3D コンテンツの視差量と注視傾向に関する研究
A study on binocular parallax and gaze tendency to 3D content
1W070190-9 熊谷 悠 指導教員 河合 隆史 教授
KUMAGAI Haruka Prof. KAWAI Takashi
概要: 本研究では,3D コンテンツの急速な普及にともない,3D 特有の魅力を評価することの必要性が高まった ことを背景に,2D コンテンツと 3D コンテンツを視聴する際の,視聴者の興味対象の違いを探索することを目的と した.具体的には,人の興味や関心が表れるといわれる,眼球運動に着目した.はじめに行った短編映画を対象 とした実験で,各視差をもつ画素への注視時間を算出することによって,「1.視差-0.8~-0.2 度にある対象を集中 的に注視する」「2.強すぎる交差方向視差の対象は避ける」「3.視差が時間的に変化する箇所に集中する」という 3 つの傾向がみられた.そこで,得られた 3 つの仮説に当てはまるように,局所的に 3D に変換した刺激を用意し,
2D 条件と眼球運動を比較する検証実験を行った結果,3 つの仮説はおおむねこの実験でも当てはまるという結果 になった.本実験は,今後さらに需要が高まると考えられる 3D の広告等の作成に役立てることができると考える.
キーワード: 立体映像,眼球運動,注視傾向,両眼視差
Keywords: stereoscopic images, eye movement, gaze tendency, binocular parallax
1.はじめに
近年 3D 映像が過去最大のブームを迎えている.
しかし,視聴者にとって,3D コンテンツと 2D コンテンツの間にある差異ついては,不明確な点 が多い.そこで本研究は,2D コンテンツと 3D コンテンツを視聴する際の,視聴者の興味対象の 違いを探索することを目的とした.具体的には,
人の興味や関心が表れるといわれる,眼球運動を 測定し,注視点の分布や停留時間を 2D,3Dで比 較した.まず行った短編映画を対象とした解析で,
次のような仮説が得られた.
1.視差-0.8~-0.2度にある対象に集中する 2.強すぎる交差方向視差の対象は避ける 3.視差が時間的に変化する箇所に集中する 続いてこの仮説を検証するため,より単純な刺激 を用いた実験を行った.
2.実験方法
図 1 実験の様子
刺激の呈示には,24インチの偏光方式 3D 対応 ディスプレイ(Hyundai IT, P240W)を使用し た.視距離は90センチメートルとし,顎台で固 定した.刺激を視聴中の参加者の眼球運動を,ア イトラッキングシステム(Arrington Research, ViewPoint EyeTracker)を用いて測定した.ま た,実験参加者は,視機能に異常のない22歳の 男女5名の学生であった.使用した3D刺激は,
「インカ帝国のルーツ 黄金の都シカン」1)と,
「世界・夢列車に乗って」2)から選んだ4枚の画 像であった.それぞれ2Dと3Dの条件を用意し た.本実験では,結果に影響を与えうる要因を限 定するため,2D/3D 変換によって,特定の対象 にのみ視差を与え,局所的に立体に変換したもの を3D条件とした.各刺激は5秒間ずつ呈示され,
ランダムな順序で3回ずつ繰り返した.
図 2 提示刺激
図 3 変換したデプスマップの一例 3.結果
各画像,視差を与えた対象を囲うような四角形を 定め,その範囲に含まれる座標への注視時間につ いて,2D,3Dで分散分析を行った.
画像 A では,対象の土器への平均注視時間は,
2Dで0.082秒,3Dで0.057秒とどちらも短く,
有意差はみられなかった。画像 B では、2D で 2.41 秒,3D で2.95 秒であり,5%水準で,3D の方が有意に高かった.(p= 0.037)
画像Cでは,2Dで3.61秒,3Dで4.52秒であ り(p=0.002),予測とは逆に,3Dの方がより像 を注視しているという結果になった.しかし,散 布図を見ると3Dではより像の顔に視線が集中し ている.そこで、対象の範囲を上下2つに分割し,
停留時間の割合を求めてみると,2Dでは上72%,
下23%,3Dでは上81%,下19%となった.
図 4 画像 C 2D
図 5 画像 C 3D
画像Dでは,視差を変化させる箇所が1つの3D
(Part)条件と、2 箇所の3D(All)と,2Dの 3 条件を用意した.2Dで2.42 秒,3D(part)
で2.97秒,3D(All)で2.48秒と,3D(Part)
が最も高く,3D(Part)条件と 2D 条件の間に 5%水準で有意差が(p=0.046),3D(Part)条件 とAll条件の間には有意傾向が(p=0.056)みと められた.
4.考察
1 つの対象に適度な交差方向の視差をつけた画 像Bでは,仮説どおり3Dで注視時間が長くなっ た.しかし,画像 A のように対象が小さすぎる 場合は,計測機器の精度の影響を受けた可能性が ある.また、対象に強い視差をつけ,2Dよりも 注視時間が短くなると予測した画像 C では,対 象全体への停留時間は3Dで長いという結果であ ったが,視差の強い部分を避け,-0.6度ほどの 適度な視差を有する像の顔の付近へ移動したこ とが考えられる.画像 D では、視差の変化があ る対象を注視する傾向が見られた.2D条件では 広い範囲に分散し,ひとつだけ視差を変化させる と,変化する対象に集中し,変化する箇所が 2 つになると,また分散するという結果になった.
5.結論
はじめに述べた,3つの仮説はおおむね他のコ ンテンツでも当てはまるという結果になった.本 研究は,3Dのデジタルサイネージやテレビコマ ーシャル作成に役立てることができると考える.
例えば,注目させたい対象がある場合,その対象 に強い視差をつけるよりは,-0.2~-0.8度ほど の適度な交差方向の視差が適しており,さらに視 差を奥行き方向に変化させることが効果的であ る.また,それ以外の隣接する対象に視差の変化 をつけることは,避けたほうがよいと考えられる.
今後は,人物,商品,文字情報など,さまざまな 要素がある実際のコンテンツにおいての有効性 について,さらなる研究が必要であろう.
参考文献:
1) http:// www. kaha ku .go. jp/exhibi tions /ueno/special/20 09/sica n/index. html 2 ) http:// www.b s -tbs .co. jp/ app/pro gram
_details/inde x/ KDT0705 300