浮 世 絵 の 立 体 化 と 注 視 特 性 に 関 す る 研 究
Study on 2D to 3D conversion of Ukiyoe and the characteristics of eye fixation
1W090319-1
竹内 創哉 指導教員 河合 隆史 教授TAKEUCHI Soya Prof. KAWAI Takashi
概要: 本研究は、2D/3D 変換の中でも自由な変換が可能であるオフライン変換に注目し、3D映像を見た際のヒ トの注視特性を
2D
映像と比較検討したものである。実験コンテンツとして浮世絵という文化財を用いた。立体情 報の少ない絵画の中でも、陰影などの表現も少なく、ほとんどが線で描画されている浮世絵を3D
にすることで、新たな興味の喚起に加えて、多角的な理解が可能になると推測したからである。実験では、浮世絵を
2D
と3D
で 見せたときの注視時間や注視場所を、眼球運動の測定を用いて比較検討した。その結果、3Dで一度見せると同じ コンテンツをまた2D
で視聴した際に注視時間が増える傾向が見られ、3D
映像によってコンテンツの受容の仕方が 変化することが示唆された。キーワード:浮世絵、認知、2D/3D変換,注視特性
Keywords: Ukiyoe, cognition, 2D to 3D conversion, characteristics of eye fixation.
1.はじめに
現在、立体映像とは現実世界の立体感に近づけ るものがほとんどであり、主に臨場感や没入感の 向上を目的としているが、立体感を新たな情報と して考え、新しい表現として活用できないかとい う動きも見られる。これに対し筆者は、日本の伝 統的文化財である浮世絵をコンテンツとして選 定し、3D 映像として浮世絵を呈示したときの注 視特性を
2D
映像の場合と比較検討した。今回は 指標として眼球運動を用い、その中でも注視時間 と注視場所について解析を行った。2.注視点の定義
外界からオブジェクトに視線を移動させ、その 対象の詳細な情報を得ている状態を注視してい ると定義し、その時の眼球の位置を注視点と定義 する。注視点を定義することによって、この点を 計測し、その時の眼球運動の状態から、視聴者が どのように外界の情報を視覚から入手し、どのよ うに情報を処理するのかというような分析が可 能になると言える。まず、外界のオブジェクトか ら様々な詳細情報を得るためには、そのオブジェ クトを網膜の黄斑部の中心である中心窩で捉え る必要がある。しかし、そのようにして情報を得 るために注視しているときにも、必ずしも同じ位 置に視点が留まっているわけではない。そのため、
注視点を視点が静止した状態であるときの点と することはできない。一般的には、網膜中心部の ある一定の範囲を定め、その範囲内で捉えた視点 の集まりを注視点として定義することが多い。山 田ら(1)によると、眼球運動速度
Vth
とデータのサ ンプリング時間から算出される範囲Dth
に現在 の位置から次の位置もあれば、同一注視点と定め ている。本研究ではこの定義をもとに注視時間お よび注視場所を求めた。3.浮世絵の立体化と注視特性
2D
で視聴した際と3D
で視聴した際の違いを検 討するために、眼球運動を指標として用いた実験 を行った。実験参加者は、正常な視機能をもつ男 女20
名で、特にタスクを与えず、自由に視聴し図1 注視点の定義(2)
2
てもらった。各画像は、10 秒間の安静期間を挟 みながら20
秒間×3 回が連続して呈示され、こ れを1
刺激とし6
枚の刺激をランダムな順に呈示 した。実験条件は、2D 映像のみで構成されたグ ループ2
と、2D映像と3D
映像を組み合わせたグ ループ1
の2
種類であった。グループ2
は3
回と も2D
で視聴した。グループ1
では、20秒間×3 回のうち2
回目のみを3D
とした。これは、2D視 聴時と3D
視聴時の眼球運動を比較することに加 え、一度3D
視聴を経験した後に2D
で視聴する際 にも、その効果が出るかを検討するためである。その結果、刺激すべての注視時間の平均変化量 に関してはグループ
1
の方がグループ2
に対して1
回目から3
回目と進むにつれて注視時間の総和 が増えていく傾向が見られた。具体的には、はじ めて刺激を2Dで観察した後にまた 2D
で何度も見 せると注視する時間が減るという傾向があるの に対し、2回目に3D
を見せることによってなに かオブジェクトを注視するようになり、もう一度2D
で同じ刺激を見せた際にさらに注視する時間 が増えるといった傾向が見られると言える。その 結果を図2に示す。また、注視場所を眼球運動測定結果よりヒートマ ップにしたものを図3に示す。円が広がっていく ほど注視した時間が長く、線は視線の軌跡を表し ている。グループ2では三回の刺激呈示でほとん ど変化がないのに対し、グループ1では、手前の オブジェクトである坂や波を
3D
の視聴時に注目 するようになり、もう一度2D
を見せた時に初回 視聴時と見ている場所が違ってくる傾向が見ら れることが示唆された。4.考察
本研究の結果、3D で一度浮世絵を見せること によって、再度
2D
で同じ刺激を見せた際にも注 視時間が増える傾向にあることが分かり、注視場 所も変化するということが示唆された。つまり、浮世絵のような
2D
でしか体験したことのないコ ンテンツを3D
で観察することにより、新たな経 験として感じることができると考えられる。参考文献:
(1)
山田光穂、画像における注視点の定義と
画像分析への応用、電子情報学会論文誌、
vol.69、No.9、p.1335-1342、1986
(2)
三橋哲雄、画像と視覚情報科学、コロナ
社、
2009
図2 注視時間の変化量図3 注視場所のヒートマップ