(1) 内縁問題の発生 と内縁保護法理

① 内縁問題の発生

明治民法 (民法旧規定)は、「婚姻ハ之 ヲ戸籍吏二届出ツルニ因 リテ其効力 ヲ生ス」(明治民法775条) と規定 し、婚姻の届出主義 を採用 した。当時、梅謙次郎起草委月 は、「段々其儀式 ヲ挙ゲル 日こ届 出 ヲスル ト云 フコ トニ為 ラウ ト思ヒマス16」 と述べ、届出が浸透 してい くことを想定 していた。 しか し、

実際 には婚姻の届出が浸透す るには時間がかか り、数多 くの内縁関係が発生することとなった。婚姻 の届出が出されなかった原因 としては、(i)婚姻の届出は、家制度 により婚解の成立 とするだけでな く入籍 という家の一員になる地位の取得 とかかわるため、跡継 ぎを懐胎するまで嫁 として認めない、

あるいは、嫁 として家風 に合 うか どうかわかるまで婚姻の届出をしない という伝統的婚姻慣行、(ii) 明治民法 において、「子 力婚姻 ヲ為スニハ其家二在ル父母 ノ同意 ヲ得ル コ トヲ要ス但男力満三十年女 力満二十五年二達 シタル後ハ此限二在 ラス」 (明治民法772粂) と規定 されていた子の婚姻 に対する父 母の同意権 に関す る規定、また、「家族 力婚姻又ハ養子縁組 ヲ為スニハ戸主ノ同意 ヲ得ルコ トヲ要ス」

(同750条) と規定 されていた戸主の同意権 に関する規定、「法定ノ推定家督相続人ハ他家二入 り又ハ 一家 ヲ創設スルコ トヲ得ス」 (同744条) と規定 されていた法定推定家督相続人の去家の禁止 に関する 規定等の婚姻阻害要因、(iii)婚姻の届出をすることに関心が薄い社会層があ ったことに加え、当時の 届出制度が今 日の ような記入式の届出用紙ではなく書式がわか らない等利用 しに くい ものであったこ とが挙 げられる17。このように、婚姻の届出のない内縁が当時不可避的 に生 じ、内縁関係 にある者の 一方が理由な くその関係 を破棄 した場合、主 として、社会的弱者である女性 に深刻な問題 として現れ た。

旧民法の儀式婚主義の建前が、明治民法で届出婚主義に改め られるときに、内縁問題が生 じる可能 性があることは、立案参画者 にも予想 されていたことであった。そのため、届出婚主義 を再検討 して 何 らかの立法が必要であるとする見解18と届出婚主義 をとりなが ら内縁問題の解決 を図る見解があ り、

内縁の不当破棄や内縁配偶者の労務災害による遺族補償の問題19を内縁保護 とい う形で解決 していっ

16法務大臣官房司法法制調査部監修 ・前掲注 (1)186頁。

17二宮 ・前掲注(4) 3‑ 5頁o1923(大正12)年、京都の西陣地区の内縁の調査結果で、戸主や法定推定家督相続人が29%、

戸主の不 同意 による ものが12.8%、妻の出産待 ちが8.1%であ り、内縁 の約半分が 『家』制度 によるものであ り、全体 の 約四分の‑が無関心 による内縁である とす る (中島玉音 「内縁の夫婦 に就いて」法学論叢1033‑12頁(1923年))0

18臨時法制審議会 の諮問 に対 す る答 申 として立案 された民法改正要綱案 (1925年) は、儀式婚主義 を建前 に していた (太 田 武男 『内縁の研究i59頁 (有斐 閣、1965年)).

19社会保障法 は、現実の夫婦共 同生活 を対象 とす る必要性が高 く、内縁 関係 を無視 で きない状況 であったため、内縁配偶 者 の遺族扶助料 ・家族手当等 を支給す るために 「配偶者」の枠 を広 げることになる。例 えば、大正12年改正の工場法15条 は、

遺族補償 の受給権者 に、「本人 ノ死亡 ノ当時其 ノ収入二依 り生計 ヲ維持 シタル者」 を加 え、内縁配偶者 を保護 した。他 に、

昭和8年改正の 「恩給法」、母子保護法 (昭和12年),「労働者年金保険法施行令」(昭和16年)等がある (太田 ・前掲注 (4) 25‑27頁)0

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岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要第27 (2009.3)

20。戦後 の民法改正21において、民法739条 は、「婚姻 は、戸籍法 (昭和22年法律 第224号)の定め るところにより届 け出ることによって、その効力 を生 じると規定 され、婚姻 の届出について、明治 民法の届出主義 を踏襲 し、婚姻の届出を成立要件 とした。そのため、改正 に至 った当初は戦前 と同 じ

ような内縁問題が生 じた。

② 内縁保護法理一婚姻予約理論 と準婚理論

明治民法下の当初の判例 は、婚姻意思がないにもかかわらずあるかの ように女性 を欺いて挙式同棲 の後、婚姻 の届 出を しない まま離別 した行為 に対 して詐欺 による名誉侵害 として不法行為責任 を認め た22。 しか し、届出婚主義の もとでは、届出をしていない内縁 関係 は、法外 関係 とされていた。ゆえ に、媒酌人 を立て挙式 し数年 に及ぶ同棲後、女性が入籍 を拒絶 された事案 においては、大審院は、夫 婦 と同様 の関係が生 じていた として も、その関係 は双方の 自由な意思でなされた ものであるとして、

不法行為 に基づ く損害賠償請求 を認めてはいなかった23。

内縁保護の出発点 となった婚姻予約有効判決24である大審院大正 4年判決 は、女性が挙式後 3日目 に実家 に帰 り、 まもな く男性が入院 したため男性宅 に戻 り1泊 したが、入院 している男性の見舞いを せずに再 び実家 に帰 ったため、その後男性か らの内縁解消 に対 して女性が不当破棄 による不法行為 に 基づ く損害賠償請求 を した事案である 大審院は、「損害賠償ハ違約 ヲ原因 トシテ請求 ヲ為ス コ トヲ 要 シ原因 トシテ請求ス‑キモノニ非ス然ルニ本訴請求ハ全 ク不法行為 ヲ原 因 トシテ主張 シタルモノナ ルコ ト記録上明確 ニシテ其原 因 トスル所既二失当ナレハ此点二於 テ棄却スヘキモノ トス」 と判示 し、

違法性 はない とし不法行為 は成立 しない とした。 しか し、傍論で 「婚姻 ノ予約ハ将来二於テ適法ナル 婚姻 ヲ為スヘキコ トヲ目的 トスル契約ニシテ其契約ハ亦適法ニシテ有効 ナ リ トス法律上之二依 り当事 者 ヲシテ其約 旨二従 ヒ婚姻 ヲ為サ シムル コ トヲ強制スルコ トヲ得サルモ当事者 ノー万 力正当ノ理由ナ クシテ其約二違反 シ婚姻 ヲ為ス コ トヲ拒絶 シタル場合二於テハ其一方ハ相手万 力其約 ヲ信 シタルカ為 メニ被 ム リタル有形無形 ノ損害 ヲ賠償スル責二任スヘキモノ トス」 とし、婚姻 の予約 は有効であ り、

正当な理由な く予約 を破棄 した場合 には、債務不履行の責任が成立す るとした。 しか し、学説では、

婚姻予約理論 は、婚姻の予約 (内縁)の有効、無効 を問題 に していたにす ぎず、事実上の内縁関係 に 法律上の効果 を与 えるには無力であるとして、内縁 を婚姻 に準 じた関係 として捉 え、事実上の夫婦の 共同生活継続 中の関係 を、婚姻 に準 じた法律関係 としてその法的保護 を認め ようとす る準婚理論 を強 調す る

20太 田 ・前掲注 (4)」1頁。

21起草委員会第一事案検討会では、婚姻の事実婚主義 について議論 され、婚姻の届出が、憲法の当事者の合意で成立す る と い う規定 (憲法24粂)違反ではないか とい う疑問が一部 にあった と述べている (我妻編 ・前掲注 (10)32頁).

2Z大判明治441月26日民鐘 1716頁。

23大判明治443月25日民録17170頁。

24広 中教授 は、大審院大正4年判決 は、当時は、準楯的な内縁保護 は、制定法 に反す る解釈 とな らざるをえないが、民法典 で意識的 に規定が設け られなか った婚姻予約 について欠故補充 を行 うとい う方法 によ り、内縁の不当破棄 に基づ く損害賠償 について導入 を図った法形成は評価すべ きもの とす る (広 中俊雄 F民法解釈方法 に関す る十二講』31頁 (有斐閣、1997年))0

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事実婚の法的保護 と内線保護法理 についての一考察 古 川 輝千

その後、最高裁昭和33年判決は、挙式 をし、事実上の夫婦 として同居 していた女性が運送業である 家業や家事 に追われる毎 日の中、姑の小言 も加わ り健康 を害 したため、実家 に戻 ったものの肺結核で あることが分か り、男性か ら一方的に関係 を解消 されたことに対 して不法行為 による慰謝料請求、ま た民法760条の婚姻費用分担の準用 を請求 した事案である 最高裁は、「いわゆる内縁 は、婚姻の届出 を欠 くがゆえに、法律上の婚姻 とい うことはで きないが、男女が相協力 して夫婦 としての生活 を営む 結合である点 においては、婚姻関係 と異 なるものではな く、 これを婚姻 に準ずる関係 (下線 は、筆者 による) とい うを妨 げない。 ‑ ・内縁 も保護せ られるべ き生活関係 に外 ならないのであるから、内 縁が正当の理由な く破棄 された場合 には、故意又 は過失 により権利が侵害 されたもの として、不法行 為の責任 を肯定することがで きるのである されば、内縁 を不当に破棄 された者は、相手方 に対 し婚 姻予約の不履行 を理由 として損害賠償 を求めることがで きるとともに、不法行為 を理由 としてその損 害賠償 を求めることもで きる もの といわなければな らない。」 とし、内縁 を 「婚姻 に準ずる関係」で あるとする準婚理論 によ り準姫 としての身分的地位の不当な侵害 として不法行為責任 を認容 した。 さ らに、婚姻予約の不履行 を理 由 として損害賠償 を求めることもで きるとした。内縁の不当破棄 につい ては、判例 は 「不当破棄 については 『婚姻予約』 として婚姻意思 を中心 に幅広 く婚外関係 をカバー し、

その他の問題 については個別的 に事実上の夫婦共同生活 を尊重 した解決 をす る とい う、二元主義 に 立っている25」 といえるとす る。その後、「婚姻 に準ず る関係 とす る準婚理論 によって、法律婚 に 与えられる効果 を内縁 に適用 し対応 してい くこととなった。

(2)準婚理論 による内縁の保護基準 と判例 ・裁判例

① 準婚理論 による内縁の保護基準26(通説)

法律婚が成立するためには、実質的成立要件 として、婚姻意思 (民742条)があること、婚姻障害 (民731

‑737条)がないこと、形式的要件 として、婚姻の届出 (民739条)があるとい う法律上の要件 をすべて 具備 していることが必要であ り、これ らの要件が具備 されて初めて法律婚の効果 を得 ることになる。

準婚理論 による内縁の成立要件27は、主観的要件 として、当事者間に社会的観念上の夫婦共同生活 と認め られるような関係 を成立 させ ようとする合意である 「婚姻意思」が必要 とされている28。客観

35二宮 .前掲往 く4)lo貰o

26我妻 ・前掲注 (6)197‑200頁、二宮 ・前掲注 (4)12貫。

27内縁の成立要件 に民法の定める婚梱成立の実質要件 を備 えていなければならないか とい うことについて学説はい くつかに 分かれている。内線 は、法律的形式 をふ まずに社会的ない し習俗的に自生 して しまった関係であるか ら、法的効果ない し保 護の対象 となる内縁 も、民法の定める婚姻の成立に関する実質的要件はすべて必要でないとする全面的要件不要説、社会的 に自生 して しまった関係であるとして も、法的効果ない し、保護の対象 となる内縁は、民法の定める婚姫の成立に関する実 質的要件の全部が必要であるとす る全面的必要説、婚姫の成立に関する実質的要件の一部 を必要 とする部分的必要説、内縁 の成立のための要件 を、中核的要件 (姫神意思、同棲の事実 と世評 もしくは公然性) と付随的要件 (婚姫適齢、重婚 ・近親 婚の禁止などの実質的要件)に分 け、付随的要件 は必ず しも必要でないが、内縁の成立 には中核的要件が必要であるとする 折衷説、要件は付与 されるべ き法的効果 との関連 において相対的に勘案 されるべ きとする相対説がある (太田 ・前掲往 (4) 39‑40頁)0

28 婚姻の意思に届出の意思 まで含めることになれば、現行制度の下では、重婚的内縁以外 は、すべて現時点で届出可能で あるにもかかわらず、届出をしていないか ら、 したがって、婚姻の意思がな く、内縁ではない とい うことになりかねない」

が、内縁 とは、現実に起 きた共同生活関係 に村する法的保護の間蓮であるから届出意思 まで要求するのは、内縁保護法理に 反するとして届出意思は必要ない とす る (二宮周平 ア事実婚』20頁 (一粒社、2002年))O

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(7)

岡山大学大学 院社 会文化科 学研 究科紀要第27 (2009.3)

的要件 として、「当事者 間に社会観念上夫婦共 同生活 と認 め られる ような共 同生活 の事実が存在29」 しなければならない とされている。つ ま り、内縁 は婚姻の届出がない事実上 の夫婦の問題 であるか ら、

夫婦共同生活の実体が存在 しなければな らな く、一般 的には、関係 の安定性 と継続性 を示す もの とし て、同居が一定期 間継続 していることか ら証 明 されている300婚姻 障害要件 は、未成年の父母の同意

(民737条)、婚姻適齢 (民731条)、再婚禁止期 間 (民733粂) は、内縁 の成立 において考 える必要 は ない とされ、 また、重婚的関係 (民732条) と、近親婚的関係 (民734‑736粂) については、公序 良 俗 の観点か ら問題がある として、内縁保護 の限界 とされて きたが、判例 は、近年、重婚的関係 で も、

婚姻関係が事実上離婚状態 にある場合 には、重婚的内縁 として成立 を認め31、 また、近親婚的な関係 に対 して も、近親婚的内縁 として成立 を認めるに至 っている32。

② 内縁 の保護基準 に関す る判例 ・裁判例

内縁 に関する裁判例 は多 く存在す るが、主 に婚姻意思 と夫婦 同居生活 についての判例 ・裁判例 を取 り上 げる。東京地裁 昭和49年7月16日判決 (判時769号65頁) は、内縁 の成立が認め られなか った事 案 ではあるが、内縁 関係 の成否 について、詳細 に判断 した事例であ る とされる男性が交通事故 によ り死亡 し、女性が加害者 に対 して損害賠償請求 を した事案で、3カ月余 りの同居 があ った ものの、そ の共同生活の永続性 には疑問がある として、当該男女関係 は一時的な結合 の男女 関係 にす ぎな く夫婦 と同視 しうる関係 とはいえない とした。その判 断にあたって、内縁 は、「終生 にわたって夫婦 として 生活 を共同にす る意思で、社会的に見て法律上の夫婦 と同視 し得 る生活 関係」 を要す る として、当該 男女関係 の経歴、生活状態お よび同居期 間、第三者の認識、事故前後の事情等 を考慮する とした。千 葉地裁佐倉支部昭和49年7月15日判決 (交通民集7巻4号1026頁) は、男性が事故で死亡 し、女性が 加害者 に対 して損害賠償請求 を した事案であるが、挙式 を し、新婚旅行 に も行 き、葬儀 には妻 として 列席 してい る等の事情か ら、2週 間程 の同居 で も、内縁の成立が認め られた。 また、岐阜家審昭和57 年9月14日判決 (家月36巻4号78頁)は、内縁解消 に基づ く財産分与 を相手方 に求めた事案であ るが、

「ず るず るべ った りと性 関係 に入 り同棲生活 を続 けて行 った ものであって、その間にはっきりした結 婚の約束が交 わされた形跡 もな く、む しろ申立人側 の入籍 (婚姻届)要求 は、相手方 よ り拒否 ない し 無視 され続 けていた ものであ」 るため、「相手方の婚姻意思 には疑義が ないで もない。」 としなが ら、

同居が7年近 くにも及び、保証人 に もなっていること等か ら、事実上の妻 として判断 し、内縁 の成立 を認めた。 また、大阪地裁昭和60年4月19日判決 (交通民集18巻2号537頁) は、交通事故で男性が 死亡 し、女性が損害賠償請求 を した事案であるが、挙式する予定があった ことや、女性 の妹 の結婚式 に男性が女性の夫 として出席す るな ど、男性 の葬儀 には女性が妻 として列席 し、冠婚葬祭 で家族 の‑

29我妻 ・前掲注 (6)198頁。

30二宮 ・前掲注 (28)24頁。

31最判平成17421日刊 タ1180171頁。

32最判平成1938日家 月597号63頁。

47

(8)

事実婚の法的保護 と内縁保護法理 についての一考察 古川 瑛チ

月 として扱われていたことか ら、1年9ケ月程の同居で内縁の成立 を認めた。 さらに、大阪地裁平成 3年8月29日判決 (家月44巻12号95頁)は、国家公務員であった男性の死亡退職金の受給権33を、女 性が男性の母お よび兄弟3名 と争 っていた事案であったが、入院の際の看病、夫婦 としての旅行等、

お互いの居所 を行 き来するパー トナー関係 として16年間 (うち3年弱の中断がある)安定 した関係 に あったものの、共同生活 もな く、家族への紹介 もないが、「いずれ正式 に婚姻届出がなされることを 前提 として、夫婦 と同様の認識 をもってA男 との関係 を継続 していたものであ り、両者の関係が ・・

長期 にわたって継続 して きたことは、

A

男が被告の認識 と全 く異なる認識で交際 を継続 してきたを窺 わせるに足 りる的確 な証拠 もない」 とし、両者の間には 「精神的にも日常的の生活 においても相互に 協力 し合 った一種の共同生活形態 を形成 していたもの」 として、事実上の夫婦であることを認めて、

内縁の成立 を認めている しか し、「パー トナーシップ関係」である婚姻外男女関係の一方的解消 に 関する不法行為責任が初めて問われた事案である最高裁第‑小法廷平成16年11月18日判決 (判時1881 号83頁、判夕1169号144頁) は、吊約16年間にわたる関係 と二人の子の誕生、(ii)住居 と生計の別、(lil) 女性の養育放棄、(lV)婚姻の意図回避、(V)関係存続の合意の欠如 とい う5つの事情 をあげ当該婚梱外の 男女関係 は、「婚姻及びそれに準ずる」関係ではない とした。 さらに、存続保障につ き何 らかの 「関 係の存続 に関する法的な権利 ない し利益」 を有 しないとして、不法行為による損害賠償請求を認めな かった。これは、当該男女関係が、準婚理論 により婚姻の効果の規定が類推適用 される内縁ではな く、

関係存続 にその他の法理で も法的な権利義務関係はない とするものである34。

従来の裁判例では、婚姻意思 とみ られる挙式 という明 らかなものがない場合、婚姻意思の認定方法 は、一般的には性的関係の継続性、妊娠の有無、家族や第三者への紹介、見合い ・結納 ・挙式等の慣 習上の婚姻儀礼の有無等か ら、認定 されているとする35。夫婦共同生活は、一般的に同居が一定期 間 の継続が必要であるが、挙式等慣行上の婚姻儀礼があれば短期間で も内縁の成立が認定 されている。

しか し、それらがない場合 は、同居が短期間であると内縁の成立は認め られに くい と考えられる36。

(3)準婚理論 による内縁保護の法的効果37

(∋ 内縁継続中の法的効果

内縁が成立すると、準楯 として婚姻法の効果 を適用 されることになるが、内縁保護の法的効果は、

法律婚に関する民法の規定の効果の通用 をすべて認められているわけではない。内縁が継続中の法的

33国家公務員退職手当法 は、遺族の範囲 を及び退職手当を受ける順位 について、第一順位 を配偶者 (届出をしていないが、

職月の死亡当時事実上婚梱関係 と同様の事情 にあった者 を含む。)、第二順位 を、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で職員 の死亡当時主 としてその収入 によって生計 を維持 していたもの、第三順位 を右第二順位 に上げる者以外、職月の死亡当時主 としてその収入によって生計 を維持 していた親族、第四順位 を子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で右第二順位 に該当 しな い もの、 と定めている (国家公務員退職手当法第11粂 1・2項)0

34水野紀子 「最高裁平成16年刊批」 ジュ リ1291号79 (2005年)0

35二宮周平 『事実婚の判例総合解説』20頁 (信 山社、2006年)、同 ・前掲注 (28)22頁。

36二宮 ・前掲往 く28)24頁。二宮 ・前掲注 (35)23頁。

37我妻 ・前掲注 (6)20ト 210頁。

48

(9)

岡 山大学大学 院社 会文化 科 学研 究科 紀 要第27 (2009.3)

効果 としては、同居 ・協力 ・扶助義務 (民752条)、貞操義務 (民770条1項1号)、婚姻費用分担義務 (民760条)、 日常家事債務の連帯責任 (民761条)、夫婦特有財産 (民762条1項)、帰属不明の財産の 共有推定 (民762条2項)の規定が適用 される38。社会保障上では、社会保障が、事実上の家族共同 生活 を対象 としているため、健康保険の各種給付 (健康保険法3条7項)、育児 ・介護休業の利用が 認め られている。 しか し、夫婦 同氏 (民750条)、子の嫡出性 (民772条)39、成年擬制 (民753条)、姻 族関係 の発生 (民725条)等の法律婚の規定 は適用 されない。 また、 自動車事故 の損害賠償請求の場 合の過失相殺 (民722条2項) において、被害者の過失 には、同乗被害者である女性の内縁配偶者 に つ き運転者の過失 を掛酌 してこれ と同率の過失相殺が認め られている400

(参 内縁解消時の法的効果

内縁の解消 には、当事者の死亡 による解消 と生存 中の解消がある。内縁 は、法の規定がない事実上 の関係であるため、合意は もちろんの こと一方的に関係 を断つ ことがで きる。 しか し、内縁の一方的 解消 に正当事 由のない場合 は、不当破棄 として、相手方に対 して損害賠償責任が発生する 生存中の 内縁解消の法的効果 については、婚姻 の財産分与請求権 (民768粂)が類推適用41されるが、死亡 に よる解消の場合、生存 当事者 に配偶者相続権 (民890条)は認め られず、財産分与の規定の適用 もさ れない42。ただ し、相続人不存在 の場合 は、特別縁故者 としての相続財産分与 (民958条の3)の規 定がある。居住権の保障 については、持 ち家の場合、相続人か らの明渡 し請求 を権利の濫用 として斥 けられることがで きる43。借家の場合 については、賃借人か らの明渡 し請求 に対 し、内縁生存配偶者 は、相続人の借家権 を援用 して対抗で きる44。 また、借家法改正 (1966年) により、相続人不存在の 場合の借家権の承継 (借家7条の2、借地借家法36条)が規定 され、内縁配偶者が賃借人の権利義務 を承継することがで きる。 また、事故死の場合の損害賠償請求権 について、加害者 に対 して、財産的 利益 (扶養請求権の侵害)お よび慰謝料 (民711条)の損害賠償が認 め られる45。社会保障上、内縁 の保護が明記 されている事項 として、厚生年金保険法3条 2項 は、「この法律 において、『配偶者』、『夫』

及び 『妻』 には、婚姻の届出を していないが、事実上婚姻関係 と同様 の事情 にある者 を含む もの とす る」 とし、厚生年金の遺族年金の受給権 を与 えている 同様 に、労働者災害補償保険の遺族保障手当 の受給権 (労働者災害補償保険法16条の2第1項)等がある。

(4)小括

38住民票 に世帯主 との続柄記載 に 「妻 (未届)」 とすることが可能である (二宮周平 『家族 と法 一個 人化 と多様化の中で‑』

58頁 (岩波書店、2007年))0

39子 は非嫡出子 になるが、住民票 は、19953月か ら、婚内子 も婚外子 も 「子」に統一 され、続柄記載 を訂正 した。戸籍 も、

200411月か ら婚外子 について、母 を規準 に 「長女長男」型で記載 される改正が行 われ。婚内子 との記載差別は廃止 され、

日常生活での困難 さは解消 されている。 また、婚外子 だけなら相続の差別 も生 じない (二宮 ・前掲注 (38) 8 ・58頁)0

40最判平成194月24日刊時197054頁。

41広島高決昭和386月19E]家月1510130頁 ほか0

42最判平成123月10日民集5431040頁 ほか。

43最判昭和39年10月13日民集1881578頁。

44最判昭和422月21日民集211155頁 ほか。

45東京地判昭和364月25日家月13896頁 ほか。

49

(10)

明治民法が、婚姻の届 出主義 を採用 したため、「家」制度上の制度的阻害要因や伝統的婚姻慣行、

婚姻の届出に対 して無関心 な社会層の存在等 による届出のない事実上の婚姻関係である内縁が発生 し た。大審院大正4年判決は、婚姻予約理論 により、最高裁昭和33年判決 は、内縁 を婚姻 に準 じる関係 であるとして準婚理論 による法的救済 を図った。以後、準婚理論 は定着 し、今 日に至るまで通説的地 位 を得 るに至 っている。準婚理論 による婚姻法の効果 を適用 される内縁の成立 には、婚姻意思 と夫婦 共同生活の事実上の存在が必要であ り、一定期間の継続 した同居 の実在か ら証明 されている。 しか し なが ら、判例 ・裁判例 は、婚姻意思があったとは明確 にいえない男女関係 にも内縁 として認定 し、短 期 間の同居で も、挙式や冠婚葬祭等で夫婦 として扱われていることがあった場合 には、夫婦共同生活 があったとして内縁の成立 を認めるなど、次第に婚姻意思 と夫婦共同生活の規準 を緩和 をして きた。

また、内縁 に対する法的効果は、今 日、かな り婚姻 に近づいている といえる46。

4.事実婚の法的保護

(1) 内縁概念の変化 と事実婚

戟後、民法典の改正 により家制度が廃止 され、家制度 に由来す る制度的阻害要因 (戸主 ・父母の同 意、法定推定家督相続人等)がな くなったこと、婚姻の届出が90%以上 に及ぶに至 ったことにより、

内縁数 は減少 し、昭和30年以降、内縁の形態が質的に変化 した47。明治民法下 において、やむを得 な く内縁の妻 となった女性‑ の救済 として、内縁保護法理が果た していた 「伝統的内縁48」「法律 的 ・ 必然的内縁49」「止むをえざる内縁50」「古典的内縁51」「強い られた内縁52」 とい う類型の内縁 は、意 図的に選択 された事実上の婚姻 関係 である 「故意的 ・選択的内縁53」「事実的 ・偶然的内縁54」「選ば れた内縁55」「現代的内縁56」‑ と変化 して きている57。

16大村 .前掲注 (10)227頁o

IT武井正臣 「内縁の法的保護の再検討」高梨公之教授還暦祝賀 『婚姻法の研究 (上)』 158頁 (有斐閣、1976年)、太田 .前掲 (4)87‑89頁、青山道夫‑有地亨編著 『新版注釈民法 (21)親族 (1)亡259頁 〔二宮孝富〕(有斐閣 2004年)).

48大村 ・前掲注 (10)224頁。

19中川幸之助教授 は、内縁の発生原 因を、嫁が家風 に合 うか どうか、家の後継 ぎの子 を出産で きるか どうかわかるまで婚姻 届 を出 さない原因のものを 「故意的 ・選択的内縁」、法廷推定家督相続人は他家 に入ることがで きない、両親 ・戸主の同意 がな くて婚姻届が出せない等法的な婚姻 阻害要因が原因の ものを 「法律的 ・必然的内縁」、工場 ・鉱山労働者層の法律知識 の欠乏や関心がないことと、届出制度の利用の不便 さで婚姻届が出されていない原因によるものを 「事実的 ・偶然的内縁」

と表現 し、さらに 「故意的 ・選択的内縁」に中に、男女対等の考え方か ら選ばれた内縁 を挙げているとする (二宮 ・前掲注 (4) 5‑ 6頁、太田 ・前掲注 (4)13頁)0

50武井 ・前掲注 (47)159頁。

51武井正臣 F内縁姫の現状 と課題i 7頁 (法律文化社、1991年)0

r'2大村 ・前掲注 (10)227頁。

53二宮 ・前掲注 (4) 5‑ 6頁。

51二宮 ・前掲注 (4) 5‑ 6頁。

55大村 ・前掲注 (10)227頁。

56武井 ・前掲注 (47)151頁。

57青山‑有地 ・前掲注 (47)259貫。

50

(11)

岡山大学大学院社会文化科学研 究科紀要第27 (2009.3)

今 日、存在する内縁 は、(i)重婚 ・近親婚等の婚姻障害があるため婚姻届が出せ ない場合、(ii)鰭 姻後のわずかな期間婚姻の届出が遅れている場合、(iii)婚姻の届出をしないことの意思 に意味 を認め ている場合があ り58、1970年代以降、(iii)の ような内縁 に対 して 「事実婚」 とい う表現が用い られ始 めた。

1970年代 には、婚姻外男女関係の多様化 をあらわす もの として、婚姻意思の唆味な関係、継続的同 居のない関係等が同棲 として話選 になったが、法律婚 を前提 としていないために、内縁 として消極的 評価 を受け、内縁の保護の限界論が展開された。その後、事実上の共同生活 をしているが、意識的に 法律婚 を拒否 し届出をしないカップルが 「事実婚」 として社会的に認め られ始めた。事実婚は、夫婦 別姓の実践、戸籍制度や婚姻制度 によって伝統的に浸透 している家意識 による 「嫁役割」「妻役割」

意識等 による性別役割分業への反発、婚外子差別への批判、高齢者 による相続制度の回避などの様々 な理由で結合 される男女関係で、意図的に婚姻届 を出さない ものである 事実婚 と伝統的内縁は、当 事者の姫鱒の届出意思の有 り様 に違いがある590伝統的内縁は、明治民法の家制度上の婚姻阻害要因 や伝統的婚姻慣行あるいは法律婚への関心が乏 しい社会層の存在等か ら、不可避的に生 じていたもの で、当事者には、社会通念上の婚姫意思が存在 している しか し、事実婚は意図的に婚姻の届出を出 さず、伝統的内縁 と同様の夫婦共同生活 を行 うというものである600

(2)準婚理論の再検討

準婚理論 は、経済的に男性 に依存 していた女性が、内縁 を一方的に解消 されると受ける精神的ある いは経済的ダメージの救済のために展開 していた。 しか し、準婚理論で法的保護 を図った内縁 に、準 婚理論の提唱者が予定 していなかった試験楯的な内縁が存在 していたことが、戦後早 くか ら指摘 され 問題 となっていた61。つまり、婚姻外男女関係 には従前 より、(ア)事実上の夫婦、(イ)純粋 な婚約、(ウ)伝 統的な結婚習俗 における未完成婚 (試婚)、匡俳 婚 (結婚的結合 とはいえない男女関係)があ り、 と

くに(ア)と(ウ)には、質的な相違があるとして、(ア)と(ウ)を区別 しないで内縁 と規定することを批判62され ていた。 さらに、明確 な婚姻意思 を持たない試楯的な内縁は、届出がなされるまでは、 自分たちの関 係は正式なものではない ことを当事者は認識 していたとして、内縁 を一律 に準婚理論で法的に保護す

ることへの批判が強 くあっt 63.

また、フランス法で、事実婚の法的地位 に対 して 「準婚関係等 を決定 して、これを全面的 ・包括的 保護 を与えるとい う手法 をとらず、一般的規定の適用 による解決 をとらざるを得 ないのは、婚姻 によ

58鈴木禄弥 『親族法講義』86‑87頁 (創 文社、1988年)、鈴木禄弥 ‑唄孝一 『人事法Ⅰ』157頁 (有斐 臥 1980年)、内田貴 『 法 Ⅳ親族 ・相続』144頁 (東京大学出版会、補訂版、2004年)0

59二宮周平 「内縁 と事実婚」判 タ1100号98貫 (2002年)0 60二宮 ・前掲注 (59)98頁。

61水野紀子 「事実婚の法的保護」石川稔=中川淳=米倉 明編 『家族法改正‑の課 70貫 (日本加除出版、1993年)0 62二宮 ・前掲注 (4)33頁、唄孝一 「内縁 ない し婚姻予約」法教3 37‑41 (1962年)0

63二宮 ・前掲注 (4)3ト 36頁。

51

(12)

事実婚の法的保護 と内線保護法理 についての一考察 古川 理千

る法的拘束 を望んでいない当事者 に婚姻法の効果 を与 えることは、当事者の意思 に反する、あるいは 法律婚 と事実婚 は全 く違 った関係であ り、婚姻効果 を事実婚 に認めることは、婚姻制度の存在価値 を 失 わせ ることになる といった原則論があるか らである64」 とす る。 しか し、 日本 において、「法律婚 が唯一の正当な関係 だ とい う規範意識は、戸籍制度 と結 びついて極めて強固なものになってお り、内 縁 に法的保護 を与 えた として も、婚姻制度が揺 らぐ65」 ことはなかった。 このため、 日本法の婚姫制 度 は、欧米法 にあるような当事者の婚姻の意思や婚姻制度の意義 を考 えることな く、内縁保護法理 を 用 いて きた という批判 も出て きている66。現在 の内縁 の実態 は、準婚理論が対象 とした時代 の伝統的 内縁 とは異 なってお り、婚姻の届 出に制約はな く、女性 も経済的に自立で きるようになっているのに、

意図的に婚姻届 を出 さない事実婚 を準婚理論 により法的に保護することが実現 されるべ きなのか学説 上議論がなされている67。

(3)事実婚の法的保護 についての学説

事実婚 に何等かの法的保護 を与 えることについては学説上異論がない。 しか し、その法的保護 につ いては、内縁保護法理 による説、契約理論 による説、相対的効果説 による もので分かれている。①事 実婚の法的保護 を内縁保護法理で実現す る説 には、準婚理論 による法的保護 を認める説 (A説) と自 己決定権 による内縁保護法理で法的保護 を認める説 (B説) とがある それに対 して、②事実婚 に内 縁保護法理 による法的保護 を認めない とする説は、内縁 は準婚理論で法的保護 を認めるが、事実婚 は 契約理論での法的保護 を認めるとす る説 (C説) と、内縁 ・事実婚 に契約理論での法的保護 を認める が、準婚理論で法的保護 を認めない とする説 (D説)がある

① 事実婚 に内縁保護法理で法的保護 を認める学説 A説 ;事実婚 に準婚理論 による法的保護 を認める学説68

相当期間の共同生活の継続 とい う事実か ら婚姻意思の存在 を推認 し、時間の経過 によって婚姻意思 にもとづ く永続的な結合 として、社会的に承認 される夫婦関係 に発展 した事実婚 は、内縁 として保護 される とす る また、「生涯の結合 を意図 して営 まれている男女 の結合 (事実婚) については、準婚 理論 は問題処理方法 として今 日で も極 めて有能な性質 を持 っている69」か ら、内縁や事実婚 に準婚理 論 による婚姻法の効果 を認める一方、契約理論では、事実婚の法的保護の範囲が狭 くなるとする

B説 ;事実婚 に自己決定権 による内縁保護法理 を認める説70

64二宮 ・前掲注 (4)299頁。

65二宮 ・前掲注 (4)299頁。

66水野紀子 「内縁準婚理論 と事実婚の保護」林信夫 ‑佐藤岩夫編広中俊雄先生傘寿記念論集 『法 と生成 と民法の体系』625 以下 (創文社、2006年)0

67大村 ・前掲注 (10)238頁、二宮 ・前掲注 (4)31‑36頁、武井 ・前掲注 (51) 6頁。

68泉久雄 「内縁問題 に思 う」明山和夫 〔ほか〕編 太田武男先生還暦記念 『現代家族法の課麓 と展望』107‑121頁 (有斐閣、

1982年)0

69泉 ・前掲注 (68)121頁。

70二宮 ・前掲注 (4)279頁以下、同 ・前掲注 (35)197頁以下、同 「婚外関係の法的保護 はどこまで認め られるのか」戸 時594 号14頁以下 (2006年)0

52

(13)

岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要第27 (2009.3)

現実 に夫婦共同生活が存在 している場合、準婚理論ではな く、 ライフス タイルに関す る自己決定権 を根拠 にする内縁保護法理 により、婚姻法の効果の適用 を認めるとす る ライフス タイルを選択する ことによって 「著 しい経済的不利益 を受 けた り、道徳的に闘わなければならない とすれば、その生活 形態 を選択す ることは事実上不可能 になる。 これでは、自己決定権 を保障 したことにならない。そ こ で、婚姻外 の関係であって も、安定的で継続 した共同生活 ・パー トナー関係が存在する以上、内縁 と 同 じような法的な生活保障を しなければならない71」 とし、法 は、婚姻 だけを保障するのではな く、

事実婚が望 ましいか どうかの評価 とは離れて、営 まれる家庭生活の実体 に即 した価値中立的な法的処 理、生活保障をする必要があるとする。

(彰 事実婚 に内縁保護法理 による法的保護 を認めない とする学説 C説 ;事実婚 に準婚理論 による婚姻法の効果 を認めない とす る説72

内縁 については、準婚理論 による婚姻法の効果 を認めるが、内縁 を、婚姻意思がある一定期 間の同 居がある夫婦共同生活がある婚姻外 の男女関係 として厳 しく範囲を限定す るため、事実婚は、内縁 に はあた らない として、準婚理論 による婚姻法の効果 を認めない とし、事実婚の法的保護 は、契約理論 によるとする。 また、事実婚 に準婚理論 を適用 して保護することは婚姻体系 を混乱 させ るおそれ もあ るとする見解 もある73。

D説 ;内縁 ・事実婚 に準婚理論で法的保護 を認めない とする説74

婚姻意思の持たない内縁 ・事実婚の当事者に法律婚の婚姻効果 を強制することは、私的自由の領域 を侵す ことであるとし、内縁 ・事実婚 に準婚理論 による婚姻法の効果 を認めない とする また、準婚 理論の法的正当化 は難 しい として、事実婚の当事者の保護 は、契約理論 によって行 われるべ きとする。

しか し、「第三者 との関係 では、た とえば 日常家事債務の連帯責任 の ように、婚姻法が類推適用 され る75」 とする。 この考 え方の背後 には婚姻尊重の考 え方がある760

③E説 ;相対的効果説77

内縁 を準楯 として扱 うのではな く、婚姻外男女関係で法的に婚姻 として扱 われてない ものにいかな る法的な効果があたえられるべ きか を、一般問題の一つ として考 える見解 である78。婚姻外男女関係 を連続的 ・投階的に区別 して捉 え、「婚姻以外 の男女の結合 にいかなる法的効果が与 えられるべ きかは、

結合の排他性 ・継続性、同居 ・家計の共同性の有無、社会 ない し周囲のサ ンクシ ョンの有無、婚姻障

71二宮 ・前掲注 (35)

72太田 ・前掲注 (4) 73武井 ・前掲注 (51)

74水野 ・前掲注 (61)

75水野 ・前掲注 (61)

76大村 ・前掲注 (10) 199頁。

91・95頁、武井 ・前掲注 (51) 6頁、久貴忠彦 ア親族法i149‑150頁 (日本評論社、1984年)0 19頁。

69頁以下O水野 ・前掲注 (66)613頁以下.

84頁。

240頁。

77鈴木 ‑唄 ・前掲注 (58)149頁以下、鈴木 ・前掲注 (58)79頁以下。

78鈴木 ‑唄 ・前掲注 (58)157‑158頁。

79鈴木 .前掲注 (58)80・81頁C

53

参照

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14

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