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家族支援の在り方

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(1)

家族支援の在り方

著者 川端 健司

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 22

号 1

ページ 79‑90

発行年 2020‑08‑01

権利 同志社大学政策学会

URL http://doi.org/10.14988/00027472

(2)

概 要

 不登校は長らく子どもの心理発達の調整局面 であるとして、教育行政は子どもの心の居場所 作りに取り組んできた。しかし、1980年代よ り子どもの貧困が広がっており、家庭の養護力 の低下が見られる。こうしたことから、本稿で は、家庭の貧困という視点から不登校を捉え直 し、文部科学省が進める家庭教育支援が子ども の就業意欲の改善にどう繋がっていくのかを考 察した。

はじめに

 文部科学省の長期欠席の定義によれば、「何 らかの心理的・情緒的・身体的、あるいは、社 会的要因により、児童生徒が登校しない、ある いは、登校したくてもできない状態にあり、年 度間に連続また断絶的に

30

日以上欠席した児 童生徒(学校基本統計)」とされ、不登校はこ のうち病気や経済的な理由による者を除いた者 である。しかし、筆者は以前に中学校でスクー ルソーシャルワーカーとして勤務し、その時の 経験から、不登校になっていく生徒は遅刻が多 く、あるいは、断続して欠席が続くなど無気力 が垣間見られた。文部科学省の定義する不登校 像では、長期欠席者の状況を適切にとらえられ ていない。文部科学省もまた

2016

年の「不登 校児童生徒への支援に関する最終報告書」の中 で「不登校の実態について考える際の背景とし て、ネグレクト等の児童虐待や子どもの貧困等 との関連を指摘する見方がある」と言及し、経 済的な要因が不登校に大きく影響を与えている ことがうかがえる(URL1)。

 1950年代から

60

年代にかけては家庭の経済 問題に起因する長期欠席者が多かった時代であ り、宮ノ原(2014)は高知県の福祉教員の活動 を研究した。家庭への福祉的支援まで含めた教 育活動を行い、子どもの登校実現を支えていた と述べている。福祉教員のこうした活動を踏ま えて、本研究の目的として、家庭の経済要因と いう視点から不登校を捉えた上で、文部科学省 の家庭教育支援事業に注目し、それは不登校の 発生の予防につながっているのかどうかを考察 していく。

 この論文では、第一章で不登校・長期欠席を 家庭の経済問題という視点から捉え直し、第二 章では子育て世帯の生活困窮の広がりと深まり について考察する。第三章は家庭の貧困が不登 校に至るメカニズムを登校回避感情という視点 から考察する。第四章では訪問型家庭教育支援 事業を取り上げ、その先駆的自治体へのインタ ビュー結果をもとに、子どもの就学意欲に対す る親支援の効果について考察する。

1

家庭的・経済的要因による不登校の 概況

 平成

30

年度児童生徒の問題行動・不登校等 生徒指導上の諸課題に関する調査によれば、長 欠児は

240,039

人(前年度

217,040

人)であり、

不登校数は

164,528

人(前年度

144,031

人)で ある(URL2)。文部科学省(2016)は、長期欠 席における病欠を、発熱や頭痛、腹痛といった 病気を理由とする欠席であっても、不登校の可 能性を学校内において検討すべきであると述べ ていることから(URL1)、長期欠席者と不登校 を厳密に区別せず、子どもの学校を回避する心

経済的困難を抱えた不登校の子どもに対する学校の 家族支援の在り方

川 端   健 司

(3)

人権擁護の立場から公的機関として初めて不登 校という呼称を使いだした(土方

2017)。文部

科学省も

1992

年の「登校拒否問題についてー 児童生徒の心の居場所づくりを目指して」の中 で、「登校拒否は誰にでも起こり得る」という 考えを明らかにし

(URL3)、1998

年の学校基本 統計調査のなかで長欠児の呼称は不登校へと変 更された。

 このように、長期欠席の児童生徒の呼称は 度々変わってきたものの、心理的な見立ては そのまま踏襲され続けた。90年代以降は学校 にカウンセリングブームが起きるなど、むし ろ、教育現場の心理主義の傾向は強められてい る。とはいえ、横田(1986)や竹内(1987)ら は、80年代には崩壊家庭が目立つようになり、

長欠児の原因として経済的要因が再び広がりだ していると警鐘を鳴らしていた。教育行政や学 校での長欠児に対する見立ては子どもの家庭の 変化まで見通せず、1990年代、長欠児の数は 急増する結果となった。

1. 2  心理要因によらない長期欠席・不登 校の広がり

 香川(2011)は学校にスクールカウンセラー が配置された初期のころより、中学校の子ども と接し、彼らの臨床心理を担当し、90年代後 半以降、カウンセリングの分析枠組みに当て はまらない長欠の子どもが増えたことに違和 感を唱えた。香川は不登校現象を次の三つの 時期に分類している。第一の時期は

1970

年代 から

1980

年代前半までの時期で、一般に指摘 されるところの神経症的な心の病の結果とし ての不登校である。第二の時期は

1980

年代後 半から

1990

年代半ばであり、子どもの様子が

「すっと引っ込んでそのままそこにいる」こと

から、不登校の子どもの心の理解に「蛹モデル」

があてはめられた時期である。そして、第三期 の

1990

年代後半以降であるが、子どもたちの 様子に学校だけでなく家族のなかにも居場所が なさそうな様子が垣間見られ、その特徴として、

①非行との境目が曖昧、②傷つきが背後に感じ られる場合が多く、児童虐待や、それに近接し た不適切な育児環境が窺われる場合がある、③ 学力に困難を抱えている、④家庭の抱える困難 の大きさ、をあげている。香川はこの時期の不 登校を「方向喪失型」と呼んでいるように、カ 象に焦点をあてて考察していく。

1. 1  呼称変遷からうかがえる長期欠席の 児童生徒に対する心理主義の傾向  

山岸(2018)によれば、長期欠席の児童生 徒(以下、長欠児)は戦前から存在していたと いう。ただ、この問題が教育問題と認識され出 したのは、戦後間も無くの戦災孤児が児童福祉 法の成立とともに施設収容で落ち着いた

1950

年代から

60

年代からであった。長期欠席だけ でなく不就学や所在不明の子どもが多く、当時 の文部省の認識は子どもの怠業というもので学 校嫌いと呼称した。その後、高度経済成長が本 格化し就学奨励策制度が整えられると、経済的 理由からの長期欠席は急激に減少し、かわって、

学校恐怖症と呼ばれていた神経症タイプの長欠 児が注目を集めるようになった。佐藤(1959)

は子どもの長欠行動に神経症的登校拒校行動を 提起し、「適応異常行動であり、児童のパーソ ナリティ、家庭環境、その他の児童の発達に影 響する諸要因の総合的結果である(佐藤

1959:

15)」として、神経症を発症し学校に行きたく

ても行けない児童生徒の存在を明らかにした。

この時、不登校は、神経症的な不登校、優等生 が息切れしたような不登校、親の過保護や過干 渉が原因の不登校、意図的に学校を拒否して自 分の道を進むというイメージが作られた。

 1970年代より女性の社会進出が進み、さら に近所づきあいも希薄化する中で、母親は育児 困難を訴え出すなど(大日向

2005)、家庭の養

護力の低下があった。長欠児の数は

1974

年を 底に反転増加した。校内暴力が多発した時期で あり、教師は長欠児を親の養育態度に起因する 子どもの問題行動とみなし生徒指導の対象とし た。そこで、文部省は

1983

年、「生徒指導研究 資料第

18

集―登校拒否を中心にして」のなか で長欠児の呼称を登校拒否に改めた。

 ただ、この呼称の否定的なニュアンスより、

長欠児は本人の怠惰あるいは家庭育児の問題と 捉えられ、精神科の治療の対象と扱われ、虐待 事件が繰り返し起きていた。朝倉(1995)は当 事者たる児童生徒の声を調査し、学校の管理教 育の中で、公的規範の強まりに、児童生徒が自 分のことは自分で決めたいという考えがあった と紹介している。1989年、法務省が長欠児の

(4)

ことが読み取れる。つまり、香川の方向喪失性 という見解と類似性がみられ、社会の一般的見 解となっていると考えられる。

1. 3  家庭の経済困窮に起因する長欠児の 再発見

 保坂(2000)は、家庭の養護問題から学校の 集団生活からそっと消えていく不登校の子ども を「脱落型不登校」と呼称した。さらに、保坂 は長欠児を考えるにあたり、心理主義による見 立てと別に、脱落型不登校の見立ても必要であ ると指摘した。保坂のこの指摘を受けて、2000 年代以降、家庭の経済問題が再び注目されるよ うになった。就学援助を受ける児童生徒の割合 は

1990

年代中頃から急増し、2015年現在で学 齢児童生徒の

15.23%

を占めるまでになってい る(URL5)。不登校と家庭の経済問題の関係に ついて、労働政策研究・研修機構(2016)の第 四回子育て世帯全国調査によれば、貧困層の家 庭が抱える不登校問題は

13.2%であり、中高収

入層の

3.5

倍という高さであった(URL6)。東 京都板橋区の調査でも生活保護を受ける世帯 の不登校発生率はそれを受けない中学生に比 ウンセリングの効果が表れなくなったことが読

み取れ、その理由として、子どもの傷つきが「家 庭の抱える困難」と密接に関連していることを 指摘した。

 表

1-1

2018

年の中学校生徒の不登校の理 由を要因別に表しており、確かに、本人に係る 要因のうち「不安」や「学校における人間関係 の課題」の割合は

52.15%

と最も大きく、かつ、

学校要因では人間関係のつまづきが大きな理由 となっていることから、従来の心理学的枠組み の有効性がうかがえる。ただ注目すべきは「非 行」と「無気力」に関わる要因は割合としては

33.95%

と小さいが、これらは家庭に係る状況

から強く影響を受けている。香川の問題認識は

「非行」 「無気力」

型を意識したものと考えられる。

 文部科学省の認識としても、2003年の「今 後の不登校への対応のあり方について」の中で

「自尊感情に乏しく、人生目標や将来の職業に

対し夢や希望等を持たず無気力で、学習意欲が 低下し、耐性がなく未熟である」と述べるよう になり(URL4)、学校に行かなければならない と分かっていても、どうしても体がついてこな いという神経症型の不登校と主訴が異なり、生 活リズムの乱れから家庭環境を問題視している

分類別生徒数 学校に係る要因 家庭

に係る要因 該当なし いじめ 友人

関係 教師と の関係 学業

不振 進路

不安 クラブで の問題 校則

関係 進路 不適応

本人に係る要因

不安型

38766 91 12658 801 9871 3362 1063 701 4182 9850 4711

32.4%

0.2% 32.7% 2.1% 25.5% 8.7% 2.7% 1.8% 10.8% 25.4% 12.2%

学校におけ る人間関係 の課題  

22374 505 16559 1363 2415 502 1068 398 1260 2822 573

18.7%

2.3% 74.0% 6.1% 10.8% 2.2% 4.8% 1.8% 5.6% 12.6% 2.6%

無気力型

35925 45 4467 451 12816 1830 752 1229 2432 13991 4911

30.0%

0.1% 12.4% 1.3% 35.7% 5.1% 2.1% 3.4% 6.8% 38.9% 13.7%

非行型遊び・

4703 4 450 169 1328 150 56 1324 119 2405 369

3.9%

0.1% 9.6% 3.6% 28.2% 3.2% 1.2% 28.2% 2.5% 51.1% 7.8%

その他

17919 31 1861 244 2257 551 234 391 1214 7972 5477

15.0%

0.2% 10.4% 1.4% 12.6% 3.1% 1.3% 2.2% 6.8% 44.5% 30.6%

合計

119687 676 35995 3028 28687 6395 3173 4043 9207 37040 16041

表 1-1 中学生の不登校の要因別一覧表

(出典:平成30年度児童生徒の問題行動・不登校生徒指導上の諸課題に関する調査結果について(URL2))

(5)

年代からすでに、児童生徒の長欠・不登校に経 済的要因が広がっている。ところが、教育行政 はこれを心理的な視点から捉えるだけで、深刻 な虐待事件を見逃す結果となってきた。経済的 視点に立ち、長欠を居所不明の児童生徒と連続 して捉えたうえで対処していくことが重要であ る。

2

子育て世帯への貧困の広がりと深み

 子育て世帯に生活困窮は広がっている。就職 氷河期以降の若者に非正規就労が広がり1

、そ

んな彼らが子育て世帯になっている。共働き世 帯数は

1997

年以降、専業主婦のいる世帯数を 上回るようになり、2014年以降になると、保 育所でも

1 〜 2

歳児の利用率が急増している

実方

2019)。

山野・小林(2019)によれば、

大阪府の小中学生調査より、5歳児を持つ二人 親世帯のうち

54.9%

が貧困状態に陥っていた と報告している。国民生活基礎調査より、子ど もを持つ世帯のうち貯蓄のない世帯は

14.6%で

あり、さらに、借金を抱えている世帯は

53.5%

にのぼっている(URL7)。特に、非正規就労の 場合、子どもが学校に上がったからといって、

給与が上がるわけでもなく、ところが、2013 年には生活保護水準は切り下げられ就学援助の 伸び率も止まりだしている。

 1990年代以降の長欠児の急増の背景には、子 育て世帯を取り巻く経済環境の厳しさがあり2

二人親でも経済的困難から抜け出せないのに、

ひとり親家庭の境遇はより難しく、母子家庭は その過半数が相対的貧困状態にある。この章で は、母子世帯の中で広がる格差に注目し、所得 下位層の生活困窮について延べていく。

2. 1 母子家庭にみる困窮の深さ

 バブル経済崩壊以後の

80

年代半ばから離婚 件数の増加が見られ、河野(2012)の研究によ れば、離婚は経済問題と関係が深いとされる。

ところが、世間一般の捉え方は、夫婦間の生活 や愛情のすれ違いと捉えがちである。長欠児を べ

4.8

倍にのぼったと報告されている(池谷

2009)。2000

年代に入り学校に配属されたス

クールソーシャルワーカーの報告でも、山田

(2015)や木村・伊藤(2010)は家庭訪問によ

る支援の有効性を指摘している。

 こうしたことから、1950年代から

60

年代に 家庭の経済困窮による長欠問題は高度経済成長 によって解決したと思われていたのが、文部 科学省は

2016

年の不登校報告書で不登校の急 増に経済要因が見られるという認識を示した。

従って、不登校は家庭の経済問題に起因するタ イプが増加しており、学校の現場から家庭支援 の必要がますます求められていると言える。

1. 4 長欠児と児童虐待の関連

 教育行政が長欠の原因に家庭の経済困窮があ ることを認識するのを遅れたことは長欠児に絡 む虐待事件を繰り返し起こす結果を招いた。こ れまでの研究でも、安倍(2016)は、ネグレク ト事例の中の三割に貧困が見られたとし、さら に、安部(2015)は子どもが

14

歳以上のケー スの

6

割で不登校が生じていることを明らかに している。2003年、大阪の岸和田市で不登校 の子どもの虐待死事件が起った際、文部科学省 は

2004

年、長欠児の生徒と児童虐待の関連に ついて緊急調査を行った。それによれば、当時 の長欠児童生徒の

5

万人のうち

9,945

人が学校 や他の関係機関の職員にも会えていないことが 明らかになった。この点について、保坂(2019

: 103-104)は「学校も関わりがあった児童相談

所も不登校という問題にマスキングされてしま い、虐待の危険性を認識していなかった。そこ には虐待につながる危険な欠席という視点が全 くかけており、「長欠」=「不登校=心の問題」

にのみ限定して捉えていたことが背景にある」

と述べている。

まとめ

 不登校は子どもの学校不適応の問題として、

生徒の心理的調整が図られてきたものの、1980

1 2000年代以降、15歳から34歳までの若年男性の間で非正規就労者が増加しており、2015年現在における割合はこの世代の2割が非

正規就労に従事している(URL10)。

2 DVが急増しており、暴行で検挙された件数は92年当時の130倍と、家庭の中は子どもが育つ環境として全体的に悪化していると言っ ても過言ではない状況である(URL9)。

(6)

力の高さにより読解力が高かったものの、その 低下が見られるとし、母親が子どもと過ごす時 間がないことが問題となっていることを示唆し た。

2. 2. 2 認知的排除

 母子家庭の母親は家計維持のため仕事を優 先せざるを得ないわけだが、しんぐるまざあ ず・ふぉーらむのアンケートより「子どもの安 全な環境への心配」という不安の声が多かっ た。母親は子どもを適切に世話したくてもでき ないのである。ところが、2000年の児童虐待 防止法の枠組みの中で、母子世帯は虐待リスク 家庭と見なし、役場や保健所の福祉専門職が家 庭訪問を行うようになった。児童相談所への虐 待相談件数は増加の一途であり、そのうち1割 は地域の人による通報によるものとなっている

(URL11)。社会の母子家庭に対する眼差しに対

して、母親たちは専門職の家庭訪問を過干渉と 案じたり(辻

2015)、制度利用のスティグマを

恐れて子育て制度の申請をためらったり(石川

2017)、

さらには、上記のアンケート結果より

「鬱

により仕事を辞めざるを得なくなった」との声 を散見でき、子育ての社会化の恩恵を被るより、

より孤立しがちな様子を窺える。

2. 3 養護困難家庭における援助拒否の心理

 文部科学省は

2002

年の不登校報告以降、学 校の教育相談体制を充実させてきた。不登校の 子どものうち学内外で相談を受けた者の割合 は

2019

年時点で

82%にのぼっている(URL2)。

言い換えると、2割の子どもに相談が届かず、

親の援助拒否が窺える。こうした援助拒否の母 親に関して、石川(2017)は自ら「助けて」と 言えない点でサイレントマザーと呼称し、貧困 の世代間連鎖が見られると述べている。道中

(2016)は貧困の世代間連鎖を調査したところ、

全世帯の世代間連鎖率は

25.1%

であったのに 対して、母子世帯は

40.6%

と、他のどの世帯 よりもその割合が高いものであったと報告して いる。母親自身の生育歴の傷つきが子どもに支 援を届きにくくしていると言える。

心理主義に捉えてしまうのも、世間のこうした 離婚についての見方が反映しているものと考え られる。

 2002年の母子家庭自立支援大綱が制定され、

母子世帯は就労自立を促された。確かに、こ の政策によって就労収入は増加し、子どもの 貧困は

1985

年から悪化の一途をたどり

2013

年に

16.3%

まで悪化していたのが、2015年は

13.9%

へと初めて改善を示した(URL7)。しか

し、2016年全国ひとり親世帯等調査報告書よ り、母子世帯の実態は母子家庭の中で所得格差 が開き始めており、年収

400

万円以上のグルー プでは大学並び大学院卒業者が

16,29%

を占め たのにし、年収

200

万円以下のグループでは 中学卒業者が

16.48%であった(URL8)。つま

り、母子家庭の家計は二極化し、下位階層の生 活困窮はより厳しいものになっている。実際、

母子家庭の支援団体であるしんぐるまざあず・

ふぉーらむ(2006)は母子家庭を対象にしたア ンケート調査を行い、この政策の後の生活はむ しろ厳しくなったと答えが多かったことを明ら かにした。

 稲月(2014)は、生活困窮には経済制度面と 認知面での二つの排除があると述べている。そ こで、母子家庭の生活困難を、稲月の考え方を 援用し、上記アンケート結果をもとに考察して いく。

2. 2. 1 経済的・制度的排除

 2000年代前半、母子世帯を取り巻く経済支 援の状況は

2003

年の児童扶養手当の減額措置 に続き、2005年の生活保護における母子加算 の廃止が続いた。そもそも母子世帯は祖父母と 同居の世帯が

27.7%

に過ぎず(URL8)、その 上、離婚すれば転居するのは妻側で手頃な住宅 を見つけるまで転居の回数も多く地域で孤立し やすく(葛西

2017)、就労と子育ての両立は困

難である。社会手当を抑制してしまえば、母親 は家計を維持するために副業や深夜業務で働き づくしとなる。田宮・田方(2007)は、母親は 就労時間が長く、親子の会話や学校行事への参 加や、子どもの友人関係の認知など学校との連 絡を犠牲にして働いている様子を示唆した。斎 藤(2010)や白河(2014)によれば、本来、母 子家庭の子どもは母親のコミュニケーション能

(7)

だけでは十分な政策的な企てになり得ないこと が実証的に明らかにされた」と述べている。実 際、細金(2009)は婦人保護施設での勤務の中 から、ある

10

代の母親の「産んでよかったよ。

この子だけは私の味方だ」という言葉を紹介し、

彼女たちは自らの生育歴からくる傷つきに対し て子どもを産み育てることで生きる意味を確認 しようとしていると述べており、この意味でも、

サイレントマザーは育児に決して無関心なわけ ではないことは明らかである。

まとめ

 1990年代以降の不登校の急増の背景には、

生活困窮は全ての子育て世代への面的な広がり があった。確かに、子どもの貧困は一見、政府 の就労自立政策により、改善しているように見 える。しかし、母子世帯は経済的制度面並びに 認知面での剥奪より、困窮感の悪化が見られた。

特に母子世帯の低位層の母親は生育歴の傷つき を抱え、自分から「助けて」と言えないサイレ ントマザーとなり、子どももまたサイレントチ ルドレンになっている。

3

家庭の貧困から長欠に至るメカニズム

 家庭の貧困が不登校・長期欠席に直接に現れ るというより、登校回避感情(森田

1991)を

経て、児童生徒は学校を欠席がちになってい く。森田のいう登校回避感情とは、学校に登校 するときに表す身体の倦怠感というもので、い わば、登校する際に現れる頭痛や腹痛である。

日本財団(2018)はこれを児童生徒の不登校傾 向と捉え、中学校の生徒を対象にアンケート 調査を行った結果、実際の不登校生徒の割合 が

3.1%

のところ、不登校傾向のある生徒の割 合は

10.2%

と、合計で

13.3%であった

4

。なお、

文部科学省の中学生の不登校率は

4.3%

であり、

登校回避感情を持つ生徒はその

3

倍の広がりを 持っていると推測できる。そこで、家庭の貧困 がどのように子どもの登校回避感情につながっ ていくのか、子どもと親という二つの経路から

2. 3. 1  サイレントマザーからサイレン

トチルドレンへ

 サイレントマザーは、親自身の生育歴の中で の傷つきを受け、他者不信を抱く傾向がある。

こうしたサイレントマザーと重なるのが未婚 世帯の母親である3

。未婚世帯の母親は生活保

護の受給世帯が多く(URL8)、10代の母子世 帯が

3

割を占め、かつ、若年出産ほど中卒の母 親の割合が高いという特徴がある。さらに、母 親が若年出産であると、計画的な金銭管理や片 付けや栄養のある節約料理の作り方を親から教 わってこれなかっただけでなく(赤石

2014)、

母親から見捨てられた経験を持ち、思春期前後 に重大な心的外傷事件を受けていることも多い とされる(石川

2017)。つまり、サイレントマ

ザーは、貧困や経済困窮だけでなく、親の精神 疾患、ひとり親家庭など複数の困難を重なった 多重逆境とも言える状況(池上

2015)である。

 サイレントマザーのもとで育つ子どもは、心 理的な傷つきから、周囲の大人たちに対して不 信や不安、怒りを持ち、サイレントチルドレン トとなっていく(石川

2017)。そして、言語表

現が乏しく、集中力も弱ければ、学習面での困 難を表し、学校を脱落するように不登校になっ ていく。

2. 3. 2  アイデンティティの拠り所とし ての家族

 貧困にあって援助拒否する家族は動機付け の低い問題家族と扱われがちとされる(知念

2014)。しかし、山田(2007)は、個人が家族

に対して抱く期待には、家族という存在が欲し いというアイデンティティへの期待と、家族に 何か行為を求める期待があるとした。この点に つき、知念

(2014 : 103)

は困窮家庭について

「家

族は生活に役立つ

/

役立たないという観点から 理解できる機能的欲求には還元できない、自分 の存在意義を確認するアイデンティティ欲求を 満たす関係にもなっている。(中略)家族であ ることとケアすることが規範的に結びついてい るために、ケア機能を代替する家族支援がそれ

3 母子家庭の原因として、死別はもちろん、離婚件数も2000年より減少に転じた一方で、未婚だけは増加基調にある(URL8)。

4 日本財団の調査では不登校傾向のある子どもを、①一週間連続で欠席、②保健室や別室登校、③遅刻・早退が月5日以上、④教室にて 過ごすが違うことをしている、⑤行動表出はないが学校に通いたくない・辛い・嫌だと感じている、と定義している(URL12)。

(8)

的関係である(池上

2015 :220)」と述べており、

常に不安の中にあり教室の中で勉強どころでは ない子どもの様子がうかがえる。

3. 2  親の養護力の低下に伴う学校・教師 との関係悪化と子どもの学校からの 脱落

 恒吉(2008)は、日本の学校教育は全人的教 育に特徴づけられ、教師は子どもに集団を作ら せ、子どもは集団への所属感ゆえの同調圧力か ら自発的な行動を取るように躾されていると し、その前提となっているのが学校に協力的な 保護者の存在であると述べている。

 ところが、2000年代に入ると、学校・教師 と親の関係にモンスターペアレントという言 葉が生まれ、両者はしっかりとした関係でな くなっている(山脇

2008)。モンスターペアレ

ント問題につき、小野田(2019)は保護者から のイチャモンを分析して、その大半は親の学校 へのお尋ねであったにも関わらず、教師は指導 という態度をとりがちで、親のお尋ねをイチャ モンへと悪化させていると指摘した

。1990

年 代以降、要保護・準要保護家庭は増加してお り、貧困の広がりから家庭の養護環境が悪化す れば、教師は母親に子育ての完璧さを求めがち で、学校と安定した関係を築けなくなっている。

親と学校の関係が対立すれば、登校回避感情を 持つ子どもは学校と結びつくものが何もなくな り、脱落するように不登校化していく。

3. 3  学校種別を超えた学齢期全般での不 登校対策の必要性

「中一ギャップ」という言葉が示すとおり、

長欠児の増加は小学校段階における不登校児童

の割合

1.1%に対して、中学校は 4.3%という高

さであり、中学校への進学以降に急増してい る(URL2)。こうしたことから、文部科学省の

2003

年報告は不登校生徒の社会的自立の促進 を目的に、各中学校に不登校半減対策など、生 徒指導の強化を求めた(URL4)。確かに、この 措置以降、長欠児の増加が止まった。しかし、

2016

年の教育機会確保法の成立より、学校を 休む権利と学校以外で学びの保障が認められる と、登校回避感情を持つ生徒ほど学校に登校す 考えていく。

3. 1  家庭の貧困が子どもに及ぼす剥奪と 傷つきと登校回避感情

 池上(2015)は家庭が養護困難にあると、子 どもは生活面の不利のみならず心理的傷つきで も二重の剥奪を受けるとし、岩川(2007)もま た家庭の貧困は複合的剥奪と重層的な傷つきと なって子どもの社会関係の育ちにくさに繋がっ ていくと述べている。

 まず複合的剥奪という点では、一般家庭は見 通しを持った子育てのもと、塾や習い事に計画 的に通わせているのに対して(伊佐

2019)、母

子世帯は就学援助を受けて日用学用品を買い揃 えられても、塾や習い事、博物館など文化経験 になると訪ねることは困難である(しんぐるま ざあず・ふぉーらむ

2006;

平井

2020)。2007

年より教室の生徒関係についてスクールカース トという言葉が使われ始め、これは生徒グルー プ間のコミュニケーション能力の高低で教室内 の地位が決まるというもので(森口

2007;鈴

2013)、困窮層の子どもほど放課後経験の少

なさからクラスの話題に入れず下位カーストに 置かれやすく、教室に居場所感を感じにくいも のとなっている。伊藤美奈子(2003)は保健室 に登校する生徒のうち、処置を求める生徒は全 体の二割前後にすぎず、なんとなく怠学がかな りの部分(平成

6

75

%)を占め、その割合 も増えていると述べている。

 また、重層的な傷つきという点では、嵯峨

(2019)が貧困家庭の子どもほど遅刻がよく見

られる点を指摘しているが、母親のメンタルヘ ルスの悪化から子どもを学校に送り出せなかっ たり、母の育児や家事を肩代わりしている場合 がある。実際、しんぐるまざあず・ふぉーらむ

(2006)の調査では健康状態について 47.2%

の 母親が

「悪くなった」

と答えており、村上

(2017)

の母親支援団体の調査の中でも、支援者の声に、

母親のメンタルヘルスにしんどさの訴えの多さ を報告している。母親のメンタルヘルスの悪化 を受けて、池上(2015)は、「表面的にはしっ かりした頑張る子どもと見えても、その内実は 大人や環境に適切な依存を経験することができ ず、むしろ親を気遣ったり、世話をすることで、

自分の安全感や存在感を確保しようとする心理

(9)

図 3-1 家庭の貧困から不登校に至るメカニズム

(出典;筆者作成)

(子ども)

複合的剥奪と重層的 傷つき

(親)

家庭での養護力の低

(学校の全人的教育)

教室の集団力と、学校に 協力的な保護者の存在 が前提(恒吉 2008)

子どもの登校回避感情 子のコミュニ

ケーション力 の低さ

親と教師の 関係の悪化

不登校

困は親に対して養護力を低下させ、教師・学校 との関係の悪化を引き起こし、子どもは学校文 化から脱落するように不登校になっていく。だ が、学齢期全般で見たとき、幼児期から児童期 において、子どもは学校に通おうとし、そして、

遅刻や暴力という現象を通して、家庭の養護困 難に

SOS

を出している。

4

子どもの就学意欲改善に対する親支 援の可能性の検討

 貧困な家庭の子どもほど剥奪と傷つきの経験 を受けているにも関わらず、石田(2012)は貧 困家庭と一般家庭の子どもの自尊感情に関する 調査を行ったところ、両者に差は見られなかっ たと報告している。このギャップに関して、神 原(2014)は母子家庭の子どもは家庭の温かさ を感じ、母親に苦労をかけたという思いから、

無意識のうちに欲しいものを最初から諦めてし まう習性が身についてしまう点を指摘した。つ まり、子どもの親を思う気持ちを考えたとき、

親の境遇を改善させることで子どもの就学意欲 も改善していく可能性がある。稲月(2014)も また北九州市でのホームレース支援の実践か ら、孤立が存在意義や就労の意義を見失わせ、

いっそうの経済的困難を生んでいると述べてお り、援助拒否を示す親へのソーシャルサポート 的支援の意味は大きい。

 とはいえ、山野(2019)は大阪府で行われて きた子どもの貧困調査を踏まえて、家庭の貧困 る自明性が低下し、長欠児は再び急増した。も

はや生徒指導の強化だけでは子どもに登校を促 せなくなっている。

 とはいえ、中一ギャップを別の捉え方をすれ ば、子どもは家庭の養護環境が整っていなくて も、小学校低学年から中学年にかけて学校に通 おうとしている。こうしたことから、長欠問題 は、子どもに原因があるのではなく、むしろ親 の養護状況にあり、家庭学習の習慣が身につか ず、小学校高学年から勉強が抽象化し出せば、

子どもは不登校を顕在化させていく。だが、保 坂(2019)によれば、中学校での不登校生徒の 大半は小学校時代から欠席が頻回であったと述 べており、それは子どもの家庭環境の苦しさを 訴える

SOS

の可能性がある。朝日新聞(2015)

は「小学生の暴力、最多

1.1

万件 感情抑制で きず 昨年度調査」と家庭の養護問題の学校へ の持ち込みに言及している。

 こうしたことから、長欠問題は学校種別ごと に対策をたてるより、幼稚園・保育園から中学 校に至る学齢期全体で子どもの発達を捉え、幼 少期から小学校低学年期を不登校グレーゾーン の現れる時期として予防に力を入れることで、

中学校に上がっての不登校の急増を抑えられる 可能性がある。

まとめ

 家庭の貧困が長欠に結びつくのは、子どもに 剥奪や傷つきを与え、それらが登校回避感情を 生み出しているからである。さらに、家庭の貧

(10)

しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策につい て」は家庭支援の具体的な形として、「地域に おける家庭教育支援基盤形成事業」と「訪問型 家庭教育相談体制充実事業」という二つの事業 を打ち出した。2009年、地域住民がチームを 作ってのアウトリーチによる家庭教育支援が始 まり、

2010

年には全国で

133

チームしかなかっ たのが、2013年に始まる第二次教育振興計画 の中で取り上げられたこともあり、2016年に は

616

チームへと急増している(URL14)。

4. 3  訪問型家庭教育支援事業と親のソー シャルサポート支援に関する調査

 文部科学省が構想する訪問型家庭教育支援に は大きく分けて、養護困難が顕在化した家庭に 教育委員会の指示を受けて訪問するリスクアプ ローチと、地域の子どものいる家庭全てを訪問 するポピュレーションアプローチの二つがあ る。

 そこで、筆者は

2020

年の

1

月から

2

月にか けて、訪問型家庭教育支援事業の先駆的自治体 である大阪府泉大津市と和歌山県湯浅町の訪問 事業所を訪ね、困難を抱えた親に対するソー シャルサポート支援が学校と親の関係をどのよ うに変え、それが子どもの就学姿勢にどう影響 が及んだのかについて、インタビュー調査を 行った。なお、泉大津市は

2020

1

22

日に 泉大津市家庭教育支援センターを訪問し、同セ ンター長ならびにスマイルサポートリーダーに 半構造化インタビュー調査を行った。湯浅町に は

2020

2

25

日にトライアングル(訪問型 家庭教育支援事業)事務所と現地小学校を訪ね、

トライアングルリーダーと事業立ち上げ当時の 教育委員会指導主事に半構造化インタビュー調 査を行った。

4. 3. 1  大阪府泉大津市の訪問型家庭教 育支援事業

 泉大津市教育委員会は

2005

年から全国に先 駆けて訪問型家庭教育支援事業を実施し、年間

300

回以上の家庭訪問を行っている(URL15)。

その契機となったのが、センター長によれば、

孤立した子育て家庭が多く、困難を抱えた親ほ ど学校を避け、教師との関係が悪くなると関係 がまず親の体調不良となって現れ子どもの自己

肯定感に影響を及ぼしていくという点で親支援 の必要性を認めていながらも、その一方で、子 どもの学習理解や遅刻などの就学意欲の改善に は家庭の経済資本力の影響が大きく、放課後の 時間を充実させ、子どもが多様な大人と触れ合 えることの方が有効であると述べている。

 こうしたことから、困難を抱えた児童生徒の 親支援が有効であるとしても、それをどのよう に進めていけばいいのかについて、文部科学省 の訪問型家庭教育支援事業を取り上げ考察して いく。

4. 1 親と教師を仲立ちする支援者の必要性

 ベネッセ教育情報サイト(2013)は教師の家 庭訪問について親に調査を行っており、7割の 親が家庭訪問に否定的で、その理由として教師 は玄関での面談を望み、家庭の状況を把握しよ うとしていない点で、「学校での面談と変わら ない」というものであった(URL13)。このこ とから教師と親の間に文化のすれ違いを読み取 れる。サイレントマザーが援助拒否をする心理 も同様で、家族というアイデンティティの領域 に教師が指導文化を持ち込もうとすることに恐 れを抱いているからであると言える。なれば、

教師は母親に親役割の遂行を要求するより、母 親の家族に対する語りを聞き、それを承認する ことで、子どもの就学環境改善に向けて親との 協業につながる可能性がある。

 ところが、家庭の困窮の広がりに、教師は親 との価値観の違いをなかなか克服できないでい る。そこで、両者を中立する役割が必要となっ ている。2000年代、家庭教育支援制度の導入 が図られ、学齢期の子ども家庭支援はそれまで 学校の教師が主たるアクターだけであったの を、地域住民を新たに加え、困難を抱えた親に 対するソーシャルサポート支援の余地は大きく 広がっている。

4. 2  訪問型家庭訪問事業とは

 2001年の社会教育法と

2006

年の教育基本法 と改正が相次ぎ、家庭教育支援は国と地方自治 体の責務とし、教育委員会を主たる事務者と位 置づけた。さらに、2008年の中教審答申「新

(11)

ある。二つ目は子育て・家庭教育支援事業の相 談窓口を一本化しており、家庭訪問は母子保健 の情報をもとに行い、その結果を学校にフィー ドバックしている点である。

 湯浅町の家庭教育支援事業の成果は、当時の 生徒指導主事によれば、小学校低学年時点での 児童の見立てを丁寧に行えるようになったこと で、保護者の学校に対するクレームが減り、中 学校が落ち着き、全学力テストが初めて全国平 均を上回るように変わっていったことである。

まとめ

 訪問型家庭教育支援事業は親と教師の価値観 の違いを仲立ちし、そして、親の価値観に合わ せて接せられ、親の自己肯定感を引き出せてい る。こうしたことが子どもの就学意欲の改善を 実現した。そして、家庭訪問は小学校低学年の うちに行うことが鍵であり、学齢期のスタート の見立てを丁寧に行え、中学校に上がっての不 登校の予防に繋げることが可能となる。

結 論

 90年代の不登校・長期欠席の増加は、子ど もの心理発達の調整局面というより、子育て世 帯に広がる生活困窮が強く作用している。子ど もの貧困率は

1980

年代半ば以降、悪化の一途 を辿っており、2015年に始めて改善を示して いる。しかし、母子家庭の生活感として実感に は程遠いもので、母子世帯内の格差の広がりか ら、特に所得低位層には援助拒否が見られるな ど、より厳しいものとなっている。家庭の貧困 は子どもに剥奪や傷つきとなって登校回避感情 につながり、そして、親に対しては学校・教師 との関係を悪化させ、子どもは学校文化への所 在感の無さから不登校になっていっている。

 2000年に入って以降、家庭教育支援事業は 地方自治体の責務とされたことで、学齢期の子 ども・親支援に地域住民が新たに加わり出して いる。2009年より訪問型家庭教育支援事業が 始まると、地域の人は学校と親の価値観の違い を仲介したり、家庭訪問して親との関係づくり を通して親の自己肯定感の回復につなげたりな を一切シャットアウトしてしまう親が少なくな

かったことを指摘した。そこで、この事業の家 庭訪問は教師や福祉専門職ではなく地域の人が 担っている。スマイルサポートリーダーは家庭 訪問で親役割を指導することはなく親との趣味 の話など雑談を大切にしているとして、これを

「意味のある無駄話」と名付けている。

 親支援は支援̶被支援者という構造のもとで 行う限り、困難を抱えた親ほど、役所や学校の 児童虐待防止法の元での親役割の要請の眼差し に萎縮して、家庭を守ろうとして、かえってガー ドを硬くする。その結果、母親が地域に対して 心を閉ざした分だけ、子どもは学校に通いづら くなっていく。一方、地域の人は本人の人生と 関わり自己肯定感の回復につなげ、すると、子 どもの就学意欲が自然と上向いていった。

 泉大津市の訪問型家庭教育支援事業の成果と して、2017年度においては、訪問した

13

家庭 のうち

10

家庭で、保護者の来校回数、学校と の連絡回数の増加が見られ、不登校の子ども

9

人のうち

6

人が学校に復帰した(URL15)。

4. 3. 2  和歌山県湯浅町の訪問型家庭教 育支援事業

 和歌山県湯浅町は、2009年から訪問型家 庭教育支援事業を開始した。トライアングル は訪問員が

12

名で

650

世帯を訪問している

(URL16)。事業開始のきっかけは、当時の指導

主事によれば、町立中学校が荒れたことで少年 センターを作って学校の荒れを抑えこんだもの の、家庭の問題が何も解決しないでは、子ども の学校不適応が不登校やいじめなどに形を変え て現れるだけとの反省があり、さりとて教師と 親の二者関係では話がかみあわないことも多 く、地域の人が間に入ることで、親の学校に対 する誤解をといてもらったり、あるいは、保護 者の学校に対する要望を伝えてもらったりな ど、学校と親とのコミュニケーションの円滑さ を期待してであった。

 湯浅町の家庭訪問には二つの特徴がある(ト ライアングルリーダー)。一つは小一の児童の いる全ての家庭を訪問している点である。養護 困難を抱えた親ほど行政や学校に警戒感をもっ ており、あえて全戸訪問事業を行うことで、警 戒心も解け、家庭訪問に応じてもらえるからで

(12)

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(Words19966)

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図 3-1 家庭の貧困から不登校に至るメカニズム (出典;筆者作成)(子ども) 複合的剥奪と重層的傷つき (親) 家庭での養護力の低下  (学校の全人的教育)  教室の集団力と、学校に協力的な保護者の存在が前提(恒吉 2008)。 子どもの登校回避感情子のコミュニケーション力の低さ 親と教師の関係の悪化 不登校 困は親に対して養護力を低下させ、教師・学校 との関係の悪化を引き起こし、子どもは学校文 化から脱落するように不登校になっていく。だ が、学齢期全般で見たとき、幼児期から児童期 において、 子どもは学

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