『明六雑 誌 』 の語 彙構 造
2字 漢 字 を 中 心 に(そ の2)一 一
高 野 繁 男
〈目 次 〉
4廃 語の検討
1は じめ に2r明 六 雑 誌 」 の 語 彙 構 成 1)語 彙 の種 別
2)課 題 の 設 定 3)2字 漢 語 の 構 成 3現 存 語 の検 討
Ar明 六 雑 誌j期 に新 た に造 られ た語 B「 明 六 雑 誌 」 期 に 中 国 か ら新 た に入 っ た 語
(以上 前 号>
4廃 語 の検 討
Ar明 六 雑 誌 」 期 に新 た に造 られ た語 Br明 六 雑 誌 」 期 以 前 の 和 書 に用 例 の な い 語 C「 日本 国 語 大 辞 典 」 に登 録 され て い な い 語 5廃 語 と現 存 語 の 差 異
6お わ りに (以上 本 号)
今回の概略
前 回 は,r明 六 雑 誌 」(1874〜75/明 治7‑8年) の 語 彙 の う ち,こ の 期 に 日本 語 に新 た に加 え ら れ た2字 漢 語 で 現 在 も用 い られ て い る 語 を対 象 に検 討 した 。 今 回 は,そ れ を う け て,も う一 方 の,そ の 一 時 期 だ け使 わ れ現 在 は使 わ れ な くな っ た,い わ い る 「廃 語 」 につ い て 検 討 す る。
廃 語 の 検 討 は,視 点 を換 え て い え ば,な ぜ そ の 語 が 廃 語 に な っ たの か,語 の 成 立 条 件,新 語 造 成 の メ カ ニ ズ ム を 明 ら か に す る こ とが で きる と考 え る か らで あ る。 こ こで は,前 回 の 「現 存 語 」 の 分 析 と同 じ項 目 に よ っ て 「廃 語 」 を検 討 し,現 存 語 と廃 語 の 差 異 を考 え る こ とで,そ の 実 体 を確 認 し た い。
A『 明 六 雑 誌 』 期 に 新 た に 造 られ た語 (近代 以 前 の 日 中 に 用 例 の な い語)
こ の 期 に 造 ら れ た と思 わ れ る 「新 語 」 は930語 あ り1),こ の う ち こ の 項 目 に 分 類 さ れ る,い わ ゆ
る 「廃 語 」 は,500語(54%)あ る2)。 半 数 以 上 が 消 え た こ と に な る 。 一 方,前 回 の 検 討 で 明 ら か に な っ た よ う に,今 日 も使 わ れ て い る 語 に は 「科 学 」 「哲 学 」 「電 磁 」 「立 憲 」 と い っ た 現 代 語 の 基 本 を な す 語 が 多 い 。
「廃 語 」 の 主 な 語 を 挙 げ て,個 々 に 検 討 す る
[4‑A]
愛力 安保 育子 燗消 音語 快話 確守 確切 確知 確的 堪査 規戒 気学 規法 久続 誉挙 巨商 空法 啓智 権義 権分 昂起 公心 抗抵 航来 互相 国損 国福 根理 裁制 査勘 字語 示授 修改 真利 制規 政法 政律 認許 発出 費消 撫愛 法院 法司 民会 民気 民質 民信 民智 民費 民命 民論 洋客 洋教 洋習 洋制 洋製 洋説 洋俗 洋婦 洋法 洋帽 余多 随視 随語 随説 な ど
◆ 愛 力
「然 ル ニ 少 年 学 ハ ス既 二 母 ト成 リ子 ヲ 育 ス ル ニ 方 リ テ其.,ヲ 利 用 ス ル ノ 法 ヲ知 ラ ス 」(森 有 礼
「妻 妾 論 」 四,20号)
受 力,愛 情 の 力 の 意 。 今 の と こ ろr明 六 雑 誌 」 が 初 出 の よ うで あ る。 「愛 」 を用 い た 熟 語 は多 く, 中 国 で は 古 くか ら見 え る が 仏 教 語 が 中 心 で あ っ
た 。 こ の 例 の よ う に 「か わ い い 」 「い と う し む 」, ま た は 「大 切 な 」 な ど の 意 味 で 「愛 」 が 用 い ら れ る の は 比 較 的 新 し く 「愛 車 」 「愛 鳥 」 「愛 猫 」 な ど は,近 代 に 入 っ て か ら の 和 製 漢 語 で あ ろ う 。 た と え ば 「愛 車 」 は 「大 事 に し て い る 車 」 の 意 で あ る 。 こ れ に 対 し て 中 国 製 の 「愛 人 」(「 君 子 之 愛.人 也 以 。徳 、 細 人 之 愛.人,以.姑 息 」 『礼 記 』)は 「人 を 愛 す 」 が 基 本 的 な 意 味 で あ る 。 こ の 「人 を 愛 す 」 の 構 造 は,中 国 語 の 文 法 に よ る も の で,こ の 用 法
い と
も 日本 語 に な る と 〈愛 しい 人 〉」 に な る 。 第 二 次 大 戦 後 の マ ス コ ミが 日本 語 化 して 用 い た の が 始 ま り とい う。 なお,現 代 中 国 語 で は 「愛 人 」 を俗 語 的 に 「妻 ・夫 」 の意 で 用 い る こ とが あ る 。
◆ 安 保
「世 交 邦 政 ノ 要 ハ 必 然 其 国 ヲ安 鎚2と ニ ア リ」
(森有 礼 「教 宗 」6号)
安 保,安 全 を保 つ 意 。 こ こで は 「安 保 ス ル」 と 動 詞 で用 い られ て い る。 今 日の 「安 保 」 は 「日米 安 全 保 障 条 約 」 の 略 で,安 全 を保 つ 意 の 「安 保 」
は,今 日で は使 わ れ て い な い 。
◆ 育 子
「国 家 有 事 娘 子 軍 夫 人 城 無 事 レハ 開物 成 務 査王 之 業 日二 美 二 月 二 大 ナ ル ベ シ 」(阪 谷 素 「女 飾 ノ 疑 」21号)
育 子,「 育 児 」 に 同 じ。 文 字 の 書 き換 え。 明 治 初 期 は 「育 子 」 と 「育 児 」 が 競 合 して用 い ら れ て い た もの と考 え られ る が 「育 子 」 が 競 り負 け た の で あ ろ う。 こ した 例 は 他 に もみ ら れ,た と え ば [4‑A]中 の 「姻 消 」 は 「煙 消 」 と競 合 し,今 日 は
「煙 消 」 が 残 っ て い る 。 語 の 統 一 意 識,合 理 化 意 識 が 働 い た もの と考 え られ る。
◆ 音 語
「而 テ 洋 字 ハ 童 語 ニ シ テ 漢 字 ノ画 字 タ ル 我 ト相 反 ス ル カ 如 キ ニ ア ラ サ ル ヲ ヤ 」(西 周 「洋 字 ヲ以 テ 国 語 ヲ書 ス ル ノ論 」1号)
音 語,い わ ゆ る ロ ー マ 字 論 の 主 張 で,そ の 中 で mマ 字 を 「音 語 」 と呼 ん だ もの で あ る 。 今 日の
「表 音 文 字 」 に 当 た る 。 現 代 の 言 語 学 の よ う に
「字 」 と 「語 」 を 明確 に 区 別 す る考 え か らは 「音 語 」 は 不 都 合 で あ ろ う 。 この よ う に,認 識 に合 わ な くな っ た もの,時 代 の ニ ー ズ に合 わ な くな っ た 語 は廃 語 に なる 。
◆ 快 話
「森 先 生 妻 妾 説 正 大 明 白福 沢 先 生 高 楼 華 屋 モ 畜 生 小 屋 タ ル ノ怯話 等 大 二 教 ヲ世 二 為 シ」(阪 谷 素
「妾 説 ノ疑 」32号)
快 話,愉 快 に 談 話 す る こ と。 快 談 。 「談 」 も
「話 」 も 同 じ意 で あ る か ら 「快 話 」 は 成 り立 つ 。 しか し,古 くか ら 「快 談 」 が あ り,こ の 方 が残 っ た 。
◆ 確 切
「本 文 文 意 明 瞭 事 理 確 坦 一 ノ 間 然 ス ヘ キ ナ シ」
(加藤 弘 之 「教 門 論 」 の 註,6号)
確 切,正 確 で 適 切 な 意 。 『七 新 薬 」(1862),中 村 正 直 訳 『西 国 立 志 編 』(1871),他 に も見 え る と
い うか ら,幕 末 か ら明 治 初 期 に は 洋 学 者 の 間 で使 わ れ た よ うで あ る。
こ の 他 に も 「確 守 」 「確 知 」 「確 的 」 な ど 「確 」 を用 い た 熟 語 で廃 語 に な っ た もの が 見 え る。
▼ 確 守 「故 二 公 心 公 義 二付 シ テ標 的 ヲ艶 徐 二 脳 髄 ノ酷 印 ヲ消 シ甚 シ キ ニ 至 ラ シ メ
ス」(阪 谷 素 「狐 説 ノ広 義 」20号)
▼ 確 知 「特 二 従 来 有 高 ノ確泌 ヘ カ ラ サ ル ヲ以 テ 今 年 二 尽 ク ル カ 明 年 二 尽 ル カ」(神 田孝 平 「正 金外 出 嘆 息 禄 」23号)
▼ 確 的 「方 今 敢 テ艦 亙∠評 論 ヲ下 ス 能 ハ ズ ト錐 モ概 ス ル ニ 」(箕 作 麟 祥 「人 民 ノ 自 由 ト 土 地 ノ季 候 ト互 二相 関 ス ル ノ論 」5号)
◆ 勘 査/査 勘
「先 ツ 各 般 珀 細 ノ 会 計 ヲ逐 一 勘査 之 テ錨 鉄 ノ差 モ 謬 ル コ ト無 ルベ シ然 ル ニ 此 ノ如 ク理沫 ノ事 ヲ査 勘 ∠2と ハ 国 家 ノ 大 政 ヲ議 シ 」(津 田 真 道 「政 論 」 15号)
勘査,現 在 の 「検 査 」 の 意 。 本 例 が 早 い もの で あ る 。 「勘 」 も 「査 」 も共 に調 べ る意 。 特 に 「勘 」 は よ く調 べ る 意 で あ る か ら,同 義 の 文 字(造 語 要 素e語 基 〉 を重 ね た造 語 法 で あ る。 また,例 文 中 に文 字 が 転 倒 した 「査 勘 」 も見 え る 。 こ の 方 は
『日本 国 語 辞 典jも 登 録 して お らず,こ の 時 期 に ご く少 数 使 わ れ たの で あ ろ う。
語 形 か ら い う と,2字 漢 語 の 前 部 は後 部 を修 飾 す る こ と か ら 「勘 」 を副 詞 的 に用 い 「勘 査 」 とす る の が 安 定 す る 。 しか し,こ の 方 も現 在 は 「検 査 」 に取 っ て代 わ られ てい る 。 い ず れ に して も同義 の
語 基 の 組 み 合 わせ と い う こ とに な る 。
◆ 規 戒
君 主 ノ規 戒 トナ レル 書 ニ シ テ学 士 家 コ レ ヲ崇 重 セ リ」(中 村 正 直 「西 学 一 班 」12号)
規 戒,守 るべ き規 範 や 戒 め の意 。 同 じ中村 正 直 訳 の 「自 由 之 理 」に 見 え る の が初 出 の よ うで あ る。
明 治 初 期 の 中村 の 造 語 か 。 同 義 の 語 基 の 並 立 か ら な る。 個 人 の訳 語 は,市 民 権 を取 れ な い ま ま消 え て い く もの が 多 い 。
◆ 気 学
「是 レ気 裳 ノ端 其 始 メ ニ 塞 テ 開 ケ ザ レ ハ ナ リ器 機 ハ 術 芸 二 生 ズ術 芸 は思 慮 ト熟 練 トニ 生 ズ 」(阪 谷 素 「養 精 神 一 説 」40号)
気 学,気 体 や 気 象 に 関 す る学 問 。 西 周r百 学 連 環J(1871)が 早 く<Pneumatics>の 訳 と して い る 。 「天 学 」 「星 学 」 「算 学 」 な ど,こ の 時 代 に は, 後 部 に 「学 」 を付 した2字 語 が 多 く見 え る。
◆ 規 法
「今 日行 ハ ル ル トコ ロ ノ 欧 学 家 ヨ リ コ レ ヲ視 レ バ カ ク ノ如 キ 説 ヲ規 法 トナ シ タ ラ ンニ ハ 世 道 ノ大 害 タ ラ ン ト危 ミ思 フ コ トナ リ」(中 村 正 直 「西 学 一班 」12号)
規 法,今 日の 「法 規 」 の 意 で,同 じ中村 正 直 記 の 「自由 之 理 」 が 早 い 。 た だ 「法 規 」 も こ の期 の 新 語 と考 え ら れ る 。 こ の 文 字 順 の よ う な 名 詞 要 素+名 詞 要 素 の 組 み 合 わ せ で は,語 の 主 要 な もの が 先 に くる か,特 殊 な もの よ り一 般 的 な もの が 先 に くる な どの傾 向 が あ る よ うだ が,明 確 な法 則 性 は確 認 で きな い 。
◆ 権 分
「各 個 人 々 ノ権 分 ヲ廟 損 ス即 チ 人 々 己 力権 分 ヲ 保 存 ス ル コ ト能 ハ ズ 遂 二 変 シ テ 円 転 流 活 以 テ俗 ヲ ナ ス ニ 至 ラ ム トス」(西 周 「煉 火 石 造 ノ説 」4号)
権 分,権 力 の 限 度 の こ と。 他 に用 例 が 見 当 た ら な い よ う で あ る。 この 時期 「権 」 を用 い た熟 語 が 多 く造 ら れ た 。 今 日 の 「権 利 」 「権 力 」 「権 限 」
「主 権 」 「人 権 」 「国 権 」 な ど,こ の 時 期 に 造 ら れ た もの で あ る 。
◆ 昂 起
「地 殻 ヲ昂赴 山 岳 トシ 強 テ 其 頂 嶺 ヲ破 リ電 気 雷 撃 閃 櫟 震 鳴 天 空 二 遜 散 シ テ 止 ム 」(津 田 真 道
「地 震 ノ説17号)
昂 起,高 め る,ま た 持 ち上 が る 意 。 「隆 起 」 に 取 っ て代 わ られ た 。 この 一 時 期 使 わ れ た だ け で 消
え て い っ た 語 の よ うで あ る。
◆ 抗 抵
「恭 順 ノ説 日 二接 シ拡 抵 ノ力 薄 ク 激 発 ノ気 弛 ミ 名 師 ノ 出 ル 漸 ク寡 シ」(阪 谷 素 「尊 異 説 」19号 」)
抗 抵,「 抵 抗 」 と 同 意 味 。 文 字 の 順 序 が 逆 に な っ て い る 。 「抵 抗 」 は 古 くか ら使 わ れ て い る が, こ の 「抗 抵 」 方 は,福 沢 諭 吉 「西 洋 事 情 」(1870) が 早 い 例 で あ る 。 明治 期 の 中 頃 まで使 わ れ た よ う
で あ るが,そ の後 は 「抵 抗 」 が 一 般 的 に な っ た 。
◆ 航 来
「昔 夫 漢 学 者 流 ハ 西 洋 ヲ観 テ 夷 ト云 ヒ蛮 ト云 ヒ 国 字 訳 本 ア リ ト難 ドモ 捨 テ省 ミズ既 而 テ 漢 訳 諸 本 ノ航 塞 ろ2と至 テ 始 メ テ 其 蛮 夷 二 非 サ ル ヲ 知 ル 」 (清水 卯 三 郎 「平 仮 名 ノ説 」7号)
航 来,外 国 か ら来 た も の,舶 来 品 。 同 義 の 「渡 来 」 と競 合,こ の 「航 来 」 が 消 え た 。本 例 が 早 い 。 現 在 は,古 くか ら用 い ら れ て い た 「渡 来 」 が 一 般
的 で あ る 。 新 語 と既 存 語 が 競 合 した 場 合,既 存 語 の 普 及 度 に も よ るが 既 存 語 が 生 き残 る例 が 多 い よ うで あ る 。
◆ 互 相
「同 等 ノ地 位 二居 リ其 間 主 従 ノ別 ア ル 者 ハ互i坦 ノ幸 福 ヲ済 ス為 メ之 ヲ立 ル ニ 過 キ サ ル ヲ知 ラ シ メ シ ニ 在 リ」(箕 作 麟 祥 「人 民 ノ 自 由 ト土 地 ノ気 候
ト互 二 相 関 ス ル ノ論 」5号)
互 相,こ の 語 に も文 字 順 が 逆 の 「相 互 」が あ る。
2語 と も古 くか らあ る が,近 代 初 期 に は,こ う し た 逆 順 の2語 が 共存 す る もの が 現 在 よ り大 幅 に 目 立 つ 。 この 項 で も,た とえ ば 「裁 制 」 「修 改 」 「制 規 」 「発 出 」 「撫 愛 」 「費 消 」 「法 司 」,先 の 「規 法 」
な どの 多 くが 見 られ る 。 こ の 類 の 語 は,同 義 の 文 字(語 基)の 並 立 で,そ の順 序 に よ っ て 意 味 が 変 わ る こ とが な く,そ れ ほ ど順 序 は 重 視 さ れ な い 。 た だ,同 義 の語 が 複 数 で き る と合 理 性 が 働 き統 一 され る傾 向 が 見 ら れ る 。 こ の 場 合 の 選 択 原 理 につ い て,先 に名 詞 同 士 の 組 み 合 わ せ で もふ れ たが, この 用 言 同 士 の 組 み 合 わせ にお い て も同様 に 明 確 な 解 答 は 用 意 で き な い 。
◆ 根 理
「政 学 ノ提 理 ヲ究 メズ 人 性 自 然 ノ 性 体 二 原 ズ カ
ズ 不 偏 不 易 ノ真 理 二 合 セ ズ 」(中 村 正 直 「西 学 一 班 」12号)
根 理,今 日の 「原 理 」 の 意 味 で,同 じ中村 正 直 訳 の 「自 由 之 理 」 に 見 え る例 が 早 い 。 中 村 の訳 語 で あ る 可 能 性 が 高 い 。
◆ 字 語
「其 始 公 用 私 用 ノ別 ヲ立 テ 各 国 旧 習 ノ圭 語 ヲ私 用 トシ新 定 ノ字 語 ヲ公 用 トシ」(阪 谷 素 「質 疑 一 則 」10号 〉
字 語,文 字 言 語 の こ と。 万 国 文 字 言 語 の 統 一 を 提 案 した論 中 の 用 語 。本 資 料 以 外 に,今 の と こ ろ,
この 語 は 見 え な い よ うで あ る 。
◆ 真 利
「漸 ク 文 明 ノ喜捌 ヲ味 ヒ 国 始 テ 其 位 ヲ保 チ 昌 明 ノ佳 境 二 入 ル コ トヲ得 ル ト云 フ」(森 有 礼 「開 化 第 一 話 」3号)
真 利,真 の 価 値 の 意 。 本 資 料r明 六 雑 誌 』 (1874>の 用 語 か 。 他 に見 え な い 。 意 味 は 「真 理 」 に つ う じよ う。
◆ 認 許
「政 府 ハ 必 ス 奉 教 自 由 ノ権 利 ヲ 認 許 ス ル ヲ要 ス ト難 モ 然 ル モ 敢 テ 臣 民 ノ不 正 不 義 ヲ恕 ス 可 ラ ス」
(加藤 弘 之 訳 「米 国 政 教 」13号)
認 許,現 在 の 「認 可 」 と 同 意 味 。 加 藤 弘 之 は
『国体 新 」(1874)に も用 い て お り,明 治 期 に は一 般 的 に 使 わ れ た よ うで あ る 。
◆ 民 論
「仏 朗 西 諸 国 二 在 リ テ ハ 処 士 横 議 民 論 沸 騰 政 府 頗 ル 統 御 二 苦 シム 」(津 田 真 道 「出 板 自 由 ナ ラ ン
コ トヲ望 ム論 」6号)
民 論,世 論 の 意 。 明 六 社 の 同 人 た ち は,い ち 早 く西 欧 の 自由民 権 思 想 を学 ん だ。 人 民 が 国 の 主権 者 とい う こ とで 「民 」 を含 む熟 語 が 多 く造 ら れ た 。 本 資 料 が 初 出 と思 わ れ る語 で,今 は 廃 語 に な っ て い る もの に 「民 会 」 「民 気 」 「民 質 」 「民 信 」 民 智 」
「民 費 」,そ して この 「民 論 」 な どが 指 摘 で きる 。
◆ 洋 教
「其 他 百 工 学 術 二 至 ル マ テ彼 二採 ル ニ 向 ハ サ ル 者 莫 シ而 テ所 謂 雑 居 ナ リ所 謂 注 数 ナ リ是 モ 亦 蓋 遅 速 ア ル ノ ミ之 ヲ永 久 二 期 ス レハ 雑 居 必 ス行 レサ ル ヲ得 ス溢 致 必 ス 入 ラサ ル ヲ得 ス 」(西 周 「洋 字 ヲ 以 テ 国 語 ヲ書 ス ル ノ論 」1号)
洋 教,西 洋 の 学 問,ま た 西 洋 の 宗 教 の こ と。 こ の 「洋 」 を含 む熟 語 も多 い。近 代 化 とは 「西 洋 化 」
を意 味 す る 。 大 量 に 流 入 す る新 思 想,学 問 を支 え る た め の こ とば 造 りが 行 わ れ た 。 この 「洋 教 」 も, そ う した 語 で あ る 。 用 例 は,西 洋 の 学 問 の 意 。 な お 「日本 国 語 大 辞 典 」(初 版)は 「新 聞雑 紙51号 」 明 治5年 の 用 例 と して 〈キ リ ス ト教 〉の 意 を挙 げ て い る。 い ず れ に して も,今 日 は廃 語 に な っ て い るが,こ の他,こ の 語 と同 じよ うに,こ の 期 に造 ら れ今 日で は廃 語 に な っ て い る もの と して 「洋 客 」 洋 習 」 「洋 制 」 「洋 製」 「洋 説 」 「洋 俗 」 「洋 婦 」 「洋 法 」 「洋 帽 」 な どが 見 え る。
◆ 余 多
「之 ヲ 要 ス ル ニ 大 主 意 既 二 定 マ リ加 フ ル ニ 弊 害 ヲ憂 フル ノ心 深 カ ラ ハ 便 宜 ノ法 ハ 尚 ホ 時 二 臨 ミテ 盒 多 ア ル ヘ キ ナ リ」(神 田 孝 平 「紙 幣 病 根 治 療 」 33号)
余 多,数 が 多 い こ と。 「余 」 も 「多 」 も多 い こ と。 同意 の 語 基 を合 わ せ た造 語 法 に よる 。 こ の パ ター ンの 語 は珍 し くな く,ま た 語 基 で あ る漢 字 も 特 殊 な もの で な い 。 た だ,本 資 料 の この 用 例 の 他 に見 え な い よ う で あ る か ら,そ うい う意 味 で は, 先 に 指 摘 した よ う に,や は り個 人 の 用 語 は定 着 し ず らい とい う こ とが い え そ うで あ る 。
◆ 隔 吾
「天 子 二 敵 ス ル者 ヲ指 シ テ 総 テ 賊 ト云 フ ハ 人 君 独 裁 国 ノ風 習 ニ テ 人 主 ヲ遇 尊 ス ル ヨ リ起 ル 所 ノ随 証 ナ リ」(西 村 茂 樹 「賊 説 」33号)
随 語,卑 しい こ とば の意 。 他 に 用 例 も な く消 え て い っ た 語 で あ る。 た だ,こ の 語 と同 じ く 「!」
を冠 した 語 で,こ の 時 期 に 造 られ今 は用 い られ な くな っ た 語 に 「随 見 」 「随 説 」 が 見 え る 。 廃 語 化 した 一 つ の 理 由 と して,「 随 」 に 「い や しい」 の 定 訓 が 慣用 化 して い な か っ た こ とが 考 え ら れ る。
B『 明 六 雑 誌 』 期 以 前 の和 書 に用 例 の な い 語 (近代 以 前 の和 書 に用 例 の な い 語)
こ こ で は,漢 籍 に見 え るが 『明 六 雑 誌 」 期 以 前 の和 書 に 用 例 の な い 語 で,現 在 は使 わ れ な くな っ た 「廃 語 」 を扱 う。 中 に は,四 書 五 経 が 出 典 とい っ た 古 くか ら 日本 に 入 っ て,当 然,当 時 の 啓 蒙 家 た ち が 知 っ て い た と思 わ れ る語 もあ るが,和 書 に
用 例 の な い 語 は 「了 解 語 彙 」 で あ っ て も 「使 用 語 彙 」 で な い とい う考 え に 立 っ て,初 め て 日本 語 に 現 れ た 語 と して扱 う。
「新 語 」 は,狭 い 意 味 で は,前 項 のAで 見 て き た よ う に,「 初 出 の 語 」 とい う こ と に な るが,広 義 に は,中 国 語 に は す で に あ っ て も 日本 語 で は初 出 と い う語 も新 語 に含 め て考 え て よ い で あ ろ う。
[4‑B]
育養 違戻 家裏 患害 空乏 公利 功力 国俗 故歩 志意 識力 自恣 衆子 饒多 深愛 真誠 生力 設施 造構 耐忍 陳言 通理 農功 罰責 平康 弁正 防制 民志 民風 庸衆 留住 など
◆ 育 養
「自主 自 由 公 正 ノ権 ヲ得 セ シ ム ル コ ト四 時 ノ 気 候 万 物 ノ大 小 二 随 ヒ之 ヲ亘 養 生 殺 ス ル如 ク ナ レバ
枯 ル者 怨 ミズ」(阪 谷 素 「狐 説 ノ広 義 」20号) 育 養,「 養 育 」 に 同 じ。 文 字 の 転 倒 。 漢 籍 の
「論 衝 」 が 出 典 。 日本 語 で の 使 用 例 は,中 村 正 直 訳 「西 国 立 志 編 」(1871)が 早 い 。 一 方 の 「養 育 」 は,漢 籍,和 書 と もに 古 くか ら用 い ら れ て い て, 結 局 の と こ ろ,後 発 の 「育 養 」 は 先 住 の 「養 育 」 に 駆 逐 され 廃 語 に な っ た とい う こ とで あ ろ う。
◆ 違 戻
「政 官 ト難 モ 固 ヨ リ敢 テ君 命 二違 医 型 とヲ許 ス ニ ア ラ ス ト錐 モ 君 主 ノ政 官 二 対 セ ル 権 柄 ノ如 キ ハ 頗 ル 限 制 ス ル 所 ア リ テ敢 テ 其 専 行 ヲ許 サ ス 」(加 藤 弘 之 「武 官 ノ恭 順 」7号)
違 戻,「 違 反 」 が 取 っ て代 わ っ た か 。 漢 籍 に は
「違 戻 」 は 古 くか ら見 え る が,日 本 で の 用 例 は本 資 料 が 早 い 。 た だ,こ の 時 期 に は,他 に翻 訳 書 な どに も用 例 が あ るの で,一 部 の 洋 学 者 の 間 で は用 い ら れ た よ う で あ る。
◆ 家 裏
「凡 ソ 官 許 ノ祠 宇 会 堂 ノ外 平 民 ノ塞 墓 二 在 テ 十 人 以 上 ノ 宗 徒 集 会 ス ル コ トヲ 禁 ス ヘ シ 」(西 周
「教 門論 」5号)
家 裏,自 分 の 家,家 族 の 意 。 この 時 期 に 漢 籍 か ら借 用 した 語 。 本 例 の 他 に も,こ の期 の 翻 訳 書 に 見 え る か ら,洋 学 者 の 間 で は使 わ れ た よ うで あ る 。
一 部 の 間 で しか使 わ れ な い 一 般 語 は ,専 門語 に比 べ て 残 りに くい 。
◆ 空 乏
「然 ル ヲー 朝 空 乏 此 ノ如 キ ニ 至 ル 人 民 何 二 由 テ 生 シ 国 家 何 二 由 テ 立 ン」(津 田真 道 「保 護 税 ヲ 非
トス ル説 」5号)
空 乏,「 孟 子 」 を 出 典 とす る が,和 書 で の 用 例 は こ の 期 に な る。 類 語 に 「欠 乏 」 が り,こ の 方 は 古 くか ら馴 染 ま れ て い た 。 何 か特 殊 な 条 件 が な い
と,あ とか らの 侵 入 者 は残 れ な い 。
◆ 健 強
「夫 レ 人 ノ 母 タ ル者 ハ 先 ツ 身 体 ヲ煙 強 二 保 タ サ ル 可 ラ ス」(森 有礼 「妻 妾 論 」20号)
健 強,こ の 語 が 日本 語 で使 わ れ るの は 明 治 期 に 入 っ て か らで あ る。 中 村 正 直,森 有 礼 ら洋 学 者 の 用 語 で あ る が,今 日の 一 般 の 国語 辞 典 に は登 録 さ れ て お らず 廃 語 に な っ て い る 。 「強 健 」 が 一 般 化
した 。
◆ 公 利
「之 ヲ主 張 ス ル 者 ハ 各 能 ク 其 地 位 ヲ察 シ世 事 ヲ 為 ス 可 ケ レハ 各 其 意 ノ 適 ル所 二 就 テ民 ノ義 ヲ務 メ 世 ノ公 型 ヲ進 ム ヘ シ」(森 有 礼 「学 者 職 分 論 ノ評 」 2号)
公 利,「 公 益 」 の こ と。 漢 籍 「春 秋 左 伝 」 を 出 典 とす るが,日 本 語 で の 使 用 は,福 沢 諭 吉 の 「西 洋 事 情 」 が 早 い 。
◆ 故 套(古 套)
「法 律 ノ如 キ 唐 明 ノ;!二 参 ス ル ニ僅 々 西 洋 ノ 意 ヲ以 テ スル ノ ミ」(西 周 「非 学 者 職 分 論 」2号)
故 套,「 旧 套 」 の 同義 語,古 い し きた りの こ と。
日本 語 で の 使 用 は 本 例 が 早 い 。 な お 「旧 套 」 は, 伊 藤 仁 斎 「童 子 問 』(1707)が 初 出 の 和 製 漢 語 で あ る とい う。 「故 」 「旧 」 は,共 に 「古 」 の 意 で あ る か ら,こ の3字 は い ず れ で も通 じ合 う こ と に な る。
◆ 衆 子
「且 人 主 安 穏 ニ ソ ノ居 二 住 ス ル 恰 モ ー 父 ノ塞 王 ノ 中 二 在 ル ガ如 シ 」(中 村 正 直 「西 学 一 班 」12 号)
衆 子,多 くの 子 。r儀 礼1が 出典 。 日本 語 で は, この 「明 六 雑 誌 」 が 早 い 。
以 上 見 て きて,こ の 章 で 指 摘 で きる 一 つ の こ と
は,近 代 語 獲 得 の た め に,洋 学 者 た ち は,中 国 の 古 語 を新 語 と して用 い て い る こ とで あ る。 こ う し た 語 は,中 国 古 典 の 教 養 で 育 っ た 彼 ら に は,そ れ
まで 使 わ れ た こ とが な か っ た に して も,了 解 語 彙 と して は 持 っ て い た は ず で あ る。 た だ,こ れ らの 語 は 数 か ら い っ て も限 度 が あ り,ま た そ れ ま で使 わ れ な か っ た理 由 もあ っ て,結 果 的 に残 る の が 難
しか っ た。
◆ 饒 多
「即 チ 金 布 綿 類 二 税 ヲ置 テ 内 国 ノ綿 産 ヲ保 護 シ 其 産 物 ヲ饒 多 ナ ラ シ ム ガ如 シ」(津 田真 道 「内 地 旅 行 論 」14号)
饒 多,多 くあ る さ ま。 蘭 書 の 青 地 林 宗 訳 「輿 地 誌 略 」(1826)が 初 出 。 明 治 期 に 入 っ て,杉 亭 二, 福 沢 諭 吉,久 米 邦 武 らの 洋 学 者 の 文 章 に 出 て くる 。 洋 学 者 の 間 だ け の 語 彙 で あ っ た こ と,「 饒 」 の 文 字 が 定 訓 化 して い な か っ た こ と な どが 一 般 化 しな か っ た 理 由 で あ ろ う。
◆ 生 力
「然 ドモ 刺 衝 若 シ過 激 ナ ラ バ 生 力 元 気 ノ 素 ヨ リ 衰 弱 ナ ル ニ 乗 シ 却 テ余 症 ヲ発 ス ル ノ恐 レナ キ コ ト 能 ハ ス」(西 周 「非 学 者 職 分 論 」2号)
生 力,「 精 力 」 の 同 義 語 。r史 記 』 の 用 語 。 明 治 初 期 の 洋 学 者 に よ っ て使 わ れ た 。 本 例 が 早 い 。 な お,奥 山 虎 章 「医 語 類 聚 」(1872)で は くvitality>
の 訳 語 と して い る。
◆ 設 施
「洋 法 二 倣 ラ ヒ工 部 郵 便 電 信 鉄 道 灯 台 ヲ 処 シ 外 務 国 使 領 事 ヲ各 国 二 派 出 シ 司 法 徐 々 二 裁 判 所 ヲ 各 地 二 設 置 シ」(津 田 真 道 「政 論 」11号)
設 施,「 施 設 」 「設 備 」 に 同 じ。 「設 施 」 「施 設 」 (「設 備 」 も含 め)と も に 漢 籍 を 出 典 と して お り, 共 に 日本 語 で は 明 治 初 期 に な っ て登 場 す る 。 「施 設 」 「設 備 」 は,訳 書,啓 蒙 書 を 中 心 に見 え る が, 今 日 も使 わ れ て い る 「施 設 」 の 方 が 初 め か ら優 勢 だ った よ うで あ る 。
◆ 耐 忍
「此 難 ヲ 除 ク ハ 唯 諸 先 生 ノ憤 発 負 旛 勉 強耐 忍 ノ 四 字 義 上 二 止 ル ヘ ク」(西 周 「洋 字 ヲ以 テ 国 語 ヲ 書 ス ル ノ論 」1号)
耐 忍,『 筍 子 」 を 出 典 とす る 。 「忍 耐 」 と同 義 語 で あ り,日 本 語 で は本 資 料 が 早 い 。一 方 の 「忍 耐 」
も 日本 語 に登 場 す る の は 明 治 初 期 だ が,こ の 「耐 忍 」 の 方 が消 え た 。
◆ 勉 力
「而 シ テ 其 事 学 問 ト勉、力.二拠 レバ 其 学 ヲ好 ミカ ヲ労 ス ル 之 ヲ 禁 ズ ル モ 必 ズ 聴 カ ズ 」(阪 谷 素 「天 降 説 」36号)
勉 力,努 力 す る こ と。 中村 正 直 訳 『西 国 立 志 編 」 の 用 例 が 早 い 。他 に 洋 学 者 の 文 章 に 用 例 が 見 え る。
この 語 も前 項 の 「耐 忍 」 と 同 じ 『萄 子 』 の語 で あ り,漢 籍 の 用 語 を用 い て翻 訳 に対 した 例 で あ る。
◆ 保 人
「然 ラ バ 挙 国 ノ 人 民 ハ 皆 其 紙 幣 ノ..ー ナ リ挙 国 ノ財 産 ハ 皆 其 抵 当 物 ナ リ」(神 田 孝 平 「紙 幣 四 禄 付 言 」34号)
保 人,「 保 証 人 」 の こ と。 「保 人 」 が 日本 語 に登 場 す る の は,中 村 正 直 訳 『西 国 立 志 編 』 が 早 い 。 古 くは 「保 人 」 と 「証 人 」 が あ り,ま と め て 「保 証 」 とい っ た 。 ま た 「保 証 人 」 も古 くか ら見 え る 。 こ の う ち,本 例 の 「保 人」 が 整 理 さ れ た こ とに な る。
◆ 庸 衆
「蓋 シ 大 人 豪 傑 ハ ソ ノ 学 問 見 識 遙 カ ニ尋 常 塵塞 ノ上 二 越 工 風 俗 慣 習 ノ範 囲 ヲ 脱 ス ル ガ 故 二 」(中 村 正 直 「賞 罰R誉 論 」37号)
庸 衆,平 凡 な 人 々 の 意 。r筍 子 」 の 語 だ が,日 本 語 で は,同 じ中 村 正 直 訳 のr西 国 立 志 編 」 が 早 い 。 こ こ に は,既 存 語 を生 か そ う とす る 態 度 が 読 み とれ よ う。
C『 日本 国 語 大 辞 典 』(二 版)に 登 録 され て な い 語 こ こ で 扱 うの は,本 資 料 の 『明 六 雑 誌 」 に 用 い られ なが ら,現 在 の 一 般 の 「国 語 辞 典 」 だ け で な く,現 代 の 国 語 辞 典 を集 大 成 した 「日本 国 語 大 辞 典 」(第 二 版)に も登 録 さ れ て い な い 語 で あ る 。 い わ ば 明 治 の啓 蒙 期 の 申 し子 的 な語 彙 で あ る 。 こ う した語 は,2字 語 だ け で740語 あ る 。
[4‑C]
為出 為務 臆算 悪憎 外顕 外法 穫収
確有 贋行 環線 遊戯 気身 救薬 業作
教政 空亡 警戒 決立 見象 権民 権理
観見 公際 国歩 根礎 情智 新理 酔倒
世末 世交 世変 知説 存保 存有 働言 働字 得益 派分 表言 不遂 利学 力圧 歴衆 など
◆ 為 務
「然 レ ドモ 私 立 為 業 ト在 官 益 務 ト較 テ 世 ノ利 害 ヲ論 セ ラ ル ル ハ 恐 クハ 未 タ其 趣 旨 ノ偏 ナ ル ヲ免 カ レ ス」(森 有 礼 「学 者 職 分 論 ノ評 」2号)
為 務,務 め とす る こ と,ま た 「為 業 」 も見 え る が,こ の 方 は,職 業 とす る こ と の 意 で あ る 。 「行 為 」 「所 為 」 の よ う に 「為 」 が 後 に置 か れ る語 は 多 い が,こ の 用 例 の 「為 務 」 「為 業 」 の よ う に
「為 」 が 前 に 置 か れ る 語 は,現 代 の 日本 語 で は
「為 我 」(『孟 子 」 出 典)ぐ らい しか 見 え な い よ う で あ る 。 用 例 の 「為 務 」 「為 業 」,ま た[4‑C)に 見 え る 「為 出」 を含 め て,本 資 料 の 用 語 で あ る か ど うか は確 認 で き な い が 『日本 国語 大 辞 典 』 をは じ め,一 般 の 国 語 辞 典 に は 見 え ず 廃 語 に な っ て い る。
◆ 臆 算
「此 等 ヲ総 括 シ タ ル 数 ヲ概 算 セ ン ト欲 ス レ ドモ 其 術 ヲ得 サ レハ 姑 ク人 々 ノ臆盤 二任 セ コ コニ ハ 只 驚 クヘ キ 大 数 二 至 ル ヘ シ ト云 フ コ トヲ確 信 ス ル ノ
ミ」(神 田孝 平 「正 金 外 出 歎 息 禄 」23号)
臆 算,あ て 推 量 に よ る算 出 の こ と。 この 語,漢 籍 に は 見 当 た ら な い が,「 臆 」 を語 頭 に 置 い て
「お し は か る」 の 意 味 の 漢 語 は 多 い 。 和 製 の 可 能 性 は 少 な い の で は ない か 。
◆ 悪 憎
「故 二 好 愛 ハ 心 ノ全 体 ニ シ テ悪 憎 ハ 事 ノ 変 二発 ス ル者 ナ リ」(西 周 「愛 敵 論 」16号)
悪 憎,「 憎 悪 」 の 同 義 語 。 「悪 」 も憎 む 意 で あ る か ら,同 意 の 語 基 の 複 合 語 とい う こ と に な る 。 一 方 の 「憎 悪 」 は 『筍 子 』 を出 典 と し,和 書 に も古 くか ら見 え るが,文 字 を転 倒 す る こ とで 新 語 とす る 意 識 が 啓 蒙 家 に は あ っ た よ うで あ る 。そ の 結 果}
両 者 は競 合 す る こ とに な る が,多 くは統 一 さ れ る 。 た だ,古 くか らあ っ た 方 に統 一 され て も意 味 は 新
しい もの に な る傾 向 が見 ら れ る 。
◆ 外 法
「国 体 ヲ 誹 リ国 律 ヲ議 シ 及 ヒ姓 法 ヲ主 張 宣 議 シ テ 国 ノ 妨 害 ヲ生 セ シ ム ル ヲ禁 ス」(森 有 礼 「民 撰
議 員 設 立 建 言 書 之 評 」3号)
外 法,今 日の 国 際 法 。 不 平 等 条 約 の 意 識 や 「万 国 公 法 」 の 知 識 か ら,自 国 を守 る法 の 整 備 が 急 が れ て い た 。 「外 法 」 は 今 で は使 わ れ な い 。
◆ 穫 収
「夫 レ土 着 シ テ 牧 ス ル 者 腓 ス ル 者 其 繁 殖 ヲ好 ミ 懲 ヲ欲 ス ル ハ 人 ノ 己利 ノ性 ニ シ テ 亦 欠 ク可 カ ラ
ザ ル 者 トス」(杉 享 二 「人 間 公 共 ノ説 」16号) 穫 収,「 収 穫 」 の 文 字 の 転 倒 。 今 日使 わ れ て い る 「収 穫 」 は,r後 漢 書jを 出 典 と し,和 書 も
『令 義 解 」(718>が 初 出 の よ う で あ る 。 古 くか ら 馴 染 ん で い る語 が 残 っ た 。
◆ 戯 遊
「而 シ テ 中 小 学 課 業 ノ暇 童 児 ノ戯 遊 二 供 ス ル ニ 於 テ最 モ 心 ヲ注 ギ 或 ハ 隔 リ或 ハ 毎 日順 序 ヲ追 テ 之
ヲ習 ハ シ」(阪 谷 素 「養 精 神 一 説」41号)
戯 遊,「 遊 戯 」 の 文 字 の 転 倒 。 「遊 戯 」 はr史 記 」 を 出 典 と して い るが 「遊 戯 」 も 『明 六 雑 誌 」 以 後 で ない と用 例 が な い よ うで あ る 。 筆 者 の 阪 谷 素 が
『史 記 」 の 語 を 知 ら な い は ず は な く,確 信 は も て ない が,文 字 を転 倒 す る こ とで新 語 を 生 成 す る意 識 が あ っ た の で は な い か 。 「遊 」 と 「戯 」 は 同 義 語 で あ る 。 順 序 は そ れ ほ ど重 要 で は な い 。 「戯 遊 」 が 消 え て 「遊 戯 」 が 残 っ た 。
◆ 教 政
「西 君 ハ教 政 格 別 ノ理 二 拠 リ宗 教 政 府 両 断 シ永 ク宗 教 自 由 ノ権 理 ヲ定 ル ヲ以 テ 良 護 トス」(森 有 森 「教 宗 」6号)
教 政,「 政 教 」 の 文 字 の 転 倒 。今 は 「政 教 一分 離 」 とい わ れ る 。 一 方,こ の 時 期 に 「政 教 」 が 見 え
「政 治 と宗 教 」 の 意 味 で 用 い て い る 。 競 合 の 結 果, 統 合 さ れ た の で あ ろ う。
◆ 傾 棟
「是 敗 屋 便 速 ノ下 二 坐 シ テ 修 理 ヲ加 ヘ ズ 自然 二 付 ス ル如 シ 」(阪 谷 素 「民 撰 議 院 ヲ立 ル ニ ハ 先 政
体 ヲ定 ム ベ キ ノ疑 問」13号)
傾 棟,建 物 が 傾 く,ま た傾 い た家 屋 の 意 味 。 語 の 構 造 は く動 詞+名 詞 〉 とな っ て お り,い わ ゆ る
〈V‑N>構 文 で あ る 。 和 語 は 〈N‑V>が 基 本 で あ る か ら 「傾 棟 」 の構 文 は,中 国 語 や 英 語 の 語 順 で あ る 。 こ う した構 文 は,漢 語(中 国語)に 造 詣 の 深 か っ た 明 治 の 洋 学 者 た ち が 和 製 漢 語 を 造 成 す る に
際 して 用 い た こ とは 容 易 に考 え られ る。 一 方,英 語 の 訳 語 造 りに 際 して 英 語 の 構 造 に倣 っ た こ と も 捨 て きれ な い で あ ろ う。
◆ 言 物
「孔 子 専 ラ 人 道 ヲ説 キ気 学 ヲ論 ゼ ス ー 修 身 学 ノ ミ政 事 学 ノ ミ其 言 物 ヲ開 キ務 メ ヲ成 ス ヲ好 ム モ 説 テ 気 学 二 至 ラ サ ル 者 ハ 」(阪 谷 素 「養 精 神 一 説 」 40号 〉
言 物,こ の 語 〈げ ん ぶ つ 〉 と読 み 「物 を 言 う」
意 で くV‑N>構 文 に な る 。 この 語 は 「廃 語 」 に な っ た が,一 方 の 〈r明六 雑 誌 」 期 に 新 た に 造 られ た 語 〉(本 誌 前 号 の 【A‑a】)の中 で,す で に指 摘 し た よ う に 「立 憲 」 「入 籍 」 な どが 見 え,V‑N構 文 で あ る。
◆ 公 際
「文 化 未 沿 兵 力 未 強 ノ問 ハ 全 ク ー 国 ノ 内 政 二 属 シ公 遼 二 関 セ サ ル ヲ 以 テ 之 二 答 ル ヲ 要 トセ ス 」 (森有 礼 「独 立 国 権 義 」7号)
今 日の 「外 交 」 ま た は 「国 際 」 の 意 。 「国 交 」 を 「交 際 」 とい っ た 。 自 国 の こ と を 「内」 外 国 の こ とを 「公 」 とい い 「際 」 は 外 国 との 関係 を い っ た 。 鎖 国 か ら開 国 へ,外 国 との 関係 を あ らわ す こ
とば が,ま だ確 立 さ れ て い な い 。
◆ 世 交
「世 交 邦 政 ノ 要 ハ 必 然 其 国 ヲ安 保 ス ル ニ ア リ」
(森有 礼 「教 宗 」6号)
世 交,今 日の 「社 交 」 の 意 。 「世 間」 が 「社 会 」 と認 識 さ れ る よ う に な る と,「 世 交 」 も 「社 交 」 に取 っ て 代 わ っ た。
◆ 知 説
「知 説 」(西 周 「知 説 」14号)
知 説,論 文 の タ イ トル。 同 論 文 で も,本 文 中 に は この 「知 説 」 の 語 は 出 て こな い。 そ の 後 も使 わ れ た 形 跡 が な い の で,西 周 の 用 語 とい う こ とが で きる で あ ろ う。 語 形 か らい う と 「知 の 説 」 で,津 田 真 道 に も 「怪 説 」(怪 の 説)と 題 す る 論 文 が あ る 。 こ の 「説 」 に 換 わ る 「論 」 「学 」 が2字 漢 語 の 後 接 とす る形 式 も見 られ る が(政 学,西 学,天 学,星 学,算 学,哲 学,文 学 な ど),明 治 中期 以 後 は 「説 」 「論 」 よ り 「学 」 を後 接 の 辞 に し た3 字 漢 語,た とえ ば,経 済 一学,論 理 一学,天 文 一学, 言 語 一学,社 会 一学 な どが 一 般 的 に な る 。
◆ 表 言
「尚 社 交 上 ヨ リ考 ヘ テ社 交 ヲ律 ス ル 、 一 道 理 其 道 理 ヲ表 詮 ≧タ ル ー 例 規 無 キ ヲ得 ザ ル ナ リ」(西 周 「人 世 三 宝 説 」42号)
表 言,言 い表 す の 意 。 「表 現 」 で は,こ と ば 以 外 の もの も含 む の で,こ うい う語 を造 っ て 述 べ た の で あ ろ う。 た だ,「 言 表 」 で あ れ ば 〈言 い 表 す 〉
と語 順 も 日本 語 の構 造 に な る が 「表 言 」 で は逆 で 落 ち着 か ず 「廃 語 」 に な っ た の で あ ろ う。
◆ 無 刑
「尚 書 二 日 ク刑 ヲ毒 刑 二 期 ス ト其 旨 趣 善 美 ナ リ ト謂 フベ シ」 津 田 真 道 「死 刑 論 」41号)
無 刑,「 無 」 「不 」 「非 」 の 助 字(接 頭 辞 〉 を語 頭 に置 く造 語 法 は,本 来 の 日本 語 に は ない 。 しか し,漢 語 に堪 能 な 当 時 の 洋 学 者 は,中 国 語 の 造 語 法,ま た は 英 語 の 構 造(皿fair 正/Lpleas‑
antneSS 愉 快)を 用 い て 和 製 漢 語 を 造 っ た と考 え る。 こ の廃 語 の 中 に も 「無 刑 」 の他 に 「無 筋 」
「不 逐 」 が 見 え る。
◆ 利 学
「然 ル ニi到[堂ノ 大 旨 ニ テ ハ 人 ノ 斯 世 二 処 ス ル ー
モ トス トゲ レ トハ ンピニ ス
大 目 的 ハ 最 大 福 祉 ト見 エ タ リ」(西 周 「人 世 三 宝 説 」38号)
利 学,同 じ論 の 中 で 「利 学 」 に 「ウ チ リ タ リ ア ニ ズ ム 」 と ル ビ を 付 す 。 ま た ,西 周 に は 「利 学 」
(1877/明 治10年)と い う 訳 書 が あ り,J.S.Mil1
"Utilit
arianism"に よ る 。 そ の 序 文 で 「烏 地 利 他 尼 亜 里 斯 吾,以 称 利 為 木 本 之 道 徳 学,此 語 所 原, 鳥 地 利 提 字 」 と 述 べ て 「利 学 」 を 説 明 し て い る 。 現 代 で は,ミ ル の 「倫 理 学 説 」 と い わ れ,哲 学 用 語 で は 「功 利 説 」 と 訳 し て い る 。
5.現 存 語 と廃 語 の 差 異
現 存 語(現 在 も使 わ れ て い る語)と 廃 語(現 在 は使 わ れ な くな っ た 語 〉 の 間 に は,い くつ か の 相 違 点 が 見 られ る 。言 い 換 え れ ば,ど う して 「廃 語 」 に な っ た の か の 理 由 を指 摘 す る こ とに な る が,こ の こ とは 新 語 造成(造 語 法)の メ カ ニ ズ ム を明 ら か に す る こ と に もな る。
a)語 の 構 造
近 代 の 新 語 の ほ とん どは 漢 語 で あ る。 日本 語 の
構 造 の 基 本 は 【名 詞+動 詞 】([N‑V])構 文 で あ り, い わ ゆ るISOV】(文 の 基 本 語 順)に よ る 。 こ の 期 の 新 語 の 大 部 分 も,こ の 困 一V】で あ り,和 製 漢 語 の 基 本 に な っ て い る 。 た と え ば<travel>の 中 国 語 訳 が 「行 旅 」(V‑N)で 入 る が,日 本 語 で 一 般 化 す る と 「旅 行 」 に な っ た 。 し か し,当 時 の 洋 学 者 は 漢 学 に も通 じ,中 国 語 の 語 法 【動 詞+名 詞 】を 用 い た 造 語 は 容 易 で あ っ た 考 え る 。 ま た,英 語 を は じ め 西 洋 語 の 多 く は,中 国 語 と 同 じ 語 順 の
【SVO】で あ り,直 訳 す る と 中 国 語 と 同 じ構L造 に な る 。 前 号 の 「現 存 語 」 の 中 に も 「保 健 」 「立 憲 」 な どが 見 え る 。 ま た,廃 語 に な っ た が,こ の 稿 で も 見 た 「傾 棟 」 「言 物 」 「表 言 」 も 同 様 な 構 造 に な っ て い る 。
こ の 他,語 頭 に 「無 」 「不 」 「非 」 を 置 く語 法 も 日 本 語 の 構 造 で は な い 。 現 存 語 に は 「不 全 」 「不 策 」 な ど,廃 語 に は 「無 刑 」 「無 経 」 「無 筋 」 「不 開 」 「不 飾 」 「不 遂 」 「非 産 」 な どが 見 え る 。
b)漢 字 の 難 易 度
日本 人 の 思 考 の 基 本 は,な ん と い っ て も和 語 で あ る。 こ れ を 漢 字 に 関 して い え ば 「訓 読 」(日 本 語 読 み)と い う こ と に な る。 したが っ て,日 本 人 が 漢 語 を 造 成 す る の に有 効 な の は,こ の 「訓 」 を もつ 漢 字,つ ま り 「音 訓 両 用 」 の 漢 字 で あ る。 こ の 漢 字 を こ こ で は 「和 語 に対 応 す る 漢 語 の 語 基 」 と捉 え る こ とに す る 。 この 語 基(漢 字)は,日 本 語 へ の 切 り替 え が 自 由 な た め,造 語 の 際 に 自 由 に 機 能 す る 。
廃 語 に な る語 基 の 漢 語 に は,こ の 「訓 」 が 確 立 され て い な い 漢 字,ま た定 訓 が 慣 用 化 され て い な い 漢 字 を含 む 語 が 多 い 。 見 て きた 中 に も,た とえ ば 「随 語 」 「饒 多 」 な どが そ う した語 で あ っ た 。
c)専 門 語 と一 般 語
術 語 は,多 少 難 解 な漢 字,定 訓 が 慣 用 化 され て い な い 漢 字 の 語 で あ っ も残 る傾 向 にあ る 。 明 治 期 の 新 語 の 「現 存 語 」 の 中 に は そ う した 語 が 散 在 す る。 た と え ば,「 科 学 」 「哲 学 」 社 会 」 「精 神 」 「理 科 」 「珪 素 」 「砒 素 」 な どは,理 解 して い る よ う に 思 っ て い る が,内 容 が 難 解 とい う こ と を除 き,漢 字 か らの 理 解 は容 易 で な い だ ろ う。 今 は一 般 語 化
して い る が 「精 神 」 な ど は,文 字 か ら は 「こ こ ろ 」 の 意 味 は 出 て こ な い 。福 沢 諭 吉 は 「学 問 ノ ス ス メj の 中 で 「精 心 」 と 「一 心 」 を 当 て て い る 。
d)個 人 に 限 られ る語
本 を正 せ ば,多 くの 新 語(訳 語 を含 め)は 個 人 の 造 語 で あ ろ う。 辞 書 に登 録 され る こ とが 市 民 権 を獲 得 す る き っか に な ろ うが 「哲 学 」 の よ う に東 京 大 学 の 学 科 名 に な っ た こ とが普 及 の き っか け と い う よ うに,あ る種 の 条 件 が 必 要 で あ ろ う。 廃 語 の 内 容 を み る と,た とえ ば,先 に 扱 っ た 「権 分 」
「字 語 」 「民 会 」 「民 気 」 「知 説 」 な どは,個 人 の 論 文 に1回 だ け の 用 例 しか な い語 で あ る。 廃 語 の 中 に は こ う した 語 が 多 い 。
e)語 の 競 合
と くに 「廃 語 」 に 関 して い う と,先 に 見 た 〈B)
「明 六 雑 誌 」 期 以 前 の 和 書 に用 例 の な い 語 〉 は, そ れ まで の 日本 語 に は 用 例 は な い が,中 国 の 古 典 に 登 場 した 古 語 を用 い て 新 語 に対 応 しよ う と した 方 法 で あ る 。日本 人 に は初 め て見 る 語 で あ ろ うが, 既 存 語 の利 用 に は,ど う して も新 しい 概 念 と の 間 に ズ レが 生 じ限界 が あ る こ とを指 摘 した 。
廃 語 の議 論 の 中で,た び た び 指 摘 して き た 「文 字 の 転 倒 」 に よ る 新 語 の 造 成 法 で は,た と え ば
「抵 抗 」 と 「抗 抵 」 に つ い て い え ば,「 抵 抗 」 は 古 くか ら使 わ れ お り,そ こへ 明 治 初 期 に 「抗 抵 」 が 造 られ,両 語 は 明 治 中期 まで 競 合 す る 。そ の 結 果, 古 くか らあ っ た 「抵 抗 」 が 残 っ た 。 た だ,こ の 方 法 が,ど れ だ け 意 識 的 に行 わ れ た か は確 認 で き な
い 。
明 治期 に は,こ う した 文 字 の転 倒 に よ る両 語 が 競 合 す る例 が 多 く見 られ る が,現 在 で は こ う した 例 は 半 減 して い る 。 こ の既 存 語 の 文 字 を転 倒 させ 新 語 とす る 方 法 は,当 事 者 た ち が,ど れ だ け 意 識 的 に採 用 して い た か 確 認 で きな い が,多 くの 例 が 見 られ る こ とか ら,あ る 程 度,新 語 造 成 の 方 法 と 考 え て い た の で は な い か 。
また,同 義 語 ま た は 近 似 した 類 語,な い し異 字 同 意 語 が 存 在 す る 場 合,語 の統 一 意 識,正 書 法 意 識 が 働 い て,一 方 が 残 り一 方 が 廃 語 に な る例 を見
て きた 。
6.お わ り に
残 さ れ た 問 題 と し て,3字 語,4字 語 以 上 の 扱 わ な か っ た語 彙 が あ る。 た だ,こ れ らの 語 の大 部 分 は,2字 語 の 二 次 的 な 生 産 物 と して 生 成 され る 場 合 が 多 い。 つ ま り,す で に あ る語 も新 語 と して 生 成 され た語 も,そ れ が 語 と して 通 用 す る と,次 の段 階 で は造 語 要 素 とな っ て新 語 を生 み 出 す 。
た とえ ば,
a)「 演 説 」 が 造 られ た後,そ れ を語 基(造 語 要 素)と して 「演 説 一 書 」 「演 説 一 会 」 「演 説 一法 」 が 造 られ た 。 こ う した語 を 「二 次 的 語 基 」 と呼 ぶ 。 3字 語 は,2字 語 に接 頭 辞,ま た は 接 尾 辞 を 付 す 構 造 の も の が 多 い 。 この2字 語 「演 説 」 は 新 語 で あ る。 「弱 一電 気 」(接 頭 辞 の 例)。
2字 語 の 部 分 に は 以 下 の もの が あ る 。
b)「 感 化 一力 」 既 存 語 を語 基 と した 語 。 「感 化 」 は,中 国 語 に も 日本 語 に も古 くか らあ る が, こ れ を語 基 に接 尾 辞 「力 」 を付 して3字 語 と した 。
「不 一 養 生 」(接 頭 辞 の 例)。
c)「 観 念 一 学」 既 存 語 を転 用 し語 基 と した語 。
r観 念 」 は,仏 教 語 と して用 い ら れ て い た が,こ れ を西 洋 哲 学 の 用 語 に転 用 し 「学 」 を付 して3語
と した 。 「全 一 世 界 」(接 頭 辞 の 例 〉。
d)4字 語 も2字 語 基 同 士 の 結 合 で 「社 会 一科 学 」
「民 選 一議 院 」 とな り,原 理 は 前 者 と同様 で あ る 。 二 次 語 基 同 士 の 結 合 も可 能 で あ り,三 次 的,四 次 的 と派 生 す る 。 こ の 造 語 法 は,日 本 人 に も容 易 に 利 用 で き て,豊 富 な 造 語 資 源 と な っ て い る。
こ う見 て くる と,本 資 料 の 『明 六 雑 誌 』 期 は, 語 の 造 成 とい う よ り語 基 を生 成 した 時 期 で あ つ た とい う こ とが で き よ う。そ して,そ の 後 の 時 代 は, そ の 語 基 を元 手 に二 次 的,三 次 的 とい う よ う に語 を生 成 して き た。 い わ ば,近 代 語 の 基 礎 を築 い た の が 『明 六 雑 誌 」 期 で あ っ た と位 置 づ け られ るで あ う。
《註 》 1)前 号 《表3》 参 照
2)語 の 存 廃 の 認 定 は前 号 《註4》 参 照
*前 号 の(そ の1)で,キ ー ワ ー ドを 〈明 六 雑 誌/漢 語/既 存 語 〉 と な っ て い る が 「既 存 語 」 を 「現 存 語 」 に 訂 正 す る。
「六 明 奈 志 」 的 洞=江(下)
高 野 繁 男
TAxANOShigeo 迭篇 槍 文 甘槍 「 六 明条 志 」(1874・75/明 治7・8年)的 洞江 中送 吋 期 日梧 新 増 添 的 。尤 其 是 西 介 汲 字 杓成 的新 洞 江 、槍 文 分 力 丙 部 分, 已炭 表 的上 篇栓 討 了這 些 洞 江 中現 在逐 使 用 的 、迭 下篇 要 栓 村現 在 已 経 不 使 用 的 。本 拾 文 里我 称這 秤 洞 力 「 庚 洞 」。
分 析這 些 「 衷 洞 」所1/R.的理 由能分 清 新 洞 的成 立 条 件 和 造 成 新 洞 的机 杓 。我 在 遠 下 篇,采 用銀 上 篇 栓 討 「 現 存 洞 」一 祥 的分 析項 目来 分 析
「 庚 洞 」,提 示 「 現 存 洞 」和r疲 洞 」 的差 昇,査 明 「 庚 洞 」的 実体 。 分 析 的 項 目是a)単 洞 的結 杓 、b)双 字 的唯 易 、c)寺 並ボ 梧 或 一 般 洞 語 、d)限 干 特 定 人 的使 用 或 涯 使 用e)洞 活 的尭 争 。
キ ー ワ ー ド